特開2015-123488(P2015-123488A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-123488(P2015-123488A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】金属箔重ね点接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20150609BHJP
【FI】
   B23K20/12 364
   B23K20/12 344
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-271630(P2013-271630)
(22)【出願日】2013年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】313015100
【氏名又は名称】OBARA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豪生
(72)【発明者】
【氏名】毛利 有延
(72)【発明者】
【氏名】早藤 健司
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA08
4E167BG06
4E167BG12
4E167BG13
4E167BG26
4E167DC02
(57)【要約】
【課題】重ね合わせた複数枚の金属箔を摩擦撹拌点接合することにより、良好な接合状態の摩擦撹拌点接合部を有利に得ることの出来る金属箔重ね点接合方法を提供すること。
【解決手段】複数枚の金属箔2からなる箔重合部4と下側金属板6との摩擦撹拌点接合に際して、それぞれ別個に軸方向に移動可能とされた工具本体12とピン部材14とを有する複動式回転工具10を用いると共に、工具本体12に外挿せしめられて、軸方向に移動可能とされたクランプ部材16にて接合部位の外周部を押圧した状態下で、ピン部材14を差し込む一方、工具本体12を後退せしめて、そこに、湧き出るメタル18を収容した後、ピン部材14の後退時に生じるピン穴内に、かかるメタル18が、工具本体12の前進によって押し込まれるようにして、ピン穴を埋め込むようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の金属箔を重ね合わせてなる箔重合部の下側に金属板を配置し、軸回りに回転せしめられる回転工具を、かかる箔重合部を貫通して該下側の金属板に達するように差し込んで、摩擦撹拌を行い、それら箔重合部と下側金属板とを一体的に摩擦撹拌点接合せしめる方法にして、
前記回転工具として、軸に垂直な端面を有する、軸方向に移動可能な工具本体と、該工具本体内に同軸的に配され、且つ該工具本体とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされたピン部材とを有する複動式回転工具を用いると共に、該複動式回転工具の工具本体に対して同軸的に外挿せしめられ、軸方向に移動可能とされた円筒状のクランプ部材を設けて、該クランプ部材にて、前記摩擦撹拌点接合せしめられる部位の外周部を押圧してなる状態下において、該複動式回転工具の工具本体とピン部材の何れか一方の部材を前進せしめて、該摩擦撹拌点接合部位に差し込む一方、他方の部材を後退せしめて、該摩擦撹拌点接合部位との間に空間を形成し、前記一方の部材の差し込みによって湧き出るメタルを該空間内に収容しつつ、前記摩擦撹拌点接合を行った後、該差し込まれた一方の部材の後退時に生じる穴内に、前記空間に収容したメタルを前記他方の部材の前進によって押し込み、該穴を埋め込むようにしたことを特徴とする金属箔重ね点接合方法。
【請求項2】
前記クランプ部材にて前記摩擦撹拌点接合部位の外周部を押圧して、該摩擦撹拌点接合部位の固定を行った後、前記複動式回転工具の工具本体とピン部材の端面を揃えた状態で該摩擦撹拌点接合部位に位置する前記箔重合部に接触せしめ、次いで前記一方の部材の前進及び前記他方の部材の後退を同時的に実施することを特徴とする請求項1に記載の金属箔重ね点接合方法。
【請求項3】
前記箔重合部の上側にも所定の金属板が配置され、前記回転工具が、該上側の金属板から該箔重合部を貫通して前記下側の金属板に達するように差し込まれて、前記摩擦撹拌点接合が、それら箔重合部及び上下両側の金属板に対して行われることを特徴とする請求項1に記載の金属箔重ね点接合方法。
【請求項4】
前記複動式回転工具の工具本体及びピン部材と前記クランプ部材とを、それらの端面を揃えた状態で、前記摩擦撹拌点接合部位及びその外周部に接触せしめ、そして該クランプ部材にて該摩擦撹拌点接合部位の外周部を押圧して、該摩擦撹拌点接合部位の固定を行う一方、前記一方の部材の前進及び前記他方の部材の後退を同時的に実施することを特徴とする請求項3に記載の金属箔重ね点接合方法。
【請求項5】
前記下側の金属板への前記一方の部材の挿入深さをa(mm)とし、該下側の金属板の板厚をb(mm)としたとき、次式:0.01≦a≦0.75×b且つ0.2≦bの関係を満足するように、前記摩擦撹拌点接合操作が実施されることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の金属箔重ね点接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔重ね点接合方法に係り、特に、複動式の回転工具を用いて摩擦撹拌点接合することにより、重ね合わせた複数枚の金属箔を、電気的及び機械的に有利に接合して、一体化することの出来る摩擦撹拌点接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム箔や銅箔といった導電性に優れた金属箔は、電池用集電体等の電極として、その複数枚を重ね合わせた形態において利用されている。そして、その電極部に相当する金属箔の重ね合わせ部位は、金属箔同士を直接に接するようにして重ねて固定することで、電気的にも、機械的にも一体化した形で接合することが、必要とされているのである。
【0003】
ところで、そのような重ね合わせた金属箔の従来の接合方法としては、一般に、超音波を用いた接合方式が採用されてきているのであるが、そのような方式では、接合強度が低く、充放電の際における熱膨張により、金属箔の重ね合わせ部が剥離する恐れがあり、安定した接合が得られない問題があった。そこで、この問題を解決する方法として、固相接合である摩擦撹拌接合手法を用いた接合方式が提案され、例えば、特開2003−126972号公報や特開2005−103586号公報等において、その一例が明らかにされている。
【0004】
しかしながら、特開2003−126972号公報に開示の方式は、複数の金属箔を、それらよりも厚い板厚の金属板にて両側から挟み込み、一体化した後、摩擦撹拌接合するものであるが、そこでは、軸回りに回転せしめられる柱状の工具本体の先端に、所定長さのピンが一体的に設けられてなる構造の固定式摩擦撹拌接合ツール(回転工具)を用いることが前提とされているところから、点接合の場合において、接合終了後に、接合ツールの引き抜きによって、ピン穴(プローブ穴)の如き工具(ツール)穴が接合部に残存することとなり、そしてこの工具穴の存在によって接合強度が劣化するようになるために、そこでは、そのような接合強度の劣化を回避すべく、点接合ではなく、線接合にて行うこととされている。しかして、線接合を採用した場合において、重ね合わされた金属箔の固定を余程しっかりしないと、接合操作に際しての接合ツールの移動により、重ね合わせた箔同士がずれる恐れがあったのである。なお、そのような問題を解決するために、箔同士を接着剤で固定する方式も提案されているが、接着剤による接着工程の付加によって、工数やコストの増加は避けられないものであった。
【0005】
また、特開2005−103586号公報には、複数の金属箔を収束した集合体を摩擦撹拌接合する方法が明らかにされており、そこでは、かかる集合体を上下両側からの加圧によるカシメ、或いは超音波接合、コールドウェルド、アーク溶接による仮接合により固定した状態で摩擦撹拌接合したり、或いは更に同種金属からなる補強基材を当接、配置した状態で摩擦撹拌接合したりしているのであるが、この接合方式も、固定式摩擦撹拌接合ツール(回転工具)による線接合が前提とされており、このため、上記の特開2003−126972号公報における方式と同様な問題を内在するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−126972号公報
【特許文献2】特開2005−103586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、重ね合わせた複数枚の金属箔を摩擦撹拌点接合することにより、良好な接合状態の摩擦撹拌点接合部を有利に得ることの出来る金属箔重ね点接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、複数枚の金属箔を重ね合わせてなる箔重合部の下側に金属板を配置し、軸回りに回転せしめられる回転工具を、かかる箔重合部を貫通して該下側の金属板に達するように差し込んで、摩擦撹拌を行い、それら箔重合部と下側金属板とを一体的に摩擦撹拌点接合せしめる方法にして、前記回転工具として、軸に垂直な端面を有する、軸方向に移動可能な工具本体と、該工具本体内に同軸的に配され、且つ該工具本体とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされたピン部材とを有する複動式回転工具を用いると共に、該複動式回転工具の工具本体に対して同軸的に外挿せしめられ、軸方向に移動可能とされた円筒状のクランプ部材を設けて、該クランプ部材にて、前記摩擦撹拌点接合せしめられる部位の外周部を押圧してなる状態下において、該複動式回転工具の工具本体とピン部材の何れか一方の部材を前進せしめて、該摩擦撹拌点接合部位に差し込む一方、他方の部材を後退せしめて、該摩擦撹拌点接合部位との間に空間を形成し、前記一方の部材の差し込みによって湧き出るメタルを該空間内に収容しつつ、前記摩擦撹拌点接合を行った後、該差し込まれた一方の部材の後退時に生じる穴内に、前記空間に収容したメタルを前記他方の部材の前進によって押し込み、該穴を埋め込むようにしたことを特徴とする金属箔重ね点接合方法を、その要旨とするものである。
【0009】
なお、かかる本発明に従う金属箔重ね点接合方法の好ましい態様の一つによれば、前記クランプ部材にて前記摩擦撹拌点接合部位の外周部を押圧して、該摩擦撹拌点接合部位の固定を行った後、前記複動式回転工具の工具本体とピン部材の端面を揃えた状態で該摩擦撹拌点接合部位に位置する前記箔重合部に接触せしめ、次いで前記一方の部材の前進及び前記他方の部材の後退を同時的に実施する構成が、有利に採用されることとなる。
【0010】
また、本発明の望ましい態様の他の一つによれば、前記箔重合部の上側にも所定の金属板が配置され、前記回転工具が、該上側の金属板から該箔重合部を貫通して前記下側の金属板に達するように差し込まれて、前記摩擦撹拌点接合が、それら箔重合部及び上下両側の金属板に対して行われることとなる。
【0011】
そして、本発明にあっては、そのような箔重合部の上下両側に所定の金属板が配置せしめられてなる状態において、摩擦撹拌点接合操作が実施される場合において、前記複動式回転工具の工具本体及びピン部材と前記クランプ部材とを、それらの端面を揃えた状態において、前記摩擦撹拌点接合部位及びその外周部に接触せしめ、そして該クランプ部材にて該摩擦撹拌点接合部位の外周部を押圧して、該摩擦撹拌点接合部位の固定を行う一方、前記一方の部材の前進及び前記他方の部材の後退を同時的に実施する構成が、好ましく採用される。
【0012】
さらに、本発明に従う金属箔重ね点接合方法の望ましい他の態様によれば、前記下側の金属板への前記一方の部材の挿入深さをa(mm)とし、該下側の金属板の板厚をb(mm)としたとき、次式:0.01≦a≦0.75×b且つ0.2≦bの関係を満足するように、前記摩擦撹拌点接合操作が実施されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う金属箔重ね点接合方法によれば、摩擦撹拌接合であっても、回転工具の引き抜きにて生じるピン穴の如き工具穴の残存しない複動式の回転工具(摩擦撹拌接合ツール)を用いると共に、そのような複動式回転工具の工具本体に対して同軸的に外挿せしめられて、軸方向に移動可能とされた円筒状のクランプ部材を設けて、このクランプ部材にて、摩擦撹拌点接合部位の外周部を押圧して、固定せしめてなる状態下において、摩擦撹拌点接合操作が実施され、そしてその際に生じたメタルが、差し込まれた複動式回転工具の工具本体又はピン部材の後退(引き抜き)時に生じる穴内に押し込まれて、かかる穴が埋め込まれるようになっているところから、そのような差し込み穴(工具穴)の残留による接合強度の低下等の問題が、何等惹起されることがないことは勿論、接合部位の健全化が有利に実現され得て、電気的に且つ機械的に良好な接合状態を得ることが出来ることとなったのである。
【0014】
しかも、本発明にあっては、複動式回転工具(工具本体)の外周に外挿せしめられたクランプ部材が、軸周りに回転しない状態において、摩擦撹拌点接合部位の外周部を押圧することとなるところから、箔重合部に対して、直接に、摩擦撹拌点接合操作を実施しても、かかる箔重合部の最外側部に位置する金属箔をクランプ部材にて押圧して、固定せしめ得るために、箔重合部における重ね合わされた金属箔の破れやズレ等の問題の発生が効果的に抑制乃至は阻止され得ることとなり、以て、良好な点接合を行うことが可能となるのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る金属箔重ね点接合方法の実施前の形態の一例を示す縦断面説明図である。
図2図1に示される状態から、本発明に従う金属箔重ね点接合操作の前半の工程を断面形態において示す工程説明図であって、(a),(b),(c)及び(d)は、それぞれ、各工程における一形態を示す説明図である。
図3図2の工程に続く金属箔重ね点接合操作の後半の工程を断面形態において示す説明図であって、(a),(b)及び(c)は、それぞれ、その工程の一形態を示す説明図である。
図4】本発明に従う複動式回転工具を金属箔重合部の下側に配置した金属板に達するまで差し込んで摩擦撹拌せしめてなる形態を示す、拡大断面説明図である。
図5】本発明に従う金属箔重ね点接合方法における複動式回転工具の駆動方式の他の一例に係る工程の一つを拡大して示す、断面説明図である。
図6図2乃至図3に示される金属箔重ね点接合方法の他の一例に係る工程説明図であって、その前半の工程について、図2に対応した各工程における一形態を、それぞれ示している。
図7図6の工程に続く金属箔重ね点接合操作の後半の工程を示す、図3に対応する説明図であって、各工程における一形態が、断面形態において示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0017】
先ず、図1には、本発明に従う金属箔重ね点接合操作の実施に際して、所定の金属箔2の複数枚が重ね合わされてなる箔重合部4を用い、その下側に配置せしめた金属板6が、所定の支持ベース(図示せず)上に保持されてなる状態下において、かかる箔重合部4の上方に、複動式回転工具10を配置してなる形態が、示されている。
【0018】
そこにおいて、複動式回転工具10による摩擦撹拌点接合が、箔重合部4及び下側金属板6に対して実施されることとなるのであるが、その箔重合部4を構成する複数枚の金属箔2の材質は、得られる摩擦撹拌点接合製品の用途に応じて、適宜に選択されるところであって、例えば、導電性が必要な用途の場合においては、アルミニウム或いは銅を材質とするものが、好適に用いられることとなる。具体的には、アルミニウムの場合において、JIS規格の1000系合金である1050、1200等、3000系合金である3003等、8000系合金である8021,8079等の材質が好適に採用され、また銅の場合においては、圧延銅箔が用いられ、例えばタフピッチ銅(TPC)、無酸素銅(OFC)等の材質が好適に採用されることとなる。
【0019】
また、箔重合部4の下側に配置される金属板6にあっても、導電性が必要な用途であれば、上記した金属箔2と同材質であるのが好ましいが、それ以外の用途であれば、異材質であっても、何等差し支えない。なお、この下側金属板6の板厚としては、箔重合部4の固定が充分に行われ得るように、適宜に決定されることとなるが、一般に、0.2mm以上の板厚が、有利に採用されることとなる。また、その上限は、用途により適宜に決定され、特に限定されるものではないが、例えば電極として用いる場合には、導電性の観点から、厚めのものは好ましくないところから、3mm以下の板厚が、好ましく採用されることとなる。
【0020】
さらに、複動式回転工具10は、箔重合部4の重ね合わされた複数枚の金属箔2を貫通して、下側金属板6に至る、一体的な摩擦撹拌点接合部を形成するものであって、軸に垂直な方向の下端面を有し、軸方向に移動可能で且つ軸回りに回転可能とされた円筒状の工具本体(ショルダ部材とも称される)12と、この工具本体12内に同軸的に配され、かかる工具本体12とは別体に構成されて、別個に軸方向に移動可能とされ且つ軸回りに回転せしめられる円柱状のピン部材(プローブとも称される)14とを含んで、構成されている。なお、このような構成の複動式回転工具10については、特許第3709972号公報や特開2012−196680〜196682号公報等に明らかにされており、本発明では、それら公知の構造の複動式回転工具が、適宜に用いられることとなる。また、工具本体12の外周には、軸方向に移動可能とされているが、軸回りに回転せしめられることのない、円筒状のクランプ部材16が、同軸的に外挿せしめられている。
【0021】
そして、本発明に従う金属箔重ね点接合方法の一例によれば、かかる図1に示される状態から、図2に示される如き工程に従って、摩擦撹拌点接合操作が進行せしめられるのである。即ち、先ず、図2(a)に示される如く、クランプ部材16が下降せしめられて、箔重合部4の上面に対して、その摩擦撹拌点接合せしめられる部位の外周部(外側部位)を押圧して、かかる箔重合部4がしっかりと固定されるように構成される。なお、ここで、摩擦撹拌点接合部位は、複動式回転工具10の下面に対応した大きさとなる。そして、このクランプ部材16による箔重合部4の押圧固定の状態下において、複動式回転工具10を構成する工具本体12とピン部材14は、それぞれの下端面が面一とされて、図2(b)に示されるように、回転状態下において、箔重合部4の上面に接触するまで、それぞれ軸方向に下降せしめられるのである。
【0022】
次いで、かかる複動式回転工具10が、その下面全面において、箔重合部4の上面に接触させられて、摩擦撹拌点接合部位の全域に亘って摩擦熱が発生せしめられるようになった後、ここでは、図2(c)に示される如く、ピン部材14が、更に下降(前進)せしめられて、箔重合部4の摩擦撹拌点接合部位に差し込まれて、かかる箔重合部4が摩擦撹拌されるようにして、重ね合わされた複数の金属箔2の相互の接合が行われるようにする一方、工具本体12は、漸次上昇(後退)するように、軸方向に移動せしめられることによって、箔重合部4の摩擦撹拌点接合部位との間に空間が形成されるようにして、その空間内に、ピン部材14の箔重合部4への差し込みによって湧き出るメタル18が収容されるように構成して、摩擦撹拌点接合操作が進行せしめられるのである。そして、かかるピン部材14が、下側金属板6に到達し、更に、図2(d)に示される如く、下側金属板6内に所定深さ入り込むまで、摩擦撹拌操作が進行せしめられて、箔重合部4と下側金属板6との間の接合が充分に確保され得る段階において、ピン部材14の下降と工具本体12の上昇とが、それぞれ停止されることとなる。
【0023】
そして、図2の(d)に示される状態から、今度は、逆に、図3(a)に示されるように、ピン部材14が上昇(後退)せしめられる一方、工具本体12は下降(前進)するように駆動されて、かかる工具本体12の下端面にてメタル18を押し下げることにより、ピン部材14の上昇にて生じる穴内に、メタル18が押し込まれるようになっている。即ち、工具本体12の上昇によって形成される空間内に収容されたメタル18が、かかる工具本体12の下降によって、ピン部材14の上昇により生じる穴内に押し込まれるようにして、かかる穴を埋め込むようにしたのであり、これによって、図3(b)に示される如く、ピン部材14の上昇に起因する穴の発生が、効果的に阻止され得て、平坦なメタル18表面が形成され得ることとなるのである。そして、複動式回転工具10やクランプ部材16が上昇せしめられて、箔重合部4から離脱させられることにより、図3(c)に示される如く、平坦な表面の摩擦撹拌点接合部20を有する、箔重合部4と下側金属板6との接合体が得られることとなるのである。
【0024】
従って、このような摩擦撹拌による金属箔重ね点接合操作によれば、箔重合部4から下側金属板6に差し込まれるピン部材14が引き抜かれた際においても、その差し込み穴には、工具本体12の上昇によって生じた空間に収容される摩擦撹拌時のメタルが、かかる工具本体12の下降によって埋め込まれるようになるところから、そのような摩擦撹拌点接合操作によって形成される摩擦撹拌点接合部位20には、ピン部材14の差し込み穴が何等形成されることはなく、その表面が平坦な形態において形成されることとなるのであり、このため、接合強度の低下等の問題を何等惹起するようなことがないことに加えて、箔重合部4における各金属板2の相互の接合状態、更には箔重合部4と下側金属板6との間の接合状態も良好に確保され得て、健全な摩擦撹拌点接合部位20が形成され得るのである。
【0025】
特に、図4に示されるように、ピン部材14の下側金属板6に対する挿入(差し込み)深さをa(mm)とすると共に、下側金属板6の板厚をb(mm)としたときに、次式:0.01≦a≦0.75×b且つ0.2≦bの関係を満足するように、摩擦撹拌点接合操作が実施されるようにすることによって、更に良好な点接合を実現することが可能となるのである。なお、かかる下側金属板6へのピン部材14の挿入深さ(a)が0.01mm未満の場合においては、その挿入深さが浅すぎて、下側金属板6が最下部の金属箔2、更には箔重合部4から剥離するおそれがあるからであり、またかかる挿入深さ(a)が下側金属板6の板厚(b)の0.75倍よりも大きくなると、下側金属板6への過剰な挿入により、下側金属板6が変形する等の恐れがあるからである。
【0026】
また、図2に示される如く、無回転のクランプ部材16が、箔重合部4の最上部の金属箔2に直接に接触して、かかる箔重合部4を押圧して、固定せしめた状態において、摩擦撹拌点接合操作が開始されるようにすることによって、そのようなクランプ部材16と下側金属板6とによる押さえにより、箔重合部4に対して直接に摩擦撹拌点接合操作を実施しても、箔重合部4の上部の金属箔2の破れ等の問題を効果的に抑制しつつ、有利に摩擦撹拌点接合操作を進行せしめることが可能となるのである。
【0027】
しかも、図2(a)及び(b)に示される如く、複動式回転工具10における工具本体12とピン部材14の下端面を揃えて面一とした形態において、それら工具本体12とピン部材14とを同時に下降させて、箔重合部4の上面に接触せしめ、従って摩擦熱が発生するようにした後、ピン部材14の下降及び工具本体12の上昇を同時に行って、摩擦撹拌操作を進行せしめるようにすることによって、箔重合部4の上部の各金属箔2に対する摩擦撹拌作用が、摩擦撹拌点接合部位の全域に亘って効果的に進行せしめられ得ることとなり、以て、ピン部材14の差し込みによる金属箔2のめくれ上がりや破れ等の問題の発生が、効果的に抑制乃至は阻止され得ることとなる利点がある。
【0028】
なお、上述した実施形態においては、ピン部材14が箔重合部4を貫通して、下側金属板6に達するように差し込まれているが、これに代えて、図5に示される如く、円筒状の工具本体12を下降せしめて、箔重合部4から下側金属板6に向かって差し込むようにする一方、ピン部材14を上昇せしめて、そこに、工具本体12の摩擦撹拌によって生じるメタル18を収容するようにして、本発明に従う摩擦撹拌点接合操作を行うことも可能である。
【0029】
そして、この図5に示される如き摩擦撹拌点接合操作においては、工具本体12とピン部材14の作動を、先の図2及び図3に示される摩擦撹拌点接合操作の場合とは全く逆の形態において進行せしめるようにすることにより、先の例と同様な作用・効果が享受されることとなるのであり、更に、工具本体12の下側金属板6に対する差し込み深さ(a)にあっても、図4を用いて説明した場合と同様な下側金属板6の板厚(b)との関係が好適に採用され、これによって、良好な摩擦撹拌点接合部20が形成され得るのである。
【0030】
また、本発明にあっては、図6及び図7に示される如く、下側金属板6上に積層配置した箔重合部4の上に、更に、上側金属板8を載置して、それら下側金属板6と上側金属板8にて箔重合部4を挟圧固定せしめた状態下において、図2及び図3に示される如き摩擦撹拌点接合操作を実施することも可能である。なお、かかる上側金属板8の板厚は、特に限定されるものでないが、箔重合部4の固定と、差し込まれる複動式回転工具10の部材(工具本体12又はピン部材14)を考慮して、0.1mm〜1mm程度の板厚が好ましく採用されることとなる。
【0031】
具体的には、図6(a)に示される如く、複動式回転工具10を構成する工具本体12及びピン部材14が、それぞれ回転せしめられる一方、クランプ部材16は、無回転状態下において、それら各部材の下端面が揃えられて、面一とされた後、同時に下降せしめられて、図6(b)に示されるように、上側金属板8の上面に接触せしめられるのである。次いで、クランプ部材16は、そのまま上側金属板8を押圧して、所定の圧力下において上側金属板8を介して箔重合部4及び下側金属板6の一体的な固定、保持を行う一方、工具本体12とピン部材14とは、先の図2及び図3の場合と同様に作動せしめられて、ピン部材14の差し込みによって生じるメタルが、工具本体12の上昇によって、そこに収容され得るようになっている。そして、下側金属板6まで差し込まれたピン部材14の引き抜き時においても、図7に示される如く、先の図3と同様に、かかるピン部材14の引き抜き穴に工具本体12の下降によるメタル18の押し込みによって、図7(c)に示される如く、摩擦撹拌点接合部20の平坦な表面が、効果的に形成され得て、良好な接合状態が実現せしめられるのである。
【0032】
このように、箔重合部4の上に、更に上側金属板8を載置して、本発明に従う摩擦撹拌点接合を行うようにすることにより、箔重合部4は、上側金属板8を介して押圧されるようになるところから、かかる箔重合部4における金属箔2の破れ等の問題が、より一層有利に回避され得ることとなるのであり、以て、より良好な摩擦撹拌点接合部20を実現することが出来るのである。
【0033】
また、かくの如き上側金属板8を重ね合わせた状態下において、下側金属板6と箔重合部4と上側金属板8との摩擦撹拌点接合を行うに際して、図6(a)及び(b)から明らかな如く、複動式回転工具10を構成する工具本体12と、ピン部材14と、工具本体12の外周に外挿されたクランプ部材16とのそれぞれの下端面を揃えて、面一とした状態下において、上側金属板8の上面に接触させた後、摩擦撹拌点接合操作が進行せしめられるようになっているところから、接触面積が大きいことによる接合安定性と、クランプ外側にバリが溢れ出ることを抑制するという効果が得られる。
【0034】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものでないことが、理解されるべきである。
【0035】
例えば、複動式回転工具10やクランプ部材16としては、公知の各種の構造のものが適宜に採用され、また工具本体12やピン部材14の軸周りの回転機構や、軸方向の移動機構、更にはクランプ部材16の軸方向の移動機構についても、公知の各種の構造や機構が、適宜に採用可能である。
【0036】
また、複動式回転工具10における工具本体12及びピン部材14の軸方向への移動のタイミングや、クランプ部材16の軸方向への移動のタイミングにあっても、上記の実施形態の場合のみに限られるものではなく、本発明の目的を達成し得る範囲において、軸周りの回転のタイミングや軸方向への移動のタイミングが、適宜に選択されることとなる。例えば、図6及び図7に示される摩擦撹拌点接合方式において、複動式回転工具10の下降に先立って、クランプ部材16を軸方向に下降せしめて、先に、上側金属板8に当接させて、かかる上側金属板8と箔重合部4と下側金属板6との固定を行うようにすることも可能である。
【0037】
さらに、図6及び図7に示されるように、箔重合部4上に上側金属板8を更に重ね合わせて、それら上側金属板8と箔重合部4と下側金属板6とを一体的に摩擦撹拌点接合する場合において、かかる上側金属板8と下側金属板6とを別体の部材として用いる場合の他、それらを一体化して、断面コ字状の一つの部材として、そのコ字状空間に箔重合部4を挿入した形態において、それらの一体的な摩擦撹拌点接合を、本発明に従って行うことも可能である。
【0038】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことも、また理解されるべきである。
【0040】
先ず、下記表1に示される各種金属箔(2)と、上側金属板(8)と、下側金属板(6)とを準備して、下記表1に示される実験例1〜6の如く組み合わせた。また、そこでは、かかる金属箔(2)の40枚を重ね合わせて、箔重合部(4)を構成した。なお、それら金属箔と上側及び下側金属板の寸法は、それぞれ80mm×80mmとした。
【0041】
【表1】
【0042】
次いで、かかる実験例1〜6の組合せからなる、金属箔(2)の箔重合物(4)と上側金属板(8)と下側金属板(6)との摩擦撹拌点接合を、下記表2に示される接合方式A〜Dにおいて、それぞれ、表2及び表3に示される回転工具を用いた条件下において、摩擦撹拌点接合を実施した。なお、接合方式Aは、図6及び図7に示される方式に従って、また接合方式Bは、図2及び図3に示される方式に従って、更に接合方式Cは、図5に示される方式に従って、それぞれ、摩擦撹拌点接合を実施するものである。また、接合方式Dは、ピン部材(14)が工具本体(12)と一体的に形成されてなるものであって、工具本体12の下端面より下方に1.3mmの突出長さにて一体的に設けられてなるピン部を同軸的に有する固定式回転工具を用いて、摩擦撹拌点接合を行う方式である。そして、下記表2に示される、それぞれの実験例における回転工具(ピン部材若しくはピン部又は工具本体)の差し込み深さ(a)及びそれと板厚との比(a/b)を与えるように、それぞれの摩擦撹拌点接合操作を実施した。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
かかる各種の摩擦撹拌点接合操作を実施した結果、本発明に従う摩擦撹拌点接合方式にて複動式回転工具とクランプ部材を用いて得られた実験例1〜4に係る摩擦撹拌点接合物は、重ね合わせた金属箔(2)のズレも認められず、またピン穴の如き工具穴の存在もなく、良好な接合状態の接合体であることを認めたが、実験例5及び6における、固定式回転工具を用いて得られた摩擦撹拌点接合物にあっては、何れも、重ね合わせた金属箔のズレが認められ、またピン穴(工具穴)と共に、湧き出たメタルによって生じたバリが存在しており、接合部の品質として望ましくないものであることを認めた。
【符号の説明】
【0046】
2 金属箔 4 箔重合部
6 下側金属板 8 上側金属板
10 複動式回転工具 12 工具本体
14 ピン部材 16 クランプ部材
18 メタル 20 摩擦撹拌点接合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7