特開2015-127414(P2015-127414A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 奇美實業股▲分▼有限公司の特許一覧

特開2015-127414ポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品
<>
  • 特開2015127414-ポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品 図000003
  • 特開2015127414-ポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品 図000004
  • 特開2015127414-ポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品 図000005
  • 特開2015127414-ポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-127414(P2015-127414A)
(43)【公開日】2015年7月9日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20150612BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20150612BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20150612BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20150612BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20150612BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L27/18
   C08L25/04
   C08K3/32
   C08K5/49
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-253029(P2014-253029)
(22)【出願日】2014年12月15日
(31)【優先権主張番号】102148771
(32)【優先日】2013年12月27日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】594006345
【氏名又は名称】奇美實業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100173657
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬沼 宗一郎
(72)【発明者】
【氏名】戴 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】姜 亨波
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BC063
4J002BC073
4J002BD152
4J002BN123
4J002BN143
4J002BN173
4J002CG001
4J002CG011
4J002CG021
4J002CG031
4J002EW046
4J002FD132
4J002FD136
4J002GM00
4J002GQ00
(57)【要約】
【目的】ろ過網の交換頻度を少なくして生産効率を上げ、且つ難燃性に優れたポリカーボネート組成物とその製造方法、および成形品を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート組成物は、ポリカーボネートと、ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含む。前記ポリテトラフルオロエチレン粉体は、粒径が120μmよりも小さい第1ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい第2ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が250μmよりも大きい第3ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含み、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%よりも大きい。
【選択図】無し
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートと、
粒径が120μmよりも小さい第1ポリテトラフルオロエチレン粉体、粒径が120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい第2ポリテトラフルオロエチレン粉体および粒径が250μmよりも大きい第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含むポリテトラフルオロエチレン粉体と
を含み、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、前記第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、10wt%よりも大きいであることを特徴とするポリカーボネート組成物。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、前記第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、60wt%よりも小さい請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、前記第2ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、10wt%〜60wt%である請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、前記第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、10wt%〜20wt%である請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項5】
前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、前記第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、40wt%〜60wt%である請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項6】
リン系難燃剤およびスチレン系ポリマーをさらに含む請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項7】
前記ポリカーボネート100重量部に対し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、0.4重量部〜1.2重量部であり、前記リン系難燃剤の含有量が、10重量部〜25重量部であり、前記スチレン系ポリマーの含有量が、4重量部〜16重量部である請求項6に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項8】
スチレン系ポリマーをさらに含み、前記ポリカーボネートと前記スチレン系ポリマーの合計100重量部に対し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が、0.4重量部〜1.2重量部である請求項1に記載のポリカーボネート組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネート組成物により製造された成形品。
【請求項10】
ポリカーボネートと、
粒径が120μmよりも小さい第1ポリテトラフルオロエチレン粉体、粒径が120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい第2ポリテトラフルオロエチレン粉体および粒径が250μmよりも大きい第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含むポリテトラフルオロエチレン粉体と
を混合することを含み、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、前記第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量が10wt%よりも大きいであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリカーボネート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート組成物(polycarbonate composition)とその応用に関するものであり、特に、特定の粒径範囲分布のポリテトラフルオロエチレン粉体(polytetrafluoroethylene powder)を含むポリカーボネート組成物とその製造方法、および前記ポリカーボネート組成物を用いて製造される成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリカーボネート樹脂(polycarbonate resin)は、耐衝撃性、および単位体積当たりの質量が軽い、加工が容易である、絶縁性が高い等の利点を有するため、既に大規模生産され、光電産業、生命工学産業、情報電子産業等の分野に応用されている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂は、可燃性物質であるため、ポリカーボネート樹脂の難燃性を強化するため、通常、ハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤を添加して各製品の火災安全性を上げる方法が使用される。しかしながら、上述したハロゲン系難燃剤は、燃焼を抑制することはできるが、生産過程における分散性が悪く、ろ過網の目詰まりが起こりやすい。このような状況の場合、通常、生産を停止してろ過網を交換する必要があるため、生産効率を下げることになる。したがって、ろ過網の交換頻度を少なくし、且つポリカーボネート樹脂の難燃性を維持することのできる組成物の開発が喫緊の課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ろ過網の交換頻度を少なくして生産効率を上げるとともに、優れた難燃性を有し、且つ難燃性に優れた成形品を製造することのできるポリカーボネート組成物およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリカーボネート組成物は、ポリカーボネートと、ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含む。前記ポリテトラフルオロエチレン粉体は、粒径が120μmよりも小さい第1ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい第2ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が250μmよりも大きい第3ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含み、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%よりも大きい。
【0006】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、60wt%よりも小さい。
【0007】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第2ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%〜60wt%である。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%〜20wt%である。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、40wt%〜60wt%である。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第2ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%〜40wt%である。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリカーボネート組成物は、さらに、リン系難燃剤およびスチレン系ポリマーを含む。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリカーボネート100重量部に対し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、0.4重量部〜1.2重量部であり、前記リン系難燃剤の含有量は、10重量部〜25重量部であり、前記スチレン系ポリマーの含有量は、4重量部〜16重量部である。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、前記ポリカーボネート組成物は、さらに、スチレン系ポリマーを含み、ポリカーボネートとスチレン系ポリマーの合計100重量部に対し、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、0.4重量部〜1.2重量部である。
【0014】
本発明の成形品は、上述したポリカーボネート組成物により製造される。
【0015】
本発明の上述したポリカーボネート組成物の製造方法は、ポリカーボネートとポリテトラフルオロエチレン粉体を混合することを含む。前記ポリテトラフルオロエチレン粉体は、粒径が120μmよりも小さい第1ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい第2ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が250μmよりも大きい第3ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含み、前記ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%よりも大きい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明が提出するポリカーボネート組成物は、特定の粒径範囲および含有量比率の第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含有するポリテトラフルオロエチレン粉体を含むため、このポリカーボネート組成物により、ろ過網の交換頻度を少なくし、且つ優れた難燃性を有することができる。したがって、成形品の製造に使用した時、成形品は、優れた難燃性および生産効率を示す。
【0017】
本発明の上記および他の目的、特徴、および利点をより分かり易くするため、図面と併せた幾つかの実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実験例1および比較例1のポリカーボネート組成物を製造した時のダイ圧力(die pressure)と時間の関係図である。
図2】実験例1のポリカーボネート組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図3】実験例2のポリカーボネート組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
図4】比較例1のポリカーボネート組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態を参照しながら、ポリカーボネート組成物およびその応用について詳しく説明する。
【0020】
本明細書において、「ある数値から別の数値」で表示した範囲は、明細書で当該範囲内の全ての数値を1つ1つ挙げることを回避するための概要的表示方法である。したがって、ある特定数値範囲についての描写は、当該数値範囲内の任意の数値および当該数値範囲内の任意の数値により限定される比較的小さな数値範囲を含むことを意味し、明細書において明記されている当該任意の数値および当該比較的小さな数値範囲と同じである。
【0021】
生産過程におけるろ過網の交換頻度を少なくして生産効率を上げ、且つ難燃性に優れたポリカーボネート組成物を製造するため、本発明の実施形態は、上述した利点を達成することのできるポリカーボネート組成物を提供する。
【0022】
本発明の実施形態において、ポリカーボネート組成物は、ポリカーボネートと、ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含む。以下、これらの成分について詳しく説明する。
【0023】
〔ポリカーボネート〕
【0024】
ポリカーボネートの合成方法は特に限定されず、一般的な方法として、ホスゲン化法、エステル交換法、開環重合法および二酸化炭素重合法等がある。詳しく説明すると、ホスゲン化法は、均一系または不均一系において、アルカリ液に溶解したジヒドロキシアリール化合物と溶媒(例えば、ジクロロメタン)に溶解したホスゲン(phosgene)を、アミンを触媒として重合反応させる方法である。エステル交換法は、溶融状態において、ジヒドロキシアリール化合物とカーボネート系化合物(例えば、炭酸ジフェニル、炭酸ジメチル)をエステル交換反応させる方法である。より好ましくは、ジヒドロキシアリール化合物とカーボネート系化合物を溶融状態でエステル交換反応させるエステル交換法である。
【0025】
ポリカーボネートの種類は特に限定されず、ポリカーボネートは、周知の単一モノマーポリカーボネートまたはコポリカーボネートであってもよい。また、ポリカーボネートは、ジヒドロキシアリール化合物とカーボネート系化合物をエステル交換反応させて製造するのがより好ましい。詳しく説明すると、ジヒドロキシアリール化合物は、ジヒドロキシビフェニル化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)アルカン化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)ジアルカン化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)‐スルフィド、ビス‐(ヒドロキシフェニル)エーテル化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)ケトン化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)スルホキシド化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)スルホン化合物、アルキルシクロヘキシレンビスフェノール化合物、ビス‐(ヒドロキシフェニル)ジイソプロピルベンゼン化合物、上述した化合物のアルキル誘導体、上述した化合物のハロゲン化誘導体またはその組み合わせから選ばれる。
【0026】
上述したジヒドロキシアリール化合物の具体例は、4,4‐ジヒドロキシジフェニル、2,2‐ビス‐(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン(2,2-bis(4-hydroxyphenyl)propane、略称は、ビスフェノールA(bisphenol A))、2,4‐ビス‐(4‐ヒドロキシフェニル)‐2‐メチルブタン、1,1‐ビス‐(4‐ヒドロキシフェニル)‐シクロヘキサン(1,1-bis(4-hydroxyphenyl)cyclohexane)、α,α‐ビス‐(4‐ヒドロキシフェニル)‐ジイソプロピルベンゼン、2,2‐ビス‐(3‐メチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロパン、2,2‐ビス‐(3‐クロロ‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロパン、ビス‐(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐メタン、2,2‐ビス‐(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロパン(2,2-bis(3,5-dimethyl-4-hydroxyphenyl)propane)、ビス‐(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐スルホン、2,4‐(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐2‐メチルブタン、1,1‐ビス‐(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐シクロヘキサン、α,α‐ビス‐(3,5‐ジメチル‐4‐ヒドロキシフェニル)‐p‐ジイソプロピルベンゼン、2,2‐ビス‐(3,5‐ジクロロ‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロパン、2,2‐ビス‐(3,5‐ジブロモ‐4‐ヒドロキシフェニル)‐プロパン(2,2-bis(3,5-dibromo-4-hydroxyphenyl)propane)、ハロゲン化ビスフェノール(halogenated bisphenol)、ヒドロキノン(hydroquinone)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)メタン(bis(4-hydroxyphenyl)methane)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルフィド(bis(4-hydroxyphenyl)sulfide)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホン(bis(4-hydroxyphenyl)sulfone)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)スルホキシド(bis(4-hydroxyphenyl)sulfoxide)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ケトン(bis(4-hydroxyphenyl)ketone)、ビス(4‐ヒドロキシフェニル)エーテル(bis(4-hydroxyphenyl)ether)、上述した化合物のホモポリマー、上述した化合物のコポリマーまたはその組み合わせを含む。ジヒドロキシアリール化合物は、2,2‐ビス‐(4‐ヒドロキシフェニル)プロパンであるのがより好ましい。
【0027】
上述したカーボネート系化合物は、ジフェニルカーボネート(diphenyl carbonate)、ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)またはその組み合わせを含むが、本発明はこれに限定されない。
【0028】
また、ポリカーボネートの末端基構造は特に限定されない。上述した末端基は、ヒドロキシル基、芳香族炭化水素カーボネートおよびアルキルカーボネート等を含むが、本発明はこれに限定されない。本発明において使用するポリカーボネートは、1個または1個以上のヒドロキシル基の末端基を含む。詳しく説明すると、ポリカーボネートの末端基のヒドロキシル基は、ジヒドロキシアリール化合物に由来する。
【0029】
また、後に成形物を製造できるよう、ポリカーボネートのメルトフローレートを適切に調整する必要がある。1つの実施形態において、ポリカーボネートのメルトフローレート範囲は、15g/10分〜25g/10分であるのが好ましく、さらに好ましくは、15g/10分〜22g/10分である。ポリカーボネートのメルトフローレートが25g/10分よりも大きい時、比較的薄い素子を製造することができるが、成形品はこの後の加工時において強度不足により割れやすい等の問題が生じる。ポリカーボネートのメルトフローレートが15g/10分よりも小さい時、流動性不良によりダイ全体を充填するのが難しいため、同じ条件では比較的厚い素子しか製造することができない。
【0030】
また、ポリカーボネートの重量平均分子量範囲は、15,000〜35,000であり、より好ましくは、20,000〜30,000である。
【0031】
〔ポリテトラフルオロエチレン粉体〕
【0032】
ポリテトラフルオロエチレン粉体は、フィブリル形成能を有するフッ素ポリマーである。いわゆるフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン粉体は、極めて高い分子量を有し、せん断力等の外部作用により、ポリテトラフルオロエチレン粉体間を結合して繊維状になる傾向を示す。標準比重から求められる数平均分子量は、100万〜1000万であり、より好ましくは、200万〜900万である。また、このようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン粉体により、樹脂中の分散性を上げ、且つさらに優れた難燃性および機械特性を得ることができる。このようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン粉体の市販品としては、例えば、デュポンフロロケミカル社製のテフロン(teflon)(登録商標)6J、ダイキン化学工業社製のポリフロン(polyflon)MPA FA500およびF‐201L等が挙げられる。
【0033】
本実施形態において、ポリテトラフルオロエチレン粉体は、粒径が120μmよりも小さい第1ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい第2ポリテトラフルオロエチレン粉体と、粒径が250μmよりも大きい第3ポリテトラフルオロエチレン粉体とを含む。
【0034】
ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第1ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%よりも大きく、より好ましくは、10wt%〜20wt%である。
【0035】
ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第2ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、10wt%〜60wt%であり、より好ましくは、10wt%〜40wt%である。
【0036】
ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対し、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、60wt%よりも小さく、より好ましくは、40wt%〜60wt%である。
【0037】
また、本実施形態において、ポリカーボネート組成物は、さらに、リン系難燃剤およびスチレン系ポリマーを含む。以下、これら2種類の成分について詳しく説明する。
【0038】
〔リン系難燃剤〕
【0039】
リン系難燃剤は、単独で、または混合して使用することができ、且つリン系難燃剤は、芳香族リン酸エステルまたは芳香族リン酸エステルポリマー等を含むが、本発明はこれに限定されない。本実施形態において、芳香族リン酸エステルは、単独で、または混合して使用することができ、且つ芳香族リン酸エステルの具体例は、ビスフェノールAビス‐ジフェニルホスファート(bisphenol A bis-diphenylphosphate, BDP)、リン酸トリフェニル(triphenyl phosphate, TPP)、リン酸トリクレジル(tricresyl phosphate, TCP)、リン酸トリシリル(trixylyl phosphate)、リン酸クレジルジフェニル(cresyldiphenyl phosphate, CDP)、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート(tri(isopropylphenyl)phosphate, TIPP)、トリス(2,6‐ジメチル)フェニルホスフェート、ビス(2,6‐ジメチルフェニル)フェニルホスフェート、(2,6‐ジメチルフェニル)ジフェニルホスフェートまたはレゾルシノールビスジフェニルホスフェート(resorcinol bis diphenylphosphate, RDP)を含む。
【0040】
〔スチレン系ポリマー〕
【0041】
スチレン系ポリマーは、ゴム変性(rubber modified)スチレンポリマー、非ゴム変性スチレンポリマーまたはその混合物を含むことができる。1つの実施形態において、スチレン系ポリマーは、ゴム変性スチレンポリマー、またはゴム変性スチレンポリマーと非ゴム変性スチレンポリマーの混合物であるのがより好ましい。
【0042】
ゴム変性スチレンポリマーは、変性用ゴムポリマーにより形成された分散相と、スチレンポリマーにより形成された連続相とを含み、ゴムポリマーは、スチレンポリマー内に分散される。上述したゴム変性スチレンポリマーの製造方法は、例えば、塊状重合法、溶液重合法および塊状懸濁重合法等であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、ゴム変性スチレンポリマーは、芳香族ビニルモノマー(例えば、スチレン、α‐メチルスチレンまたはp‐メチルスチレン)および添加する必要があるとみなされる芳香族ビニルモノマーと共重合できるコモノマーを従来の方法(例えば、乳化重合法)を用いてゴムポリマーにグラフト重合することにより得られる。
【0043】
詳しく説明すると、ゴム変性スチレンポリマーは、ゴムポリマー(固形分)およびモノマー成分をグラフト重合反応させることにより得られ、モノマー成分は、スチレン系モノマーおよびアクリロニトリル系モノマーを含む。グラフト重合反応において、乳化剤、重合開始剤または連鎖移動剤等を選択的に添加してもよい。
【0044】
ゴムポリマーは、ゴム成分を乳化重合法により得たものであり、乳化重合反応においてその他の共重合可能なモノマーを選択的に添加し、且つ乳化重合反応後にさらに肥大処理を選択的に行う。その他の共重合可能なモノマーは、スチレン、アクリロニトリルおよびメタクリレート等を含むが、本発明はこれに限定されない。ゴムポリマーは、ジエン系ゴム、ポリアクリレート系ゴムまたはポリシロキサン系ゴムを含む。
【0045】
ジエン系ゴムは、単独で、または混合して使用することができ、且つジエン系ゴムは、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン‐ジエン系ゴム、アクリロニトリルゴム等を含むが、本発明はこれに限定されない。
【0046】
スチレン系モノマーは、単独で、または混合して使用することができ、且つスチレン系モノマーは、スチレン、α‐メチルスチレン、α‐クロロスチレン、p‐第3ブチルスチレン、p‐メチルスチレン、o‐クロロスチレン、p‐クロロスチレン、2,5‐ジクロロスチレン、3,4‐ジクロロスチレン、2,4,6‐トリクロロスチレンまたは2,5‐ジブロモスチレン等を含むが、本発明はこれに限定されない。そのうち、スチレン系モノマーは、スチレン、α‐メチルスチレンまたはこれらの組み合わせであるのがより好ましい。
【0047】
アクリロニトリル系モノマーは、単独で、または混合して使用することができ、且つアクリロニトリル系モノマーは、アクリロニトリルまたはα‐メタクリロニトリル等を含むが、本発明はこれに限定されない。そのうち、アクリロニトリル系モノマーは、アクリロニトリルであるのがより好ましい。
【0048】
ゴム変性スチレンポリマー中、ゴムポリマーの含有量は、5重量%〜80重量%の範囲内であるのがより好ましく、さらに好ましくは、10重量%〜60重量%の範囲内である。ゴム変性スチレンポリマー中のゴムポリマーの含有量が5重量%よりも低い時、ポリカーボネート組成物は、耐衝撃性が不十分になり、ゴム変性スチレンポリマー中のゴムポリマーの含有量が80重量%よりも高い時、ポリカーボネート組成物は、熱安定性と剛性だけでなく、溶融流動性も下がり、変色とゲル化現象が発生する。ゴム変性スチレンポリマー中のゴムポリマーの平均直径は、0.1μm〜2,0μmであるのがより好ましく、さらに好ましくは、0.1μm〜1.0μmであり、よりさらに好ましくは、0.2μm〜0.6μmである。ゴムポリマーの平均直径が0.1μmよりも小さい時、ポリカーボネート組成物は、耐衝撃性が不十分になり、ゴムポリマーの平均直径が2.0μmを超えた時、ポリカーボネート組成物は、溶融流動性が下がり、このポリカーボネート組成物を用いて製造された成形物は、外観が悪くなる。
【0049】
ゴム変性スチレンポリマーの実例は、耐衝撃性ポリスチレン(High Impact Polystyrene,HIPS)樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(acrylonitrile-butadiene-styrene copolymer,ABS)、アクリロニトリル‐アクリレート‐スチレン共重合体(acrylonitrile-acrylate-styrene copolymer,AAS)、乳化重合ゴムグラフト共重合体(BP)、アクリロニトリル‐エチレン‐プロピレンゴム‐スチレン共重合体(AES)またはメタクリル酸メチル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(MS)を含む。
【0050】
本実施形態において、ゴム変性スチレンポリマーの具体例は、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体または乳化重合ゴムグラフト共重合体を含む。
【0051】
非ゴム変性スチレンポリマーは、ゴム変性スチレンポリマーと実質的に同じ方法により製造することができ、異なる点は、ゴムポリマーを使用していないことのみである。つまり、非ゴム変性スチレンポリマーは、芳香族ビニルモノマー(例えば、スチレン、α‐メチルスチレンまたはp‐メチルスチレン)と添加する必要があるとみなされる不飽和ニトリルモノマー(例えば、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリル)またはその他のモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート;および無水マレイン酸およびN‐置換マレイミド)により得られる。非ゴム変性スチレンポリマーの実例は、一般用ポリスチレン(general-purpose polystyrene,GPPS)、アクリロニトリル‐スチレン共重合体(acrylonitrile-styrene copolymer, AS)またはブチルアクリレート‐アクリロニトリル‐スチレン共重合体(BAAS)を含む。
【0052】
また、ポリカーボネート100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、0.4重量部〜1.2重量部であり、リン系難燃剤の含有量は、10重量部〜25重量部であり、スチレン系ポリマーの含有量は、4重量部〜16重量部である。
【0053】
また、ポリカーボネートとスチレン系ポリマーとの合計100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量は、0.4重量部〜1.2重量部であり、さらに好ましくは、0.5重量部〜1重量部である。
【0054】
また、ポリカーボネートとスチレン系ポリマーとの合計100重量部に対し、リン系難燃剤の含有量は、10重量部〜25重量部であり、さらに好ましくは、13重量部〜23重量部である。
【0055】
本発明のポリカーボネート組成物の効果を損なわない範囲内であれば、ポリカーボネート組成物は、添加の必要に応じて、その他の添加剤を使用してもよい。添加剤は、単独で、または混合して使用することができ、且つ添加剤は、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、潤滑剤、核化剤、帯電防止剤、離型剤、着色剤(例えば、染料および顔料)、難燃剤、可塑剤、強靭化剤、その他の樹脂(例えば、ゴム系ポリマー)または類似物等を含むが、本発明はこれに限定されない。
【0056】
本発明の別の実施形態は、上述したいずれかのポリカーボネートにより製造される成形品を提供する。成形品の製造方法は、混練法、加工成形法等を採用することができ、混練法および加工成形法は、周知の方法を採用することができるため、ここでは説明を省略する。また、本発明の成形品は、電子および電動工具部材、情報産業および通信機材のケースおよびその他の製品のケース(例えば、家電用品)等であってもよい。
【0057】
本発明の別の実施形態は、上述したいずれかのポリカーボネート組成物の製造方法を提供する。この方法は、上述したポリカーボネートとポリテトラフルオロエチレン粉体を混合することを含む。1つの実施形態において、ポリカーボネートとポリテトラフルオロエチレン粉体を混合するステップは、上述したスチレン系ポリマーをさらに含み、二軸押出機を使用して270℃の混練温度で混練を行い、上述したリン系難燃剤をさらに追加して混練と押出を行ってもよい。
【0058】
以下、実験例を参照して本発明をさらに具体的に説明する。以下の実験例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順等は、本発明の範囲内で適宜変更することができる。したがって、本発明は、以下の実験例により限定的に解釈されるものではない。
<実験>
【0059】
実験例1〜実験例5および比較例1〜比較例4のポリカーボネート組成物に使用された材料および設備は、以下の通りである:
【0060】
ポリカルボネート:
奇美実業社製、商品名ワンダーライト(wonderlite)PC‐110
【0061】
ポリテトラフルオロエチレン粉体:
高盛電子社製、商品名SNB‐7
【0062】
スチレン系ポリマー:
アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)、国喬石油化学社製、商品名60P;または乳化重合ゴムグラフト共重合体(BP)、奇美実業社製
【0063】
リン系難燃剤:
ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)、旭電化工業(ADEKA)社製、商品名FP‐600
【0064】
振動ふるい分け機:
オクタゴン(Octagon)社製、設備名D200(デジタル)
【0065】
高速撹拌機:
ミキサコ(Mixaco)社製、設備名CM‐1000‐D
【0066】
二軸押出機:
W&P社製、設備名ZSK‐25。
<第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の製造>
【0067】
60gのポリテトラフルオロエチレン粉体(SNB‐7)を振動ふるい分け機上端の16メッシュ(mesh)の篩い網(孔サイズ:1.0mm)の上に置く。振動ふるい分け機は、上端の篩い網だけでなく、この篩い網の下に、順番に40メッシュ(孔サイズ:380μm)、60メッシュ(孔サイズ:250μm)、100メッシュ(孔サイズ:150μm)、120メッシュ(孔サイズ:120μm)、250メッシュ(孔サイズ:58μm)の篩い網および受け台を有する。振幅を70rpmに設定して10分間振動させた後、各篩い網および受け台に残留したポリテトラフルオロエチレン粉体を取り出す。250メッシュ(孔サイズ:58μm)の篩い網および受け台上のポリテトラフルオロエチレン粉体を収集した後、混合して第1ポリテトラフルオロエチレン粉体が得られる。60メッシュ(孔サイズ:250μm)、100メッシュ(孔サイズ:150μm)、120メッシュ(孔サイズ:120μm)の篩い網上のポリテトラフルオロエチレン粉体を収集した後、混合して第2ポリテトラフルオロエチレン粉体が得られる。16メッシュ(孔サイズ:1.0mm)、40メッシュ(孔サイズ:380μm)上のポリテトラフルオロエチレン粉体を収集した後、混合して第3ポリテトラフルオロエチレン粉体が得られる。
【0068】
上記のステップを行った後、得られたポリテトラフルオロエチレン粉体(SNB‐7)中の第1ポリテトラフルオロエチレン粉体、第2ポリテトラフルオロエチレン粉体および第3ポリテトラフルオロエチレン粉体の含有量の比率は、ポリテトラフルオロエチレン粉体の合計100wt%に対し、第1ポリテトラフルオロエチレン粉体が3wt%、第2ポリテトラフルオロエチレン粉体が55.17wt%、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体が41.83wt%であった。下記の実験例および比較例は、表1に基づいて、各ポリテトラフルオロエチレン粉体に必要な比率を自ら選択する。
<ポリカーボネート組成物の製造>
実験例1〜実験例5および比較例1〜比較例4
【0069】
以下の表1の各成分の種類および使用量に基づいて、ポリカーボネート組成物、ポリテトラフルオロエチレン粉体およびアクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS)または乳化重合ゴムグラフト共重合体(BP)を高速撹拌機により均一に混合して混合物を形成する。表1に列記した重量比率に基づいて、ポリテトラフルオロエチレン粉体は、上述した第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を選択し、混合して形成されたものである。続いて、その混合物を二軸押出機の主ホッパーに入れ、二軸押出機の混練温度を270℃にする。その後、以下の表1の使用量に基づいて、ビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)を側方供給により二軸押出機の中に入れ、その混合物とビスフェノール−Aビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)に対して混練と押出を行って、ポリカーボネート組成物を製造する。
【0070】
また、上述したポリカーボネート組成物を大量生産する過程において、設定した時間間隔で二軸押出機のダイ圧力を測定することにより、運転からろ過網の交換が必要となるまでの時間を評価し、本文中では運転時間と定義する。業界において、ダイ圧力は、約30〜40barになった時にろ過網の交換が必要となる。得られた結果は、表1および図1に示した通りである。図1は、実験例1および比較例1のポリカーボネート組成物を製造する時のダイ圧力と時間の関係図である。
【0071】
表1および図1からわかるように、比較例1〜比較例4と比較して、実験例1〜実験例5のポリカーボネート組成物の運転時間は、12〜17時間延長された。つまり、特定の粒径範囲(120μmよりも小さい粒径、120μmよりも大きいかそれに等しく、且つ250μmよりも小さいかそれに等しい粒径、250μmよりも大きい粒径)および含有量比率の第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含有するポリテトラフルオロエチレン粉体を使用することによって、本発明のポリカーボネート組成物は、生産過程におけるろ過網の交換頻度を少なくし、さらに、生産効率を上げることができる。
【0072】
また、以下のステップにより、ポリカーボネート組成物中のポリテトラフルオロエチレン粉体の分散性を評価する:二軸押出機が押出した粘着ストリップ(長さ0.2m)を温度−196℃の液体窒素の中に約1分間置いた後、それを取り出し、折って破断する。続いて、走査型電子顕微鏡(SEM、倍率は30〜50,000X)を使用し、1500倍に固定してポリテトラフルオロエチレン粉体の分散性を観察する。得られた結果は、図2図4に示した通りである。図2は、実験例1のポリカーボネート組成物の走査型電子顕微鏡写真であり、図3は、実験例2のポリカーボネート組成物の走査型電子顕微鏡写真であり、図4は、比較例1のポリカーボネート組成物の走査型電子顕微鏡写真である。
【0073】
図2図4からわかるように、実験例1および実験例2のポリカーボネート組成物中のポリテトラフルオロエチレン粉体は、毛細血管状の分散(capillary dispersion)が見られた。反対に、比較例1のポリカーボネート組成物中のポリテトラフルオロエチレン粉体は、動脈状の分散(arterial dispersion)が見られた。つまり、本発明のポリカーボネート組成物において、特定の粒径範囲および含有量比率の第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含有するポリテトラフルオロエチレン粉体は、優れた分散性を有するため、生産過程におけるろ過網の交換頻度を少なくすることができる。
【0074】
また、得られたポリカーボネート組成物をそれぞれ射出成型機(JSW社製、設備名180H、射出成型温度は230℃〜260℃)により物性試験片を作成し、各物性試験片に対して難燃性の評価を行う。上述した測定項目の説明は以下の通りであり、評価結果は以下の表1に示した通りである。
<UL難燃性>
【0075】
UL‐94規格に基づいて試験を行い、厚さが1.5mmの試験サンプルを用いて難燃性を測定する。各試験サンプルは合わせて5つの試験片があり、各試験片に対して2回燃焼試験を行う。各回の燃焼間隔は10±0.5秒であり、最初の点火から消火までの時間をt1、2回目の点火から消火までの時間をt2とし、2回の燃焼時間を合わせた(t1+t2)を総燃焼時間とした。評価方法は:
V0グレード:総燃焼時間≦30秒であり、燃焼液滴(droplet combustion)の問題が生じなければ、耐燃焼液滴性が有ることを示す。
【0076】
表1において、V0グレードの基準に符合する場合は○で示す。
【0077】
【表1】
*単位重量部:ポリカーボネートとBPまたはABSの合計100重量部に対する表示
**単位wt%:ポリテトラフルオロエチレン粉体の総重量に対する表示
【0078】
表1からわかるように、実験例1〜実験例5のポリカーボネート組成物または比較例1〜比較例4のポリカーボネート組成物に関わらず、いずれもUL‐94のV0グレードの基準に符合している。つまり、特定の粒径範囲および含有量比率の第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含有するポリテトラフルオロエチレン粉体を使用することにより、本発明のポリカーボネート組成物は、生産過程においてろ過網の交換頻度を少なくして生産効率を上げるだけでなく、優れた難燃性を維持することもできる。
【0079】
以上のように、上述した実施形態が提出するポリカーボネート組成物は、特定の粒径範囲および含有量比率の第1、第2、第3ポリテトラフルオロエチレン粉体を含有するポリテトラフルオロエチレン粉体を含むため、このポリカーボネート組成物により、ろ過網の交換頻度を少なくし、且つ優れた難燃性を有することができる。したがって、成形品の製造に使用した時、成形品は、優れた難燃性および生産効率を示す。
【0080】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
図1
図2
図3
図4