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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-124447(P2015-124447A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】機上オイリング剤及びその応用
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/02 20060101AFI20150609BHJP
   D03J 1/02 20060101ALI20150609BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20150609BHJP
   D06M 15/263 20060101ALI20150609BHJP
   D06M 15/233 20060101ALI20150609BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20150609BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20150609BHJP
【FI】
   D06M13/02
   D03J1/02
   D06M13/224
   D06M15/263
   D06M15/233
   D06M101:32
   D06M101:34
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2013-268164(P2013-268164)
(22)【出願日】2013年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 武史
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 淳一
(72)【発明者】
【氏名】東 光雄
【テーマコード(参考)】
4L033
4L043
【Fターム(参考)】
4L033AA07
4L033AA08
4L033AB03
4L033AC09
4L033AC12
4L033BA01
4L033BA21
4L033CA13
4L033CA18
4L043BB15
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、製織の際に、糊付けした経糸どうしの粘着を抑制し、粘着による落糊の発生や開口不良の問題を抑制できる機上オイリング剤、機上オイリング剤を付与してなるオイリング糸及び織物の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の機上オイリング剤は、糊付糸に対して織機上で付与するものであり、鉱物油、エステル油及び動植物油から選ばれる少なくとも1種の成分(I)を含有し、かつ機上オイリング剤全体に占める成分(I)の重量割合が80重量%以上であり、その粘度(20℃)が8〜30mPa・sである。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊付糸に対して織機上で付与する機上オイリング剤であって、
鉱物油、エステル油及び動植物油から選ばれる少なくとも1種の成分(I)を含有し、かつ機上オイリング剤全体に占める該成分(I)の重量割合が80重量%以上であり、
粘度(20℃)が8〜30mPa・sである、
機上オイリング剤。
【請求項2】
鉱物油を必須に含有し、該鉱物油の粘度(30℃レッドウッド秒)が30〜100秒である、請求項1に記載の機上オイリング剤。
【請求項3】
機上オイリング剤全体に占める非イオン性界面活性剤の重量割合が20%以下である、請求項1又は2に記載の機上オイリング剤。
【請求項4】
糊付糸に対して、請求項1〜3のいずれかに記載の機上オイリング剤を付与してなる、オイリング糸。
【請求項5】
前記糊付糸が、糸条に繊維用経糸糊剤をサイジングしてなり、
前記繊維用経糸糊剤が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体及びスチレン系単量体を含有する重合性成分を共重合して得られる共重合体の中和物と、ワックスとを含む、請求項4に記載のオイリング糸。
【請求項6】
前記糸条が、ポリアミド又はポリエステルから構成されるマルチフィラメント糸である、請求項5に記載のオイリング糸。
【請求項7】
前記糸条が、56デシテックス以下のマルチフィラメント糸である、請求項5又は6に記載のオイリング糸。
【請求項8】
前記糊付糸が、式(1)で定義される下記の空間率を有するマルチフィラメントである、請求項4〜7のいずれかに記載のオイリング糸。
空間率(%)=((N1/(N2×N3))×100 (1)
N1:糊付糸断面における糊付糸内部の空間面積
N2:糊付糸断面におけるモノフィラメントの断面積
N3:フィラメント数
マルチフィラメント糸のフィラメント数が3〜7本の場合の空間率:3%以下
マルチフィラメント糸のフィラメント数が8〜36本の場合の空間率:8%以下
【請求項9】
請求項4〜8のいずれかに記載のオイリング糸からなる経糸と、緯糸とを製織機を用いて製織する工程を含む、織物の製造方法。
【請求項10】
糊付糸に対して、織機上で請求項1〜3のいずれかに記載の機上オイリング剤を付与する工程(1)と、工程(1)で得られたオイリング糸からなる経糸と緯糸とを製織機を用いて製織する工程(2)とを含む、織物の製造方法。
【請求項11】
前記製織機が、ウォータージェットルーム又はエアージェットルームである、請求項9又は10に記載の織物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機上オイリング剤及びその応用に関する。詳細には、本発明は、製織の際に、糊付糸に対して織機上で付与する機上オイリング剤、糊付糸に対して該機上オイリング剤を付与してなるオイリング糸及び織物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維の製織に使用される糊剤には、接着力、耐水性、耐摩耗性、耐粘着性、精練性等の種々の性能が要求されている。また、フィラメント糸を用いて製織する場合、その生産能率の向上をはかるために、織機を用いて製織が行われている(例えば特許文献1)。
また最近、経糸のデニール数が小さくなってきている(細デニール化)。デニール数の小さい糸は、通常のデニールに比べて糸が細く弱いために、製織時の経糸切れが起こりやすい。通常、製織時の経糸切れを防止するために、着糊量を上げてモノフィラメント同士の集束性を上げることが行われる。しかし、着糊量を上げると、製織時の経糸の開口不良を引き起こす粘着が起こったり、落糊が発生したりする問題があった。このような観点から、糸条に、製織時の経糸切れを抑制する程の接着性と開口不良を抑制できる耐粘着性とを付与でき、落糊の発生を抑制できる糊剤の開発が望まれている。
【0003】
また、経糸は、糊付けした直後に、経糸と金属及び経糸どうしの間で発生する摩擦を低減するために、オイリングされることがある(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−45145号公報
【特許文献2】特開平8−325885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常オイリングは、糸条に糊付けした直後に、ローラータッチ方式等にて行われる(以下、アフターオイリングということがある)。糊付け及びオイリングした糸条は、一度ビームに巻き取られ、その後製織の際にビームから解舒して、経糸として使用される。しかし、このような経糸を用いた場合、経糸どうしが粘着し、製織の際にビームから経糸を解舒する際に、開口不良が発生したり、筬や綜絖にて落糊が発生したりして、製織不良の原因となる問題がある。これらの問題は、糸条に優れた接着性と耐粘着性とを付与でき、落糊の発生を抑制できるような糊剤を用いても、同様に起こる問題であった。
【0006】
本発明の目的は、製織の際に、糊付けした経糸どうしの粘着を抑制し、粘着による落糊の発生や開口不良の問題を抑制できる機上オイリング剤、機上オイリング剤を付与してなるオイリング糸及び織物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、糊付けした経糸が、糊剤とオイリング剤が表面に付着したまま、ビームにまかれた状態で数日から数週間静置されたときに、経糸上の糊皮膜が経時的に可塑化され、その結果糊付けした経糸どうしの粘着が引き起こされていること、その粘着により落糊の発生や開口不良の問題が発生し、製織効率を低下させていること、を突き止めた。そして、製織の際に、糊付糸に対して織機上で付与する特定の機上オイリング剤であれば、本発明の課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、糊付糸に対して織機上で付与する機上オイリング剤であって、鉱物油、エステル油及び動植物油から選ばれる少なくとも1種の成分(I)を含有し、かつ機上オイリング剤全体に占める成分(I)の重量割合が80重量%以上であり、粘度(20℃)が8〜30mPa・sである、機上オイリング剤である。
【0009】
機上オイリング剤は、鉱物油を必須に含有し、該鉱物油の粘度(30℃レッドウッド秒)が30〜100秒であることが好ましい。
【0010】
機上オイリング剤全体に占める非イオン性界面活性剤の重量割合が20%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明のオイリング糸は、糊付糸に対して、上記の機上オイリング剤を付与してなるものである。
【0012】
本発明の機上オイリング剤は、前記糊付糸が、糸条に繊維用経糸糊剤をサイジングしてなり、前記繊維用経糸糊剤が、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体及びスチレン系単量体を含有する重合性成分を共重合して得られる共重合体の中和物と、ワックスとを含むときに特に好適である。
【0013】
前記糸条が、ポリアミド又はポリエステルから構成されるマルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0014】
前記糸条は、56デシテックス以下のマルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0015】
前記糊付糸は、式(1)で定義される下記の空間率を有するマルチフィラメントであることが好ましい。
空間率(%)=((N1/(N2×N3))×100 (1)
N1:糊付糸断面における糊付糸内部の空間面積
N2:糊付糸断面におけるモノフィラメントの断面積
N3:フィラメント数
マルチフィラメント糸のフィラメント数が3〜7本の場合の空間率:3%以下
マルチフィラメント糸のフィラメント数が8〜36本の場合の空間率:8%以下
【0016】
本発明の織物の製造方法は、上記のオイリング糸からなる経糸と、緯糸とを製織機を用いて製織する工程を含むものである。また、本発明の織物の製造方法は、糊付糸に対して、織機上で上記の機上オイリング剤を付与する工程(1)と、工程(1)で得られたオイリング糸からなる経糸と緯糸とを製織機を用いて製織する工程(2)とを含むものである。
【0017】
前記製織機は、ウォータージェットルーム又はエアージェットルームであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の機上オイリング剤を用いた場合、製織の際に、糊付けした経糸どうしの粘着を抑制し、落糊の発生や開口不良の問題の発生を抑制できる。
本発明のオイリング糸を用いた場合、本発明のオイリング糸の製造方法の場合及び本発明の織物の製造方法の場合、糊付けした経糸どうしの粘着が抑制され、落糊の発生や開口不良の問題の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】機上オイリングと経糸との関係の概略図
図2】糊付糸断面の概念図
【発明を実施するための形態】
【0020】
[機上オリング剤]
機上オイリング剤(以下単にオイリング剤ということがある)とは、糊付糸に対して、織機上で付与するオイリング剤をいう。図1を用いて、機上オイリング剤について説明する。糊付け後、一旦ビームに巻取られた経糸は、製織の際に、織機ビーム1から、解舒点2において解舒された後に開口され、一本ずつ綜絖5と筬6に引き通す経通し(ドローイング)を行った後、製織機にかけられる。本発明の機上オイリング剤とは、解舒点2から綜絖5に至るまでの間の経糸4に対して、ローラータッチ給油、ノズル給油、スプレー給油等の方法で付与するオイリング剤をいう。
【0021】
機上オイリング剤は、鉱物油、エステル油及び動植物油から選ばれる少なくとも1種の成分(I)を含有する。機上オイリング剤全体に占める成分(I)の重量割合は80重量%以上であり、好ましくは82重量%以上、さらに好ましくは85重量%以上である。該重量割合が80重量%未満の場合、十分な平滑性を経糸に付与することができず、製織不良の原因となる。
【0022】
機上オリング剤の粘度(20℃)は8〜30mPa・sであり、好ましくは10〜30mPa・s、さらに好ましくは10〜25mPa・sである。該粘度が8mPa・s未満の場合、経糸に対して十分な油膜強度を付与できず、経糸と筬、経糸と経糸が直接接触するため、良好な平滑性を付与することができず、製織効率が低下する。一方、該粘度が30mPa・sを超える場合、油膜そのものの粘度抵抗が高くなるため、良好な平滑性を付与することができず、製織効率が低下する。
【0023】
良好な平滑性と精練性を発揮するために、機上オイリング剤は、鉱物油を必須に含有することが好ましい。
鉱物油としては、特に限定はないが、マシン油、スピンドル油、流動パラフィン等を挙げることができる。鉱物油としては、1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
鉱物油の粘度(30℃レッドウッド秒)は、好ましくは30〜100秒、より好ましくは30〜80秒、さらに好ましくは40〜80秒である。該粘度が30秒未満の場合、経糸に対して、十分な油膜強度を付与できず、経糸と筬、経糸と経糸が直接接触するため、良好な平滑性を付与することができず、製織効率が低下する可能性がある。一方、該粘度が100秒超の場合、油膜そのものの粘度抵抗が高くなるため、良好な平滑性を付与することができず、製織効率が低下する可能性がある。
【0024】
機上オイリング剤が鉱物油を必須に含有する場合、機上オイリング剤全体に占める鉱物油の重量割合は、好ましくは5重量%以上であり、より好ましくは20〜99重量%、さらに好ましくは50〜90重量%である。該割合が5重量%未満の場合、良好な平滑性を得ることができず、製織効率が低下する可能性がある。
【0025】
エステル油としては、公知のエステルでよく、一価アルコールと一価カルボン酸との一価エステル、多価アルコールと一価カルボン酸との多価エステル、一価アルコールと多価カルボン酸との多価エステル等が挙げられる。エステル油としては、1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
【0026】
一価エステルを構成する一価アルコールとしては、脂肪族一価アルコールや芳香族一価アルコール等が挙げられる。一価アルコールは、1種又は2種以上を使用してもよい。
脂肪族1価アルコールとしては、特に限定はなく、飽和であっても不飽和であってもよい。脂肪族1価アルコールの炭素数は、1〜22が好ましく、2〜20がより好ましく、2〜18がさらに好ましい。脂肪族1価アルコールは、飽和脂肪族1価アルコールと不飽和脂肪族1価アルコールを併用してもよい。
【0027】
脂肪族1価アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ミリストレイルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、アルギジニルアルコール、イソイコナニルアルコール、エイコセノイルアルコール、ベヘニルアルコール、イソドコサニルアルコール、エルカニルアルコール、リグノセリニルアルコール、イソテトラドコサニルアルコール、ネルボニルアルコール、セロチニルアルコール、モンタニルアルコール、メリシニルアルコール等が挙げられる。
芳香族アルコール1価アルコールとしては、フェノール、アルキルベンゼンアルコール等が挙げられる。
【0028】
一価エステルを構成する一価カルボン酸としては、一価の脂肪族カルボン酸(脂肪酸)、一価の芳香族カルボン酸等が挙げられる。一価カルボン酸は、1種又は2種以上を使用してもよい。
脂肪酸としては、特に限定はなく、飽和であっても不飽和であってもよい。脂肪酸の炭素数は、8〜24が好ましく、14〜24がより好ましく、16〜22がさらに好ましい。脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸を併用してもよい。
【0029】
脂肪酸としては、酪酸、クロトン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、イソセチル酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、イソイコサン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、イソドコサン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、イソテトラドコサン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
一価の芳香族カルボン酸としては、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、サリチル酸、没食子酸、ケイ皮酸等が挙げられる。
【0030】
一価アルコールと一価カルボン酸との一価エステルとしては、例えば、メチルオレエート、ブチルオレエート、ブチルステアレート、オクチルパルミテート、オクチルステアレート、オクチルオレエート、イソオクチルパルミテート、ラウリルオレエート、イソトリデシルステアレート、ヘキサデシルステアレート、イソステアリルオレート、オレイルラウレート、オレイルオレエート等が挙げられる。
【0031】
多価エステルを構成する多価アルコールとしては、二価以上のアルコールであれば、特に限定はない。多価アルコールとしては、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール等が挙げられる。多価アルコールは1種又は2種以上を使用してもよい。
脂肪族多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、エリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ショ糖等が挙げられる。
芳香族多価アルコールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールZ、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。
【0032】
多価エステルを構成する一価カルボン酸としては、エステルで記載したものと同じものが挙げられる。
【0033】
多価アルコールと一価カルボン酸との多価エステルとしては、例えば、ジエチレングリコールジオレート、ヘキサメチレングリコールジオレート、ネオペンチルグリコールジラウレート、トリメチロールプロパントリラウレート、トリメチロールプロパントリカプリレート、グリセリントリオレート、ペンタエリスリトールテトラオレート、ソルビタンモノオレート、ビスフェノールA
ジラウレートチオジプロパノールジラウレート、ペンタエリスリトールC8・C10カルボン酸混合エステル、1,6−ヘキサンジオールジイソステアレート等が挙げられる。
【0034】
多価エステルを構成する一価アルコールとしては、一価エステルで記載したものと同じものが挙げられる。
【0035】
多価エステルを構成する多価カルボン酸としては、二価以上であれば、特に限定はない。多価カルボン酸としては、脂肪族多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸等が挙げられる。多価カルボン酸は1種又は2種以上を使用してもよい。なお、本発明で用いる脂肪族多価カルボン酸は、チオジプロピオン酸等の含硫黄多価カルボン酸を含まない。
脂肪族多価カルボン酸としては、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、アコニット酸、オキサロ酢酸、オキサロコハク酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メリト酸、トリメリット酸等が挙げられる。
【0036】
一価アルコールと多価カルボン酸との多価エステルとしては、例えば、ジオレイルマレート、ジイソトリデシルアジペート、ジオレイルアジペート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアゼレート、ジオクチルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソステアリルトリメリテート等が挙げられる。
【0037】
これらエステル油の重量平均分子量は、100〜1200が好ましく、200〜1000がより好ましく、250〜1000がさらに好ましい。上記のエステル化合物の製造方法としては、特に限定はなく、公知のエステル化の手法を採用できる。
該重量平均分子量が100未満の場合、経糸に対して、十分な油膜強度を付与できず、経糸と筬、経糸と経糸が直接接触するため、良好な平滑性を付与することができず、製織効率が低下する可能性がある。一方、該重量平均分子量が、1200超の場合、油膜そのものの粘度抵抗が高くなるため、良好な平滑性を付与することができず、製織効率が低下する可能性がある。
機上オイリング剤全体に占めるエステル油の重量割合は、好ましくは99重量%以下、より好ましくは1〜90重量%、さらに好ましくは1〜40重量%である。
【0038】
動植物油としては、特に限定はないが、牛脂、豚脂、マッコウ油、大豆油、ヤシ油、ヒマシ油、ナタネ油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ツバキ油、桐油など、あるいはこれらの水添油剤等が挙げられる。動植物油としては、1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
これらの中でも、常温で液状のものが好ましく、ヤシ油、ヒマシ油、ナタネ油、ゴマ油、桐油がさらに好ましい。
機上オイリング剤全体に占める動植物油の重量割合は、好ましくは30重量%以下、より好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは1〜15重量%である。該割合が30重量%超の場合、機上オイリング剤の乳化性不良や精練不良の原因となることがある。
機上オイリング剤が動植物油を含有する場合、オイリング糸の抱合力を向上することができる。
【0039】
通常、経糸に付与された糊剤やオイリング剤は、製織工程を経た後に、染色工程の前の精練工程で除去される。染色工程で織物に糊剤やオイリング剤が残留していると、染色に悪影響を及ぼすためである。従って、精練工程で除去されるよう、機上オイリング剤は非イオン界面活性剤を含むことが好適であるが、その割合が大きいと、糊皮膜の可塑化を引き起こし、経糸どうしの粘着を引き起こす。このような点から、非イオン界面活性剤は特定量以下とすることが好ましい。具体的には、機上オイリング剤全体に占める非イオン界面活性剤の重量割合は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは18重量%以下、さらに好ましくは15重量%以下ある。
【0040】
非イオン界面活性剤としては、公知のものでよく、以下を挙げることができる。例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレン直鎖アルキルエーテル;ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンイソセチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第一級アルキルエーテル;ポリオキシエチレン1−ヘキシルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−オクチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン1−ヘキシルオクチルエーテル、ポリオキシエチレン1−ペンチルへプチルエーテル、ポリオキシエチレン1−へプチルペンチルエーテル等のポリオキシアルキレン分岐第二級アルキルエーテル;ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルケニルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテル;
ポリオキシアルキレンアリールエーテル;ポリオキシアルキレンアルキルアミン、脂肪族アルカノールアミド、ポリオキシアルキレン脂肪酸アミド;ポリオキシアルキレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタンラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンオクチレート等の脂肪酸ポリオキシアルキレンソルビタン;ポリオキシエチレンヒマシ油エチル等のポリオキシアルキレンヒマシ油エチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油エチル等のポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油エチル;オキシエチレン−
オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体;オキシエチレン−オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端アルキルエーテル化物;オキシエチレン− オキシプロピレンブロックまたはランダム共重合体の末端ショ糖エチル化物等が挙げられる。
これらの非イオン界面活性剤の中でも、オイリング剤の乳化性や除去したオイリング剤の再付着防止の理由で、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソデシルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。非イオン界面活性剤は、1種でもよく、2種以上を用いてもよい。
【0041】
なお、該機上オイリング剤は、必要ならば、他の成分(II)を含んでもよい。成分(II)としては、前述の鉱物油、エステル油及び動植物油を除く平滑剤;前述の非イオン界面活性剤を除く乳化剤、浸透剤、帯電防止剤又は摩耗防止剤;飛散防止剤;防腐剤;水;溶剤等が挙げられる。成分(II)としては、公知のものを適宜選定すればよく、1種でもよく、2種以上を用いてもよい。例えば、平滑剤としては、シリコーン油等があげられる。飛散防止剤としては、ポリブテン等があげられる。乳化剤・浸透剤・帯電防止剤・摩耗防止剤としては、高級アルコール、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤などがあげられる。
【0042】
高級アルコールとしては、オクチルアルコール、イソオクチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ミリストレイルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、パルミトレイルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、エライジルアルコール、バクセニルアルコール、ガドレイルアルコール、アルギジニルアルコール、イソイコナニルアルコール、エイコセノイルアルコール、ベヘニルアルコール、イソドコサニルアルコール、エルカニルアルコール、リグノセリニルアルコール、イソテトラドコサニルアルコール、ネルボニルアルコール、セロチニルアルコール、モンタニルアルコール、メリシニルアルコール等が挙げられる。
【0043】
アニオン界面活性剤としては、例えば、オレイン酸、パルミチン酸、オレイン酸ナトリウム塩、パルミチン酸カリウム塩、オレイン酸トリエタノールアミン塩等の脂肪酸(塩);ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシ酢酸カリウム塩、乳酸、乳酸カリウム塩等のヒドロキシル基含有カルボン酸(塩);ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸(塩);トリメリット酸カリウム、ピロメリット酸カリウム等のカルボキシル基多置換芳香族化合物の塩;ドデシルベンゼンスルホン酸(ナトリウム塩)等のアルキルベンゼンスルホン酸(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルスルホン酸(カリウム塩)等のポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸(塩);ステアロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ラウロイルメチルタウリン(ナトリウム)、ミリストイルメチルタウリン(ナトリウム)、パルミトイルメチルタウリン(ナトリウム)等の高級脂肪酸アミドスルホン酸(塩);ラウロイルサルコシン酸(ナトリウム)等のN−アシルサルコシン酸(塩);オクチルホスホネート(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸(塩);フェニルホスホネート(カリウム塩)等の芳香族ホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルホスホネートモノ2−エチルヘキシルエステル(カリウム塩)等のアルキルホスホン酸アルキルリン酸エステル(塩);アミノエチルホスホン酸(ジエタノールアミン塩)等の含窒素アルキルホスホン酸(塩);2−エチルヘキシルサルフェート(ナトリウム塩)等のアルキル硫酸エステル(塩);ポリオキシエチレン2−エチルヘキシルエーテルサルフェート(ナトリウム塩)等のポリオキシアルキレン硫酸エステル(塩);ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等の長鎖スルホコハク酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、N−ステアロイル−L−グルタミン酸ジナトリウム等の長鎖N−アシルグルタミン酸塩;等を挙げることができる。
【0044】
カチオン界面活性剤としては、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヤシ油アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムメトサルフェート、オレイルジメチルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジオクチルジメチルアンモニウムクロライド、ジラウリルジメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルジエチルメチルアンモニウムサルフェート、等のアルキル第四級アンモニウム塩;(ポリオキシエチレン)ラウリルアミノエーテル酸塩、ステアリルアミノエーテル乳酸塩、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアミノエーテルジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルエチルアンモニウムエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)硬化牛脂アルキルエチルアミンエトサルフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ラウリルメチルアンモニウムジメチルホスフェート、ジ(ポリオキシエチレン)ステアリルアミン乳酸塩等の(ポリオキシアルキレン)アルキルアミノエーテル塩;N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N-ジメチル−N−ステアロイルアミドプロピルアンモニウムナイトレート、ラノリン脂肪酸アミドプロピルエチルジメチルアンモニウムエトサルフェート、ラウロイルアミドエチルメチルジエチルアンモニウムメトサルフェート等のアシルアミドアルキル第四級アンモニウム塩;ジパルミチルポリエテノキシエチルアンモニウムクロライド、ジステアリルポリエテノキシメチルアンモニウムクロライド等のアルキルエテノキシ第四級アンモニウム塩;ラウリルイソキノリニウムクロライド等のアルキルイソキノリニウム塩;ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等のベンザルコニウム塩;ベンジルジメチル{2−[2−(p−1,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトオキシ]エチル}アンモニウムクロライド等のベンゼトニウム塩;セチルピリジニウムクロライド等のピリジニウム塩;オレイルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート、ラウリルヒドロキシエチルイミダゾリニウムエトサルフェート等のイミダゾリニウム塩;N−ココイルアルギニンエチルエステルピロリドンカルボン酸塩、N−ラウロイルリジンエチルエチルエステルクロライド等のアシル塩基性アミノ酸アルキルエステル塩;ラウリルアミンクロライド、ステアリルアミンブロマイド、硬化牛脂アルキルアミンクロライド、ロジンアミン酢酸塩等の第一級アミン塩;セチルメチルアミンサルフェート、ラウリルメチルアミンクロライド、ジラウリルアミン酢酸塩、ステアリルエチルアミンブロマイド、ラウリルプロピルアミン酢酸塩、ジオクチルアミンクロライド、オクタデシルエチルアミンハイドロオキサイド等の第二級アミン塩;ジラウリルメチルアミンサルフェート、ラウリルジエチルアミンクロライド、ラウリルエチルメチルアミンブロマイド、ジエタノールステアリルアミドエチルアミントリヒドロキシエチルホスフェート塩、ステアリルアミドエチルエタノールアミン尿素重縮合物酢酸塩等の第三級アミン塩;脂肪酸アミドグアニジニウム塩;ラウリルトリエチレングリコールアンモニウムハイドロオキサイド等のアルキルトリアルキレングリコールアンモニウム塩等が挙げられる。
【0045】
両性界面活性剤としては、例えば、2−ウンデシル−N,N−(ヒドロキシエチルカルボキシメチル)−2−イミダゾリンナトリウム、2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等のイミダゾリン系両性界面活性剤;2−ヘプタデシル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等のベタイン系両性界面活性剤;N−ラウリルグリシン、N−ラウリルβ−アラニン、N−ステアリルβ−アラニン等のアミノ酸型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0046】
なお、機上オイリング剤全体に占める成分(II)の重量割合は、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下ある。該割合が20重量%超の場合、製織不良や精練不良の原因となる可能性がある。
【0047】
機上オイリング剤の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。例えば、構成する前記の各成分を任意の順番で添加混合することによって製造される。
【0048】
[オイリング糸及びその製造方法]
本発明のオイリング糸は、糊付糸に対して、上記の機上オイリング剤を付与してなるものである。その際、粘着による落糊の発生や開口不良の問題を考慮すると、アフターオイリングがなされていない糊付糸又は特定の付着量以下でアフターオイリングがなされた糊付糸を用いることが好ましい。具体的には、オイリング糸に対するアフターオイルの付着量は、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.8重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0.3重量%以下、最も好ましくは0重量%である。
【0049】
オイリング糸の製造方法は、糊付糸に対して、織機上で上記の機上オイリング剤を付与する工程(1)を含むものである。本発明のオイリング糸を用いることにより、糊付けした経糸どうしの粘着を抑制し、粘着による筬や綜絖での落糊の発生や開口不良の問題を抑制できる。図1を用いて、オイリング糸及び機上オイリング剤を付与する工程(1)を説明する。
糊付け後、一旦ビームに巻取られた経糸は、製織の際に、織機ビーム1から解舒された後に開口され、一本ずつ綜絖5と筬6に引き通す経通し(ドローイング)を行った後、製織機にかけられる。本発明のオイリング糸は、織機ビーム1から解舒されてから綜絖5に至るまでの間の経糸4に対して、上記の機上オイリング剤を付与してなるものをいう。上記工程としては、織機ビーム1から解舒されてから綜絖5に至るまでの間の経糸4に対して、機上オイリング剤を付与する工程をいう。
【0050】
機上オイリング剤を付与する方法としては、特に限定されるものではないが、ローラータッチ給油、ノズル給油、スプレー給油等が挙げられる。これらの中でもローラータッチ給油が好ましい。また、機上オイリング剤は、他の溶媒で希釈せずに、ストレートで給油することが好ましい。
【0051】
オイリング糸における機上オイリング剤の付着量については、糸条の種類や太さ等によって相違するので特に限定はないが、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜9重量%、さらに好ましくは0.2〜8重量%である。該付着量が0.1重量%未満の場合、オイリング剤による効果が十分に得られない。また、良好な平滑性を得ることができず、製織効率が低下する可能性がある。一方、付着量が、10重量%超の場合、精練不良の原因となる可能性がある。なお、機上オイリング剤の付着量の測定条件等は後述する。
【0052】
本発明で用いられる糊付糸は、糸条に繊維用経糸糊剤(以下単に糊剤ということがある)をサイジングしてなるものである。
糸条は、マルチフィラメント糸、紡績糸(スパン糸)のいずれでもよいが、マルチフィラメント糸の場合に本願効果をより発揮させることができる。糸条を構成する糸種には特に限定はなく、綿;レーヨン;アセテート;麻;羊毛;アクリル;ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート及びポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステル繊維;ポリ−ε−カプラミド及びポリヘキサメチレンジアミンアジパミド等の脂肪族ポリアミド繊維(ナイロン繊維);ポリメタフェニレンイソフタラミド及びコポリパラフェニレン−3,4−オキシジフェニレンテレフタラミド等の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)等が挙げられる。特に糸条を構成する糸種が芳香族骨格を有するポリエステルから構成されるマルチフィラメント糸であると、糊剤との接着性及び抱合性が良いために好ましい。芳香族骨格を有するポリエステルから構成されるマルチフィラメント糸とは、実質的にポリエチレンテレフタレートからなるものが好適であるが、他の芳香族骨格を有するポリエステルや芳香族骨格を有するポリアミドに対しても良好な接着性及び抱合性を示す。糸条は、単独の糸種から構成されていてもよく、複数の糸種から構成された混繊糸、混紡糸やマルチフィラメント糸であってもよい。
【0053】
糊付糸が細い糸である場合に、本発明の効果をより発揮させることができる。詳細には、マルチフィラメント糸では、好ましくは56デシテックス以下、さらに好ましくは6〜44デシテックス、特に好ましくは8〜33デシテックスである。本発明の糊剤に好適なマルチフィラメント糸のフィラメント数は、3〜36本である。紡績糸(スパン糸)では、好ましくは20〜100番手、さらに好ましくは30〜90番手、特に好ましくは40〜80番手である。
【0054】
繊維用経糸糊剤をマルチフィラメント糸にサイジングしてなる糊付糸は、糊剤がマルチフィラメント糸内部に浸透するため、上記式(1)で定義される空間率が従来の糊付糸と比べ小さくなる。この空間率が下記にある所定値以下となる糊付糸の場合に、本発明の効果をより一層発揮させることができる。
【0055】
マルチフィラメント糸のフィラメント数が3〜7本の場合、空間率は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下である。マルチフィラメント糸のフィラメント数が8〜36本の場合、空間率は8%以下であり、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。空間率が3%以上超(フィラメント数3〜7本)、又は8%超(フィラメント数8〜36本)の糊付糸の場合、糊剤がマルチフィラメント糸内部に浸透せず、マルチフィラメント糸表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0056】
なお、上記式(1)で定義される空間率は、電子顕微鏡写真で撮影された糊付糸断面における糊付糸内部の空間面積N1、モノフィラメントの断面積N2、フィラメント数N3により算出される。糊付糸断面とは、マルチフィラメント糸の伸長方向に対して、垂直に裁断した際の断面を示す。糊付糸内部とは、該断面の糊付糸内部全体を示す。空間面積とは、糊付糸内部のモノフィラメント間にできる隙間であって、糊剤成分が存在しない空間の総面積を示す。
なお、図2に、糊付糸の断面における糊付糸内部の空間面積N1、モノフィラメントの断面積N2、フィラメント数N3(この場合7本)を示した糊付糸の概念図を示す。図2の左が空間率10%の糊付糸断面の概念図であり、図2の右が空間率0%の糊付糸断面の概念図である。
【0057】
サイジング方法については、特に限定はないが、例えば、ビームトゥービーム方式等を挙げることができる。ビームトゥービーム方式は、まず、クリールより糸条を引き出した整経ビームと、糊剤を入れた糊付ボックスとを準備する。次いで、糸条を整経ビームから引っ張り出し、糊付ボックス内を通過させて、糸条に糊剤を付着(糊付)させ、その後、ノンタッチホットエアー乾燥及びタッチシリンダー乾燥を施して得られた糊付糸を糊付ビームに巻く方式である(糊付け速度:50〜300m/min、ノンタッチホットエアー乾燥温度:80〜150℃、タッチシリンダー乾燥温度:50〜130℃)。
【0058】
糊付糸における糊剤の付着量については、糸条の種類や太さ等によって相違するので特に限定はないが、一般的には、好ましくは2〜18重量%、さらに好ましくは3〜15重量%、特に好ましくは4〜13重量%である。糊剤の付着量の測定条件等は後述する。
糸条がポリエステルフィラメント糸の場合、糊付糸における糊剤の付着量は、好ましくは2〜13重量%、さらに好ましくは4〜11重量%、特に好ましくは5〜10重量%である。付着量が2重量%未満では、接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。一方、付着量が13重量%超では、付着量が多すぎて製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0059】
繊維用経糸糊剤は、特定の共重合体の中和物(以下では、糊成分Aということもある。)とワックスとを含むものが好ましい。このような繊維用経糸糊剤を用いた場合、糸条内部に糊剤成分を浸透させることができ、糸条表面における糊剤の異常付着部分を抑制することができる。また、糊剤の可塑化も抑制することができる。そのため、糸条に優れた耐粘着性を付与でき、また落糊の発生を抑制することができるものと考えられる。さらに糊剤が糸条内部に浸透するので、集束性が向上し、接着性が向上するものと考えられる。
【0060】
なお、糊成分Aと水とを含む液を、以下では糊成分液ということとする。糊成分液は一般には粘度が高い。pHメーターを用いて、糊成分液のpHをそのまま測定する場合、測定後のpHメーター洗浄等に支障があることがあるので、糊成分液に含まれる固形分の重量濃度を1%に調整した水溶液のpHを20℃で測定した値を、糊成分液のpHと定義することにする。同様に、糊剤のpHは、糊剤に含まれる固形分の重量濃度を1%に調整した水溶液のpHを20℃で測定した値を意味することにする。重量濃度を1%に調整する方法については、特に限定はないが、糊成分液や糊剤に対して、蒸留水やイオン交換水を添加したりする方法や、加熱及び/又は乾燥を行って、水や親水性溶剤等の揮発性成分を除いたりする方法等が挙げられる。
ここで、固形分とは、糊成分液や糊剤から水や親水性溶剤等の揮発性成分を除いた不揮発性の成分を意味することとする。固形分の重量は、実施例に示すとおり、糊成分液や糊剤を加熱及び/又は乾燥した後に残る成分の重量である。以下の説明において、糊成分の重量は、糊成分の製造後に得られる反応混合物の固形分の重量を意味する。
【0061】
糊成分液や糊剤の粘度についても、上記で詳しく説明したpHと同様に、糊成分液や糊剤に含まれる固形分の重量濃度を20%に調整した水溶液の粘度を20℃で測定した値を意味することにする。重量濃度を20%に調整する方法も上記と同様である。
糊剤の表面張力についても、上記と同様に、糊剤に含まれる固形分の重量濃度を12%に調整した水溶液の表面張力を20℃で測定した値を意味することにする。重量濃度を12%に調整する方法も上記と同様である。
【0062】
(糊成分A)
糊成分Aは、特定の共重合体の中和物からなる。共重合体は、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びスチレン系単量体を含有する重合性成分を含有し、必要に応じてその他の単量体を含有することがある重合性成分(以下では、この重合性成分を重合性成分aということがある。)を溶液重合により共重合させる共重合工程によって製造される。さらに、共重合工程で得られた共重合体を中和する中和工程を経て、糊成分Aを製造できる。通常、中和工程では、水の存在下、アルカリ性物質を添加して共重合体をその中和物に変換するので、得られた糊成分Aは水と共存している。
【0063】
重合性成分aは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びスチレン系単量体を含有する重合性成分を含有し、その他の単量体を含有していてもよい。本願において、(メタ)アクリルとは、アクリル及び/又はメタクリルを意味するものとする。したがって、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、アクリル酸エステル系単量体及び/又はメタクリル酸エステル系単量体を意味する。
【0064】
(メタ)アクリル酸中に占めるメタクリル酸の重量割合は、好ましくは20〜100重量%、さらに好ましくは50〜95重量%、特に好ましくは60〜90重量%である。メタクリル酸の重量割合が少なすぎる場合、重合性成分a中に含まれることがある他の疎水性モノマーとの相溶性が低下し、均一な重合物を得ることが難しくなる。
【0065】
本発明でいう(メタ)アクリル酸エステル系単量体とは、(メタ)アクリル酸におけるカルボキシル基の水素原子が炭化水素基に置換された構造を有するものである。
該炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基であってもよいが、共重合のしやすさの点から、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよいが、共重合のしやすさの点から、飽和脂肪族炭化水素基であるアルキル基が好ましい。つまり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系単量体が好ましい。アルキル基の炭素数は、共重合のしやすさの点から、好ましくは1〜30、さらに好ましくは1〜26、特に好ましくは1〜22である。
【0066】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、アクリル酸テトラデシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸ヘプタデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸ノナデシル、アクリル酸アラキジル、アクリル酸ベヘニル、アクリル酸リグノセレニル、アクリル酸セロチニル、アクリル酸メリシニル、アクリル酸パルミトレイニル、アクリル酸オレイル、アクリル酸リノリル、アクリル酸リノレニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸エステル系単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸テトラデシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ヘキサデシル、メタクリル酸ヘプタデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸ノナデシル、メタクリル酸アラキジル、メタクリル酸ベヘニル、メタクリル酸リグノセレニル、メタクリル酸セロチニル、メタクリル酸メリシニル、メタクリル酸パルミトレイニル、メタクリル酸オレイル、メタクリル酸リノリル、メタクリル酸リノレニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸エステル系単量体が挙げられる。
【0067】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、n−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロルスチレン、3,4−ジクロルスチレン等が挙げられる。これらのスチレン系単量体は、1種又は2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレンは、接着性が高いため好ましい。
【0068】
重合性成分aは、その他の単量体を含んでもよい。その他の単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル系単量体;アクリルアマイド、メタクリルアマイド、ダイアセトンアクリルアマイド、アクリルアマイド−t−ブチルスルホン酸等のアクリルアマイド系単量体;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸3−ヒドロキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシペンチル、アクリル酸3−ヒドロキシペンチル、アクリル酸4−ヒドロキシペンチル、アクリル酸5−ヒドロキシペンチル、アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3−ジヒドロキシブチル、アクリル酸2,4−ジヒドロキシブチル、アクリル酸ポリエチレングリコール、アクリル酸ポリプロピレングリコール、アクリル酸ポリブチレングリコール等のアクリル酸ヒドロキシアルキル系単量体;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシペンチル、メタクリル酸3−ヒドロキシペンチル、メタクリル酸4−ヒドロキシペンチル、メタクリル酸5−ヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、メタクリル酸2,3−ジヒドロキシブチル、メタクリル酸2,4−ジヒドロキシブチル、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール、メタクリル酸ポリブチレングリコール等のメタクリル酸ヒドロキシアルキル系単量体;塩化ビニル、臭化ビニル、弗化ビニル等のハロゲン化ビニル系単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル系単量体等が挙げられる。
これらのその他の単量体は、1種又は2種以上を併用してもよい。
【0069】
重合性成分aにおいて、必須成分である(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体を含有する重合性成分や、必要に応じて含まれるその他の単量体の重量割合については、特に限定はないが、本発明の効果をより発揮させる点から、以下の割合が好ましい。
【0070】
重合性成分aに占める(メタ)アクリル酸の重量割合は、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは5〜25重量%、特に好ましくは10〜20重量%である。(メタ)アクリル酸が1重量%未満であると、糊付の際に異常付着を起こす可能性がある。一方、(メタ)アクリル酸が30重量%超であると、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0071】
重合性成分aに占める(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重量割合は、好ましくは40〜95重量%、更に好ましくは45〜90重量%、特に好ましくは50〜85重量%である。(メタ)アクリル酸エステル系単量体が40重量%未満であると、接着性が劣る傾向が見られる。一方、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が95重量%超であると、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0072】
重合性成分aに占めるスチレン系単量体の重量割合は、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは1.5〜20重量%、特に好ましくは2〜10重量%である。スチレン系単量体が1重量%未満であると、芳香族骨格を有するポリエステルに対する糊成分Aの接着性が乏しく、経糸切れの発生の原因となることがある。一方、スチレン系単量体が30重量%超であると、接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。
【0073】
重合性成分aがその他の単量体を含む場合、その重量割合は、100重量%から、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びスチレン系単量体の重量割合の和を差し引いた残りである。
本発明の効果をより発揮させる点から、重合性成分aに占める(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステル系単量体とスチレン系単量体の合計の重量割合は、95重量%以上が好ましく、96重量%以上がより好ましく、98重量%以上がさらに好ましく、100重量%特に好ましい。
【0074】
また、重合性成分aは、その他単量体として、アクリルアマイド、メタクリルアマイド、ダイアセトンアクリルアマイド、アクリルアマイド−t−ブチルスルホン酸等のアクリルアマイド系単量体を含有しないか、その重量割合を出来る限り小さくしたほうが好ましい。具体的には、重合性成分aに占めるアクリルアマイド系単量体の重量割合は、3重量%未満が好ましく、2重量%未満がより好ましく、1重量%未満がさらに好ましく、0重量%が特に好ましい。アクリルアマイド系単量体の重量割合が3重量%以上の場合、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0075】
共重合工程は、重合性成分aを溶液重合により共重合させる工程である。このように、溶液重合により重合性成分aを共重合させ、後述する中和工程を経て得られた共重合体の中和物を含む糊剤であれば、製織時の経糸切れを抑制する程の接着性、耐粘着性が優れる。
共重合工程では、重合性成分a及び水以外にも、溶剤、重合開始剤、連鎖移動剤等を用いるが、重合方法は既知なものであれば、特に限定していない。すなわち、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の方法で一つあるいは二つ以上の方法を用いることが可能である。好ましくは溶液重合で行うのがよい。
【0076】
重合に使用する溶剤は、重合性成分aの相溶性を向上させ、得られる共重合体の分子量を抑制する目的で使用される。溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類等を挙げることができる。溶剤の重量割合については、特に限定はないが、好ましくは重合性成分aに対して2〜50重量%、さらに好ましくは6〜40重量%、特に好ましくは8〜35重量%である。溶剤の重量割合が2重量%未満であると、共重合時の溶解安定性が悪くなる傾向が見られ、さらに、共重合体の分子量が上昇することで、高粘度化物が生成し、後加工工程における精練において、劣る傾向が見られるために好ましくない。一方、溶剤の重量割合が50重量%超であると、共重合体の分子量が低下し、糊剤の接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。
【0077】
重合開始剤としては、特に限定はしないが、水溶性重合開始剤及び油溶性開始剤等が好ましい。例えば、水溶性重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸類;t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシマレイン酸、コハク酸パーオキサイド等のパーオキサイド類;2,2´−アゾビス−(2−アミジノプロパン二塩酸塩)等のアゾ化合物類等が挙げられる。油溶性開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート等のパーオキサイド類;アゾビスシクロヘキサンカルボニル、アゾビスイソブチルアミジン塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物類等を挙げることができる。重合開始剤の重量割合については、特に限定はないが、好ましくは重合性成分aに対して0.1〜3重量%、さらに好ましくは0.3〜2.5重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%である。重合開始剤の重量割合が0.1重量%未満であると、共重合体の分子量が上昇することで、高粘度化物が生成し、後加工工程における精練において、劣る傾向が見られるために好ましくない。一方、重合開始剤の重量割合が3重量%超であると、共重合体の分子量が低下し、糊剤の接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。
【0078】
連鎖移動剤は、共重合体の分子量を抑制するために用いられることがある。連鎖移動剤としては、例えば、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類;チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のチオグリコール酸エステル類等が挙げられる。連鎖移動剤の重量割合は、好ましくは重合性成分aに対して0.8重量%以下であり、さらに好ましくは0.6重量%以下、特に好ましくは0.5重量%以下である。重合開始剤の重量割合が0.8重量%超であると、共重合体の分子量が低下し、糊剤の接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。
【0079】
共重合工程では、特には限定しないが、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の方法で適応した重合温度、重合時間で行うことができる。
【0080】
共重合工程で得られた共重合体の酸価は、好ましくは90〜200、より好ましくは95〜180、さらに好ましくは100〜160である。この範囲での酸価で共重合された共重合体は、繊維間との濡れ性が上昇することで内部浸透しやすく、優れた接着性と耐粘着性とを糸条に付与でき、製織時の落糊の発生を抑制できる。なお、本発明でいう酸価とは、共重合体1グラム中に含まれている(メタ)アクリル酸由来のカルボキシル基を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数をいう。
【0081】
次に、共重合工程で得られた共重合体を中和する中和工程を説明する。中和工程では、水の存在下、共重合体を含む分散体にアルカリ性物質を添加して、共重合体をその中和物に変換する。
【0082】
アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム等の金属水酸化物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等の有機アミン類等が挙げられる。これらのアルカリ性物質は水に溶解させた水溶液として滴下することが好ましく、例えば、濃度10〜30重量%のアルカリ性物質の水溶液を調製し、10〜30分間かけて共重合体を含む分散体に滴下するとよい。アルカリ性物質の滴下の終点は、例えば、共重合体を含む分散体が透明感のある状態に変化することで判断できる。この場合、糊成分Aは水に溶解した状態であり、糊成分液Aは、糊成分Aが溶解した水溶液と言うことができる。
【0083】
糊成分Aの中和度は、好ましくは40〜100mol%、より好ましくは50〜90mol%、特に好ましくは60〜80mol%である。糊成分Aの中和度が40mol%より低いと、糊付の際に異常付着を起こす可能性がある。ここで、中和度とは、カルボキシル基含有単量体の酸量の合計量に対して中和反応を行ったアルカリ成分のmol%のことをいう。
【0084】
糊成分液AのpHは、好ましくは7〜10、より好ましくは7.2〜9.5、さらに好ましくは7.5〜9.2、特に好ましくは7.8〜9.0である。糊成分液AのpHが7より低いと、糊付の際に異常付着を起こす可能性がある。一方、糊成分液AのpHが10よりと高いと、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0085】
糊成分液Aの粘度は、好ましくは60〜1000mPa・s、さらに好ましくは80〜800mPa・s、特に好ましくは100〜600mPa・sである。糊成分液Aの粘度が60mPa・sより低いと、接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。一方、該粘度が1000mPa・sより大きいと、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0086】
共重合体又はその中和物は、分子量の異なる同族体の集合体であり、その分子量は平均量として求められる。この平均分子量の定義は、数種類あり、例えば、数平均分子量、重量平均分子量、粘度平均分子量等が一般に使用されている。なお、本発明では、重量平均分子量を用いることとする。重量平均分子量は、開始剤の比率、連鎖移動剤の有無、溶剤等公知の手法で調整できる。重合性成分aを共重合して得られる共重合体又はその中和物の重量平均分子量は、好ましくは80000〜200000、さらに好ましくは90000〜190000、特に好ましくは100000〜180000である。該重量平均分子量が200000超の場合、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。一方、該重量平均分子量が80000未満の場合、接着性及び抱合性が劣ることがある。
【0087】
共重合体を示差走査熱量計(DSC)で測定したときのガラス転移点は、30〜90℃が好ましく、40〜80℃がより好ましく、50〜70℃がさらに好ましい。ガラス転移点が30℃未満であると、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。90℃超であると接着性が劣る傾向が見られる。
なお、本発明でいうガラス転移点とは、JIS−K7121に準拠し、後述するDSC測定により得られるDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、階段状変化部分の曲線とが交わる点(単位:℃)として定義される。
【0088】
繊維用経糸糊剤に含まれる固形分に占める糊成分Aの重量割合については、好ましくは65〜98重量%、より好ましくは70〜98重量%、さらに好ましくは75〜95重量%、特に好ましくは80〜90重量%である。該固形分の65重量%未満であると、接着性が乏しく、経糸切れの発生の原因となる可能性がある。
【0089】
繊維用経糸糊剤は、ワックスを含有することが好ましい。ワックスを含有することにより、平滑性が向上し、製織時の経糸切れ、経糸の開口不良及び落糊の発生を抑制することができる。
ワックスとしては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;多価アルコール脂肪酸エステル、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレン等の合成ワックス;木蝋、カルナバワックス、キャンデリラワックス、ミツロウ、ラノリン、ライスワックス、バナナワックス、サトウキビワックス等の動植物系ワックス;モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等の鉱物系ワックス、ステアリン酸、硬化牛脂、硬化豚脂等が挙げられる。これらのワックスは、1種又は2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、平滑性の点から、石油系ワックス、合成ワックス、動植物系ワックス、鉱物系ワックスが好ましく、動植物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックスがさらに好ましく、動植物系ワックス、石油系ワックスが特に好ましい。
【0090】
ワックスは油溶性であるので、通常は、分散性を考慮して、非イオン界面活性剤やアニオン界面活性剤等の界面活性剤を用いて乳化した水系分散体として用いられる。
非イオン界面活性剤としては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコールのエチレンオキサイド付加体や、オクチル基、ノニル基、ドデシル基などでアルキル化したフェノールのエチレンオキサイド付加体等が挙げられる。これらの中でも、ラウリルアルコール/セチルアルコール/ステアリルアルコール配合系の高級アルコールのエチレンオキサイド付加体が好ましく、ラウリルアルコール/ステアリルアルコール配合系の高級アルコールのエチレンオキサイド付加体がさらに好ましい。
【0091】
アニオン界面活性剤としては、ラウリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩やリン酸エステル塩、さらにドデシル基でアルキル化したベンゼンスルホン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、ラウリルアルコール/セチルアルコール/ステアリルアルコール配合系の高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩が好ましく、ラウリルアルコール/ステアリルアルコール配合系の高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩がさらに好ましい。
【0092】
ワックスの調製方法としては、例えば、90℃の温水を撹拌した系に、溶融したワックス、乳化剤を添加し、乳化温度90℃を保ったまま、固形分濃度20%に希釈してワックス乳化物を得ることができる。
ワックスと界面活性剤の合計に占める界面活性剤の重量割合については、5〜45重量%、さらに好ましくは8〜40重量%、特に好ましくは10〜35重量%である。該重量割合が5重量%未満であると、ワックスの乳化が低下し、均一な乳化物を得ることが難しい。一方、該重量割合が45重量%超であると、皮膜が軟らかくなり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0093】
ワックスを添加する工程としては、例えば、ワックスの水系分散体を別途調製しておき、上述の中和工程で得られた糊成分Aにワックスの水系分散体を添加して、これらを混合撹拌する工程等が挙げられる。
糊剤に含まれる固形分に占めるワックスの重量割合については、特に限定はないが、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは2〜20重量%、特に好ましくは3〜17重量%となるように配合される。該固形分が1重量%未満であると、平滑性が劣る傾向が見られる。一方、該固形分が30重量%超であると、ワックスの剥離効果により接着性や抱合性が阻害される傾向がある。
【0094】
糊剤は、糊成分A以外の他の糊成分をさらに含有してもよい。糊成分A以外の他の糊成分は、糊成分Aではない成分であれば特に限定はないが、例えば、デンプン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、合成糊((メタ)アクリル酸系重合体、(メタ)アクリル酸エステル系重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル系重合体、マレイン酸系重合体及びその塩等、水溶性ポリエステル、水溶性ウレタン等)が挙げられる。
【0095】
糊剤は、糊成分以外にも、糊付糸の剥離及び摩擦帯電を防止するための帯電防止剤、糊剤の起泡を抑えるための消泡剤、製織によって製造された生機の微生物汚染を防止するための抗菌剤等のその他の成分を含有していてもよい。
【0096】
糊剤の製造方法において、その他の成分は、共重合工程や中和工程で添加されてもよく、共重合工程や中和工程とは別工程で添加されてもよい。
【0097】
糊剤に含まれる固形分の重量濃度を12%に調整した水溶液の表面張力(20℃)は、好ましくは30〜60mN/m、さらに好ましくは40〜58mN/m、特に好ましくは50〜56mN/mである。該表面張力が30mN/mより低いとサイジング時の糊剤の付着量が少なくなり、接着性及び抱合性が劣ることがある。一方、該表面張力が60mN/mより大きいと、サイジング時の糊剤の付着量が多くなり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こすことがある。
【0098】
界面活性剤を使用すると糊剤の表面張力を下げることはできるが、界面活性剤を必要以上に使用すると、糊剤が可塑化し製織時に粘着問題を引き起こすおそれがある。糊剤では、特定の共重合体の中和物と、ワックスとを用いることで、界面活性剤を必要以上に使用しなくても最適な表面張力にすることができる。そのため、優れた接着性と耐粘着性とを糸条に付与でき、落糊の発生を抑制できる。
糊剤に含まれる界面活性剤の重量割合は、好ましくは糊剤全体の0.5〜4%、さらに好ましくは1.0〜3.5%、特に好ましくは1.5〜3.0%である。界面活性剤の重量濃度が0.5%未満では、接着性が劣る傾向が見られる。一方、界面活性剤の重量濃度が4%超であると、皮膜が軟らかくなり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0099】
本発明で用いられる糊剤は水を含むことが好ましい。糊剤に含まれる固形分の重量濃度は、好ましくは糊剤全体の5〜18%、さらに好ましくは6〜15%、特に好ましくは7〜13%である。固形分の重量濃度が5%未満では、サイジング時の糊剤の付着量が少なくなり、接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。一方、固形分の重量濃度が18%超では、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0100】
糊剤のpHは、好ましくは7〜10、より好ましくは7.2〜9.5、さらに好ましくは7.5〜9.2、特に好ましくは7.8〜9.0である。糊剤のpHが7より低いと、糊付の際に異常付着を起こす可能性がある。一方、糊剤のpHが10よりと高いと、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
【0101】
糊剤の粘度は、好ましくは10〜800mPa・s、さらに好ましくは20〜600mPa・s、特に好ましくは30〜400mPa・s、である。該粘度が10mPa・sより低いと、接着性及び抱合性が劣る傾向が見られる。一方、該粘度が800mPa・sより大きいと、糊付の際に、糊剤が糸条内部に浸透せず糸条表面に付着する傾向があり、製織機上で開口不良等の粘着問題を起こす可能性がある。
本発明で用いる繊維用経糸糊剤は、細い糸において特に好適に使用できる。好適な糸の太さは、前述したものと同じである。
【0102】
[織物の製造方法]
本発明の織物の製造方法は、上記オイリング糸からなる経糸と、緯糸とを製織機を用いて製織する工程を含むものである。また、本発明の織物の製造方法は、糊付糸に対して、織機上で上記の機上オイリング剤を付与する工程(1)と、工程(1)で得られたオイリング糸からなる経糸と緯糸とを製織機を用いて製織する工程とを含むとも表現できる。緯糸は、糸条に処理を施してもよいが、通常は特段の処理をすることなく、原糸をそのまま用いるのが一般的である。なお、ここでの工程(1)は、前述のオイリング糸の製造方法における工程(1)と同じである。
【0103】
製織機としては、例えば、レピアルームやエアージェットルームのドライ製織機;ウォータージェットルーム等が挙げられる。この中で製織機がウォータージェットルーム又はエアージェットルームであるときが好ましい。
製織は、例えば、上記で説明したオイリング糸を一本ずつ綜絖と筬に引き通す経通し(ドローイング)を行った後、製織機にかけられる。次いで、経糸を例えば互い違いに上下に運動させながら、緯糸として経糸間に挟み込むことによって、製織が行われ、織物が製造される。製織機がウォータージェット製織機であると、製織機の筬上に発生した落糊が、緯糸を飛ばす際に用いられるジェット水によって洗い流されるので、落糊を効果的に抑制できる。
【0104】
本発明の織物の製造方法としては、例えば、経糸として上記で説明した糊付糸を4,000〜20,000本、緯糸としてポリエステルフィラメント糸(6〜167デシテックス、4〜144フィラメント)を準備し、経糸(糊付糸)に対して織機上で機上オイリング剤を付与して、製織機としてウォータージェットルーム(津田駒工業(株)製ウォータージェットルーム等)やエアージェットルーム(津田駒工業(株)製エアージェットルーム等)を用いて、織機回転数500〜800rpmで50mを一疋として、ポリエステルタフタを100〜200疋製織できる(織り幅:70〜200cm)。
【実施例】
【0105】
以下の実施例及び比較例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。まず、実施例及び比較例に示す物性等の測定方法を以下に示す。
【0106】
(1)固形分の重量濃度
一定量(通常1.0〜2.0g)の試料(重量:M1)について、赤外線水分計装置((株)Kett科学研究所、乾燥減量法、FD230)を用いて固形分の重量濃度を測定する。
固形分の重量濃度は、赤外線水分計装置を用いれば自動で計算されるが、その測定の原理は、上記M1と、試料を赤外線水分計装置で乾燥し恒量に達した重量(M2)とから、固形分の重量濃度を次式で計算するものである。M2は固形分の重量である。
固形分の重量濃度(%)=(M2/M1)×100
【0107】
(2)pH
ガラス電極pH測定装置((株)堀場製作所製、navihF−51)を使用して、20℃で測定する。
【0108】
(3)粘度
B型回転粘度計(BROOK FIELD社製)を使用して、20℃で測定する。糊剤については、ローターNo.62で30回転にて、機上オイリング剤については、ローターNo.61で60回転をそれぞれ使用する。
【0109】
(4)表面張力測定
動的濡れ性試験機WET−6000((株)レスカ社製)を使用して、PETフィルムを用いて20℃で測定する。
【0110】
(5)重量平均分子量
ゲルパーミエイションクロマトグラフィー法(GPC)で標準物質ポリスチレン(東ソー(株))による検量線を用いて測定する。なお、試料は、糊成分液を自然乾燥した後、濃度が0.5mg/mlになるようTHFに溶解させたものを使用する。
(測定条件)
使用機器:高速液体クロマトグラフィHLC−8020(東ソー(株))
カラム:TSKgelGMHXL×2(東ソー(株))
溶剤:THF(テトラヒドロフラン)(和光純薬工業(株)、液体高速クロマトグラフィ用)
測定温度:40℃
流量:1.0ml/min.
検出器:示差屈折計
注入量:20μl
【0111】
(6)繊維用経糸糊剤の付着量
サイジング後の糊付糸(約2g)をサンプルとし、110℃で30分間乾燥後秤量(W1)し、100倍量の精練浴(炭酸ソーダ:2g/L,POE10モル付加ノニルフェノールエーテル:2g/L)中で、90℃で30分間浸漬させ、湯洗する。サンプルをさらに水洗後、1時間乾燥した後、サンプルを秤量(W2)し、次式より付着量を求める。
付着量(%)=[(W1−W2)/W2]×100
【0112】
(7)オイリング剤の付着量
オイリング剤を付与した糊付糸(約2g)をサンプルとし、110℃で30分間乾燥後秤量(W1)し、150℃のヘキサンに30分間浸漬させ、油分を抽出する。浸漬後、110℃で30分間乾燥した後、サンプルを秤量(W2)し、次式より付着量を求める。
付着量(%)=[(W1−W2)/W2]×100
【0113】
(7−1)乾式抱合力(乾燥状態における接着性及び抱合性の評価)
TM式抱合力試験機にて抱合力を測定する。20本の糊付糸を引き揃え、下記に示す糸張力をかけながら張り、左右が150°、中央が120°の角度で3列に配置したコーム間(コーム:20針×3列;コームの間隔:30mm;コームの往復運動距離:27mm)を往復運動(コームの運動速さ:150回/min)させ、糊付糸を摩擦する。20回摩擦して、糊付糸の割れ具合を目視にて観察し、下記に示す評価基準(1〜5級)にしたがって評価する。この評価基準では、5級が最も優れ、1級が最も劣る。
糸張力:一本当たり0.6〜1.8g/デシテックス
(ポリエステルフィラメント糸22デシテックス20フィラメントでは360g/20本(=18g/本)、ポリアミドフィラメント糸17デシテックス7フィラメントでは270g/20本(=13.5g/本)
【0114】
(7−2)湿式抱合力(湿潤状態における接着性及び抱合性の評価)
上記乾式抱合力の測定において、往復運動によって摩擦される糊付糸の部分にイオン交換水を0.1g/sの速度で添加する以外は、乾式抱合力の測定と同様に湿式抱合力を評価する。
<乾式及び湿式抱合力の評価基準>
5級:糸割れなし
4級:糸割れ少しあり
3級:糸割れあり
2級:糸割れ多数あり
1級:全体的に糸割れあり
【0115】
(8−1)乾式落糊性(乾燥状態における落糊性の評価)
1000mの糊付糸1本を下記に示す糸張力をかけながら、左右が150°で、中央が120°の角度で屈曲したコームの間(コーム:20針×3列;コームの間隔:100mm)を50m/minの糊付糸送り速度で走らせ、糊付糸を摩擦する。脱落した落糊量、コームに付着した落糊を観察し、下記に示す評価基準(1〜5級)にしたがって評価する。この評価基準では、5級が最も優れ、1級が最も劣る。
(ポリエステルフィラメント糸22デシテックス20フィラメントでは18gポリアミドフィラメント糸17デシテックス7フィラメントでは4.5g)
【0116】
(8−2)湿式落糊性(湿潤状態における落糊性の評価)
上記乾式落糊性の測定において、摩擦される糊付糸の部分にイオン交換水を0.1g/sの速度で添加する以外は、乾式落糊性の測定と同様に湿式落糊性を評価する。
<乾式及び湿式落糊性の評価基準>
5級:糊の脱落、コームに落糊付着なし
4級:糊の脱落、コームに落糊付着少しあり
3級:糊の脱落、コームに落糊付着あり
2級:糊の脱落、コームに落糊付着少し多い
1級:糊の脱落、コームに落糊付着多い
【0117】
(9)粘着性試験
1000mの糊付糸1本を下記に示す糸張力をかけながら、コーンに巻き取り、30℃80%の環境試験機で放置後、100m/minの糊付糸送り速度で走らせ、その時の抵抗力を測定した。数値が小さいほど粘着に優れ、大きいほど劣る。
(ポリエステルフィラメント糸22デシテックス20フィラメントでは12gポリアミドフィラメント糸17デシテックス7フィラメントでは9.0g)
【0118】
(10)平滑性
走糸法摩擦測定機(東レエンジニアリング性YF−870)を用い、下記条件で摩擦を測定し、動摩擦係数を算出した。動摩擦係数が0.23以下であれば、平滑性が良好と判断した。
糸速度:100m/min
摩擦体:φ40mm鏡面梨地クロムピン
接触角(θ):π(ラジアン)
荷重(T1):10g
動摩擦係数=(1/θ)ln(T/T
【0119】
(11)筬付着落糊性(実用製織性試験における落糊性の評価)
ウォータージェットルーム(津田駒工業(株)製ウォータージェットルーム)を用いた製織時の筬付着落糊性(筬に付着する脱落糊の程度)を目視で観察し、下記に示す評価基準(1〜5級)にしたがって評価する。この評価基準では、5級が最も優れ、1級が最も劣る。
<筬付着落糊性の評価基準>
5級:筬に落糊付着なし
4級:筬に落糊付着少しあり
3級:筬に落糊付着あり
2級:筬に落糊付着少し多い
1級:筬に落糊付着多い
【0120】
(12)開口性(実用製織性試験における開口性の評価)
ウォータージェットルーム(津田駒工業(株)製ウォータージェットルーム)を用いた製織時の開口性(隣接する経糸同士の開口の程度)を目視で観察し、下記に示す評価基準(1〜5級)にしたがって評価する。この評価基準では、5級が最も優れ、1級が最も劣る。
<筬付着落糊性の評価基準>
5級:隣接する経糸同士の粘着なし
4級:隣接する経糸同士の粘着少しあり
3級:隣接する経糸同士の粘着あり
2級:隣接する経糸同士の粘着少し多い
1級:隣接する経糸同士の粘着多い
【0121】
〔製造例1〜3〕(繊維用経糸糊剤の調製)
温度計、撹拌機、コンデンサー及び窒素ガス吹き込み口を備えた4つ口フラスコ(容量1000mL)に、重合性成分(表1に種類及び量を示す)、イオン交換水150g及び溶剤としてのエタノール95g、i−プロパノール30g及び重合開始剤ベンゾイルパーオキサイド4.5gを撹拌混合し、混合物をそれぞれ得た。窒素ガスを吹き込みながら、82℃にて5時間共重合を行い、共重合体を含む反応混合物をそれぞれ得た。
共重合後、表1に示す量の濃度16%アンモニア水を各反応混合物に徐々に加えて共重合体を中和(pH7〜10)し、室温に冷却し、共重合体の中和物からなる糊成分を含む糊成分液をそれぞれ得た。各糊成分の酸価及び中和度は表1に示す通りである。得られた各糊成分液について、上記の方法により、固形分の重量濃度、pH、重量平均分子量を測定した。その結果を表1に示す。なお、得られた各糊成分のガラス転移点測定を行ったところ、全て50〜80℃の範囲であった。
次いで、上記で得た各糊成分液及び表1で示すワックス乳化体を用いて、糊成分(固形分)、ワックス(固形分)、界面活性剤が表1に示す重量比となるよう経糸糊剤A1〜A3をそれぞれ調製した。各経糸糊剤に含まれる固形分の重量濃度を1%に調整した水溶液のpH、重量濃度を12%に調整した水溶液の表面張力を測定した。その結果を表1に示す。
なお、表1のワックス乳化体K−2とはパラフィンワックス及びエステルワックスを非イオン界面活性剤で乳化したワックスの水系乳化体(サイジングワックスK−2、松本油脂製薬(株))をいい、ワックス乳化体V−2とはパラフィンワックス及びエステルワックスを非イオン界面活性剤で乳化したワックスの水系乳化体(サイジングワックスV−2、松本油脂製薬(株))をいう。
【0122】
【表1】
【0123】
〔実施例1〜4、比較例1〜2〕
表2に記載の成分を混合攪拌して、実施例のオイリング剤B1〜B4、比較例のオイリング剤b1〜b2をそれぞれ得た。得られた各オイリング剤の粘度を上記方法により測定した。その結果を表2に示す。なお、表2における数値はオイリング剤に占める各成分の重量%を示す。
【0124】
【表2】
【0125】
〔実施例5〕
ポリエステルフィラメント糸(22デシテックス20フィラメント(22T/20f))、ポリアミドフィラメント糸(17デシテックス7フィラメント(17T/7f))の糸条に対して、下記に示すサイジング条件で、サイジングマシーンを用いて経糸糊剤A1を付着させて糊付糸を得た。なお、経糸糊剤A1の付着量は、ポリエステルフィラメント糸では10重量%、ポリアミドフィラメント糸では12重量%であった。
また、得られた糊付糸のポリエステルフィラメント糸及びポリアミドフィラメント糸の双方について、フィラメント糸の伸長方向に対して垂直に裁断した断面を電子顕微鏡写真で撮影した。撮影された糊付糸断面画像より、糊付糸内部の空間面積N1、モノフィラメントの断面積N2の面積を計算し、上記式(1)を用いて、糊付糸の空間率(%)を測定した。その結果を表3に示す。
【0126】
<サイジング条件>
ビームトゥービーム方式
糊付け速度:100m/min
ノンタッチホットエアー乾燥温度:130℃
タッチシリンダー乾燥温度:100℃
タッチシリンダー数:3本
【0127】
次に、得られた糊付糸に対して、下記に示すオイリング条件でオイリング剤B1を付与し、オイリング糸を得た。オイリング糸を得てから10分後(機上オイリングに相当)に、抱合力、落糊性、粘着性、動摩擦係数を評価した。その結果を表3に示す。
【0128】
<オイリング条件>
ローラータッチ方式
糸速度:150m/min
ローラー回転数を変化させ、オイリング剤の付着量が3重量%となるようにした。
【0129】
〔実施例6〜12、比較例3〜10〕
実施例5において、経糸糊剤A1及びオイリング剤B1を表3、4に示す経糸糊剤及びオイリング剤に変更する以外は実施例5と同様に行い、評価した。その結果を表3、4に示す。なお、表3、4で「なし」とは、経糸糊剤又はオイリング剤を付与しない場合の糸条の評価を示す。従って、経糸糊剤なしの場合、オイリング剤のみが付与された糸条となり、オイリング剤なしの場合、糊剤のみが付与された糸条(糊付糸)となる。
【0130】
〔比較例11、12〕
実施例5において、経糸糊剤A1及びオイリング剤B1を表4に示す経糸糊剤及びオイリング剤に変更し、オイリング糸を得てから1週間後(アフターオイリングに相当)にオイリング糸を評価する以外は実施例5と同様に行い、評価した。その結果を表4に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
表3、4からわかるように、実施例のオイリング剤を用いた場合、比較例の場合と比較して、抱合力、落糊性、粘着性、平滑性に優れるものであった。
【0134】
〔実施例13〕(実用製織性試験)
22デシテックス20フィラメントポリエステル糸に対して、下記に示すサイジング条件で、経糸糊剤A1をサイジングして、糊付糸を準備した。
【0135】
<サイジング条件>
サイジング装置(津田駒工業(株)製サイザーKS−200)
ビームトゥービーム方式
糊付け速度:100m/min
ノンタッチホットエアー乾燥温度:130℃
タッチシリンダー乾燥温度:100℃
タッチシリンダー数:3本
【0136】
次に、ウォータージェットルーム(津田駒工業(株)製ウォータージェットルーム、織機回転数650rpm、経糸:12000本、織り幅:173cm)を用いて、経糸と緯糸とを製織して、200疋のポリエステルタフタを製造し、筬付着落糊性、開口性、製織機の稼働率(製織に要した全時間から、製織中にトラブル等の理由で製織機が停滞した時間を差し引いて、その時間を製織に要した全時間で割った値の%表示)を評価した。経糸としては、上記で準備した糊付糸を織機ビームにセットし、解舒後、ローラータッチ方式にて、織機上のバックローラー(図1の3)と綜絖(図1の5)の間で、オイリング剤B2を付与して用いた(オイリング糸に対するオイリング剤の付与量:3重量%)。緯糸としては、22デシテックス20フィラメントポリエステル糸を用いた。これらの結果を表5に示す。
【0137】
〔実施例14〜15、比較例13〜16〕
実施例13において、経糸糊剤A1及びオイリング剤B2を表5に示す経糸糊剤及びオイリング剤に変更する以外は実施例13と同様に行い、評価した。その結果を表5に示す。なお、表5で「なし」とは、経糸糊剤又はオイリング剤を付与していない経糸を用いた評価を示す。従って、経糸糊剤なしの場合、オイリング剤のみが付与された経糸となり、オイリング剤なしの場合、糊剤のみが付与された経糸となる。
【0138】
〔比較例17〕
実施例13において、糊付糸を次に示すものに変更し、織機上でオイリング剤を付与しない以外は、実施例13と同様に行い、評価した。その結果を表5に示す。
糊付糸:22デシテックス20フィラメントポリエステル糸に対して、実施例13と同じサイジング条件で、経糸糊剤A1を付与し、ビームに巻き取らない状態で、ローラータッチ方式にて、オイリング剤b2を付与し(糸に対するオイリング剤の付与量:3重量%)、その後ビームに巻取ったもの(アフターオイリング)。
【0139】
【表5】
【0140】
表5からわかるように、実施例は、比較例と比べ、筬付着落糊性、開口性、製織機の稼働率の点で優れるものであった。
【符号の説明】
【0141】
1 織機ビーム
2 解舒点
3 バックローラー
4 経糸
5 綜絖
6 筬
7 緯糸
N1 糊付糸断面における糊付糸内部の空間面積
N2 糊付糸断面におけるモノフィラメントの断面積
S 糊剤成分
α 空間率
図1
図2