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特開2015-124113ガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-124113(P2015-124113A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20150609BHJP
【FI】
   C03B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-269020(P2013-269020)
(22)【出願日】2013年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小山 昭浩
(57)【要約】
【課題】成形装置から揮発した白金族金属の凝集を抑え、白金族金属の凝集物がシートガラスに混入するのを防止する。
【解決手段】本発明の製造方法は、ダウンドロー法によりガラス基板を製造する方法であって、ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、熔融ガラスを、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置を用いて、成形炉内でシートガラスに成形する成形工程と、を備え、前記成形工程では、前記成形炉内雰囲気に含まれる白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通るような気流を前記成形炉内につくることを特徴とする。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウンドロー法によりガラス基板を製造する方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
熔融ガラスを、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置を用いて、成形炉内でシートガラスに成形する成形工程と、を備え、
前記成形工程では、前記成形炉内雰囲気に含まれる白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通るような気流を前記成形炉内につくることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記成形装置は、熔融ガラスを成形するための成形体を有し、
前記成形工程では、前記成形炉内の前記成形体より上方に設けられた通気口に前記気流を導く、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記通気口から前記成形炉内の気流を吸引する、請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、前記領域を除く前記成形炉内の領域に前記気流を導くよう、前記成形炉内に、熔融ガラス、および白金族金属の揮発物に対し不活性な不活性ガスを供給する、請求項1から3のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
ダウンドロー法によりガラス基板を製造するガラス基板製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解装置と、
成形炉内で熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置であって、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置と、を備え、
前記成形装置は、前記成形炉内雰囲気に含まれる白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通るような気流を前記成形炉内につくることを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウンドロー法を用いてガラス基板を製造する方法では、熔融ガラスをシートガラスに成形する成形工程が行われる。成形工程では、成形炉内に配された成形装置に熔融ガラスを供給して、成形装置の成形体から流下させ、これを成形炉の下流側に配されたローラで引っ張ることによりシートガラスに成形される(例えば、特許文献1)。
従来の成形装置として、耐熱性を上げるために、一部が白金または白金合金等で構成されたものがある。例えば、成形体に装着され、白金または白金合金等からなるガイドを備える成形装置が知られている。ガイドは、成形体の長手方向の両端に装着されることで、成形体から流れ出る熔融ガラスの幅方向(熔融ガラスの流れる方向と直交する方向)への広がりを規制する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−189220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形されたシートガラスに異物が混入する場合があることが分かった。
【0005】
本発明は、成形装置から揮発した白金族金属の凝集を抑え、白金族金属の凝集物がシートガラスに混入するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、成形されたシートガラスに異物が混入する原因について検討を重ねたところ、成形装置の白金族金属からなる部分が、成形炉内の高温雰囲気に接することで酸化されて揮発し、当該揮発物を含む成形炉内の気流が、周りよりも温度の低い領域を通過する際に、当該気流中に含まれる白金族金属の分圧が飽和蒸気圧を下回り、その結果、気流中の白金族金属が凝集し、当該凝集物が熔融ガラスに付着して、シートガラスに混入されることが明らかにされた。
【0007】
本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法である。
[1]当該製造方法は、ダウンドロー法によりガラス基板を製造する方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
熔融ガラスを、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置を用いて、成形炉内でシートガラスに成形する成形工程と、を備え、
前記成形工程では、前記成形炉内雰囲気に含まれる白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通るような気流を前記成形炉内につくることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0008】
[2]前記成形装置は、熔融ガラスを成形するための成形体を有し、
前記成形工程では、前記成形炉内の前記成形体より上方に設けられた通気口に前記気流を導く、[1]に記載のガラス基板の製造方法。
【0009】
[3]前記通気口から前記成形炉内の気流を吸引する、[2]に記載のガラス基板の製造方法。
【0010】
[4]前記成形工程では、前記領域を除く前記成形炉内の領域に前記気流を導くよう、前記成形炉内に、熔融ガラス、および白金族金属の揮発物に対し不活性な不活性ガスを供給する、[1]から[3]のいずれかに記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
本発明の別の一態様は、ガラス基板製造装置である。
[5]当該製造装置は、ダウンドロー法によりガラス基板を製造するガラス基板製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解装置と、
成形炉内で熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置であって、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置と、を備え、
前記成形装置は、前記成形炉内雰囲気に含まれる白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通るような気流を前記成形炉内につくることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形装置から揮発した白金族金属の凝集を抑え、白金族金属の凝集物がシートガラスに混入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
図2】本実施形態における熔解工程〜切断工程を行う装置の一例を模式的に示す図である。
図3】本実施形態で用いられる、成形炉内に配された成形装置を側方から見た図である。
図4】従来の成形装置を側方から見た図である。
図5】本実施形態の変形例に係る成形装置を側方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
以降で説明する白金または白金合金等は、白金族金属であり、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、および、これらの中から選択された2以上の金属の合金を含む。
【0015】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、切断工程(ST6)と、を主に有する。
【0016】
熔解工程(ST1)は熔解装置で行われる。熔解工程では、熔解装置に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。なお、ガラス原料には清澄剤が添加されることが好ましい。清澄剤は、環境負荷低減の点から、酸化錫が好適に用いられる。
【0017】
清澄工程(ST2)は、清澄装置で行われ、熔融ガラスを清澄する。具体的には、熔融ガラス中に含まれるガス成分を熔融ガラスから放出する、あるいは、ガス成分を熔融ガラス中に吸収する。
【0018】
均質化工程(ST3)では、清澄装置から延びる配管を通って供給された攪拌装置内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、熔融ガラスの均質化を行う。
【0019】
成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)は、成形装置を含む成形ユニットにおいて行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、ダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等、公知の方法を用いることができる。以降で説明する成形工程は、ダウンドロー法として、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形を行う場合を例とする。
徐冷工程(ST5)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0020】
切断工程(ST6)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0021】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST6)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、図2に示すように、主に熔融ガラス生成ユニット100と、成形ユニット200と、切断ユニット300と、を有する。熔融ガラス生成ユニット100は、熔解装置101と、清澄装置102と、攪拌装置103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。成形ユニット200は、成形装置210を有する。
【0022】
図2に示す例の熔解装置101は、ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる。
清澄装置102は、白金または白金合金等からなる清澄管の中において、熔融ガラスMGを通過させる間、電極板間に電流を流して清澄管を例えば通電加熱して脱泡処理を少なくとも行う。
攪拌装置103は、スターラ103aによって熔融ガラスMGを攪拌して均質化する。
成形ユニット200は、清澄装置102、攪拌装置103で処理された熔融ガラスMGを、成形炉30内で、成形装置210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、成形してシートガラスSGとする。なお、図2において、成形装置210は簡略化して示される。さらに、徐冷炉40において、板厚偏差、歪、及び反りがシートガラスSGに生じないように、シートガラスSGが徐冷される。成形炉30と徐冷炉40とは、シートガラスSGが流れる方向に隣接して設けられている。
切断装置300は、徐冷したシートガラスSGを切断してガラス基板とする。
【0023】
(成形工程及び成形装置)
図3に、成形装置210を示す。
図3は、成形炉内に配された成形装置210を側方から見た図である。
【0024】
成形炉30は、仕切り部材20によって徐冷炉40と区画された、仕切り部材20より上方の空間である。成形炉30は、外壁24と、外壁24の内側に配された内部隔壁16とを備えている。内部隔壁16の内側には、成形装置210が配されている。外壁24と内部隔壁16の間には、図示されない複数の発熱体が配されている。成形装置210と発熱体とは、内部隔壁16により仕切られている。
【0025】
成形装置210は、成形工程ST4を行うための装置であり、成形体14と、成形体14に装着されるキャップ部材230,240と、ガラス供給管106の一部と、を有する。
【0026】
成形体14は、熔融ガラス生成ユニット100から流れてくる熔融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法によりシート状のガラス(シートガラスSG)に成形する機能を有する。成形体14は、長手方向(図3の左右方向)に垂直な方向に切断した断面形状が楔形形状を有している。成形体14は、例えば、ジルコニア質耐火物、高アルミナ質耐火物等の焼成耐火物や、黒鉛質レンガ等の不焼成耐火物からなる。中でも、耐熱性に優れる点で、好ましくはジルコニア質耐火物からなる。成形体14の上部には、熔解装置101から流れてくる熔融ガラスを受け入れる溝部18が形成されている。溝部18は、図3に示されるように、上端の高さ位置がキャップ部材230側からキャップ部材240側に進む方向に徐々に低くなるよう傾斜するとともに、溝底(不図示)の高さ位置がキャップ部材230側からキャップ部材240側に進む方向に徐々に高くなっている。成形体14の側面14bは、溝部18からオーバーフローした熔融ガラスMGが流下するように、鉛直方向に沿って形成されている。側面14bの下方に位置する成形体14の傾斜面14cは、成形体14の両側面14b,14bを流下した熔融ガラスMGが、成形体14の楔形形状の断面の頂点である最下端部14dで合流するように、側面14bに対して傾斜している。なお、本明細書では、最下端部14dで合流した後のガラスをシートガラスSGといい、最下端部14dで合流する前のガラスを熔融ガラスMGという。
【0027】
キャップ部材230,240は、成形体14の長手方向の両端に、成形体14の外周壁面を覆うよう嵌め合わせられる部材である。キャップ部材230,240は、成形工程において、成形体14からオーバーフローして流下する熔融ガラスMGの幅方向への広がりを規制する。キャップ部材230には、ガラス供給管106が接続され、ガラス供給管106内の熔融ガラスが通る穴(不図示)が形成されている。なお、ガラス供給管106のうち、成形炉30内に延びる部分は、成形体14およびキャップ部材230,240とともに、成形装置210を構成する。キャップ部材230、240およびガラス供給管106は、白金または白金合金等からなる。
【0028】
内部隔壁16は、発熱体と成形体14との間に配置され、成形体14を取り囲むように、成形体14の周囲に配置されている。内部隔壁16はSiC焼結体であり、より詳しくは、高密度の焼結SiCの板である。内部隔壁16は、SiCの含有率が95wt%以上のSiC焼結体であることが好ましい。また、内部隔壁16の温度の均一性を高める観点から、熱伝導率が1200度で20W/mK以上、より好ましくは25W/mK以上、さらに好ましくは30W/mK以上であるSiC焼結体を用いることが好ましい。
【0029】
外壁24と内部隔壁16との水平方向(図3の紙面奥行方向)の間には、複数の発熱体が図3の左右方向に延びるよう配置されている。外壁24と内部隔壁16との垂直方向の間には、他の複数の発熱体が、図3の紙面奥行方向に延びるよう配されている。
【0030】
仕切り部材20は、成形体14の最下端部14dの近傍に配置される板状の部材であり、断熱部材である。仕切り部材20は、成形体14の最下端部14dから流下していくシートガラスSGの幅方向および厚み方向の両側に、水平となるように配置されている。仕切り部材20は、シートガラスSGが通過する隙間を残してその上下の雰囲気を仕切り、断熱することにより、仕切り部材20の上側から下側への熱の移動を抑制している。仕切り部材20の下方には、図示されない冷却ローラが配置されている。冷却ローラは、仕切り部材20の下方に位置する徐冷炉40に配置されている。
【0031】
(高温度領域を通るような気流の作成)
本実施形態では、成形炉30内の雰囲気に含まれる白金または白金合金等の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域(以降、高温度領域という)を通るような気流を成形炉30内につくる。言い換えると、本実施形態では、成形炉30内の雰囲気に含まれる白金または白金合金等の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度未満の領域(以降、低温度領域という)を通らないような気流を成形炉30内につくる。ここで、成形炉30内の雰囲気は、特に内部隔壁16内の雰囲気をいう。上記白金または白金合金等の揮発物は、成形工程において、成形装置210の白金または白金合金等からなる部分が酸化されて、成形炉30内の雰囲気中に揮発したものである。当該揮発物は、白金または白金合金等の酸化物であり、例えば酸化白金である。このような気流を成形炉30内につくることにより、成形炉30内の雰囲気に含まれる白金または白金合金等の揮発物の分圧(濃度)がその飽和蒸気圧を下回ることが起きず、当該揮発物が凝集することが抑えられる。
【0032】
内部隔壁を備えた成形炉において、内部隔壁内の温度は、一般的に、失透を抑制しつつ成形体から流れ出る熔融ガラスの肉厚を最適な厚さにする観点から、内部隔壁内の領域によって異なる温度になるよう設定される。一般的には、熔融ガラスをオーバーフローさせる成形体の溝部(上部)に接する領域が他の領域より温度が高くなるよう設定され、さらに、当該溝部に接する領域の中では、成形体の長手方向の中央部に接する領域が、他の領域よりも温度が高くなるよう設定されている。このため、成形体を、図4に示されるように側方から見たとき、キャップ部材230,240の垂直方向の上端および下端に接する4つの領域R(図中、破線の円で囲まれた領域)の温度は相対的に低くなり、低温度領域が形成される。中でも、キャップ部材230,240の下端と接する2つの領域Rは、内部隔壁16内で最も温度が低くなる。なお、図4は、従来の成形装置を側方から見た図である。図4に示す符号には、便宜的に、他の図面に示す本実施形態に含まれる各部に対応する符号を用いている。
【0033】
一方で、内部隔壁16内には、成形炉30内よりも温度の低い徐冷炉40内から、シートガラスSGと仕切り部材20の間の隙間を通って流れ込む上昇気流が生じている。この上昇気流は、内部隔壁16内に流れ込んだ後、成形装置210および熔融ガラスMGの周りを取り囲むように上昇し、内部隔壁16の天井と接する空間に達した後、当該天井の傾きに沿って高い方へと移動する。ここで、内部隔壁16は、複数の焼結SiCの板で構成され、これら焼結SiCの板同士の間には図示されない隙間があるため、内部隔壁16の天井と接する空間に達した気流は、これらの隙間を通って、図4に示す破線の矢印のように、内部隔壁16の外側に排出される。このような気流に白金または白金合金等の揮発物が含まれていると、気流が高温度領域から低温度領域Rに差し掛かったとき、高温度領域に含まれていた白金または白金合金等の揮発物の飽和蒸気圧が下がることで、当該揮発物の分圧は低温度領域Rにおける飽和蒸気圧を下回り、これにより、雰囲気中に含まれる白金または白金合金等の揮発物が凝集する場合がある。特に、内部隔壁16内に延びるガラス供給管には、管内の熔融ガラスを冷却するための放熱板(不図示)が鉛直方向に延びるよう接続されている場合があり、当該放熱板の付近に位置する内部隔壁16の内壁の最も高い位置にある壁面であって、気流が排出される部分でもある符号16aで示す壁面の部分の温度が下がり、白金または白金合金等が析出しやすくなっている。なお、説明の便宜のため、図3において、ガラス供給管は図示を省略する。
【0034】
白金または白金合金等の凝集物は、雰囲気中を微粒子の状態で浮遊したり、内部隔壁の天井に析出して熔融ガラス上に落下したりして、熔融ガラスの表面に付着し、シートガラス中に混入するおそれがある。本実施形態では、高温度領域を通るような気流が内部隔壁16内でつくられ、内部隔壁16内の気流が低温度領域を通らないことで、成形装置210から揮発した白金または白金合金等の揮発物の凝集が抑えられる。これにより、白金または白金合金等の凝集によって生じた凝集物がシートガラスに混入するのを防止できる。
【0035】
高温度領域を通るような気流は、図3に示されるように、内部隔壁16内の成形体14より上方に設けられた通気口17に導かれることが好ましい。通気口17は、例えば、内部隔壁16を構成するSiC焼結体の板の間に隙間をあけることで作られるが、レンガで煙突状の通路を設けることで作られてもよい。このような通気口17が設けられていることで、図3において矢印で示されるように、内部隔壁16内の気流が通気口17に集まるような気流が形成され、内部隔壁16内の気流が低温度領域を通らないようにし、気流中の白金または白金合金等が凝集するのを確実に抑えることができる。なお、通気口が上記煙突状の通路である場合は、当該通路の外周表面には、排出される気流中に含まれる白金または白金合金等が凝集して通路の内壁等に析出しないよう、ヒータ等で保温されることが好ましい。通気口17が設けられる位置は、熔融ガラスMGの真上(鉛直方向の上方)の領域であれば特に制限されないが、内部隔壁16内の気流が低温度領域を通ることをより確実に回避する観点からは、熔融ガラスMGの幅方向(図3の左右方向)の中央の領域に設けられることが好ましい。通気口17は、内部隔壁の1または複数箇所に設けることができる。
【0036】
内部隔壁16に通気口17を設けた場合に、通気口17から内部隔壁16内の気流を吸引してもよい。吸引は、例えば、内部隔壁16と外壁24との間の空間を減圧することによって行うことができる。これにより、内部隔壁16内の気流が低温度領域を通るのをより確実に抑えることができる。
【0037】
本実施形態に用いられる成形装置は、少なくとも一部が白金または白金合金で構成されたものであればよく、成形装置のどの部分が白金または白金合金等で構成されていてもよい。例えば、成形体14や、成形装置210に含まれる他の部材が、白金または白金合金等からなる部分を含んでいてもよい。他の部材としては、図示されないが、例えば、成形体14を下方から支持するとともに、成形体14を、長手方向の両側から、キャップ部材230およびキャップ部材240を介して押圧するよう挟持するブロック状の支持部材が挙げられる。
【0038】
(変形例)
次に、図5を参照して、本実施形態の変形例を説明する。
図5は、本実施形態の変形例に係る、成形炉30内に配された成形装置210を示す図である。
【0039】
この変形例では、内部隔壁16に通気口17を設ける代わりに、高温度領域に気流を導くよう、内部隔壁16内に、熔融ガラス、および白金族金属の揮発物に対し不活性な不活性ガスを供給することで、高温度領域を通るような気流をつくる。具体的には、内部隔壁16の鉛直方向に延びる壁面のうち、キャップ部材230に隣接する壁面16c、およびキャップ部材240に隣接する壁面16dに隣接する壁面16dに、不活性ガスを供給するためのノズル27が設けられている。ノズル27は、壁面16c,16dのそれぞれに複数設けられている。不活性ガスには、例えば、窒素ガスや、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスが用いられる。ノズル27は、外壁24の外側に設けられた、図示されないガス源に配管を介して接続され、配管の途中に設けられた弁を操作することで、内部隔壁16内に不活性ガスを供給することができる。壁面16c,16dのそれぞれに設けられた複数のノズル27の間で、不活性ガスの供給量は等しくてもよく、異なっていてもよい。
【0040】
このような変形例によれば、図5の水平方向の矢印で示されるように、各ノズル27から、内部隔壁16の壁面から成形体14に向かう方向に不活性ガスが供給されることで、内部隔壁16の壁面16c,16d側に向かおうとする気流が押しやられるため、内部隔壁16内の気流が高温度領域を確実に通るようにすることができる。
【0041】
なお、ノズル27は、図示されないが、図5の紙面奥行方向にも複数設けられることが好ましい。これにより、内部隔壁16の気流がより確実に高温度領域を通るようにすることができる。ノズル27から供給される不活性ガスの向きは、水平方向に制限されない。また、ノズル27から供給されるガスの供給量に応じて、内部隔壁16内の気流が内部隔壁16の外側に排出されやすくするために、内部隔壁16の天井部分においてSiC焼結体の板同士の間の隙間を適宜広げてもよい。
変形例において、さらに、内部隔壁16に、上記通気口17を設けてもよい。この場合に、さらに、通気口17から内部隔壁16内の気流を吸引してもよい。
【0042】
(ガラス組成)
本発明は、成形炉内を、高温に保つ必要がある場合に適している。具体的には、成形炉内が1000℃以上である場合に適しており、1200℃以上である場合にさらに適しており、1300℃以上である場合に特に適している。
失透温度が高いガラスを用いてガラス基板を製造する場合には、成形炉内を高温に保つ必要があるので、本発明は、失透温度が高いガラスを用いてガラス基板を製造する際に適している。具体的には、本発明は、失透温度が1000℃以上であるガラス基板の製造に好適であり、1160℃以上のガラス基板の製造により好適である。
【0043】
また、無アルカリガラスやアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスは、失透温度が高いので、本発明は、無アルカリガラスやアルカリ微量含有ガラスから構成されるガラス基板を製造する場合に適している。無アルカリガラスの一例として、質量%で表示して、以下の組成範囲のガラス基板が挙げられる。
SiO:50〜70%、
Al:0〜25%、
:1〜15%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜30%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaの合量)、
を含有する無アルカリガラス。
なお、上述したように、ガラス基板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’Oの合計が0.10%以上0.5%以下、好ましくは0.20%以上0.5%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’Oの合計が0.10%未満でもよい。すなわち、本発明は、無アルカリガラスやアルカリ微量のガラス基板が使用されるフラットパネルディスプレイを製造する場合に適している。
本発明は、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板、カバーガラスに好適に用いられる。本発明は、その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。また、本発明は、ポリシリコンTFTを用いた液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【0044】
(実験例)
本実施形態の効果を確認するために、白金族金属からなる部分を含む成形装置を用いて、オーバーフローダウンドロー法に用いて成形工程を行い、熔融ガラスの成形を行った。成形装置には、ジルコニア質耐火物からなる成形体、白金合金からなるキャップ部材、および白金合金からなるガラス供給管を用いた。内部隔壁16の天井部分に、図3に示されるように、通気口17を設け、白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通るような気流をつくって、成形工程を行った。熔融ガラスのガラス組成は、上記無アルカリガラスの組成とした。成形工程は、成形炉内の温度1200〜1300℃の範囲で行った。成形工程における熔融ガラスの温度は、1200〜1350℃であった。なお、成形工程後、徐冷、切断し、縦2270mm×横2000mmのガラス基板を複数作製し、そのうち無作為に抽出した100枚について、レーザ顕微鏡を用いてガラス基板表面に混入している異物の数を数え、その平均値を求めた(実施例)。
一方、白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通る気流をつくらずに、その他の点を実施例と同様にして成形工程を行うとともに、異物の数を数えた(比較例)。
その結果、実施例では比較例と比較してガラス基板の単位面積当たりの異物の数が低減しており、白金族金属の揮発物の分圧が飽和蒸気圧となる温度以上の領域を通る気流を作って成形工程を行うことにより、シートガラスへの異物の混入が防止されることが確認された。
【0045】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0046】
14 成形体
16 内部隔壁
17 通気口
24 外壁
27 ノズル
30 成形炉
101 熔解装置
106 ガラス供給管
210 成形装置
230、240 キャップ部材
図1
図2
図3
図4
図5