特開2015-126704(P2015-126704A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-126704(P2015-126704A)
(43)【公開日】2015年7月9日
(54)【発明の名称】果実酒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12G 1/00 20060101AFI20150612BHJP
   C12G 1/08 20060101ALI20150612BHJP
   C12G 3/02 20060101ALI20150612BHJP
【FI】
   C12G1/00
   C12G1/08
   C12G3/02 118
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-272796(P2013-272796)
(22)【出願日】2013年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】石崎 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 望
(72)【発明者】
【氏名】岸本 智之
(72)【発明者】
【氏名】副嶋 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】近藤 平人
(72)【発明者】
【氏名】東山 堅一
【テーマコード(参考)】
4B015
4B115
【Fターム(参考)】
4B015BA01
4B015MA04
4B115BA01
4B115MA04
(57)【要約】
【課題】
より短時間で香味に優れたおいしい果実酒を製造する方法を提供することである。
【解決手段】
前培養にて流加培養を行うこと、即ち、流加培養による酒母培養を実施し、培養終了液を本培養に用いることにより、果実酒製造が短時間で行え、かつ香味に優れた果実酒が得られる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実酒の製造方法であって、
流加培養による酒母培養工程、
得られた酒母培養菌液を発酵槽に添加して行う本発酵工程、および
酵母を除去する工程、
を含む、果実酒の製造方法。
【請求項2】
果実酒がワインである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ワインがマストワインである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
酒母培養の培養液が果汁またはマストと酵母を含む、請求項1〜3記載の方法。
【請求項5】
酒母培養の開始時の培地比重が1.00〜1.10である、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
酒母培養の途中で果汁またはマストを逐次添加する、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
酒母培養終了液の酵母の菌密度が4×10個/ml以上である、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
本発酵開始時の酵母の菌密度が1×10個/ml以上である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
酒母培養終了液の酵母の菌密度が4×10個/ml以上である酒母培養工程を含む、果実酒の製造方法。
【請求項10】
本発酵開始時の酵母の菌密度が1×10個/ml以上である、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味に優れる果実酒の効率的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実酒においては、香味が重要な評価項目の一つであり、香り高い果実酒の製造方法が検討されてきた。果実酒の香りの成分は、原料の果実、およびその他の果実果汁に由来するものもあるが、多くは発酵工程において、酵母により生成される。そのため、香気性成分を多く含ませることができる培養法の検討も行われている。
また、近年は果実酒の売り上げが伸びており、製造能力を上げる必要性があることから、製造効率を高めることができる方法が検討されている(特許文献1)。
【0003】
果実酒の製造は、主に酒母培養、本発酵、その後の果実酒調製工程を含む。酒母培養と本発酵は、いわゆる微生物培養とそれによる発酵であるが、微生物の培養は通常は培養開始前に栄養源などを含む培地に微生物を接触し、一定時間培養する回分培養により行われる。回分培養では、培養中は培地成分を追加することは行われない。
【0004】
一方、流加培養法は、培養開始用の培地を培養槽に入れ、培養を開始した後に流加培地を培養槽に加えていく培養方法である。流加培養法は、微生物増殖によって減少した培養開始用の培地の栄養分を、流加培地によって補うことができるため、回分培養と比較して微生物増殖が良いという特徴がある。また流加培養法では、得られる培養液のタンパク質濃度は回分培養と比較して高く、有用タンパク質の製造等において広く使用されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006―212024
【特許文献2】特開2011−205979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、より短時間で香味に優れた果実酒を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、酒母培養を流加培養にて行うこと、即ち、流加培養による酒母培養を実施し、酒母培養終了液を本発酵液に添加して発酵酵母として用いることにより、果実酒製造が短時間で行え、かつ香味に優れた果実酒が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、これに限定される訳ではないが以下の発明を包含する。
[1] 果実酒の製造方法であって、流加培養による酒母培養工程、得られた酒母培養菌液を発酵槽に添加して行う本発酵工程、および酵母を除去する工程、を含む、果実酒の製造方法。
[2] 果実酒がワインである、[1]記載の方法。
[3] ワインがマストワインである、[2]記載の方法。
[4] 酒母培養の培養液が果汁またはマストと酵母を含む、[1]〜[3]記載の方法。
[5] 酒母培養の開始時の培地比重が1.00〜1.10である、[1]〜[4]いずれかに記載の方法。
[6] 酒母培養の途中で果汁またはマストを逐次添加する、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 酒母培養終了液の酵母の菌密度が4×10個/ml以上である、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 本発酵開始時の酵母の菌密度が1×10個/ml以上である、[1]〜[7]いずれかに記載の方法。
[9] 酒母培養終了液の酵母の菌密度が4×10個/ml以上である酒母培養工程を含む、果実酒の製造方法。
[10] 本発酵開始時の酵母の菌密度が1×10個/ml以上である、[9]記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より短時間で香味に優れた果実酒を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明方法の一例の概略図である。
図2図2は、コントロール系および流加培養における酵母の増殖曲線を示す。
図3図3は、酒母培養中の培地の比重の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記の通り、本発明は果実酒の製造方法であって、流加培養による果実酒酵母の酒母培養工程、得られた菌液を用いた本発酵工程、その後の調製工程を含む、果実酒の製造方法である。
【0012】
本発明の果実酒の製造方法は、果実や果汁の種類に限定されるものではなく、またワインであれば、白ワイン、赤ワイン、ロゼワイン、等の製造のいずれであっても適用することができる。なお、本発明では、果実酒は、果汁から作られた醸造酒を指し、果実をニュートラルスピリッツのようなアルコールに浸漬させて作る浸漬酒は含まないとする。
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0014】
酒母培養
発酵飲料の製造において、発酵に用いられる酵母を酒母という。発酵飲料の生産を効率化するという観点においては、酒母を効率的に得ることは重要であり、果実酒製造においてもいえることである。酒母は、清酒や果実酒その他の発酵工業において、主発酵のための酵母を前培養したものであり、実際の果実酒製造においては、一般に果実酒製造に用いる果汁の一部を容器に入れ、酵母を植菌し、20〜25℃程度で数日間培養したものを酒母として用いる。または、果汁に酵母を所定量添加し、所定の条件で培養したものを酒母として用いる。
【0015】
本発明においては、一態様として酒母培養を流加培養にて行う。
【0016】
流加培養では、培地中の特定成分の濃度を任意に制御可能であるが、発酵飲料の製造においては、流加培養は用いられていない。特に、果実酒の製造においては、酒母培養を流加培養にて行うということはない。従来の果実酒の製造においては、短時間で果実酒の製造を行いたい場合は、回分培養での酒母培養を多くの菌液が得られる条件で行い、酒母培養終了液の量を増やし、発酵タンクに投入して本発酵を行っていた。この場合、酒母の液量が増加するため、製成する果実酒の香味が劣化することが多い。
【0017】
流加培養法は、培養開始用の培地を培養槽に入れ、細胞培養を開始した後に、流加培地を培養槽に注ぎ足していく培養方法である。流加培地の添加方法は、一定の流速で添加する方法、もしくは培地内の果汁量や培地のpHや酵母培養により発生したエタノール量等の状況、及び流加流速を酵母の生育などの状況に応じて変化させながら連続的に添加する方法や、流加培地を一括もしくは複数に分割して添加する方法がある。本発明では、流加培養にて酒母培養を行い、流加培養開始時の培養液比重、培養後の酵母密度等を調整することにより、酒母の液量を増加させずに、より多くの菌を本発酵液に投入することができる。
【0018】
本発明においては、酒母培養において高い菌密度の培養液が得られればよいので、必ずしも流加培養による必要はない。高い菌密度の培養液が得られるのであれば、他の方法を用いてもよい。
【0019】
酒母培養の培養液は、果実酒の製造では各種の果汁、アンモニア態窒素、酵母の増殖に有用な栄養素、および酵母を含む。
【0020】
本発明に用いることのできる酵母としては、通常のアルコール発酵性の酵母、すなわち果実酒酵母、清酒酵母および焼酎酵母などであれば特に限定されないが、本発明の方法は特に果実酒の製造に適していることから、果実酒の製造に用いられている酵母が好ましい。通常の果実酒製造に用いられる酵母としては、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)やサッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)などを挙げることができるが、これに限らない。
【0021】
サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)やサッカロミセス・バヤヌス(Saccharomyces bayanus)としては、ブドウ果皮や自然環境中から単離したものや市販されているCross Evolution、AMH、BDX、CSM、M1、M2、RP15、ZYMAFLORE X16、ZYMAFLORE VL1、ZYMAFLORE VL2などを挙げることができるが、果実酒の製造に使用できる株であれば、いずれの株も本技術に使用することができる。
【0022】
酵母の形態としては、スラント上で生育させた酵母、液体培養で生育させた酵母、乾燥酵母などが挙げられるが、酒母培養で生育可能であれば、いかなる形態でも良い。
なお、果実酒がワインの場合、酒母培養の培養液には、マストワインを含む。ここで記載するマストとは、ワインの原料であるワイン果汁を濃縮させたものを指し、マストを原料として醸造したワインをマストワインという。酒母培養においては、酵母が生育可能な条件となるよう、水でマストを希釈し、酒母培養液として使用する。酒母培養液に対して酵母を、酵母が適切な時間で良好に増殖するよう調整した量を添加して培養を行うが、例えば市販の乾燥酵母を用いる場合、当該酵母の取扱説明書に記載してある量を添加し、酒母培養を開始する。
流加培地は、酵母の増殖に必要な炭素源、窒素源、ビタミンやミネラルなどのその他の栄養素を含むが、これらの栄養素を流加培地に混合せず、粉状のまま、もしくは別途水などに混合した状態で酒母培養液に添加しても良い。炭素源、窒素源、その他の栄養素は、酵母を増殖させるものであれば、いずれでも構わない。酵母の増殖に必要な栄養素を酒母培養液や流加培地に添加しても良いが、添加する栄養素としては、リン酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウム、酵母エキスなどを挙げることができる。
マストワインの製造においてはマストなどが挙げられる。
【0023】
酒母培養液は酒母培養の開始時の培地比重を1.00〜1.10がよく、1.00〜1.07が好ましく、1.00〜1.05とするのが特に好ましい。酒母培養培地に酵母を接触後、すぐに流加培地を添加してもよく、培養経過において、比重がある一定値以下をなった時点から流加培地を逐次添加することもできる。培養途中から流加培地を添加する場合、流加培地を添加開始する時点の比重としては、例えば1.03以下であり、その値以下となったときに添加を開始する。また、適宜、1.02または1.01以下となったときに添加を開始する等、適宜決定することができる。
逐次添加する流加培地の量は、所望の菌密度に到達するよう調整できるが、酒母培養液の培養開始用の液量と同量以下が好ましい。
【0024】
酒母培養条件は、温度は酵母が増殖可能な温度であればいずれでも構わないが、通常は10〜40℃、好ましくは15〜32℃、より好ましくは20〜30℃で培養を行う。培養温度は、培養中一定に制御しても良いが、培養途中で適宜変更しても良い。酒母培養を行う期間は、通常5時間〜7日間、好ましくは5時間〜3日間、より好ましくは5時間〜2日間である。所望の菌密度や培地中の栄養成分などを、酒母培養終了の判断基準とすることができる。酒母培養を行うpHは、2〜8であればよく、無機または有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて、pHを調整することもできる。
【0025】
本発明方法においては、酒母培養終了液の酵母の菌密度が重要である。それは、回分培養で得られる菌密度以上の菌密度液を得、その液を本発酵槽に添加することが必須であり、香味のよい果実酒製造に重要だからである。例えば、流加培養終了時の菌密度は4×10個/ml以上であり、好ましくは5×10個/ml以上、さらに好ましくは5.5×10個/ml以上である。この菌密度は、回分培養で得られる菌密度よりも高い。流加培養終了時の菌密度の範囲の上限に特に制限はないが、4×10〜20×10個/ml、好ましくは5×10〜15×10個/mlである。流加培養では、回分培養での培養終了時の酵母密度に比べて1.5倍以上の酵母密度、好ましくは2倍以上の酵母密度となる。菌密度は酒母培養液を適宜希釈し、トーマ血球板など用いて計測することができる。尚、簡易的には、例えば600nmの吸光度にてモニターすることで培養中の菌数の増加を確認することができる。
【0026】
本発酵
本発酵は、発酵温度、時間、その他の発酵条件は、果実酒の通常の製造法と同様でよい。例示すれば、発酵温度は、通常4〜35℃、好ましくは8〜30℃、より好ましくは10〜28℃で制御するが、制御しなくても温度変化が好ましい範囲であれば、温度制御を行わずに発酵を行うことができる。本発酵の終了は、発酵液中のグルコース、フラクトース、シュークロースなどの糖濃度や、生成するエタノール濃度により判断することができる。簡易的には、発酵液中の糖濃度やエタノール濃度を推定できる発酵液の比重を測定するとこで、本発酵の終了を判断することができる。ここで、本発明方法によれば、発酵時間を短縮することができる。例えば、酒母培養として回分培養を行った場合での本発酵日数と比較して約10〜60%発酵期間を短縮することができる。本培養時間の短縮は、製造コスト削減につながり、製造者にとっては大きなメリットである。
【0027】
本発明では酒母培養を流加培養で行っていることから、発酵開始用の投入菌数が多いという特徴がある。本発明においては、本発酵槽への流加培養終了液の添加量は、本発酵液の単位リットル当たり、5〜100mLであり、好ましくは10〜100mLであり、より好ましくは15〜100mLである。
【0028】
発酵の終了は、通常のワインの製造の場合と同様に、発酵液中のグルコース、フラクトース、シュークロースなどの糖濃度や、生成するエタノール濃度により判断される。本発酵における菌密度は、本発酵液を適宜希釈し、トーマ血球板など用いて計測することができる。尚、簡易的には、例えば600nmの吸光度にてモニターすることで培養中の菌数の増加を確認することができる。
【0029】
発酵の終了後は、例えば遠心分離等の方法により酵母を果実酒より除去後、さらに必要な処理を施した後に製品とするか、または同ワインを樽あるいはビンに詰め、10〜20℃、湿度60〜90%で数ヵ月〜数年、熟成させた後製品とする。本発明においても、このような発酵終了後の工程については、通常のワインの製造工程と同様に実施される。
【0030】
香味評価
本発明方法により製造した果実酒の評価は、例えば官能試験にて行うことができる。評価項目としては、香り、味わい、色調などをあげることができる。
【0031】
また、香味に寄与することが知られている成分量を分析することによっても評価することができる。例えば、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、アセトアルデヒド、イソアミルアセテート、イソアミルアルコールなどの量をガスクロマトグラフィーにて分析することにより、評価することがきできる。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
<実施例1>
以下の方法にて、白ワインおよび赤ワインを調製し、5人の評価者により官能評価を実施した。
酒母培地の調製(白ワイン)
白ワイン用の酒母培地の組成は、培養開始用の培地には白ブドウマスト約170kg/1000Lで希釈した培地を用い、流加培地には白ブドウマスト約1000kg/1000Lで希釈した培地を用いた。
【0034】
培養は4Lのジャーファーメンターを用い、1.2Lの培養開始用の培養に約0.3Lの流加培地を添加して行った。尚、培養前にオートクレーブで殺菌を行った。
【0035】
酒母培地の調製(赤ワイン)
赤ワイン用の酒母培地の組成は、培養開始用の培地には赤ブドウマスト約110kg/1000Lで希釈した培地を用い、流加培地には赤ブドウマスト約1000kg/1000Lで希釈した培地を用いた。なお、培養開始用の培地、流加培地ともに窒素源や必要な栄養源を適量添加した。
【0036】
培養は4Lのジャーファーメンターを用い、1.2Lの培養開始用の培養に約0.3Lの流加培地を添加して行った。
尚、培養前にオートクレーブで殺菌を行った。
【0037】
乾燥酵母の復元(白ワイン、赤ワイン共通)
市販の乾燥酵母のサッカロマイセスセレビジエを用いた。乾燥酵母の復元は、約30℃のお湯で約30分かけて行った。
【0038】
酒母培養(白ワイン)
コントロール系として回分培養を行った。
【0039】
培養は、約25℃の温度で約28時間の通気・攪拌を行って実施した。
また、酒母培養として流加培養を行った。
培養は、約25℃の温度で約28時間の通気・攪拌を行って実施した。流加は約16時間後から28時間後まで実施した。pHの制御は、流加培地の添加と水酸化ナトリウムを添加することにより行った。
【0040】
酒母培養(赤ワイン)
コントロール系として回分培養を行った。
【0041】
培養は、約25℃の温度で約26時間の通気・攪拌を行って実施した。
また、酒母培養として流加培養を行った。
培養は、約25℃の温度で約26時間の通気・攪拌を行って実施した。流加は約16時間後から26時間後まで実施した。
【0042】
pHの制御は、流加培地の添加と水酸化ナトリウムを添加することにより行った。
【0043】
酵母の増殖曲線を図2に示す。白ワインおよび赤ワインともに、流加培養では回分培養での培養終了時の酵母密度に比べて約3倍の酵母密度であった。尚、図3は、酒母培養中の培地の比重の測定結果である。
【0044】
本発酵(白ワイン)
上記酒母培養液を150ml本発酵槽に添加した。
【0045】
本発酵培地の組成は、マストや糖分を希釈し、Brix約20に希釈した果汁を用いた。培養液量は4Lで行い、攪拌せずに嫌気条件で実施した。
【0046】
発酵時間は、酒母培養が回分培養のコントロール系に比べて酒母培養として流加培養を用いた系では約40%発酵時間が短縮された。
【0047】
本発酵(赤ワイン)
上記酒母培養液を133ml本発酵槽に添加した。
【0048】
本発酵培地の組成は、Brix約20のマストを希釈した果汁を用いた。培養液量は4Lで行い、攪拌せずに嫌気条件で実施した。
【0049】
培養時間は、酒母培養が回分培養のコントロール系に比べて、酒母培養として流加培養を用いた系では約40%発酵期間が短縮された。
【0050】
ワインの調製
発酵終了液を遠心分離しマストワインとして製成した。
【0051】
評価
調製したワインについて、経験ある5人のパネラーによる官能試験を行った。回分培養で行った通常培養条件で培養した酒母を使用して製造させたワインをコントロール品として、その評価結果を香り及び味わいについて、1から5段階評価した。コントロールよりも劣る場合は1、やや劣る場合は2、コントロールと同程度の場合は3、コントロールよるもやや優る場合は4、コントロールよりも優る場合は5とし、本発明方法にて製造したワインの評価結果を表1に記載した。
【0052】
いずれの評価者も、本発明のワイン(酒母培養を流加培養)とコントロール(酒母培養を回分培養)により得られたワインとでは、香りや味わいにおいて本発明方法品に高い評価を付ける傾向があった。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
また、製品のガスクロマトグラフィー分析は、以下の条件で行った。
分析装置:島津製作所製GC-2010
ヘッドスペースサンプラー:パーキンエルマー社製TurboMatrix HS 40
(オーブン温度:40℃、ニードル温度:180℃、トランスファー温度:180℃)
カラム:J&W社製DB-WAX(ID 0.53mm X 30m)
キャリアガス:ヘリウム(25psi)
カラム温度:40℃5分間保持後、1分間当たり20℃昇温し、140℃1分間保持
検出器:FID(水素ガス:47mL/分、空気:400mL/分、温度:200℃)
分析の結果、酒母培養を流加培養で実施した場合は、アセトアルデヒド、イソアミルアセテート、イソアミルアルコールなどの濃度が高まっていることが確認された(表3)。分析値の傾向からも、官能評価結果を裏付ける結果となった。
【0056】
【表3】
図1
図2
図3