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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-127310(P2015-127310A)
(43)【公開日】2015年7月9日
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/34 20060101AFI20150612BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20150612BHJP
   A61K 8/97 20060101ALI20150612BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20150612BHJP
   A23L 1/30 20060101ALN20150612BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20150612BHJP
   A23L 2/38 20060101ALN20150612BHJP
【FI】
   A61K8/34
   A61K8/24
   A61K8/97
   A61Q11/00
   A23L1/30 B
   A23L2/00 F
   A23L2/38 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-273327(P2013-273327)
(22)【出願日】2013年12月27日
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】朝田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 洋二
【テーマコード(参考)】
4B017
4B018
4C083
【Fターム(参考)】
4B017LC03
4B017LG18
4B017LK12
4B017LP01
4B018LB01
4B018LB07
4B018LB08
4B018MD32
4B018MD67
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF02
4C083AA111
4C083AA112
4C083AB172
4C083AB222
4C083AB281
4C083AB282
4C083AC121
4C083AC131
4C083AC132
4C083AC782
4C083CC41
4C083DD22
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE32
(57)【要約】
【課題】歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物の提供。
【解決手段】歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物であって、キシリトール、フノリ抽出物、及びリン酸−水素カルシウムを有効成分として含む口腔用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物。
【請求項2】
糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、及び海藻類及び/又はその抽出物を有効成分として含む口腔用組成物。
【請求項3】
前記糖アルコールが、キシリトールであることを特徴とする請求項2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
前記海藻類及び/又はその抽出物が、フクロフノリ又はフノリ抽出物であることを特徴とする請求項2又は3に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、齲蝕は、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)やストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)等の口腔内レンサ球菌(虫歯菌)が歯牙表面に付着し、これらの細菌が持っているグルコシルトランスフェラーゼ酵素の働きでグルカンを産生し、プラーク(歯垢)を形成することから始まる。そのプラーク中で、上記細菌が食物残渣中の砂糖やデンプン等を代謝することにより生成される酸が、歯牙エナメル質を脱灰し、いわゆる初期の齲蝕状態とする。
【0003】
唾液にはカルシウムとリン酸塩が存在し、これらが、上記脱灰部分を修復すなわち再石灰化することによって、歯を元の状態に戻す作用をしている。つまり、歯牙表面では、脱灰と再石灰化という相反する現象が常に生起し、通常は所要のバランスを保っている。しかし、そのバランスはプラークが増大すると脱灰の方に傾き、齲蝕が進行する。
【0004】
歯牙表面のエナメル質を構成する結晶は、六方晶系のハイドロキシアパタイトCa10(POOHで、リン酸カルシウムから構成されている。初期の齲蝕で認められる脱灰は歯牙エナメル質無機成分の溶解であり、再石灰化は溶け残った既存のリン酸カルシウム結晶の修復と再成長および本来のエナメル質には存在していない結晶の出現であるということができる。齲蝕予防とは、虫歯菌に対する付着阻害、抗菌、あるいはまた虫歯菌のグルカン合成に関わるグルコシルトランスフェラーゼに対する阻害、歯の再石灰化促進、歯の耐酸性向上等をいい、その中でも特に歯の再石灰化促進、耐酸性向上等の効果を付与することを歯質強化という。
【0005】
根面齲蝕の予防および治療においても、セメント質ならびに象牙質の脱灰部位を再石灰化し、その再石灰化部位の耐酸性を向上させる必要がある。
【0006】
従来、齲蝕予防のために、虫歯菌に対する歯牙付着阻害剤、抗菌剤、あるいはまた、虫歯菌のグルカン形成を抑制するグルコシルトランスフェラーゼ酵素阻害剤等が開発されている。しかし、たとえば抗菌剤は虫歯菌のみに抗菌作用を示す特異的な素材ではなく、安全性に問題があり、グルコシルトランスフェラーゼ酵素阻害剤は唾液による影響を受けやすいという問題がある。
【0007】
また、歯牙の無機成分と類似の結晶構造を有するハイドロキシアパタイトとフッ化物を配合し、歯脱灰表層部を再石灰化する虫歯予防組成物が知られているが、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムまたはフッ化第一スズ等のフッ化物を口腔用組成物や飲食物に配合することは、安全性の点から問題がある。
【0008】
さらに、ハイドロキシアパタイトの微粒子とキシリトールを組み合せ使用することによって、脱灰した歯牙エナメル質を再石灰化することが知られているが、工業的に製造されたハイドロキシアパタイトは、化学的に安定な化合物で反応性に乏しく、再石灰化の効果が十分でない。
【0009】
なお、食品等への使用を考慮すると天然物由来の組成物を齲蝕予防組成物として用いることが適当であると考えられ、この条件に合うものとしては例えば茶抽出物がある。しかし、単なる茶抽出物では、従来、抗菌やグルコシルトランスフェラーゼ阻害等の齲蝕予防効果は知られているが、再石灰化促進や耐酸性向上等といった歯質強化効果は全く知られていない。また、茶抽出物からポリフェノール類を除去することにより、歯質強化にとってプラスに働くミネラルの比率を相対的に高めた歯質強化剤が知られているが、この歯質強化剤は、天然物由来ではあるが、安全性、効果の面で十分とは言えないものである(特許文献1、非特許文献1、2)。
【0010】
口腔用組成物や飲食物に使用しても安全で、しかも、脱灰した歯牙エナメル質の再石灰化を効果的に促進し、齲蝕を積極的に抑制する試みが特許文献2に記載されている。例えば、特許文献2には、糖アルコールとリン酸一水素カルシウム、あるいは、糖アルコールとリン酸一水素カルシウムと海藻類及び/又はその抽出物を有効成分とし、糖アルコールとしてはキシリトールが、海藻類としてはフノリが顕著な効果を奏し好適である口腔用組成物を開示している。しかしながら、歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、十分な耐酸性を付与するにはいまだ至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4756162号明細書
【特許文献2】特開2000−128752号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Australian Dental Journal 2011; 56: 394-400Remineralization and acid resistance of enamel lesions after chewing gum containing fluoride extracted from green tea.
【非特許文献2】健康・栄養食品研究 Vol.7 No.2 2004 31-41 緑茶抽出物配合ガム摂食がヒトの歯の耐酸性に及ぼす影響と安全性
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記に鑑み、本発明は、歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物を提供することを目的とする。歯のエナメル質などの硬組織は、齲蝕原因菌の出す酸により脱灰される。唾液が脱灰部位に接触すると、唾液中のカルシウムイオンおよびリンイオンにより、脱灰部位が再石灰化される。本発明は、この再石灰化部位が、再び酸に曝された場合に、唾液による再石灰化部位に比べ、耐酸性の高い再石灰化部位を形成する口腔用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物を提供する。
特に、本発明は、糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、及び海藻類及び/又はその抽出物を有効成分として含む口腔用組成物を提供し、とりわけ、キシリトール、フノリ抽出物、及びリン酸−水素カルシウムを有効成分として含む口腔用組成物を提供する。
具体的には、本発明者らは、キシリトール配合ガムに、(1)フクロフノリ抽出物0.0%およびリン酸一水素カルシウム0.0%を添加したもの(未配合)、(2)フクロフノリ抽出物0.1%およびリン酸一水素カルシウム0.2%を添加したもの、(3)フクロフノリ抽出物0.3%およびリン酸一水素カルシウム0.6%を添加したもの、の耐酸性効果を評価した結果、(2)および(3)のミネラル喪失率(耐酸性処理により脱灰したミネラル量の、再石灰化処理により再石灰化したミネラル量に対するパーセンテージ)は、(1)のミネラル喪失率よりも低かったことを見出した。この研究により、フノリ抽出物およびリン酸一水素カルシウムを配合することで、耐酸性を付与する効果のあるキシリトール配合ガムなどの口腔用組成物を、完成するに至った。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る口腔用組成物のミネラル喪失量ΔZのグラフを示す。
図2】本発明に係る口腔用組成物の再石灰化率(R%)のグラフを示す。
図3】本発明に係る口腔用組成物のミネラル喪失率のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、歯のエナメル質などの硬組織の再石灰化部位に、耐酸性を付与する口腔用組成物に関する。
特に、本発明は、糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、及び海藻類及び/又はその抽出物を有効成分として含む口腔用組成物に関する。
さらに、本発明は、キシリトール、フノリ抽出物、及びリン酸−水素カルシウムを有効成分として含む口腔用組成物に関する。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、糖アルコールとリン酸一水素カルシウムを併用することにより、さらには、これらに海藻類及び/又はその抽出物を併用することにより、上記目的を達成することができ本発明を完成した。
【0017】
本発明に係る歯牙エナメル質の再石灰化促進剤は、糖アルコールとリン酸一水素カルシウムを有効成分とするもの、あるいは、糖アルコールとリン酸一水素カルシウムと、海藻類及び/又はその抽出物を有効成分とするものである。上記糖アルコールとしてはキシリトールが、また、海藻類としてはフノリ、すなわちフノリを原料とするフノリ抽出物が顕著な効果を奏し好適である。
【0018】
本発明口腔用組成物及び飲食物は、上記歯牙エナメル質の再石灰化促進剤を添加して、あるいは、糖アルコールとリン酸一水素カルシウムを各別に添加して、もしくは、糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、海藻類及び/又はその抽出物を各別に添加して製造したものである。
【0019】
上記において、糖アルコールとしては、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、アラビトール、エリスリトール、ラクチトール、マルチトール、パラチニット等を挙げることができるが、特にキシリトールが好適である。
【0020】
キシリトールは、5つの炭素をもった糖アルコールで、植物の特定成分や人間の代謝系の中に広く認められている。また、キシリトールは、プラーク内pHを全く低下させない非酸産生の甘味料であり、キシリトールの習慣的な摂取は、虫歯菌であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)やストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)等の口腔内レンサ球菌数を口腔内から減少させていることも報告されている。
【0021】
また、リン酸一水素カルシウム(CaHPO・nHO;n=0〜2)は、日本薬局方(JP)、化粧品原料基準、歯科用ではリン酸水素カルシウム、食品添加物ではリン酸一水素カルシウム、JIS試薬特級ではリン酸水素カルシウム二水和物の名称で知られている。リン酸一水素カルシウムは、無水塩のものと二水塩のものが多く、無味無臭の白色六方晶系又は斜方晶系に属する結晶性の粉末である。
【0022】
歯牙表面のエナメル質を構成するハイドロキシアパタイト結晶は、リン酸カルシウムから構成されており、カルシウムやリン酸の供給源として有効と考えられる。上記キシリトールは、唾液分泌量を増加させ、カルシウムのキャリヤーとして働き、pHの低下をきたさないことより、所要の再石灰化促進作用があることが知られている。しかし、キシリトールとリン酸一水素カルシウムとの併用により歯牙エナメル質の再石灰化を著しくし促進させることを見出したのは、本発明者が最初である。
【0023】
上記糖アルコールとリン酸一水素カルシウムとを併用した再石灰化促進剤を口腔用組成物あるいは飲食物に使用しても、歯牙エナメルの再石灰化を十分に促進させることができるが、さらに、海藻類及び/又はその抽出物を併用することにより、再石灰化を著しく促進させることができるとの知見も得た。
【0024】
その海藻類としては、紅藻類としてウシケノリ目、チノリモ目、ベニミドロ目、オオイシソウ目、ウミゾウメン目、テングサ目、カクレイト目、スギノリ目、ダルス目、イギス目等から、褐藻類としてシオミドロ目、クロガシラ目、ムチモ目、アミジグサ目、ナガマツモ目、ケヤリモ目、ウルシグサ目、ハバモドキ目、ウイキョウモ目、コンブ目、ハバマタ目等から、緑藻類としてヨツメモ目、ヒビミドロ目、アオサ目、ミドリゲ目、カサノリ目、ミル目等から適宜選択して使用することができるが、特に、紅藻類のカクレイト目のフノリを使用することが好ましい。
【0025】
このフノリは、カクレイト目(Cryptonemiales)フノリ科(Endocladiaceae)フノリ属(Gloiopeltis )に属するもので、北太平洋を中心とした地域に分布する海藻であり、日本周辺では、フクロフノリ(G.furcata )、マフノリ(G.tenax )、ハナフノリ(G.complanata)等が採取されている。フノリは昔から、味噌汁の具、刺し身のつま、そばのつなぎ剤または海藻サラダ具材等として食用に供されている。また、そのフノリは、「本草綱目」に「鹿角菜」と称され、解熱作用があり、胆石等の結石をとかす等と記載されているところであり、安全性に問題はない。
【0026】
上記した海藻類は、所要の乾燥処理をした後、刻んだものあるいは粉末化したもの、一旦抽出物を得て、それを粒状化または粉末化したもの等を、単独使用することができるのはもちろん、それらを併用してよい。
【0027】
海藻類の抽出物、例えばフノリ抽出物、多糖類の一種であるフノラン、を得る方法については、特に限定しないが、たとえば水もしくは有機溶剤、特に水と相溶性のある有機溶剤を用いて抽出する。その抽出物は、これをさらに有機溶剤、カラムクロマトグラフィー等により分画し精製して使用に供することができる。
【0028】
さらに、上記海藻類やその抽出物は、適当な液体担体に溶解するか若しくは分散させ、あるいは、適当な粉末担体と混合するか若しくはこれに吸着させ、場合によっては、乳化剤、分散剤、懸濁剤、展着剤、浸透剤、湿潤剤又は安定剤等を添加し、乳剤、水和剤、粉剤又は錠剤等に製剤化して使用に供することも可能である。
【0029】
本発明口腔用組成物としては、練り歯磨、粉歯磨、液状歯磨き等の歯磨類、洗口剤、歯肉マッサージクリーム、うがい用錠剤、トローチ等が挙げられる。また、飲食物としては、チューインガム、キャンディ、錠菓、グミゼリー、チョコレート、ビスケット、スナック等の菓子、アイスクリーム、シャーベット、氷菓等の冷菓、飲料、パン、ホットケーキ、乳製品、ハム、ソーセージ等の畜肉製品類、カマボコ、チクワ等の魚肉製品、惣菜類、プリン、スープ、ジャム等が挙げられる。
【0030】
口腔用組成物あるいは飲食物への糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、海藻類及び/又はその抽出物の添加量としては、口腔用組成物あるいは飲食物の形態等により一概に決めることは困難であるが、それぞれ1.0〜98.0重量%、0.01%〜10.0重量%、0.01%〜5.0重量%が好ましい。
【0031】
本発明において、糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、海藻類及び/又はその抽出物を口腔用組成物あるいは飲食物に添加せしめる方法としては、当該製品の製造過程のいかなる時に添加し、また、残余の原料と混合してもよい。また、上記糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、海藻類及び/又はその抽出物を添加して行う口腔用組成物あるいは飲食物の製造においては、それらを予め混合して、すなわち、請求項1〜4記載の本発明再石灰化促進剤として添加してもよいし、別々に、すなわち、糖アルコールとリン酸一水素カルシウムを各別に添加して、あるいは、糖アルコール、リン酸一水素カルシウム、海藻類及び/又はその抽出物を各別に添加してもよい。以下に本発明の実施例と試験例について説明するが、本発明の範囲がこれによって限定されるものではない。
【0032】
以下、本発明を具体的な実施例に基づき説明する。
(実施例)
キシリトールガムの耐酸性効果を、in vitro評価試験により検討した。
具体的には、「キシリトールガム」および「フクロフノリ抽出物」・「リン酸一水素カルシウム」3倍配合品」の耐酸性効果を評価した。
【0033】
(実施例1)
(試料調製)
粒ガムの種類は以下の4群(N=8)で実施した。
(1)コントロールガム(「NC」と略す。)
キシリトールガム中の関与成分であるフノラン・リン酸一水素カルシウムを除きマルチトールと置換したものであり、以下の成分及び配合量のコントロールガムを調製した。
<関与成分の配合量>
キシリトール 40%
マルチトール 60%
フクロフノリ抽出物 0.0%
リン酸一水素カルシウム 0.0%
(2)キシリトールガム(「1倍」と略す。)
以下の成分及び配合量の現行のキシリトールガムを調製した。
<関与成分の配合量>
キシリトール 40%
マルチトール 59.7%
フクロフノリ抽出物 0.1%
リン酸一水素カルシウム 0.2%
(3)キシリトールガムをベースに、フノラン・リン酸一水素カルシウムを3倍配合したもの(「3倍」と略す。)
以下の成分及び配合量の3倍配合ガムを調製した。
<関与成分の配合量>
キシリトール 40%
マルチトール 59.1%
フクロフノリ抽出物 0.3%
リン酸一水素カルシウム 0.6%
(4)健全歯
脱灰処理・再石灰化処理を実施しないで、耐酸性処理のみを行なった。
【0034】
(実施例2)
以下の方法により、キシリトールガムの耐酸性効果をin vitro評価試験により検討した。
(1)エナメル質ブロックの作製、及び脱灰処理
ヒトの歯1本から3個のエナメル質ブロックを作製した(N=8)。エナメル質ブロックの表面を#2000の研磨紙で研磨し、新鮮なエナメル質を露出させた。すべてのブロックの研磨面に鉛筆で3×4mmの実験窓を書き、それ以外の部分をワックスで覆った。脱灰処理は、0.1M乳酸、0.3mM ヒドロキシアパタイト、1% カルボキシメチルセルロースナトリウム (pH4.7)を用いて37℃、3日間脱灰した。
(2)再石灰化処理
脱灰処理したエナメル質ブロックの実験窓の1/3をワックスで覆い、ガム抽出液にエナメル質ブロックを、37℃で2週間浸漬した(歯科基礎医学会雑誌 第42巻 第6号 (2000)フノリ抽出物と第二リン酸カルシウムを配合したキシリトールチューインガムの実験的初期齲蝕エナメル質に及ぼす再石灰化促進効果)尚、抽出液の交換は2日ないし3日おきに行った。
(3)耐酸性処理
再石灰化処理したエナメル質ブロックの実験窓の1/2をワックスで覆った。耐酸性処理は、0.1M乳酸、0.3mM ヒドロキシアパタイト、1% カルボキシメチルセルロース ナトリウム(pH4.7)を用いて37℃、16時間脱灰した。
(4)薄切研磨標本の作製
エナメル質ブロックに付着したワックスをキシレンで除去し、脱灰領域、再石灰化領域および耐酸性領域を含む断面でエナメル質ブロックを切断した。これを回転研磨機で粗研磨した後、#2000の研磨紙で厚さ約100μmまで仕上げ研磨し、標本とした。
(5)コンタクトマイクロラジオグラフィー(CMR)
超軟X線発生装置CMR-2(ソフテックス製)を用いて、研磨標本のX線写真を撮影した。すなわち、ガラス乾板フィルム(KONICA MINOLTA: HIGH PRECISION PHOTO PLATE: HRP-SN-2)に研磨標本をアルミステップウェッジ(1枚20μmの厚さのアルミ箔を15段階に重ねたもの)とともに密着させた。管電圧17kV、管電流3mAでX線を発生させ、ニッケル薄膜を通過させることで得られた単色X線 Cu‐Kα線(1.54Å)を焦点距離10cmで10分間フィルムに照射した。
(6)画像解析による評価
オリンパス社製 生物顕微鏡(BX-51)に取り付けたCCDカメラ(オリンパス社製 DP70)を用いて画像を取り込み、輝度を測定した。次にAngmerらの方法(J. Ultrastructure research 8, 12-23 (1963) Studies on the Ultrastructure of Dental Enamel IV.The Mineralization of Normal Human Enamel)により、輝度の値をハイドロキシアパタイトのミネラル量(vol %)に変換した。次に、Jongらの方法(Phys Med Biol. 32(7):887-99 (1987) Optimised microcomputer-guided quantitative microradiography on dental mineralised tissue slices.)により、ミネラル喪失量ΔZ( vol%・μm )及び脱灰深度ld(μm)を算出した。各群の再石灰化率(R%)および耐酸性効果の指標となるミネラル喪失率を下記式により算出した。
再石灰化率(%) = (ΔZ D−ΔZ R)/ΔZ D ×100
ΔZ D ; 脱灰領域のΔZ
ΔZ R ; 再石灰化領域のΔZ
ミネラル喪失率(%) = (ΔZ A−ΔZ R)/(ΔZ D−ΔZ R) ×100
ΔZ D ; 脱灰領域のΔZ
ΔZ R ; 再石灰化領域のΔZ
ΔZ A ; 耐酸性領域のΔZ
(7)統計解析
統計処理ソフトウェア(SPSS Version 14.0, SPSS, Inc.)を用いて一元配置分散分析および多重比較(Tukey)を実施した。
【0035】
(結果)
ミネラル喪失量ΔZ( vol%・μm )のグラフを、図1に、再石灰化率(R%)のグラフを図2に、ミネラル喪失率のグラフを図3に示す。
各群のデータのN数は、N=6〜8であった。再石灰化率に関しては、NCが23.4%、1倍が33.6%、3倍が55.8%であり、濃度依存的な再石灰化率の増加傾向が認められた。
ミネラル喪失率に関しては、NCが114.7%、1倍が59.4%、3倍が58.6%であった。各群間に有意差は認められなかったものの、NCに比べ、1倍と3倍はミネラル喪失率が同程度の効果であることが示唆された。
図1に示すように、耐酸性領域におけるミネラル喪失量が、濃度依存的に低下していることから、「キシリトールガム」および「フクロフノリ抽出物・リン酸一水素カルシウム3倍配合品」は、耐酸性効果を有する事が明らかとなった。
【0036】
次に、キャンディ、錠菓、チョコレート、アイスクリーム、飲料、歯磨、洗口剤について、それぞれフクロフノリ抽出物を配合した実施例とフノランを配合した実施例を示す。なお、フクロフノリ抽出物とフノランは、それぞれ2通りの濃度(1倍と3倍)で示してある。以下に実施例3〜30の配合割合(数字は重量%)を示す。
【0037】
(実施例3(キャンディ))
キシリトール 45.0
還元麦芽糖水飴 35.5
第2リン酸カルシウム 0.5
フクロフノリ抽出物 0.5
香料 0.5
精製水 18.0
【0038】
(実施例4(キャンディ))
キシリトール 45.0
還元麦芽糖水飴 35.5
第2リン酸カルシウム 1.5
フクロフノリ抽出物 1.5
香料 0.5
精製水 16.0
【0039】
(実施例5(キャンディ))
キシリトール 45.0
還元麦芽糖水飴 35.5
第2リン酸カルシウム 0.5
フノラン 0.5
香料 0.5
精製水 18.0
【0040】
(実施例6(キャンディ))
キシリトール 45.0
還元麦芽糖水飴 35.5
第2リン酸カルシウム 1.5
フノラン 1.5
香料 0.5
精製水 16.0
【0041】
(実施例7(錠菓))
キシリトール 70.0
乳糖 18.9
グリセリン脂肪酸エステル 0.2
第2リン酸カルシウム 0.05
フクロフノリ抽出物 0.05
精製水 10.8
【0042】
(実施例8(錠菓))
キシリトール 70.0
乳糖 18.9
グリセリン脂肪酸エステル 0.2
第2リン酸カルシウム 0.15
フクロフノリ抽出物 0.15
精製水 10.6
【0043】
(実施例9(錠菓))
キシリトール 70.0
乳糖 18.9
グリセリン脂肪酸エステル 0.2
第2リン酸カルシウム 0.05
フノラン 0.05
精製水 10.8
【0044】
(実施例10(錠菓))
キシリトール 70.0
乳糖 18.9
グリセリン脂肪酸エステル 0.2
第2リン酸カルシウム 0.15
フノラン 0.15
精製水 10.6
【0045】
(実施例11(チョコレート))
カカオマス 13.0
全脂粉乳 22.0
キシリトール 48.5
第2リン酸カルシウム 0.5
ココアバター 15.0
乳化剤 0.3
香料 0.2
フクロフノリ抽出物 0.5
【0046】
(実施例12(チョコレート))
カカオマス 13.0
全脂粉乳 20.0
キシリトール 48.5
第2リン酸カルシウム 1.5
ココアバター 15.0
乳化剤 0.3
香料 0.2
フクロフノリ抽出物 1.5
【0047】
(実施例13(チョコレート))
カカオマス 13.0
全脂粉乳 22.0
キシリトール 48.5
第2リン酸カルシウム 0.5
ココアバター 15.0
乳化剤 0.3
香料 0.2
フノラン 0.5
【0048】
(実施例14(チョコレート))
カカオマス 13.0
全脂粉乳 20.0
キシリトール 48.5
第2リン酸カルシウム 1.5
ココアバター 15.0
乳化剤 0.3
香料 0.2
フノラン 1.5
【0049】
(実施例15(アイスクリーム))
クリーム(脂肪率45%) 23.0
牛乳(脂肪率3.7%) 32.0
脱脂粉乳(無糖) 22.3
キシリトール 15.2
第2リン酸カルシウム 0.1
コーンシロップ 6.6
安定剤 0.77
フクロフノリ抽出物 0.03
【0050】
(実施例16(アイスクリーム))
クリーム(脂肪率45%) 23.0
牛乳(脂肪率3.7%) 32.0
脱脂粉乳(無糖) 22.04
キシリトール 15.2
第2リン酸カルシウム 0.3
コーンシロップ 6.6
安定剤 0.77
フクロフノリ抽出物 0.09
【0051】
(実施例17(アイスクリーム))
クリーム(脂肪率45%) 23.0
牛乳(脂肪率3.7%) 32.0
脱脂粉乳(無糖) 22.3
キシリトール 15.2
第2リン酸カルシウム 0.1
コーンシロップ 6.6
安定剤 0.77
フノラン 0.03
【0052】
(実施例18(アイスクリーム))
クリーム(脂肪率45%) 23.0
牛乳(脂肪率3.7%) 32.0
脱脂粉乳(無糖) 22.04
キシリトール 15.2
第2リン酸カルシウム 0.3
コーンシロップ 6.6
安定剤 0.77
フノラン 0.09
【0053】
(実施例19(飲料))
加糖ブドウ糖液糖 0.3
キシリトール 10.7
酸味料 2.0
香料 0.3
第2リン酸カルシウム 0.1
フクロフノリ抽出物 0.3
精製水 86.3
【0054】
(実施例20(飲料))
加糖ブドウ糖液糖 0.3
キシリトール 10.7
酸味料 2.0
香料 0.3
第2リン酸カルシウム 0.3
フクロフノリ抽出物 0.9
精製水 85.5
【0055】
(実施例21(飲料))
加糖ブドウ糖液糖 0.3
キシリトール 10.7
酸味料 2.0
香料 0.3
第2リン酸カルシウム 0.1
フノラン 0.3
精製水 86.3
【0056】
(実施例22(飲料))
加糖ブドウ糖液糖 0.3
キシリトール 10.7
酸味料 2.0
香料 0.3
第2リン酸カルシウム 0.3
フノラン 0.9
精製水 85.5
【0057】
(実施例23(歯磨))
水酸化アルミニウム 30.0
無水ケイ酸 20.0
キシリトール 15.0
第2リン酸カルシウム 0.2
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
香料 0.5
フクロフノリ抽出物 0.3
精製水 33.0
【0058】
(実施例24(歯磨))
水酸化アルミニウム 30.0
無水ケイ酸 20.0
キシリトール 15.0
第2リン酸カルシウム 0.6
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
香料 0.5
フクロフノリ抽出物 0.9
精製水 32.0
【0059】
(実施例25(歯磨))
水酸化アルミニウム 30.0
無水ケイ酸 20.0
キシリトール 15.0
第2リン酸カルシウム 0.2
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
香料 0.5
フノラン 0.3
精製水 33.0
【0060】
(実施例26(歯磨))
水酸化アルミニウム 30.0
無水ケイ酸 20.0
キシリトール 15.0
第2リン酸カルシウム 0.6
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
香料 0.5
フノラン 0.9
精製水 32.0
【0061】
(実施例27(洗口剤))
キシリトール 25.0
グリセリン 15.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
第2リン酸カルシウム 0.5
香料 0.3
フクロフノリ抽出物 0.5
精製水 57.7
【0062】
(実施例28(洗口剤))
キシリトール 25.0
グリセリン 15.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
第2リン酸カルシウム 1.5
香料 0.3
フクロフノリ抽出物 1.5
精製水 55.7
【0063】
(実施例29(洗口剤))
キシリトール 25.0
グリセリン 15.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
第2リン酸カルシウム 0.5
香料 0.3
フノラン 0.5
精製水 57.7
【0064】
(実施例30(洗口剤))
キシリトール 25.0
グリセリン 15.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.0
第2リン酸カルシウム 1.5
香料 0.3
フノラン 1.5
精製水 55.7
図1
図2
図3