【解決手段】基材B表面に導電性を有する層が設けられたフィルムを製造する方法であって、繊維状の導電部材NWを含有させた分散液を調製する分散液調製工程S1と、分散液を基材B表面上に塗工する塗工工程S2と、塗工工程S2によって形成された塗工膜に対してパルス光を照射する光焼成工程S4と、を順に行い、光焼成工程S4において、照射するパルス光の波長帯が240nm以上、総照射エネルギーが7J/cm
以上、となるようなパルス光を照射する。PET等の熱に弱い材質の基材Bを用いた場合であっても、基材Bの変質等によるヘイズ値の上昇を抑制しつつ、適切な導電性を有するフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の透明導電フィルムの製造方法は、基材表面上に導電性を有するフィルムを製造する方法であって、適切な導電性を有しつつ、フィルムのヘイズ値の上昇を抑制することができるようにしたことに特徴を有する。
【0014】
図1(B)に示すように、本発明の透明導電フィルムの製造方法によって製造されるフィルム(以下、単にフィルムという)は、基材Bと、基材B表面上に略堆積するように積層された導電部材NWを含有する層(以下、導電層という)とから構成されている。
【0015】
フィルムの基材Bは、透明性を有する部材であって、柔軟性と加工性を有する部材であれば、その材質はとくに限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などの透明性を有する合成高分子化合物を原料として採用することができる。しかし、PETを基材Bの材質として採用すれば、他の化合物に比べて比較的に熱に強く、しかも生産性が非常に多いため比較的安価かつ容易に入手することができるという点で好ましい。
【0016】
また、フィルムの基材B表面上の導電層に含まれる導電部材NWは、導電性を有する部材であり、しかも所定のエネルギーを加えることによって溶解するものであれば、とくに限定されず、例えば、銀や金、銅、白金、鉄、コバルト、ニッケルなどの導電性を有する金属や、これらの合金、酸化物、メッキされたものなどを採用することができる。
【0017】
以上のごとき構成であるので、上記フィルムが使用された機器等を人が指で操作すれば、導電層に含まれる導電部材NWによって、人の操作によって生じる人の指先と薄膜フィルムとの間で発生する静電容量の変化などを外部へ情報として伝達することができる
【0018】
以下、上記フィルムの製造方法について、説明する。
【0019】
まず、本実施形態の透明導電フィルムの製造方法の特徴である光焼成工程を詳細に説明する前に、
図1に示すフロー図に基づき、本実施形態の透明導電フィルムの製造方法の概略を説明する。
【0020】
図1(A)に示すように、本実施形態の透明導電フィルムの製造方法(以下、単に本製法という)は、分散液調製工程S1、塗工工程S2、乾燥工程S3、そして光焼成工程S4を順に行うことによって所望の機能を有するフィルムを製造する。
以下、各工程を順を追って説明する。
【0021】
(分散液調整工程S1)
まず、本製法の分散液調製工程S1は、微細な繊維状の導電性を有する導電部材NWを溶媒に分散し、この分散液中の導電部材NWが所定の濃度となるように調製する工程である。導電部材NWは、導電性を有する部材であれば、上記のごとき材質のものを採用することができる。
【0022】
導電部材は、基材Bの表面上に配置した状態において、フィルムの光透過率に影響を与えない大きさであれば、とくに限定されず、例えば、平均繊維長が約1〜100μm、平均繊維径が約10〜200nmのものを採用することができる。なお、かかる大きさの導電部材は、市販のものを採用してもよく、合成し形成したものを採用してもよい。
【0023】
なお、分散液の溶媒は、導電部材NWを分散することができるものであれば、とくに限定されず、上記した水の他、エタノールやメタノール、エチレングリコールなどのアルコール類や、アセトンなどの水溶性の有機溶媒、エーテル、炭化水素、芳香族溶剤(ベンゼン、トルエン、キシレン等)のいずれか、または2種以上を混合して使用してもよい。なお、分散剤を適宜添加すれば、分散液中において導電部材NWを分散させた状態を維持させることができるので好ましい。
【0024】
また、分散液中の導電部材NWの濃度も、基材Bの表面上に配置した状態において、フィルムの光透過率に影響を与えない程度となる濃度であれば、とくに限定されない。例えば、導電部材NWの材質として銀を採用し、分散液の溶媒として水を採用した場合、水が50質量%以上となるように調製することができる。
【0025】
なお、分散液の溶媒として水以外のものや、水と他の溶媒との混合溶媒を採用する場合には、その溶媒の性状に適した濃度となるように、溶媒に分散させる導電部材の量を適宜調製する。
【0026】
(塗工工程S2)
つぎに、分散液調製工程S1によって調製された分散液を基材Bの表面上に膜状に塗工する(塗工工程S2)。分散液を塗工方法は、基材Bの表面上に分散液を塗工した状態において、分散液中に含有させた導電部材が略堆積するように配置(例えば、
図1(B)参照)することができる方法であれば、とくに限定されない。例えば、薄膜塗工(塗布)工具(ダイコーター)を用いて所定の流量となるよう調整することによって、基材Bの表面上に分散液を薄膜状した塗工膜を形成することができる。
【0027】
なお、本明細書において塗工とは、分散液を基材Bの表面上に薄い膜を形成することをいい、コーティングや塗布を含む概念である。
【0028】
(乾燥工程S3)
塗工工程S2によって基材Bの表面上に形成された塗工膜には、分散液の溶媒が存在しているので、かかる状態の基材Bを乾燥工程S3に供給することによって、基材Bの表面上から溶媒を除去するのが好ましい。
この場合、基材Bの表面上から溶媒を除去できるので、後述する光焼成工程において、導電部材NWに対して適切に光エネルギーを照射することができるし、基材Bの表面上に導電部材NWをある程度の接着させることができるので、その後の作業性を向上させることもできる。
【0029】
なお、乾燥方法は、基材Bの表面上から溶媒を除去することができるものであれば、とくに限定されず、例えば、溶媒が水の場合、ある程度の温度の風をあてて風乾すれば、短時間で水を基材Bの表面上から除去することができる。
【0030】
(光焼成工程S4)
図1(B)の左図に示すように、乾燥工程S3後には、基材Bの表面上において、繊維上の導電部材NW同士が重なった状態となる。つまり、基材Bの表面上において、導電部材NW同士が略堆積した状態となっている。
このため、
図1(B)の右図に示すように、この略堆積した状態の導電部材NWに対して所定の光エネルギー(LE)となるように調整した光を照射すれば、導電部材NW同士の接触部分を溶接したように連結させることができる(光焼成工程S4)。
【0031】
フィルムの導電性を向上させる上では、上述したように高い光エネルギーを導電部材NWに供給し導電部材NW同士をより溶かし合わせて結合面積を向上させるのが望ましい。しかし、導電部材NWが接している基材Bへの影響を考慮した場合、単に光エネルギーの総照射エネルギーを増加させるだけではフィルムのヘイズ値の上昇を抑制することはできない。詳細は後述する。
【0032】
光焼成工程S4の光を照射するための光照射手段は、基材Bの表面上に上記のごとく略堆積するように配置された導電部材NWに対してパルス光を照射する光源と、この光源を制御する制御部とを備えたものであれば、とくに限定されない。
例えば、光源として広い波長領域を有し、パルス光を照射するフラッシュランプを採用することができる。このような広い波長領域を有するフラッシュランプを光源として採用すれば、導電部材NWの材質にかかわらず、導電部材NWに対して適切な波長の光エネルギーを供給することができるので、導電性を有するフィルムを適切に製造することができる。
【0033】
なお、本明細書中においてパルス光とは、照射時間が0.1msec〜10msecの光を意味する。パルス光の光強度は、照射時間内において一定であってもよく、変化してもよい。また、照射時間としては、好ましくは0.5msec〜2.0msecに設定することができる。
【0034】
(オーバーコート工程)
本製法によって製造された透明導電フィルムは、その表面を覆うようにオーバーコート層を設けてもよい。例えば、所定の樹脂を溶媒に溶解させたオーバーコート液を光焼成工程S4後の透明導電フィルムを覆うようにオーバーコートする。
この場合、基材Bの表面上に配置された複数の導電部材間の隙間をオーバーコート液中の樹脂によって埋めることができ、その表面も略平坦にすることができるので、フィルムに入射させた光が乱反射するのを抑制することができるから、フィルムのヘイズ値をより低く維持することができる。しかも、オーバーコート層によって導電部材の剥がれ等を防止することができるので、フィルムの導電性をより向上させることができる。
【0035】
なお、オーバーコート液中の樹脂は、一般に使用されるオーバーコート用の樹脂であれば、とくに限定されず、例えば、例えば、ポリメタクリル酸(例えば、ポリ(メタクリル酸メチル))、ポリアクリレート、およびポリアクリロニトリルなどのポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルナフタレート、およびポリカーボネート)、フェノールまたはクレゾール−ホルムアルデヒド(Novolacs(登録商標))、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルキシレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリフェニレン、およびポリフェニルエーテルなどの高芳香性を有する高分子、ポリウレタン(PU)、エポキシ、ポリオレフィン(例えば、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、および環状オレフィン)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、セルロース、シリコンおよびその他のシリコン含有高分子(例えば、ポリシルセスキオキサンおよびポリシラン)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリアセテート、ポリノルボルネン、合成ゴム(例えば、EPR、SBR、EPDM)、およびフッ素重合体(例えば、ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン(TFE)、またはポリヘキサフルオロプロピレン)、フルオロ−オレフィンの共重合体、および炭化水素オレフィン(例えば、Lumiflon(登録商標))、および非晶質フルオロカーボン重合体または共重合体(例えば、旭硝子のCYTOP(登録商標)またはデュポンのTeflon(登録商標)AF)などを挙げることができる。
【0036】
以上のごとく、本製法の光焼成工程S4において、基材Bの表面上に形成された塗工膜に対して照射するパルス光を調整することによって、基材Bの変質等を抑制しつつ、適切な導電性を有するフィルムを製造することができるのである。
【0037】
(光焼成工程S4の詳細)
以下、本実施形態の透明導電フィルムの製造方法の光焼成工程S4におけるパルス光を制御方法について具体的に説明する。
なお、以下の説明は、導電部材NWが銀ナノワイヤNWであり、基材Bの材質としてPETを採用した場合について説明する。
【0038】
本製法の光焼成工程S4は、上述したように、照射するパルス光の波長帯を調整し、かつパルス光の総照射エネルギーが所定の範囲内となるように、照射するパルス光を制御(コントロール)することによって、基材Bの変質等に起因するフィルムのヘイズ値の上昇を抑制しつつ、導電性を有するフィルムを製造できるようにしたことにとくに特徴がある。
【0039】
具体的には、照射するパルス光の波長帯が、基材Bに吸収されにくい波長帯となるように調整し、かつ導電部材NWの光吸収特性を維持するように調整する。言い換えれば、基材Bの光吸収特性と導電部材NWの光吸収特性の両者の関係を調整した波長帯のパルス光を照射するのである。しかも、パルス光の総照射エネルギーが、導電部材NW同士を適切に結合させるように調整する。つまり、照射するパルス光の波長帯とパルス光の総照射エネルギーをコントロールすることによって、上記機能を発揮させるフィルムを製造できるようにしたのである。
【0040】
一般的に、フィルムの導電性の向上を図る場合、フィルムに対して光エネルギーを高くして、基材表面上に配置された導電部材同士を連結させ、フィルムの表面抵抗値を低下させれば、フィルムの導電性を向上させることができる。
しかしながら、フィルムの基材が熱に弱い材質(例えば、PET)のものである場合、フィルムに照射されたパルス光によって基材に熱収縮などの変質等を生じさせる可能性がある。そして、基材に熱収縮などの変質等が発生すれば、変質等が発生した部位において、フィルムに入射したパルス光のうち、一部の光が拡散および/または乱反射するおそれがある。
【0041】
このようにフィルムに入射したパルス光のうち、一部の光が拡散等すれば、フィルムに光を透過させた場合の全光透過率に対する拡散透過率の割合、つまりヘイズ値(%)が、基材が熱収縮などの変質等が発生する前に比べて、高くなる(上昇する)。フィルムのヘイズ値が上昇すれば、フィルムが曇ったような状態となり、かかる現象は、とくに透明性が要求される製品(例えば、医療用機器や精密機器など)に使用する場合には、重要な問題となる。
【0042】
しかしながら、従来の光焼成技術では、フィルムに対して光エネルギーを高くして、基材表面上に配置された導電部材同士を連結させ、フィルムの表面抵抗値を低下させることによってフィルムの導電性を向上させるという技術であるが、その一方、フィルムの曇り度(つまりヘイズ値)の観点は全く考慮されていないというのが実情である。
【0043】
なぜなら、上述したように、フィルムの導電性の向上と、フィルムのヘイズ値の上昇抑制は、光焼成技術を採用した場合、トレードオフの関係になるからである。つまり、フィルムの導電性の向上をさせようとすれば、フィルムのヘイズ値が上昇し、その逆に、フィルムのヘイズ値が上昇を抑制しようとすれば、フィルムの導電性が低下するといった技術上の問題が生じるからである。
【0044】
本発明者らは、照射するパルス光の波長帯をコントロールすることによって、フィルムのヘイズ値の上昇を抑制し、かつ、フィルムに照射する光エネルギーの総照射エネルギーをもコントロールすることによって、上述したような技術的な問題を解決し、フィルムの導電性を向上させつつ、フィルムのヘイズ値の上昇を抑制することができるフィルムの製造方法を初めて見出した。
【0045】
(波長帯の説明)
フィルムに照射するパルス光の波長帯について説明する。
フィルムに照射するパルス光の波長帯は、基材Bに吸収されにくい波長帯のパルス光であれば、とくに限定されず、例えば、基材BがPETの場合、フィルムに対して照射するパルス光の波長帯は、約240nm以上であればよく、約300nm以上がより好ましく、さらに好ましくは、約330nm以上である。なぜなら、PETは、約330nm以下に光吸収特定を有しており、約240nmよりも小さい波長帯において、PETの光吸収特性を示す吸収曲線が急激な上昇カーブを示すからである。
【0046】
一方、上記波長帯は、基材Bの変質等を防止する上で好ましいが、導電部材NWの結合を向上させることによって、フィルムの導電性を向上させるという点においては、寄与しない波長帯を含んだ状態となる。この場合、不必要な光エネルギーを基材Bや導電部材NWに供給すこととなり、基材Bの変質等を生じさせるおそれがある。
【0047】
例えば、導電部材NWが銀ナノワイヤNWの場合、約340〜約420nmの範囲内に光吸収特性を有するので、約420nm以上の波長帯が不必要な光エネルギーとしてフィルムに照射されることとなる。
したがって、基材BがPET、導電部材NWが銀ナノワイヤNWの場合、照射するパルス光の波長帯は、約240〜約420nmが好ましく、約330〜420nmがより好ましく、さらに好ましくは、約340〜約420nmである。
【0048】
なお、パルス光の波長帯は、導電部材NWの素材(材質)と基材Bの素材(材質)の組み合わせに合わせて、適宜設定すればよく、必ずしも上記の波長体に限定されないのは、いうまでもない。
【0049】
(カットフィルタについて)
なお、照射するパルス光の波長帯を所定の範囲となるように調整する方法は、とくに限定されない。
例えば、上述したような広い波長帯を有するフラッシュランプを光源として採用する場合、所望の波長帯をカットするフィルタを光源とフィルタの間に設けてもよい。フィルタを取付けるだけなので、基材Bの材質等に応じて簡単に照射するパルス光の波長帯を調整することができるので好ましい。また、カットする波長帯が異なるフィルタを複数用いれば、より効率的に基材Bへのダメージを防止と導電部材NWへの光エネルギーの供給とを両立させることが可能となる。
【0050】
(総照射エネルギー)
一方、フィルムの導電性の向上を図る上では、フィルムに対して適切な光エネルギーを供給し導電部材NW同士の結合を推進させる必要がある。
しかしながら、光エネルギーの総照射エネルギーを必要以上に高くすれば、導電部材NWに対して過剰な発熱等を生じさせる可能性がある。この場合、導電部材NWの過剰発熱等によって、熱に弱いPET等の基材Bを変質させてしまい可能性がある。基材Bに変質等が発生すれば、上述したように、フィルムのヘイズ値の上昇を招くことになる。
したがって、フィルムの表面抵抗値を低下させつつ、PET等の熱に弱い材質の基材を用いた場合であっても、基材の変質等によるフィルムのヘイズ値の上昇を抑制するように、フィルムに供給する光エネルギーの総照射エネルギーを制御(コントロール)する必要がある。
【0051】
なお、本明細書中において総照射エネルギーとは、基材B表面上で受けるエネルギーを意味する。
【0052】
以下、フィルムに供給する光エネルギーの総照射エネルギーを制御について、具体的に説明する。
【0053】
総照射エネルギーは、基材B表面上に配置する導電部材NWの大きさや密度等によって適宜調整することができるが、適切に導電部材NW同士を連結つまり結合させることができ、フィルムの表面抵抗値を低下させることができる範囲の総照射エネルギーであれば、とくに限定されない。例えば、導電部材NWが銀、基材BがPETの場合、7J/cm
2以上が好ましく、より好ましくは、7〜10J/cm
2である。
パルス光の総照射エネルギーが7J/cm
2よりも小さい場合、導電部材NW同士の連結が不十分となる可能性、つまりフィルムの表面抵抗値が低下しない可能性がある。一方、パルス光の総照射エネルギーが10J/cm
2よりも大きい場合、フィルムの表面抵抗値の低下がほぼフラットな状態、つまり、過剰な光エネルギーをフィルムに照射することになる。言い換えれば、かかる値以上の光エネルギーを照射しても、フィルムの表面抵抗値の低下に寄与しないのである。
したがって、照射するパルス光の波長帯が約240〜約420nmであれば、照射する光エネルギーは、7J/cm
2以上であればよく、7〜10J/cm
2がより好ましい。
【0054】
まとめると、照射するパルス光の波長帯を240nm以上、好ましくは約240〜約420nmとなるように照射するパルス光の波長帯を調整することによって、フィルムに供給された光エネルギーによる基材へのダメージを抑制することができる。
【0055】
また、照射するパルス光の波長帯が約240〜約420nmであれば、照射する光エネルギーの総照射エネルギーを7J/cm
2以上となるように調整することによって、繊維状の導電部材NW同士を結合させつつ、光エネルギーの基材Bへの影響を抑制することができる。つまり、光焼成工程においてフィルムに照射するパルス光の波長帯と、フィルムに供給する総照射エネルギーの両者を制御することによって、PET等の熱に弱い材質の基材を用いた場合であっても、基材の変質等によるヘイズ値の上昇を抑制しつつ、適切な導電性を有するフィルムを製造することができる。
【0056】
とくに、パルス光の波長帯を330〜420nmの範囲となるように調整すれば、供給された光エネルギーによるPET等の基材へのダメージを確実に抑制することができる。
【0057】
また、照射する光エネルギーの総照射エネルギーを7〜10J/cm
2の範囲となるように調整すれば、基材の変質等に基づくフィルムのヘイズ値の上昇を確実に抑制することができる。
【実施例】
【0058】
本発明の透明導電フィルムの製造方法を用いて、適切な導電性を有しつつ、フィルムのヘイズ値の上昇を抑制したフィルムを製造することができることを確認した。
実験では、照射エネルギーと、フィルムの表面抵抗値の低下率(以下、抵抗低下率(%)という)の関係を確認した。また、照射エネルギーとヘイズ値(%)との関係も確認した。
なお、実験の照射エネルギーが、本明細書の総照射エネルギーに相当する。
また、本発明の透明導電フィルムの製造方法を用いて製造したフィルムは、以下、単にフィルムという。
【0059】
実験では、導電部材として、銀ナノワイヤ(平均繊維長約10〜30μm、平均繊維径約50〜70nm)を使用した。
また、基材として、PETフィルム(帝人デュポンフィルム製、型番;HF1C22)を使用した。
【0060】
実験に使用した検出器等は以下の通りである。
フィルムの表面抵抗値測定器:ナプソン株式会社製、型番;EC80
ヘイズ値測定器:スガ試験機株式会社製、型番;HZ−2(JISK7136に準拠して測定)
なお、フィルムに照射する光は、フィルタによって240nm以下の波長をカットした光および370nm以下の波長をカットした光を使用した。
【0061】
(工程)
実験では、銀ナノワイヤを少量の水に分散させた後、銀ナノワイヤの濃度が41.95質量%となるように水を加えて分散液を調製した(分散液調製工程)。この分散液を、ダイコーターに入れ、かかるダイコーターを用いて流量9ml/minでPETフィルムの表面上に塗工し、銀ナノワイヤをPETフィルム表面上に堆積させたPETフィルムを作成した(塗工工程)。そして、この銀ナノワイヤをPETフィルム表面上に堆積させたPETフィルムを風乾して、PETフィルム表面上からある程度の水を除去した(乾燥工程)。なお、PETフィルムの表面上に堆積した銀ナノワイヤを含有した膜が、特許請求の範囲の塗工膜に相当する。
ついで、所定の範囲の波長帯(240nm以下の波長をカットした波長帯、370nm以下の波長をカットした波長帯)の光を照射エネルギーを変動させながら乾燥工程を終えたPETフィルムに対して照射した(焼成工程)。
【0062】
なお、光源としては、パルス光を照射するフラッシュランプを使用した。
パルス光の照射条件は、
図2に示す。
【0063】
実験結果を
図3および
図4に示す。
図3は、照射エネルギー(J/cm
2)と抵抗低下率(%)の関係を示した実験結果であり、
図4は、照射エネルギー(J/cm
2)とヘイズ値(%)の関係を示した実験結果である。なお、抵抗低下率(%)は、(パルス光照射前の表面抵抗値(Ω/□)−パルス光照射後の表面抵抗値(Ω/□))/パルス光照射前の表面抵抗値(Ω/□)×100で求められる。
【0064】
図3に示すように、370nm以下の波長帯をカットした光では、12J/cm
2まで照射エネルギーを変化させてもフィルムの抵抗低下率(%)は0%のまま変化しなかった。
一方、240nm以下の波長帯をカットした光では、照射エネルギーを約8J/cm
2よりも大きくした場合、フィルムの抵抗低下率(%)が急激に上昇する(高くなる)ことが確認できた。
【0065】
また、
図4に示すように、370nm以下の波長帯をカットした光では、照射エネルギーを変化させてもフィルムのヘイズ値(%)が上昇するのを抑制することができることが確認できた。
一方、240nm以下の波長帯をカットした光では、照射エネルギーを約11J/cm
2よりも大きくした場合、フィルムのヘイズ値(%)が急激に上昇する(高くなる)ことが確認できた。
【0066】
したがって、フィルムに照射する光を、波長帯が240nm以上、370nm以下、照射エネルギーが7〜10J/cm
2とすることによって、フィルムの抵抗値を低くしつつ(つまり適切な導電性を発揮させつつ)、フィルムのヘイズ値(%)の上昇を抑制することができることが確認できた。
【0067】
以上の実験結果から、基材と導電部材の両者の光吸収特性に基づいてフィルムに照射する光の波長帯を適切に調整すれば、フィルムのヘイズ値の上昇を抑制ふることができることが確認された。
よって、フィルムに照射する光の波長帯と、フィルムに照射される照射エネルギー量を制御することによって、フィルムのヘイズ値の上昇を抑制しつつ、適切な導電性を有するフィルムを製造することができることが確認できた。