【実施例】
【0026】
<実施例1>製造方法の検討その1;熟成工程の検討
(1)熟成肉の製造
下記のAパターンおよびBパターンの方法により、熟成肉を製造した。
〈Aパターンの方法〉
下記の1〜4の工程を行った。
1.解凍工程;解体処理して冷凍保存された野生の鹿もも肉を用意した。凍結した肉を10℃の冷蔵庫内に24時間置くことにより解凍した。
2.塩蔵工程;解凍した肉に、肉の重量に対して約1(w/w)%量の振り塩をした後、脱水シートに包んで5℃の冷蔵庫内に24〜30時間置くことにより塩蔵した。
3.漬け込み熟成工程;稲藁に付着した雑菌を除去することを目的として、沸騰した湯に稲藁を入れて15分間煮沸し、稲藁の煮汁を得た。また、60℃の湯に0.5(w/w)%となるよう納豆菌を入れ、30分置くことにより納豆菌液を得た。稲藁の煮汁に納豆菌液を1〜2(w/w)%となるように添加し、これを漬け込み液とした。漬け込み液に塩蔵した肉を入れ、5℃の冷蔵庫内に24時間置くことにより漬け込みを行った。続いて、漬け込み液から肉を取り出して1時間液切りを行った後、さらしに包み、5℃の冷蔵庫内に7日間置くことにより熟成を行った。
4.凍結保存工程;さらしを取って肉を真空パック詰めにし、−25℃で凍結保存した。
【0027】
〈Bパターンの方法〉
Aパターンの方法において、「3.漬け込み熟成工程」に代えて、下記の「3−1.納豆菌付着熟成工程」および「3−2.藁包み熟成工程」を行った。
3−1.納豆菌付着熟成工程;60℃の湯に0.5(w/w)%となるよう納豆菌を入れ、30分置くことにより納豆菌液を得た。塩蔵した肉に納豆菌液をまんべんなく噴霧することにより肉の表面に納豆菌を付着させた。これを20〜25℃に24時間置くことにより、熟成を行った。
3−2.藁包み熟成工程;続いて、肉をさらしに包み、さらに、乾燥させた未加熱の稲藁に包んだ。これを5℃の冷蔵庫内に7日間置くことにより熟成を行った。
【0028】
(2)食味による評価
本実施例1(1)のAパターンの方法のうち1.解凍工程のみを行った肉(解凍肉)、本実施例1(1)のAパターンの方法により製造した熟成肉(Aパターンの熟成肉)および本実施例1(1)のBパターンの方法により製造した熟成肉(Bパターンの熟成肉)をフライパンで焼いて試食し、解凍肉を基準として、肉の軟らかさ、風味、旨味、臭みおよびジューシーさの観点で評価を行った。その結果を表1に示す。なお、Aパターンの熟成肉およびBパターンの熟成肉のいずれも、解凍肉と比較して見た目に大きな変化はなかった。また、熟成による乾燥なども認められず、AパターンおよびBパターンの方法に供した鹿もも肉は、すべて食することができる品質であった(歩留まり率は100%)。
【0029】
【表1】
表1に示すように、AパターンおよびBパターンの熟成肉は、解凍肉と比較して、肉が軟らかく、風味が良く、旨味が多く、臭みが少なく、ジューシーさが大きかった。この結果から、AパターンまたはBパターンの方法で熟成することにより、肉が軟らかくなり、風味が良くなり、旨味が増加し、臭みが低減し、ジューシーさが大きくなることが明らかになった。また、Bパターンの熟成肉の方が、Aパターンの熟成肉と比較して、肉の軟らかさ、風味、旨味、臭み、ジューシーさのいずれにおいても、評価が高かった。この結果から、納豆菌による熟成は、5℃よりも常温に保持することが好ましいこと、および、藁による熟成は、藁の煮汁に肉を浸漬するよりも藁で肉を包む方が好ましいことが明らかになった。
【0030】
(3)水分、粗脂肪および粗蛋白質の含量の測定
本実施例1(2)の解凍肉およびBパターンの熟成肉について、水分、粗脂肪および粗蛋白質の含量を、常法に従って測定した(「牛肉の品質評価のための理化学分析マニュアルVer.2」、社団法人畜産技術協会、平成15年3月)。すなわち、水分の含量は135℃、2時間の常圧加熱乾燥法により、粗脂肪の含量はエーテルによるソックスレー抽出法により、粗蛋白質の含量はケルダール窒素定量法(窒素係数6.25)により、それぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
表2に示すように、水分および粗脂肪の含量は、解凍肉とBパターンの熟成肉とで同程度であり、顕著な差はなかった。一方、粗蛋白質の含量は、Bパターンの熟成肉の方が、解凍肉と比較して小さかった。すなわち、Bパターンの方法で熟成することにより、肉の蛋白質の含量が変化することが明らかになった。この結果から、食肉をBパターンの方法で熟成することにより蛋白質の含量が変化し、その結果として、肉が軟らかくなり、風味が良くなり、旨味が増加し、臭みが低減し、ジューシーさが大きくなることが示唆された。
【0032】
以上の本実施例1(1)〜(3)の結果から、熟成肉の製造方法としては、Bパターンの方法が好適であることが示された。以下、本実施例1(1)のBパターンの方法により製造した熟成肉を「本発明の熟成肉」と表記する場合がある。
【0033】
<実施例2>熟成肉の評価
(1)熟成肉の製造
実施例1(1)のBパターンの方法において、鹿もも肉に代えて豚もも肉を用いて、熟成肉を製造した。また、実施例1(1)のAパターンの方法のうち、1.解凍工程および2.塩蔵工程のみを行った豚もも肉を用意し、これを塩蔵肉とした。
【0034】
(2)食味による評価
本実施例2(1)の塩蔵肉および熟成肉をフライパンで焼いて試食し、塩蔵肉を基準として、肉の軟らかさ、風味、旨味、臭みおよびジューシーさの観点で評価を行った。その結果を表3に示す。なお、熟成肉は、塩蔵肉と比較して見た目に大きな変化はなかった。また、熟成による乾燥なども認められず、実施例1(1)のBパターンの方法に供した豚もも肉は、すべて食することができる品質であった(歩留まり率は100%)。
【0035】
【表3】
表3に示すように、熟成肉は、塩蔵肉と比較して、肉が軟らかく、風味が良く、旨味が多く、臭みが少なく、ジューシーさが大きかった。この結果から、鹿肉のみならず豚肉についても、実施例1(1)のBパターンの方法で熟成することにより、肉が軟らかくなり、風味が良くなり、旨味が増加し、臭みが低減し、ジューシーさが大きくなることが示された。
【0036】
(3)アミノ酸の含量の測定
本実施例2(1)の塩蔵肉および熟成肉について、一般社団法人日本食品分析センターに委託して、5’−イノシン酸および遊離グルタミン酸の含量の測定を行った。5’−イノシン酸の含量については、5%過塩素酸で肉に含まれるアミノ酸を抽出した後、高速液体クロマトグラフに供することにより測定した。また、遊離グルタミン酸の含量については、アミノ酸自動分析法により測定した。その結果を
図1に示す。
【0037】
図1に示すように、5’−イノシン酸および遊離グルタミン酸の含量は、塩蔵肉では、それぞれ、0.05g/100gおよび11mg/100gであった。これに対して、熟成肉では、それぞれ、0.03g/100gおよび43mg/100gであった。すなわち、熟成肉では、塩蔵肉と比較して遊離グルタミン酸の含量が4倍まで大きくなった。この結果から、食肉をBパターンの方法で熟成することにより、遊離グルタミン酸の含量が増大し、その結果として、肉の風味が良くなり、旨味が増加し、あるいは臭みが低減することが示唆された。
【0038】
(4)硬度の測定
本実施例2(1)の塩蔵肉および熟成肉について、一般社団法人日本食品分析センターに委託して、硬度の測定を行った。硬度は、クリープメータ(山電社)を用いて、直径8mm円柱状のプランジャーを試料台上昇速度1mm/秒で肉の厚さの80%まで侵入させた時の最大荷重を測定し、これを硬度とした。塩蔵肉および熟成肉のそれぞれについて、同様の測定を10回行い、硬度の平均値を算出した。その結果を
図2に示す。
【0039】
図2に示すように、塩蔵肉の硬度は最大値で71Nを示し、その平均値は65Nであったのに対して、本発明に係る熟成肉の硬度は最大値が55N、最小値は35Nであり、その平均値は47Nであった。すなわち、熟成肉では、塩蔵肉と比較して硬度が3割程度も小さかった。この結果から、食肉をBパターンの方法で熟成することにより、肉質が3割程度軟らかくなることが示された。
【0040】
<実施例3>製造方法の検討その2;納豆菌/藁の作用効果の検討
(1)熟成肉の製造
実施例1(1)のBパターンの方法において、「3−1.納豆菌付着熟成工程」および「3−2.藁包み熟成工程」に代えて、下記の「3−3.藁包み無し熟成工程」を行うことにより熟成肉を製造し、これをサンプルaとした。ただし、鹿もも肉に代えて豚もも肉を用いた。
3−3.藁包み無し熟成工程;肉をさらしに包み、これを5℃の冷蔵庫内に7日間置くことにより熟成を行った。
【0041】
また、実施例1(1)のBパターンの方法において、「3−2.藁包み熟成工程」に代えて、上記の「3−3.藁包み無し熟成工程」を行うことにより熟成肉を製造し、これをサンプルbとした。ただし、鹿もも肉に代えて豚もも肉を用いた。
【0042】
また、実施例1(1)のBパターンの方法において、「3−1.納豆菌付着熟成工程」に代えて、下記の「3−4.納豆菌付着無し熟成工程」を行うことにより熟成肉を製造し、これをサンプルcとした。ただし、鹿もも肉に代えて豚もも肉を用いた。
3−4.納豆菌付着無し熟成工程;塩蔵した鹿肉を20〜25℃に24時間置くことにより、熟成を行った。
【0043】
すなわち、サンプルaは、実施例1(1)のBパターンの方法において、納豆菌付着熟成工程を行わず、かつ、稲藁に包まないで製造した熟成肉であり、サンプルbは、実施例1(1)のBパターンの方法において、稲藁に包まないで製造した熟成肉であり、サンプルcは、実施例1(1)のBパターンの方法において、食肉の表面に納豆菌を付着させずに製造した熟成肉である。
【0044】
(2)食味による評価
実施例2(1)の熟成肉および塩蔵肉、ならびに本実施例3(1)のサンプルa〜サンプルcをフライパンで焼いて試食し、塩蔵肉を基準として、肉の軟らかさ、風味および旨味の観点で評価を行った。肉の軟らかさは数値が大きいほど軟らかいものとし、風味は数値が大きいほど風味が良いものとし、旨味は数値が大きいほど旨味が多いものとして、数値で表した。その結果を表4に示す。
【0045】
【表4】
表4に示すように、サンプルaは、塩蔵肉と比較して、肉が少し軟らかく、風味が少し良く、旨味が少し多かった。サンプルaの全体評価としては、肉がやや硬く、風味や旨味があまり感じられないことから、やや不良であった。次に、サンプルbは、塩蔵肉と比較して、肉が軟らかく、風味がやや良く、旨味がやや多かった。サンプルbの全体評価としては、風味や旨味が物足りないが、肉が軟らかいことから、良であった。次に、サンプルcは、塩蔵肉と比較して、肉がやや軟らかく、風味が良く、旨味が多かった。サンプルcの全体評価としては、肉がやや硬いものの、風味や旨味が感じられることから、良であった。次に、熟成肉は、塩蔵肉と比較して、肉が軟らかく、風味が良く、旨味が多かった。熟成肉の全体評価としては、肉の柔らかさ、風味および旨味のバランスがよいことから、優良であった。
【0046】
すなわち、サンプルbと熟成肉との結果から、実施例1(1)のBパターンの方法において、肉を藁で包まなくても肉は軟らかくなり、風味が良くなり、旨味が多くなるが、肉を藁で包んで熟成させることにより、風味がより良くなり、旨味がより多くなることが明らかになった。また、サンプルcと熟成肉との比較から、実施例1(1)のBパターンの方法において、肉の表面に納豆菌を付着させなくても肉が軟らかくなり、風味が良くなり、旨味が多くなるが、肉の表面に納豆菌を付着させることにより、肉がより軟らかくなることが明らかになった。また、サンプルa〜cと熟成肉との比較から、納豆菌付着熟成工程を行い、かつ藁で包んで熟成させることにより、肉が軟らかく、風味が良く、旨味が多い熟成肉を製造することができることが明らかになった。
【0047】
<実施例4>製造方法の検討その3;納豆菌付着熟成工程の温度帯の検討
(1)鹿肉での検討
実施例1(1)のBパターンの方法により、熟成肉を製造した。ただし、納豆菌付着熟成工程における熟成中の温度を、20〜25℃に代えて5℃、20℃および35℃とした。納豆菌付着熟成工程における熟成の温度が35℃では、当該熟成期間中の湿度を70%に保つ湿度管理を行った場合と、湿度管理を行わない場合とで、それぞれ熟成肉を製造した。製造した熟成肉をフライパンで焼いて試食し、実施例1(2)の解凍肉を基準として、肉の軟らかさ、風味およびジューシーさの観点で評価を行った。肉の軟らかさは数値が大きいほど軟らかいものとし、風味は数値が大きいほど風味が良いものとし、ジューシーさは数値が大きいほどジューシーさが大きいものとして、数値で表した。その結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
表5に示すように、5℃の場合は、解凍肉と比較して、肉が軟らかく、風味はやや良く、ジューシーさは大きかった。5℃の場合の全体評価は、風味が物足りないが、肉が軟らかくジューシーであることから、良であった。次に、20℃の場合は、解凍肉と比較して、肉が軟らかく、風味は良く、ジューシーさは大きかった。20℃の場合の全体評価は、風味が良く、肉が軟らかくジューシーであることから、優良であった。次に、35℃の湿度管理無しの場合は、解凍肉と比較して、肉がやや硬く、風味は少し良く、ジューシーさは小さかった。全体評価は、肉がパサついていてジューシーさに欠け、風味も劣ることから、不良であった。次に、35℃の湿度管理有りの場合は、解凍肉と比較して、肉がやや硬く、風味は少し良く、ジューシーさはやや小さかった。全体評価は、ジューシーさに欠けていて、風味もやや劣ることから、やや不良であった。
【0049】
すなわち、納豆菌付着熟成工程の温度が35℃以上になると、湿度管理の有無にかかわらず納豆菌付着熟成工程の熟成期間中に肉が乾燥してしまい、肉の軟らかさ、風味およびジューシーさが損なわれることが明らかになった。この結果から、納豆菌付着熟成工程の温度帯は35℃未満が好ましいことが明らかになった。
【0050】
(2)豚肉での検討
実施例1(1)のBパターンの方法において、鹿もも肉に代えて豚もも肉を用いて、熟成肉を製造した。ただし、納豆菌付着熟成工程における熟成中の温度を、20〜25℃に代えて、5℃、8℃、10℃、15℃とした。製造した熟成肉をフライパンで焼いて試食し、実施例2(1)の塩蔵肉を基準として、肉の軟らかさおよび風味の観点で評価を行った。肉の軟らかさは数値が大きいほど軟らかいものとし、風味は数値が大きいほど風味が良いものとして、数値で表した。その結果を表6に示す。
【0051】
【表6】
表6に示すように、5℃および8℃の場合は、塩蔵肉と比較して、肉が軟らかく、風味は少し良かった。5℃および8℃の場合の全体評価は、風味が物足りないものの、肉が軟らかいことから、良であった。次に、10℃の場合は、塩蔵肉と比較して、肉が軟らかく、風味はやや良かった。10℃の場合の全体評価は、肉が軟らかく、風味も比較的感じられることから、良であった。次に、15℃の場合は、塩蔵肉と比較して、肉が軟らかく、風味も良かった。15℃の場合の全体評価は、肉が軟らかく、風味も十分に感じられることから、優良であった。
【0052】
すなわち、納豆菌付着熟成工程の温度が35℃未満であれば、納豆菌により肉を軟らかくすることができることが明らかになった。また、納豆菌付着熟成工程の温度が10℃以上になると、納豆菌による風味の向上効果がより大きくなることが明らかになった。この結果から、納豆菌付着熟成工程の温度帯は10℃以上がより好ましいことが明らかになった。
【0053】
<実施例5>製造方法の検討その4;藁包み熟成工程の熟成期間の検討
(1)豚肉での検討
実施例1(1)のBパターンの方法において、鹿もも肉に代えて豚もも肉を用いて熟成肉を製造した。ただし、藁包み熟成工程の熟成の期間を、7日間に代えて1〜5日間とした。製造した熟成肉をフライパンで焼いて試食し、実施例2(1)の塩蔵肉を基準として、肉の軟らかさおよび風味の観点で評価を行った。その結果を表7に示す。
【0054】
【表7】
表7に示すように、1〜4日間の場合は、塩蔵肉と比較して肉の軟らかさおよび風味のいずれも同程度であった。1〜4日間の場合の全体評価としては、肉が硬めで風味もあまり感じられないため、不良であった。これに対して、5日間の場合は、塩蔵肉と比較して肉がやや軟らかく、風味がやや良かった。5日間の場合の全体評価としては、肉が軟らかめで風味も比較的感じられたため、やや良であった。すなわち、藁包み熟成工程の熟成期間が5日間以上になると、肉が軟らかく、風味が良くなる効果が生じることが明らかになった。この結果から、肉の軟らかさや風味の向上効果を得るためには、藁包み熟成工程の熟成期間は5日間以上が好ましいことが明らかになった。
【0055】
(2)牛肉での検討
実施例1(1)のBパターンの方法において、鹿もも肉に代えて牛もも肉を用いて熟成肉を製造した。ただし、藁包み熟成工程の熟成期間を、7日間に代えて4日間および7日間とした。製造した熟成肉をフライパンで焼いて試食し、本実施例1(1)のAパターンの方法のうち1.解凍工程のみを行った牛もも肉(解凍肉)を基準として、肉の軟らかさ、風味およびジューシーさの観点で評価を行った。その結果を表8に示す。
【0056】
【表8】
表8に示すように、4日間の場合は、解凍肉と比較して、肉の軟らかさは同程度であり、風味はやや良く、ジューシーさは同程度であった。4日間の場合の全体評価は、肉がやや硬く、ジューシーさに欠け、風味があまり感じられないことから、やや不良であった。これに対して、7日間の場合は、解凍肉と比較して、肉が軟らかく、風味が良く、ジューシーさが大きかった。7日間の場合の全体評価は、風味が良く、肉が軟らかくジューシーであることから、優良であった。すなわち、藁包み熟成工程の熟成期間が4日間を超えると、肉が軟らかく、風味が良くなり、ジューシーになる効果が生じることが明らかになった。この結果から、肉の軟らかさや風味、ジューシーさの向上効果を得るためには、藁包み熟成工程の熟成期間は4日間より長いことが好ましいことが明らかになった。
【0057】
<実施例6>食肉の種類の検討
実施例1(1)のBパターンの方法において、鹿もも肉に代えて羊うちもも肉、豚ロース肉、豚うちもも肉、牛肩ロース肉、牛リブロース肉および親鳥もも肉(肉用鶏)を用いて熟成肉を製造した。製造した熟成肉をフライパンで焼いて試食し、本実施例1(1)のAパターンの1.解凍工程のみを行った各種の肉(解凍肉)を基準として、肉の軟らかさ、風味、旨味、臭みおよびジューシーさの観点で評価を行った。肉の軟らかさは、解凍肉と比較して軟らかい場合は○、変わらない場合は△、硬い場合は×とした。風味は、解凍肉と比較して良い場合は○、変わらない場合は△、悪い場合は×とした。旨味は、解凍肉と比較して多い場合は○、変わらない場合は△、少ない場合は×とした。臭みは、解凍肉と比較して多い場合は○、変わらない場合は△、少ない場合は×とした。ジューシーさは、解凍肉と比較して大きい場合は○、変わらない場合は△、小さい場合は×とした。その結果を表9に示す。
【0058】
【表9】
表9に示すように、羊うちもも肉、豚ロース肉、豚うちもも肉、牛肩ロース肉および牛リブロース肉の熟成肉は、それぞれの解凍肉と比較して、肉が軟らかく、風味が良く、旨味が多く、臭みが小さく、ジューシーさが大きかった。一方で、親鳥もも肉の熟成肉は、解凍肉と比較して、肉の軟らかさ、風味、旨味、臭みおよびジューシーさが変わらなかった。すなわち、実施例1(1)のBパターンの方法で熟成することにより、親鳥もも肉では、肉の軟らかさ、風味、旨味およびジューシーさの向上効果や臭みの低減効果が得られないのに対して、羊うちもも肉、豚ロース肉、豚うちもも肉、牛肩ロース肉および牛リブロース肉では、肉の軟らかさ、風味、旨味およびジューシーさが向上し、臭みが低減されることが明らかになった。親鳥もも肉において、肉の軟らかさ、風味、旨味およびジューシーさの向上効果や臭みの低減効果が得られなかったのは、肉用鶏の肉は解凍肉の段階で既に十分に軟らかく、熟成が完了しており、長期間の熟成には適さないためであると考えられた。この結果から、実施例1(1)のBパターンの方法は、比較的長期間の熟成に適した肉については、部位を問わず、好適であることが明らかになった。