特開2015-124229(P2015-124229A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-124229(P2015-124229A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】アスファルト改質材
(51)【国際特許分類】
   C08L 5/00 20060101AFI20150609BHJP
   C08L 95/00 20060101ALI20150609BHJP
【FI】
   C08L5/00
   C08L95/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-267178(P2013-267178)
(22)【出願日】2013年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(72)【発明者】
【氏名】西川 善弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 邦光
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB05W
4J002AG00X
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、道路舗装等において、衝撃吸収性、すべり抵抗性、耐摩耗性、走行車両の騒音低減効果等を高めることができ、さらには道路舗装の耐久性を高めることができるアスファルト改質材を提供することにある。
【解決手段】微細藻類由来バイオマスを含むアスファルト改質材、好ましくは前記微細藻類がボトリオコッカス属であることを特徴とするアスファルト改質材、さらに好ましくは前記微細藻類由来バイオマスがアルジナンであることを特徴とするアスファルト改質材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類由来バイオマスを含むアスファルト改質材。
【請求項2】
微細藻類がボトリオコッカス属であることを特徴とする請求項1記載のアスファルト改質材。
【請求項3】
微細藻類由来バイオマスがアルジナンであることを特徴とする請求項1または2記載のアスファルト改質材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類由来バイオマスを含むアスファルト改質材に関し、さらに詳しくは、ボトリオコッカス属の微細藻類から炭化水素類を抽出した後の残渣をアスファルト改質材として再利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類が産生する炭化水素類はバイオ燃料として有望視され、産業化に向けた研究が進められている。藻類の中でもボトリオコッカス属の微細藻類は、重油相当の性質を持つ炭化水素を産生することから液体燃料を効率よく得られる藻類として注目されている。藻類から産生する炭化水素は、構造上の特徴より、Race−A、Race−B、Race−LおよびRace−Sの大きく4つのグループに分けられ、なかでもC2n−10(n=30〜37)で表されるトリテルペン構造を持つ炭化水素を産生するRace−Bグループの株は、30〜40質量%の炭化水素を産生するものが多い(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ボトリオコッカス属の微細藻類は、成長の過程で数個〜数百個の個体の集合体(コロニー)を形成し、自身が産生した炭化水素類等の重合合成物であるバイオポリマー(アルジナン)によってコロニーの構造が維持されている。前述のようにして産生した炭化水素類は、このアルジナン中に30〜40質量%程度まで保持、蓄積される。このようにして蓄積した炭化水素類は溶媒抽出等の過程を経てバイオ燃料やバイオリファイナリーの原料として利用されるが、炭化水素類を除かれた大量の残渣は廃棄物となり、藻類由来バイオ燃料の産業化の足枷となっていた(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
一方、従来から、種々の樹脂成分やゴム等をアスファルトに混合したアスファルト改質材が提供されており、道路舗装において、衝撃吸収性、すべり抵抗性、耐摩耗性、走行車両の騒音低減効果等を期待して利用されている(例えば、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Microbiol.Cult.Coll.26(1).1−10(2010)p.4
【非特許文献2】平成23年度農山漁村6次産業化対策事業「農山漁村における藻類バイオマスファームの事業化可能性調査報告書」p.7
【非特許文献3】日本ゴム協会誌、78(19).388−392(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の効果を十分発揮するには、種々の樹脂成分やゴム等では、アスファルトへの混合量を多くする必要があるが、樹脂成分やゴム等はアスファルトとの接着性(なじみ)が悪いため、アスファルト中での分散性が悪い(不均一性)等の懸念があり、また混合量を多くすると強度耐久性が低下するなど、問題があった。
【0007】
本発明の目的は、道路舗装等において、衝撃吸収性、すべり抵抗性、耐摩耗性、走行車両の騒音低減効果等を高めることができ、さらには道路舗装の耐久性を高めることができるアスファルト改質材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意研究を重ねた結果、微細藻類由来バイオマスがゴム様の弾力を有し、また、アスファルトとの接着性やアスファルト中での分散性に優れることを見出した。また、それを混合することにより、道路舗装において、衝撃吸収性、すべり抵抗性、耐摩耗性、走行車両の騒音低減効果等を高められることができ、さらには道路舗装の耐久性を高めることができることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の(1)〜(3)のとおりである。
(1)微細藻類由来バイオマスを含むアスファルト改質材。
(2)微細藻類がボトリオコッカス属であることを特徴とする(1)記載のアスファルト改質材。
(3)微細藻類由来バイオマスがアルジナンであることを特徴とする(1)または(2)記載のアスファルト改質材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、微細藻類由来バイオマスを混合したアスファルト改質材を利用することにより、道路舗装において、衝撃吸収性、すべり抵抗性、耐摩耗性、走行車両の騒音低減効果等を高めることができ、さらには道路舗装の耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の微細藻類由来バイオマスは、主にバイオ燃料を産生する微細藻類由来のバイオマスをいい、具体的には、緑藻類、珪藻類由来のバイオマス等が挙げられる。さらに具体的には、Botryococcus braunii,Chlorella sp,Cryptothecodinium cohnii,Cylindrotheca sp.,Dunaliella primolecta,Isochrysis sp.,Monallanthus salina,Nannochloris sp.,Nannochloropsis sp.,Neochloris sp.,Neochloris oleoabundans,Nitzschia sp.,Phaeodactylum tricornutum,Schizochytrium sp.,Tetraselmis suieiaなどの由来のバイオマスが挙げられる。
【0013】
なかでも、重油相当の炭化水素類を産生するボトリオコッカス(Botryococcus)属由来のバイオマスであることが好ましい。
【0014】
微細藻類由来のバイオマスは、微細藻類自体又は微細藻類を乾燥したものであってもかまわないが、上記緑藻類、珪藻類などの微細藻類から有機溶媒により炭化水素類を抽出した後の抽出残渣であることが好ましく、前述のボトリオコッカス属微細藻類から有機溶媒により炭化水素類を抽出した後の抽出残渣、すなわち、アルジナンであることがより好ましい。
【0015】
具体的には、上記微細藻類を、ヘキサン、クロロホルム、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、アセトンからなる1群の有機溶媒から1種以上、又はヘキサン/アセトンの混合溶媒、クロロホルム/メタノールの混合溶媒、エタノール/ジエチルエーテルの混合溶媒などに例示される前記有機溶媒の混合物に分散し、微細藻類中の炭化水素類を抽出することにより該抽出残渣を得ることができる。
【0016】
さらには、アスファルトとの接着性やアスファルト中での分散性を高めるために、上記炭化水素類の抽出後に、種々の水溶性成分の除去操作を経たバイオマスであることが特に好ましい。種々の水溶性成分の除去操作としては、酸処理、アルカリ処理、温熱水処理等が挙げられる。水溶性成分の除去操作に用いられる薬剤としては、塩酸、硫酸、トリクロロ酢酸等の酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類が挙げられる。また、温熱水処理の温度としては20〜110℃が好ましく、25〜80℃がより好ましく、30〜50℃がいっそう好ましい。当該酸処理、アルカリ処理及び温熱水処理は、併用して行なうこともできる。
【0017】
本発明の微細藻類由来のバイオマスは、熱安定性を高めるために、種々の溶媒可溶性成分の除去操作を経たものであることが好ましい。種々の溶媒可溶性成分の除去操作としては、浸漬、攪拌、還流、ソックスレー抽出処理等とそれに次ぐ遠心分離、濾過処理等が挙げられる。種々の溶媒可溶性成分の除去操作に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、クロロホルム、テトラクロロエタン等の含有ハロゲン溶媒類、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の高極性溶媒類、トルエン、ヘキサン等の低極性溶媒類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒類等が挙げられ、これらのうちのいくつかを順次単独に、あるいは、混合溶媒として使用することもできる。
【0018】
本発明の微細藻類由来バイオマスは、そのままアスファルト改質材として用いることができるが、さらにストレートアスファルト等と混合してもアスファルト改質材として用いることができる。該微細藻類由来バイオマスをアスファルトと混合した後には、粉末状、塊状、扁平状のいずれの形状でも利用することができる。ここでいう粉末状とは、粉砕機(カッター、ハンマー等)や各種ミル(石臼タイプ、乳鉢タイプ、ボールミル等)により粒径0.1〜5mm程度まで細かくしたものが挙げられ、塊状は粒径5mm〜30mm程度の不均一な形状のものが挙げられる。また、扁平状とは、粉末状や塊状のものを圧延し、厚さ0.10〜5mm、長径5〜50mmのフレーク形状としたものが挙げられる。
【0019】
本発明のアスファルト改質材は、アスファルト等に対し任意の量を添加して用いることができるが、例えば、アスファルト100質量部に対し、微細藻類由来バイオマスを1〜100質量部を添加することが好ましく、1〜50質量部を添加することがより好ましい。1〜100質量部とすることにより、アスファルト改質材としての流動性を保ちながら、道路舗装の耐久性をいっそう高めることができる。
【0020】
次に、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施例、比較例における各種評価方法を以下に示す。
【0022】
1.アルジナンの含有量(純度)
微細藻類中の炭化水素類(脂質等)を有機溶媒により抽出した抽出残渣に対し、示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、TG/DTA7200)を用い、以下の温度条件における400℃以上での重量減少率より求めた。
<測定条件>
昇温度開始温度;25℃
最終到達温度;800℃
昇温速度;+10℃/分(なお、100℃の時点で30分維持する)
温度校正標準試料(インジウム(156.6℃)、亜鉛(419.4℃)
【0023】
2.物性評価方法
アスファルト物性(針入度試験、軟化点試験、タフネス、テナシティ、伸度)の測定は、社団法人日本道路協会の「調査・試験法便覧(第2分冊)、平成19年6月」に記載の方法に従って行なった。
【0024】
3.ホイールトラッキング試験
アスファルト混合物のホイールトラッキング特性(動的安定度DS、破壊時間)の測定は、社団法人日本道路協会の「調査・試験法便覧(第3分冊)、平成19年6月」に記載の方法に従って行なった。
【0025】
実施例1
ボトリオコッカス属の微細藻類100gにヘキサン1Lを加え、室温下、24時間静置して炭化水素類等を抽出した。該炭化水素類等を抽出した抽出残渣に対し、ヘキサンによる同様の抽出操作を2回(合計3回)繰り返した。得られた抽出残渣を風乾し、カッターミルで粉砕して、アスファルト改質材1(アルジナン粗精製物(純度57%))70gを得た。30gのアスファルト改質材1を470gのストレートアスファルト(昭和シェル石油社製、商品名「ストレートアスファルト60/80」)と混合し、500gの改質アスファルト1を得た。
【0026】
実施例2
実施例1と同様にして得られたアスファルト改質材1の70gに、エタノール70mL、イオン交換水700mL加えた後、水酸化ナトリウム(ペレット)を攪拌しながらpHが11以上となるまで添加した。30℃の恒温環境下24時間攪拌した。抽出残渣を回収し、イオン交換水で中性となるまで洗浄した後、イオン交換水700mLに再懸濁し6N塩酸を攪拌しながらpHが2以下となるまで添加した。30℃の恒温環境下24時間攪拌した。抽出残渣を回収し、イオン交換水で中性となるまで洗浄した。50℃オーブン内で24時間乾燥し、カッターミルで粉砕し、アスファルト改質材2(アルジナン粗精製物(純度73%))50gを得た。30gのアスファルト改質材2を470gのストレートアスファルト(昭和シェル石油社製、商品名「ストレートアスファルト60/80」)と混合し、500gの改質アスファルト2を得た。
【0027】
実施例3
実施例2と同様にして得られたアスファルト改質材2の50gに、メタノール/クロロホルム=1:2(V/V)の混合溶媒500mLを加え、24時間攪拌した。抽出残渣を回収し、同様の抽出操作をさらに2回(合計3回)繰り返した。得られた抽出残渣を回収し風乾した後、50℃オーブン内で24時間乾燥、カッターミルで粉砕し、アスファルト改質材3(アルジナン粗精製物(純度80%))30gを得た。30gのアスファルト改質材3を470gのストレートアスファルト(昭和シェル石油社製、商品名「ストレートアスファルト60/80」)と混合し、500gの改質アスファルト3を得た。
【0028】
比較例1
市販のストレートアスファルト(昭和シェル石油社製、商品名「ストレートアスファルト60/80」)を用いた。
【0029】
実施例1〜3で得られた改質アスファルト1〜3及びストレートアスファルト(比較例1)について、物性値等の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示すように、実施例1〜3の改質アスファルト1〜3は、比較例1のストレートアスファルトに比べ、アルジナンの含有率が高くなるほどに、タフネス、テナシティ等がより顕著に改善されることが分かった。すなわち、アスファルトを改質した際に衝撃吸収性、すべり抵抗性、耐摩耗性、走行車両の騒音低減効果等を高め得ることが明らかとなった。
【0032】
次に、得られた改質アスファルト1〜3及びストレートアスファルトを用いて調製したアスファルト混合物について、ホイールトラッキング試験による耐久性の比較を行なった。
【0033】
<ホイールトラッキング試験>
160℃に加熱した石英斑岩945質量部を骨材とし、160℃に加熱した実施例1〜3にて得られた改質アスファルト1〜3及びストレートアスファルト(比較例1)それぞれ55質量部を添加し、常法に従って混合した。その後、混合物の温度が150℃まで低下したのを確認した後、常法にしたがって締め固め度が96%、空隙率が4%となるように締め固め、アスファルト混合物(実施例4〜6、比較例2)を得た。これらアスファルト混合物を用い、社団法人日本道路協会の「調査・試験法便覧」記載の方法に準じ、30×30×5cmの板状の供試体を作成し、温度60℃の条件にて、ホイールトラッキング試験による耐久性の比較を行なった。
【0034】
実施例1〜3で得られた改質アスファルト1〜3を用いて調製したアスファルト混合物(実施例4〜6)及びストレートアスファルトを用いて調製したアスファルト混合物(比較例2)について、物性評価及びホイールトラッキング試験での耐久性評価を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示すように、実施例1〜3で得られた改質アスファルト1〜3を含むアスファルト混合物は、比較例1のストレートアスファルトを含むアスファルト混合物に比べて、動的安定度が4.9〜7.2倍大きく、破壊時間も6〜8倍長くなっていることから、本発明のアスファルト改質材をアスファルトに添加することにより、アスファルトの耐久性が大幅に向上することが明らかとなった。