【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日:平成25年7月、刊行物:「設計要領 第二集 橋梁保全編」(第8版)の2章鋼構造物の頁(2−27)〜(2−33)、編著:東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、発行:(株)高速道路総合技術研究所 発行日:平成25年10月、刊行物:「炭素繊維シートによる鋼構造物の補修・補強工法設計・施工マニュアル」(初版)第1〜29頁、第64〜68頁、第76、第77頁、編著:(株)高速道路総合技術研究所 道路研究部橋梁研究室、発行:(株)高速道路総合技術研究所
【課題】高伸度弾性パテ材を介して繊維シートを接着し、高応力時や座屈変形時においても繊維シートの剥離を防止でき、繊維シートから鋼部材への荷重伝達効率が低減しない鋼構造物の補修補強方法を提供する。
【解決手段】(a)鋼部材10における施工対象部分に対して下地処理する工程と、(b)下地処理された鋼部材10の表面に高伸度弾性パテ材であるポリウレア樹脂パテ材30Aによりパテ層(弾性層)30を形成する工程と、(c)パテ層の上に、複数(n)層の繊維シート1aを樹脂で接着して積層し、複数層の繊維強化樹脂層20(20−1、20−2、・・・20−n)を形成する工程において、繊維シートの積層数(n)は、下記式(1)を満足するように決定される。
前記複数層の繊維シートは、前記鋼部材表面側の1層目から最外層のn層目へと繊維方向長さが短くなるようにし、前記繊維シートの繊維方向の端部を所定量づつ階段状にずらして接着することを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記最外層のn層目の繊維シートの繊維方向長さは、前記鋼部材の施工対象部分における欠損範囲より定着長だけ長くされることを特徴とする請求項2に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記応力低減係数の値は、前記繊維シートの積層数が大きくなると小さくし、前記繊維シートの積層数が所定数に達すると一定値に設定することを特徴とする請求項4に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記応力低減係数の値が一定値となる前記繊維シートの積層数は、前記繊維シートの定着長及びずらし量が大となると小さくすることを特徴とする請求項5に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記鋼部材の施工対象部分に接着される複数層の繊維シートは、前記繊維シートの繊維方向において、前記施工対象部分の第1の領域に接着して第1の繊維強化樹脂層を形成する第1の複数層の繊維シートと、前記施工対象部分の第2の領域に接着して第2の繊維強化樹脂層を形成する第2の複数層の繊維シートと、にて形成され、前記第1及び第2の繊維強化樹脂層の重なり合った領域では前記第1の繊維強化樹脂層と前記第2の繊維強化樹脂層とを重ねて接着することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記鋼部材の施工対象部分に形成された段差部においては、前記段差部を除く施工対象部分に複数層の繊維シートを接着して第1の繊維強化樹脂層を形成し、前記段差部を含む施工対象部分に複数層の繊維シートを接着して第2の繊維強化樹脂層を形成し、前記第1及び第2の繊維強化樹脂層の重なり合った領域で前記第2の繊維強化樹脂層を前記第1の繊維強化樹脂層の上に重ねて接着することを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記繊維シートは、少なくとも、シート軸方向へと一方向に引き揃えた強化繊維を含む強化繊維を互いに線材固定材にて固定した繊維シートであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記繊維シートは、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記繊維シートは、強化繊維を一方向に引き揃えた強化繊維シートに樹脂を含浸して、前記樹脂が硬化された樹脂含浸硬化繊維シートか、又は、一方向に引き揃えた強化繊維束に樹脂を含浸して、前記樹脂が硬化された樹脂含浸硬化繊維シートを、少なくとも1層含む繊維シートであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記繊維シートの強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
前記接着剤は、常温硬化型若しくは熱硬化型のエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、又は、光硬化型樹脂であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかの項に記載の鋼構造物の補修補強方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る鋼構造物の補修補強方法を図面に則して更に詳しく説明する。
【0029】
実施例1
本発明によれば、鋼構造物にて軸方向力及び曲げによる垂直応力を受ける鋼部材の補修補強を行うことができる。例えば、軸方向力及び曲げによる垂直応力を受ける鋼部材としては、
図1(a)、(b)に示すような、鋼橋に使用される鋼桁(鋼I桁)やトラス部材(箱桁)などとされる。
図1(a)に示すように、鋼桁10は、上フランジ12と下フランジ13を備えた腹板11、及び上フランジ12と下フランジ13の間に設置された垂直補剛材14で形成される。また、トラス部材10は、
図1(b)に示すように、4枚の鋼板15(15a〜15d)を接合することにより形成される。
【0030】
例えば、鋼桁10は、
図2(a)、(b)に示すように、下フランジ13の上面或いは下面に対して補修補強をなすことができ、トラス部材10は、
図2(c)に示すように、上下左右の鋼板15(15a〜15d)に対して補修補強をなすことができる。
【0031】
なお、本発明による補修補強の対象物(被補強物)を上記のような鋼構造物及び鋼部材に限定するものではなく、本発明は、軸方向力及び曲げによる垂直応力を受ける鋼部材に対し有効に適用し得る。
【0032】
図3に、本発明に従って鋼桁10の下フランジ13に生じた欠損部40を補修補強した補修補強構造体50の一例を示す。この例に示すように、腐食により減肉した鋼桁10の下フランジ13は、下地処理した後高伸度弾性パテ材30Aを塗布し、その後、このパテ層(弾性層)30に対して、連続した強化繊維を含むシート状の強化繊維含有材料、即ち、繊維シート1(例えば、後述の
図4に示す繊維シート1A)を1層以上樹脂で接着して形成された複数層の繊維強化樹脂(FRP)層20(20−1、20−2、・・・・20−n)にて補修補強され、必要に応じて、最外層に保護層60が設置された構成とされる。
【0033】
本発明の鋼構造物の補修補強方法の特徴は、
鋼構造物における軸方向力及び/又は曲げによる垂直応力を受ける鋼部材10に、強化繊維fを含む繊維シート1を樹脂で接着して鋼部材10を補修補強する鋼構造物の補修補強方法であって、
(a)鋼部材10における施工対象部分に対して下地処理する工程と、
(b)下地処理された鋼部材10の表面に高伸度弾性パテ材であるポリウレア樹脂パテ材30Aによりパテ層(弾性層)30を形成する工程と、
(c)パテ層30の上に、複数(n)層の繊維シート1を樹脂で接着して積層し、複数層の繊維強化樹脂層20(20−1、20−2、・・・・・20−n)を形成する工程と、
を有する鋼構造物の補修補強方法において、
繊維シート1の積層数(n)は、下記式(2)を満足するように決定される。
【0035】
つまり、本発明によれば、鋼部材10にポリウレア樹脂パテ材30A(パテ層30)を介して繊維シート1を接着する鋼構造物の補修補強方法において、積層される繊維シート1の必要断面積を決定することができる。このとき、積層される繊維シート1の必要断面積を決定するに際して、応力低減係数Cnを導入することにより、ポリウレア樹脂パテ材30A(パテ層30)を挿入したことによる補強効果の損失を補うように考慮される。
【0036】
また、本発明では、複数層の繊維シート1は、鋼部材表面側の1層目から最外層のn層目へと繊維方向長さLsが短くなるようにし、繊維シート1の繊維方向の端部を所定量Lmづつ階段状にずらして接着する。また、最外層のn層目の繊維シート1の繊維方向長さは、鋼部材の施工対象部分における欠損部40の欠損範囲(Lsl)より定着長Lfだけ長くされる。詳しくは、実施例に即して後述する。
【0037】
次に、本発明にて使用する各材料について説明する。
【0038】
(繊維シート)
本発明においては種々の形態の繊維シート1を使用することができる。繊維シート1の実施例を具体的に具体例1〜3として説明するが、本発明で使用する繊維シート1の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。
【0039】
具体例1
図4に、本発明にて使用することのできる繊維シート1の一実施例を示す。本実施例にて、繊維シート1は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シート1Aとされる。
【0040】
即ち、繊維シート1Aは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートをメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材3にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000〜24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維シート1Aの繊維目付は、通常、30〜1000g/m
2とされる。
【0041】
線材固定材3としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をシート状に配列した炭素繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を炭素繊維シートに溶着する。
【0042】
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
【0043】
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0044】
上記説明では、繊維シート1における強化繊維fはシート軸方向へと一方向に引き揃えられるものとして説明したが、強化繊維が二方向に配向された繊維シートであっても良く、また、二方向織物などであっても良い。ただ、繊維シート1は、少なくともシート軸方向に引き揃えられた強化繊維を含むものとされる。
【0045】
具体例2
また、繊維シート1は、
図5に示すように、複数の強化繊維fを一方向に引き揃えた強化繊維シート、例えば、
図4に示すような繊維シート1Aに樹脂Reを含浸し、前記樹脂が硬化された繊維シート(所謂、FRP板)1Bとすることもできる。
【0046】
上記具体例1、2で説明した繊維シート1A、1Bにおいて、強化繊維fとしては、炭素繊維に限定されるものではなく、炭素繊維の他にガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0047】
また、具体例2における繊維シート1Bの場合の樹脂Reとしては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型若しくは熱硬化型のエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0048】
上記説明では、繊維シート(FRP板)1Bは強化繊維fを一方向に引き揃えて作製した強化繊維シート、例えば
図4に示す繊維シート1Aに樹脂を含浸し硬化したものとして説明したが、例えばプルトルージョン法などにより一方向に引き揃えた強化繊維束に樹脂を含浸させシート状とし次いで硬化した繊維シート(FRP板)とすることもできる。
【0049】
また、樹脂含浸硬化繊維シート(FRP板)としては、上述したような強化繊維(又は強化繊維束)が一方向に引き揃えられた少なくとも1層のFRP板の表面にクロスやマット層を配置した積層板とすることができる。
【0050】
具体例3
更には、
図6及び
図7に示すように、繊維シート1としては、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート(ストランド型繊維シート)1Cを使用することもできる。
【0051】
繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(
図7(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(
図7(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0052】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維シート1Cにおいて、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。このようにして形成された繊維シート1(1A、1B、1C)の長さ(L)及び幅(W)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(W)は、100〜1000mmとされる。又、長さ(L)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。また、繊維シート1(1A、1B、1C)の長さ(L)を1〜5m程度として、幅Wをこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。
【0053】
繊維シート1Cの場合においても、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維;ボロン繊維、チタン繊維、スチール繊維などの金属繊維;更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維;が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型若しくは熱硬化型のエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0054】
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、
図6に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
【0055】
このとき、横糸3は、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用される。
【0056】
各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、
図8(a)に示すように、線材固定材3としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。
【0057】
つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材2、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製した、上記具体例1で説明したと同様の構成とされるメッシュ状の支持体シート3により支持した構成とすることもできる。
【0058】
更に、各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、
図8(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材2の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
【0059】
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2〜30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10〜100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
【0060】
更に、可撓性帯材3としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
【0061】
(補強方法)
次に、
図3、
図9、
図14を参照して、鋼構造物の補修補強方法について説明する。本発明によれば、前述のようにして製造された繊維シート1を用いて、鋼構造物の補修補強を行うことができる。
【0062】
つまり、本発明の鋼構造物の補修補強方法によれば、例えば、繊維シート1として、上記具体例1で説明した強化繊維fを一方向に引き揃えて作製された繊維シート1Aを使用することができ、この繊維シート1Aが鋼構造物の鋼部材10の表面に高伸度弾性パテ材にて形成されたパテ層(即ち、弾性層)30を介して接着剤にて接着して一体化される。この時、繊維シート1Aの鋼部材への接着と同時に、この接着剤による繊維シート1Aに対する接着剤(マトリクス樹脂)含浸をも行うことができる。
【0063】
これにより、弾性層30と、樹脂含浸された繊維シート1Aが接着された繊維シート層(繊維強化樹脂層)20を有する補強構造体50(
図3(a)、(b)参照)が形成される。
【0064】
鋼構造物の補強に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける鋼部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、繊維シート1が効果的に応力を負担し、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
【0065】
また、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、繊維シート1の強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シート1を直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
【0066】
なお、以下に説明する本発明の鋼構造物の補修補強方法においては上述のように、
図4に示す構成の繊維シートであって、繊維シートの強化繊維としては炭素繊維を使用することが極めて好適であり、従って、本実施例では、繊維シート1としては一方向炭素繊維シートを使用した場合について説明する。つまり、以下の実施例の説明では、繊維シート1は炭素繊維シートとして説明し、また、樹脂含浸された繊維シート、即ち、繊維強化樹脂(FRP)は、炭素繊維強化樹脂(CFRP)として説明する。しかし、本発明の補修補強方法は、使用する強化繊維を炭素繊維に限定するものではなく、上述した他の強化繊維を使用し得るものである。
【0067】
本実施例にて好適に使用される炭素繊維シートの特性は、下記表1に示す通りである。
【0069】
本発明の補修補強方法は、断面欠損部の鋼材応力度の改善と共に、座屈を防止した耐荷力の増加を図ることを目的としている。本発明者らの研究実験によれば、これらの補修補強効果を得るためには炭素繊維シートの弾性係数が高い方が積層数を少なくすることが可能で、工費縮減や工期短縮の面で有利となることが分かっている。そこで、本実施例では、高弾性型炭素繊維シートを使用することを標準とした。弾性係数の規格値は、現在流通している高弾性型炭素繊維シートのうち最大である6.4×10
5N/mm
2以上とした。
【0070】
本実施例では、1900N/mm
2以上の炭素繊維シートを用いることを標準としたが、これは、終局時に座屈が懸念される部材では、鋼材の変形が十分追随して座屈に対する耐荷力を向上させる必要があること、また、引張強度が低く破断歪の小さい炭素繊維シートを用いると施工時の折り曲げや局部的応力集中の影響などにより炭素繊維が破損する恐れがあるためである。
【0071】
本実施例では、繊維目付量300g/m
2の一方向炭素繊維シートを所要の方向に接着することを標準としている。
【0072】
1.下地処理(S1)
既設鋼部材10の表面は、ブラストとやディスクサンダーなどの適切な下地処理方法により、塗料や錆などを除去し、その後、有機溶剤を用いて表面を清掃し、油分や汚れのない状態にする。
【0073】
2.プライマー塗布(S2)
下地処理後の鋼材表面の錆防止と炭素繊維シート1との接着性を向上させるために、プライマーを塗布する。一般にプライマーとしては、常温硬化型のエポキシ樹脂を使用することができる。
【0074】
3.不陸修正(S3)
鋼材表面の平坦性が炭素繊維シート1の接着性を左右するので、段差や孔食部などプライマー塗布後の凹凸のある範囲は、樹脂パテ(不陸修正材)40Aを用いて平坦に仕上げる。
【0075】
コーナー部(入隅部)を樹脂パテを用いて成形する場合は、円弧状に平滑に仕上げる。なお、炭素繊維シート1の定着部には、不陸修正材40Aは塗布しない。
【0076】
本工程S3の施工は、上記工程S2にて塗布したプライマーが指触乾燥したことを確認した後に行う。
【0077】
4.高伸度弾性パテ材用プライマー塗布(S4)
高伸度弾性パテ材30Aとして使用するポリウレア樹脂パテ材との接着性を向上させるために、鋼材表面及び不陸修正材表面にポリウレア樹脂パテ材用プライマーを塗布する。施工は、上記工程S3にて塗布した不陸修正材40Aが初期硬化したことを確認した後に行う。
【0078】
ポリウレア樹脂パテ材用プライマーとしては、エポキシ変性ウレタン樹脂プライマーを好適に使用し得るが、プライマーとしては、エポキシ変性ウレタン樹脂系に限ることなくMMA系樹脂など、鋼材或いは不陸修正材と、ポリウレア樹脂パテ材との接着性を十分確保できるものが適宜選定される。
【0079】
5.高伸度弾性パテ材塗布(S5)
上記工程S4にてポリウレア樹脂パテ材用プライマーを塗布した後、炭素繊維シート1の貼付け範囲にポリウレア樹脂パテ材30Aを塗布する。施工はポリウレア樹脂パテ材用プライマーが指触乾燥したことを確認した後に行う。また、所要の補修、補強効果を発揮するために、設計厚さ通りに極力均一に塗布する。
【0080】
一般に、ポリウレア樹脂パテ材30Aの塗布厚さ(T)は、鋼部材10の被接着面の表面の凹凸、炭素繊維シート1の厚さに応じて適宜設定されるが、一般にT=0.2〜10mmとされ、本実施例では、0.8mm程度とした。
【0081】
本発明にて使用する高伸度弾性パテ材30Aとしてのポリウレア樹脂パテ材は、主材に芳香族アミンを用い、硬化材にイソシアネートプレポリマーを使用する2液性(2液混合型)のポリウレア樹脂とされる。
【0082】
本発明にて好適に使用されるポリウレア樹脂パテ材の特性は、下記表2に示す通りである。
【0084】
高伸度弾性パテ材30A(即ち、弾性層30)は、高応力下や座屈による面外変形時にも、積層された炭素繊維強化樹脂(CFRP)20が鋼板10から剥離することなく所要の補修補強を発揮するために、鋼板10とCFRP20を接合するものである。
【0085】
高伸度弾性パテ材30の引張弾性係数が大きいと、鋼板10が局部座屈を生じて面外変形しようとするときにCFRP20が変形に十分追従することができない。一方、引張弾性係数が小さいと、CFRP20を鋼板10の変形に追従させることができるがCFRP20の接着効果が十分に得られない。また、高伸度弾性パテ材30Aの引張最大荷重伸びが小さいと、局部座屈により鋼板10が大きく変形した際に高伸度弾性パテ材30が破断してCFRP20が剥離するようになり、一方、引張最大荷重時伸びが大きいと、その引張弾性係数との共存が困難である。
【0086】
そこで、本発明においては、高伸度弾性パテ材30Aとして、上記表2に示される特性を有したポリウレア樹脂パテ材が好適に使用される。
【0087】
また、高伸度弾性パテ材30Aは、ガラス転移点温度以下では、ゴム状の柔軟性を失い脆化して所要の剥離防止性能を発揮することができない。そのため冬季の低温環境下でも所要の柔軟性を維持できるようにガラス転移点温度の上限を設定した。鋼材接着強度に関しては、他の樹脂材料(接着剤)の規定と同様である。
【0088】
6.炭素繊維シート接着(S6)
ポリウレア樹脂パテ材30Aが初期硬化したことが確認されると、このポリウレア樹脂パテ材30Aにて形成された弾性層30の上に炭素繊維シート1が接着される。炭素繊維シート接着施工手順の一例を示せば次の通りである。
【0089】
尚、本発明において、鋼部材10である鋼桁フランジの垂直応力やトラス弦材の軸力は、一般に主応力方向が部材軸方向と一致するため、繊維方向が部材軸方向とすることを基本とする。
(1)施工面にローラー刷毛にて、含浸接着樹脂を均一に塗布する。
(2)含浸接着樹脂の塗布面に炭素繊維シート1を押し付け、繊維の方向に気泡を除去しながら貼り付ける。
(3)気泡ローラーやゴムヘラを使用し、空気たまりを除去すると共に、含浸接着樹脂を十分に炭素繊維シート1に含浸させる。
(4)貼り付けられた炭素繊維シート1の上に、再度含浸接着樹脂をローラー刷毛にて均一に塗布し、有害な浮き及び膨れがないよう、含浸接着樹脂の含浸を十分に行う。
【0090】
なお、含浸接着樹脂、即ち、接着剤は、ポリウレア樹脂パテ材30A(弾性層30)の上に塗布するものとして説明したが、勿論、炭素繊維シート1に塗布することもでき、また、ポリウレア樹脂パテ材30A(弾性層30)の表面及び炭素繊維シート1の接着面の両面上に塗布しても良い。
(5)炭素繊維シート1を2層以上積層する場合には、上記(1)〜(4)の作業を繰り返す。
(6)炭素繊維シート1の長手方向の端部ずらし量Lmは、下記の要領で行う。
【0091】
つまり、上記(5)に記載するように、必要補強量が多い場合には構造物表面に複数層の炭素繊維シート1を接着することが可能であるが、ただ、複数層の炭素繊維シート1を積層して接着すると、端部に応力集中が生じ、剥離破壊抵抗が低下することがある。
【0092】
そこで、剥離破壊を防止するために、
図3及び
図14に示すように、各層の炭素繊維シート1の繊維方向のシート長さLsを変化させるのが好ましい。例えば、複数層積層する炭素繊維シート1の繊維方向の長さLsは、鋼部材10の表面(1層目の炭素繊維シート)から離間する外層(最外層の炭素繊維シート)に行くに従って順に短くして、炭素繊維シート1の端部1aを階段状に積層する。端部1aのずらし量(Lm)は、5mm〜100mm程度とするのが適当である。
【0093】
つまり、複数層積層する炭素繊維シート1の長さ(Ls)を外層から順に5〜100mm程度短くして端部1aを階段状に積層することにより、シート端部1aでの応力集中を低減し、剥離抵抗を向上させることが可能である。
【0094】
炭素繊維シート1の長さLs、定着量(Lf)、ずらし量(Lm)については、後で詳しく説明する。
【0095】
次に、炭素繊維シートに含浸され、且つ、炭素繊維シートを含浸接着する樹脂(接着剤)
について説明する。
【0096】
炭素繊維シート1は、繊維の間に樹脂が良好に含浸した状態で、繊維と樹脂の複合材料(CFRP)として強度、弾性率を発現するものである。含浸接着樹脂は、鋼材10との接着強度、炭素繊維シート1の引張強度及び継手強度を確保できるものでなければならない。
【0097】
本実施例にて使用する含浸接着樹脂としては、2液性(2液混合型)の常温硬化型のエポキシ樹脂とされる。本実施例にて使用するエポキシ樹脂の物性は、下記表3に示す通りである。
【0099】
なお、本発明にて使用し得る接着剤としては、上記常温硬化型エポキシ樹脂の他に、熱硬化性のエポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、又は、光硬化型樹脂等が好適とされる。
【0100】
7.保護層の接着(S7)
必要に応じて、繊維シート1の保護層60として2方向アラミド繊維シートの貼付けを行うことができる(
図3参照)。
【0101】
繊維シート1として、例えば、本実施例のように炭素繊維シートを使用した場合には、炭素繊維シートは、屋外暴露試験や促進暴露試験により耐久性に優れていることが確認されている。しかしながら、含浸接着樹脂は紫外線やオゾンの作用により劣化し、白化や黄変など変色し美観を損なうことがある。また、炭素繊維シートは黒色であり、日光の直射を受けると表面温度が上昇するため、樹脂の耐熱温度を超えないように、保護工を施工するのが好ましい。
【0102】
炭素繊維シート1の保護層60に使用するアラミド繊維シートは、角部での折れ曲がりがあるため2方向材を使用する。アラミド繊維は耐衝撃性に優れており、柔軟性があることから部材角部への巻き付けが可能である。特に、トラス弦材やアーチリブなどの箱型閉断面の鋼部材に巻きたてるのが有効である。更に、将来の塗替えケレン地における炭素繊維シート保護層の機能を果たすこともできる。
【0103】
8.養生(S8)
含浸接着樹脂が初期硬化するまでは、雨水や砂、ホコリなどの付着を防止すると共に、気象の急変などによる悪影響を受けないように、必要に応じてビニールシートなどで養生する。
【0104】
9.仕上げ塗装(S9)
上記工程S7の保護工に使用するアラミド繊維シートは、有機系繊維のために紫外線劣化が生じることから、表面保護塗装を行うのが好ましい。
【0105】
本発明の補修補強方法に従って、上記工程S1〜S9を実施することにより、
図3及び
図4に示すように、鋼部材10に対する補強構造体50が得られる。
【0106】
つまり、炭素繊維シート1を使用した上記本実施例によれば、鋼構造物における軸方向力及び/又は曲げによる垂直応力を受ける鋼部材10に、炭素繊維シート1を樹脂で接着して鋼部材10を補修補強する鋼構造物の補修補強方法であって、特に、
(a)鋼部材10における施工対象部分に対して下地処理する工程と、
(b)下地処理された鋼部材10の表面にポリウレア樹脂パテ材30Aによりパテ層30を形成する工程と、
(c)パテ層30の上に、複数(n)層の炭素繊維シート1を樹脂で接着して積層し、複数層の炭素繊維強化樹脂層(CFRP)20(20−1、20−2、・・・・20−n)を形成する工程と、
を有する鋼構造物の補修補強方法が実施される。
【0107】
鋼部材の補修補強必要断面積Aslは、腐食による鋼部材の欠損断面積以上で、且つ、次の条件で算定した鋼部材応力度の合計が許容応力度以内となるように決定する。
(1)CFRP接着前に既に作用している死荷重は、既設鋼断面で負担する。
(2)活荷重及びCFRP接着後に作用する死荷重は、鋼とCFRPの合成断面で負担する。
【0108】
ただし、腐食による断面欠損量が局部的で軽微な場合や、対象が二次部材の場合には鋼部材の欠損断面積を補修補強必要断面積Aslとし、応力度照査は省略してもよい。
【0109】
なお、腐食に伴う断面の急変を避け性能回復を図るため、欠損断面に相当するCFRPを貼付けるとともに、CFRP接着前後の荷重状態を考慮して鋼部材の応力度照査することを基本としているが、炭素繊維シートの強度は鋼材と比較して非常に大きく、応力上問題にならないことから、照査を省略してもよい。なお、対傾構、横構などの二次部材や、一次部材においても腐食による断面欠損が局部的で軽微な場合は、補修設計の簡便さを考慮し、応力度照査を省略してもよい。断面欠損量が軽微な場合とは欠損断面積に相当するCFRP積層数が5層程度以下のときと考えることができる。
【0110】
上記実施例の鋼構造物の補修補強方法では、鋼部材の補修補強必要断面積Aslを算定し、必要となるCFRP積層数nを決定する。なお、樹脂の弾性係数は、炭素繊維の弾性係数の1/100以下程度であり、樹脂の体積比が70〜80%であることから、CFRP全体の引張剛性に及ぼす樹脂の影響は5%程度である。そのため、CFRPの計算には炭素繊維シートのみの断面積とすることができる。
【0111】
CFRPを接着した鋼材は、CFRPの積層数に応じた応力改善効果を得られることは確認されている。また、上述したように、本発明によれば、弾性係数が65N/mm
2程度(鋼材の約1/3000程度)の高伸度弾性パテ材(ポリウレア樹脂パテ材)30A(弾性層30)を接着層に挿入しており、これにより高応力時や座屈変形時においても炭素繊維シート1の剥離が確実に防止できる。一方、炭素繊維シート1から鋼部材10への荷重伝達効率が低減する。このため、鋼部材の応力度改善を図る場合、炭素繊維シート接着後の断面を鋼部材10と炭素繊維シート1との完全合成断面として評価すると、補修補強量がやや不足することとなる。
【0112】
そこで、本発明では、荷重伝達係数の低下の影響は、応力低減係数Cnを炭素繊維シートの鋼換算断面積Acf,sに乗じることにより評価する。鋼部材の補修補強必要断面積Aslを算定し、必要となるCFRP積層数nを決定する。
【0113】
つまり、炭素繊維シートの積層数nは、下記式(3)を満足するように決定する。
【0115】
上述したように、炭素繊維シートの積層数nが多くなると、炭素繊維シート1への荷重伝達効果が低減されるため、積層数nに応じた応力低減係数Cnを乗じることとした。応力低減係数Cnは、実験の結果及び数値解析結果に基づき設定している。この点については、後で更に詳しく説明する。
【0116】
また、炭素繊維シートの設計厚さtcfは次式(4)で求められる。
【0118】
本実施例で使用する高弾性型炭素繊維を用いた炭素繊維シート(Ecf=640kN/mm
2、繊維目付量w=300g/m
2、ρ=2.1×10
6g/m
3)の場合、炭素繊維1層あたりの設計厚さはtcf=0.143mm、鋼換算厚さtcf,s=0.457mmとなる。従って、炭素繊維シート幅Bcfが決まれば炭素繊維シートの鋼換算断面積Acf,sが求められる。
【0119】
このようにして、鋼部材の補修補強必要断面積Aslを算定し、必要となるCFRP積層数を決定する。
【0120】
ここで、炭素繊維シートの設計厚さtcfは、上述のように、炭素繊維のみの断面積を用いる。つまり、樹脂の弾性係数は、本実施例のように、強化繊維が炭素繊維である場合には、炭素繊維の弾性係数Ecfの1/100以下程度であり、樹脂の体積比が70〜80%であることから、CFRP全体の引張剛性に及ぼす樹脂の影響は5%程度である。そのため、CFRPの計算には炭素繊維シート1の断面積とする。樹脂の断面積は設計には見込んでいない。
【0121】
CFRPを接着した鋼材は、CFRPの積層数に応じた応力改善効果を得られることが確認されているが、本発明の方法では、弾性係数が65N/mm
2程度(鋼材の約1/3000)の高伸度弾性パテ材(ポリウレア樹脂パテ材)を接着層に塗布することとしており、これにより高応力時や座屈変形時においてもCFRPの剥離が確実に防止できる一方で、CFRPから鋼部材への荷重伝達効率が低減する(
図10参照)。このため、鋼部材の応力度改善を図る場合、CFRP接着後の断面を鋼とCFRPとの完全合成断面として評価すると、補修補強量がやや不足することとなる。
【0122】
そこで、本発明では、このことを考慮して荷重伝達効率の低下の影響は、応力低減係数Cnを炭素繊維シート1の鋼換算断面積Acf,sに乗じることにより評価することとした。
【0123】
なお、荷重伝達効率は、定着長LfやCFRP積層数nに応じて変化するため、応力低減係数CnはCFRP接着鋼板の一軸引張り試験及び数値解析結果に基づき設定することができる。
【0124】
次に、本発明の特徴をなす「応力低減係数Cn」の特性について説明する。
(応力低減係数について)
応力低減係数Cnの設定に当たり、
図11に示すCFRP接着鋼板に対し、CFRP積層数n、定着長Lf及び各層のずらし量Lmをパラメータとした一軸引張り試験及び数値解析を行った。数値解析手法は、「宮下剛、長井正嗣:一軸引張を受ける多層のCFRPが積層された鋼板の応力解析、土木学会論文集A、Vol.66(2010)、No.2、pp.378−392」に示す手法を用いた。
【0125】
着目点の応力−ひずみ関係について、代表的な例を
図12(a)、(b)、(c)に示す。この結果より、定着長Lfや各層のずらし量Lmが不足すると、大幅に荷重伝達効率が低下することが分かる。また、鋼板応力が150〜200N/mm
2付近から数値計算結果と比較して剛性が低下し始めることが分かる。これはパテ層30(パテ材30A)が軟化した影響と考えられるが、実橋に生じる死荷重による応力度は最大でも150N/mm
2程度(SM570材の許容応力度255N/mm
2に対して活荷重比率6割を想定)であることを考慮し、本例では、数値計算値の剛性で荷重伝達効果を評価した。
【0126】
次に、積層数nをパラメータとして応力低減係数Cnを整理した結果を
図13(a)、(b)、(c)に示す。この結果より、鋼板10からCFRPへの荷重伝達効率について、以下の事項が確認できる。
(1)定着長Lfの影響は極めて大きく、定着長(Lf)100mmから200mmとすることで荷重伝達効率が大きく向上する。
(2)ずらし量Lmの影響も比較的大きく、特に積層数nが大きい場合には、ずらし量(Lm)25mm確保することでCFRPへの荷重伝達効率が良好となる。
(3)積層数nの影響は、積層数が小さい段階では比較的敏感に反応するが、5〜15層程度のいずれかで極小値を与え、その後積層数nが増加しても応力低減係数Cnの値は殆ど変化しない。
【0127】
つまり、上記より、
1.繊維シート1の定着長Lf及びずらし量Lmは、繊維シート1の引張剛性が大きくなると大きくする。
2.応力低減係数Cnの値は、繊維シート1の積層数nが大きくなると小さくし、繊維シート1の積層数nが所定数(5〜15のいずれか)に達すると一定値(0.25〜0.8)とする。
3.応力低減係数Cnの値が一定値となる繊維シート1の積層数nは、繊維シート1の定着長Lf及びずらし量Lmが大となると小さくする。
こととする。
【0128】
以上より、CFRP接着による荷重伝達効率と実務設計での簡便さを考慮し、本実施例では、
図14に示すように、定着長(Lf)200mm、ずらし量(Lm)25mmを標準的な構造細目として設定すると共に、応力低減係数Cnは表4に示す値とした。
【0130】
なお、鋼部材(母材)10の板厚、含浸接着樹脂材の使用量及び不陸修正材40Aの厚さの違いは、荷重伝達効率にほとんど影響しないことを数値解析により確認した。但し、高伸度弾性パテ材(ポリウレア樹脂パテ材)30A(弾性層30)の厚さについては10%の施工誤差を考慮して応力低減係数Cnの値を設定した。
【0131】
表4に示す応力低減係数Cnは、
図9を参照して説明した本発明の施工手順に従った補修補強方法で得られる接着断面の構成で
図14に示す構造細目、即ち、定着長Lfが200mm、ずらし量Lmが25mmを満足することを前提としており、更に高弾性型の炭素繊維シート(弾性係数の設計値:6.4×10
5N/mm2、繊維目付量:300g/m2)を使用した場合に適用が限定される。このため、弾性係数や繊維目付量の異なる炭素繊維シートを使用する場合には、応力低減係数Cnの値について、他の値が設定される。
【0132】
例えば、他の実施例として、炭素繊維シート1として、
図6〜
図8を参照して説明した、所謂、ストランド型炭素繊維シート1Cを使用した場合の構造細目及び応力低減係数Cnについて、数値解析を用いた検討により算定した結果を
図15及び表5に示す
【0134】
次に、炭素繊維シート1の長さLs及び定着長Lfについて説明する。
【0135】
炭素繊維シート1の繊維方向の長さLcfは、下記式(5)を満足するように決定する。
【0137】
つまり、複数層の炭素繊維シート1は、鋼部材表面側の1層目から最外層のn層目へと繊維方向長さが短くなるようにし、炭素繊維シート1の繊維方向の端部を所定量づつ階段状にずらして接着する。また、最外層のn層目の炭素繊維シートの繊維方向長さLsは、鋼部材の施工対象部分における欠損範囲Lslより定着長Lfだけ長くされる。
【0138】
更に具体的に説明すれば、本実施例では、上述のCFRPへの荷重伝達効率Cnの検討結果より理解されるように、複数層の炭素繊維シート1を積層接着する際には、定着長Lfは200mm以上確保する。定着部には極力凹凸のある面を避け、やむを得ない場合は不陸修正材40Aにて平滑に仕上げた上でCFRP接着長を延長し、平滑な鋼桁面で200mm以上の定着長Lfを確保する。定着部の不陸修正については、後述する。
【0139】
接着端は、部材軸方向に繊維シートを1層ごとに25mmズラして接着する(
図14参照)。
【0140】
接着端部は、応力が集中するため、CFRPが剥離する起点となる。そのため、応力集中を緩和することを目的に、主応力方向に炭素繊維シートをずらして接着する。ずらし量Lmは、炭素繊維シートの長さを層ごとに変えることで確保する。また、断面欠損による凹凸や欠損範囲の端部は、応力集中を避けるため極力滑らかに削り取った上で不陸修正する。
【0141】
図16を参照して炭素繊維シート1を繊維軸方向に継手部70にて接続する場合について説明する。
【0142】
図16を参照すると、本実施例では、鋼部材の施工対象部分に接着される複数層の繊維シートは、繊維シートの繊維方向において、施工対象部分の第1の領域に接着して第1の繊維強化樹脂層20Aを形成する第1の複数層の繊維シートと、施工対象部分の第2の領域に接着して第2の繊維強化樹脂層20Bを形成する第2の複数層の繊維シートと、にて形成され、第1及び第2の繊維強化樹脂層20A、20Bの重なり合った領域では第1の繊維強化樹脂層20Aと第2の繊維強化樹脂層20Bとを重ねて接着され、継手部70が形成される。
【0143】
本実施例にて、継手部70における繊維方向の重ね継手長Ltは、100mmを最小値とする。なお、複数層の炭素繊維シート1を接続する場合は接着端を1層ごとに25mmズラして接着する。
【0144】
高弾性型炭素繊維シートの継手試験では、重ね継手長Ltが100mmあれば継手部70で破壊せず鋼部材(母材)10が破壊することが確認されている。従って、継手長さLtの最小値を100mmとした。なお、繊維直角方向には、応力伝達しないので重ね継手を設ける必要はない。
【0145】
また、
図17に示すように、鋼桁の下フランジ12に添接板17が接合して設けられており、そのために、添接板17の近傍などで炭素繊維シート1を主応力方向に連続して貼付けることが困難な場合がある。
【0146】
この場合には、図示するように、鋼部材の施工対象部分に形成された段差部においては、段差部を除く施工対象部分に複数層の繊維シートを接着して第1の繊維強化樹脂層20Aを形成し、段差部を含む施工対象部分に複数層の繊維シートを接着して第2の繊維強化樹脂層20Bを形成し、第1及び第2の繊維強化樹脂層20A、20Bの重なり合った領域で第2の繊維強化樹脂層20Bを第1の繊維強化樹脂層20Aの上に重ねて接着して継ぎ手部を形成する。
【0147】
更に説明すると、フランジ部13と添接板17には各々別の繊維シート1A、1Bを接着することができる。この場合、段差部での炭素繊維シート1A、1Bの剥離を防止するために段差高さt
p+bの10倍以上の勾配で不陸修正材40Aによりなだらかに成型し、平坦部で炭素繊維シート1A、1Bをラップさせて接続する。ラップ長さLpは、鋼部材12との応力伝達長を考慮して100mm以上とし、複数層の炭素繊維シートを接続する場合は、剥離を防止するため接着端を1層ごとにずらし量(Lm)25mmだけズラして接着する。
【0148】
また、ボルト部Btなどの不陸がある部位にCFRPを定着する場合には、
図18(a)、(b)に示すように、不陸修正材40Aを用いて凹凸を平滑に修正した上でCFRP接着長を延長し、平滑な鋼材面で必要定着長を確保すればよい。凹凸の範囲が限定的な場合には、繊維の一部を緩やかに曲げることにより凹凸部を避けてFRPを接着する方法についても検討するのが良い。この場合、擦り付け長さLbは1:10程度が好ましい。
【0149】
また、
図19に示すように、更に、炭素繊維シートを積層して、鋼部材10を補修補強する際の注意点を上げれば次の通りである。
【0150】
炭素繊維シートの繊維直角方向の幅は、部材の幅方向縁端からLb=5mm以上控えた寸法とし、部材の角部(出隅、入隅)には、炭素繊維シートを接着しない。積層数を少なくするためには、繊維シートの幅をできるだけ大きくとることが好ましい。
【0151】
また、コーナー部(入隅部や出隅部)では、気泡や膨れ等の施工不良が生じやすいため、炭素繊維シートの接着は行わない。また、下地処理やプライマー塗布、含浸接着時の作業性を考慮して部材縁端からやや控えて接着するのが良い。
【0152】
必要枚数が多くなり、損傷が生じている鋼板面への施工が困難な場合は、
図20に示すように、同一断面内で接着位置を分散させてもよい。つまり、鋼板15cに貼付すべきCFRP20が9層であったとすると、鋼板15cにCFRP20を3層とし、他の鋼板15a、15b、15cにそれぞれ3層づつ分散して貼付することができる。
【0153】
このように、局部的な孔食により部材の一部が貫通するような極端な腐食形態に対しても、このような分散貼付を行うことにより、応力改善効果を得られることが、各種実験により確認されている。このため、本発明においても、部材としての平均応力が改善できるように貼付位置を調整することができる。
図20には、鋼部材10としてのトラス橋の弦材を例に、炭素繊維シート20の積層数の調整方法の例を示す。
【0154】
本実施例では、本発明の鋼構造物の補修補強方法においては、繊維シート1の強化繊維としては炭素繊維を使用する場合について説明したが、本発明の補修補強方法に使用する強化繊維を炭素繊維に限定するものではなく、上述した他の強化繊維を使用し得るものである。この場合にも、上記説明にて理解されるように、強化繊維の種類、定着長、ずらし量、FRP積層数に応じて、応力低減係数Cnは、FRP接着鋼板の一軸引張り試験及び数値解析結果に基づき設定することができる。