(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-126714(P2015-126714A)
(43)【公開日】2015年7月9日
(54)【発明の名称】生物原料からの好ましい香りの回収方法
(51)【国際特許分類】
A23L 1/221 20060101AFI20150612BHJP
B01D 3/38 20060101ALI20150612BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20150612BHJP
A23L 2/64 20060101ALI20150612BHJP
A23L 1/222 20060101ALI20150612BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20150612BHJP
【FI】
A23L1/221 A
B01D3/38
A23L2/00 B
A23L2/28
A23L1/222
C11B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-273318(P2013-273318)
(22)【出願日】2013年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(72)【発明者】
【氏名】横山 明幸
(72)【発明者】
【氏名】占部 裕幸
【テーマコード(参考)】
4B017
4B047
4D076
4H059
【Fターム(参考)】
4B017LC02
4B017LE10
4B017LG02
4B017LG03
4B017LK07
4B017LP01
4B017LP14
4B047LB03
4B047LE01
4B047LF07
4B047LF09
4B047LG02
4B047LG07
4B047LG38
4B047LP01
4B047LP06
4B047LP20
4D076AA07
4D076AA15
4D076AA22
4D076BB11
4D076BC01
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4D076DA25
4D076EA02Z
4D076EA14Z
4D076EA16Z
4D076FA02
4D076FA31
4D076HA11
4D076JA03
4H059BC23
4H059CA18
4H059DA09
4H059EA35
(57)【要約】
【課題】
生物原料のフレッシュで好ましい香気成分を回収し、好ましくない香気成分の回収率を低くすることができる方法、およびその方法に用いることができる装置を提供する。
【解決手段】
従来用いられていた水蒸気蒸留法によって蒸留液を回収するだけではなく、冷却工程において凝縮されずに気体として通過した香気成分を液体中において気液接触により回収せしめることで、生物原料の好ましい香りを容易にかつ選択的に効率よく回収する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物原料の香気成分の回収方法であって、
生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入し、水蒸気を生物原料と接触させる工程、
生物原料が入れられた容器からの水蒸気を冷却する工程、および
冷却後の水蒸気および冷却により生じた液体を液体が入れられた容器に導き、香気成分を回収する工程、
を含む、前記方法。
【請求項2】
生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入する前に、容器内およびまたは容器外で、生物原料の一部または全てをアルコールまたは水に浸す工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
容器内への水蒸気投入前に、生物原料表面の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
容器内にて水蒸気を生物原料と接触させる工程において、投入された水蒸気由来の凝縮水により生物原料の表面の一部または全てが浸される、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
容器内圧力が450〜1013hpaである、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
生物原料が入れられた容器内に水蒸気を容器の下方から投入される、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
水蒸気投入速度が生物原料100gあたり0.2〜2.0ml/minである、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
香気成分回収工程での液体が、アルコール、含水アルコール、または水である、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
香気成分回収工程において気液接触により香気成分が回収される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
生物原料が果実である、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
果実が梅果実または、レモン果実である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
生物原料の香気を有する飲料の製造方法であって、
生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入し、水蒸気を生物原料と接触させる工程、
生物原料が詰められた部分からの水蒸気を冷却する工程、および
冷却後の水蒸気および冷却により生じた液体を液体が入れられた容器に導き、香気成分を回収する工程、および
得られた香気成分含有液を飲料に添加する工程、
を含む、前記方法。
【請求項13】
生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入する前に、容器内およびまたは容器外で、生物原料の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
容器内への水蒸気投入前に、生物原料表面の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
容器内にて水蒸気を生物原料と接触させる工程において、投入された水蒸気由来の凝縮水により生物原料の表面の一部または全てが浸される、請求項12〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
容器内圧力が450〜1013hpaである、請求項12〜15のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
生物原料が入れられた容器内に水蒸気を容器の下方から投入される、請求項12〜16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
水蒸気投入速度が生物原料100gあたり0.2〜2.0ml/minである、請求項12〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
香気成分回収工程での液体がアルコール、含水アルコール、または水である、請求項12〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
香気成分回収工程において気液接触により香気成分が回収される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
生物原料が果実である、請求項12〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
果実が梅果実またはレモン果実である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項12〜22のいずれか一項記載の方法により得られる飲料。
【請求項24】
生物原料の香気成分の回収装置であって、
生物原料を充填する容器と、
前記容器へ導入する水蒸気を発生させる水蒸気発生装置と、
生物原料充填容器からの水蒸気を冷却する冷却部と、冷却部において凝縮されずに通過した香気成分を含む気体を気液接触させ液体中で香気成分の回収が可能な回収容器、
を備えた前記装置。
【請求項25】
水蒸気蒸留を利用して回収した梅果実香気成分を含む飲食物であって、0.008≦フルフラールのGC面積値/ヘキサン酸エチルエステルのGC面積値≦0.039を満たす、前記飲食物。
【請求項26】
請求項11記載の方法により得られる回収液であって、回収液はフルフラールとヘキサン酸エチルエステルを含み、0.008≦フルフラールのGC面積値/ヘキサン酸エチルエステルのGC面積値≦0.039である、前記回収液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物原料の好ましい香りを選択的に回収する方法に関する。詳細には、水蒸気蒸留法を利用した植物または動物生物学的物質の好ましい香りを選択的に回収する方法に関する。また、本発明は、前記方法に用いることができる装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
生物原料に含まれる香気成分を回収する方法は種々報告されている。
【0003】
例えば、食物原料を加熱して香気成分を出させた後、香気成分をキャリアガスによって搬送し、キャリアガスとともに搬送された香気を溶解捕集液内に通過させて溶解捕集する方法が報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、コーヒー豆などの香気成分を含む原料に含まれる必要な香気成分を損なうことなく回収できる抽出方法として、水蒸気蒸留にて揮発成分を抽出する方法が知られている(例えば特許文献2)。
水蒸気蒸留は、伝統的な蒸留方法として知られおり、固体原料を網棚などに設置して原料が液体内に浸らない状態で原料表面に蒸気を吹きつけ難揮発性成分を取り出す方式(固体蒸留などとも呼ばれる)や(例えば特許文献3)、芋焼酎などの蒸留のように網棚を使用せず、原料に水蒸気を直接吹き込む方式(直接蒸留などとも呼ばれる)などがあり広く知られている。
梅酒のように、ある一定期間果実を一度ニュートラルスピリッツや焼酎等に浸漬させることにより浸漬酒を作り、その浸漬酒を、減圧蒸留させるという方法も知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−252153号公報
【特許文献2】特開2011−515号公報
【特許文献3】特開2007−12906号公報
【特許文献4】特開2006−109799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、原料に含まれる香気成分を回収する方法は種々報告されているが、生物原料の好ましい香りを選択的に回収することができる方法の開発が依然として求められている。また、本発明者らは、生物原料に特徴的な香気成分や欲しい香気成分を任意に効率的に得るためには、従来知られている蒸留方法にて、生物原料や浸漬酒の状態の条件、水蒸気の投入量や投入方法、減圧度合いや蒸留温度帯を調整するだけでは不十分であるという知見を得た。
【0007】
そこで、本発明は、生物原料から選択的に、欲しい香気成分または特徴的な香気成分をより効率的に回収することができ、かつ好ましくない香気成分は可能な限り回収されない方法を提供することを目的とする。特に、生物原料が果実の場合は、特徴的なフレッシュで好ましい香気成分を効率的に回収することができ、かつ好ましくない香気成分は可能な限り回収されない方法を提供することが出来る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、従来用いられていた水蒸気蒸留法によって香りを回収するだけではなく、蒸留工程の冷却工程において凝縮されずに気体として通過してしまった香気成分を液体が入れられた容器に導き、気液接触させることで香気成分を液体中に回収せしめることで、生物原料から選択的に、欲しい香気成分または特徴的な香気成分を容易にかつ驚くほど回収することができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
(1)生物原料からの香気成分の回収方法であって、生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入し、水蒸気を果実と接触させる工程、生物原料が入れられた容器からの水蒸気を冷却する工程、および冷却後の水蒸気および冷却により生じた液体を液体が入れられた容器に導き、香気成分を回収する工程、を含む、前記方法。
(2)生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入する前に、容器内およびまたは容器外で、生物原料の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、(1)記載の方法。
(3)容器内への水蒸気投入前に、生物原料表面の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、(2)記載の方法。
(4)容器内にて水蒸気を生物原料と接触させる工程において、投入された水蒸気由来の凝縮水により生物原料の表面の一部または全てが浸される、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)容器内圧力が450〜1013hpaである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)生物原料が入れられた容器内に水蒸気を容器の下方から投入される、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7)水蒸気投入速度が生物原料100gあたり0.2〜2.0ml/minである、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)香気成分回収工程での液体が、アルコール、含水アルコール、または水である、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)香気成分回収工程において気液接触により香気成分が回収される、(8)記載の方法。
(10)生物原料が果実である、(1)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)果実が梅果実またはレモン果実である、(10)に記載の方法。
(12)生物原料の香気を有する飲料の製造方法であって、生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入し、水蒸気を生物原料と接触させる工程、生物原料が詰められた部分からの水蒸気を冷却する工程、および冷却後の水蒸気および冷却により生じた液体を液体が入れられた容器に導き、香気成分を回収する工程、および得られた香気成分含有液を飲料に添加する工程、を含む、前記方法。
(13)生物原料が入れられた容器に水蒸気を投入する前に、容器内およびまたは容器外で、生物原料の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、(12)記載の方法。
(14)容器内への水蒸気投入前に、生物原料表面の一部または全てをアルコール、含水アルコール、または水に浸す工程を含む、(13)記載の方法。
(15)容器内にて水蒸気を生物原料と接触させる工程において、投入された水蒸気由来の凝縮水により生物原料の表面の一部または全てが浸される、(12)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16)容器内圧力が450〜1013hpaである、(12)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17)生物原料が入れられた容器内に水蒸気を容器の下方から投入される、(12)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18)水蒸気投入速度が生物原料100gあたり0.2〜2.0ml/minである、(12)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)香気成分回収工程での液体がアルコール、含水アルコール、または水である、(12)〜(18)のいずれかに記載の方法。
(20)香気成分回収工程において気液接触により香気成分が回収される、(19)記載の方法。
(21)生物原料が果実である、(12)〜(20)のいずれかに記載の方法。
(22)果実が梅果実またはレモン果実である、(21)に記載の方法。
(23)(12)〜(22)のいずれかに記載の方法により得られる飲料。
(24)生物原料の香気成分の回収装置であって、生物原料を充填する容器と、前記容器へ導入する水蒸気を発生させる水蒸気発生装置と、生物原料充填容器からの蒸気を冷却する冷却部と、冷却部において凝縮されずに通過した香気成分を含む気体を気液接触させ液体中で香気成分の回収が可能な回収容器、を備えた前記装置。
(25)水蒸気蒸留を利用して回収した生物原料香気成分を含む飲食物であって、0.008≦フルフラールのGC面積値/ヘキサン酸エチルエステルのGC面積値≦0.039を満たす、前記飲食物。
(26)(11)記載の方法により得られる回収液であって、回収液はフルフラールとヘキサン酸エチルエステルを含み、0.008≦フルフラールのGC面積値/ヘキサン酸エチルエステルのGC面積値≦0.039である、前記回収液。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いることにより、生物原料の好ましい香りを選択的に回収することができる。また、得られた回収液は、アルコール飲料を含む飲料などに添加することにより、生物原料の好ましい香味を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例で用いた系の模式図であり、生物原料が入れられた容器内に水蒸気を投入し、蒸気の冷却装置を経て、蒸留液が留出するまでの生物原料の香りを含む気体(冷却により凝縮されなかった香り成分)が回収液中に導入され、回収液中で気泡が発生し、気液接触による香りガス回収がおきている状態を示している。
【
図2】
図2は、
図1同様実施例で用いた系の模式図であり、蒸留液が留出後、蒸留液とあらかじめ香りを含む気体の回収するために張り込んだ溶液が適量な量で混和し、蒸留が終了した時点を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、生物原料の好ましい香りを選択的に回収する方法であって、詳細には水蒸気蒸留法を利用した生物原料の好ましい香りを選択的に回収する方法、およびその方法に用いる装置である。また、得られた回収液は、アルコール飲料を含む飲料などに添加することにより、生物原料の好ましい香味が付与された飲料を製造することができる。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
<香気成分回収方法>
本発明の生物原料からの香気成分の回収方法は、果実が入れられた容器に水蒸気を投入し、水蒸気と生物原料を接触させる工程と、生物原料が入れられた容器を通過した水蒸気を冷却する工程、冷却工程において凝縮されずに気体として通過してしまった香気成分を液体が入れられた容器に導き、気液接触させることで香気成分を液体中に回収せしめる工程、を含む。
【0014】
本発明においては、冷却工程において凝縮されずに気体として通過してしまった香気成分を液体が入れられた容器に導き、気液接触させることで香気成分を液体中に回収せしめる工程を含むという特徴を有する。水蒸気蒸留法によって香味成分を回収する方法は知られていたが、水蒸気蒸留法によって生じた蒸気や水分や気体までを余すことなく捕獲液体内で同時に回収を行う手法はこれまで報告されていない。
【0015】
本発明に用いる生物原料は、種類を問わずいずれであってもよい。植物原料であっても動物原料であってもよい。例を挙げれば、梅、ミカン、グレープフルーツ、レモン、キュウイ、リンゴ、桃、バナナ、ブドウ、マスカット、ストロベリー、さくらんぼ、マンゴー、メロン、スイカ、パッションフルーツ、洋ナシ、ジュニパーベリー、アンズ、カシス、クランベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アセロラなどの果実類、シソ、桜葉、など草根木皮、根菜類、野菜類、スパイス、コーヒーなどの焙煎原料、植物原料一般、さらには鳥、牛、豚、羊などの動物原料である。原料の状態は、冷凍や冷蔵や乾燥物などに制限はなく、水分量も問わない。梅の場合は、完熟梅が好ましく、梅の香りを直接嗅いだ際に、好ましいと思われる香りを非常にバランスが近い状態で回収されることから、原料自体に好ましい香りがあるものすべてに応用が可能である。
【0016】
生物原料を入れる容器は、通常蒸留釜であり、その容量は用いる生物原料の量に応じて適宜選択することができる。例えば、生物原料を500g用いる場合は蒸留釜の容量は1500〜2500ml程度がよい。容器への生物原料の充填率が高い方が、香り回収のロスが小さい。また、容器の充填率を低く、さらには容器の高さを高くして、レクチ多段分画機能などを追加することで、精留効果が効き、不要な香りをさらに除き、生物原料の好ましい香りをより選択的に回収することも可能である。
【0017】
水蒸気を投入する工程前に、あらかじめ原料をアルコール、含水アルコール、または水などに浸した状態で、水蒸気を吹き込んで蒸留を開始してもよい。少量のアルコールなどの極性溶媒を加えておくと、水蒸気が凝縮した溶液の極性が低下するため蒸留中に極性の低い香り成分の回収効率が高まることが期待される。また、アルコールなどの低沸点溶媒を加えておくことで、蒸留釜内の温度がより低下するため不要な加熱臭の生成が抑えられることが期待される。アルコールとしては、エタノール、メタノール、プロパノールを例示することができる。含水アルコールとしては含水エタノール、含水メタノール、含水プロパノールを例示することができる。好ましくは、1〜95%含水エタノール、さらに好ましくは10〜60%含水エタノールである。
【0018】
水蒸気発生装置を用いることにより、蒸留釜に蒸気を送り込むことができる。蒸留釜への水蒸気の導入は、水蒸気が生物原料を十分に接触するのであればどこから導入してもよいが、蒸留釜の下方から導入する方が好ましい。
【0019】
水蒸気の導入速度は、生物原料の量100gあたり0.2〜2.0ml/min程度が好ましい。蒸気の投入速度が速すぎても、また遅すぎても好ましい香気成分を選択的に回収することはできない。蒸気の投入速度が速すぎる場合は、蒸気と原料の接触効率が下がり香り回収率が低下する。一方、蒸気投入速度が遅すぎる場合には、蒸留液の留出速度が低下するため蒸留時間が長くなってしまい生物原料の香りの回収率は高くなるが、同時に不要な加熱臭も強くなってしまう。これらを考慮して、原料の特性に応じて適度な蒸気投入量に設定することができる。
本製法の一態様では、香りガス回収用に100mlと留液100mlが混和された時点までで回収を終了する。但し、香味品質の好みなどに応じてそれぞれの容量は適宜変更することができる。
【0020】
水蒸気を生物原料との接触工程での容器内圧力は大気圧程度か若干減圧とするのが好ましく、例えば450〜1013hpaの範囲が好ましく、600〜1000hpaの範囲がより好ましく、特に好ましくは700〜950hpaである。このような蒸気範囲とすることで、好ましい香気成分を効率的に回収することができる。減圧にするほど、不要な加熱臭を減らすことができるが、一方で蒸留釜が低温になりすぎ生物原料からの好ましい香りの抽出率が下がり、結果的に回収率が下がってしまう。
蒸留釜から冷却工程へ送られる蒸気には、水蒸気の凝縮水に生物原料が浸されながら、さらに吹き込まれた水蒸気によって凝縮水と凝縮水に浸された生物原料が加熱されることにより生じる蒸気も含まれる。
【0021】
冷却工程は、水蒸気と生物原料との接触後の蒸気を冷却し、液化させることが目的である。しかし、蒸気すべてが液化する必要はなく、一部は蒸気や気体のままで回収工程へ運ばれてもよい。
【0022】
回収工程では、上記の通り、液体が入れられた容器内に導いて成分を回収するという特徴を有する。捕集用の液体は、水、アルコール、含水アルコールが好ましい。含水アルコールとしては含水エタノール、含水メタノール、含水プロパノールを例示することができる。好ましくは、20〜90%含水エタノール、さらに好ましくは35〜70%含水エタノール、特に好ましくは、36〜45%含水エタノールである。
香りの回収は気液接触による気体溶解の原理に基づいているため、回収液はできるかぎり低温にする方がよい。ただし、低温で不要な香りまで回収してしまう場合には、あえて回収液の温度を高め、選択的に香りを回収するなどの調整をすることも可能である。また香り回収工程では気液接触効率が高まるように、気液接触面積を広くする方策として、バブリングの泡サイズを小さくする、気液接触コンダクターを使用する、または溶液中を攪拌するなどの改善によって香り成分の回収の効率化が期待できる。
【0023】
回収される液には、好ましい香気成分が効率的かつ選択的に回収されており、不快な成分量は非常に低い。例えば梅を用いた場合には、ヘキサン酸エチルエステルなどの果実香成分が多く回収され、加熱劣化臭の原因成分であるフルフラール量は少ない。また、レモン果実を用いた場合はリモネンなどの果実成分が多く回収され、青臭い不要な香りが少ない。例えば、本発明の香気成分回収方法によれば、梅果実を原料として用いた場合にはフルフラールとヘキサン酸エチルエステルを含み、0.008≦フルフラールのGC面積値/ヘキサン酸エチルエステルのGC面積値≦0.039の回収液が得られる(尚、本面積値は、MS条件として四重極設定値:150、イオン源設定値:230、面積値算出条件としてトータルイオンモード、質量(LOW):35、質量(HIGH):550での分析結果に基づく)。
【0024】
本願明細書の実施例では、蒸留機として固体原料を搭載できる網棚、もしくは籠が設置されたものを用いていないが、水蒸気蒸留と香りの回収工程の組み合わせが技術ポイントであるため、水蒸気蒸留の詳細な方式に制限はなく、必要に応じて網棚や籠を使用してもよい。さらに言えば、水蒸気蒸留のように原料に直接加熱するだけでなく、ウイスキーなどのように蒸留釜の外部から、あるいは蒸留釜の内部に壁を隔てて間接的に加熱する方式の蒸留に、香りの回収工程を組み合わせることも有効である。
<香味の評価方法>
香味は、官能評価により確認することができる。一例をあげれば、訓練された複数名の専門パネラーにより、非常に好ましい7点、好ましい6点、やや好ましい5点、どちらでもない4点、やや好ましくない3点、好ましくない2点、非常に好ましくない1点の7点評価法で評価することができる。
【0025】
また、回収液の成分をガスクロマトグラフィーを用いて分析することができる。例えば、梅を果実として用いる場合、ヘキサン酸エチルエステルが果実香として知られており、その量を定量することにより香気の指標となる。また、マイナスの成分としては、加熱劣化臭として知られるフルフラール量を定量することにより、マイナス評価を与える成分量の香気の指標となる。また、レモンを用いた場合はリモネンが果実成分として知られており、その量を定量することにより香気の指標となる。
<飲料の製造方法>
上記方法により得られた液は好ましい香気成分を多く含み、かつ好ましくない成分が少ないことから、飲料に添加することにより、香味に優れた飲料を製造することができる。
【0026】
飲料は、ノンアルコール飲料であってもアルコール飲料でもよい。例示すれば、果汁飲料、豆乳、乳飲料、加工乳、コーヒー飲料、ココア飲料、茶飲料、炭酸飲料、機能性飲料、スポーツ飲料、栄養ドリンク、ゼリー飲料、ビール、ワイン、チューハイ、リキュール、清酒、焼酎、ウイスキー、ブランデー、スープなどがある。また、本発明は、飲料に限らずゼリーなど食品すべてにおいて香味強化などの目的で使用も可能である。
【0027】
水蒸気蒸留を利用して回収した梅果実香気成分を含む飲食物としては、フルフラールとヘキサン酸エチルエステルを含み、0.008≦フルフラールのGC面積値/ヘキサン酸エチルエステルのGC面積値≦0.039を満たすものを調製することができる(尚、本面積値は、MS条件として四重極設定値:150、イオン源設定値:230、面積値算出条件としてトータルイオンモード、質量(LOW):35、質量(HIGH):550での分析結果に基づく)。
<香味成分回収装置>
本発明は、本発明方法に用いることができる装置にも関する。本発明装置は生物原料の香気成分の回収装置であって、生物原料を充填する容器と、前記容器へ導入する水蒸気を発生させる水蒸気発生装置と、生物原料充填容器を通過した水蒸気、あるいは生物原料充填容器内で発生した蒸気を冷却する冷却部と、冷却部において凝縮されずに通過した香気成分を含む気体を気液接触させ液体中で香気成分の回収が可能な回収容器、を備えた前記装置である。
【0028】
生物原料を充填する容器は、所定量の生物原料を入れ込める容量であり、減圧に耐えられる容器である。本発明方法では、水蒸気蒸留を行うため、本発明装置には水蒸気発生装置を有する。水蒸気発生装置で生じた水蒸気は、蒸気容器内に挿入される。さらに前記容器から出てきた蒸気を冷却する冷却部を有する。冷却部にて、生物原料が詰められた部分を通過した水蒸気、あるいは生物原料と凝縮水が加熱されて発生した蒸気が冷却され、液化させる。しかし、蒸気すべてが液化する必要はなく、一部は蒸気あるいは気体のままで回収容器へ運ばれてもよい。
【0029】
回収容器には、捕集用の液体を入れる。捕集用液体は、水、アルコール、含水アルコールが好ましい。含水アルコールとしては含水エタノール、含水メタノール、含水プロパノールを例示することができる。好ましくは、20〜90%含水エタノール、さらに好ましくは35〜45%含水エタノールである。回収される液には、好ましい香気成分が効率的かつ選択的に回収されており、不快な成分量は非常に低い。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例
冷却機温度および水蒸気発生装置の条件が整った後に、蒸留釜有効容量2000mlの蒸留釜に、試料No.1〜No.11では、果実(南高完熟梅)(冷凍)500gを張り込み、試料No.12,13では果実(レモン皮)(冷凍)を500gを張り込み、同時に、蒸留液受け容器に香り回収用スピリッツを張り込んだ。
【0031】
その後、蒸留釜・蒸留液受け容器などすべての系内を減圧状態にした。この際に、蒸留液受け容器側で気液接触工程(バブリング)が行われ、気体中に含まれる香りの回収が始まる。減圧度を条件に記載の強度に整えた後、下に記載の条件の速度で水蒸気を投入した(
図1参照)。蒸留釜内の温度が水蒸気の温度と同等程度になるまでの間は蒸留液は得られず、香りを含む気体が冷却工程を凝縮されずに通過し、蒸留液受け容器内に張り込んである含水エタノールまたは水中に気液接触されることにより回収された。また、その後、蒸留釜内の温度が水蒸気の温度と同等になった時点で蒸留液が得られた。蒸留液が100ml得られた時点で蒸留を停止し、蒸留液100mlとあらかじめ張り込んでおいた含水エタノールまたは水100mlが混和された状態の溶液を得た(
図2参照)。この混和された溶液を試料として、官能評価および香気気分分析に供した。香り回収を実施しない試料No.1については、蒸留液100mlとアルコール度数40度の含水エタノール100mlで希釈して試料No.2〜11のサンプルと官能評価および成分分析により比較した。試料No.12については、水100mlで希釈し試料No.13と比較した。
【0032】
上記の手順を、容器内圧力、蒸気投入速度、および回収用の含水エタノールのアルコール濃度を、表1の試料No.1〜13として記載の条件にて実施した。試料No.1、およびNo.12は、回収用に液体中に導入せず、バブリングを行っていない系である。No.11は蒸留前に容器内に浸漬用30%エタノール水溶液を加えて、浸漬を実施した上で蒸留を開始した。
〔蒸留条件〕
容器内圧力設定値 1,013(常圧状態のことを指す)、900、600、300、0hpa
水蒸気投入速度 0.2、0.5、2.0ml/min(果実100gあたり)
冷却機温度 10℃
蒸留液回収量 100ml
〔気液接触による香り回収用溶液〕
スピリッツ(ニュートラル)
張込量 100ml
アルコール度数 36、40、45度
〔官能評価条件〕
得られた試料について専門パネラーが官能評価を実施した。
【0033】
評価方法は、点数方式によって行い、以下の基準において評価を行った。
【0034】
非常に好ましい 7点
好ましい 6点
やや好ましい 5点
どちらでもない 4点
やや好ましくない 3点
好ましくない 2点
非常に好ましくない 1点
〔香気成分分析条件〕
・分析装置
ガスクロマトグラフィー(Agilent社製GC−MSD)
・GCオーブン温度条件
40℃(5分)− 6℃/min − 240℃
・MS条件
四重極設定値:150 イオン源設定値:230
面積値算出条件
トータルイオンモード 質量(LOW):35 質量(HIGH):550
・カラム
DB−WAXETR 60m 内径320μm 膜厚:0.25μm
・試料前処理条件
試料80μlと内部標準物質(デカン酸メチルエステル20ppmアルコール水溶液)20μlを20mlスクリューキャップバイアル瓶中で混合
・ダイナミックヘッドスペース条件
装置:ゲステル社MPS
吸着剤:TENAX
試料気化温度:80℃
試料気化用ガス供給量:3000ml
試料気化用ガス供給速度 100ml/min
試料気化用ガス種類 窒素
・ピーク保持時間
果実香成分および加熱劣化香は、MSの解析によって成分の同定を行った。
【0035】
【表1】
【0036】
官能評価および香気成分分析結果を総合的に判断すると、冷却工程において凝縮されずに気体として通過してしまった香気成分を液体が入れられた容器に導き、気液接触させることで香気成分を液体中に回収せしめる工程を追加していない試料No.1は低い評価であったのに比べ、気液接触させることで香気成分を液体中に回収せしめる工程を追加した試料は良い評価を示した。
【0037】
さらに、回収用のアルコールの濃度は、36%よりも40〜45%アルコールの方が良好な評価であった。
【0038】
水蒸気を果実との接触工程での容器内圧力は、大気圧程度か若干減圧とした系がよい評価であった。
【0039】
さらに水蒸気投入速度は果実100gあたり0.2〜2.0ml/minの範囲で特に0.5ml/minにおいて非常に良い評価が得られた。
【0040】
水蒸気投入前に30%エタノール水溶液に浸たした状態で、水蒸気を投入した場合は、官能評価点が7点で他の7点ものと同様に非常によい評価が得られた。
【0041】
梅果実をレモン果実に置き換えた試料No.12と13についても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の方法を用いることにより、生物原料の好ましい香りを選択的に回収することができる。また、得られた回収液は、アルコール飲料を含む飲料などに添加することにより、生物原料の好ましい香味を付与することができる。