【解決手段】入射側アーム3と、受光側アーム4と、X線源と、入射側スリット8と、X線検出器11とを有したX線分析装置1の光軸調整装置において、X線源から出てX線検出器11で受光されるX線を遮る位置に配置された遮光片と、試料軸線X0を中心としてX線源からX線検出器11へ至るX線光軸R0に対して相対的に遮光片を2つの角度位置へ回転移動させる遮光片移動装置(入射側アーム3,受光側アーム4)とを有しており、2つの角度位置のそれぞれにおいてX線検出器11によって求めたX線強度の値に基づいて試料の表面のX線光軸R0に対する平行度のズレ量を求める。
前記遮光片に関する2つの角度をプラス側の角度とマイナス側の角度に設定することにより、前記遮光片の厚さの情報を相殺して当該遮光片の角度情報のみを得ることを特徴とする請求項3記載のX線分析装置の光軸調整装置。
前記遮光片の試料軸線に沿った方向の長さは、入射X線ビームの試料軸線に沿った方向の幅よりも長いことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線分析装置の光軸調整装置。
前記X線検出器は、X線強度を直線上の所定領域ごとに検出できる機能であるX線強度の位置分解能を有している1次元X線検出器であり、当該位置分解能が発現する前記直線はX線回折角度に沿った方向に延在することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載のX線分析装置の光軸調整装置。
【背景技術】
【0002】
上記のX線分析装置においてX線源は、例えばフィラメントのような陰極から出た電子が対陰極に衝突する領域であるX線焦点である。また、X線検出器は、X線強度を位置別に検出する機能(すなわちX線強度の位置分解能)を持たない0次元X線検出器や、直線領域内で位置分解能を有する1次元X線検出器や、平面領域内で位置分解能を有する2次元X線検出器、等である。
【0003】
0次元X線検出器は、例えば、比例計数管(PC:Proportional Counter)を用いたX線検出器や、シンチレーション計数管(SC:Scintillation Counter)を用いたX線検出器、等である。1次元X線検出器は、例えば、PSPC(Position Sensitive Proportional Counter)や、1次元CCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)センサを用いたX線検出器や、複数のフォトンカウンティング型ピクセルを1次元的に配置したX線検出器、等である。2次元X線検出器は、例えば、2次元CCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)センサを用いたX線検出器や、複数のフォトンカウンティング型ピクセルを2次元的に配置したX線検出器、等である。
【0004】
上記のX線分析装置によって測定を行う際には、X線源からX線検出器に至るX線の中心線(いわゆるX線の光軸)が一定の適切な条件に設定されていなければならない。このようにX線の光軸を一定の条件に設定する作業は、一般に、光軸調整と呼ばれている。
【0005】
この光軸調整は、例えば、2θ調整及びθ調整の各調整を順次に行うことによって実行される。以下、試料固定型のX線分析装置を例示してこれらの調整を個別に説明する。
(I)試料固定型のX線分析装置
まず、試料固定型のX線分析装置を説明する。
図15Aにおいて、試料固定型のX線分析装置51は、X線を放出するX線源としてのX線焦点Fと、試料Sを固定状態で支持する試料台52と、試料Sから出たX線を検出する0次元X線検出器53とを有する。X線焦点Fは、
図15Aの紙面を貫通する方向(以下、紙面貫通方向という)へ長いラインフォーカスのX線焦点である。なお、X線焦点FがポイントフォーカスのX線焦点であることもある。X線焦点Fと試料台52との間には入射側スリット54が設けられている。入射側スリット54のスリット溝は
図15Aの紙面貫通方向へ延びている。試料台52は試料Sが紙面貫通方向へ延在するように当該試料Sを支持している。
【0006】
X線焦点Fと入射側スリット54は入射側アーム55に支持されている。入射側アーム55は、試料Sの表面を通って紙面貫通方向へ延びる試料軸線X0を中心として矢印θs で示すように回転移動する。この回転移動はθs 回転と呼ばれることがあり、このθs 回転を実現する動作系はθs 軸と呼ばれることがある。θs 回転は回転速度を制御可能なモータ、例えばパルスモータを動力源とする駆動系によって実現される。
【0007】
試料台52と0次元X線検出器53との間には受光側スリット56が設けられている。受光側スリット56のスリット溝は
図15Aの紙面貫通方向へ延びている。受光側スリット56とX線検出器53は受光側アーム57に支持されている。受光側アーム57は、試料軸線X0を中心として入射側アーム55から独立して矢印θd で示すように回転移動する。この回転移動はθd 回転と呼ばれることがあり、このθd 回転を実現する動作系はθd 軸と呼ばれることがある。θd 回転は回転速度を制御可能なモータ、例えばパルスモータを動力源とする駆動系によって実現される。
【0008】
X線分析装置51によって、例えば粉末試料Sに対してX線回折測定を行う場合には、
図15Bに示すようにX線焦点F及び入射側スリット54を入射側アーム55によって所定の角速度で連続的又はステップ的にθs 回転させ、同時に受光側スリット56及びX線検出器53を受光側アーム57によって同じ角速度で反対方向へ連続的又はステップ的にθd 回転させる。
【0009】
θs 回転するX線焦点Fから出て試料Sに入射するX線の中心線R1が試料Sの表面と成す角度は「θ」で表されることがある。すなわち、試料Sへ入射するX線の入射角度は「θ」で表されることがある。なお、X線の中心線をR1で示したが、これ以降の説明では試料Sへ入射するX線を入射X線R1と表記することがある。X線焦点Fのθs 回転は「θ回転」と呼ばれることがある。
【0010】
試料Sへ入射したX線が試料Sの結晶格子面に対して所定の回折条件を満足すると試料SでX線が回折する(すなわち試料Sから回折X線が出る)。この回折X線の中心線R2が試料Sの表面と成す角度は常にX線入射角度θと同じ大きさである。従って、回折X線が入射X線R1に対して成す角度はX線入射角度θの2倍の角度である。回折X線R2が入射X線R1に対して成す角度は「2θ」で表されることがある。
【0011】
一方、X線検出器53のθd 回転はX線源Fのθs 回転と同じ角速度であるので、角度θで試料Sから出射した回折X線R2は試料Sの表面に対して角度θを成している0次元X線検出器53によって受光される。X線検出器53は試料Sの表面に対して角度θを成しているが、入射X線R1に対しては常にθの2倍の角度を成している。このため、X線検出器53のθd 回転は「2θ回転」と呼ばれることがある。
【0012】
(II)2θ調整
次に、2θ調整について説明する。2θ調整とは、X線検出器53が検出する角度2θ=0°とX線源FからX線検出器53に至るX線の中心線とを正確に一致させるための調整のことである。この調整を行うに当たっては、まず、
図15Aに示すように入射側アーム55をθs =0°の角度位置に置き、受光側アーム57をθd =0°の角度位置に置く。すなわち、X線検出器53を2θ=0°の角度位置に置く。
【0013】
次に、試料台52から試料Sを取り外して試料位置をX線が自由に通過できるようにし、0.1mm程度の入射側スリット54をセットし、0.15mm程度の受光側スリット56をセットし、X線検出器53及び受光側スリット56を2θ=0°の位置に配置し、X線検出器53及び受光側スリット56を例えば0.002°のステップ幅で間欠的にθd 回転させ、各ステップ位置においてX線検出器53によって回折X線の検出を行う。これにより、
図16Aに示すような回折X線のピーク波形が求められる。
【0014】
このピーク波形の半価幅D0の中心P0の2θ角度位置の、X線検出器53の2θ=0°の角度位置に対するズレ量が、所定の許容範囲内、例えば(2/1000)°以内、ならば2θ調整が適正になされているものと判断する。一方、半価幅D0の中心P0の2θ角度位置の、X線検出器53の2θ=0°の角度位置に対するズレ量が、許容範囲から外れている場合には、例えば
図15Aにおいて受光側アーム57の位置を調整することによってX線検出器53の位置及び受光側スリット56の位置を調整した後、再度、2θ調整の作業を実行する。
【0015】
なお、上記のようにX線焦点FやX線検出器53の位置を移動して2θ調整を実行することに代えて、実際のX線回折測定の結果として得られたデータを、求められたズレ量によって補正することにより、2θ調整を実現することもできる。
【0016】
(III)θ調整
次に、θ調整について説明する。θ調整とは、
図15Aにおいて、試料Sの表面がX線焦点Fから出て試料Sへ入射するX線R1に対して平行になるように調整することである。この調整を行うに当たっては、まず、
図15Aにおいて、入射側アーム55をθs =0°の角度位置に置き、受光側アーム57をθd =0°の角度位置に置く。すなわち、X線検出器53を2θ=0°の角度位置に置く。
【0017】
次に、
図16Bに示すような光軸調整治具58を
図15Aの試料Sに代えて試料台52に取り付ける。この場合には、光軸調整治具58の両肩の基準面59a,59bが
図15Aの光軸R0に対面するようにする。次に、θs 軸及びθd 軸をθ=0°の付近で試料軸線X0を中心として互いに反対方向へ同じ角度で同時に微小角度範囲内で回転揺動させて(すなわち、X線源Fから0次元X線検出器53に至るX線が直線になることを維持しながらそのX線を試料軸線X0を中心として回転揺動させて)、X線検出器53の出力が最大となる角度位置を見つける。そして、X線焦点F及びX線検出器53に関するこの角度位置がθ=0°を実現できる位置と判断される。
【0018】
以上のような、従来のX線光軸調整に関する技術は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、等に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従来のX線分析装置においては、上記のように、θ調整を行う際に両肩部分に基準面を有した光軸調整治具を用い、さらに0次元X線検出器を連続的に回転移動させながら、X線強度の大小の変化を測定した。この方法は非常に長時間を必要としていた。
【0021】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、X線分析装置における光軸調整処理を非常に短時間で行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置は、試料が置かれる位置である試料位置を通る試料軸線を中心として回転移動する入射側アームと、前記試料軸線を中心として回転移動し前記入射側アームの反対側へ延在する受光側アームと、前記入射側アーム上に設けられたX線源と、前記試料位置と前記X線源との間の前記入射側アーム上に設けられた入射側スリットと、前記受光側アーム上に設けられたX線検出器とを有したX線分析装置の光軸調整装置において、前記X線源から出て前記X線検出器で受光されるX線を遮る位置に配置された遮光片と、前記試料軸線を中心として、前記X線源から前記X線検出器へ至るX線光軸に対して相対的に前記遮光片を2つの角度位置へ回転移動させる遮光片移動手段とを有しており、前記2つの角度位置のそれぞれにおいて前記X線検出器によって求めたX線強度の値に基づいて前記試料の表面のX線光軸に対する平行度のズレ量を求めることを特徴とする。
【0023】
上記構成において、遮光片移動手段は、遮光片を固定させた状態で入射側アームと受光側アームとを試料軸線を中心として同時に同じ角度だけ互いに反対方向へ回転移動させる構成によって実現できる。また、遮光片それ自体を試料軸線を中心として回転移動させる構成とすることもできる。その他、X線光軸と遮光片とを相対的に回転移動させることができる任意の構造を採用できる。
【0024】
遮光片に関する2つの角度位置のそれぞれに関するX線強度の値に基づいて試料の表面のX線光軸に対する平行度のズレ量を求めることは、電子的な演算装置、例えばCPU及びメモリを備えたコンピュータを用いて行うことができる。
【0025】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置において、前記遮光片の長さは前記試料軸線から受光方向のみにあることが好ましい。その理由は、遮光片の長さが試料軸線から半分の形状でなく入射側にも延びていると、入射側に在る遮光版によって片側が全て遮光されてしまい、遮光片に関する2つの角度位置のそれぞれに関するX線強度を取得できなくなってしまうからである。
【0026】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置において、前記遮光片のX線入射側の一辺は前記試料軸線に合わすことができる。これにより、遮光片に関する2つの角度位置のそれぞれにおいて正確な強度データを得ることができる。
【0027】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置においては、前記遮光片に関する2つの角度をプラス側の角度とマイナス側の角度に設定することにより、前記遮光片の厚さの情報を相殺して当該遮光片の角度情報のみを得ることができる。このように厚さ情報を相殺することにより、計算を単純化することができる。
【0028】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置において、前記遮光片の試料軸線に沿った方向の長さは、入射X線ビームの試料軸線に沿った方向の幅よりも長いことが望ましい。
【0029】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置において、前記X線検出器は、X線強度を直線上の所定領域ごとに検出できる機能であるX線強度の位置分解能を有している1次元X線検出器であり、当該位置分解能が発現する前記直線はX線回折角度に沿った方向に延在させることができる。
【0030】
上記の1次元X線検出器は、例えば
図17Bに模式的に示すように、例えば縦長さa=75μmで横長さb=10mmのピクセル61が複数個(例えば256個)、回折角2θ方向へ並べられたX線検出器である。なお、この1次元X線検出器は、2次元X線検出器を1次元X線検出器として利用する場合も含むものである。
【0031】
例えば、そのような2次元X線検出器として
図17Aに模式的に示すような2次元X線検出器、すなわち縦長さa=100μmで横長さb=100μmのピクセル62を縦横の両方向へ2次元的に並べて成る検出器が考えられる。この2次元X線検出器の縦方向長さLaは例えばLa=80mmで、横方向長さLbは例えばLb=40mmである。本発明では、このような
図17Aに示す2次元X線検出器のピクセルのうち、
図17Bに示す面積のピクセル部分に相当するピクセル部分だけを活用することにより、2次元X線検出器を1次元X線検出器として用いることができる。
【0032】
この発明態様によれば、X線光軸に対する遮光片の2つの角度位置においてX線強度の測定をする際に、X線検出器を回転移動させる必要が無くなるので、試料の表面のX線光軸に対する平行度のズレ量を求めることを非常に短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係るX線分析装置の光軸調整装置によれば、光軸調整のうちのθ調整(すなわち、試料表面のX線光軸に対する平行度のズレ量を求めて補正するという調整)を、2つの角度位置をとる遮光片のそれぞれの角度位置に対応した回折線強度だけに基づいて行うことにしたので、そのθ調整を非常に早く行うことが可能となった。その結果、θ調整を含んだ光軸調整の全体を非常に短時間で行えるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係るX線分析装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、本明細書に添付した図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0036】
図1は本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示している。ここに示すX線分析装置1は、試料Sを支持する試料台2と、試料Sの表面を通り紙面貫通方向へ延びる仮想線である試料軸線X0を中心として回転可能である入射側アーム3と、試料軸線X0を中心として回転可能である受光側アーム4とを有している。入射側アーム3と受光側アーム4は互いに相反する方向へ延在している。試料軸線X0を中心とした入射側アーム3の回転移動はθs 回転といい、試料軸線X0を中心とした受光側アーム4の回転移動はθd 回転ということにする。
【0037】
図1では試料台2に試料Sが装着されているが、後述する光軸調整の作業を行う際には、試料台2から試料Sが取り外されて試料Sが置かれる位置(以下、試料位置ということがある)をX線が自由に通過できるようにしたり、試料台2にセンタースリットが装着されたり、試料台2に光軸調整治具が装着されたりする。
【0038】
入射側アーム3はX線管7及び入射側スリット8を支持している。X線管7の内部にはX線源Fが設けられている。X線管7の内部には陰極としてのフィラメント(図示せず)と対陰極としてのターゲット(図示せず)が設けられている。フィラメントから放出される熱電子がターゲットの表面に衝突してできる領域がX線焦点であり、このX線焦点からX線が放射される。このX線焦点がX線源Fとなる。X線源Fは本実施形態では紙面貫通方向に長いラインフォーカスのX線焦点である。入射側スリット8のスリット溝は紙面貫通方向に長く延びている。
【0039】
受光側アーム4は、直線領域内でX線強度の位置分解能を有するX線検出器としての1次元X線検出器11を有している。1次元X線検出器11は、例えば、PSPC(Position Sensitive Proportional Counter)、1次元CCD(Charge Coupled Device)アレイ又は1次元フォトンカウンティング・ピクセル・アレイを用いて構成される。1次元X線検出器11は、例えば
図17Bに模式的に示すように、X線を検出できるピクセル(すなわち検出領域)61を受光側アーム4の延在方向に直交する方向へ直線的に複数個並べることによって形成されている。複数のピクセル61は1次元X線検出器11がX線を受光できる領域(すなわちX線受光領域)内に並べられている。つまり、1次元X線検出器11は受光側アーム4の延在方向に直交する直線領域内でX線強度をピクセル単位で検出できる。すなわち、1次元X線検出器11は受光側アーム4の延在方向に直交する直線領域内でX線強度の位置分解能を有している。なお、X線検出器は0次元X線検出器とすることも可能である。
【0040】
入射側アーム3はθs 回転駆動装置12によって駆動されて試料軸線X0を中心としてθs 回転する。θs 回転駆動装置12は制御装置13からの指令に従って所定のタイミング及び所定の角度条件で入射側アーム3を回転させる。制御装置13は、CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)及びメモリ(記憶媒体)を有したコンピュータによって構成されている。メモリ内には、後述する2θ調整、Zs軸調整及びθ調整を実行するためのソフトウエアが格納されている。
【0041】
受光側アーム4はθd 回転駆動装置14によって駆動されて試料軸線X0を中心としてθd 回転する。θd 回転駆動装置14は制御装置13からの指令に従って所定のタイミング及び所定の角度条件で受光側アーム4を回転させる。θs 回転駆動装置12及びθd 回転駆動装置14は適宜の動力伝達機構、例えばウオームとウオームホイールとを用いた動力伝達機構を用いて形成されている。
【0042】
入射側スリット8のスリット幅はスリット開閉駆動装置17によって調節できる。スリット開閉駆動装置17は制御装置13からの指令に従って作動する。また、入射側スリット8はスリット幅を一定に維持した状態で入射X線の中心線R0に対して直角の方向(
図1の上下方向A−A’)へ移動できる。Zs 移動装置19は制御装置13からの指令に従って入射側スリット8をA方向又はA’方向へ所望の距離だけ直線移動させる。X線源FのON/OFFは制御装置13によって制御される。1次元X線検出器11のピクセルごとの出力信号はX線強度演算回路18によって所定のデータ形式の強度信号とされて制御装置13へ伝送される。X線強度演算回路18は1次元X線検出器11の内部に設けられることがある。
【0043】
制御装置13の動作が開始されると、制御装置13は
図2に示すように、ステップS1において
図1の各機器を所定の初期状態に設定する。次に、キーボード、マウス等といった入力装置を通してX線の光軸設定をすべき旨の指示がされていれば、ステップS2でYESと判断してステップ3において光軸調整の処理を実行する。
【0044】
ステップS2において光軸設定の指示が成されていなければ、ステップS4へ進んで測定の指示が成されているか否かをチェックして、その指示が成されていればステップS5へ進んでX線測定を実行する。X線測定の終了後、測定されたデータを分析する旨の指示が成されているかどうかをステップS6でチェックして、指示が成されていれば、ステップS7において分析の処理を実行する。その後、装置の使用を終了することの指示がされたかどうかをステップS8でチェックして、指示がされていれば制御を終了する。
【0045】
(1)X線測定
次に、
図2のステップS5で行われるX線測定について一例を挙げて説明する。本実施形態では、粉末試料に対するX線回折測定が行われるものとする。なお、現在のところ、X線測定としては多種類の測定が知られている。従って、実際に実行するX線測定は必要に応じて目標とするX線測定を選択する。
【0046】
X線測定として粉末試料に対するX線回折測定を行う場合には、
図1において試料台2に粉末試料Sを装着する。具体的には、粉末試料Sを所定の試料ホルダに詰め込み、その試料ホルダを試料台2に装着する。こうして試料SがX線分析装置1内の所定の試料位置に置かれ、測定者によって測定開始の指示が成されると、測定が開始される。
【0047】
具体的には、
図3において、X線源Fを入射側アーム3のθs 回転によってθ回転させる。そして同時に、1次元X線検出器11を受光側アーム4のθd 回転によって2θ回転させる。X線源Fがθ回転し、X線検出器11が2θ回転する間、X線源Fから出射したX線が試料Sへ入射する。試料Sに入射するX線と試料S内の結晶格子面との間で回折条件が満たされると、試料SでX線が回折し、その回折X線が1次元X線検出器11によって検出される。X線検出器11の出力信号に基づいて、回折角度2θの個々の角度位置における回折X線のX線強度が求められ、これがX線回折測定の測定結果のデータとなる。
【0048】
なお、ここで説明したX線回折測定はX線測定の一例であり、実際には必要に応じてX線回折測定以外の適宜の測定が行われる。
【0049】
(2)光軸調整
次に、
図2のステップ3で実行される光軸調整について説明する。この光軸調整には2θ調整とZs 軸調整とθ調整の3種類がある。以下、これらの調整を個々に説明する。
(2−1)2θ調整
2θ調整は、X線分析装置1(
図1)の光学系における2θ=0°の角度位置と、X線源からX線検出器に至るX線の中心線とを一致させるための調整である。
【0050】
2θ調整は、X線検出器11の角度を補正するためのθd 補正値を入射側スリット8を所定開度の拡開状態にした状態で決めることである。具体的には、
図3において入射側アーム3をθ=0°に設定し、受光側アーム4もθ=0°に設定して、光学系を
図1に示す2θ=0°の状態に設定した上で、X線源FからX線検出器11に至るX線の中心線R0が1次元X線検出器11の2θ=0°の角度位置に一致するように調整することである。
【0051】
2θ調整においては、まず、
図1に示すように入射側アーム3をθs=0°に設定し、受光側アーム4をθd=0°に設定し、光学系を2θ=0°の状態に設定する。次に、入射側スリット8を開閉駆動装置17によって拡開状態に設定する。さらに、試料台2から試料Sを取り外し、
図4に示すように試料Sに替えてセンタースリット20を試料台2に装着する。
【0052】
図4の状態で1次元X線検出器11を固定したまま、X線源FからX線を出射して、拡開状態にある入射側スリット8及びセンタースリット20を通過したX線をX線検出器11によって検出する。X線検出器11はX線の進行方向に対して直交する方向に位置分解能を有しているので、1次元X線検出器11はX線源Fからの1回のX線放射により、
図5に示すように2θ方向の所定角度領域内にX線プロファイルP1が得られる。
【0053】
このプロファイルP1のピーク位置が2θ=0°からδ0だけズレているとすると、このズレ量δ0がθd軸のズレ量とθd軸とX線検出器11のズレ量を合わせた量を示していることになる。従って、
図5で示したX線測定の測定結果データに関して、ズレ量δ0をθd軸の補正値とすることにより、2θ方向に関する光軸調整を行うことができる。具体的には、
図3において受光側アーム4をズレ量δ0だけ移動させることにより、X線検出器11の位置を調整する。受光側アーム4上にスリット、モノクロメータ等といったX線光学要素が設置されている場合には、このX線光学要素の位置も調整される。
【0054】
図5の例では、δ0が0.2831°であった。従って、X線検出器11によって得られたデータにおける2θの値に対してδ0=0.2831°を減じれば2θ方向のズレを補正すること、すなわちθd 軸に関するズレを補正することができる。
図5のピーク波形P2は測定の生のデータであるピーク波形P1からマイナス方向へδ0=0.2831°補正することによって得られた補正後のピーク波形であり、このピーク波形P2のピークは2θ=0°に一致した。
【0055】
(2−2)Zs 軸調整
次に、Zs 軸調整について説明する。Zs 軸調整は、
図1の入射側スリット8を、X線源FからX線検出器11へ至るX線光軸R0に対して適切な位置に合わせることである。Zs 軸調整においては、まず、
図1に示す状態(すなわち、2θ=0°の状態)にあるX線分析装置1において試料台2から試料Sを取り外してX線が試料位置を自由に通過できるように設定する。
【0056】
次に、
図1のZs 移動装置19によってZs 軸(すなわち入射側スリット8)を
図1のA−A’方向に沿った第1の位置Q1(例えば−0.5mm)へ
図6のように移動する。そして、この状態でX線源FからX線を放射して、入射側スリット8を通過したX線を1次元X線検出器11によって検出する。1次元X線検出器11はX線検出用のピクセルが2θ方向に並んでいる1次元X線検出器であるので、1回のX線放射によって
図7のプロファイルP3が得られる。このプロファイルP3のピークpp3は例えば2θ=−0.06°であった。
【0057】
次に、
図1のZs 移動装置19によってZs 軸(すなわち入射側スリット8)を
図1のA−A’方向に沿った第2の位置Q2(例えば−0.2mm)へ
図8のように移動する。そして、この状態でX線源FからX線を放射して、入射側スリット8を通過したX線を1次元X線検出器11によって検出する。この1回のX線放射によって
図7のプロファイルP4が得られる。このプロファイルP4のピークpp4は例えば2θ=0.11°であった。
【0058】
図6に示すようなZs 軸上でのQ1(−0.5mm)の位置情報は
図7のグラフでは2θ軸(横軸)上でpp3(−0.06°)として投影されている。一方、
図8に示すようなZs 軸上でのQ2(−0.2mm)の位置情報は
図7のグラフでは2θ軸(横軸)上でpp4(0.11°)として投影されている。つまり、Zs 軸上での入射側スリット8の移動幅(Q1−Q2=0.5−0.2=0.3mm)が2θ上では(pp3−pp4=0.06+0.11=0.17°)の幅で投影されたことになる。このことから、2θ上での0.06°の角度がZs 軸上で入射側スリット8の0.1mmの移動量に相当することが分かる。
【0059】
従って、Zs 軸上で少なくとも2つの測定位置Q1,Q2の測定を行って
図7のような回折図形のグラフ上に測定結果であるプロファイルを描き、それらのプロファイルのピーク位置の2θ=0°に対する関係を求め、それらの関係をZs 軸上の位置に反映させれば、2θ=0°に対応するZs 軸上の位置を確実に求めることができる。つまり、Zs 軸上のQ1(
図6)に対応した
図7のピーク位置(pp3)と、Zs 軸上のQ2(
図8)に対応した
図7のピーク位置(pp4)とに基づいて、2θ=0°に対応したZs 軸上の位置を算出することができる。
【0060】
例えば、Q1=−0.5mm、Q2=−0.2mm、pp3=−0.06°、pp4=0.11°と仮定すれば、X線の角度2θ=0°に対応するZs 軸上の位置Zs は、
Zs =−0.5mm+(b/a)×0.3mm …(1)
但し、
a=+0.11°−(−0.06°)
b=0°−(−0.06°)
によって求めることができる。上式(1)を計算すれば、Zs ≒−0.4mmとなる。
【0061】
確認のため、
図6においてZs =0.4mmの位置に入射側スリット8を置き直して、X線検出器11によってX線を検出した。そして、検出結果を
図7の回折線図形のグラフ上にプロットしたところ、プロファイルP5が得られた。このプロファイルP5のピーク位置は2θ=0°に一致した。このことから、入射側スリット8に対する上式(1)の補正式が適正であることが分かった。
【0062】
また、確認のために、入射側スリット8のZs 軸上での位置を計算結果に従って調整した後に、次の3種類の条件の下でX線回折測定を行った。
(A) 発散角が(2/3)°である入射側スリット8を
図6の入射側スリット8のところに配置して、1次元X線検出器11によってX線測定を行った。
(B) スリット幅が0.2mmである入射側スリット8を
図6の入射側スリット8のところに配置して、1次元X線検出器11によってX線測定を行った。
(C) スリット幅が0.2mmである入射側スリット8を
図6の入射側スリット8のところに配置し、さらに試料位置にセンタースリットを配置して、1次元X線検出器11によってX線測定を行った。
【0063】
上記の各条件での測定結果を
図9の回折線図形のグラフ上にプロットしたところ、上記(A)の測定結果としてプロファイルT1が得られ、上記(B)の測定結果としてプロファイルT2が得られ、上記(C)の測定結果としてプロファイルT3が得られた。全ての結果において、ピーク値が2θ=0°のところに現れた。これにより、入射側スリット8のZs 軸上での位置が2θ=0°に正確に合わされていることが分かった。また、センタースリットの有り無しにかかわらず2θ=0°に一致することが分かった。
【0064】
(2−3)θ調整
次に、光軸調整のうちの「θ調整」について説明する。θ調整とは、
図1において試料Sの表面を試料Sに入射するX線R1に対して平行に調整することである。従来のX線分析装置ではθ調整を、
図15A及び
図16Bを用いて説明したように、試料位置に光軸調整治具58を置き、X線源Fから0次元X線検出器53に至るX線の中心線が直線を維持するようにX線源Fと0次元X線検出器53とを試料位置を中心として所定の角度範囲内で同時に連続的に回転移動させながら、0次元X線検出器53によってX線強度の大小を測定し、このX線強度の大小に基づいて光軸調整治具58のX線光軸に対する平行度を評価し、この評価結果に従ってθ調整を行った。
【0065】
これに対し本実施形態では、
図10A、
図10B、
図10Cに示す光軸調整治具21を
図11に示すように試料Sに代えて試料台2の所定位置に装着し、
図1においてX線源Fから1次元X線検出器11に至るX線の中心線(すなわちX線光軸)R0が直線を維持するように(すなわち2θ=0°に固定した状態で)X線源Fと1次元X線検出器11とを試料位置を中心とした異なる2個所(例えば、
図12Aに示すθs=+0.5°、θd=−0.5°、θ=−1°(β1)と、
図12Bに示すθs=−0.5°、θd=+0.5°、θ=+1°(β2)との2個所)の間で回転移動させ、各個所において1次元X線検出器11によってX線強度を測定する。
【0066】
そして、X線光軸R0を振った角度と、その場合に2θ上に投影された回折角度の幅との関係から、試料面がX線光軸R0に対して平行になるときのX線光軸R0の角度を算出する。この算出された角度がθ軸補正値であり、このθ軸補正値の位置を測定系のθ=0°に合わせる。
【0067】
なお、光軸調整治具21は
図11に示すようにX線を遮蔽するための遮光片22を有している。遮光片22のX線入射側の一辺22aは試料軸線X0に合わされる。遮光片22の試料軸線X0に沿った方向における略中央部分はX線光軸R0に合わされる。また、遮光片22の試料軸線X0に沿った方向の長さL2は、入射X線ビームの試料軸線X0に沿った方向の幅よりも長いことが望ましい。
【0068】
より詳しく説明すれば、
図12Aに示すようにθ軸をβ1(例えば−1.0°)に合わせて1次元X線検出器11によってX線強度I1を測定する。次に、
図12Bに示すようにθ軸をβ2(例えば、+1.0°)に移動して1次元X線検出器11によってX線強度I2を測定する。次に、
図12Cに示すように、θ軸がβ1のときとβ2のときの測定データを合わせる。
【0069】
以上のようにして合わされた測定データを模式的に拡大して示せば
図13Aに示す通りである。
図13Aにおいてt1は遮光片22の厚さdを表しており、t2は遮光片22の後尾の位置を表している。
図13Bに示すように
図13Aの(t2−t1)の値を求めれば、この値が(β2−β1)の開き量を表すことになる。従って、(t2−t1)の値を0.0°を中心に等間隔になるようにθ軸に関する補正値を求めれば、θ調整を行うことができる。
【0070】
図14において、P21は
図12Aにおいてβ1=−1.0°としたときに測定されたX線プロファイルを示している。また、P22は
図12Bにおいてβ2=+1.0°としたときに測定されたX線プロファイルを示している。この場合、P21とP22の低角側の差δ21は約0.10°である。また、P21とP22の高角側の差δ22は約0.17°である。
【0071】
そして、中心からの2θ上のズレ量は、
(0.10°+0.17°)÷2.0−0.10°=0.035° …(2)
であり、θ軸の補正角度は、
0.035°×2.0÷(0.10°+0.17°)≒0.259° …(3)
である。
【0072】
θ軸を±1.0°振った情報が2θ上に(0.10°+0.17°=0.27°)として投影されることになる。θ軸が調整された状態では、δ21とδ22は同じ値になる。θ軸の2°が2θ上の0.27°に対応するため、上式(2)及び上式(3)のようになる。
【0073】
以上の2θ調整、Zs 軸調整及びθ調整の3種類の調整により、
図2のステップS3の光軸調整が終了する。
【0074】
以上のように、本実施形態によれば、光軸調整のうちのθ調整(すなわち、試料表面のX線光軸に対する平行度のズレ量を求めて補正するという調整)を、2つの角度位置β1(
図12A)とβ2(
図12B)とをとる遮光片22のそれぞれの角度位置に対応した回折線強度I1及びI2だけに基づいて行うことにしたので、そのθ調整を非常に早く行うことが可能となった。その結果、θ調整を含んだ光軸調整の全体を非常に短時間で行えるようになった。
【0075】
また、本実施形態によれば、試料に対するX線入射角θと入射側アーム3のθs 角度とのズレ量、及びX線回折角2θと受光側アーム4のθd 角度とのズレ量の各ズレ量を1次元X線検出器11が持っているX線強度の位置分解能を活用して求めることにしたので、それらのズレ量を求める処理及びそれらのズレ量に基づいて行う光軸調整の処理を簡単に且つ迅速に行うことができるようになった。
【0076】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0077】
例えば、
図1のX線検出器11は1次元X線検出器に限られず、0次元X線検出器とすることもできる。また、上記の実施形態では1次元X線検出器として
図17Bに示すような専用の1次元X線検出器を用いたが、これに代えて、
図17Aに示すような2次元X線検出器のうちの必要なピクセル62を用いて1次元X線検出器を構成しても良い。