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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-122162(P2015-122162A)
(43)【公開日】2015年7月2日
(54)【発明の名称】接着剤の漏出予測方法及び端子台
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/00 20060101AFI20150605BHJP
   H01R 13/52 20060101ALI20150605BHJP
   H01R 9/00 20060101ALI20150605BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20150605BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20150605BHJP
【FI】
   H01R43/00 B
   H01R13/52 301F
   H01R9/00 Z
   C09J201/00
   C09J5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-264221(P2013-264221)
(22)【出願日】2013年12月20日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 克文
(72)【発明者】
【氏名】長谷 達也
【テーマコード(参考)】
4J040
5E051
5E086
5E087
【Fターム(参考)】
4J040JA05
4J040JB02
4J040MA02
4J040MA10
4J040MB11
4J040MB12
4J040NA16
4J040PA24
4J040PA28
4J040PA30
4J040PA37
5E051BA06
5E051BB05
5E086DD04
5E086DD05
5E086DD33
5E086DD45
5E086DD49
5E086LL06
5E086LL13
5E087EE14
5E087FF02
5E087GG02
5E087LL03
5E087LL14
5E087MM05
5E087QQ04
5E087RR06
5E087RR12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低コストかつ短期間に接着剤の漏出の有無を確認できる方法を提供する。
【解決手段】接着剤4の漏出予測方法は、開口端211から接着剤4までの流路51の長さd(mm)を取得するステップと、温度Tにおいて接着剤4の接続部31側の端部に生じる圧縮応力p(T)を数値解析に基づいて算出するステップと、温度Tにおける流路51の断面積S(T)を数値解析に基づいて算出するステップと、温度Tにおける、熱処理を施された接着剤4の粘度μ(T)を準備するステップと、p(T)、S(T)、μ(T)及び流路51の長さdの各値を用いて、式(1)により接着剤4の流量Q(T)(mm3/s)を算出するステップとを有する。そして、流量Q(T)の値が0.019mm3/s未満の場合に接着剤4がハウジング2から漏出しないと判定する。

【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、該ハウジングに埋設された埋設部及び上記ハウジングの開口端から外方に突出した接続部を一体に備えた導電体と、上記埋設部と上記ハウジングとの間に存在する隙間の一部に配されると共に該隙間を封止する接着剤とを有する端子台が温度Tにh時間保持する熱処理を施された際の、上記開口端からの上記接着剤の漏出の有無を予測する方法であって、
上記開口端から上記接着剤に到達するまでの流路の長さd(mm)を設計図から取得するステップと、
上記温度Tにおいて上記接着剤の上記開口端側の端部に生じる圧縮応力p(T)(Pa)を数値解析に基づいて算出するステップと、
上記温度Tにおける上記流路の断面積S(T)(mm2)を数値解析に基づいて算出するステップと、
上記温度Tにおける、上記熱処理を施された上記接着剤の粘度μ(T)(Pa・s)の値を準備するステップと、
上記p(T)の値、上記S(T)の値、上記μ(T)の値及び上記流路の長さd(mm)の値を用いて下記数式(1)により上記接着剤の流量Q(T)(mm3/s)を算出するステップとを有し、
上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s未満である場合に上記接着剤が漏出しないと判定し、上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s以上である場合に上記接着剤が漏出すると判定することを特徴とする、接着剤の漏出予測方法。
【数1】
【請求項2】
ハウジングと、
該ハウジングに埋設された埋設部及び上記ハウジングの開口端から外方に突出した接続部を一体に備えた導電体と、
上記埋設部と上記ハウジングとの間に存在する隙間の一部に配されると共に該隙間を封止する接着剤とを有し、
使用が想定される最高温度をTmax(℃)とし、
上記最高温度Tmaxにおいて想定される最長使用時間をhmax(時間)とし、
上記開口端から上記接着剤に到達するまでの流路の長さをd(mm)とし、
上記最高温度Tmaxにおける上記開口端側の上記接着剤の端部に生じる圧縮応力の値をp(Tmax)(Pa)とし、
上記最高温度Tmaxにおける上記流路の断面積をS(Tmax)(mm2)とし、
上記最高温度Tmaxにおける、上記最高温度Tmax℃でhmax時間保持する熱処理を施された上記接着剤の粘度をμ(Tmax)(Pa・s)としたときに、
上記p(Tmax)の値、上記S(Tmax)の値、上記μ(Tmax)の値及び上記dの値を用いて下記数式(2)より算出される上記接着剤の流量Q(Tmax)(mm3/s)が0.019mm3/s未満となるように構成されていることを特徴とする端子台。
【数2】
【請求項3】
自動車用ワイヤーハーネスを接続するための端子台であることを特徴とする請求項2に記載の端子台。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端子台からの接着剤の漏出の有無を予測する方法及び該方法により接着剤の漏出が抑制できるよう設計された端子台に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車用のワイヤーハーネス等の接続に用いられる端子台は、金属製の導電体とハウジングとを有しており、インサート成形により導電体がハウジングの樹脂部分に固定されているものがある。ハウジングの樹脂部分は、通常、金属と接着されにくいため、成形後に発生する樹脂のひけ等が原因となり、ハウジングと導電体との間には不可避的に隙間が形成される。一方、端子台は、導電体とハウジングとの間を液密に封止することを要求される場合がある。この場合には、通常、ハウジングと導電体との間に、上記隙間を液密に封止するための封止手段が設けられる。
【0003】
例えば特許文献1には、インサート成形によって、金属製の導電体と樹脂製のコネクタハウジングとが一体に成形されたコネクタの例が開示されている。このコネクタは、導電体におけるコネクタハウジングに埋設される部分に、予めシール部が配設されている。そのため、インサート成形の際にハウジングの樹脂部分とシール部とが接着される。これにより、導電体とコネクタハウジングとの間の隙間が塞がれ、両者の間が液密に封止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−45510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
端子台のシール部には、一般に樹脂系の接着剤が用いられている。しかしながら、樹脂系の接着剤は使用中に熱劣化により粘度が低下するという問題を有している。そのため、端子台の使用期間が長期にわたる場合には、コネクタハウジングから接着剤が漏出することが懸念されている。
【0006】
そこで、コネクタハウジングからの接着剤の漏出を抑制するために種々の検討が行われている。しかしながら、接着剤の漏出の有無を判定するためには、実際に試験体を作製した上で、試験体そのものを熱処理して漏出の有無を確認する以外の手法が無い。そのため、試作評価に要する時間を短縮することが困難であり、ひいては端子台の設計が長期化するという問題がある。
【0007】
また、接着剤の漏出を抑制するためには、通常、コネクタハウジングの形状を最適化する手段が取られる。それ故、接着剤の漏出を抑制できるコネクタハウジングを得るためには、コネクタハウジングの形状を変化させた試験体を多数作成する必要がある。従って、試作に要するコストの低減には限界がある。
【0008】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、低コストかつ短期間に接着剤の漏出の有無を確認できる方法を提供すると共に、当該方法により設計された接着剤の漏出しにくい端子台を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ハウジングと導電体との間の隙間内を流れる接着剤の流れをハーゲン・ポアズイユ流れとして取り扱うことにより、接着剤の漏出の有無を予測し得ることを見出した。また、本願発明者らは、上記隙間の実際の形状とは異なるにも関わらず、接着剤の流れのモデル式として円筒管内におけるハーゲン・ポアズイユ流れの式を採用できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の一態様は、ハウジングと、該ハウジングに埋設された埋設部及び上記ハウジングの開口端から外方に突出した接続部を一体に備えた導電体と、上記埋設部と上記ハウジングとの間に存在する隙間の一部に配されると共に該隙間を封止する接着剤とを有する端子台が温度Tにh時間保持する熱処理を施された際の、上記開口端からの上記接着剤の漏出の有無を予測する方法であって、
上記開口端から上記接着剤に到達するまでの流路の長さd(mm)を設計図から取得するステップと、
上記温度Tにおいて上記接着剤の上記開口端側の端部に生じる圧縮応力p(T)(Pa)を数値解析に基づいて算出するステップと、
上記温度Tにおける上記流路の断面積S(T)(mm2)を数値解析に基づいて算出するステップと、
上記温度Tにおける、上記熱処理を施された上記接着剤の粘度μ(T)(Pa・s)の値を準備するステップと、
上記p(T)の値、上記S(T)の値、上記μ(T)の値及び上記流路の長さd(mm)の値を用いて下記数式(1)により上記接着剤の流量Q(T)(mm3/s)を算出するステップとを有し、
上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s未満である場合に上記接着剤が漏出しないと判定し、上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s以上である場合に上記接着剤が漏出すると判定することを特徴とする、接着剤の漏出予測方法にある。
【0011】
【数1】
【0012】
また、本発明の他の態様は、ハウジングと、
該ハウジングに埋設された埋設部及び上記ハウジングの開口端から外方に突出した接続部を一体に備えた導電体と、
上記埋設部と上記ハウジングとの間に存在する隙間の一部に配されると共に該隙間を封止する接着剤とを有し、
使用が想定される最高温度をTmax(℃)とし、
上記最高温度Tmaxにおいて想定される最長使用時間をhmax(時間)とし、
上記開口端から上記接着剤に到達するまでの流路の長さをd(mm)とし、
上記最高温度Tmaxにおける上記開口端側の上記接着剤の端部に生じる圧縮応力の値をp(Tmax)(Pa)とし、
上記最高温度Tmaxにおける上記流路の断面積をS(Tmax)(mm2)とし、
上記最高温度Tmaxにおける、上記最高温度Tmax℃でhmax時間保持する熱処理を施された上記接着剤の粘度をμ(Tmax)(Pa・s)としたときに、
上記p(Tmax)の値、上記S(Tmax)の値、上記μ(Tmax)の値及び上記dの値を用いて下記数式(2)より算出される上記接着剤の流量Q(Tmax)(mm3/s)が0.019mm3/s未満となるように構成されていることを特徴とする端子台にある。
【0013】
【数2】
【発明の効果】
【0014】
上記接着剤の漏出予測方法は、上記数式(1)を用いて上記流量Q(T)の値を算出するために必要な値のうち、上記圧縮応力p(T)及び上記断面積S(T)の2つの値を数値解析により算出するよう構成されている。また、上記流路の長さd(mm)の値は、設計図から取得される。
【0015】
すなわち、上記数式(1)を用いて上記流量Q(T)(mm3/s)を算出するために必要な値のうち、実際に測定する必要がある値は、温度Tにh時間保持する上記熱処理を施された上記接着剤の粘度μ(T)(Pa・s)のみである。そして、上記粘度μ(T)の値は、予め上記熱処理を施された接着剤のみを用いて測定することができる。このように、上記接着剤の漏出予測方法は、ハウジング、導電体及び接着剤を備えた試験体を実際に作製することなく上記流量Q(T)の値を算出することができるよう構成されている。
【0016】
そして、上記接着剤の漏出予測方法は、上記数式(1)を用いて算出された上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s未満である場合に上記接着剤は漏出しないと判定し、上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s以上である場合に上記接着剤が漏出すると判定するよう構成されている。それ故、上記接着剤の漏出予測方法は、試験体を実際に作製することなく、接着剤の漏出の有無を予測することができる。
【0017】
また、上記接着剤の漏出予測方法は、数値解析用モデルを変更することにより、ハウジングの形状や導電体の形状等を変更した場合の上記圧縮応力p(T)の値及び上記断面積S(T)の値を算出することができる。そして、これらの値は、ハウジングの形状等を変更した試験体を実際に作製し、上記熱処理後における接着剤の漏出の有無を確認するために必要な時間に比べてより短時間で算出される。それ故、上記接着剤の漏出予測方法は、ハウジングの形状等を変更する場合の接着剤の漏出の有無を、従来よりも短期間に確認することができる。
【0018】
また、上記接着剤の漏出予測方法を用いることにより、実際に試験体を作製する前に、接着剤の漏出抑制に有効なハウジングの形状等をある程度絞り込むことができる。そのため、上記接着剤の漏出予測方法は、試験体を作製する回数を容易に低減することができ、ひいては試作コストを容易に低減することができる。
【0019】
このように、上記接着剤の漏出予測方法によれば、低コストかつ短期間に接着剤の漏出の有無を確認することができる。
【0020】
また、上記端子台は、上記接着剤の漏出予測方法を適用することにより、上記最大温度Tmaxに上記最長使用時間hmax時間保持する熱処理が施された後に、上記接着剤が漏出しないように予め設計されている。すなわち、上記端子台は、想定される使用条件のうち、最も厳しい使用条件において接着剤が漏出しないように予め設計されている。それ故、上記端子台は、使用が想定される温度範囲及び期間内に接着剤の漏出がなく、優れた品質を有する。また、上記端子台は、上記接着剤の漏出予測方法に由来して設計期間の短縮及び試作コストの低減が容易なものとなり、ひいてはより安価に提供可能なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例における、端子台の正面図。
図2】実施例における、端子台の上面図。
図3図2のIII−III線矢視断面図。
図4図3における、接着剤近傍を拡大した断面図。
図5】圧縮応力p(T)の値の算出に用いる解析モデルの一例を示す説明図。
図6】実施例における、導電体及び樹脂成形部が変形した状態の解析モデルの断面図(図3に相当する断面図)。
図7図6のVII−VII線矢視断面図。
図8】実施例における、粘度μ(T)の測定結果の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上記接着剤の漏出予測方法の構成の例及び上記接着剤の漏出予測方法を適用する端子台の構成の例について説明する。なお、以下に説明する構成は一例であり、適宜変更することができる。
【0023】
[端子台]
上記端子台は、例えば、以下のように構成される。端子台1は、図1図4に示すように、ハウジング2と、導電体3と、接着剤4とを有している。図3に示すように、導電体3は、ハウジング2に埋設された埋設部32と、ハウジング2の開口端211から外方に突出した2箇所の接続部31とを有している。また、接着剤4は、埋設部32とハウジング2との間に存在する隙間5の一部に配され、隙間5を封止するよう構成されている。
【0024】
図1図4に示すように、端子台1は、平板状のハウジング2と、ハウジング2を厚み方向に貫通する複数の導電体3とを有している。
【0025】
図1及び図2に示すように、ハウジング2は熱可塑性樹脂よりなる樹脂成形部21を有している。図1図3に示すように、導電体3は板状を呈しており、樹脂成形部21を貫通すると共にインサート成形により樹脂成形部21に固定されている。また、図3に示すように、導電体3は、樹脂成形部21に埋設された埋設部32の両端に接続部31を有している。各々の接続部31は、ワイヤーハーネス等を締結するための締結孔311及び締結ナット312を有している。
【0026】
隙間5の一部には、導電体3と樹脂成形部21との間を液密に封止する接着剤4が設けられている。隙間5における接着剤4と樹脂成形部21の開口端211との間の領域は、接着剤4が漏出する際の流路51となる。
【0027】
[接着剤4の漏出予測方法]
接着剤4の漏出予測方法は、流路51の長さd(mm)を設計図から取得するステップと、圧縮応力p(T)の値及び断面積S(T)の値をそれぞれ数値解析に基づいて算出するステップと、粘度μ(T)の値を準備するステップと、流量Q(T)の値を算出するステップとを有している。以下、各ステップの態様について説明する。
【0028】
<流路51の長さdの値の取得>
流路51の長さdの値は、設計図から取得される値である。すなわち、流路51の長さdは、端子台1を作製した後、室温において測定される、接着剤4から樹脂成形部21の開口端211までの距離と実質的に等しい。
【0029】
<圧縮応力p(T)の値の算出>
圧縮応力p(T)の値の算出には、例えば図5に示すように、接着剤4が導電体3とハウジング2との間に密閉されていると仮定した解析モデル101が用いられる。つまり、圧縮応力p(T)の値の算出に用いる解析モデル101は、導電体3と、導電体3上に配置された接着剤4と、接着剤4を覆うように配置されたハウジング2とを有している。また、導電体3とハウジング2との間に形成される隙間5はないものとし、隙間5に相当する領域500にはハウジング2が配置されている。また、解析モデル101の初期状態における温度は20℃に設定される。
【0030】
解析モデル101におけるハウジング2、導電体3及び接着剤4の寸法は、設計図に従って設定される。ハウジング2等の寸法の一例を以下に示す。なお、図5には1/4対称性を有する2次元有限要素モデルの例を示したが、解析モデル101を3次元有限要素モデルとすることも可能である。
・ハウジング2の長さLh:4.0mm
・ハウジング2の厚みTh:3.0mm
・接着剤4の長さLa:2.5mm
・接着剤4の厚みTa:0.1mm
・導電体3の長さLb:7.0mm
・導電体3の厚みTb:0.8mm
【0031】
解析モデル101を用いた数値解析は、例えば二次元有限要素モデルを用いた有限要素法や三次元有限要素モデルを用いた有限要素法等により行われる。数値解析においては、各部材の温度を初期状態(温度20℃)から温度Tまで均一に上昇させる温度プロファイルが解析モデル101に負荷される。その結果、各部材の温度が温度Tとなった状態において、接着剤4の接続部31側の端部41(図5参照)に生じる圧縮応力の値がp(T)の値である。
【0032】
<断面積S(T)の値の算出>
流路51の断面積S(T)の値の算出には、ハウジング2及び導電体3からなる解析モデルが用いられる。解析モデルにおけるハウジング2及び導電体3の寸法は、設計図に従って設定される。また、初期状態における解析モデルの温度は20℃に設定される。
【0033】
流路51の断面積S(T)の値を算出するステップにおいて、接着剤4は解析モデルから省略されていてもよい。接着剤4は、ハウジング2及び導電体3に比べて弾性率が低く、かつ、占有体積が少ないため、ハウジング2及び導電体3の変形に及ぼす影響が極めて小さい。それ故、解析モデルから接着剤4を省略することにより、計算精度を維持しつつ計算時間を短縮することができる。
【0034】
断面積S(T)の値を算出するステップにおける数値解析は、例えば三次元有限要素モデルを用いた有限要素法等により行われる。数値解析においては、各部材の温度を初期状態(温度20℃)から温度Tまで均一に上昇させる温度プロファイルが解析モデルに負荷される。その結果、各部材の温度が温度Tとなった状態における、ハウジング2及び導電体3の変形が数値解析により推定される。そして、ハウジング2及び導電体3が変形した状態の解析モデルに基づいて、流れ方向に垂直な断面における流路51の断面積S(T)が算出される。なお、流れ方向とは、接着剤4が隙間5内をハウジング2の開口端211に向かって流れる方向をいう。
【0035】
<粘度μ(T)の値の準備>
接着剤4の粘度μ(T)の値は、以下の手順により測定される。まず、接着剤4を厚さ2mmのシート状に成形した試験片が作成される。得られた試験片は、加熱炉等を用いて温度Tにh時間保持する熱処理を施される。熱処理を施された試験片の温度Tにおける粘度μ(T)の値は、例えばレオメータ等の装置を用いて測定される。以上の測定を接着剤の種類及び熱処理の条件ごとに予め行うことにより、粘度μ(T)の値の準備が準備される。
【0036】
<流量Q(T)の値の算出>
上記数式(1)には、以上の各ステップにより得られた圧縮応力p(T)の値、断面積S(T)の値、粘度μ(T)の値及び流路51の長さd(図5参照)の値が代入される。その結果、流量Q(T)の値が算出される。
【0037】
ここで、数式(1)は、流路51内を接着剤4が接続部31側へ向けて流れる場合のモデル式である。上記数式(1)は、円筒管内を流れるハーゲン・ポアズイユ流れの式(下記数式(3))を以下のように変形することにより導出される。
【0038】
【数3】
【0039】
なお、上記数式(3)において用いた記号の意味は以下の通りである。
Q(mm3/s):円筒管内を流れる流体の流量
R(mm):円筒管の半径
μ(Pa・s):流体の粘度
1(Pa):円筒管の流入口における流体の圧力
2(Pa):円筒管の流出口における流体の圧力
【0040】
まず、流れ方向に垂直な断面における流路51の断面形状を円筒状と仮定する。すなわち、上記数式(3)における円筒管の断面積が、流路51の断面積S(T)に等しいと仮定する。これにより、流路51の断面積S(T)と円筒管の半径Rとの間に、S(T)=πR2という関係が成立する。それ故、上記数式(3)内のR4が(S(T)/π)2に置き換えられる。
【0041】
次に、上記円筒管における流入口と流出口との圧力差を意味する(p1−p2)が、接着剤4の圧縮応力p(T)に等しいと近似する。端子台1は、通常、大気圧下で使用される。従って、接着剤4が流動していない状態においては、p1及びp2はいずれも大気圧に等しい。
【0042】
一方、端子台1が加熱されて接着剤4に熱膨張が生じると、接着剤4の接続部31側の端部に、接続部31側へ向かう応力(圧縮応力p(T))が生じる。接着剤4は、この応力により接続部31側へ向けて流動すると考えられる。それ故、接着剤4が接続部31側へ向けて流動している状態においては、p1がp2よりも接着剤4の応力分だけ大きくなると考えられ、(p1−p2)が圧縮応力p(T)に等しいと近似することができる。
【0043】
以上により、円筒管内を流れるハーゲン・ポアズイユ流れの式(上記数式(3))から上記数式(1)を導出することができる。
【0044】
接着剤4の漏出予測方法を適用する端子台1は、自動車用ワイヤーハーネスを接続するための端子台1として好適である。かかる用途に用いる端子台1には、汎用の端子台に比べて極めて高い品質が要求される。これに対し、端子台1は、接着剤4の漏出予測方法を適用することにより、優れた品質を有すると共に、設計に要する期間が短く、試作コストの低いものとなる。その結果、端子台1は、コストが安く、かつ、優れた品質を有するものとなる。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
上記接着剤の漏出予測方法の実施例について、図1図8を用いて説明する。図1図4に示すように、ハウジング2と、導電体3と、接着剤4とを有している。図3に示すように、導電体3は、ハウジング2に埋設された埋設部32と、ハウジング2の開口端211から外方に突出した2箇所の接続部31とを一体に有している。また、接着剤4は、埋設部32とハウジング2との間に存在する隙間5の一部に配され、隙間5を封止するよう構成されている。
【0046】
接着剤4の漏出予測方法は、開口端211から接着剤4に到達するまでの流路51の長さd(mm)を設計図から取得するステップと、
温度Tにおいて接着剤4の開口端211側の端部41に生じる圧縮応力p(T)(Pa)を数値解析に基づいて算出するステップと、
温度Tにおける流路51の断面積S(T)(mm2)を数値解析に基づいて算出するステップと、
温度Tにh時間保持する熱処理を施された接着剤4の、温度Tにおける粘度μ(T)(Pa・s)を準備するステップと、
(T)の値、S(T)の値、μ(T)の値及び流路51の長さd(mm)の値を用いて上記数式(1)により接着剤4の流量Q(T)(mm3/s)を算出するステップとを有している。
【0047】
そして、接着剤4の漏出予測方法は、流量Q(T)の値が0.019mm3/s未満である場合に接着剤4が漏出しないと判定し、上記流量Q(T)の値が0.019mm3/s以上である場合に接着剤4が漏出すると判定するよう構成されている。以下、詳説する。
【0048】
本例においては、表1に示すように、温度Tにh時間保持する熱処理が施された端子台1における接着剤4の漏出の有無の予測を、上記接着剤の漏出予測方法により行った。また、端子台1を実際に作製し、表1に示す条件で熱処理が施された後の接着剤4の漏出の有無を目視により確認した。
【0049】
圧縮応力p(T)(Pa)を算出するステップにおいては、上述した解析モデル101を作成した。また、初期状態(温度20℃)において、導電体3、樹脂成形部21及び接着剤4は、互いに接触しており、接触面における摩擦係数が0となるように設定した。その他は上述した方法の通りである。
【0050】
流路51の断面積S(T)(mm2)を算出するステップにおいては、端子台1の設計図に基づいて3次元有限要素モデルを作成した。また、初期状態(温度20℃)において、導電体3及び樹脂成形部21は互いに接触しており、接触面における摩擦係数が0となるように設定した。また、接着剤4は、上記3次元有限要素モデルから省略した。その他は上述した方法の通りである。
【0051】
図6及び図7に、導電体3及び樹脂成形部21が変形した状態の上記3次元有限要素モデルの一例を示す。図6に示すように、導電体3及び樹脂成形部21には、熱膨張係数の差や構造的な要因等によって湾曲等が生じることがある。この場合には、図6及び図7に示すように、導電体3と樹脂成形部21との間の隙間5の形状が断面の位置によって変化することがある。そのため、本例において用いた断面積S(T)の値は、樹脂成形部21の開口端211における流路51の断面積の値とした。
【0052】
接着剤4の粘度μ(T)(Pa・s)は、レオメータ(ティー・エイ・インスツルメント社製「ARESレオメータ」)を用いて、接着剤4の粘度を予め測定して準備した。レオメータの測定条件は以下の通りである。その他は上述した方法の通りである。
【0053】
測定モード:ずりモード(Auto strain制御)
昇温速度:3℃/分
測定周波数:1Hz
測定ジオメトリー:パラレルプレート φ25mm
測定雰囲気:窒素雰囲気
【0054】
粘度測定結果の一例として、図8に、150℃に1000時間保持する熱処理が施された接着剤4の粘度測定結果を示す。図8の縦軸は粘度μ(T)(Pa・s)の値であり、対数表示されている。また、図8の横軸は温度T(℃)の値である。例えば、150℃に1000時間保持する熱処理が施された後の端子台1からの接着剤4の漏出の有無を予測しようとする場合には、図8において、温度Tが150℃であるときの粘度μ(T)の値(7500Pa・s)を読み取り、この値を上記数式(1)に代入すればよい。
【0055】
以上により得られた圧縮応力p(T)の値、断面積S(T)の値、粘度μ(T)の値及び流路51の長さdの値を用いて流量Q(T)の値を算出した。その結果を表1に示す。また、表1には、端子台1を実際に作製し、熱処理が施された後の接着剤4の漏出の有無を目視確認した結果を示した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1より知られるように、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm3/s未満である熱処理条件においては、端子台1からの接着剤4の漏出は確認されなかった。一方、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm/s以上である熱処理条件においては、端子台1からの接着剤4の漏出が実際に確認された。
【0058】
(実施例2)
本例は、実施例1における端子台1の形状を変更するとともに、接着剤4から接続部31までの流路51の長さdを実施例1よりも大きい4.5mmにした例である。それ以外は、実施例1と同様である。
【0059】
表2に、本例において算出された圧縮応力p(T)の値、断面積S(T)の値、粘度μ(T)の値、流路51の長さdの値及び流量Q(T)の値を示した。また、表2には、端子台1を実際に作製し、熱処理が施された後の接着剤4の漏出の有無を目視確認した結果を示した。
【0060】
【表2】
【0061】
表2より知られるように、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm3/s未満である熱処理条件においては、端子台1からの接着剤4の漏出は確認されなかった。一方、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm3/s以上である熱処理条件においては、端子台1からの接着剤4の漏出が実際に確認された。
【0062】
(実施例3)
本例は、実施例1における端子台1の形状をさらに変更するとともに、接着剤4から接続部31までの流路51の長さdを実施例2よりも大きい5.5mmにした例である。それ以外は、実施例1と同様である。
【0063】
表3に、本例において算出された圧縮応力p(T)の値、断面積S(T)の値、粘度μ(T)の値、流路51の長さdの値及び流量Q(T)の値を示した。また、表3には、端子台1を実際に作製し、熱処理が施された後の接着剤4の漏出の有無を目視確認した結果を示した。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より知られるように、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm3/s未満である熱処理条件においては、端子台1からの接着剤4の漏出は確認されなかった。一方、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm3/s以上である熱処理条件においては、端子台1からの接着剤4の漏出が実際に確認された。
【0066】
実施例1〜実施例3に示したように、上記接着剤の漏出予測方法は、上記数式(1)により算出されたQ(T)の値が0.019mm3/s未満であれば、端子台1の形状等によらず接着剤4の漏出の有無を予測することができる。それ故、上記接着剤の漏出予測方法を用いることにより、実際に試験体を作製する前に、接着剤4の漏出抑制に有効なハウジング2の形状等をある程度絞り込むことができる。
【0067】
その結果、上記接着剤の漏出予測方法によれば、低コストかつ短期間に接着剤4の漏出の有無を確認することができる。
【0068】
そして、上記接着剤の漏出予測方法により、使用が想定される最高温度Tmaxにおける流量Q(Tmax)の値が0.019mm3/s未満となるように構成された端子台1は、想定される使用条件のうち、最も厳しい条件において接着剤が漏出しないように予め設計されたものとなる。従って、かかる構成を有する端子台1は、使用が想定される温度範囲及び期間内に接着剤4の漏出がなく、優れた品質を有する。また、端子台1は、上記接着剤の漏出予測方法に由来して設計期間の短縮及び試作コストの低減が容易なものとなり、ひいてはより安価に提供可能なものとなる。
【符号の説明】
【0069】
1 端子台
2 ハウジング
211 開口端
3 導電体
31 接続部
32 埋設部
4 接着剤
5 隙間
51 流路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8