特開2015-124230(P2015-124230A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-124230(P2015-124230A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20150609BHJP
   C08L 99/00 20060101ALI20150609BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L99/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-267181(P2013-267181)
(22)【出願日】2013年12月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(72)【発明者】
【氏名】西川 善弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 信
(72)【発明者】
【氏名】彼谷 邦光
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002AJ002
4J002BB151
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、良好な加工性と高反発弾性が高いレベルでバランスした軽量性の優れたゴム組成物を提供することにある。
【解決手段】ジエン系ゴム及び微細藻類由来バイオマスを含むゴム組成物、好ましくはジエン系ゴム100質量部に対し、微細藻類由来バイオマスを5〜80質量%を含有する前記ゴム組成物、更に好ましくは微細藻類由来バイオマスの平均粒径が0.01〜200μmである前記ゴム組成物、いっそう好ましくは微細藻類由来バイオマスがボトリオコッカス属である3前記ゴム組成物、特に好ましくは微細藻類由来バイオマスがアルジナンである前記ゴム組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム及び微細藻類由来バイオマスを含むゴム組成物。
【請求項2】
ジエン系ゴム100質量部に対し、微細藻類由来バイオマスを5〜80質量部含有することを特徴とする請求項1記載のゴム組成物。
【請求項3】
微細藻類由来バイオマスの平均粒径が0.01〜200μmであることを特徴とする請求項1又は2記載のゴム組成物。
【請求項4】
微細藻類由来バイオマスがボトリオコッカス属であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
微細藻類由来バイオマスがアルジナンであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な加工性と高反発弾性が高いレベルでバランスした軽量性に優れるゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類が産生する炭化水素類はバイオ燃料として有望視され、産業化に向けた研究が進められている。藻類の中でもボトリオコッカス属の微細藻類は、重油相当の性質を持つ炭化水素を産生することから液体燃料を効率よく得られる藻類として注目されている。藻類から産生する炭化水素は、構造上の特徴より、Race−A、Race−B、Race−LおよびRace−Sの大きく4つのグループに分けられて、なかでもC2n−10(n=30〜37)で表されるトリテルペン構造を持つ炭化水素を産生するRace−Bグループの株は、30〜40質量%の炭化水素を産生するものが多い(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ボトリオコッカス属の微細藻類は、成長の過程で数個〜数百個の個体の集合体(コロニー)を形成し、自身が産生した炭化水素類等の重合合成物であるバイオポリマー(アルジナン)によってコロニーの構造が維持されている。前述のようにして産生した炭化水素類は、このアルジナン中に30〜40質量%程度まで保持、蓄積される。このようにして蓄積した炭化水素類は溶媒抽出等の過程を経てバイオ燃料やバイオリファイナリーの原料として利用されるが、炭化水素類を除かれた大量の残渣は廃棄物となり、藻類由来バイオ燃料の産業化の足枷となっていた(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
一方、従来から自動車等の空気入りタイヤに使用されているゴム組成物は、反発弾性等を高めるために、カーボンブラック配合品が汎用されている。しかし、カーボンブラックを多量に配合したゴム組成物をタイヤに使用すると、発熱による耐久性の低下や、ゴム組成物の粘度上昇による加工性の低下を招く等の問題がある。そのため、カーボンブラックの一部または全部をシリカ系充填剤に置き換える試みも行なわれているが、シリカ系充填剤は有機系ゴムに親和性がなく均一分散が難しいため、分散不良による機械的強度の低下を招き易く、軽量化も達成できないという問題があった。
【0005】
また、ゴム組成物の反発弾性等の各種物性を改善するために、ゴム組成物にセルロースを配合した組成物も知られている。例えば、特許文献1には、ウェット性能と転がり抵抗のバランスの改善を目的として、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)を含むジエン系ゴム、結晶性粉末状セルロース、および硫黄およびシラノール基を有する硫黄含有シランカップリング剤を含むゴム組成物、およびそれを用いた空気入りタイヤが開示されている。特許文献2には、加工性を維持しつつ、高弾性率、低発熱性の改善を目的として、SBRなどから選ばれた少なくとも1種のゴム成分、および結晶性セルロース粉末を含む空気入りタイヤ用ゴム組成物が開示されている。一方、特許文献3には、強度と軽量化の改善を目的として、天然ゴムを主成分とするゴム組成物に静置培養で得られた微生物セルロースを配合したゴム配合組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−204158号公報
【特許文献2】特開2006−282790号公報
【特許文献3】特開平5−301994号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Microbiol.Cult.Coll.26(1).1−10(2010)p.4
【非特許文献2】平成23年度農山漁村6次産業化対策事業「農山漁村における藻類バイオマスファームの事業化可能性調査報告書」p.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年要求されている良好な加工性と高反発弾性が高いレベルでバランスしたゴム組成物は得られていなかった。
【0009】
本発明の目的は、良好な加工性と高反発弾性が高いレベルでバランスした軽量性に優れるゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題の解決のため鋭意研究を重ねた結果、微細藻類由来バイオマスがゴム様の弾力を有し、該微細藻類バイオマスをジエン系ゴムに混合して得られるゴム組成物が、反発弾性に優れ、低粘度、低比重であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下の(1)〜(5)のとおりである。
(1)ジエン系ゴム及び微細藻類由来バイオマスを含むゴム組成物。
(2)ジエン系ゴム100質量部に対し、微細藻類由来バイオマスを5〜80質量部含有することを特徴とする(1)記載のゴム組成物。
(3)微細藻類由来バイオマスの平均粒径が0.01〜200μmであることを特徴とする(1)又は(2)記載のゴム組成物。
(4)微細藻類由来バイオマスがボトリオコッカス属であることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載のゴム組成物。
(5)微細藻類由来バイオマスがアルジナンであることを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載のゴム組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な加工性と高反発弾性が高いレベルでバランスし、かつ、軽量性に優れたゴム組成物の提供が可能となり、タイヤ用途をはじめ、防振ゴム、防舷材、ベルト、ホースその他の工業品などの用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明のジエン系ゴムは、分子内に二重結合を有するゴムであれば特に限定されないが、例えば天然ゴム(N R)、各種ブタジエンゴム(BR)、ポリイソプレンゴム(IR)、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。
【0015】
本発明の微細藻類由来バイオマスは、主にバイオ燃料を産生する微細藻類由来のバイオマスをいい、具体的には、緑藻類、珪藻類由来のバイオマス等が挙げられる。さらに具体的には、Botryococcus braunii,Chlorella sp,Cryptothecodinium cohnii,Cylindrotheca sp.,Dunaliella primolecta,Isochrysis sp.,Monallanthus salina,Nannochloris sp.,Nannochloropsis sp.,Neochloris sp.,Neochloris oleoabundans,Nitzschia sp.,Phaeodactylum tricornutum,Schizochytrium sp.,Tetraselmis suieiaなどの由来のバイオマスが挙げられる。
【0016】
なかでも、重油相当の炭化水素類を産生するボトリオコッカス(Botryococcus)属由来のバイオマスであることが好ましい。
【0017】
微細藻類由来のバイオマスは、微細藻類自体又は微細藻類を乾燥したものであってもかまわないが、上記緑藻類、珪藻類などの微細藻類から有機溶媒により炭化水素類を抽出した後の抽出残渣であることが好ましく、前述のボトリオコッカス属微細藻類から有機溶媒により炭化水素類を抽出した後の抽出残渣、すなわち、アルジナンであることがより好ましい。特に、微細藻類由来バイオマスとして、アルジナンを選択することにより、構造が類似する、ジエン系ゴム中での分散性がさらに高くなるため、加工性と高反発弾性がいっそう良好となり好ましい。
【0018】
具体的には、上記微細藻類を、ヘキサン、クロロホルム、メタノール、エタノール、ジエチルエーテル、アセトンからなる1群の有機溶媒から1種以上、又はヘキサン/アセトンの混合溶媒、クロロホルム/メタノールの混合溶媒、エタノール/ジエチルエーテルの混合溶媒などに例示される前記有機溶媒の混合物に分散し、微細藻類中の炭化水素類を抽出することにより該抽出残渣を得ることができる。
【0019】
さらには、ジエン系ゴムとの接着性、ジエン系ゴム中での分散性を高めるために、上記炭化水素類の抽出後に、種々の水溶性成分の除去操作を経たバイオマスであることが特に好ましい。種々の水溶性成分の除去操作としては、酸処理、アルカリ処理、温熱水処理等が挙げられる。水溶性成分の除去操作に用いられる薬剤としては、塩酸、硫酸、トリクロロ酢酸等の酸類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類が挙げられる。また、温熱水処理の温度としては20〜110℃が好ましく、25〜80℃がより好ましく、30〜50℃がいっそう好ましい。当該酸処理、アルカリ処理及び温熱水処理は、併用して行なうこともできる。
【0020】
本発明の微細藻類由来のバイオマスは、熱安定性を高めるために、種々の溶媒可溶性成分の除去操作を経たものであることが好ましい。種々の溶媒可溶性成分の除去操作としては、浸漬、攪拌、還流、ソックスレー抽出処理等とそれに次ぐ遠心分離、濾過処理等が挙げられる。種々の溶媒可溶性成分の除去操作に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、クロロホルム、テトラクロロエタン等の含有ハロゲン溶媒類、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の高極性溶媒類、トルエン、ヘキサン等の低極性溶媒類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒類等が挙げられ、これらのうちのいくつかを順次単独に、あるいは、混合溶媒として使用することもできる。
【0021】
本発明の微細藻類由来バイオマスはジエン系ゴムと混合してゴム組成物とするが、その形態としては、粉末状での利用が好ましい。ここでいう粉末状は、粉砕機(カッター、ハンマー等)や各種ミル(石臼タイプ、乳鉢タイプ、ボールミル等)により粒径0.01〜200μm程度まで細かくしたものが好ましい。
【0022】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して微細藻類由来バイオマス5〜80質量部を含むことが好ましい。該比率とすることにより、易加工性、高反発弾性、軽量化という点でよりバランスの取れたものとなる。
【0023】
次に、実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0024】
本発明の実施例、比較例において用いた原材料及び各種評価方法を以下に示す。
【0025】
<原材料>
表1に示す各成分の詳細は以下の通りである。
SBRゴム :日本ゼオン製、乳化重合SBR(Nipol 1502)
カーボンブラック :三菱化学製、高磨砕ファーネスブラック(HAF、ダイアブラックH)
シリカ :東ソー・シリカ製、沈殿法シリカ(ニップシールAQ)
シランカップリング剤:デグッサ製、ポリスルフィド型シランカップリング剤(Si69)
亜鉛華 :正同化学工業製、酸化亜鉛3種
ステアリン酸 :花王製、ルナックS−50V
老化防止剤 :フレキシス製、SANTOFLEX 6PPD
加硫促進剤 :川口化学工業製、チアゾール系(アクセルDM)、スルフェンアミド系(アクセルNS)の1:1(質量比)混合品
硫黄 :鶴見化学工業製、金華印油入微粉硫黄
【0026】
<評価方法>
1.アルジナンの含有量(純度)
微細藻類中の炭化水素類(脂質等)を有機溶媒により抽出した抽出残渣に対し、示差熱熱重量同時測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、TG/DTA7200)を用い、以下の温度条件における400℃以上での重量減少率より求めた。
<測定条件>
昇温度開始温度;25℃
最終到達温度;800℃
昇温速度;+10℃/分(なお、100℃の時点で30分維持する)
温度校正標準試料(インジウム(156.6℃)、亜鉛(419.4℃)
【0027】
2.ムーニー粘度(相対値)
JIS K−5600に従い測定を行った(ML1+4は100℃とした)。得られた結果は、比較例1の値を100として相対値表示した。この値が90より小さいほど加工性に優れることを示す。
【0028】
3.比重
JIS K−6268に従い密度を測定し比重を求めた。
【0029】
4.反発弾性(相対値)
JIS K−6255.4に従い測定を行った。得られた反発弾性値は、ムーニー粘度と同様、比較例1の値を100として相対値表示した。反発弾性(相対値)の値が110より大きいほど反発弾性が大きく良好であることを示す。
【0030】
製造例1
ボトリオコッカス属の微細藻類(乾燥品)100gにヘキサン1Lを加え、室温下、24時間静置して炭化水素類等を抽出した。該炭化水素類等を抽出した抽出残渣に対し、ヘキサンによる同様の抽出操作を2回(合計3回)繰り返した。得られた抽出残渣を風乾し、カッターミルで粉砕して、微細藻類由来バイオマス1(アルジナン粗精製物(純度57%))70gを得た。
【0031】
製造例2
製造例1と同様にして得られた微細藻類由来バイオマス1の70gに、エタノール70mL、イオン交換水700mL加えた後、水酸化ナトリウム(ペレット)を攪拌しながらpHが11以上となるまで添加し、30℃の恒温環境下24時間攪拌した。抽出残渣を回収し、イオン交換水で中性となるまで洗浄した後、イオン交換水700mLに再懸濁し6N塩酸を攪拌しながらpHが2以下となるまで添加し、30℃の恒温環境下24時間攪拌した。抽出残渣を回収し、イオン交換水で中性となるまで洗浄した。50℃オーブン内で24時間乾燥し、カッターミルで粉砕し、微細藻類由来バイオマス2(アルジナン粗精製物(純度73%))50gを得た。
【0032】
製造例3
製造例2と同様にして得られた微細藻類由来バイオマス2の50gに、メタノール/クロロホルム=1:2(V/V)の混合溶媒500mLを加え、24時間攪拌した。抽出残渣を回収し、同様の抽出操作をさらに2回(合計3回)繰り返した。得られた抽出残渣を回収し風乾した後、50℃オーブン内で24時間乾燥、カッターミルで粉砕し、微細藻類由来バイオマス3(アルジナン粗精製物(純度80%))30gを得た。
【0033】
実施例1〜3
表1に示す配合組成において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を2Lの密閉型ミキサーで5分間混練し、温度が165℃に達したときに放出して、SBRゴムのマスターバッチを得た。このマスターバッチに加硫促進剤と硫黄をオープンロールで混連し、SBRゴム組成物を得た。得られたSBRゴム組成物を15×15×0.2cmの金型中で160℃×20分間加硫処理して、加硫ゴムシートを作製し、その物性を評価した。結果を表1に示した。
【0034】
比較例1,2
表1示す配合組成にて、実施例1〜3と同様の操作にてSBRゴム組成物を調製し、その物性を評価した。
【0035】
実施例1〜3及び比較例1、2にて得られたゴム組成物について、前述の評価を行った。配合組成及び評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、実施例1〜3のゴム組成物は、比較例1、2のゴム組成物に比べて、ムーニー粘度(相対値)が非常に低く、加工性に優れることが分かった。また、反発弾性(相対値)にも優れており、かつ、軽量であることから、本発明のゴム組成物は、従来に無い、良好な加工性と高反発弾性が高いレベルでバランスした軽量性の優れたゴム組成物であることが分かった。