特開2015-122364(P2015-122364A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-122364半導体層の表面処理方法および半導体基板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-122364(P2015-122364A)
(43)【公開日】2015年7月2日
(54)【発明の名称】半導体層の表面処理方法および半導体基板
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20150605BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20150605BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20150605BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20150605BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20150605BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20150605BHJP
【FI】
   H01L21/205
   H01L21/306 B
   C23C16/34
   H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-264346(P2013-264346)
(22)【出願日】2013年12月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 整
【テーマコード(参考)】
4K030
5F043
5F045
5F102
【Fターム(参考)】
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA17
4K030BA08
4K030BA38
4K030BB13
4K030CA04
4K030FA10
4K030JA01
4K030JA06
4K030JA10
4K030LA14
5F043AA16
5F043BB10
5F043GG10
5F045AA04
5F045AB14
5F045AB17
5F045AC08
5F045AC12
5F045AD14
5F045AF02
5F045AF03
5F045AF09
5F045BB15
5F045CA07
5F045DA52
5F045DP03
5F045EF05
5F045HA14
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GL04
5F102GM04
5F102GM08
5F102GQ01
5F102GS01
5F102GT01
5F102HC01
(57)【要約】
【課題】半導体層上に付着する降着物またはガリウムを含有する粒子を低減すること。
【解決手段】成長装置内において、基板10上に窒化ガリウムからなる第1GaN層20を形成する工程と、前記第1GaN層の表面上に、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層22を形成する工程と、前記第2GaN層を形成した後、前記成長装置から前記基板を取り出す工程と、前記基板を取り出す工程の後、前記第2GaN層を除去する工程と、を含む半導体層の表面処理方法。
【選択図】図11A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長装置内において、基板上に窒化ガリウムからなる第1GaN層を形成する工程と、
前記第1GaN層の表面上に、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層を形成する工程と、
前記第2GaN層を形成した後、前記成長装置から前記基板を取り出す工程と、
前記基板を取り出す工程の後、前記第2GaN層を除去する工程と、
を含む半導体層の表面処理方法。
【請求項2】
前記第2GaN層を形成する工程は、前記第1GaN層上に、MOCVD装置を用い基板温度が800℃以下で前記第2GaN層を形成する請求項1記載の半導体層の表面処理方法。
【請求項3】
前記第2GaN層を除去する工程は、硫酸と過酸化水素とを含む混合液を用いる請求項1または2記載の半導体層の表面処理方法。
【請求項4】
前記成長装置は、前記基板上方にガスを導入する導入口を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の半導体層の表面処理方法。
【請求項5】
前記第2GaN層を形成する工程の後、前記第2GaN層上に降着物が形成され、
前記第2GaN層を除去する工程において、前記降着物が除去される請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体層の表面処理方法。
【請求項6】
前記成長装置内において、前記第1GaN層および前記第2GaN層は、連続して形成される請求項1記載の半導体層の表面処理方法。
【請求項7】
窒化ガリウムからなる第1GaN層と、
前記第1GaN層上に形成され、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層と、
を備える半導体基板
【請求項8】
前記第2GaN層上に形成されたガリウムを含有する粒子を備える請求項7に記載の半導体基板。
【請求項9】
前記第2GaN層の膜厚は100nm以上である請求項7または8記載の半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体層の表面処理方法および半導体基板に関し、例えば窒化物半導体層を有する半導体層の表面処理方法および半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置は、高周波かつ高出力で動作するパワー素子などに用いられている。窒化物半導体を用いた半導体装置として、電子走行層と電子供給層とを有するHEMT(High Electron Mobility Transistor)が知られている。
【0003】
特許文献1には、エピタキシャルウエハ上に異物パーティクルが付着することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−3677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Ga(ガリウム)を含む窒化物半導体層を形成するときに、窒化物半導体層上にGaを含有する粒子であるドロップレット等の降着物が付着する場合がある。窒化物半導体層を用いて半導体装置を製造した場合、ドロップレットにより、半導体装置内のショートが発生する。または、半導体装置内の配線が断線する。あるいは、半導体装置の製造工程において、レジストの塗布むらが生じる。これらにより、半導体装置の良品率が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、半導体層上に付着する降着物またはガリウムを含有する粒子を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、成長装置内において、基板上に窒化ガリウムからなる第1GaN層を形成する工程と、前記第1GaN層の表面上に、層上に第1GaN層を形成する工程と、前記第1GaN層上に、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層を形成する工程と、前記第2GaN層を形成した後、前記成長装置から前記基板を取り出す工程と、前記基板を取り出す工程の後、前記第2GaN層を除去する工程と、を含む半導体層の表面処理方法である。
【0008】
本願発明は、窒化ガリウムからなる第1GaN層と、前記第1GaN層上に形成され、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層と、を備える半導体基板である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体層上に付着する降着物またはガリウムを含有する粒子を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、基板上に半導体層を形成する方法を示す図(その1)である。
図2図2は、基板上に半導体層を形成する方法を示す図(その2)である。
図3図3は、基板上に半導体層を形成する方法を示す図(その3)である。
図4図4は、ドロップレットが付着した半導体基板の断面図である。
図5図5は、ドロップレットの光学顕微鏡画像の模式図である。
図6図6は、ドロップレットのEDX分析結果を示す図である。
図7図7は、処理時間に対するドロップレットのサイズを示す図である。
図8図8は、処理時間に対するGaN層の膜厚を示す図である。
図9図9は、ドロップレットの痕を示す光学顕微鏡画像の模式図である
図10A図10Aは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その1)である。
図10B図10Bは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その2)である。
図10C図10Cは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その3)である。
図10D図10Dは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その4)である。
図11A図11Aは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その5)である。
図11B図11Bは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その6)である。
図11C図11Cは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図(その7)である。
図12図12は、図11Aの後の光学顕微鏡画像の模式図である。
図13図13は、図11Bの後の光学顕微鏡画像の模式図である。
図14図14は、硫黄が残存したGaN層表面のXPS観察結果を示す例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本願発明は、成長装置内において、基板上に窒化ガリウムからなる第1GaN層を形成する工程と、前記第1GaN層の表面上に、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層を形成する工程と、前記第2GaN層を形成した後、前記成長装置から前記基板を取り出す工程と、前記基板を取り出す工程の後、前記第2GaN層を除去する工程と、を含む半導体層の表面処理方法である。第1GaN層上に窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層を形成した後、成長装置から基板を取り出し、第2GaN層を除去することで、降着物またはガリウムを含有する粒子を除去することができる。
【0012】
前記第2GaN層を形成する工程は、前記第1GaN層上に、MOCVD装置を用い基板温度が800℃以下で前記第2GaN層を形成することが好ましい。これにより、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層を形成することができる。
【0013】
前記第2GaN層を除去する工程は、硫酸と過酸化水素とを含む混合液を用いることが好ましい。これにより、第2GaN層および降着物またはガリウムを含有する粒子を除去することができる。
【0014】
前記成長装置は、前記基板上方にガスを導入する導入口を有することが好ましい。これにより、降着物が発生しやすい成長装置を用いた場合であっても降着物を低減できる。
【0015】
前記第2GaN層を形成する工程の後、前記第2GaN層上に降着物が形成され、前記第2GaN層を除去する工程において、前記降着物が除去されることが好ましい。これにより、降着物を低減することができる。
【0016】
前記成長装置内において、前記第1GaN層および前記第2GaN層は、連続して形成されることが好ましい。
【0017】
本願発明は、窒化ガリウムからなる第1GaN層と、前記第1GaN層上に形成され、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層と、を備える半導体基板である。本願発明によれば、第2GaN層を除去することで、ガリウムを含有する粒子を除去することができる。
【0018】
前記第2GaN層上に形成されたガリウムを含有する粒子を備えることがこのましい。
【0019】
前記第2GaN層の膜厚は100nm以上であることが好ましい。
【0020】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる半導体装置およびその製造方法並びに半導体基板の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
まず、ドロップレット(降着物: ガス導入部(例えばシャワーヘッド)あるいは成長装置側壁(例えばサセプタ側壁)から剥離し基板表面に付着した金属)について説明する。図1から図3は、基板上に半導体層を形成する方法を示す図である。図1に示すように、成長装置100は、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置であり、リアクタ50、導入部52、サセプタ54、ヒータ56および排気部58を備えている。リアクタ50は、ウエハ60を原料ガス62中に保持する。導入部52は、例えばシャワーヘッドであり、リアクタ50内に原料ガス62を導入する。導入部52がウエハ60上に設けられ、原料ガス62がウエハ60表面に均一に供給されることにより、形成する半導体層のウエハ60面内での分布が良好となる。サセプタ54は、1または複数のウエハ60を保持する。ヒータ56は、サセプタ54を介しウエハ60を加熱する。排気部58は、リアクタ50内の原料ガス62を排気することにより、リアクタ50内の圧力を一定に保持する。
【0022】
成長装置100は、例えばフェースアップ炉であり、ウエハ60の上方から下方に原料ガス62が流れる。ウエハ近傍に到達した原料ガス62は、ヒータ56による熱エネルギーにより分解される。分解した原料はウエハ60上に堆積し、ウエハ60上に半導体層が形成される。
【0023】
図2に示すように、ウエハ60上に形成された半導体層64は、単結晶であり、窒化物半導体層である。サセプタ54はヒータ56により加熱されているため、サセプタ54近傍において原料ガス62が分解し、サセプタ54上に、非晶質または多結晶の半導体層66が付着する。さらに、導入部52はサセプタ54からの熱放射のため加熱されている。このため、導入部52付近においても原料ガス62が分解する。これにより、導入部52の下面にも非晶質または多結晶な半導体層66が堆積する。半導体層64がGaNを含む半導体層の場合、半導体層66は、Gaの組成比が半導体層64より高くなる。
【0024】
図3に示すように、リアクタ50内の気体の流れが変化すると、導入部52の下面に付着した半導体層66の一部が脱離し半導体層64上に落ちる。これにより、半導体層64上にドロップレット68が形成される。リアクタ50内の気体の流れが変化する原因としては、原料ガス62の切り替え、停止、または導入等がある。
【0025】
図1から図3のように、フェースアップ炉において、ウエハ60の上方に導入部52が位置すると、導入部52に付着した半導体層66が重力により半導体層64上に降下しやすい。導入部52がウエハ60の上方にない場合であっても、ウエハ60の上方のリアクタ50の天井に半導体層66が付着する。よって、この場合も半導体層64上にドロップレット68が形成される。さらに、フェースアップ炉以外の成長装置においても、半導体層66上に半導体層64に起因したドロップレット68が付着することがある。
【0026】
図4は、ドロップレットが付着した半導体基板の断面図である。図4に示すように、ウエハ60上に半導体層64が形成されている。半導体層64上にドロップレット68が付着している。ドロップレット68の高さHは例えば100μm以上の場合もある。このため、半導体装置の導電層間にドロップレットが位置すると、半導体装置がショート不良となる可能性がある。また、半導体装置内の配線がドロップレットにより断線する可能性がなる。さらに、半導体装置の製造工程において、ウエハ60にフォトレジストを塗布する際に塗布むらが生じる。このように、ドロップレットにより半導体装置の良品率が低下する。
【0027】
図5は、ドロップレットの光学顕微鏡画像の模式図である。半導体層64上にドロップレット68は略球形状である。半導体層66から剥離したドロップレット68は球形状でない場合もあるが、半導体層64上に付着した後にヒータ56からの熱により変形し表面張力に従い表面積が最も大きい球形状となる。半導体層64上に付着した後の基板温度によっては、ドロップレット68が球形状とならない場合もある。
【0028】
ドロップレットが生じないようにするため、成長装置内の清掃を頻繁に行なう方法が考えられる。しかし、この方法は、成長装置のスループットを低下させる。半導体層64に付着したドロップレットを気体のブローによって除去することが考えられる。しかし、気体のブルーだけでは、ドロップレットは効率的には除去されない。これは、半導体層64とドロップレットとが熱反応または分子間力により結合しているためである。
【0029】
ドロップレット68をドライエッチングにより除去することも考えられる。この場合、半導体層64に物理的または化学的なダメージが導入される。また、半導体層64の表面がドライエッチングのためのプラズマに曝されることにより、半導体層64に変質層が形成されることがある。
【0030】
ドロップレット68をウエットエッチングにより除去することが考えられる。そこで、ドロップレット68を、ウエットエッチングにより除去することを検討した。
【0031】
単結晶の半導体層64としてGaN電子走行層、AlGaN電子供給層およびGaNキャップ層を成長した。半導体層64上に付着したドロップレットをEDX(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)法を用い分析した。
【0032】
図6は、ドロップレットのEDX分析結果を示す図である。横軸はネネルギーであり、縦軸はカウント数である。実線がドロップレットの分析結果であり、破線が単結晶のGaN層の分析結果である。1.1KeV近傍のGaのピークはドロップレットとGaN層で差がない。一方、0.4keV近傍のNのピークは、GaN層に対しドロップレットで小さい。このように、ドロップレット68内のGaの組成比は単結晶GaN層より高い。ドロップレット68は、例えばGaを含有する粒子である。例えば、ドロップレット68がGaNの場合には、窒素に対するガリウムの組成比が2より大きい。また、窒素に対するガリウムの組成比は3、または4より大きい場合がある。
【0033】
Gaは、硫酸と過酸化水素氏との混合液(硫酸過水)でウエットエッチングできる。そこで、GaN単結晶層上に形成されたドロップレットを硫酸過水を用いてエッチングした。硫酸過水は、硫酸(96体積%):過酸化水素(30体積%)を5:1(体積比)とした。
【0034】
図7は、処理時間に対するドロップレットのサイズを示す図である。図7は、処理時間に対するGaN層の膜厚を示す図である。処理時間は、硫酸過水に浸漬した時間である。ドロップレットサイズは、ドロップレットの大きさを顕微鏡で測定した結果である。GaN層の膜厚は、GaN単結晶層の膜厚をXRD(X−Ray Diffrection)法を用い測定した。
【0035】
図7に示すように、処理時間が長くなるとドロップレットサイズは小さくなる。処理時間が10分において、ドロップレットサイズは0となる。これにより、ドロップレットが除去できる。
【0036】
図8に示すように、GaN層の膜厚は処理時間が20分であってもほとんど変わらない。このように、硫酸過水は、ドロップレットをエッチングするが、GaN単結晶層はエッチングしない。図7および図8のように、硫酸過水によりGaN単結晶層はエッチングされずドロップレットを除去できる。ドロップレットを除去したGaN層の表面を光学顕微鏡を用い観察した。結果は次の通りである。
【0037】
図9は、ドロップレットの痕を示す光学顕微鏡画像の模式図である。図9に示すように、半導体層64の表面に痕70が観察される。痕70は、深さが例えば100nm程度の凹状となっている。痕70により半導体装置が不良となる場合がある。
【0038】
以上のように、ドロップレットを削減することは容易ではない。以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0039】
図10Aから図11Cは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。図10Aに示すように、基板10を準備する。基板10は、SiC(炭化シリコン)基板である。基板10としては、例えばSi(シリコン)基板、サファイア基板、GaN基板またはGa(酸化ガリウム)基板を用いることもできる。
【0040】
図10Bに示すように、基板10上に、図1の成長装置100を用い、窒化物半導体層18として、バッファ層12、電子走行層14および電子供給層16を形成する。バッファ層12は、例えばAlN(窒化アルミニウム)層である。電子走行層14は、例えばGaN層である。電子供給層16は、例えばAlGaN層である。
【0041】
図10Cに示すように、窒化物半導体層18上にGaNキャップ層20を形成する。GaNキャップ層20は、単結晶GaN層である。
GaNキャップ層20の成長条件に例を以下に示す。
基板温度:1060℃
原料ガス:TMG(トリメチルガリウム)、NH(アンモニア)
TMG流量:42sccm(7×10−7m/s)
NH流量:20000sccm(3.3×10−4m/s)
キャリアガス:H(水素)
圧力:100Torr(13.3kPa)
膜厚:1nm〜10nm
GaNキャップ層20は、電子供給層16の酸化を抑制されるために形成される。酸化抑制のため膜厚が1nm以上であることが好ましい。Ga原料としては、TMG以外にTEG(トリエチルガリウム)を用いることもできる。
【0042】
図10Dに示すように、GaNキャップ層20上に結晶性の低い低結晶性GaN層22を形成する。低結晶性GaN層22は、GaNキャップ層20よりGa組成比が高い。単結晶GaNでは、原子組成比Ga/Nは1である。低結晶性GaN層22ではGa/Nが1より大きい。低結晶性GaN層22は、非晶質または多結晶である。
低結晶性GaN層22の成長条件の例を以下に示す。
基板温度:900℃未満
膜厚:100nm以上かつ2μm以下
その他の条件:GaNキャップ層20と同じ
【0043】
NH3の分解温度は約900℃である。よって、GaNキャップ層20を1000℃以上の基板温度で形成する。これにより、GaNキャップ層20は単結晶として形成される。低結晶性GaN層22を900℃未満の基板温度で形成する。具体的には、基板温度は、800℃以下が好ましく、750℃以下がより好ましい。また、基板温度は、600℃以上が好ましい。これにより、Nの供給が低減されず、GaリッチなGaN層が形成できる。
【0044】
図10Bから図10Dまでは、導入部52から導入されるガスを停止せずに成長する。例えば、成長装置内においてGaNキャップ層20および低結晶性GaN層22が連続して成長される。これにより、図2のように、導入部52近傍に半導体層66が形成されていたとしても、図3のように、半導体層66から窒化物半導体層18またはGaNキャップ層20上にはドロップレットが落下することを抑制できる。
【0045】
図11Aに示すように、基板10を成長装置100から取り出す。このとき、導入部52から導入されるガスを停止することによりリアクタ50内の気体の変化により、低結晶性GaN層22上にドロップレット24が落下する。半導体基板102は、この状態で、保管される。また、以降の工程を行なう工場に搬送される。このように、GaNキャップ層20上に低結晶性GaN層22を形成する半導体基板102において、GaNキャップ層20の表面を保護(傷、降着物などの付着防止)することができる。
【0046】
図11Bに示すように、硫酸過水を用い、ドロップレット24および低結晶性GaN層22を除去する。硫酸過水は、硫酸(96体積%)を2200ml、過酸化水素水を440mlとして混合し作製する。処理時間を15分とする。ドロップレット24および低結晶性GaN層22は、Ga/Nが1より大きく、非晶質または多結晶である。例えば、この低結晶性GaN層22のGa/Nは2より大きい、さらに、3より大きく、4より大きい場合がある。このため、図7のように、硫酸系エッチング溶液により除去される。GaNキャップ層20は、単結晶であり、Ga/Nはほぼ1である。このため、図8のように、GaNキャップ層20は、硫酸系エッチング溶液を用いてもほとんどエッチングされない。
【0047】
図11Cに示すように、GaNキャップ層20上にゲート電極26を形成する。ゲート電極26は、例えば基板10側からNi(ニッケル)膜およびAu(金)膜である。ゲート電極26を挟むようにAlGaN電子供給層16上にソース電極28およびドレイン電極30を形成する。ソース電極28およびドレイン電極30は、例えば基板10側からTi(チタン)膜およびAl(アルミニウム)膜である。Ti膜はTa(タンタル)膜でもよい。ソース電極28およびドレイン電極30は、電子供給層16に達するように埋め込まれてもよいし、GaNキャップ層20上に形成されていてもよい。以上により、半導体装置104が完成する。
【0048】
図12は、図11Aの後の光学顕微鏡画像の模式図である。図12に示すように、低結晶性GaN層22上にドロップレット24が観察できる。また、低結晶性GaN層22の表面は、表面が荒れたように見える。これは、低結晶性GaN層22の結晶性が劣るためである。
【0049】
図13は、図11Bの後の光学顕微鏡画像の模式図である。図13に示すように、ドロップレット24は、低結晶性GaN層22とともに除去される。図9のような、ドロップレット24を除去した痕は観察されない。GaNキャップ層20の表面には、S(硫黄)を含有した薬液により処理したことに起因するSが残存している。
【0050】
図14は、硫黄が残存したGaN層表面のXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)観察結果を示す例である。横軸は結合エネルギー、縦軸は強度である。図14に示すように、Ga−S結合に起因するS2pのピークが160eV付近に観察される。Sを含有した薬液により処理していなければ、S2pのピークは観察されない。
【0051】
実施例1によれば、図10Bのように、基板10上に窒化物半導体層18を形成する。図10Cのように、窒化物半導体層18上にGaNキャップ層20(窒化ガリウムからなる第1GaN層)を形成する。図10Dのように、GaNキャップ層20の表面上に、GaNキャップ層20よりGaの組成比が大きく非晶質または多結晶である低結晶性GaN層22(例えば窒化に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層)を形成する。図11Aのように、成長装置から基板10を取り出した後、低結晶性GaN層22を除去する。これにより、図13のように、ドロップレット24を除去することができる。よって、半導体装置の良品率を向上できる。
【0052】
低結晶性GaN層22の成長条件として、基板温度を窒素原料(例えばNH)の分解温度以下とする。例えば、MOCVD装置を用い低結晶性GaN層22を成長する場合、基板温度を800℃以下とする。これにより、窒素の供給がGaの供給より小さくなり、Ga/Nが1より大きな低結晶性GaN層22を形成できる。例えば、GaNキャップ層20を形成する工程においては、基板温度は、窒素原料の分解温度以上である。原料ガスの流量は維持した状態で、基板温度を窒素原料の分解温度以下まで下げる。これにより、GaNキャップ層20上に低結晶性GaN層22が形成できる。原料ガスの流量(キャリアガスも含めた流量)を維持しているため、リアクタ50内の気体の変化は少なく、GaNキャップ層20と低結晶性GaN層22との間にドロップレットはほとんど形成されない。
【0053】
低結晶性GaN層22の成長条件の別の例として、GaNキャップ層20を形成する工程におけるGa原料の比率(Ga原料/N原料)より高いGa原料の比率を用いることもできる。例えば、低結晶性GaN層22を形成する工程のTMGガス流量/NHガス流量をGaNキャップ層20を形成する工程より小さくする。これにより、Ga/Nが1より大きな低結晶性GaN層22を形成できる。基板温度を下げる例では、GaNキャップ層20から低結晶性GaN層22に連続的に形成される場合がある。原料比率を変える例では、原料ガスの比率を切り替えることにより、GaNキャップ層20から低結晶性GaN層22に急峻に変化させることができる。また、導入部52からリアクタ50内に導入されるガスの全体の流量の変化が小さく、ほとんど変化がなければ、GaNキャップ層20と低結晶性GaN層22との間にドロップレットはほとんど形成されない。低結晶性GaN層22を形成するときに、GaNキャップ層20を形成する条件に対し、基板温度とGa原料比の両方を変えてもよい。
【0054】
図11Bにおいて、低結晶性GaN層22を除去するときに、硫酸と過酸化水素とを含む混合液を用いる例を説明したが、低結晶性GaN層22を除去でき、GaNキャップ層20をエッチングしない薬液を用いればよい。例えば、硫酸と過酸化水素との混合液に水を混合した薬液でもよい。
【0055】
硫酸を含むエッチング液を用い、低結晶性GaN層22を除去すると、GaNキャップ層20の表面にSが残存する。例えば、図14のように、XPS法を用いてGaNキャップ層20の表面を測定したスペクトルにおいて、結合エネルギーが160eV近傍にピークが位置する。
【0056】
成長装置100として、図1のように、ウエハ60上方にガスを導入する導入部52を有する場合、ドロップレットが発生しやすい。よって、実施例1の方法を用いることが好ましい。成長装置100は、MOCVD装置以外にもHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)装置、LPE(Liquid Phase Epitaxy)装置またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)装置でもよい。
【0057】
GaNキャップ層20は、窒化物半導体層18の酸化を抑制する機能を有する。窒化物半導体層18の酸化を抑制するため、GaNキャップ層20の膜厚は1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。GaNキャップ層20が厚ければ、図9のように、深さが100nm以下の痕が残っても窒化物半導体層18には影響しない。よって、GaNキャップ層20の膜厚は100nm以下が好ましい。GaNキャップ層20の膜厚は10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。これにより、ゲート電極26と電子供給層16との距離を短くなり、半導体装置104の性能が向上する。
【0058】
深さが100nm程度の痕を残さないため、低結晶性GaN層22の膜厚は、100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。膜応力に起因したクラックを抑制するため、低結晶性GaN層22の膜厚は、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0059】
半導体装置として、HEMTを例に説明したが、その他の半導体装置でもよい。窒化物半導体層18としては、例えばGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、InAlN、InAlGaNを含めばよい。また、窒化物半導体層18、GaNキャップ層20および低結晶性GaN層には、本願発明の効果がある限りにおいて他の成分が含まれていてもよい
【0060】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
10 基板
12 バッファ層
14 電子走行層
16 電子供給層
18 窒化物半導体層
20 GaNキャップ層
22 低結晶性GaN層
24 ドロップレット
26 ゲート電極
28 ソース電極
30 ドレイン電極
50 リアクタ
52 導入部
54 サセプタ
56 ヒータ
58 排気部
60 ウエハ
62 原料ガス
64、66 半導体層
68 ドロップレット
70 痕
100 成長装置
102 半導体基板
104 半導体装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14