特開2015-124114(P2015-124114A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-124114ガラス板の製造方法、およびガラス板製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-124114(P2015-124114A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法、およびガラス板製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20150609BHJP
   C22B 11/02 20060101ALI20150609BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20150609BHJP
【FI】
   C03B17/06
   C22B11/02
   C22B7/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-269025(P2013-269025)
(22)【出願日】2013年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小山 昭浩
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA41
4K001BA14
4K001DA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物がシートガラスに混入するのを防止するガラス板の製造方法、および製造装置を提供する。
【解決手段】ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、熔融ガラスMGを、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置210を用いて、成形炉内でシートガラスSGに成形する成形工程と、を備え、前記成形工程では、前記成形装置210から揮発して凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラスMG内に混入しないような前記成形炉内の位置に設置された低温部材50又は外部電源に接続された電極等で、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集するガラス板の製造方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
熔融ガラスを、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置を用いて、成形炉内でシートガラスに成形する成形工程と、を備え、
前記成形工程では、前記成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラス内に混入しないような前記成形炉内の位置で、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集することを特徴とするガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程では、前記成形装置の下流側に流れた熔融ガラスの部分と接する前記成形炉内の気相空間の領域で、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集する、請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程では、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属の分圧が飽和蒸気圧となる温度未満の低温部材を用いて、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集する、請求項1または2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記成形工程では、前記成形炉内に電場を形成して、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属の浮遊微粒子を収集する、請求項1から3のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
ダウンドロー法によりガラス板を製造するガラス板製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解装置と、
成形炉内で熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置であって、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置と、を備え、
前記成形装置は、前記成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラス内に混入しないような前記成形炉内の位置で、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集する収集手段を有することを特徴とするガラス板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造方法およびガラス板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダウンドロー法を用いてガラス基板を製造する方法では、熔融ガラスをシートガラスに成形する成形工程が行われる。成形工程では、成形炉内に配された成形装置に熔融ガラスを供給して、成形装置の成形体から流下させ、これを成形炉の下流側に配されたローラで引っ張ることによりシートガラスに成形される(例えば、特許文献1)。
従来の成形装置として、耐熱性を上げるために、一部が白金または白金合金等で構成されたものがある。例えば、成形体に装着され、白金または白金合金等からなるガイドを備える成形装置が知られている。ガイドは、成形体の長手方向の両端に装着されることで、成形体から流れ出る熔融ガラスの幅方向(熔融ガラスの流れる方向と直交する方向)への広がりを規制する機能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−189220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
成形されたシートガラスに異物が混入する場合があることが分かった。
【0005】
本発明は、成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物がシートガラスに混入するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、シートガラスに異物が混入する原因について検討を重ねたところ、成形装置の白金族金属からなる部分が、成形炉内の高温雰囲気に接することで酸化されて揮発し、白金族金属の揮発物が凝集し、当該凝集物が熔融ガラスに付着し、シートガラスに混入されることが明らかにされた。
【0007】
本発明の一態様は、ガラス基板の製造方法である。
[1]ダウンドロー法によりガラス板を製造する方法であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解工程と、
熔融ガラスを、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置を用いて、成形炉内でシートガラスに成形する成形工程と、を備え、
前記成形工程では、前記成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラス内に混入しないような前記成形炉内の位置で、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集することを特徴とする。
【0008】
[2]前記成形工程では、前記成形装置の下流側に流れた熔融ガラスの部分と接する前記成形炉内の気相空間の領域で、白金族金属を収集する、[1]に記載のガラス板の製造方法。
【0009】
[3]前記成形工程では、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属の分圧が飽和蒸気圧となる温度未満の低温部材を用いて、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集する、[1]または[2]に記載のガラス板の製造方法。
【0010】
[4]前記成形工程では、前記成形炉内に電場を形成して、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属の浮遊微粒子を収集する、[1]から[3]のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
【0011】
本発明の別の一態様は、ガラス板製造装置である。
[5]ダウンドロー法によりガラス板を製造するガラス板製造装置であって、
ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解装置と、
成形炉内で熔融ガラスをシートガラスに成形する成形装置であって、少なくとも一部が白金族金属からなる成形装置と、を備え、
前記成形装置は、前記成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物が熔融ガラス内に混入しないような前記成形炉内の位置で、前記成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集する収集手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形装置から揮発して凝集した白金族金属の凝集物がシートガラスに混入するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
図2】本実施形態における熔解工程〜切断工程を行う装置の一例を模式的に示す図である。
図3】成形炉内に配された成形装置を側方から見た図である。
図4】成形炉内に配された成形装置を端部側から見た図である。
図5】変形例に係る成形装置を側方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
以降で説明する白金または白金合金等は、白金族金属であり、白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、および、これらの中から選択された2以上の金属の合金を含む。
【0015】
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、成形工程(ST4)と、徐冷工程(ST5)と、切断工程(ST6)と、を主に有する。
【0016】
熔解工程(ST1)は熔解装置で行われる。熔解工程では、熔解装置に蓄えられた熔融ガラスの液面にガラス原料を投入することにより熔融ガラスを作る。なお、ガラス原料には清澄剤が添加されることが好ましい。清澄剤は、環境負荷低減の点から、酸化錫が好適に用いられる。
【0017】
清澄工程(ST2)は、清澄装置で行われ、熔融ガラスを清澄する。具体的には、熔融ガラス中に含まれるガス成分を熔融ガラスから放出する、あるいは、ガス成分を熔融ガラス中に吸収する。
【0018】
均質化工程(ST3)では、清澄装置から延びる配管を通って供給された攪拌装置内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、熔融ガラスの均質化を行う。
【0019】
成形工程(ST4)及び徐冷工程(ST5)は、成形装置を含む成形ユニットにおいて行われる。
成形工程(ST4)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、ダウンドロー法、フロート法、ロールアウト法等、公知の方法を用いることができる。以降で説明する成形工程は、ダウンドロー法として、オーバーフローダウンドロー法を用いて成形を行う場合を例とする。
徐冷工程(ST5)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0020】
切断工程(ST6)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0021】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST6)を行う装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、図2に示すように、主に熔融ガラス生成ユニット100と、成形ユニット200と、切断ユニット300と、を有する。熔融ガラス生成ユニット100は、熔解装置101と、清澄装置102と、攪拌装置103と、ガラス供給管104,105,106と、を有する。成形ユニット200は、成形装置210を有する。
【0022】
図2に示す例の熔解装置101は、ガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくる。
清澄装置102は、白金または白金合金等からなる清澄管の中において、熔融ガラスMGを通過させる間、電極板間に電流を流して清澄管を例えば通電加熱して脱泡処理を少なくとも行う。
攪拌装置103は、スターラ103aによって熔融ガラスMGを攪拌して均質化する。
成形ユニット200は、清澄装置102、攪拌装置103で処理された熔融ガラスMGを、成形炉30内で、成形装置210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、成形してシートガラスSGとする。なお、図2において、成形装置210は簡略化して示される。さらに、徐冷炉40において、板厚偏差、歪、及び反りがシートガラスSGに生じないように、シートガラスSGが徐冷される。成形炉30と徐冷炉40とは、シートガラスSGが流れる方向に隣接して設けられている。
切断装置300は、徐冷したシートガラスSGを切断してガラス基板とする。
【0023】
(成形工程及び成形装置)
図3に、成形装置210を示す。
図3は、成形炉内に配された成形装置210を側方から見た図である。
【0024】
成形炉30は、仕切り部材20によって徐冷炉40と区画された、仕切り部材20より上方の空間である。成形炉30は、外壁24と、外壁24の内側に配された内部隔壁16とを備えている。内部隔壁16の内側には、成形装置210が配されている。外壁24と内部隔壁16の間には、図示されない複数の発熱体が配されている。成形装置210と発熱体とは、内部隔壁16により仕切られている。
【0025】
成形装置210は、成形工程ST4を行うための装置であり、成形体14と、成形体14に装着されるキャップ部材230,240と、ガラス供給管106の一部と、収集手段と、を有する。
【0026】
成形体14は、熔融ガラス生成ユニット100から流れてくる熔融ガラスを、オーバーフローダウンドロー法によりシート状のガラス(シートガラスSG)に成形する機能を有する。成形体14は、長手方向(図3の左右方向)に垂直な方向に切断した断面形状が楔形形状を有している。成形体14は、例えば、ジルコニア質耐火物、高アルミナ質耐火物等の焼成耐火物や、黒鉛質レンガ等の不焼成耐火物からなる。中でも、耐熱性に優れる点で、好ましくはジルコニア質耐火物からなる。成形体14の上部には、熔解装置101から流れてくる熔融ガラスを受け入れる溝部18が形成されている。溝部18は、図3に示されるように、上端の高さ位置がキャップ部材230側からキャップ部材240側に進む方向に徐々に低くなるよう傾斜するとともに、溝底(不図示)の高さ位置がキャップ部材230側からキャップ部材240側に進む方向に徐々に高くなっている。成形体14の側面14bは、溝部18からオーバーフローした熔融ガラスMGが流下するように、鉛直方向に沿って形成されている。側面14bの下方に位置する成形体14の傾斜面14cは、成形体14の両側面14b,14bを流下した熔融ガラスMGが、成形体14の楔形形状の断面の頂点である最下端部14dで合流するように、側面14bに対して傾斜している。なお、本明細書では、成形炉30内を流れるガラス、すなわち、仕切り部材20より上方を流れるガラスを熔融ガラスMGといい、徐冷炉40の下流側を流れるガラス、すなわち、仕切り部材20より下方を流れるガラスをシートガラスSGという。
【0027】
キャップ部材230,240は、成形体14の長手方向の両端に、成形体14の外周壁面を覆うよう嵌め合わせられる部材である。キャップ部材230,240は、成形工程において、成形体14からオーバーフローして流下する熔融ガラスMGの幅方向への広がりを規制する。キャップ部材230には、ガラス供給管106が接続され、ガラス供給管106内の熔融ガラスが通る穴(不図示)が形成されている。なお、ガラス供給管106のうち、成形炉30内に延びる部分は、成形体14およびキャップ部材230,240とともに、成形装置210を構成する。キャップ部材230、240およびガラス供給管106は、白金または白金合金等からなる。
【0028】
内部隔壁16は、発熱体と成形体14との間に配置され、成形体14を取り囲むように、成形体14の周囲に配置されている。内部隔壁16はSiC焼結体であり、より詳しくは、高密度の焼結SiCの板である。内部隔壁16は、SiCの含有率が95wt%以上のSiC焼結体であることが好ましい。また、内部隔壁16の温度の均一性を高める観点から、熱伝導率が1200度で20W/mK以上、より好ましくは25W/mK以上、さらに好ましくは30W/mK以上であるSiC焼結体を用いることが好ましい。
【0029】
外壁24と内部隔壁16との水平方向(図3の紙面奥行方向)の間には、複数の発熱体が図3の左右方向に延びるよう配置されている。外壁24と内部隔壁16との垂直方向の間には、他の複数の発熱体が、図3の紙面奥行方向に延びるよう配されている。
【0030】
仕切り部材20は、成形体14の最下端部14dの近傍に配置される板状の部材であり、断熱部材である。仕切り部材20は、成形体14の最下端部14dから流下していくシートガラスSGの幅方向および厚み方向の両側に、水平となるように配置されている。仕切り部材20は、シートガラスSGが通過する隙間を残してその上下の雰囲気を仕切り、断熱することにより、仕切り部材20の上側から下側への熱の移動を抑制している。仕切り部材20の下方には、図示されない冷却ローラが配置されている。冷却ローラは、仕切り部材20の下方に位置する徐冷炉40に配置されている。
【0031】
(揮発物の収集および収集手段)
収集手段は、成形装置210から揮発して凝集した白金または白金合金等の凝集物が熔融ガラス内に混入しないような成形炉30内の位置で、成形炉30内雰囲気中の白金または白金合金等として、白金または白金合金等の揮発物または凝集物を収集する。収集手段は、特に、凝集物が熔融ガラスMG内に混入しないような内部隔壁16内の位置で、内部隔壁16内の雰囲気中の揮発物を収集する。
凝集物が熔融ガラスMGに混入しないような内部隔壁16内の位置は、例えば、成形体14から溢れ出た熔融ガラスMGの幅方向領域および厚み方向領域を除いた内部隔壁16内の気相空間内の位置を、特に制限されることなく選択できる。成形体14から溢れ出た熔融ガラスMGの幅方向領域および厚み方向領域を除く理由は、熔融ガラスMGの真上(鉛直方向の上方)となる位置で凝集物を収集すると、集めた凝集物が落下して熔融ガラスMGの表面に付着するおそれがあるためである。白金または白金合金等の揮発物は、成形工程において、成形装置210の白金または白金合金等からなる部分が酸化されて、成形炉30内の雰囲気中に揮発したものである。当該揮発物は、白金または白金合金等の酸化物であり、例えば酸化白金である。また、白金または白金合金等の凝集物は、白金または白金合金等の揮発物が還元されたものであり、例えば白金である。なお、「成形炉内雰囲気中の白金族金属を収集する」とは、白金または白金合金等の揮発物または凝集物を収集することをいう。
【0032】
内部隔壁を備えた成形炉では、内部隔壁内の温度は、一般的に、失透を抑制しつつ成形体から流れ出る熔融ガラスの肉厚を最適な厚さにする観点から、内部隔壁内の領域によって異なる温度になるよう設定される。具体的には、熔融ガラスがオーバーフローする成形体の溝部(成形体の上部)に接する領域は、他の領域より温度が高くなるよう設定され、さらに、当該溝部に接する領域の中でも、成形体の長手方向の中央部に位置する領域は、他の領域よりも温度が高くなるよう設定される。このため、成形体を側方から見たとき、2つのキャップ部材の鉛直方向の上端および下端に接する、内部隔壁内の4隅の領域の温度は周りの領域よりも低くなり、温度が相対的に低い低温領域が形成される。中でも、キャップ部材の下端と接する2つの領域は、特に温度が低くなる。したがって、内部隔壁16内の高温の領域に含まれる白金または白金合金等の揮発物は、内部隔壁16内を移動して、上記低温領域に差し掛かかると、当該揮発物の飽和蒸気圧が下がることで、低温領域での揮発物の分圧(濃度)が飽和蒸気圧を下回り、雰囲気中に含まれる白金または白金合金等の揮発物が凝集する場合がある。このような凝集物は、雰囲気中を微粒子として浮遊したり、キャップ部材の表面や内部隔壁の壁面等において析出して、落下したりして、熔融ガラスの表面に付着するおそれがある。本実施形態では、収集手段により、内部隔壁16内の雰囲気中の揮発物が、凝集物が熔融ガラス内に混入しないような内部隔壁16内の位置に集められることで、凝集物を発生させる原因となる揮発物を雰囲気中から除去し、凝集物の熔融ガラスへの付着を未然に防ぐことができる。このようにして、白金または白金合金等の凝集物(異物)のシートガラスへの混入が防止される。
【0033】
収集手段が設けられる内部隔壁16内の位置は、凝集物が熔融ガラス内に混入しないような位置であれば特に制限されないが、白金または白金合金等の揮発物の発生源である熔融ガラスに近いことが好ましく、徐冷炉40内のシートガラスの温度に悪影響を与えない観点では、成形体14の下方に流れる熔融ガラスから離れていることが好ましい。
【0034】
収集手段は、成形装置210の下流側に流れた熔融ガラスMGの部分と接する内部隔壁16内の気相空間の領域で揮発物を収集することが好ましい。このような位置は、徐冷炉40側に流れる熔融ガラスの出口となる、仕切り部材20と熔融ガラスの隙間の付近であることから、ここで揮発物を集め、雰囲気中から除去することで、さらに温度の低い下流側の領域において凝集し、シートガラスに混入されるのを防ぐことができる。
【0035】
本実施形態の収集手段は、具体的に、内部隔壁16内の雰囲気中の白金または白金合金等の分圧が飽和蒸気圧となる温度未満の低温部材50である。低温部材50は、成形炉30内の高温下で低温を維持でき、かつ、当該高温下で揮発する成分を含まないものであれば、特に制限されることなく公知のものを用いることができ、例えば、冷媒回路に接続され所定の温度範囲に維持される公知の装置を用いることができる。冷媒には、例えば水または空気が用いられる。内部隔壁16内の雰囲気中の白金または白金合金等の揮発物は、低温部材50に接すると、白金または白金合金等の飽和蒸気圧が下がることで凝集し、低温部材50の表面に析出する。このように、雰囲気中の白金または白金合金等の揮発物を敢えて凝集させることで、雰囲気中から白金または白金合金等を除去し、成形炉30内の他の領域での凝集を抑えることができる。なお、低温部材50の温度が低すぎると熔融ガラスに悪影響が及ぶおそれがあること等を考慮して、低温部材50の温度は定められる。
低温部材50は、図3に示されるように、キャップ部材230,240の上端と、キャップ部材230,240の下端の下方の仕切り部材20とに設けられている。低温部材は、これらすべての位置に設けられていなくてもよいが、キャップ部材230、240の下方の仕切り部材20に設けられるのが好ましい。一方、低温部材50は、図4に示されるように、熔融ガラスと内部隔壁16との水平方向の間の領域に設けられていてもよい。なお、低温部材50の配置態様の説明の便宜のため、図3図4で、低温部材50の配置態様は異なっている。また、図3および図4において、低温部材50は、便宜的に、四角形状で示されるが、このような形状に制限されない。
【0036】
本実施形態に用いられる成形装置は、少なくとも一部が白金または白金合金で構成されたものであればよく、成形装置のどの部分が白金または白金合金等で構成されていてもよい。例えば、成形体14や、成形装置210に含まれる他の部材が、白金または白金合金等からなる部分を含んでいてもよい。他の部材としては、図示されないが、例えば、成形体14を下方から支持するとともに、成形体14を、長手方向の両側から、キャップ部材230およびキャップ部材240を介して押圧するよう挟持するブロック状の支持部材が挙げられる。
【0037】
(変形例)
次に、図5を参照して、本実施形態の変形例を説明する。
図5は、本実施形態の変形例に係る、成形炉30内に配された成形装置210を示す図である。
この変形例では、収集手段として、上記低温部材を用いる代わりに、具体的に、外部電源に接続された電極60と、電極60から離間して内部隔壁16内に配され、接地された他の電極61と、が用いられる。電極60,61の間に電圧を印加すると、成形炉30内に電場が形成され、成形炉30内雰囲気中の白金または白金合金等の浮遊微粒子が帯電し、電極60に引き寄せられ、電極60の表面に捕捉される。電極60,61の間に印加される電圧値は、適宜定められる。
なお、変形例において、さらに、上記低温部材を用いてもよい。
【0038】
(ガラス組成)
本発明は、成形炉内を、高温に保つ必要がある場合に適している。具体的には、成形炉内が1000℃以上である場合に適しており、1200℃以上である場合にさらに適しており、1300℃以上である場合に特に適している。
失透温度が高いガラスを用いてガラス基板を製造する場合には、成形炉内を高温に保つ必要があるので、本発明は、失透温度が高いガラスを用いてガラス基板を製造する際に適している。具体的には、本発明は、失透温度が1000℃以上であるガラス基板の製造に好適であり、1160℃以上のガラス基板の製造により好適である。
【0039】
また、無アルカリガラスやアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスは、失透温度が高いので、本発明は、無アルカリガラスやアルカリ微量含有ガラスから構成されるガラス基板を製造する場合に適している。無アルカリガラスの一例として、質量%で表示して、以下の組成範囲のガラス基板が挙げられる。
SiO:50〜70%、
Al:0〜25%、
:1〜15%、
MgO:0〜10%、
CaO:0〜20%、
SrO:0〜20%、
BaO:0〜10%、
RO:5〜30%(ただし、RはMg、Ca、Sr及びBaの合量)、
を含有する無アルカリガラス。
なお、上述したように、ガラス基板はアルカリ金属を微量含んだアルカリ微量含有ガラスであってもよい。アルカリ金属を含有させる場合、R’Oの合計が0.10%以上0.5%以下、好ましくは0.20%以上0.5%以下(ただし、R’はLi、Na及びKから選ばれる少なくとも1種であり、ガラス基板が含有するものである)含むことが好ましい。勿論、R’Oの合計が0.10%未満でもよい。すなわち、本発明は、無アルカリガラスやアルカリ微量のガラス基板が使用されるフラットパネルディスプレイを製造する場合に適している。
本発明は、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機ELディスプレイ用ガラス基板、カバーガラスに好適に用いられる。本発明は、その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。また、本発明は、ポリシリコンTFTを用いた液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
【0040】
(実験例)
本実施形態の効果を確認するために、白金族金属からなる部分を含む成形装置を用いて、オーバーフローダウンドロー法に用いて成形工程を行い、熔融ガラスの成形を行った。成形装置には、ジルコニア質耐火物からなる成形体、白金合金からなるキャップ部材、および白金合金からなるガラス供給管を用いた。低温部材として、冷媒回路に接続される公知の装置を、キャップ部材230,240の下方の仕切り部材20上の2箇所に配置して、成形工程を行った。熔融ガラスのガラス組成は、上記無アルカリガラスの組成とした。成形工程は、成形炉内の温度1200〜1300℃の範囲で行った。成形工程における熔融ガラスの温度は、1200〜1350℃であった。なお、成形工程後、徐冷、切断し、縦2270mm×横2000mmのガラス基板を複数作製し、そのうち無作為に抽出した100枚について、レーザ顕微鏡を用いてガラス基板表面に混入している異物の数を数え、その平均値を求めた(実施例)。
一方、内部隔壁16内に低温部材を設けずに、その他の点を実施例と同様にして成形工程を行うとともに、異物の数を数えた(比較例)。
その結果、実施例では比較例と比較してガラス基板の単位面積当たりの異物の数が低減しており、収集手段によって白金または白金合金等の揮発物が収集されることによって、シートガラスへの異物の混入が防止されることが確認された。
【0041】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0042】
14 成形体
16 内部隔壁
24 外壁
30 成形炉
50 低温部材(収集手段)
60、61 電極(収集手段)
101 熔解装置
106 ガラス供給管
210 成形装置
230、240 キャップ部材
図1
図2
図3
図4
図5