【実施例1】
【0018】
図1は、実施例1に係る光半導体装置に搭載される半導体レーザ60の全体構成を示す模式的断面図である。
図1に示すように、半導体レーザ60は、SOA(Semiconductor Optical Amplifier)領域C、SG−DFB(Sampled Grating Distribution Feedback)領域A、及びCSG−DBR(Chirped Sample Grating Distributed Reflector)領域Bを順に連結させた構造を有する。半導体レーザ60において、SG−DFB領域A及びCSG−DBR領域Bは波長選択を行う波長選択部として機能し、SOA領域Cはレーザ光を増幅する光増幅部として機能する。
【0019】
SG−DFB領域Aは、基板1上に、下クラッド層2、活性層3、上クラッド層6、コンタクト層7、及び電極8が積層された構造を有する。CSG−DBR領域Bは、基板1上に、下クラッド層2、光導波層4、上クラッド層6、絶縁膜9、及び複数のヒータ10が積層された構造を有する。各ヒータ10には、電源電極11及びグランド電極12が設けられている。SOA領域Cは、基板1上に、下クラッド層2、光増幅層19、上クラッド層6、コンタクト層20、および電極21が積層された構造を有する。
【0020】
SG−DFB領域A、CSG−DBR領域B、及びSOA領域Cにおいて、基板1、下クラッド層2、及び上クラッド層6は、一体的に形成されている。活性層3、光導波層4、及び光増幅層19は、同一面上に形成されている。SOA領域C側の基板1、下クラッド層2、活性層3及び上クラッド層6の端面には、AR膜16が形成されており、これが半導体レーザ60のフロント側端面となる。CSG−DFB領域B側の基板1、下クラッド層2、光導波層4、及び上クラッド層6の端面には、反射膜17が形成されており、これが半導体レーザ60のリア側端面となる。
【0021】
回折格子(コルゲーション)18は、SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bの下クラッド層2に所定の間隔を空けて複数箇所に形成されている。SG−DFB領域AおよびCSG−DBR領域Bは、複数のセグメントにより構成される。ここでセグメントとは、回折格子18が設けられている領域と回折格子18が設けられていないスペース部とが1つずつ連続する領域のことをいう。回折格子18は、下クラッド層2とは異なる屈折率の材料で構成されている。
【0022】
また、CSG−DBR領域Bにおいては、少なくとも2つのセグメントの光学的長さは、互いに異なって形成されている。それにより、CSG−DBR領域Bの各反射ピーク波長同士の強度は、波長依存性を有するようになる。一方、SG−DFB領域Aにおける各セグメントの光学的長さは、実質的に互いに同一である。このため、SG−DFB領域Aの各反射ピーク波長同士の強度は、波長依存性を有さない。これらSG−DFB領域A、CSG−DBR領域Bの組み合わせにより、バーニア効果を利用して、SG−DFB領域Aの反射ピーク波長とCSG−DBR領域Bの反射ピーク波長の重ね合せによって所望の波長が選択される。このように、半導体レーザ60は、所望の波長で安定してレーザ発振させることができる。
【0023】
基板1は、例えば、n型InPからなる結晶基板である。下クラッド層2はn型、上クラッド層6はp型であり、それぞれ例えばInPによって構成される。下クラッド層2と上クラッド層6は、活性層3,光導波層4,光増幅層19を上下で光閉込めしている。
【0024】
活性層3は、利得を有する半導体により構成されている。活性層3は、例えば量子井戸構造を有しており、例えばGa
0.32In
0.68As
0.92P
0.08(厚さ5nm)からなる井戸層と、Ga
0.22In
0.78As
0.47P
0.53(厚さ10nm)からなる障壁層が交互に積層された構造を有する。
【0025】
光導波層4は、例えばバルク半導体層で構成することができ、例えばGa
0.22In
0.78As
0.47P
0.53によって構成することができる。
【0026】
コンタクト層7は、例えばp型Ga
0.47In
0.53As結晶によって構成することができる。絶縁膜9は、SiN,SiO
2等の絶縁体からなる保護膜である。ヒータ10は、NiCr等で構成された薄膜抵抗体である。ヒータ10それぞれは、CSG−DBR領域Bの複数のセグメントにまたがって形成されていてもよい。
【0027】
電極8、電源電極11およびグランド電極12は、金等の導電性材料からなる。基板1の下部には、裏面電極15が形成されている。裏面電極15の材料は、例えば金(Au)からなる。裏面電極15は、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域BおよびSOA領域Cにまたがって形成されている。
【0028】
光増幅層19は、電極21からの電流注入によって利得が与えられ、それによって光増幅をなす領域である。光増幅層は、例えば量子井戸構造で構成することができ、例えばGa
0.35In
0.65As
0.99P
0.01(厚さ5nm)の井戸層とGa
0.15In
0.85As
0.32P
0.68(厚さ10nm)の障壁層が交互に積層された構造とすることができる。また、他の構造として、例えばGa
0.44In
0.56As
0.95P
0.05からなるバルク半導体を採用することもできる。コンタクト層20は、例えばp型Ga
0.47In
0.53As結晶からなる。
【0029】
続いて、半導体レーザ60の動作について説明する。電極8に所定の駆動電流を注入するとともに、各ヒータ10をそれぞれ所定の温度で発熱させる。また、半導体レーザ60の温度を図示しない温度制御装置(TEC:Thermoelectric cooler)によって、所定の値に制御する。これにより、SG−DFB領域A、CSG−DBR領域Bによって選択された波長により、レーザ発振がなされる。このレーザ光は、SOA領域Cにより光増幅され、フロント側端面(SOA領域C側)から外部に出力される。
【0030】
図2は、実施例1に係る光半導体装置の製造工程を示すフローチャートであり、
図3は、製造工程を説明するための断面模式図である。開始時において、
図3(a)に示すように、天井に開口部72が形成された収納装置70内に、熱供給用のヒータブロック80が設けられている。収納装置70の内部には、不活性ガス(例えば、N
2ガス)が充填されている。最初に、
図3(a)に示すように、ヒータブロック80上にキャリア30を設置する(ステップS10)。キャリア30上には、予め半導体レーザ60を固定するためのロウ材40が供給されている。ロウ材40には、例えばAuSnを用いることができる。
【0031】
次に、
図3(a)に示すように、部品保持用のツール50により、半導体レーザ60をキャリア30の上方に移動させる(ステップS12)。半導体レーザ60は、収納装置70の開口部72から内部へと導入される。ツール50は、先端部に吸引機構を備えており、先端部に半導体レーザ60の表面を吸着することにより半導体レーザ60の中央部を保持している。
【0032】
図4は、ツール50の詳細構成を示す図である。
図4(a)は断面図であり、
図4(b)は先端方向から見た場合の上面図である。ツール50は、胴体部52と先端部54を含み、胴体部52の中心部には吸引孔56が設けられている。ツール50は、先端部54の先端により半導体レーザ60に接触する。先端部54は、吸引孔56に対応して形成された溝58により2つに分割されており、分割された先端部54の断面はそれぞれ略半円形状となっている(
図4(b)を参照。実線は先端部54の輪郭を示し、点線は胴体部52及び吸引孔56の輪郭を示す)。
【0033】
図5(a)は、半導体レーザ60の上面模式図であり、
図5(b)は、上面から光導波層4を含む層を透視した模式図である。
図5(b)に示すように、活性層3、光導波層4、及び光増幅層19の幅(W1)は、半導体レーザ60の幅(W2)に比べて小さい。また、
図5(a)に示すように、SG−DFB領域A上の電極8及びSOA領域C上の電極21の幅は、上記の光導波層4の幅(W1)に比べて大きい。ツール50により半導体レーザ60を保持する際には、
図5(b)における活性層3、光導波層4、及び光増幅層19に圧力が加わることを避けるために、これらの領域を避けてその両側(例えば、符号90で示す点線領域)を保持することが好ましい。
図4に示す構成のツールであれば、溝58と活性層3、光導波層4、及び光増幅層19の位置を合わせることにより、先端部54が上記の層を圧迫しないように半導体レーザ60を保持することができる。
【0034】
次に、ヒータブロック80の温度を上昇させ、キャリア30を介してロウ材40に熱を加えることにより、キャリア30上のロウ材40を溶融させる(ステップS14)。例えば、ロウ材40としてAuSnを用いた場合には、溶融時の温度は290℃〜310℃とし、溶融を行う時間は2秒〜6秒とすることが好ましい。これにより、半導体レーザ60を含む光学部品の酸化を抑制することができる。
【0035】
次に、
図3(b)に示すように、ツール50により溶融したロウ材40上に半導体レーザ60を搭載する(ステップS16)。その後、収納装置70の開口部72から、ガス供給管74により冷却用のガス(例えば、N
2ガス又はドライエアー)を導入し、ブローしながらロウ材40を冷却し、溶融したロウ材40を固化する(ステップS18)。このとき、ツール50によりロウ材40を上から押しつけておくことで、半導体レーザ60の位置がずれないように固定されている。
【0036】
図6は、半導体レーザ60をロウ材40上に搭載した状態を示す上面模式図である。半導体レーザ60をハッチで示し、ツール50の表示は省略している。本実施例では、キャリア30は、その短手方向に配置された固定用治具76及び78により位置決めがされている。ただし、固定用治具を用いずに半導体レーザ60の搭載を行ってもよい。
【0037】
次に、
図3(c)に示すように、半導体レーザ60からツール50を離す(ステップS20)。このとき、半導体レーザ60は固まったロウ材40によりキャリア30上に固定された状態となる。次に、
図3(d)に示すように、半導体レーザ60からツール50を離した状態で、ヒータブロック80によりロウ材40を再び溶融させる(ステップS22)。再溶融の温度は310℃〜320℃、時間は3秒〜6秒とすることが好ましい。このように、最初の溶融時より再溶融時の設定温度を高く設定する理由は、ロウ材40のAuSnとチップ裏面金属のAuが溶融して、Auの割合が高くなり溶融温度が高くなるためである。ただし、最初の溶融時と再溶融の温度を同じく310℃〜320℃に設定する場合には、最初の溶融時の溶融時間を3秒以下に設定することが望ましい。好ましくは、最初の溶融時の溶融時間を2秒〜3秒に設定することが望ましい。
【0038】
ロウ材40が溶融したら、半導体レーザ60が搭載された状態でキャリア30を収納装置70から取り出し、自然冷却、例えばヒートシンク(放熱体)上に放置することにより再びロウ材40を固化する。自然冷却の別の方法として、ヒータブロック80の加熱を停止してもよい(ステップS24)。本実施例では、再冷却の方法として自然冷却を用いるが、冷却時間の短縮を図る場合は、最初の冷却時と同様に、N
2ガスによる冷却を行ってもよい。なお、実施例1では、ロウ材40の材料にAuSnを用いた例で説明したが、違う材料たとえばAuGeであっても最初の溶融時よりも再溶融の温度の方が高くなるので、ヒータブロックの設定温度を最初の溶融時の設定温度よりも再溶融の設定温度を高くすることで、再溶融をし易くすることができる。
【0039】
実施例1に係る光半導体装置の製造方法では、溶融したロウ材40に半導体レーザ60を搭載してから一度冷却し、溶融したロウ材40を固化した上で、再び溶融させた後に再冷却を行い、溶融したロウ材40を再固化している。最初の冷却の際には、ツール50により半導体レーザ60をキャリア30に押しつけているため、ロウ材40の中央部に圧力が集中し、ロウ材40に歪みが生じている。しかし、2度目の溶融時には、ツール50が半導体レーザ60から離れているため、半導体レーザ60からロウ材40に加わる圧力は均一なものとなり、ロウ材40の形状の歪みが解消される。そして、ロウ材40の歪みが解消された状態で再冷却を行うことで、ロウ材40は歪みのないまま固化する。その結果、冷却後における半導体レーザ60の反りを抑制することができる。
【0040】
図7は、上記の効果を説明するための断面模式図である。
図7(a)は従来の方法で製造された光半導体装置を、
図7(b)は本実施例の方法で製造された光半導体装置をそれぞれ示す。従来、光デバイスを固定するには、キャリア上の位置決めを正確に行う必要があるため、光デバイスの位置がずれないように、ツールを押し付けたままで固定していた。しかし、
図7(a)に示すように、半導体レーザ60は、ツールと比較して大きいサイズを有しているため、従来の方法では、半導体レーザ60の中央部をツール50により抑えつけた状態でロウ材40を冷却すると、ツール50の圧力によりロウ材40の分布が不均一となりロウ材40に歪みが生じてしまい、結果としてその上に搭載される半導体レーザ60も反って固化してしまう。また、半導体レーザ60は、直方体で形成されているため、さらにロウ材40の分布が不均一となりロウ材40により歪みが生じてしまい、その上に搭載される半導体レーザ60もより反ってしまう。
【0041】
一方、
図7(b)に示すように、本実施例の方法では、ロウ材が溶融した状態でツール50を半導体レーザ60から離すため、ロウ材40の歪みは抑制され、結果として半導体レーザ60の反りも抑制されている。本実施例の方法では、一度位置決めをした状態で冷却し、溶融したロウ材40を固化した上で、再び溶融させた後に再冷却し、溶融したロウ材40を固化しているので、位置ずれの影響も少ない。
【0042】
従来例のように、半導体レーザ60の反りが大きいと、特性が悪くなる。これは、半導体レーザ60が反ると半導体レーザ60の内部にある光路(活性層3、光導波層4、及び光増幅層19)も反ってしまい所望の光路でレーザを出力することができなくなるためである。特に、半導体レーザ60がバーニア効果を利用しているチューナブルレーザであることから、従来例のような反りが発生すると、SG−DFB領域Aの反射ピーク波長又はCSG−DBR領域Bの反射ピーク波長でずれが生じることにより、バーニア効果の干渉効果に劣化が起こってしまい、所望の波長が選択されなくなってしまう。このように、本実施例の半導体レーザ60がチューナブルレーザであることから、本実施例に係る製造方法を用いることで、チップの反りを抑制することができ、特性の劣化を抑制することができる。
【0043】
図8は、反り量の測定結果を示すグラフである。グラフの横軸は半導体レーザ60の幅方向における位置を、グラフの縦軸はレーザの高さ方向における位置(半導体レーザ60の反り量)をそれぞれ示す。本実施例では、長さ3500μm、幅500μm、高さ100μmの半導体レーザ60を使用した。縦軸における116μmの目盛り付近に、溶融前のロウ材40の表面が位置している。従来例における反り量の測定結果を点線グラフで示し、本実施例における測定結果を実線でそれぞれ示す。図示するように、従来例では、半導体レーザ60の中央部においてグラフが大きく凹んでおり、ロウ材40及び半導体レーザ60の反りが大きいことが分かる。これに対し、本実施例では、中央部における反り量が従来例に比べて大幅に小さく、ロウ材40と半導体レーザ60の界面が全体的に均一となっていることが分かる。なお、本実施例では、長さ3000μm、幅500μm、高さ100μmの半導体レーザ60でも同様の効果を得ることができる。