【実施例1】
【0039】
図10Aから
図11Cは、実施例1に係る半導体装置の製造方法を示す断面図である。
図10Aに示すように、基板10を準備する。基板10は、SiC(炭化シリコン)基板である。基板10としては、例えばSi(シリコン)基板、サファイア基板、GaN基板またはGa
2O
3(酸化ガリウム)基板を用いることもできる。
【0040】
図10Bに示すように、基板10上に、
図1の成長装置100を用い、窒化物半導体層18として、バッファ層12、電子走行層14および電子供給層16を形成する。バッファ層12は、例えばAlN(窒化アルミニウム)層である。電子走行層14は、例えばGaN層である。電子供給層16は、例えばAlGaN層である。
【0041】
図10Cに示すように、窒化物半導体層18上にGaNキャップ層20を形成する。GaNキャップ層20は、単結晶GaN層である。
GaNキャップ層20の成長条件に例を以下に示す。
基板温度:1060℃
原料ガス:TMG(トリメチルガリウム)、NH
3(アンモニア)
TMG流量:42sccm(7×10
−7m/s)
NH
3流量:20000sccm(3.3×10
−4m/s)
キャリアガス:H
2(水素)
圧力:100Torr(13.3kPa)
膜厚:1nm〜10nm
GaNキャップ層20は、電子供給層16の酸化を抑制されるために形成される。酸化抑制のため膜厚が1nm以上であることが好ましい。Ga原料としては、TMG以外にTEG(トリエチルガリウム)を用いることもできる。
【0042】
図10Dに示すように、GaNキャップ層20上に結晶性の低い低結晶性GaN層22を形成する。低結晶性GaN層22は、GaNキャップ層20よりGa組成比が高い。単結晶GaNでは、原子組成比Ga/Nは1である。低結晶性GaN層22ではGa/Nが1より大きい。低結晶性GaN層22は、非晶質または多結晶である。
低結晶性GaN層22の成長条件の例を以下に示す。
基板温度:900℃未満
膜厚:100nm以上かつ2μm以下
その他の条件:GaNキャップ層20と同じ
【0043】
NH3の分解温度は約900℃である。よって、GaNキャップ層20を1000℃以上の基板温度で形成する。これにより、GaNキャップ層20は単結晶として形成される。低結晶性GaN層22を900℃未満の基板温度で形成する。具体的には、基板温度は、800℃以下が好ましく、750℃以下がより好ましい。また、基板温度は、600℃以上が好ましい。これにより、Nの供給が低減されず、GaリッチなGaN層が形成できる。
【0044】
図10Bから
図10Dまでは、導入部52から導入されるガスを停止せずに成長する。例えば、成長装置内においてGaNキャップ層20および低結晶性GaN層22が連続して成長される。これにより、
図2のように、導入部52近傍に半導体層66が形成されていたとしても、
図3のように、半導体層66から窒化物半導体層18またはGaNキャップ層20上にはドロップレットが落下することを抑制できる。
【0045】
図11Aに示すように、基板10を成長装置100から取り出す。このとき、導入部52から導入されるガスを停止することによりリアクタ50内の気体の変化により、低結晶性GaN層22上にドロップレット24が落下する。半導体基板102は、この状態で、保管される。また、以降の工程を行なう工場に搬送される。このように、GaNキャップ層20上に低結晶性GaN層22を形成する半導体基板102において、GaNキャップ層20の表面を保護(傷、降着物などの付着防止)することができる。
【0046】
図11Bに示すように、硫酸過水を用い、ドロップレット24および低結晶性GaN層22を除去する。硫酸過水は、硫酸(96体積%)を2200ml、過酸化水素水を440mlとして混合し作製する。処理時間を15分とする。ドロップレット24および低結晶性GaN層22は、Ga/Nが1より大きく、非晶質または多結晶である。例えば、この低結晶性GaN層22のGa/Nは2より大きい、さらに、3より大きく、4より大きい場合がある。このため、
図7のように、硫酸系エッチング溶液により除去される。GaNキャップ層20は、単結晶であり、Ga/Nはほぼ1である。このため、
図8のように、GaNキャップ層20は、硫酸系エッチング溶液を用いてもほとんどエッチングされない。
【0047】
図11Cに示すように、GaNキャップ層20上にゲート電極26を形成する。ゲート電極26は、例えば基板10側からNi(ニッケル)膜およびAu(金)膜である。ゲート電極26を挟むようにAlGaN電子供給層16上にソース電極28およびドレイン電極30を形成する。ソース電極28およびドレイン電極30は、例えば基板10側からTi(チタン)膜およびAl(アルミニウム)膜である。Ti膜はTa(タンタル)膜でもよい。ソース電極28およびドレイン電極30は、電子供給層16に達するように埋め込まれてもよいし、GaNキャップ層20上に形成されていてもよい。以上により、半導体装置104が完成する。
【0048】
図12は、
図11Aの後の光学顕微鏡画像の模式図である。
図12に示すように、低結晶性GaN層22上にドロップレット24が観察できる。また、低結晶性GaN層22の表面は、表面が荒れたように見える。これは、低結晶性GaN層22の結晶性が劣るためである。
【0049】
図13は、
図11Bの後の光学顕微鏡画像の模式図である。
図13に示すように、ドロップレット24は、低結晶性GaN層22とともに除去される。
図9のような、ドロップレット24を除去した痕は観察されない。GaNキャップ層20の表面には、S(硫黄)を含有した薬液により処理したことに起因するSが残存している。
【0050】
図14は、硫黄が残存したGaN層表面のXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)観察結果を示す例である。横軸は結合エネルギー、縦軸は強度である。
図14に示すように、Ga−S結合に起因するS2pのピークが160eV付近に観察される。Sを含有した薬液により処理していなければ、S2pのピークは観察されない。
【0051】
実施例1によれば、
図10Bのように、基板10上に窒化物半導体層18を形成する。
図10Cのように、窒化物半導体層18上にGaNキャップ層20(窒化ガリウムからなる第1GaN層)を形成する。
図10Dのように、GaNキャップ層20の表面上に、GaNキャップ層20よりGaの組成比が大きく非晶質または多結晶である低結晶性GaN層22(例えば窒化に対するガリウムの組成比が2より大きい窒化ガリウムからなる第2GaN層)を形成する。
図11Aのように、成長装置から基板10を取り出した後、低結晶性GaN層22を除去する。これにより、
図13のように、ドロップレット24を除去することができる。よって、半導体装置の良品率を向上できる。
【0052】
低結晶性GaN層22の成長条件として、基板温度を窒素原料(例えばNH
3)の分解温度以下とする。例えば、MOCVD装置を用い低結晶性GaN層22を成長する場合、基板温度を800℃以下とする。これにより、窒素の供給がGaの供給より小さくなり、Ga/Nが1より大きな低結晶性GaN層22を形成できる。例えば、GaNキャップ層20を形成する工程においては、基板温度は、窒素原料の分解温度以上である。原料ガスの流量は維持した状態で、基板温度を窒素原料の分解温度以下まで下げる。これにより、GaNキャップ層20上に低結晶性GaN層22が形成できる。原料ガスの流量(キャリアガスも含めた流量)を維持しているため、リアクタ50内の気体の変化は少なく、GaNキャップ層20と低結晶性GaN層22との間にドロップレットはほとんど形成されない。
【0053】
低結晶性GaN層22の成長条件の別の例として、GaNキャップ層20を形成する工程におけるGa原料の比率(Ga原料/N原料)より高いGa原料の比率を用いることもできる。例えば、低結晶性GaN層22を形成する工程のTMGガス流量/NH
3ガス流量をGaNキャップ層20を形成する工程より小さくする。これにより、Ga/Nが1より大きな低結晶性GaN層22を形成できる。基板温度を下げる例では、GaNキャップ層20から低結晶性GaN層22に連続的に形成される場合がある。原料比率を変える例では、原料ガスの比率を切り替えることにより、GaNキャップ層20から低結晶性GaN層22に急峻に変化させることができる。また、導入部52からリアクタ50内に導入されるガスの全体の流量の変化が小さく、ほとんど変化がなければ、GaNキャップ層20と低結晶性GaN層22との間にドロップレットはほとんど形成されない。低結晶性GaN層22を形成するときに、GaNキャップ層20を形成する条件に対し、基板温度とGa原料比の両方を変えてもよい。
【0054】
図11Bにおいて、低結晶性GaN層22を除去するときに、硫酸と過酸化水素とを含む混合液を用いる例を説明したが、低結晶性GaN層22を除去でき、GaNキャップ層20をエッチングしない薬液を用いればよい。例えば、硫酸と過酸化水素との混合液に水を混合した薬液でもよい。
【0055】
硫酸を含むエッチング液を用い、低結晶性GaN層22を除去すると、GaNキャップ層20の表面にSが残存する。例えば、
図14のように、XPS法を用いてGaNキャップ層20の表面を測定したスペクトルにおいて、結合エネルギーが160eV近傍にピークが位置する。
【0056】
成長装置100として、
図1のように、ウエハ60上方にガスを導入する導入部52を有する場合、ドロップレットが発生しやすい。よって、実施例1の方法を用いることが好ましい。成長装置100は、MOCVD装置以外にもHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)装置、LPE(Liquid Phase Epitaxy)装置またはMBE(Molecular Beam Epitaxy)装置でもよい。
【0057】
GaNキャップ層20は、窒化物半導体層18の酸化を抑制する機能を有する。窒化物半導体層18の酸化を抑制するため、GaNキャップ層20の膜厚は1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。GaNキャップ層20が厚ければ、
図9のように、深さが100nm以下の痕が残っても窒化物半導体層18には影響しない。よって、GaNキャップ層20の膜厚は100nm以下が好ましい。GaNキャップ層20の膜厚は10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。これにより、ゲート電極26と電子供給層16との距離を短くなり、半導体装置104の性能が向上する。
【0058】
深さが100nm程度の痕を残さないため、低結晶性GaN層22の膜厚は、100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましい。膜応力に起因したクラックを抑制するため、低結晶性GaN層22の膜厚は、2μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0059】
半導体装置として、HEMTを例に説明したが、その他の半導体装置でもよい。窒化物半導体層18としては、例えばGaN、InN、AlN、InGaN、AlGaN、InAlN、InAlGaNを含めばよい。また、窒化物半導体層18、GaNキャップ層20および低結晶性GaN層には、本願発明の効果がある限りにおいて他の成分が含まれていてもよい
【0060】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。