(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-123393(P2015-123393A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】土壌重金属類の抽出除去方法及び抽出除去システム
(51)【国際特許分類】
B09C 1/02 20060101AFI20150609BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20150609BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20150609BHJP
B01F 17/42 20060101ALI20150609BHJP
B01F 17/48 20060101ALI20150609BHJP
B01F 17/02 20060101ALI20150609BHJP
B01F 17/18 20060101ALI20150609BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20150609BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20150609BHJP
【FI】
B09B3/00 304K
C02F1/28 BZAB
B01F17/42
B01F17/48
B01F17/02
B01F17/18
C22B3/00 A
C22B7/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-268515(P2013-268515)
(22)【出願日】2013年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 栄一
【テーマコード(参考)】
4D004
4D077
4D624
4K001
【Fターム(参考)】
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4K001DB08
4K001DB09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】トンネル工事で発生する土壌から重金属類を除去して、重金属類の溶出量及び含有量を基準値以下にするためのシステムを提供する。
【解決手段】トンネル掘削により生じた重金属類含有土壌と洗浄剤水溶液とを混合して、該土壌に含有された重金属類を水溶液中に溶出させる土壌洗浄装置と、土壌を含有するスラリーを、土壌と水溶液とに分離する固液分離装置と、水溶液から重金属類を回収する重金属類回収装置と、を含む、土壌に含有された重金属類の除去システム。対象重金属類はAs,Cd,Cr,Hg,Cu,Se,Pb,F,B及びこれらの塩並びにこれらのイオンである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル掘削により生じた重金属類含有土壌と洗浄剤水溶液とを混合して、該土壌に含有された重金属類を水溶液中に溶出させる土壌洗浄装置と、
土壌を含有するスラリーを、土壌と水溶液とに分離する固液分離装置と、
水溶液から重金属類を回収する重金属類回収装置と、
を含む、土壌に含有された重金属類の除去システム。
【請求項2】
重金属類が、砒素、カドミウム、クロム、水銀、銅、セレン、鉛、フッ素、ホウ素及びこれらの塩、及びこれらのイオン、及びこれらの組み合わせから成る群より選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
洗浄剤水溶液が、水、酸性物質、金属塩化物、およびフッ化物を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
酸性物質が塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、スルファミン酸、フッ酸、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
金属塩化物が、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化アンモニウム及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
フッ化物がフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項3に記載のシステム。
【請求項7】
洗浄剤水溶液が、さらに分散剤を含む、請求項3〜6のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル及びこれらの混合物からなる群より選択される、請求項7に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重金属類を含有する土壌から重金属類を除去するためのシステム及び除去方法に関するものである。特に本発明は、トンネル工事中に発生する土壌をその場で処理して、土壌に含有される重金属類を除去し、再利用あるいは廃棄可能なレベルの土壌を得るためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
四方を海に囲まれ、多くの火山や温泉が存在する日本の土壌には自然由来の重金属類、たとえば砒素、カドミウム、鉛、ホウ素、フッ素、クロムが多く含まれている。したがって密閉型トンネル工事で発生した残土にも基準値を上回る重金属類が含有されていることがある。平成15年2月15日に施行の土壌対策法(旧法)においては、指定基準を超過する特定有害物質が専ら自然由来の可能性が高いと判断できる場合の土壌については適用の対象外とされていた。しかし平成2年4月1日の改正土壌汚染対策法の施行に伴い、人為的なものであろうと自然由来のものであろうと、規制の対象となることになった。そこで、トンネルの掘削により発生した残土が、当該法の規定する基準値を上回る場合は、これを埋め戻したり、廃棄したりすることはできない。このような土壌を埋め立てたり廃棄したりするためには、土壌からの重金属類溶出量ならびに含有量の値が基準値を下回るよう処理する必要がある。発生した残土を一時的に保管し、他の場所へ移送して、砒素をはじめとする重金属類を除去する処理を行ってから廃棄することが行われていたが、保管や移送の過程で重金属類が流出・溶出するおそれがある。
【0003】
特許文献1には、密閉型シールド機械による掘削工事の工程に、重金属類汚染土壌の不溶化処理を一体化させた方法が提案されている。特許文献1では、密閉型シールド機械のカッター前面あるいは側部に重金属類不溶化材を注入するための注入口を設け、掘削により発生した土壌に重金属不溶化材を直接注入する。これにより汚染土壌を地上に出すことなくその場で処理するため、未処理の土壌が空気中に晒されることなく風雨による飛散や流出・溶出のおそれがなくなるとされている。特許文献1には重金属類不溶化材としてどのような物質を用いるかについては言及されていない。
【0004】
特許文献2にはトンネルずりに含まれる自然由来砒素を処理するための吸着・不溶化剤が提案されている。特許文献2では、製鉄工場で産するカルシウム・マグネシウム化合物に鉄塩、アルミニウム塩を含む中和剤を添加して製造された液状重金属吸着剤に陽イオン交換容量の高い天然ゼオライトを混練した粉末状又は粒状の重金属吸着処理剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−316599号
【特許文献2】特開2011−136311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、トンネル工事で発生する土壌から重金属類を除去して、重金属類の溶出量及び含有量を基準値以下にするためのシステムを提供することを目的とする。特に本発明は、トンネル掘削により発生した砒素含有土壌をその場で抽出除去し、以って砒素溶出量及び含有量共に基準値以下となった土壌を得る方法を提供する。
【0007】
本発明の態様は以下の通りである。
1. トンネル掘削により生じた重金属類含有土壌と洗浄剤水溶液とを混合して、該土壌に含有された重金属類を水溶液中に溶出させる土壌洗浄装置と、
土壌を含有するスラリーを、土壌と水溶液とに分離する固液分離装置と、
水溶液から重金属類を回収する重金属類回収装置と、
を含む、土壌に含有された重金属類の除去システム。
2. 重金属類が、砒素、カドミウム、クロム、水銀、銅、セレン、鉛、フッ素、ホウ素及びこれらの塩、及びこれらのイオン、及びこれらの組み合わせから成る群より選択される、上記1に記載のシステム。
3. 洗浄剤水溶液が、水、酸性物質、金属塩化物、およびフッ化物を含む、上記1または2に記載のシステム。
4. 酸性物質が塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、スルファミン酸、フッ酸、及びこれらの混合物からなる群より選択される、上記3に記載のシステム。
5. 金属塩化物が、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化アンモニウム及びこれらの混合物からなる群より選択される、上記3に記載のシステム。
6. フッ化物がフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、及びこれらの混合物からなる群より選択される、上記3に記載のシステム。
7. 洗浄剤水溶液が、さらに分散剤を含む、上記3〜6のいずれかに記載のシステム。
8. 分散剤が、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル及びこれらの混合物からなる群より選択される、上記7に記載のシステム。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、トンネル掘削により生じた重金属類含有土壌と洗浄剤水溶液とを混合して、該土壌に含有された重金属類を水溶液中に溶出させる土壌洗浄装置と、土壌を含有するスラリーを、土壌と水溶液とに分離する固液分離装置と、水溶液から重金属類を回収する重金属類回収装置と、を含む、土壌に含有された重金属類の除去システムにかかる。
【0010】
トンネル掘削とは、シールド工法、TBM(トンネル・ボーリング・マシーン)工法、山岳工法等、一般的なトンネル掘削工法を含む方法により、鉄道、車両、人などが通行するための道路トンネルや、発電用導水路トンネルなどを施工するために、土壌を掘削することを意味する。トンネル掘削により発生する土壌とは、上記のような工法により発生するいわゆる残土のことである。本発明のシステムは、この残土に重金属類が含まれている場合に、これを廃棄するに先立ち処理するためのものである。ここで「重金属類」とは、本来の化学的な意味での「重金属」ではなく、土壌環境基準で指定されている有害物質のうち有機化合物を除くもの全てを指すものとする。すなわち本発明における重金属類とは、砒素、カドミウム、クロム、水銀、銅、セレン、鉛、フッ素、及びホウ素を意味する。土壌中ではこれらの重金属類の多くが塩やイオンの形態で存在しているため、これら重金属類の塩あるいはイオンも本発明の「重金属類」に含まれるものとする。すなわち本明細書において「砒素」という場合は、「砒素塩」「砒素イオン」も意味する。重金属類の塩とは、たとえば硫化物塩、炭酸塩、硫酸塩、水酸化物塩を指す。これらの塩が土壌中の水に溶解して多種多様なイオンの形態で存在している。
【0011】
本発明のシステムは、トンネル掘削により発生した重金属類含有土壌と洗浄剤水溶液とを混合し、スラリー状態で撹拌し、土壌に含有された重金属類を水溶液中に溶出させるための土壌洗浄装置を含む。該土壌洗浄装置は、土壌と洗浄剤水溶液とを接触させるための土壌洗浄槽と、土壌スラリーを撹拌するための撹拌機と、洗浄剤を添加するための洗浄剤槽とを含むことができる。
【0012】
洗浄剤は、土壌に含有された重金属類を土壌から追い出し、洗浄剤水溶液中に溶出させる機能を有するものが好適である。重金属類の多くは土壌に強く固定されており、単に水に接触させるだけでは洗浄することができない場合も多い。洗浄剤は、まず土壌を均一に水中に分散させて洗浄剤との接触面積を増やす作用を有すること、次いで分散した土壌中から重金属類(およびそれらのイオン)を引きはがす作用を有すること、そして引きはがした重金属類(およびそれらのイオン)を土壌から追い出す作用を有することが求められる。そこで本発明で使用する洗浄剤は、酸性物質、金属塩化物、フッ化物及び場合により分散剤を含む水溶液の形態であることが望ましい。
【0013】
ここで酸性物質は、土壌中に存在する負電荷を弱め、これを中和する働きをする。土壌に存在する負電荷を酸性溶媒が弱め、負電荷に強く固定された重金属類のイオン(主に陽イオンの形態で存在)を引きはがしやすくすることができる。水溶液の状態で酸性を示すものであれば、どのような酸性物質を用いてもよいが、土壌に存在する負電荷を弱める作用を有する好適な酸性物質としては、強酸性を示す塩酸、硫酸、硝酸、またはリン酸が挙げられ、そのほか、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、乳酸、およびスルファミン酸等の有機酸を挙げることができる。またこれらの酸性物質の2以上の混合物を用いることもできる。
【0014】
金属塩化物とは、アルカリ金属塩化物またはアルカリ土類金属塩化物を意味する。金属塩化物中の金属陽イオンが、土壌から引きはがされた重金属類陽イオンと置換することにより、陽イオンを洗浄剤水溶液中に追い出す働きをする。金属塩化物であれば如何なる金属塩化物を用いてもよいが、金属陽イオン部分が比較的重金属類陽イオンと置き換わりやすい金属塩化物として、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化アンモニウムなどが挙げられ、これらの2以上の混合物を用いることが好適である。
【0015】
フッ化物とは、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物を意味する。金属フッ化物中のフッ化物イオンが土壌の構造を破壊する作用を有するため、好適に用いることができる。フッ化物イオンは土壌中に含まれているケイ素と反応し、ケイ素−酸素結合を切断するため、この作用により土壌の構造が崩壊し、重金属類陽イオンを内包する空間が広がり、重金属類陽イオンを容易に追い出すことが可能となる。金属フッ化物であれば如何なる金属塩を用いてもよいが、使用する際の安定性等を考慮して、たとえばフッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムが挙げられ、これらの2以上の混合物を用いることも可能である。
【0016】
本発明において場合により含んでいても良い分散剤は、土壌中の土や砂を均一に分散させ、水中に拡散させやすくする働きがある。すなわち分散剤は土壌と本発明の洗浄剤の洗浄成分とをよく接触させるために使用する。分散剤は、土壌に吸着する親油性部位と、水と親和性を有する親水性部位とをあわせもつ化合物であることが好ましい。本発明に用いる分散剤として、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、ドデシル硫酸ナトリウム、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテルが好適であり、これらの分散剤の2以上を混合して用いることもできる。
【0017】
この他、本発明で使用する洗浄剤は、使用の現場の状況に応じて、通常洗浄剤として使用される添加剤を適宜加えることができる。例えば、酸化防止剤、安定剤、発泡剤等を使用することができる。
【0018】
本発明のシステムは、洗浄剤を用いて土壌に含有された重金属類を洗浄剤水溶液中に溶出させた後のスラリーを、土壌と水溶液とに分離する固液分離装置を有する。固液分離装置は、重金属類が溶解した洗浄剤水溶液と重金属類を含まない土壌とに分離するための装置であり、主に固液分離機と、分離された土壌とを保管する土壌保管槽とから構成される。固液分離機としては、土壌の脱水を行うことができる機器であれば如何なるものを用いることもできるが、遠心分離器やフィルタープレス機等を用いることが好適である。もはや重金属類が含まれなくなった土壌は土壌保管槽に一時保管して、適切な処理を施した後に廃棄あるいは埋め立てする。
【0019】
本発明のシステムは、固液分離装置を用いて重金属類が溶解した洗浄剤水溶液と重金属類を含まない土壌とを分離した後得られる洗浄剤水溶液から、重金属類を回収するための重金属類回収装置を有する。重金属類回収装置は、主に固液分離装置から発生した洗浄剤水溶液から重金属類を回収するための処理をする回収槽と、かかる処理後の水を保管するための廃水保管槽とから構成される。ここで洗浄剤水溶液から重金属類を回収する処理とは、重金属類を吸着することができる物質を投入することを意味する。重金属類を吸着する物質とは、たとえば無機化合物(鉄、カルシウムなど)、各種吸着材(活性炭、ゼオライト、キレート樹脂など)、粘度鉱物(ベントナイト、タルク、クレーなど)、有機高分子化合物(アニオン系樹脂、たとえばポリアクリル酸ソーダ、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸ソーダ−アクリルアミド強重合体、またはデンプン−アクリル酸−アクリル酸ソーダ共重合体;非イオン系樹脂、たとえばポリアクリルアミド、アルキルセルロース、またはポリエチレンオキシド)、固化剤(セメント、石灰など)あるいは固化遅延剤(クエン酸など)が挙げられる。これらの物質を重金属類が溶解した洗浄剤水溶液中に添加して、適宜撹拌し、重金属類を吸着材に吸着させて、重金属類を回収する。もはや重金属類が含まれなくなった、処理後の洗浄水は、廃水保管槽に一時保管して、適切な処理を施した後に廃棄する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明のシステムを模式的に表した図面である。
【
図2】本発明のシステムの「土壌洗浄装置」及び「固液分離装置」の機能を実験室的に測定するための方法を説明する図面である。
【
図3】本発明のシステムの「重金属類回収装置」の機能を実験室的に測定するための方法を説明するための図面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のシステムは、トンネル掘削により発生した重金属類を含有する土壌と、洗浄剤とを接触させて、土壌から重金属類を除去し、埋め立てや廃棄が可能な土壌と排水あるいは再利用可能な水とを得るために用いることができる。たとえば本発明のシステムを用いて、自然由来の砒素を多く含有する土壌の処理に用いる場合、含有されている砒素の量や用いる洗浄剤の種類にもよるが、通常は砒素を含有する土の体積を基準として1倍〜1000倍、好ましくは3倍〜500倍、さらに好ましくは5倍〜100倍の洗浄剤を使用する。
【0022】
図1を参照しつつ、本発明のシステムを用いた土壌の処理方法を説明する。トンネル掘削により発生した、処理すべき土壌を、機関車等を用いた通常の方法により地上またはトンネル内の掘削現場から離れた場所まで運搬し、本発明の土壌洗浄装置に入れる。土壌洗浄装置中の土壌洗浄槽に土壌を入れ、ここに洗浄剤槽から洗浄剤水溶液を添加する。ここで砒素を含有する土壌と洗浄剤とを撹拌してよく混合し、土壌中の砒素を洗浄剤水溶液に溶出させる。これにより洗浄剤水溶液は砒素含有水溶液となる。次いで、スラリーを固液分離装置に送り、固液分離器を用いて砒素含有水溶液と土壌とに分離する。分離した土壌は土壌保管槽に保管し、砒素含有水溶液は次の重金属類回収装置に送る。重金属類回収装置中の重金属類回収槽に砒素吸着材を添加し、撹拌して接触させ、砒素含有水溶液中の砒素を吸着材に吸着させる。得られた砒素を含まない水は、廃水保管槽に一時保管し、本発明のシステムの土壌洗浄装置で再利用するか、あるいは必要に応じて適宜処理して排水又は工業用水等として再利用する。
【0023】
本発明のシステムによる処理は、野外で行うことが多いため、本発明のシステムはたとえば−20℃〜40℃付近の温度で好適に用いることができるように設計されている。本発明のシステムの重金属類洗浄装置による洗浄の効果を高めるために、特に土壌洗浄槽内の温度を高くすることもできる。たとえば、60℃以上、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは100℃以上で洗浄することができる。また重金属類含有土壌と洗浄剤水溶液とを接触させる際の撹拌は、工業用の撹拌機を使用することができ、洗浄の効果を高めるために、1以上の撹拌羽根等を備えた大型撹拌機を用いる等して、激しく撹拌することができる。また、土壌洗浄装置を複数備えて、複数回の洗浄を繰り返すことにより、重金属類をほぼ確実に洗浄剤水溶液に移行させることも可能である。
【0024】
本発明のシステムは、トンネル掘削で発生した重金属類を含有する土壌を現場で処理するために用いることができる。特に本発明のシステムは、トンネル掘削により発生した自然由来の砒素を多く含有する土壌から溶出しやすい砒素を除去し、砒素溶出量の基準値を下回る土壌を得て、その場で埋め立てたり廃棄したりすることを可能とする。一方、本発明のシステムの利用により発生した水溶液をそのまま土壌の洗浄に再利用し、あるいは適切な処理を行うことによりその場で排水あるいは別の用途に再利用することが可能となる。
【実施例】
【0025】
本発明のシステムを用いた重金属類含有土壌の処理を実験室規模にて行うモデル実験を行った。モデル実験の概要を
図2に示す。
【0026】
洗浄剤の調製
以下の5種類の洗浄剤を調製した:
(1)マグネシウム系洗浄剤(pH1)(「Mg系洗浄剤(pH1)」と称する。)の調製
ポリビーカーに水(500mL)を入れ、氷浴につけて冷やした。次に35%塩酸(30g、 純正化学)と塩化カリウム(30g、純正化学)、塩化マグネシウム(30g、純正化学)をゆっくりと加え、完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を1Lにした。
【0027】
(2)F系洗浄剤(pH1)(「F系洗浄剤(pH1)」と称する。)の調製
ポリビーカーに水(500mL)を入れ、氷浴につけて冷やした。次に35%塩酸(30g、純正化学)と塩化カリウム(30g、純正化学)、フッ化カリウム(30g、純正化学)をゆっくりと加え、完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を1Lにした。
【0028】
(3)フッ化物系洗浄剤(pH2.5)(「F系洗浄剤(pH2.5)」と称する。)の調製
ポリビーカーに水(500mL)を入れ、氷浴につけて冷やした。次に35%塩酸(3g、純正化学)と塩化カリウム(30g、純正化学)、フッ化カリウム(30g、純正化学)をゆっくりと加え、完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を1Lにした。
【0029】
(4)フッ化物系洗浄剤(pH12)(「F系洗浄剤(pH12)」と称する。)の調製
ポリビーカーに水(500mL)を入れ、氷浴につけて冷やした。次に水酸化ナトリウム(5g、純正化学)と塩化カリウム(30g、純正化学)、フッ化カリウム(30g、純正化学)をゆっくりと加え、完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を1Lにした。
【0030】
(5)フッ化物系洗浄剤(pH14)(「F系洗浄剤(pH14)」と称する。)の調製
ポリビーカーに水(500mL)を入れ、氷浴につけて冷やした。次に水酸化ナトリウム(50g、純正化学)と塩化カリウム(30g、純正化学)、フッ化カリウム(30g、純正化学)をゆっくりと加え、完全に溶解するまで撹拌した。最後に水を加えて全量を1Lにした。
【0031】
(実施例1)
洗浄剤水溶液と砒素含有土壌との接触
砒素含有土壌から洗浄剤水溶液を用いて砒素を洗浄剤水溶液に溶出させることを試みた。この実験は、本発明のシステムにおける「土壌洗浄装置」での洗浄工程と、「固液分離装置」での固液分離工程とを、実験室レベルにてモデル実験したものである。
【0032】
セパラブルフラスコ(1L)に砒素含有土壌(砒素溶出量:0.030mg/L、砒素含有量:10mg/kg、200g)と洗浄剤水溶液(300mL)とを入れ、フラスコ内温度を25℃に維持し、30分間回転速度300rpmで撹拌した。撹拌終了後、吸引濾過して土壌と洗浄水水溶液とを分離し、土壌を水により洗浄した。回収した土壌の砒素溶出量と砒素含有量を測定し、洗浄水溶液中の砒素濃度を行った。
【0033】
なお、土壌からの砒素溶出量の測定は土壌汚染対策法に基づく告示(平成15年3月6日環境省告示第18号、土壌溶出量調査に係る測定法を定める件)に記載の方法に従い、土壌中の砒素含有量の測定は土壌汚染対策法に基づく告示(平成15年3月6日環境省告示第19号、土壌含有量調査に係る測定法を定める件)に記載の方法に従い行った。さらに洗浄水溶液中の砒素濃度の測定は日本工業標準調査会の「JISK0102、61.3水素化物発生ICP発光分光分析法」に記載の方法に従い行った。
【0034】
洗浄剤として、上の実験で調製した5種類の洗浄剤の他、塩酸水溶液(pH1.0)と水酸化ナトリウム水溶液(pH12)を用いた。実験の結果を以下に示す:
【0035】
【表1】
【0036】
土壌汚染対策法に定められた砒素溶出量の基準値は0.01mg/Lである。そこで砒素含有土壌の洗浄の効果については、この基準値を下回るか否かで判断することができる。水、塩酸水溶液、及び水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後の土壌からの砒素溶出量はいずれも基準値を下回ることができなかった。これに対しMg系洗浄剤、F系洗浄剤(pH1およびpH2.5)を用いた場合も、土壌からの砒素溶出量は基準値を下回った。なお、土壌汚染対策法に定められた土壌中に許容される砒素含有量は150mg/kg以下である。したがって用いた砒素含有土壌の砒素含有量は元々基準値を下回るものである。すなわち、本実験で用いた土壌は、砒素そのものの含有量が格別に多い土壌ではなく、溶出しやすい砒素が含有されているために埋め立てや廃棄をすることができない土壌であると云える。上記の洗浄実験により、溶出しやすい砒素を除去し、基準値を下回る土壌を得ることができた。
【0037】
(実施例2)
洗浄水からの砒素の吸着
洗浄水溶液と砒素含有土壌とを接触させ、固液を分離した結果得られた洗浄水には、土壌に含まれていた溶出しやすい砒素が含まれている。砒素含有洗浄水溶液から砒素を吸着させる試みを行った。本実験は、本発明のシステムにおける「重金属類回収装置」での重金属類回収工程を実験室規模にてモデル実験したものである。モデル実験の概略は
図3に示す。
【0038】
シリンジに砒素吸着材としてA型ゼオライト(東ソー)を25g充填した。上記の洗浄実験(F系洗浄剤(pH1)を用いた洗浄実験)で得られた砒素含有洗浄水溶液(砒素濃度:0.11mg/kg、50g)をシリンジに入れ、シリンジのピストンを押して水溶液を回収した。回収した水溶液中の砒素の濃度をICP発光分析装置(ICPS−8100、島津製作所)を用いて測定した。
【0039】
F系洗浄剤(pH1)を用いた洗浄実験で得られた砒素含有洗浄水溶液を、A型ゼオライトで処理したところ、得られた水溶液の砒素濃度は0.03mg/kgであった。
【0040】
(実施例3)
洗浄剤水溶液の再利用
上記の砒素吸着実験により最終的に得られた水溶液(砒素濃度:0.03mg/kgのもの)を用いて、実施例1の洗浄実験を行った。この実験は、一度使用した洗浄剤水溶液から重金属類を吸着除去させることにより、洗浄剤水溶液として再利用できるかどうかを確かめるものである。
【0041】
セパラブルフラスコ(1L)に、実施例2で得られた水溶液(砒素濃度:0.03mg/kg、150mL)と実施例1の砒素含有土壌(砒素溶出量:0.030mg/L、砒素含有量:10mg/kg、50g)とを入れ、フラスコ内温度を25℃に維持し、30分間回転速度300rpmで撹拌した。撹拌終了後、吸引濾過して土壌と洗浄剤水溶液とを分離し、土壌を水により洗浄した。回収した土壌の砒素溶出量を測定したところ、0.009mg/Lとなり、溶出量基準値0.01mg/Lを下回った。
【0042】
本発明のシステムでは、洗浄剤を繰り返し用いることにより、使用する洗浄剤の量を削減しうることがわかる。