【解決手段】CFRPを主材料とするベース部材1と、可撓性導電材料よりなり、少なくとも一部領域がアース接続部5として外部に露出するとともに、アース接続部5の裏面側はベース部材1にて支持されたアース用導体2と、アース接続部5に接続されるアース端子13を有するアース部材と、ベース部材1において前記アース接続部5の裏面側に埋め込み固定されたスタッドボルト18とこのスタッドボルト18に係止しスタッドボルト18との間でアース端子13とアース用導体2とを挟み込んで固定するナットとを備えている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、最近になって軽量化の要請から金属製のボディに代わってCFRP(炭素繊維強化樹脂)製のフレームが開発されつつある。しかし、CFRPは一般に電気絶縁性であるため、これ自体をアースポイントとすることはできない。そこで、CFRP製のフレームとした場合に、この内部にアース用導体を内蔵させ、これをアースポイントとして利用することが考えられる。その場合においても、アース用導体は編組線等の可撓性部材で形成されたものである方が、配索経路の自由度を高める上で有効である。しかし、アース用導体が可撓性部材で形成されていたのでは、アース端子との接続作業がしづらくなる、という点が懸念される。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、アース用導体の配索の自由度を高めつつアース端子の接続を安定的に行うことができるアース構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアース構造は、片面側に取付け用開口部が凹設されたベース部材と、可撓性導電材料よりなり、少なくとも一部領域がアース接続部として外部に露出するとともに、アース接続部の裏面側はベース部材にて支持されたアース用導体と、アース接続部に接続されるアース端子を有するアース部材と、ベース部材においてアース接続部の裏面側に埋め込み固定された受け具とこの受け具に係止し受け具との間でアース端子とアース用導体とを挟み込んで固定する締め具とからなる固定部材とを備えて構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明において、ベース部材の内部に固定されるアース用導体が可撓性を有する場合、アース用導体とアース部材との接続は次のようにしてなされる。まず、取付け用開口部がベース部材の片面にのみ開口してアース用導体の片面をアース接続部として露出させている。つまり、アース用導体の他側の面はベース部材の内部において支持されているため、取付け用開口部を通してアース部材をアース接続部に安定的に載置することができる。そして、ベース部材においてアース接続部の内面側で対応する部位に固定された受け具に対し、アース端子とアース用導体とを挟み込んだ状態で締め具を係止させれば、アース端子がアース接続部に固定されて外部機器のアースをとることができる。
【0008】
このように、本発明によれば、アース用導体が可撓性を有するため、立体的に配索することも簡単であり、配索経路の自由度を容易に高めることができる。また、アース用導体におけるアース接続部の内面側はベース部材によって支持されており、また受け具はベース部材に固定された状態で設けられていて、締め具との係止によりアース端子とアース用導体とを挟み込んで固定することができるから、アース端子の接続を安定的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
(1)本発明のアース構造は、前記ベース部材の片面側に、取付け用開口部が凹設されて前記ベース部材の内部に配された前記アース接続部を外部に露出させるようになっており、かつ前記アース部材は前記取付け用開口部内において前記アース部材の長手方向が前記ベース部材の長手方向に沿う向きで取付けがなされる構成とするとよい。
このような構成によれば、アース部材の長手方向をベース部材の長手方向に揃えて取付けるようにしたため、取付け用開口部の短手方向の開口幅を小さくすることができる。したがって、ベース部材の強度確保に有効となる。
【0011】
(2)前記アース部材には、通電に伴って発熱しかつ前記アース端子に電気的に接続されて前記導電体に重畳されたノイズを除去可能なフィルタ素子を備える一方、前記ベース部材は前記アース用導体に比較して熱伝導性の低い樹脂材を主成分として形成されるとともに、前記ベース部材には、前記アース用導体の一部を外部に露出させる放熱用開口部が形成されている構成としてもよい。
上記の構成においては、ベース部材に放熱用開口部を開口させてアース用導体の一部が露出するようになっているため、アース部材に設けられたフィルタ素子が通電により発熱しても、アース接続部から伝わった熱を放熱用開口部から外部に放熱させることができる。したがって、フィルタ素子が熱によってフィルタ機能に支障を来すような事態を有効に回避することができる。
【0012】
(3)前記アース用導体は前記ベース部材の長手方向に沿って配される一方、前記取付け用開口部には前記放熱用開口部が連通して形成されるとともに、前記放熱用開口部は前記取付け用開口部における短手方向の最大幅範囲内に配されている構成としてもよい。
このような構成によれば、放熱用開口部が取付け用開口部と連通するため、アース用導体の放熱領域を連続させて放熱効果を高めることができる。また、ベース部材にとっては開口面積の拡張により強度低下が懸念されるが、放熱用開口部は取付け用開口部の短手方向に関する最大幅範囲内に留められるため、ベース部材にとっての必要な強度は確保される。
【0013】
(4)前記放熱用開口部は前記ベース部材の長手方向に沿う側が長くなるように形成されるとよい。
このような構成によれば、放熱用開口部はベース部材の長手方向に長く短手方向に細い開口形状に形成されているため、ベース部材の短手方向の肉の幅を確保し易い。したがって、放熱用開口部によって必要な放熱面積を確保しつつベース部材の強度低下も有効に回避することができる。
【0014】
次に、本発明のアース構造を具体化した実施例1乃至実施例4について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
図1乃至
図3は本発明の実施例1を示すものである。
図1は自動車の車両フレームとしてのベース部材1に対して適用されたアース構造の周辺部分を示している。
図1においては、ベース部材1の一部が示されており、図示左右方向を長手方向とする長尺の部材となっている。ベース部材1は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)を主材料としており、例えばエポキシ樹脂等を母材に、炭素繊維を強化材として用いて成形されたものである。
【0016】
図1に示すように、ベース部材1には長手方向に沿ってアース用導体2が内蔵されている。本実施例におけるアース用導体2は導電性繊維にて布状に編成されたものであり、導電性を有しそれ自体は良好な可撓性を有している。アース用導体2はほぼ均一幅を有した長尺の帯状に形成されており、またベース部材1に比較して熱伝導性に優れている。本実施例のベース部材1はこのアース用導体2を内部に埋設した状態で成形されている。具体的には、アース用導体2はベース部材1の厚み方向及び幅方向(
図1では上下方向)に関してそれぞれ中央部に位置するようにしてある。
【0017】
図1に示すように、ベース部材1の片面側(表面側:
図1では上面側)には後述するノイズフィルタ3(アース部材)を取り付けるための取付け用開口部4が開口して形成されている。取付け用開口部4は平面視で略楕円形状に形成され、アース用導体2の表面側を外部に露出させる深さをもって形成されている。アース用導体2において取付け用開口部4によって露出された領域はアース接続部5となっている。
【0018】
図1に示すように、取付け用開口部4における短手方向の最大幅はH1であり、この最大幅となる位置におけるベース部材1の短手方向に関する合算寸法2H2(ベース部材1のうち取付け用開口部の最大幅となる部位を短手方向に挟む両領域の寸法の合算値)と略等しいか、それより小さくなるように設定されている。
【0019】
図2に示すように、アース接続部5にはノイズフィルタ3が取付けられている。本実施例におけるノイズフィルタ3はコネクタとして構成されており、合成樹脂製のハウジング6を有している。ハウジング6の内部はコンデンサ7を収容するコンデンサ収容室8と雄端子金具9の先端部が内部に突出する端子収容室10とから構成されている。雄端子金具9は、端子収容室10内に差し込まれる雌端子金具11と接続可能であり、雌端子金具11は外部機器に対し電線14を介して接続されている。
【0020】
コンデンサ収容室8内に収容されたコンデンサ7からは一対のリード12A,12Bが導出されている。このうち、一方のリード12Aはアース端子13に接続され、他方のリード12Bは雄端子金具9に接続されている。コンデンサ7は通電によって発熱し、本願発明のフィルタ素子に相当する。一方、端子収容室10内にはランス15が形成され、雌端子金具11に弾性的に係止して雌端子金具11を抜け止めすることができる。
【0021】
アース端子13はハウジング6から外方へ、具体的には
図2等に示すように、コンデンサ7が収容されている側と反対側へ突出している。
図3に示すように、アース端子13がハウジング6から突出する部分はハウジング6の底面とほぼ面一をなし、かつここには円形のボルト孔16が貫通して形成されている。ノイズフィルタ3はアース端子13の突出方向が長手方向となるように形成され、スタッドボルト18とナット19によって構成される固定部材20によってアース接続部5に取付けられる。
図1に示すように、ノイズフィルタ3がアース接続部5に対して取付けられる向きは、ノイズフィルタ3の長手方向が取付け用開口部4の長手方向に沿う向きとなっている。
【0022】
図3に示すように、アース接続部5において長手方向の一端部(
図1では左側の端部)寄りの位置には、アース端子13のボルト孔16に整合可能な貫通孔17が貫通して形成されている。また、ベース部材1にはこの貫通孔17の直下においてスタッドボルト18(受け具)が埋め込み固定されている。スタッドボルト18は、アース用導体2と共にベース部材1の成形時にベース部材1内に埋め込まれる。図示のスタッドボルト18は頭部18Aが軸方向に隙間を置いて2分割され、この間の隙間にベース部材1の成形肉が入り込むことでスタッドボルト18の抜け止め機能が高められている。また、スタッドボルト18の頭部18Aの外周面にはローレット溝が刻み込まれており、スタッドボルト18に対する回り止め機能が高められている。スタッドボルト18の軸部18Bは貫通孔17およびアース端子13のボルト孔16を貫通可能であり、軸部18Bの先端からナット19(締め具)を締め込むことにより、ボルト頭部18Aとの間でアース端子13とアース用導体2とを挟み込んで保持される。このことにより、ノイズフィルタ3がアース接続部5に固定される。
図3に示すように、取付け用開口部4内にノイズフィルタ3が取付けられた状態では、ノイズフィルタ3はベース部材1の上面から突出しないよう、取付け用開口部4の深さが設定されている。
【0023】
ベース部材1において、取付け用開口部4が形成されている側の面には、取付け用開口部4を長手方向に挟んで一対の放熱用開口部21が形成されている。両放熱用開口部21は取付け用開口部4の長手方向の両端部に連通して形成されている。両放熱用開口部21は取付け用開口部4と同様、アース用導体2の表面を露出させる深さをもって形成されている。アース用導体2のうち両放熱用開口部21によって露出された領域は放熱領域を構成する。両放熱用開口部21は取付け用開口部4の短手方向の最大幅より幅狭でかつ長手方向に沿ってほぼ均一幅をもって延出形成されており、それぞれの先端部は半円形状に形成されている。両放熱用開口部21は、ベース部材1の長手方向に沿う側の寸法が短手方向に沿う側の寸法より長くなるように形成されている。また、取付け用開口部4から両放熱用開口部21に至る全開口領域は、ベース部材1の長手方向及び短手方向のそれぞれの中心軸線に対して対称形状に形成されている。
【0024】
次に、上記のように構成された実施例1の作用効果を説明する。ノイズフィルタ3の取付け作業にあたり、まず、ノイズフィルタ3を取付け用開口部4に対しその長手方向が取付け用開口部4の長手方向に向くようにして収める。そして、ノイズフィルタ3におけるアース端子13のボルト孔16をスタッドボルト18の軸部18Bに通す。その後に、軸部18Bに対してナットを締め込めば、スタッドボルト18の頭部18Aとの間でアース端子13とアース用導体2とが挟み付けられて保持される。このことにより、アース端子13がアース用導体2に対して電気的に接続されてアースがとられるため、電気機器において発生して電線14に重畳されたノイズは、コンデンサ7、アースを介して除去される。
【0025】
一方、コンデンサ7は通電に伴って発熱する。ベース部材1を構成するCFRPは金属材であるアース用導体2に比較して熱伝導性が低いため、コンデンサ7で生じた熱はベース部材1に伝熱するよりも、ハウジング6の底面を介して専らアース接続部5に伝わる。本実施例の場合、アース用導体2はアース接続部5に連続して一対の放熱領域(放熱用開口部21によってアース用導体2が露出された領域)が設けられて共に外部に露出されているため、アース接続部5に伝わった熱はこれら両放熱領域から外部に放熱される。したがって、コンデンサ7の異常な高熱になることがなく、ノイズフィルタ3としての機能に支障を来すような事態を未然に回避することができる。
【0026】
また、本実施例の場合、ベース部材1には取付け用開口部4とその両側に放熱用開口部21が連続して開口する構成であるため、かかる開口によりベース部材1の強度低下が生じることは避け難い。とりわけ、本実施例のように、ベース部材1における短手方向の寸法が小さい場合には懸念される。
【0027】
しかし、本実施例の場合、取付け用開口部4をベース部材1の長手方向に沿った楕円形状にし、ノイズフィルタ3をその長手方向が楕円の長辺に沿う方向で取り付けるようにしている。したがって、取付け用開口部4における短手方向の最大幅を極力小さく抑えることができる。このことは、最大幅部分では開口部の幅寸法(H1)より肉のある部分の幅寸法(合算値2H2)と略等しいかあるいはやや大きくすることにも寄与し、ベース部材1の強度確保が図られている。
【0028】
また、両放熱用開口部21は長手方向に細長い開口形状にして放熱面積を確保するようにしたため、ベース部材1のうち両放熱用開口部21の形成範囲と対応する領域での短手方向の幅を広くとることができる。このこともベース部材1の強度確保に有効である。
【0029】
<実施例2>
図4は本発明の実施例2を示している。実施例1では本発明の受け具がスタッドボルト18であり、締め具がナット19であった。実施例2では、実施例1とは逆に、受け具をナット30にし、締め具をボルト31としたものである。実施例2におけるナット30(例えば六角ナット)はベース部材1に回り止めされた状態で埋め込み固定されている。また、ナット30の外周面には全周に沿って凹溝32が形成され、CFRPの成形肉を凹溝32内に食い込ませるようにすることで、ナット30の抜け防止が図られている。
他の構成は実施例1と同様であり、もって同様の作用効果を発揮することができる。
【0030】
<実施例3>
図5は本発明の実施例3を示している。実施例3における受け具は円筒形状のスリーブ40であり、下縁に抜け止め縁41が張出し形成されている。受け具としてのスリーブ40はベース部材1内に埋め込み固定され、抜け止め縁41がベース部材1に対する引っ掛かりとなって抜けが防止されている。一方、締め具はフランジ43付きの圧入ピン42であり、この圧入ピン42はフランジ43によりアース端子13を押さえ、軸部がスリーブ40内に圧入されることによって、スリーブ40の端面との間でアース端子13及びアース用導体2を挟み込んで保持する。
他の構成は他の実施例と同様であり、もって同様の作用効果を発揮することができる。
【0031】
<実施例4>
図6は本発明の実施例4を示している。本実施例4では、アース用導体2の一部長さ領域はベース部材1の内部から表面側へと屈曲して設けられてベース部材1の表面に露出しアース接続部50を構成するようになっている。したがって、実施例4においては、実施例1のような取付け用開口部4および放熱用開口部21は形成されない。他の構成は、実施例1と同様である。
【0032】
上記の構成に係る本実施例4はアース用導体2の可撓性を利用してアース用導体2を、ベース部材1の表面に直接露出させるよう、立体的な配索を容易に行うことができる。したがって、取付け用開口部4及び放熱用開口部21といったベース部材1の強度を低下させるような開口部を設けずに済むから、ベース部材1の強度確保とベース部材1の構造の簡素化を図ることができる。
【0033】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、フィルタ素子であるコンデンサ7をコネクタ内に組込んだ形式のノイズフィルタ3を例示した。しかし、ノイズフィルタ3自体は必ずしもコネクタ機能を必要とするものではない。ノイズフィルタ3及びアース端子13を単なるケース内に組込むようにしたものであってもよい。
(2)上記実施例1乃至3では、取付け用開口部4が放熱用開口部21を挟んで一対設けられる形態を示したが、片側のみに設けられるようにしてもよい。
(3)上記実施例ではフィルタ素子としてコンデンサ7を例示したが、フィルタ素子はコイルであってもよい。
(4)上記実施例では、ベース部材としてCFRPを主材料として形成された場合を説明したが、他の材料で形成されるようにしてもよい。要は、ベース部材がアース用導体に比較して熱伝導性の低い樹脂材で形成されればよい。