特開2015-127106(P2015-127106A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化成品工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開2015127106-積層発泡シート、及び、樹脂成形品 図000005
  • 特開2015127106-積層発泡シート、及び、樹脂成形品 図000006
  • 特開2015127106-積層発泡シート、及び、樹脂成形品 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-127106(P2015-127106A)
(43)【公開日】2015年7月9日
(54)【発明の名称】積層発泡シート、及び、樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20150612BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20150612BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20150612BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20150612BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20150612BHJP
   C08J 9/14 20060101ALI20150612BHJP
   C08J 9/22 20060101ALI20150612BHJP
【FI】
   B32B27/30 B
   B32B27/18 Z
   B29C51/14
   B65D1/00 B
   B65D65/40 D
   C08J9/14CET
   C08J9/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-272674(P2013-272674)
(22)【出願日】2013年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】青木 健一郎
【テーマコード(参考)】
3E033
3E086
4F074
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
3E033AA08
3E033BA22
3E033BB08
3E033CA20
3E033DA08
3E033DB01
3E033DD05
3E033FA01
3E033FA04
3E033FA10
3E033GA03
3E086AA21
3E086AB01
3E086AD06
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA16
3E086BB90
3E086CA01
4F074AA32
4F074BA37
4F074BA38
4F074CA25
4F074CC04Y
4F074CC32Y
4F074CC46Y
4F074CE02
4F074CE48
4F074CE98
4F074DA02
4F074DA34
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA01A
4F100EH23B
4F100EJ42
4F100GB16
4F208AA13
4F208AB02
4F208AC03A
4F208AG03
4F208AG20
4F208MA05
4F208MB01
4F208MG05
4F208MG13
(57)【要約】
【課題】熱成形において外観不良の発生し難い積層発泡シートを提供し、高品質な樹脂成形品を提供すること。
【解決手段】
スチレンダイマー及びスチレントリマーの合計含有量が2000ppm以下で、炭化水素系の発泡剤を発泡層と非発泡層とにそれぞれ所定量含有した積層発泡シートの前記非発泡層を所定の熱溶融特性を有するゴム変性ポリスチレン系樹脂で形成させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系の発泡剤の存在下においてポリスチレン系樹脂を押出機内で溶融混練し、該溶融混練された混練物を押出発泡させて前記発泡剤が残存しているポリスチレン系樹脂発泡シートを作製する発泡シート作製工程、及び、加熱溶融させたポリスチレン系樹脂で前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面をラミネートする積層工程、が実施されてなり、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡層と該ポリスチレン系樹脂発泡シートに前記ラミネートした前記ポリスチレン系樹脂からなる非発泡層とを備え、スチレンダイマー及びスチレントリマーの合計含有量が2000ppm以下の積層発泡シートであって、
前記非発泡層を形成する前記ポリスチレン系樹脂は、一軸伸長粘度測定における130℃での最大伸長粘度が1.0×109ポイズ以上9.5×109ポイズ以下の値を示し、且つ歪硬化指数が1.0以上3.0以下の値を示すゴム変性ポリスチレン系樹脂であり、
前記積層工程後に前記非発泡層側から加熱する加熱処理工程が実施されることによって前記発泡層から前記非発泡層へと前記発泡剤が移行されて前記非発泡層に前記発泡剤が0.02質量%以上0.2質量%以下の割合で含有され、且つ前記発泡層に前記発泡剤が1.0質量%以上3.5質量%以下の割合で含有されている積層発泡シート。
【請求項2】
厚みが0.5mm以上4.0mm以下であるとともに、坪量が200g/m2以上800g/m2以下である請求項1に記載の積層発泡シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層発泡シートが熱成形されてなる樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層発泡シート、及び、樹脂成形品に関し、特には、ポリスチレン系樹脂によって形成された発泡層と非発泡層とを有する積層発泡シート、及び、該積層発泡シートを熱成形してなる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性樹脂からなる原料シートを予備加熱して軟化させる予備加熱工程と、該予備加熱された前記原料シートに成形型を使って製品形状を形成させる成形工程とを実施して食品トレーなどの樹脂成形品を熱成形する方法が、簡便な方法で効率良く樹脂成形品を製造できることから広く行われている。
特に、ポリスチレン系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう)、或いは、ポリスチレン系樹脂発泡シートに非発泡なポリスチレン系樹脂フィルムを積層して該ポリスチレン系樹脂フィルムからなる非発泡層と前記ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡層とを有する積層発泡シートを前記原料シートとして発泡状態の樹脂成形品(発泡成形品)を熱成形する方法は、食品容器の製造方法として広く採用されている。
【0003】
この種の発泡状態の樹脂成形品を作製するための前記熱成形は、真空成形、圧空成形、真空圧空成形、マッチモールド成形、プレス成形などと呼ばれる方法により実施されており、当該熱成形では、軟化させた発泡シートや積層発泡シートに対して瞬時に製品形状が付与される。
このように前記熱成形では、歪速度が比較的早い成形加工が行われるため、均一な厚みでシワなどのない美麗な外観を有する成形品を作製することが難しい場合がある。
例えば、丼容器やカップ容器などの即席麺用の容器は、原料シートに比較的深い絞り加工が短時間になされることになるため、熱成形に際して発泡シートや積層発泡シートの延伸ムラを原因とした外観不良を生じる場合がある。
この外観不良の具体例としては、例えば、容器の外表面側が非発泡層となるように積層発泡シートを熱成形した場合に容器外表面側に現れる波線状の光沢ムラが挙げられる。
この波線状のムラは「チルマーク」などとも称され、樹脂成形品の美観を損なうおそれがあることから、その対策が求められている。
【0004】
ところで、ポリスチレン系樹脂には、重合残渣たるスチレンのダイマーやトリマーといったオリゴマー成分がある程度含まれており、即席麺などの食品用の容器においては、これらの含有量が低いことが求められている。
しかし、低オリゴマーグレードのポリスチレン系樹脂は、スチレンのダイマーやトリマーなどによる可塑化効果を期待することが難しいため、軟化点近傍における易変形性という点において一般的なポリスチレン系樹脂に比べて劣る傾向があり、深絞り容器を形成するための発泡シートや積層発泡シートの形成材料として採用すると前記のような問題が生じ易くなる。
即ち、積層発泡シートの発泡層や非発泡層を低オリゴマーグレードのポリスチレン系樹脂で形成させようとすると前記のような光沢ムラを生じさせ易くなる。
【0005】
このような点に鑑み、従来、この種の用途に供される積層発泡シートの原材料として、熱溶融時において歪スピードに応じて変形に抗する応力が高くなる「歪硬化性」と呼ばれる性質を備えたポリスチレン系樹脂を採用することが検討されている(下記特許文献1参照)。
この歪硬化性に優れたポリスチレン系樹脂は、熱成形に際して延伸ムラを抑制する機能を発揮することから深絞り容器を形成するための積層発泡シートの形成材料として優れているといえる。
ただし、下記特許文献1の実施例(表2〜表4)にも示されているように、歪硬化性に優れたポリプロピレン系樹脂であっても、最大伸張粘度が過度に高いもの(表2の「樹脂F」等)は、熱成形において亀裂やシワなどの外観不良を発生させ易いものとなる。
即ち、従来の積層発泡シートは、熱成形における外観不良の抑制が不十分な状況となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記要望を満足させるべくなされたもので、熱成形における外観不良が発生し難い積層発泡シートを提供し、ひいては、高品質な樹脂成形品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、特定の製造方法で積層発泡シートを製造することで、発泡層から非発泡層へと発泡剤を移行させることができ、該発泡剤によって非発泡層に可塑化効果が発揮され得ることを見出して本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
即ち、上記課題を解決するための積層発泡シートに係る本発明は、炭化水素系の発泡剤の存在下においてポリスチレン系樹脂を押出機内で溶融混練し、該溶融混練された混練物を押出発泡させて前記発泡剤が残存しているポリスチレン系樹脂発泡シートを作製する発泡シート作製工程、及び、加熱溶融させたポリスチレン系樹脂で前記ポリスチレン系樹脂発泡シートの少なくとも片面をラミネートする積層工程、が実施されてなり、前記ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡層と該ポリスチレン系樹脂発泡シートに前記ラミネートした前記ポリスチレン系樹脂からなる非発泡層とを備え、スチレンダイマー及びスチレントリマーの合計含有量が2000ppm以下の積層発泡シートであって、前記非発泡層を形成する前記ポリスチレン系樹脂は、一軸伸長粘度測定における130℃での最大伸長粘度が1.0×109ポイズ以上9.5×109ポイズ以下の値を示し、且つ歪硬化指数が1.0以上3.0以下の値を示すゴム変性ポリスチレン系樹脂であり、前記積層工程後に前記非発泡層側から加熱する加熱処理工程が実施されることによって前記発泡層から前記非発泡層へと前記発泡剤が移行されて前記非発泡層に前記発泡剤が0.02質量%以上0.2質量%以下の割合で含有され、且つ前記発泡層に前記発泡剤が1.0質量%以上3.5質量%以下の割合で含有されていることを特徴としている。
【0010】
また、上記課題を解決するための樹脂成形品に係る本発明は、上記のような積層発泡シートが熱成形されてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、ポリスチレン系樹脂を可塑化させる効果を有する炭化水素系の発泡剤が積層発泡シートの非発泡層に含有されることになる。
そして、従来の積層発泡シートであれば熱成形に際して亀裂やシワの発生するおそれのあるレベルにまで高い最大伸張粘度を有するポリスチレン系樹脂を非発泡層の形成に利用した場合でも、本発明によれば、前記発泡層から移行された発泡剤によって非発泡層に可塑化効果が発揮されることから、熱成形における亀裂やシワの発生が抑制され得る。
即ち、本発明によれば高品質な樹脂成形品が積層発泡シートを用いた熱成形という簡便な方法によって得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態の積層発泡シートの断面構造を示した概略断面図。
図2】一実施形態の樹脂成形品(丼容器)の一部を切り欠いて断面の様子を示した概略正面図。
図3】実施例において作製した樹脂成形品(丼容器)の(a)正面から見た縦断面図、及び、(b)平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、図を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る積層発泡シートの断面構造を概略的に示した図であり、図にも示されているように、本実施形態の積層発泡シート10は、発泡層11と非発泡層12との2層構造を有している。
また、図2は、前記積層発泡シートを熱成形してなる樹脂成形品たる丼容器を概略的に示した図であり、図にも示されているように、本実施形態の丼容器100は、前記非発泡層12が容器外側となるように前記積層発泡シート10が熱成形されたものである。
【0014】
本実施形態に係る丼容器100は、前記積層発泡シート10からなる原料シートが熱成形されたものであり、該熱成形において、前記原料シートを予備加熱して軟化させる予備加熱工程と、該予備加熱された前記原料シートに成形型を使って製品形状を形成させる成形工程とが実施されて形成されたものである。
より詳しくは、本実施形態に係る丼容器100は、上部開口を有し、接地部となる底面部110と、該底面部110の外縁からやや外広がりに立ち上がる周側壁部120と、該周側壁部120の上端から外方に水平に伸びる鍔部130とを有し、外表面12’が前記非発泡層12によって形成され、内表面11’が前記発泡層11によって形成されている。
【0015】
なお、本実施形態に係る積層発泡シート10は、スチレンダイマー含有量とスチレントリマー含有量との合計が2000ppm以下で、前記発泡層11と前記非発泡層12とのそれぞれに炭化水素系の発泡剤が含有されている。
【0016】
前記積層発泡シート10は、オリゴマー溶出量の低い丼容器100を作製すべく、スチレンダイマー及びスチレントリマーの含有量が上記のように規定されている。
この積層発泡シート10に含まれるスチレンダイマー及びスチレントリマーの含有量は、例えば、以下のようにして求めることができる。
【0017】
<スチレンダイマー、スチレントリマーの測定>
積層発泡シートにおける発泡層と非発泡層との質量割合が保たれるようにして、積層発泡シートから約0.2gの試料を採取し、メチルエチルケトン10mlに溶解し、メタノール35ml中に滴下して再沈殿させ、約1時間攪拌する。
次に、上記再沈殿液をNo.5A濾紙で50mlメスフラスコに濾過し、メタノールで50mlに定溶する。
次に、2mlメスフラスコに内部標準液ピレン10μl(1000ppmメタノール液)を入れ、50mlメスフラスコ中のメタノール溶液で2mlに定溶し試料溶液を作製する。
次に、この試料溶液を用いて、下記の条件で GC/MS測定を行う。
そして得られたクロマトグラムのうちスチレンダイマーのピーク3本、およびスチレントリマーのピーク5本のピーク面積を、内部標準物質であるピレンのピーク面積に対する相対感度として予め作成したスチレンオリゴマーの検量線により定量する。
ダイマー、トリマーの検量線作成は関東化学社製の標準物質を用いて行う。
【0018】
(GC/MS測定条件)
装置:島津製作所社製 ガスクロマトグラフ質量分析計 QP5050A(GC=GC−17A)
カラム:ZB−5MS(Phenomenex社製、0.25μm×0.25mmφ×30m)
GCオーブン昇温条件:初期温度100℃(1分)
第1段階昇温速度10℃/分(190℃まで−2.5分保持)
第2段階昇温速度10℃/分(300℃まで)
最終温度 300℃(2.5分)
注入口温度:240℃
検出器温度:260℃
検出器:1.25kV
キャリアガス:ヘリウム
全流量:15.3mL/分
カラム流量:1.0mL/分
キャリアガス圧力:75kPa
試験液注入量:2μl(オートサンプラー使用)
スプリット比:1/12
【0019】
このようにして得られたスチレンダイマー、スチレントリマーの合計量からポリスチレン系樹脂中の合計含有量(単位:ppm)を算出することができる。
【0020】
該積層発泡シート10は、炭化水素系の発泡剤の存在下、ポリスチレン系樹脂を押出機内で溶融混練し、この溶融混練物を押出発泡させることによって作製された発泡シートの表面に、フラットダイなどからフィルム状に押出された加熱溶融状態のポリスチレン系樹脂がラミネートされて形成されたもので、前記発泡シートによって発泡層11が形成され、前記ラミネートされたポリスチレン系樹脂によって非発泡層12が形成されている。
【0021】
この積層発泡シート10には、前記のように発泡層11だけでなく非発泡層12にも発泡剤(炭化水素)を含有させており、該非発泡層12に含有させた発泡剤によって熱成形における優れた成形性が発揮されるものである。
具体的には、当該熱成形用積層発泡シート10は、前記非発泡層12に前記発泡剤が0.02質量%以上0.2質量%以下の割合で含有され、且つ前記発泡層11に前記発泡剤が1.0質量%以上3.5質量%以下の割合で含有されることによって優れた成形性が備えられている。
【0022】
前記非発泡層12における発泡剤の含有量は、過度に少ないとその可塑化効果が積層発泡シート10の成形性の改善効果に顕在化されないおそれがあり、逆に、過剰に含有されると熱成形時において非発泡層12を発泡させてしまい、表面強度や表面平滑性といった樹脂成形品において期待される非発泡層12の効果を低下させてしまうおそれを有する。
従って、本実施形態においては、当該発泡剤による積層発泡シート10の成形性の改善効果を顕著化させるとともに樹脂成形品において非発泡層12の効果を十分に発揮させ得る点において前記非発泡層12における発泡剤の含有量を0.02質量%以上0.2質量%以下の範囲内としている。
【0023】
前記発泡層11は、発泡剤の種類や、発泡層の発泡倍率や連続気泡率、該発泡層を構成するポリスチレン系樹脂の種類や該ポリスチレン系樹脂の熱機械特性などにもよるが、発泡剤の含有量が過度に少ないと熱成形での二次発泡性に問題を生じさせるおそれを有し、逆に、過剰に発泡剤が含有されていると熱成形時において非発泡層12との間に界面剥離を生じさせ、非発泡層12の局所膨化を発生させるおそれを有する。
従って、本実施形態においては、熱成形によって高品質な樹脂成形品をより確実に形成させ得るべく前記発泡層11における発泡剤の含有量を1.0質量%以上3.5質量%以下の範囲内としている。
【0024】
本実施形態における前記発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、イソヘプタン、シクロヘプタンなどの炭化水素を1種単独、又は、2種以上を組み合わせて採用することができ、なかでも、ノルマルブタンとイソブタンとの混合ブタンを採用することが好ましい。
【0025】
なお、積層発泡シート10の発泡層11と非発泡層12とのそれぞれに含まれている発泡剤の量は、以下のようにして求めることができる。
【0026】
<発泡剤含有量の測定>
積層発泡シートが厚み方向に分割されるように、積層発泡シートを非発泡層側から0.1mm厚みでスライスし、該スライスにより得られた非発泡層試料における発泡剤含有量を下記により評価する。

具体的には、試料(発泡層、非発泡層)10〜20mgを20ml専用ガラスバイアルに精秤密封し、パーキンスエルマー社製ヘッドスペースサンプラー「TurboMatrixHS40」にセットし、160℃で30分間加熱後、パーキンスエルマー社製ガスクロマトグラフ「Clarus500GC」(検出器:FID)を用いて定量する。
そして、この定量結果により、発泡層、非発泡層のそれぞれにおける発泡剤残存量を求めることができる。
なお、ヘッドスペースサンプラーにおける測定条件は、ニードル温度160℃、試料導入時間0.08分、トランスファーライン温度160℃、ガスクロマトグラフにおける測定条件は、カラムをJ&W社製DB−1(0.25mmφ×60m、膜厚1μm、カラム温度:50℃で6分間、40℃/分で250℃まで昇温、250℃で1.5分間)、キャリアガスをヘリウム(導入条件:18psiで10分間、0.5psi/分で24psiまで増量)、注入口温度(200℃)とすることができる。
【0027】
本実施形態においては、前記非発泡層12を、ゴム変性ポリスチレン系樹脂を用いて構成させることが重要である。
該ゴム変性ポリスチレン系樹脂は、分子自身を変性したものであってもバルクの状態で変性されたものであってもよく、例えば、スチレン系モノマーの1種以上とゴム成分モノマーの1種以上との共重合体や、ポリスチレン系樹脂の1種以上とゴムの1種以上とのブレンド品であってもよい。
このゴム変性ポリスチレン系樹脂としては、例えば、いわゆる耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)や、当該耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)と汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)などと呼ばれるスチレンホモポリマーとの混合樹脂などが挙げられる。
ゴム変性ポリスチレン系樹脂としてHIPSとGPPSとの混合樹脂を採用する場合には、非発泡層に対する耐衝撃性付与の観点から前記混合樹脂中にHIPSを40質量%以上含有させることが好ましい。
【0028】
なお、前記非発泡層12は、積層発泡シート10を熱成形して得られる丼容器100を外観良好なものとすべく、一軸伸長粘度測定における130℃での最大伸長粘度が1.0×109ポイズ以上9.5×109ポイズ以下の値を示し、且つ歪硬化指数が1.0以上3.0以下の値を示すゴム変性ポリスチレン系樹脂を用いて構成させることが重要である。
本実施形態において、非発泡層12を上記のような「最大伸長粘度」を有するゴム変性ポリスチレン系樹脂により形成させることが重要であるのは、ゴム変性ポリスチレン系樹脂の最大伸長粘度の値が、上記範囲の下限値未満の場合には製造時に積層発泡シートに対して適度な延伸を加えることが難しくなり、その結果として、熱成形に際して積層発泡シートの垂れ下がりを生じるおそれがあるためである。
なお、熱成形に際して積層発泡シートの垂れ下がりを生じるとプレス成形前に積層発泡シートが成形型に触れてしまい、外観良好な成形品を得ることができなくなるおそれがある。
また、非発泡層12の最大伸長粘度が上記範囲の上限値を超える場合には熱成形時において非発泡層の伸びが不足するおそれがあり、樹脂成形品に“ナキ”などと呼ばれる内部割れを発生させるおそれを有する。
即ち、前記最大伸長粘度は、外観良好な樹脂成形品を得る上において上記範囲内であることが重要である。
【0029】
また、本実施形態において、非発泡層12を上記のような「歪硬化指数」を有するゴム変性ポリスチレン系樹脂により形成させることが重要であるのは、ゴム変性ポリスチレン系樹脂の歪硬化指数の値が、上記範囲の下限値未満の場合には製造時に積層発泡シートに対して適度な延伸を加えることが難しくなり、その結果として、熱成形に際して積層発泡シートの垂れ下がりを生じるおそれがあるためである。
また、非発泡層12の歪硬化指数が上記範囲の上限値を超える場合には熱成形時において非発泡層の伸びが不足するおそれがあり、樹脂成形品に“チルマーク”などと呼ばれる成形ムラを発生させるおそれを有する。
即ち、前記歪硬化指数は、外観良好な樹脂成形品を得る上において上記範囲内であることが重要である。
【0030】
非発泡層12の形成に用いるゴム変性ポリスチレン系樹脂の一軸伸長粘度は、以下のようにして求めることができる。
【0031】
<一軸伸長粘度の測定>
(試料の調整)
ゴム変性ポリスチレン系樹脂を5〜6g天秤で計り取り、この計り取ったゴム変性ポリスチレン系樹脂をポリテトラフロロエチレンシートの間に挟んで下記条件でプレスする。

プレス機:東洋精機社製 小型熱プレス装置 商品名「ラボプレス10T」
温度:上ヒーター180℃、下ヒーター180℃
プレス圧力:低圧0.54MPa、高圧15.5MPa
プレス工程:低圧で3分間 加熱状態でプレス→低圧で5回プレス(2秒間アップ、2秒間ダウンを繰り返して5回)→高圧で2分間 加熱状態でプレス
【0032】
(一軸伸長粘度の測定)
ゴム変性ポリスチレン系樹脂に対する一軸伸長粘度の測定は以下の条件で実施することができる。

測定装置:粘弾性測定装置「PHYSICA MCR301」(Anton Paar社製)
測定モード:オシレーション測定(温度依存性)
測定条件: 周波数(1Hz) 歪み0.1sec-1
温度条件:130℃一定
試験数:2
ジオメトリー:パラレルプレートφ25mm、GAP2.0mm(オートコンプレッション)
雰囲気ガス:窒素
試験片作成: プレート化190℃ 厚み3mm 径25mmプレート

試験手順:試料をプレート上(測定温度)で予熱5分後、GAP2.0mmにし樹脂をかきとり、測定温度に達してから5分後に測定開始する。
【0033】
なお、ポリスチレン系樹脂が歪硬化性を示す試料の場合には、一軸伸長粘度測定において計測される伸長粘度と時間についての両対数グラフ上で歪硬化が現れ伸長粘度の急激な上昇を示し、最終的に試料の破断が認められる付近で最大伸長粘度を示す。
また、 歪硬化性を示さない試料の場合には、伸長粘度と時間についての両対数グラフ上で伸長粘度のピークを形成した後、なだらかに減少するため該ピークの頂点の値 が最大伸長粘度となる。
ここで、歪硬化性を示す試料の場合には、最大伸長粘度を示す直前以外にも伸長粘度の上昇挙動が観察される場合があるが、最大伸長粘度を示す際の伸長粘度の上昇挙動は、通常、2.0×100〜1.0×102秒の範囲で観測される。
そして、前記歪硬化指数は、通常、前記範囲で前記両対数グラフが最大伸長粘度を示す前に直線状となっている領域を直線近似し、得られた近似直線を歪硬化が現れて伸長粘度が急激に上昇している領域にまで延長し、前記最大伸長粘度を示した時間における前記近似直線の伸長粘度の値を求め、前記最大伸長粘度の値を前記近似直線の伸長粘度の値で割った値として求めることができる。
従って、最大伸長粘度の値と該最大伸長粘度を示す時間における上記近似直線の伸長粘度の値とが同じ場合は、歪硬化が認められないと判断でき、歪硬化指数は1となる。
【0034】
なお、発泡層11の形成に用いるポリスチレン系樹脂は、前記非発泡層12と同じポリスチレン系樹脂によって形成させても良く、異なるポリスチレン系樹脂によって形成させてもよい。
【0035】
また、前記発泡層11は、それぞれ単独種類のポリスチレン系樹脂によって形成させる必要はなく、ポリスチレン系樹脂の複数を混合した混合樹脂やポリスチレン系樹脂の1種以上をベース樹脂とし、これにポリスチレン系樹脂以外の他の樹脂を混合した混合樹脂を用いて形成させてもよい。
【0036】
該ポリスチレン系樹脂としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、i−プロピルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体の単独重合体、若しくは、これらの共重合体、又は、該スチレン系単量体と共重合可能な、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレートの他、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレートなどの二官能性単量体と、前記スチレン系単量体との共重合体などを採用することができる。
【0037】
また、前記ポリスチレン樹脂としては、例えば、ブタジエンやイソプレンをなどのゴム成分ブロックとスチレンブロックとを有するブロック共重合体、前記ゴム成分ブロックをスチレンからなる分子鎖にグラフトさせたグラフト共重合体で、ハイインパクトポリスチレン樹脂などとして市販されているものなどを採用することもできる。
【0038】
上記のポリスチレン系樹脂とともに前記混合樹脂に含有させることができるその他の樹脂としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジエチルフェニレン−1,4−エーテル)、ポリ(2,6−ジクロルフェニレン−1,4−エーテル)等のポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体ゴム(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SIPS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレン共重合体ゴム(SBBS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SEPS)などのスチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0039】
なお、前記発泡層11や前記非発泡層12には、上記のポリスチレン系樹脂や発泡剤以外に耐候剤や老化防止剤といった各種安定剤、滑剤などの加工助剤、スリップ剤、防曇剤、帯電防止剤といった機能性薬剤、顔料、香料などといった各種の添加剤を含有させることができる。
また、前記発泡層11には、その形成時において利用される気泡調整剤などの添加剤も含有させうる。
該気泡調整剤としては、タルク、マイカ、シリカ、珪藻土、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、ガラスビーズなどの無機化合物、ポリテトラフルオロエチレンなどの有機化合物からなる粉末を採用させ得る。
【0040】
本実施形態の積層発泡シート10は、厚みが0.5mm以上4.0mm以下であるとともに、坪量が200g/m2以上800g/m2以下であることが好ましい。
また、本実施形態の積層発泡シート10は、前記発泡層11の厚みを、通常、0.5mm以上4.0mm以下、好ましくは、1mm以上2.5mm以下とすることができる。
さらに、本実施形態の積層発泡シート10は、前記非発泡層12の厚みを、通常、5μm以上250μm以下、好ましくは、10μm以上200μm以下とすることができる。
なお、前記非発泡層12は、前記発泡層11の1/5以下の厚みであることが好ましく、前記発泡層11の1/10以下の厚みであることが特に好ましい。
【0041】
前記発泡層は、JIS K7222:1999「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の測定」に記載されている方法により測定される見掛け密度が0.045〜0.300g/cm3であることが好ましく、0.070〜0.250g/cm3であることがより好ましい。
【0042】
前記発泡層11は、ASTM D2856−87に準拠して1−1/2−1気圧法により測定される体積(V2)と発泡層の見掛け上の体積(V1)から下記式に基づいて測定される連続気泡率が20%以下であることが好ましく10%以下であることが特に好ましい。

連続気泡率(%)=100×(V1−V2)/V1
【0043】
次いで、このような積層発泡シート10を製造する製造方法について説明する。
本実施形態においては、例えば、
(a)炭化水素系の発泡剤の存在下においてポリスチレン系樹脂を押出機内で溶融混練し、該溶融混練された混練物を押出発泡させて前記発泡剤が残存しているポリスチレン系樹脂発泡シートを作製する発泡シート作製工程、
(b)前記発泡シート作製工程で得られたポリスチレン系樹脂発泡シートの表面を加熱溶融させたポリスチレン系樹脂(ゴム変性ポリスチレン系樹脂)でラミネートして該ラミネートした前記ポリスチレン系樹脂からなる非発泡層と前記ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡層とを有する積層発泡シートを作製する積層工程、及び、
(c)前記積層工程で得られた積層発泡シートを前記非発泡層側から加熱する加熱処理工程、を実施し、
前記ポリスチレン系樹脂発泡シートに残存していた発泡剤の一部が該ポリスチレン系樹脂発泡シートからなる発泡層から前記非発泡層に移行された積層発泡シートを作製させることができる。
【0044】
前記発泡シート作製工程(a)は、サーキュラーダイを装着した押出機を用いる方法など、発泡シートを製造するために一般的に行われている方法を採用して実施可能である。
【0045】
例えば、円環状の吐出口を有するサーキュラーダイを先端に装着した押出機に前記ポリスチレン系樹脂や、気泡調整剤などの添加剤を供給し、該押出機内で前記ポリスチレン系樹脂をその軟化点よりも高温に加熱して前記添加剤などと溶融混練して溶融混練物を形成させるとともにこの押出機の途中から炭化水素系の発泡剤を圧入して前記溶融混練物に混合し、得られた発泡剤を含んだ前記溶融混練物をサーキュラーダイの吐出口から押出させて前記発泡シートを形成させることができる。
【0046】
より詳しくは、本実施形態における発泡シートは、例えば、発泡剤を含んだ溶融混練物をサーキュラーダイの吐出口から押出させて円筒状の発泡体を形成させ、該サーキュラーダイの下流側(押出方向前方)に配した直径が前記吐出口よりも径大な冷却用マンドレルの外周面に前記発泡体の内面を摺接させつつ該発泡体に引取りをかけ、該冷却用マンドレルで発泡体を拡径するとともに該発泡体を内側から冷却し、該冷却用マンドレルの下流側に設けたカッターで前記発泡体を押出方向に向けて連続的に切断して平坦なシートとなるように展開させたものを採用することができる。
【0047】
発泡層と非発泡層とに前記のような好ましい割合で発泡剤を含有する積層発泡シートを得るためには、通常、この発泡シート作製工程において1.0質量%以上3.5質量%以下の範囲を超える割合で発泡剤を含有する発泡シートを作製すればよく、通常、1.5質量%以上4.0質量%以下の発泡剤を残存させた発泡シートを形成させれば良い。
【0048】
このような割合で発泡剤を残存させた発泡シートを得るためには、通常、前記押出機内に圧入する発泡剤の量を発泡シートに残存させる発泡剤の割合の1.1倍以上2倍以下とすればよい。
【0049】
なお、発泡剤は、前記溶融混練物が押出発泡された直後から前記の円筒状の発泡体の表面から散逸を開始し、通常、該発泡体がある程度冷却されるまでの間、比較的多くの量が散逸し続ける。
そのため、上記のような好ましい割合で発泡剤を残存させた発泡シートを得るためには、押出機への発泡剤の圧入量を調整するだけでなく、押出された発泡体の冷却条件をも調整することが好ましい。
発泡シートからの発泡剤の散逸は、例えば、吐出口から押出された直後の発泡体に対して内周面側と外周面側との両方から風冷を行って、表面付近をいち早く冷却するとともに該表面付近の気泡膜厚をある程度以上確保させることにより効果的に抑制させることができる。
【0050】
前記積層工程(b)は、例えば、上記のように形成された長尺帯状の発泡シートに対してフラットダイを用いた押出ラミネート法により実施可能である。
【0051】
前記積層工程は、例えば、前記発泡シートを水平搬送する搬送機構と、該水平搬送されている発泡シートの上面側に溶融状態のポリスチレン系樹脂を押出す押出機構と、発泡シートと、該発泡シート上に被覆された溶融状態のポリスチレン系樹脂との総厚みを規制する厚み矯正機構などを用いて実施させることができる。
前記搬送機構は、例えば、ロール状に巻き取った原反ロールを巻取り方向とは逆方向に回転させて外側から順に発泡シートを繰り出すことができる送出機と、該送出機から繰り出される発泡シートを再びロール状に巻き取ることができる巻取機とにより構成させることができる。
また、前記押出機構は、前記発泡シートの幅に相等する開口幅を有するフラットダイと、該フラットダイを先端に装着した押出機とにより構成させることができる。
さらに、前記厚み矯正機構は、発泡シートの幅よりも長さが長い2本のロールからなる厚み矯正ロールを有し、該2本の厚み矯正ロールが回転軸方向を水平方向とし、且つ、上下に平行するように配置され、しかも、互いに接近・離間させて外周面間隔が調節自在となっている厚み矯正装置などにより構成させることができる。
【0052】
より詳しくは、前記積層工程は、原反ロールを送出機にセットして、該送出機から繰り出した発泡シートを前記厚み矯正ロール間を通してその先端部を前記巻取機にセットし、前記厚み矯正ロールの外周面間隔を形成させる積層発泡シートの厚みに相当する間隔とし、該厚み矯正ロールの手前において発泡シートの上面に前記フラットダイから加熱溶融させたポリスチレン系樹脂が押出されるように前記押出機をセットして実施することができる。
即ち、本実施形態に係る積層発泡シートは、前記送出機と前記巻取機とを共働させて発泡シートを長さ方向移動させるとともに前記フラットダイから発泡シートの幅方向全域に行き渡るように加熱溶融させたポリスチレン系樹脂を吐出させ、該加熱溶融されたポリスチレン系樹脂で上面側がラミネートされた状態の発泡シートを前記厚み矯正ロール間を通過させ、上側の厚み矯正ロールで前記ラミネートされたポリスチレン系樹脂を十分に冷却するとともにその表面を平滑化させることによって、面内均一な厚みを有する非発泡層を前記発泡シートからなる発泡層の上側に積層させた状態に作製することができる。
【0053】
なお、前記発泡シートは、発泡シート作製工程によって作製された後も、通常の保管状態においては、僅かずつではあるが発泡剤を表面から散逸させ続け、発泡剤含有量を低下させ続ける。
従って、単に非発泡層への発泡剤の移行量をある程度以上に確保させることだけを考慮すると、発泡シート作製工程後、比較的、短期間の間に当該積層工程を実施することが好ましい。
しかし、発泡シートの表面付近において気泡中の発泡剤と空気との置換がある程度進行していない状態で溶融ポリスチレン系樹脂によるラミネートを実施すると、発泡層と非発泡層との間に発泡剤による発泡を生じて数平方ミリメートルの大きさの界面剥離を生じたりするおそれを有する。
また、仮に該積層工程においてこのような界面剥離が肉眼で確認できない場合でも、熱成形において顕在化するおそれを有する。
【0054】
このようなことから、発泡シート作製工程から、積層工程までの間には、適度な発泡シートの養生期間を設けることが好ましく、発泡シート作製工程後には、20℃〜40℃の温度で、10日〜30日程度、発泡シートを養生した後に前記積層工程を実施することが好ましい。
【0055】
前記加熱処理工程(c)は、熱風ファン、輻射式ヒーター、熱ロールなどといった一般的な加熱装置を用いて実施することができ、通常、50℃から120℃の熱風を積層発泡シートの表面から10cm〜25cm離れた位置から吹き付けて非発泡層側から積層発泡シートを加熱することによって実施することができる。
該加熱処理工程は、前記積層工程において矯正ロールを通過した後、前記巻取機に巻き取られる前の積層発泡シートに対して実施しても良い。
即ち、積層工程に連続して当該熱処理工程を実施しても良い。
また、一旦、積層発泡シートをロール状に巻き取った後に、例えば、12時間から10日間程度の期間を開けた後に当該熱処理工程を実施してもよい。
【0056】
このような、工程を実施することで発泡層(発泡シート)に残存している発泡剤の一部が該発泡層から前記非発泡層に移行された積層発泡シートを作製させることができる。
この発泡剤の移行の機構については、明確に特定はされていないが、前記積層工程における溶融ポリスチレン系樹脂のラミネートに際して発泡シートの表面から発泡剤が溶融ポリスチレン系樹脂に僅かに移行し、該ポリスチレン系樹脂で形成される非発泡層においてポリスチレン系樹脂の分子間に発泡剤分子が入り込み、該非発泡層が十分に冷却された後も発泡剤を移行させやすい状態になるためであると見られる。
そして、その後の加熱処理工程によって発泡剤の移行が促進されて熱成形における成形性の改善効果を顕在化させる程度に非発泡層が発泡剤によって可塑化されるものと見られる。
【0057】
本実施形態においては、上記のように発泡層から移行される形で非発泡層に発泡剤が含有されている。
そして、非発泡層は、熱成形における予備加熱時に厚み方向に温度勾配を生じやすく表面側が発泡層に近い側よりも温度上昇し易い。
ここで、前記のように発泡剤を発泡層側から移行させると、発泡層側における発泡剤の存在量を表面側よりも相対的に多くさせることができる。
従って、本実施形態の積層発泡シートは、非発泡層の厚み方向における熱変形挙動を熱成形に際して均質化させ得る。
さらに、本実施形態の積層発泡シートは、熱成形時に発泡層との界面近傍において非発泡層を微発泡させ得る。
従って、本実施形態の積層発泡シートは、発泡層から非発泡層にかけての状態を、発泡状態から微発泡状態を経由して非発泡状態へと傾斜的に変化させることができ、熱成形時に受ける変形応力が当該界面に集中することを防止でき、シワや亀裂の発生を抑制させ得る。
【0058】
なお、加熱処理工程を行わなくても、例えば、積層工程から30日以上の長期の時間をかければ、ある程度の発泡剤が発泡層から非発泡層へと移行することが期待できる。
しかし、その場合には、非発泡層に0.02質量%以上0.2質量%以下の割合で発泡剤が含有される前に発泡層側における発泡剤の含有量が1.0質量%未満となって熱成形における十分な二次発泡性を期待できなくなる場合がある。
このように本実施形態においては、非発泡層に0.02質量%以上0.2質量%以下の発泡剤を含有し、且つ発泡層に1.0質量%以上3.5質量%以下の発泡剤を含有している積層発泡シートをより確実に作製し得ることから、前記加熱処理工程を実施している。
【0059】
このようにして形成された積層発泡シートを熱成形に用いて発泡成形体を製造するには、例えば、
(x)積層発泡シートを予備加熱して軟化させる予備加熱工程、
(y)前記予備加熱された積層発泡シートに成形型を使って製品形状を形成させる成形工程、及び、
(z)前記製品形状の形成された積層発泡シートを、該製品形状の外縁に沿って切断し、積層発泡シートから製品(丼容器)を切り出すトリミング工程、
を実施すればよい。
【0060】
前記予備加熱工程(x)は、一般的な熱成形において用いられている手法を採用して実施することができ、例えば、輻射式加熱ヒーターを備えた加熱炉や、熱風循環式の加熱炉中を所定の時間をかけて積層発泡シートを通過させることで実施可能である。
【0061】
前記成形工程(y)についても一般的な熱成形において用いられている手法を採用して実施することができ、例えば、真空成形型、圧空成形型、真空・圧空成形型、マッチモールド成形型等の成形型を用い、空気圧などで変形可能な程度に前記予備加熱工程で軟化された積層発泡シートを前記成形型の表面形状に沿わせて変形させ、該成形型に形成されている製品形状を積層発泡シートに転写させるとともに該成形型で積層発泡シートを冷却し、前記製品形状がそれ以上に変形しないようにさせる方法を採用することができる。
【0062】
このとき積層発泡シートの非発泡層が特定の歪硬化性を有するポリスチレン系樹脂によって形成されているとともに発泡剤が含有されているために、該発泡層に比べて通常は硬質なものとなっている非発泡層も、発泡層とともに成形型への追従性に優れた変形挙動を示すことになる。
即ち、本実施形態においては、従来の積層発泡シートを用いる場合に比べて良好な成形性が当該成形工程において積層発泡シートに発揮され、延伸ムラなどを原因とした、偏肉、しわ、シート破れなどの不具合が発生するおそれを従来の積層発泡シートを用いる場合に比べて抑制させ得る。
【0063】
なお、前記トリミング工程(z)については、トムソン刃型やパンチャー(打抜ポンチ)を使用した従来と同様の方法を採用して実施することができる。
【0064】
このようにして、本実施形態の樹脂成形品は、外観の良好な高品質な状態となるように製造することができる。
なお、従来、丼容器やカップ容器のようなトレー容器に比べて成形工程において深絞りが必要になる発泡成形品は、非発泡層と発泡層との伸びの違いによって良品を得ることが十分に容易なものとはなっていないために本発明の発泡成形品の製造方法をこのような容器の製造に適用することでその効果をより顕著なものとすることができる。
【0065】
ただし、本発明の積層発泡シートは、必ずしも、丼容器やカップ容器の原材料としてその用途が限定されるものではない。
さらに、本実施形態においては、発泡層と非発泡層との2層構造の積層発泡シートを例示して本発明の積層発泡シートについて説明を行ったが、例えば、2層の非発泡層で発泡層を挟み込んだ非発泡層/発泡層/非発泡層の3層構造を有する積層発泡シートも本発明の積層発泡シートとして意図する範囲のものである。
また、共押出等によって複数の発泡層が積層された発泡シートに対して加熱溶融されたポリスチレン系樹脂をラミネートして作製される(例えば、発泡層/発泡層/非発泡層の3層構造を有する)積層発泡シートも本発明の積層発泡シートとして意図する範囲のものである。
さらに、3層以上の4層、5層構造を有する積層発泡シートについても本発明の積層発泡シートとして意図されていることは説明するまでもなく当然の事柄である。
【実施例】
【0066】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
まず、積層発泡シートの形成には、以下のような材料を用いた。

(1) 東洋スチレン社製、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、商品名「E641N」:MFR:3.6g/10min
(2)東洋スチレン社製、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、商品名「E785N」:MFR:2.8g/10min
(3)PSジャパン社製、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、商品名「475D」:MFR:2.2g/10min
(4)東洋スチレン社製、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)、商品名「HRM26」:MFR:1.6g/10min
(5)PSジャパン社製、汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)、商品名「G0002」:MFR:1.6g/10min
(6)東洋スチレン社製、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(HIPS)、商品名「XL5」:MFR:3.6g/10min
【0068】
(最高伸張粘度及び歪硬化指数)
下記表に示す割合で上記(1)〜(6)の材料をブレンドしたものについて、最大伸張粘度(ポイズ)と歪硬化指数とを測定した。
【表1】
【0069】
(積層発泡シートの作製)
(発泡シート作製工程)
イソブタン62質量%、ノルマルブタン38質量%の割合で含有する混合ブタンをポリスチレン系樹脂ポリスチレン系樹脂[PSジャパン社製、商品名「G0002」、MFR:1.6g/10min]と押出機で溶融混練し、該押出機内で前記混合ブタンを3.27質量%の割合で含有する溶融混練物を作製し、該溶融混練物を押出発泡させて厚み2.1mm、坪量240g/m2、密度0.114g/cm3、発泡層の残存発泡剤量が2.77質量%の発泡シートを作製した。
【0070】
(積層工程)
上記の発泡シートを常温(20℃〜40℃)において28日間養生した後、該発泡シートの一面側にブレンドNo.1のゴム変性ポリスチレン系樹脂[東洋スチレン社製ハイインパクトポリスチレン、商品名「E641N」、MFR:3.6g/10min:100%]を樹脂温度が250℃になる条件で加熱溶融したものをラミネートし、厚み114μm(坪量120g/m2)の非発泡層を備えた積層発泡シートを作製した。
【0071】
(加熱処理工程)
該積層発泡シートに対し、非発泡層側の表面から15cm離れた位置から90℃の熱風を吹き付け、該積層発泡シートを非発泡層側から加熱する熱処理工程を実施した。
【0072】
(容器の製造)
図3に示すような断面形状を有する容器Aを該積層発泡シートを熱成形することにより作製した。
なお、容器Aは、発泡層が内側(非発泡層が外側)となるようにして作製した。
また、容器Aは、その開口部の内径L1が140mm、底部の内径L2が100mm、深さL3が80mmで絞り比(L3/L1)が0.57である。
【0073】
ここで容器Aの作製について、より詳しく説明する。
容器Aの作製には、容器Aの外形に対応する凹部を6×6=36個、備えたキャビティ(凹型)と、容器Aの内形に対応する凸部を凹部と同数備えたプラグ(凸型)とを有するプレス成形装置を用いた。
そして、容器Aは、このプレス成形装置に長尺帯状の積層発泡シートを長さ方向に連続的に供給しながら作製した。
成形条件としては、1ショット(=36個)の成形サイクルを5.0秒、キャビティ側のヒーターの設定温度を350℃、プラグ側のヒーターの設定温度を260℃とした。
また成形のタイミングは、キャビティとプラグとがほぼ同時に積層発泡シートに接触して成形を開始するように設定した。
【0074】
(容器外観の評価)
プレス成形装置の運転を開始した直後である1ショット目の36個の容器Aと、成形を繰り返して型が十分に温まったと思われる30ショット目の36個の容器Aについて、それぞれ外観を観察した。
そして、容器Aの鍔部A1の基端部A2にシワやチルマークなどが見られないか等の外観の異常を観察した。
【0075】
(発泡剤含有量の測定)
積層発泡シートの非発泡層、及び、非発泡層における発泡剤含有量を前記の方法によって測定した。
上記のような発泡剤含有量の評価を、積層発泡シート作製直後から7日毎に56日後まで実施した。
結果を、下記表に示す。
また、発泡剤含有量の評価とともに容器外観の評価を行った。
そして、前記積層発泡シートは、時間の経過してもシワやチルマークが見られず成形性が良好であった。
特に、積層発泡シート作製後、21日目以降のものは成形性が良好であった。
【0076】
【表2】
【0077】
また、前記積層発泡シートのスチレンダイマー、スチレントリマーの合計含有量を前記の方法により測定したところ2000ppm以下であることが確認できた。
【0078】
なお、上記のような傾向は、非発泡層をブレンドNo.1のゴム変性ポリスチレン系樹脂(商品名「E641N」 100%)で形成させた場合のみならず、ブレンドNo.2〜No.5のゴム変性ポリスチレン系樹脂で非発泡層を形成させた場合においても確認された。
【0079】
以上のことからも本発明によれば高品質な発泡成形品を簡便に製造させ得る熱成形用として好適な積層発泡シートが提供されることがわかる。
図1
図2
図3