(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-122245(P2015-122245A)
(43)【公開日】2015年7月2日
(54)【発明の名称】端子付電線製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 43/048 20060101AFI20150605BHJP
H01R 4/62 20060101ALI20150605BHJP
H01R 43/28 20060101ALI20150605BHJP
【FI】
H01R43/048 Z
H01R4/62 A
H01R43/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-266385(P2013-266385)
(22)【出願日】2013年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 直也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴章
(72)【発明者】
【氏名】芦田 大地
【テーマコード(参考)】
5E063
【Fターム(参考)】
5E063CC05
5E063XA01
(57)【要約】
【課題】アルミニウム芯線のように酸化皮膜が形成されやすい芯線を有する電線に圧着端子が圧着される場合に、酸化皮膜に起因する芯線と圧着端子との間の接触抵抗の悪化を防止できること。
【解決手段】端子付電線製造方法は、曝露工程と圧着工程とを含む。曝露工程は、電線1における複数の導電性の素線の束である芯線11の端部をアルカリ性の液3に晒す工程である。圧着工程は、曝露工程を経た電線1における芯線11の端部に圧着端子を圧着する工程である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線における複数の導電性の素線の束である芯線の端部をアルカリ性の液に晒す曝露工程と、
前記曝露工程を経た前記電線における前記芯線の端部に圧着端子を圧着する圧着工程と、を含む端子付電線製造方法。
【請求項2】
前記曝露工程は、前記電線における前記芯線の端部を前記アルカリ性の液に浸漬する工程である、請求項1に記載の端子付電線製造方法。
【請求項3】
前記圧着工程の前に、前記曝露工程を経た前記電線における前記芯線の端部を乾燥させる乾燥工程をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の端子付電線製造方法。
【請求項4】
前記電線の前記芯線における前記素線各々はアルミニウムを主成分とする金属の線材である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の端子付電線製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線と圧着端子とを有する端子付電線を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両に搭載されるワイヤハーネスは、電線とその電線の端部に取り付けられた金属製の圧着端子とを有している。以下、端部に圧着端子が取り付けられた電線のことを端子付電線と称する。
【0003】
端子付電線において、電線の芯線がアルミニウム素線の束である場合、芯線が空気に晒されると、アルミニウム素線各々の表面に酸化被膜が形成されやすい。
【0004】
酸化被膜が芯線の素線各々の表面に形成された状態で圧着端子が芯線の端部に圧着されると、素線間及び芯線と圧着端子との間に酸化被膜が介在した状態となる。その結果、芯線と圧着端子との間の電気抵抗(接触抵抗)が著しく大きくなる。
【0005】
一方、特許文献1には、アルミニウム芯線の酸化皮膜の問題を解消するためのアルミニウム電線用圧着端子が示されている。このアルミニウム電線用圧着端子は、電線の芯線に圧着される圧着部の内側面にセレーションが形成された圧着端子である。
【0006】
上記のアルミニウム電線用圧着端子の圧着部がアルミニウム芯線に圧着されると、凹凸形状を成すセレーションが芯線の表面の酸化皮膜を破壊する。これにより、酸化皮膜に起因する接触抵抗悪化の問題が解消する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−249284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、電線の芯線が太くなるほど、各素線に形成された酸化皮膜全体に占める芯線(素線の束)の外周面付近よりも内側の酸化皮膜の割合が大きくなる。そのため、芯線が太い場合、圧着端子のセレーションが芯線の外周面付近の酸化皮膜を破壊しても、酸化皮膜に起因する接触抵抗悪化の問題が十分に解消されない事態も生じ得る。
【0009】
一方、電線の芯線が太い場合でも、芯線が超音波溶接によって端子に溶接されれば、超音波によって酸化皮膜が破壊されるため、接触抵抗悪化の問題は解消される。しかしながら、コストの抑制などの観点から、電線への取り付けが容易な圧着端子を用いて酸化皮膜の問題を解消できることが望ましい。
【0010】
本発明は、アルミニウム芯線のように酸化皮膜が形成されやすい芯線を有する電線に圧着端子が圧着される場合に、酸化皮膜に起因する芯線と圧着端子との間の接触抵抗(電気的抵抗)の悪化を防止できること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1態様に係る端子付電線製造方法は、電線とその端部に取り付けられた圧着端子とを有する端子付電線を製造する方法であり、曝露工程と圧着工程とを含む。上記曝露工程は、上記電線における複数の導電性の素線の束である芯線の端部をアルカリ性の液に晒す工程である。上記圧着工程は、上記曝露工程を経た上記電線における上記芯線の端部に圧着端子を圧着する工程である。
【0012】
第2態様に係る端子付電線製造方法は、第1態様に係る端子付電線製造方法の一態様である。第2態様に係る端子付電線製造方法において、上記曝露工程は、上記電線における上記芯線の端部を上記アルカリ性の液に浸漬する工程である。
【0013】
第3態様に係る端子付電線製造方法は、第1態様又は第2態様に係る端子付電線製造方法の一態様である。第3態様に係る端子付電線製造方法は、上記圧着工程の前に、上記曝露工程を経た上記電線における上記芯線の端部を乾燥させる乾燥工程をさらに含む。
【0014】
第4態様に係る端子付電線製造方法は、第1態様から第3態様のいずれか1つに係る端子付電線製造方法の一態様である。第4態様に係る端子付電線製造方法において、上記電線の上記芯線における上記素線各々はアルミニウムを主成分とする金属の線材である。
【発明の効果】
【0015】
上記の各態様において、電線における芯線の端部がアルカリ性の液に晒されることにより、アルカリ性の液が、芯線の外周面に接触するとともに、芯線における素線各々の間へ浸透する。これにより、芯線の素線各々に形成された酸化皮膜は、アルカリ性の液に溶けて芯線の端部から除去される。そして、酸化皮膜が曝露工程によって除去された後に電線に対する圧着端子の圧着が行われる。
【0016】
従って、上記の各態様によれば、アルミニウム芯線のように酸化皮膜が形成されやすい芯線を有する電線に圧着端子が圧着される場合に、酸化皮膜に起因する芯線と圧着端子との間の接触抵抗(電気抵抗)の悪化を防止できる。
【0017】
また、第2態様によれば、電線における芯線の端部がアルカリ性の液に浸漬されるため、アルカリ性の液が芯線における素線間により確実に浸透しやすい。その結果、芯線の素線各々に形成された酸化皮膜をより確実に除去することができる。
【0018】
また、第3態様によれば、電線の芯線に付着したアルカリ性の液が乾燥工程によって除去される。そのため、芯線に付着した液が圧着端子及び圧着装置などに悪影響を及ぼすことがない。
【0019】
また、第4態様において、電線の芯線における素線各々は、アルミニウムを主成分とする金属の線材である。この場合、酸化皮膜が素線各々に特に形成されやすいため、曝露工程によって確実に酸化皮膜を除去できるという効果がより顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態に係る端子付電線製造方法における曝露工程を表す図である。
【
図2】実施形態に係る端子付電線製造方法における乾燥工程を表す図である。
【
図3】実施形態に係る端子付電線製造方法における圧着工程を表す図である。
【
図5】曝露工程を経る前の電線における芯線の端部の断面図である。
【
図6】曝露工程を経た後の電線における芯線の端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照しながら、実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。
【0022】
<端子付電線>
まず、
図4,5を参照しつつ、実施形態に係る端子付電線製造方法による製造の対象である端子付電線10について説明する。実施形態に係る端子付電線製造方法は、例えば
図4が示すような端子付電線10を製造する方法である。端子付電線10は、電線1とその電線1の端部に圧着された圧着端子2とを備える。
【0023】
図4,5が示すように、電線1は、複数の導電性の素線110の束である芯線11と、芯線11の周囲を覆う絶縁被覆12とを有する絶縁電線である。例えば、芯線11は、撚り合わされた複数の素線110の束を成す撚り線である。芯線11における素線110各々の典型例は、アルミニウム又はアルミニウム合金などのアルミニウムを主成分とする金属の線材である。
【0024】
電線1の端部は、予め絶縁被覆12が剥ぎ取られて芯線11が露出した状態となっている。即ち、電線1は、予めその端部において芯線11の端部が絶縁被覆12から延び出た状態に加工されている。
【0025】
図5は、後述する曝露工程を経る前の電線1の芯線11における絶縁被覆12から延び出た端部の断面図である。
図5は、素線110各々の外周面に酸化皮膜111が形成された状態を示している。
【0026】
電線1における芯線11の素線110が、アルミニウムのように酸化しやすい金属の線材である場合、少なくとも芯線11における絶縁被覆12から延び出た端部は、
図5が示す状態になっている場合が多い。
【0027】
酸化皮膜111は、例えば素線110各々が製造されてから電線1が製造されるまでの期間、或いは電線1の端部の絶縁被覆12が剥ぎ取られた後に意図せず生成される。酸化皮膜111は、素線110間及び芯線11と圧着端子2との間の電気抵抗(接触抵抗)を高めてしまう。
【0028】
図4が示すように、圧着端子2は、電線1における芯線11の端部に圧着される芯線圧着部21と、他の部材に接続可能な接点部22とを有している。
図4が示す例では、接点部22は、接続先に締め込まれるネジが通される貫通孔が形成された平板状の部分である。なお、圧着端子2が、電線1における絶縁被覆12の端部に圧着される被覆圧着部をさらに有している場合もある。
【0029】
圧着端子2は、例えば銅もしくは黄銅などの銅合金の部材又はそれらの部材に錫(Sn)メッキもしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金のメッキが施された導電性の部材である。
【0030】
<端子付電線製造方法>
続いて、
図1〜6を参照しつつ、実施形態に係る端子付電線製造方法の手順について説明する。実施形態に係る端子付電線製造方法は、曝露工程、乾燥工程及び圧着工程を含む。
【0031】
<曝露工程>
図1は、曝露工程の一例を示す。曝露工程は、電線1における芯線11の端部をアルカリ性の液3に晒す工程である。典型的な曝露工程は、
図1が示すように、電線1における芯線11の端部を容器4内のアルカリ性の液3に浸漬する工程である。アルカリ性の溶液は、例えば水酸化ナトリウム溶液などである。
【0032】
曝露工程において、アルカリ性の液3は、芯線11の端部の外周面に接触するとともに、芯線11の端部における素線110間に浸透する。その際、アルカリ性の液3は、毛細管現象によって比較的速やかに素線110に浸透する。
【0033】
図5は曝露工程を経る前の芯線11の端部の断面を示し、
図6は曝露工程を経た後の芯線11の端部の断面を示す。素線110各々の表面に意図せず形成された酸化皮膜111は、アルカリ性の液3と接触すると、中和されてアルカリ性の液3中に溶け出す。
【0034】
従って、
図6が示すように、曝露工程を経た芯線11の端部において、素線110各々の表面の酸化皮膜111は除去されている。これにより、芯線11の端部における素線110間及び芯線11とその表面に接触する導体との間の電気抵抗(接触抵抗)が小さな状態となる。
【0035】
また、曝露工程において、芯線11の端部がアルカリ性の液3に浸った状態のまま電線1を振ることが考えられる。或いは、曝露工程において、攪拌機などによって流動しているアルカリ性の液に芯線11の端部を浸漬することも考えられる。これらにより、酸化皮膜111の溶出によって中和された液が素線110の周囲に滞留せず、より速やかに、かつ、より確実に酸化皮膜111を除去することができる。
【0036】
<乾燥工程>
図2は、乾燥工程の一例を示す。乾燥工程は、後述する圧着工程の前に、前述の曝露工程を経た電線1における芯線11の端部を乾燥させる工程である。
図2が示す例では、乾燥工程は、送風機5が吹き出す熱風に芯線11の端部を晒す工程である。
【0037】
一方、乾燥工程として、送風機が吹き出す常温の空気に芯線11の端部を晒す工程、或いは芯線11の端部を単に加熱する工程などが採用されることも考えられる。
【0038】
<圧着工程>
図3は圧着工程の一例を示す。圧着工程は、曝露工程を経た電線1における芯線11の端部に圧着端子2を圧着する工程である。本実施形態では、圧着工程は、乾燥工程の後に実行される。
【0039】
圧着工程は、圧着装置6におけるアンビル61とクリンパ62との間に、電線1における芯線11の端部が載置された圧着端子2の芯線圧着部21を挟み込む工程である。この圧着工程が行われることにより、
図4が示す端子付電線10の製造が完了する。
【0040】
<効果>
上記の実施形態において、電線1における芯線11の端部がアルカリ性の液3に晒されることにより、アルカリ性の液3が、芯線11の外周面に接触するとともに、芯線11における素線110各々の間へ浸透する。これにより、芯線11の素線110各々に形成された酸化皮膜111は、アルカリ性の液3に溶けて芯線11の端部から除去される。そして、酸化皮膜111が曝露工程によって除去された後に電線1に対して圧着端子2が圧着される。
【0041】
従って、上記の実施形態によれば、アルミニウム芯線のように酸化皮膜111が形成されやすい芯線11を有する電線1に圧着端子2が圧着される場合に、酸化皮膜111に起因する芯線11と圧着端子2との間の接触抵抗(電気抵抗)の悪化を防止できる。
【0042】
なお、圧着工程が、曝露工程の終了後に長い期間を空けずに実行されれば、酸化皮膜111の再生成による接触抵抗の悪化の問題は生じない。
【0043】
また、電線1における芯線11の端部がアルカリ性の液3に浸漬される場合、アルカリ性の液3が芯線11における素線110間により確実に浸透しやすい。その結果、芯線11の素線110各々に形成された酸化皮膜111をより確実に除去することができる。
【0044】
また、電線1の芯線11に付着したアルカリ性の液3が乾燥工程によって除去されれば、芯線11に付着した液が圧着端子2及び圧着装置6などに悪影響を及ぼすことがない。
【0045】
また、電線1の芯線11における素線110各々が、アルミニウムを主成分とする金属の線材である場合、酸化皮膜111が素線110各々に特に形成されやすい。この場合、曝露工程によって確実に酸化皮膜111を除去できるという効果がより顕著となる。
【0046】
<応用例>
曝露工程が、アルカリ性の液3を電線1における芯線11の端部に滴下又は吹き付ける工程であることも考えられる。また、乾燥工程が省略されることも考えられる。
【0047】
また、乾燥工程の前に、或いは乾燥工程の代わりに、アルカリ性の液3を芯線11の端部から吸水材に吸い取らせる工程が行われることも考えられる。本工程は、芯線11の端部をスポンジ又は布などの吸水材に接触させる工程である。
【0048】
なお、本発明に係る端子付電線製造方法は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された実施形態及び応用例を自由に組み合わせること、或いは実施形態及び応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 電線
10 端子付電線
11 芯線
110 素線
111 酸化皮膜
12 絶縁被覆
2 圧着端子
21 芯線圧着部
22 接点部
3 アルカリ性の液
4 容器
5 送風機
6 圧着装置
61 アンビル
62 クリンパ