特開2015-124874(P2015-124874A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-124874(P2015-124874A)
(43)【公開日】2015年7月6日
(54)【発明の名称】差動装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/037 20120101AFI20150609BHJP
   F16H 48/40 20120101ALI20150609BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20150609BHJP
【FI】
   F16H57/037
   F16H48/40
   B23K26/21 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-271808(P2013-271808)
(22)【出願日】2013年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000238360
【氏名又は名称】武蔵精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 陽一
【テーマコード(参考)】
3J027
3J063
4E168
【Fターム(参考)】
3J027FA17
3J027FB01
3J027HC07
3J063AA01
3J063AB13
3J063AC11
3J063BA01
3J063CD46
3J063XA05
3J063XA06
4E168BA07
4E168BA14
4E168BA21
4E168BA56
4E168CB18
(57)【要約】
【課題】デフケースの作業窓がフランジの第1軸受ボス側の側面に食い込んで凹部を形成する場合でも,リングギヤの溶接歪みを無くし,もしくは少なくしながらフランジ及びリングギヤの圧入嵌合部を能率よく溶接し得るようにした差動装置を提供する。
【解決手段】フランジ15及びリングギヤ17の圧入嵌合部に,これらフランジ15及びリングギヤ17の圧入深さを規制する圧入規制手段22を設け,フランジ15は,凹部19が存在する薄肉部15bと,凹部19が存在しない厚肉部15aとを有し,その厚肉部15aとリングギヤ17とに,第2軸受ボス5側から所定の溶接深さH1をもって溶接23を施し,また薄肉部15bとリングギヤ17とには,第2軸受ボス5側から所定の溶接深さH1よりも浅い溶接深さH2をもって溶接23を施し,もしくは溶接を施さない。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフ機構( 3 )を収容するデフケース(2)の一側部及び他側部に,同一軸線(X)上に並んでそれぞれミッションケース(1)に軸受(6,6′)を介して支持される第1及び第2軸受ボス(4 ,5 )を一体に形成し,また同デフケース(2)の中心(C)から前記第2軸受ボス(5)側にオフセットした中間部に環状のフランジ(15)を一体に形成し,さらに同デフケース(2)の,前記軸線(X)と直交する一直径線上で対向する周壁に,前記デフ機構( 3 )を挿入するための作業窓(18)を設け,これら作業窓(18)が前記フランジ(15)に食い込むことで,前記フランジ(15)の,前記第1軸受ボス(4)側の側面に凹部(19)が形成され,前記フランジ(15)の外周面にリングギヤ(17)を圧入嵌合して,これらフランジ(15)及びリングギヤ(17)の圧入嵌合部を溶接した差動装置であって,
前記フランジ(15)及びリングギヤ(17)の圧入嵌合部に,これらフランジ(15)及びリングギヤ(17)の圧入深さを規制する圧入規制手段(22)を設け,前記フランジ(15)は,前記凹部(19)が存在する薄肉部(15b)と,前記凹部(19)が存在しない厚肉部(15a)とを有し,その厚肉部(15a)と前記リングギヤ(17)とに,前記第2軸受ボス(5)側から所定の溶接深さ(H1)をもって溶接(23)を施し,また薄肉部(15b)と前記リングギヤ(17)とには,前記第2軸受ボス(5)側から前記所定の溶接深さ(H1)よりも浅い溶接深さ(H2)をもって溶接(23)を施し,もしくは溶接を施さないことを特徴とする差動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差動装置において,
前記フランジ(15)及びリングギヤ(17)の圧入嵌合部の溶接開始点(27)及び溶接終了点(28)を前記厚肉部で一致させたことを特徴とする差動装置。
【請求項3】
請求項2に記載の差動装置において,
前記フランジ(15)及びリングギヤ(17)の圧入嵌合部を,周方向に並ぶ複数の分割領域(24,25)に等分し,各分割領域(24,25)の溶接開始点(27)と,それに隣接する分割領域の溶接終了点(28)とを前記厚肉部(15a)で一致させたことを特徴とする差動装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の差動装置において,
一致する前記溶接開始点(27)及び溶接終了点(28)と前記薄肉部(15b)との間隔(θ)を,前記フランジ(15)の中心軸線周りで45°以上に設定したことを特徴とする差動装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の差動装置において,
前記デフ機構(3)のピニオン軸(9)の抜け止めピン(14)が嵌挿されるピン孔(13)を,これが前記デフケース(2)の外周部を貫通するように設け,このピン孔(13)を基準にして前記溶接開始点(27)を設定したことを特徴とする差動装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の差動装置において,
前記リングギヤ(17)を,外周に歯部を有するリム(17a)と,このリム(17a)に囲繞されて前記フランジ(15)に圧入嵌合されるハブ(17c)と,これらリム(17a)及びハブ(17c)間を一体に連結するスポーク(17b)とで構成し,そのスポーク(17b)の回転中心面(P2)を前記フランジ(15)の回転中心面(P1)よりも前記第1軸受ボス(4)側に配置したことを特徴とする差動装置。
【請求項7】
請求項1記載の差動装置の製造方法において,
前記薄肉部(15b)と前記リングギヤ(17)とに溶接(23)を施す際には,溶接出力を厚肉部(15a)の場合に比して低減するか,溶接速度を厚肉部(15a)の場合に比して速くすることを特徴とする差動装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,デフ機構を収容するデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでそれぞれミッションケースに軸受を介して支持される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの中心から前記第2軸受ボス側にオフセットした中間部に環状のフランジを一体に形成し,さらに同デフケースの,前記軸線と直交する一直径線上で対向する周壁に,前記デフ機構を挿入するための作業窓を設け,前記フランジの外周面にリングギヤを圧入嵌合して,これらフランジ及びリングギヤの圧入嵌合部を前記第2軸受ボス側で溶接した差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる差動装置は,下記特許文献1に開示されるように,既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2013−18223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されるものでは,デフケースのフランジの肉厚が全周均一であり,またフランジ及びリングギヤの圧入嵌合部の溶接が左右両側部で行われている。ところで,デフケースの内面加工を容易にしたり,デフ機構のデフケースへの挿入を容易にすべく,作業窓を大きく形成した場合には,その作業窓がフランジの第1軸受ボス側の側面に食い込んで凹部を形成することがある。そのような凹部を有するデフケースの場合,フランジの両側部でのリングギヤとの全周溶接を適用すると,種々の不都合を生じる。例えば,フランジの第1軸受ボス側の側面を溶接する場合には,前記凹部の形状に合わせて溶接トーチの位置を変更しなければならず,作業能率を低下させる。また溶接時に発生するスパッタのデフケース内への侵入を防ぐために,前記作業窓を治具で塞いだとしても,凹部の存在のためにスパッタがデフケース内に侵入し易くなる。さらにフランジの第2軸受ボス側の側面を溶接する場合であっても,凹部の部分でフランジの肉厚が薄いため,凹部におい貫通溶接が生じ易く,その結果,第1軸受ボス側へ向かってスパッタが飛散し,デフケースの内面に付着する虞がある。
【0005】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,作業窓がフランジの第1軸受ボス側の側面に食い込んで凹部を形成する場合でも,フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部を良好に溶接し得るようにした前記差動装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために,本発明は,デフ機構を収容するデフケースの一側部及び他側部に,同一軸線上に並んでそれぞれミッションケースに軸受を介して支持される第1及び第2軸受ボスを一体に形成し,また同デフケースの中心から前記第2軸受ボス側にオフセットした中間部に環状のフランジを一体に形成し,さらに同デフケースの,前記軸線と直交する一直径線上で対向する周壁に,前記デフ機構を挿入するための作業窓を設け,これら作業窓が前記フランジに食い込むことで,前記フランジの,前記第1軸受ボス側の側面に凹部が形成され,前記フランジの外周面にリングギヤを圧入嵌合して,これらフランジ及びリングギヤの圧入嵌合部を溶接した差動装置であって,前記フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部に,これらフランジ及びリングギヤの圧入深さを規制する規制手段を設け,前記フランジは,前記凹部が存在する薄肉部と,前記凹部が存在しない厚肉部とを有し,その厚肉部と前記リングギヤとに,前記第2軸受ボス側から所定の溶接深さをもって溶接を施し,また薄肉部と前記リングギヤとには,前記第2軸受ボス側から前記所定の溶接深さよりも浅い溶接深さをもって溶接を施し,もしくは溶接を施さないことを第1の特徴とする。尚,前記規制手段は,後述する本発明の実施形態中のストッパ壁22に対応する。
【0007】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部の溶接開始点及び溶接終了点を前記厚肉部で一致させたことを第2の特徴とする。
【0008】
さらに本発明は,第2の特徴に加えて,前記フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部を,周方向に並ぶ複数の分割領域に等分し,各分割領域の溶接開始点と,それに隣接する分割領域の溶接終了点とを前記厚肉部で一致させたことを第3の特徴とする。
【0009】
さらにまた本発明は,第2又は第3の特徴に加えて,一致する前記溶接開始点及び溶接終了点と前記薄肉部との間隔を,前記フランジの中心軸線周りで45°以上に設定したことを第4の特徴とする。
【0010】
さらにまた本発明は,第1〜第4の特徴の何れかに加えて,前記デフ機構のピニオン軸の抜け止めピンが嵌挿されるピン孔を,これが前記デフケースの外周部を貫通するように設け,このピン孔を基準にして前記溶接開始点を設定したことを第5の特徴とする。
【0011】
さらにまた本発明は,第1〜第5の特徴の何れかに加えて,前記リングギヤを,ヘリカル状の歯部を有するリムと,このリムに囲繞されて前記フランジに圧入嵌合されるハブと,これらリム及びハブ間を一体に連結するスポークとで構成し,そのスポークの回転中心面を前記フランジの回転中心面よりも前記第1軸受ボス側に配置したことを第6の特徴とする。
【0012】
さらにまた本発明は,第1の特徴の差動装置の製造方法において,前記薄肉部と前記リングギヤとに溶接を施す際には,溶接出力を前記厚肉部の場合に比して低減するか,溶接速度を前記厚肉部の場合に比して速くすることを第7の特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の特徴によれば,フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部に,これらフランジ及びリングギヤの圧入深さを規制する規制手段を設け,フランジの厚肉部と前記リングギヤとに,前記第2軸受ボス側から所定の溶接深さをもって溶接を施したことで,フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部の溶接を,フランジ及びリングギヤの一側面側のみで行いながら,フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部の結合強度を高めることができ,また溶接作業の能率を上げて製作コストの低減を図ることができる。しかも,その溶接するフランジ及びリングギヤの一側面側は,作業窓と反対側であるので,溶接時に発生するスパッタが作業窓からデフケース内に侵入する心配もない。またフランジの薄肉部とリングギヤとには,第2軸受ボス側から前記所定の溶接深さよりも浅い溶接深さをもって溶接を施し,もしくは溶接を施さないので,前記薄肉部での貫通溶接を回避して,スパッタのデフケース内への侵入を防ぐことができる。
【0014】
本発明の第2の特徴によれば,フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部の溶接開始点及び溶接終了点を厚肉部で一致させたので,フランジ及びリングギヤにおいて,強度低下の可能性がある箇所を厚肉部に設けることができる。即ち,溶接開始点及び溶接終了点を一致させること(所謂二度打ち)により,全周を隙間なく溶接することができるが,同一個所を二度溶接することによるフランジ及びリングギヤの強度低下を招く。よって,この一致点を厚肉部に設けることにより,フランジ及びリングギヤの強度低下の影響を極小化することができる。またその一致点で溶接深さが深くなっても,貫通溶接を回避することができる。
【0015】
本発明の第3の特徴によれば,フランジ及びリングギヤの圧入嵌合部を,周方向に並ぶ複数の分割領域に等分し,各分割領域の溶接開始点と,それに隣接する分割領域の溶接終了点とを前記厚肉部で一致させたことで,フランジ及びリングギヤの溶接による熱歪みを無くし,もしくは著しく少なくすることができる。
【0016】
本発明の第4の特徴によれば,一致する溶接開始点及び溶接終了点とフランジの薄肉部との間隔を,フランジの中心軸線周りで45°以上に設定したことで,溶接開始点及び溶接終了点が一致することによる溶接入熱の増加によって生じる薄肉部の熱歪みを抑制することができる。また溶接開始点と溶接終了点との一致点を薄肉部から周方向に離れた位置に設定することで,フランジ及びリングギヤの強度低下を抑制することができる。
【0017】
本発明の第5の特徴によれば,デフ機構のピニオン軸の抜け止めピンが嵌挿されるピン孔を,これが前記デフケースの外周部を貫通するように設け,このピン孔を基準にして溶接開始点を設定したので,溶接開始点の設定のための特別な目印を設けずとも,溶接を適正に行うことができる。
【0018】
本発明の第6の特徴によれば,リングギヤのスポークの回転中心面をフランジの回転中心面よりも第1軸受ボス側に配置したことで,リングギヤをデフケースの中心に極力近づけて,リングギヤからデフケースへのトルク伝達を良好にすることができる。またリングギヤに働くスラスト荷重及びラジアル荷重を,第1軸受ボスをミッションケースに支持させる軸受と,第2軸受ボスをミッションケースに支持させる軸受とでバランス良く分担することができる。
【0019】
本発明の第7の特徴によれば,前記薄肉部とリングギヤとに溶接を施す際には,溶接出力を前記厚肉部の場合に比して低減するか,溶接速度を前記厚肉部の場合に比して速くすることにより,前記薄肉部とリングギヤとの溶接深さを前記圧入嵌合部とリングギヤとの溶接深さよりも所望通りに浅くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の差動装置及びそれを収容するミッションケースの一部の縦断平面図。
図2】上記差動装置のデフケースの平面図。
図3図2の3−3線断面図。
図4図3の4矢視図で,フランジ及びリングギヤの溶接要領を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0022】
図1において,車両のミッションケース1内に差動装置Dが収容される。この差動装置Dは,デフケース2と,このデフケース2内に収容されるデフ機構3とよりなっている。デフケース2の右側部及び左側部には,同一軸線X上に並ぶ第1軸受ボス4及び第2軸受ボス5が一体に形成され,これら第1及び第2軸受ボス4,5は,軸受6,6′を介してミッションケース1に支持されると共に,右及び左車軸7,8を支持する。
【0023】
デフ機構3は,前記軸線Xと直交するようにしてデフケース2に保持されるピニオン軸9と,このピニオン軸9に支持される一対のピニオンギヤ10と,前記車軸7,8の内端にスプライン結合してピニオンギヤ10と噛合する一対のサイドギヤ11とより構成され,各ギヤの背面は,デフケース2の球状内面で回転自在に支承される。
【0024】
ピニオン軸9は,デフケース2の外周部の一対の支孔12により保持される。デフケース2の外周部には,一方の支孔12と直交してその外周部を左右方向に貫通するピン孔13が設けられており,このピン孔13に圧入嵌合される抜け止めピン14がピニオン軸9を貫通することで,ピニオン軸9の支孔12からの抜け止めが果たされる。
【0025】
またデフケース2には,その中心Cから第2軸受ボス5側にオフセットした中間部に環状のフランジ15が一体に形成され,このフランジ15に,変速装置の出力ギヤ16と噛合するリングギヤ17が取り付けられる。
【0026】
図2図4に示すように,さらにデフケース2の,前記軸線Xと直交する一直径線上で対向する周壁には,デフケース2の球状内面を加工すること,並びに前記デフ機構3のデフケース2への挿入を容易にすることのための一対の作業窓18が設けられる。これら作業窓18は,フランジ15に食い込むように大きく形成され,これよりフランジ15の第1軸受ボス4側の側面に凹部19が形成される。これに伴ないフランジ15は,前記凹部19が存在する一対の薄肉部15bと,前記凹部19が存在しない一対の厚肉部15aとを有することになる。
【0027】
図1及び図3に示すように,リングギヤ17は,外周にヘリカル状の歯群を有するリム17aと,このリム17aの内周面から突出する板状のスポーク17bと,このスポーク17bの内周端部の,第2軸受ボス5側の側面より突出する環状のハブ17cとよりなっており,スポーク17bには,ハブ17cの内周面側に突出する環状のストッパ壁22が一体に形成される。そしてハブ17cは,前記フランジ15に第1軸受ボス4側から圧入嵌合される。その際,ストッパ壁22がフランジ15の側面に当接することで,その圧入深さが規制される。
【0028】
上記リングギヤ17において,スポーク17bの回転中心面P2は,前記フランジ15の回転中心面P1よりも第1軸受ボス4側に配置される。こうすることにより,リングギヤ17をデフケース2の中心Cに極力近づけて,リングギヤ17からデフケース2へのトルク伝達を良好にすることができる。またリングギヤ17に働くスラスト荷重及びラジアル荷重を,第1軸受ボス4をミッションケース1に支持させる軸受6と,第2軸受ボス5をミッションケース1に支持させる軸受6′とでバランス良く分担することができる。
【0029】
またミッションケース1内において,リングギヤ17と噛合すべき出力ギヤ16の左右方向位置は,変速装置の仕様に応じて変更される場合がある。本実施形態によれば,スポーク17bの回転中心面P2をデフケース2の中心Cに極力近づけているので,左右何れかの方向に出力ギヤ16の位置が変更される場合には,スポーク17bの位置を変更せずに,リム17aのみを出力ギヤ16に合わせて左右何れかの方向に延長すればよく,出力ギヤ16の仕様変更に柔軟に対応可能である。
【0030】
図4において,フランジ15及びハブ17cの圧入嵌合部には,その全周にわたり第2軸受ボス5側からレーザによる溶接23が施される。
【0031】
その溶接の際,前記ピン孔13を予め前記厚肉部15aの中央部に設けておき,そのピン孔13の中心を通るフランジ15の直径線Yにより,フランジ15及びハブ17cの圧入嵌合部を第1及び第2分割領域24,25に等分する。そして,一対のレーザトーチ26,26′を,これらが第1及び第2分割領域24,25の2つの分割点をそれぞれ狙うようにセットして,レーザトーチ26,26′又はデフケース2をフランジ15の中心軸周りに一定の方向へ回転しながら,第1及び第2分割領域24,25にレーザを照射することにより溶接23を施す。こうして,隣合う第1及び第2分割領域24,25の溶接開始点27と溶接終了点28とを,各厚肉部15aの中央部で一致させる。
【0032】
またその際,前記薄肉部15bに溶接23を施すときには,レーザ出力を,厚肉部15aの溶接時よりも低下させるか,あるいは溶接速度を厚肉部15aの溶接時よりも速めるかして,薄肉部15bの溶接深さH2(図3参照)を,厚肉部15aの溶接深さH1(図1参照)よりも浅くする。又は薄肉部15bでは溶接を行わない。
【0033】
次に,この実施形態の作用について説明する。
【0034】
リングギヤ17において,リム17aには,ハブ17cの内周面側に突出する環状のストッパ壁22を一体に形成し,ハブ17cをデフケース2のフランジ15に第1軸受ボス4側から圧入嵌合したとき,このストッパ壁22がフランジ15の側面に当接することで,圧入深さを規制し,フランジ15とリングギヤ17のハブ17cとの圧入嵌合部に第2軸受ボス5側からレーザによる溶接23を施すので,フランジ15及びハブ17cの圧入嵌合部の溶接を,フランジ15及びハブ17cの一側面側のみで行いながら,フランジ15及びハブ17cの結合強度を高めることができ,また溶接作業の能率を上げて製作コストの低減を図ることができる。しかも,溶接するフランジ15及びハブ17cの一側面側は,前記作業窓18と反対側であるので,溶接時に発生するスパッタが作業窓18からデフケース2内に侵入する心配もない。
【0035】
また上記圧入嵌合部に溶接23を施すに当たり,フランジ15の厚肉部15aとリングギヤ17とを所定の溶接深さH1をもって溶接し,フランジ15の薄肉部15bとリングギヤ17とは,前記所定の溶接深さH1より浅い溶接深さH2をもって溶接するか,もしくは全く溶接しないので,前記薄肉部15bでの貫通溶接を回避して,スパッタのデフケース2内への侵入を防ぐことができる。
【0036】
またフランジ15及びリングギヤ17の圧入嵌合部の溶接開始点27及び溶接終了点28を厚肉部15aで一致させたので,溶接開始点27及び溶接終了点28の一致により,その一致点において溶接深さが深くなっても,貫通溶接を回避することができる。
【0037】
さらに前記フランジ15及びリングギヤ17の圧入嵌合部を,周方向に並ぶ複数の分割領域24,25に等分し,複数の分割領域24,25に同時に溶接23を施したので,溶接の各部位における冷却スピードの違いを極力抑えて溶接によるリングギヤ17の熱歪みの偏りを無くし,もしくは著しく少なくすることができ,これによりリングギヤ17の傾きを防ぐことができる。しかも各分割領域24,25の溶接開始点27と,それに隣接する分割領域24,25の溶接終了点28とを厚肉部15aで一致させたので,複数の二度打ち箇所によるフランジ15及びリングギヤ17の強度低下の影響を抑制することができ,且つ各一致点において貫通溶接を回避することができる。
【0038】
また前記デフ機構3のピニオン軸9の抜け止めピン14が嵌挿されるピン孔13を,これが前記厚肉部15aに対応する前記デフケース2の外周部を貫通するように設け,このピン孔13を基準にして前記溶接開始点27を設定したので,溶接開始点27は勿論,溶接終了点28も,必然的に厚肉部15aに設定されることになり,溶接開始点27の設定のための特別な目印を設けずとも,溶接を適正に行うことができる。
【0039】
またフランジ15及びストッパ壁22間には前記凹部19を残存しており,この凹部19は,前記圧入嵌合部の溶接時に発生するガスを外部に排出することを促すことに寄与する。
【0040】
尚,一致する溶接開始点27及び溶接終了点28と薄肉部15bとの間隔θは,フランジ15の中心軸線周りで45°以上に設定することが望ましい。即ち,厚肉部15aよりも薄肉部15bでのレーザ出力を低下させる場合,溶接開始点27から薄肉部15bまでの間に充分な間隔θを空けることにより,レーザ出力の開始直後よりも一層出力が安定した状態で,その出力を低下させることができる。その結果,レーザ出力の管理が容易となる。また溶接開始点27及び溶接終了点28が一致することによる溶接入熱の増加によって生じる薄肉部15bの熱歪みを抑制することができる。また溶接開始点27と溶接終了点28との一致点を薄肉部15bから周方向に離れた位置に設定することで,フランジ15及びリングギヤ17の強度低下を抑制することができる。
【0041】
出力ギヤ16及びリングギヤ17間でのトルク伝達中,ヘリカルギヤよりなるリングギヤ17には,左右方向のスラスト荷重が作用し,その右向きのスラスト荷重は,溶接23部分を介してフランジ15に支持され,左向きのスラスト荷重は,ストッパ壁22を介してフランジ15に支持されるので,溶接23部分の荷重負担を軽減することができる。
【0042】
本発明は,上記実施形態に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,厚肉部15aにおける溶接深さは均一でなくてもよく,厚肉部15aの範囲で,溶接開始点27と溶接終了28との一致点のみ,溶接深さを深く(H1)してもよい。またフランジ15の肉厚を測定し,厚肉部15aの範囲のうち,最も厚い点を溶接開始点27及び溶接終了点28とし,その一致点のみ溶接深さを深く(H1)してもよい。また上記実施形態では,薄肉部15bを溶接するものとして説明したが,厚肉部15aの溶接で充分な溶接強度が得られる場合には,薄肉部15bを溶接しなくてもよい。
【符号の説明】
【0043】
D・・・・差動装置
H1・・・厚肉部での溶接深さ
H2・・・薄肉部での溶接深さ
P1・・・フランジの回転中心面
P2・・・リングギヤのスポークの回転中心面
X・・・・軸線
θ・・・・間隔
1・・・・ミッションケース
2・・・・デフケース
3・・・・デフ機構
4・・・・第1軸受ボス
5・・・・第2軸受ボス
6,6′・軸受
9・・・・ピニオン軸
13・・・・ピン孔
14・・・・抜け止めピン
15・・・・フランジ
15a・・・厚肉部
15b・・・薄肉部
17・・・・リンクギヤ
17a・・・リム
17b・・・スポーク
17c・・・ハブ
18・・・・作業窓
19・・・・凹部
22・・・・圧入規制手段(ストッパ壁)
23・・・・溶接
24,25・・・分割領域
27・・・・溶接開始点
28・・・・溶接終了点
図1
図2
図3
図4