【解決手段】傘部13から軸部11にかけて中空部Sを有し、中空部Sに不活性ガスとともに冷却材19が装填されたバルブ10と、支持部材側層81とバルブ当り面側層82を2層一体化してなる鉄基焼結合金製バルブシート8との組合せ体1において、バルブ10は、20〜1000℃における熱伝導率が5〜45(W/m・K)である材料製であり、傘部13内の大径中空部S1と軸部11の小径中空部S2とがほぼ直交するように連通し、大径中空部S1における小径中空部S2の開口周縁部がバルブ10の中心軸線Lに対し略直交する平面で構成され、バルブシート8は、20〜300℃における熱伝導率が23〜50(W/m・K)である支持部材側層81と10〜22(W/m・K)であるバルブ当り面側層82からなる。
前記バルブの前記中空部が、前記傘部内に設けられた略円盤状の大径中空部と、前記軸部に設けられたほぼ直線状の小径中空部とからなり、前記大径中空部と前記小径中空部とがほぼ直交するように連通し、前記大径中空部における前記小径中空部の開口周縁部が前記バルブの中心軸線に対し略直交する平面で構成されてなることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記大径中空部が、前記傘部の外形に略倣うテーパー形状の外周面を備えた円錐台形状に構成されてなることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記バルブが、該バルブ表面のうち少なくとも前記バルブシートと当接する領域に、盛金していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記バルブの前記材料が、耐熱鋼およびその相当品、またはNi基超合金およびその相当品のうちから選ばれた1種であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなる鉄基焼結合金製バルブシートであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記バルブ当り面側層が、基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5〜40%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製であり、
前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金製であること
を特徴とする請求項7または8に記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記支持部材側層が、前記基地部組成に加えてさらに、質量%で、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有する組成とすることを特徴とする請求項9に記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記バルブ当り面側層が、前記基地部組織に加えてさらに、基地相中に、固体潤滑剤粒子をバルブ当り面側層全量に対する質量%で、0.5〜4%分散させてなる基地部組織を有することを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
前記支持部材側層が、基地相中に、固体潤滑剤粒子を支持部材側層全量に対する質量%で、0.5〜4%分散させてなる組織を有することを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
傘部に形成された中空部の内部に冷却材(冷媒)を封入した中空ポペットバルブ(中空バルブ)では、冷却材(冷媒)の流動に伴い熱が移動して、バルブが高温になるのをある程度防止することができる。しかし、特許文献1に記載された技術では、バルブの耐久性、信頼性の向上は図れるが、バルブの熱引き効果に顕著な向上は望めなかった。また、特許文献2に記載された技術では、中空孔内周面の表面積が増加し、冷却媒体への熱伝達は増加する傾向となるが、しかし、冷却媒体(冷却材)の中空孔内の流れが乱れ、傘部からの抜熱が十分であるとはいえず、バルブの熱引き効果の顕著な向上は望めなかった。
【0007】
さらに、特許文献1、2に記載された技術では、燃焼室で発生する熱量が多くなりすぎると、中空孔内の冷却材(冷媒)流動によるバルブの熱引き効果を上回り、排気ガスに接触するバルブ傘部の温度が上昇しすぎる恐れがある。しかも、バルブの開閉時には、バルブの傘部と中空軸部との接続部となる首部や、傘部斜面、バルブシートとの当たり面等に大きな負荷がかかり、バルブ温度が上昇しすぎていると、負荷の高い部位で、温度上昇による強度低下、摩耗、腐食等に起因する破損が起こることが懸念され、エンジントラブルの原因に繋がるという問題があり、更にバルブの熱引き効果を向上させ、傘部の温度上昇を抑制する必要があることに思い至った。
【0008】
また、特許文献3に記載された技術では、最近のエンジン性能の向上に伴うバルブの温度上昇を抑制するには不十分で、更なるバルブシートの熱引き効果の向上が要望されていた。
また、従来においては、上記したように、中空ポペットバルブ自体、あるいはバルブシート自体の熱引き効果の向上については、いくつかの提案があるが、しかし、中空バルブを使用した場合のバルブとバルブシートの適正な組合せについての言及はない。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、中実バルブを使用した従来のバルブとバルブシートの組合せ体に比べ、バルブ温度の上昇を顕著に抑制できる、内燃機関用中空ポペットバルブとバルブシートの組合せ体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、まず、中空ポペットバルブ(中空バルブ)の熱引き効果をさらに高めるべく、種々の検討を行った。その結果、バルブ中空部内の冷却材(冷媒)に循環流を形成させる必要があることに思い至った。中空部内全体の冷却材(冷媒)に循環流が形成されれば、冷却材の上層部、中層部、下層部が互いに混ざりあうように撹拌されて、中空バルブの熱引き効果が著しく改善する。
【0011】
具体的には、
図1に示すように、傘部13内に設けられた略円盤状の大径中空部S1と、軸部11に設けられたほぼ棒状の小径中空部S2とがほぼ直交するように連通し、大径中空部における小径中空部の開口周縁部がバルブ10の中心軸線Lに対し略直交する平面13bで構成された中空ポペットバルブ(中空バルブ)10とする。
このような中空ポペットバルブでは、バルブ10を開閉動作する際に、大径中空部S1内の冷却材に、バルブ中心軸線Lの周りに縦方向内回りの循環流が形成されることを、コンピュータを用いたシミュレーションで確認した(
図2F1,F2,F3,F6,F8参照)。なお、
図2(a)は、バルブが下降する場合で、
図2(b)は、バルブが上昇する場合である。符号8はバルブシートである。
【0012】
そこで、本発明者らは、
図1に示すような構造の中空ポペットバルブを作製し、自動車用エンジンに組み付け、所定時間の暖機運転(徐々に回転数を上げる)を行った後、所定の回転数で高負荷運転を所定時間続けたのちの、バルブ首部の表面温度を、表面に溶着させた熱電対を用いて、測定した。なお、比較として、大径中空部S1と小径中空部S2との連通部Pが滑らかに連続する形状の従来の中空ポペットバルブ(
図8(b))についても同様の試験を行った。
【0013】
その結果、大径中空部S1における小径中空部S2の開口周縁部がバルブの中心軸線Lに対し略直交する平面13bで構成された中空ポペットバルブ(
図1)では、連通部Pが滑らかに連続する形状の従来の中空バルブ(
図8(b))に比べ、明らかにバルブの熱伝達性(熱引き効果)が向上していることを知見した。これは、
図8(b)に示す連通部Pが滑らかに連続する形状の従来の中空バルブでは、バルブの開閉に応じて、大径中空部S1と小径中空部S2との間を冷却材19がスムーズに移動するが、冷却材の上層部、中間部、下層部が撹拌されることなく上下関係を維持したままの状態で軸方向に移動しているだけであるのに対し、
図1に示す大径中空部S1における小径中空部S2の開口周縁部がバルブの中心軸線Lに対し略直交する平面13bで構成された中空バルブでは、軸方向内回りに循環流が形成されることによると考えられる。
【0014】
そこで、
図1に示す構造の中空ポペットバルブについて、実エンジンでの効果を確認する目的で、中空ポペットバルブにバルブシートを組み合わせて使用した場合のバルブの表面温度について、表面に溶着した熱電対を用いて、調査した。なお、基準として、中実バルブとバルブシートの組合せを用いた。中実バルブは、
図8(a)に示す形状とし、バルブシートは、いずれも、
図4(b)に示す、通常使用されている鉄基焼結合金製2層一体型のバルブシート(標準バルブシート)とした。
【0015】
その結果、中実バルブとバルブシート(標準バルブシート)とを組み合わせた場合にくらべ、中実バルブに代えて、
図1に示す中空ポペットバルブを使用した、中空バルブとバルブシート(標準バルブシート)の組合せでは、エンジン回転数が高回転数領域である場合に、バルブ温度の上昇が抑制されることを確認した。しかし、この組合せでは、一般的に使用頻度の高い、エンジン回転数が低中回転数領域で、高回転数領域に比べて熱引き量が少ないという問題があることを知見した。これは、低中回転数領域では、冷却材(冷媒)の上下撹拌が少ないことにより、バルブの熱引き量が少なくなるためであると推察される。
【0016】
そこで、広い範囲のエンジン回転数領域にわたり、バルブ温度の上昇を抑制する方策について、さらに検討した。その結果、エンジンの低中回転数領域におけるバルブ温度上昇を抑制し、熱引き量を大きくするには、
図1に示す中空ポペットバルブの使用に加えて、熱伝導性を高めた高熱伝導型バルブシートを使用する必要があることに想到し、熱引き効果の高い中空ポペットバルブと高熱伝導性のバルブシートとを組み合わせた、バルブとバルブシートの組合せ体とすることにより、エンジンの低中回転数領域から高回転数領域に至るまで、バルブ温度の上昇を抑制できるという顕著な効果が期待できることを見出した。バルブシートの熱伝導性が低いと、熱引き効果の高い中空バルブを使用しても、低中回転数領域でのバルブ温度上昇の抑制効果が少ない。
【0017】
まず、本発明の基礎となった実験結果について、説明する。
バルブとして、
図1に示す構造の中空ポペットバルブ(熱引き効果の高い中空バルブ)と、
図8(a)に示す形状の中実バルブを準備した。いずれも耐熱鋼(SUH 35)製とした。なお、中空ポペットバルブの中空孔内には金属ナトリウムNaを不活性ガスとともに封入した。
【0018】
一方、バルブシートとして、
図5(a)に示す寸法形状のバルブシート(高熱伝導型バルブシート)、
図5(b)に示す寸法形状のバルブシート(標準バルブシート)を準備した。
なお、バルブシートは、いずれも、バルブ当り面側層を基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、基地部が質量%で、1.0%Cで、Co、Mo、Si、Ni等の合金元素を合計で40%を含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる鉄基焼結合金製とし、支持部材側層を質量%で、C:1.0%を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる鉄基焼結合金製とした。このような組成を有するバルブ当り面側層は、レーザーフラッシュ法で測定した、20℃から300℃における熱伝導率が10〜22W/m・Kで、また、支持部材側層は、20℃から300℃における熱伝導率が25〜50W/m・Kであった。
【0019】
また、高熱伝導型バルブシートでは、バルブ当り面側層をバルブシート全量に対する体積%で26%とし、バルブ当り面側層と支持部材側層との境界面を、バルブシート断面で、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mm以上離れた1.0mmの点と、バルブシートの外周面上で、バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2以上である、バルブシート高さの5/6となる点と、バルブシート内周面上で着座面からの距離で2.5mm離れた点を含む面とした。一方、標準バルブシートでは、バルブ当り面側層をバルブシート全量に対する体積%で51%とし、バルブ当り面側層と支持部材側層との境界面を、バルブシート軸に対し90°の面とした。
【0020】
これらのバルブおよびバルブシートをそれぞれ組み合わせて、自動車用ガソリンエンジン(1.8リットル、直列4気筒)に組み付けた。バルブとバルブシートの組合せは、中実バルブと標準バルブシートの組合せ体(No.a)、中実バルブと高熱伝導型バルブシートの組合せ体(No.b)、中空バルブと標準バルブシートの組合せ体(No.c)、中空バルブと高熱伝導型バルブシートの組合せ体(No.d)とした。なお、バルブの首部に、熱電対を溶着してバルブ表面温度を測定した。
【0021】
所定時間の暖機運転を行ったのち、所定の回転数で高負荷運転を所定の運転条件で行ない、バルブの表面温度を測定した。所定の回転数は1000〜5500rpmとした。
得られた結果を、エンジン回転数とバルブ表面温度との関係で
図6に示す。
図6から、中空ポペットバルブを使用したバルブとバルブシートの組合せ体No.c、No.dが、バルブシートの種類によらず、中実バルブ−標準バルブシートの組合せ体No.aの場合に比較して、バルブ表面温度の上昇が強く抑制されていることがわかる。とくに、エンジンの回転数が高回転数になるほど、バルブ表面温度上昇の抑制効果が大きくなることがわかる。さらに、中空ポペットバルブと高熱伝導性バルブシートとを組合せたバルブとバルブシートの組合せ体No.dでは、中空ポペットバルブと標準バルブシートとを組合せた組合せ体No.cにくらべ、低中回転数から高回転数の広範囲にわたって、バルブ温度の上昇が顕著に抑制されていることがわかる。しかも、組合せ体No.dでは、組合せ体No.cにくらべ、とくに、1000〜3500rpmの低中回転数でもバルブ温度上昇の抑制効果が大きいことを知見した。
【0022】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)内燃機関におけるバルブとバルブシートの組合せ体であって、前記バルブを、20〜1000℃における熱伝導率が5〜45(W/m・K)である材料製で、軸端部に傘部が一体的に形成し、かつ該傘部から軸部にかけて中空部が形成され、該中空部に不活性ガスとともに冷却材が装填されたバルブとし、かつ前記バルブシートを、支持部材側層とバルブ当り面側層の2層を一体化してなる2層構造である鉄基焼結合金製バルブシートとし、前記支持部材側層が、20〜300℃における熱伝導率が23〜50(W/m・K)である層に、前記バルブ当り面側層が、20〜300℃における熱伝導率が10〜22(W/m・K)である層に形成してなることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(2)(1)において、前記バルブの前記中空部が、前記傘部内に設けられた略円盤状の大径中空部と、前記軸部に設けられたほぼ直線状の小径中空部とからなり、前記大径中空部と前記小径中空部とがほぼ直交するように連通し、前記大径中空部における前記小径中空部の開口周縁部が前記バルブの中心軸線に対し略直交する平面で構成されてなることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(3)(2)において、前記大径中空部が、前記傘部の外形に略倣うテーパー形状の外周面を備えた円錐台形状に構成されてなることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記冷却材が、前記バルブの材料より熱伝導率が高い材料であることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記バルブが、該バルブ表面のうち少なくとも前記バルブシートと当接する領域に盛金していることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記バルブの前記材料が、耐熱鋼およびその相当品、Ni基超合金およびその相当品のうちから選ばれた1種であることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(7)(1)ないし(6)のいずれかにおいて、前記鉄基焼結合金製バルブシートが、前記バルブ当り面側層と前記支持部材側層との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、前記バルブシートの内周面と前記バルブシートの着座面との交線と、前記バルブシートの外周面上で、前記バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面と、に囲まれる領域内に形成されてなる鉄基焼結合金製バルブシートであることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(8)(7)において、前記バルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、10〜60%であることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(9)(7)または(8)において、前記バルブ当り面側層が、基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有し、該基地部が、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有し、かつ前記硬質粒子を基地相中にフェイス面側層全量に対する質量%で、5〜40%分散させてなる基地部組織とを有する鉄基焼結合金製であり、前記支持部材側層が、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有する鉄基焼結合金製であることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(10)(9)において、前記支持部材側層が、前記基地部組成に加えてさらに、質量%で、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有する組成とすることを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(11)(7)ないし(10)のいずれかにおいて、前記バルブ当り面側層が、前記基地部組織に加えてさらに、基地相中に、固体潤滑剤粒子をバルブ当り面側層全量に対する質量%で、0.5〜4%分散させてなる基地部組織を有することを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
(12)(7)ないし(11)のいずれかにおいて、前記支持部材側層が、基地相中に、固体潤滑剤粒子を支持部材側層全量に対する質量%で、0.5〜4%分散させてなる組織を有することを特徴とする内燃機関用バルブとバルブシートの組合せ体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来に比べて、内燃機関の燃焼室まわり、とくにバルブの温度上昇を、エンジン回転数の広範囲にわたり抑制できるバルブとバルブシートの組合体を提供でき、自動車等の内燃機関の高出力化に有効に寄与できるという、産業上格段の効果を奏する。
また、本発明によれば、中空部の配設によりバルブ重量が軽減し、機械抵抗損失の低減や、バルブスプリング荷重の低減等を介し、フリクションの低減が可能となり、燃費向上に寄与できるという効果もある。また、本発明によれば、バルブの軽量化により、エンジンの最高回転数の向上にも寄与するという効果もある。
【0024】
さらに、本発明によれば、燃焼室温度が低減でき、ノッキングを抑制して、点火の進角化が進み、燃費向上やトルクの向上に寄与するという効果もある。また、本発明によれば、ノッキングの抑制が可能となり、燃料の高圧縮化に寄与し、燃費向上やトルクの向上に繋がるという効果もある。
また、本発明によれば、バルブの温度が低下し、バルブの疲労強度低下を抑制でき、これにより、耐熱性が低い安価な材料への変更も可能となり、材料コストの低減など経済性の向上にも寄与するという効果もある。また、本発明によれば、バルブ温度の低下を介して、燃焼室周りの温度上昇を抑制できることから、λ
1(理論空燃比)の拡大が可能となり、燃費向上に寄与するという効果もある。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明のバルブとバルブシートの組合せ体1は、
図1に示すように、内燃機関(エンジン)のシリンダヘッド2で、例えば排気通路6の燃焼室4への開口周縁部に圧入されたバルブシート8と、該バルブシート8のバルブ当り面8aに、フェイス部14が当接するバルブ10とを組合せたものをいう。なお、符号3は、シリンダヘッド2にも設けられバルブ挿通孔で、内周にはバルブガイド3aが配設されている。また、符号9は、バルブ10を開弁方向に付勢するスプリングである。
【0027】
まず、使用するバルブについて説明する。
本発明のバルブとバルブシートの組合せ体1では、軸11端部に傘部13が一体的に形成され、かつ傘部から軸部にかけて中空部Sが形成され、該中空部Sに不活性ガスとともに冷却材19が装填された中空ポペットバルブ(中空バルブ)10を使用する。
この中空ポペットバルブ10には、軸部11の一端側に外径が徐々に大きくなるR形状のフィレット部12を介して、傘部が一体的に形成されたバルブで、傘部の外周にはテーパー状のフェイス部14が設けられている。中空部Sには、アルゴンガス等の不活性ガスとともに冷却材19が装填(封入)される。冷却材(冷媒)としては、バルブ材よりも熱伝導率が高い材料、例えば、金属ナトリウム、金属カリウム等とすることが、熱引き効果の観点から好ましい。なお、封入される冷却材の量は、中空部体積の50%以上とすることが好ましい。
【0028】
本発明で使用する中空ポペットバルブは、20〜1000℃における熱伝導率が5〜45(W/m・K)である材料製のバルブとする。
このような熱伝導率を有するバルブ用材料としては、耐熱鋼およびその相当品、あるいはNi基超合金およびその相当品のうちから選ばれた1種とすることが好ましい。
耐熱鋼としては、JIS G 4311に規定される、マルテンサイト系またはオーステナイト系耐熱鋼が例示できる。JIS G 4311に規定される耐熱鋼のなかでは、耐熱強度の観点から、オーステナイト系耐熱鋼とすることが好ましい。
【0029】
また、Ni基超合金としては、Iconel 751、Nimonic 80A等が例示できる。
本発明で使用する中空バルブ10は、
図1に示すように、中空部Sが、傘部13内に設けられた略円盤状の大径中空部S1と、前記軸部11に設けられたほぼ直線状の小径中空部S2とからなり、大径中空部S1と小径中空部S2とがほぼ直交するように連通し、大径中空部S1における小径中空部S2の開口周縁部がバルブの中心軸線Lに対し略直交する平面13bで構成されてなるバルブとすることが好ましい。すなわち、小径中空部S2の内周面と小径中空部S2の開口周縁部とによって、庇状の環状段差部15が画成された構成とする。この環状段差部15の存在により、バルブが開閉動作する際に、中空部S内の冷却材には
図2の矢印で示すように、縦方向内回りの循環流が形成され、同時に小径中空部S2内の冷却材にも乱流が形成される。これにより、中空部S内の冷却材19の上層部〜下層部が積極的に撹拌されて、バルブの熱引き効果がより増大する。なお、
図2の(a)は、バルブが下降する場合であり、(b)は上昇する場合である。
【0030】
また、大径中空部は、傘部の外形に略倣うテーパー形状の外周面を備えた円錐台形状に構成されることが好ましい。これにより、大径中空部の容積を大きくでき、冷却材を多量に充填できる。また、円錐台の上面と円錐台の外周面とが鈍角をなすことから、バルブの開閉動作時に、冷却材のながれ(
図2におけるF1,F2,F6,F8)が円滑になり、循環流が活発化し、バルブの熱引き効果がより増大する。
【0031】
また、大径中空部S1は、
図3に示すように、その天井面13bを、上記した円錐台の上面に、バルブの軸部側に所定量Hだけオフセットする略円錐台形状に構成してもよい。これにより、装填される冷却材の量を増加させることができる。
また、本発明で使用する中空ポペットバルブでは、バルブシートと当接する領域(フェイス面)に、耐摩耗性、耐食性等を向上させる目的で、溶接等を用いて盛金を施してもよい。盛金の材料としては、ステライト(登録商標)に代表されるCo−Cr−Mo−C系合金や、トリバロイ(登録商標)に代表されるCo−Mo−Si系合金などのCo基表面硬化合金等が例示できる。
【0032】
なお、本発明で使用する、上記した構造の中空ポペットバルブは、上記した構造に成形できる製造方法であればよく、とくにその製造方法を限定する必要はない。
本発明で使用する中空ポペットバルブは、所定の組成を有する鋳造材、鍛造材、圧延材等をバルブ素材とし、切削、研削等の常用の加工により所定の寸法形状に成形してもよいが、本発明で使用する中空ポペットバルブでは、例えば、つぎに示す工程を経て製造することが生産性向上の観点から好ましい。
【0033】
すなわち、バルブ素材に、傘部外殻の内側に、例えば金型を用いた鍛造により、大径中空部に相当する凹部を成形する成形工程、凹部の底面に小径中空部に相当する穴を穿設する穴穿設工程、大径中空部に相当する凹部に冷却材(固体)を所定量装填する冷却材装填工程、不活性ガス雰囲気下で、該凹部の開口部にキャップを溶接し、中空部を密閉する中空部密閉工程と、を順次施し、
図1に示す構造の中空ポペットバルブとすることが好ましい。しかし、本発明で使用する中空ポペットバルブの製造方法は、これに限定されないことは言うまでもない。
【0034】
つぎに、本発明の組合せ体で使用するバルブシートについて説明する。
本発明で使用するバルブシート8は、鉄基焼結合金製のバルブシートとし、
図1に示すように、シリンダヘッド2の着座面に接する側に支持部材側層81と、バルブ10と当接する側にバルブ当り面側層82を有し、支持部材側層81とバルブ当り面側層82との2層を一体化してなる2層構造を有するバルブシート8とする。
【0035】
さらに、本発明で使用するバルブシートは、レーザーフラッシュ法で測定された20〜300℃における熱伝導率が、支持部材側層で23〜50W/m・K、バルブ当り面側層で10〜22W/m・K、を満足するバルブシートとする。
支持部材側層の熱伝導率が23W/m・K未満では、所望の高熱伝導性を確保できない。このため、支持部材側層の熱伝導率は23W/m・K以上に限定した。なお、支持部材側層を、熱伝導率が50W/m・Kを超えるような組成とすると、別に、強度を高める対策を必要とし、生産性が低下する。また、バルブ当り面側層の熱伝導率が10W/m・K未満では、合金元素量が多くなり、所望の強度を確保できなくなる。一方、バルブ当り面側層を、熱伝導率が22W/m・Kを超えるような組成とすると、所望の耐摩耗性を確保できなくなる。
【0036】
本発明では、上記した構造の中空バルブに組み合わせるバルブシートとしては、上記した熱伝導率を満足する構成からなる2層構造の鉄基焼結合金製バルブシートであれば、従来使用されていたバルブシートがいずれも好適に使用できる。
なお、本発明では、とくに、上記した構造の中空ポペットバルブに、熱伝導性を高めた高熱伝導型バルブシートを組み合わせて使用することが好ましい。このようなバルブとバルブシートの組合せでは、バルブ自体の熱引き効果に加えて、バルブとバルブシートの組合せ体の熱引き効果が顕著に向上する。とくに、エンジンの低中回転数領域での熱引き効果の向上が顕著となる。
【0037】
このような熱伝導性の高い高熱伝導型バルブシートとするためには、合金元素含有量が高く、熱伝導性が低いバルブ当り面側層をできるだけ薄くし、合金元素含有量が少なく熱伝導性に優れる支持部材側層を厚く構成し、しかもバルブシートの支持部材側層とシリンダヘッドとの接触面を拡大した構成とすることが肝要となる。そのため、本発明で使用する高熱伝導型バルブシートでは、
図4(a)に示すような、バルブ当り面側層82と支持部材側層81との境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線(A1)を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面(A面)と、バルブシートの内周面とバルブシート着座面との交線(B1)を含み、バルブシートの外周面上で、バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さhの1/2となる円形状の線(B2)とを含む面(B面)と、に囲まれる領域内に形成するとした。このような高熱伝導型バルブシートの形状を模式的に縦断面図で、
図4(a)に示す。なお、
図4(b)には、通常に使用されている標準のバルブシート(標準バルブシート)の形状を示す。標準バルブシートでは、境界面は、バルブシート軸とのなす角度が90°である面とする。
【0038】
バルブ当り面側層と支持部材側層との境界面が、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に0.5mmだけ離れた円形状の線(A1)を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面(A面)よりバルブ当り面側では、バルブ当り面側層が薄くなりすぎて、バルブシートの耐久性が低下する。なお、耐久性の観点からは、境界面を、バルブ当り面の幅方向の中央位置で、該バルブ当り面に垂直な方向にバルブ当り面から支持部材側に1 mm以上とすることがより好ましい。
【0039】
さらに境界面を、バルブシートの内周面とバルブシート着座面との交線と、バルブシートの外周面上で、バルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さhの1/2の円形状の線とを含む面(B面)より支持部材側となると、バルブ当り面側層の厚さが厚くなりすぎて、バルブシートの熱伝導性が低下する。なお、好ましくは、支持部材側層とシリンダヘッドの接触領域を最大とすることができるように、バルブ当り面側層と支持部材側層との境界面をバルブシート軸とのなす角度αが60°以下好ましくは40〜50°で、かつバルブシートの外周面上でバルブシートの着座面からの距離がバルブシート高さhの1/2以上、好ましくは3/4以上である円形状の線を含む面となるように調整することが好ましい。
【0040】
上記した高熱伝導型バルブシートの製造においては、支持部材側層用混合粉を仮押しする際の、仮押しパンチの成形面形状と、成形圧とのバランスが、またさらに、バルブ当り面側層用混合粉を圧縮する際の、パンチの成形圧の調整が、所望の境界面を安定して形成するうえで重要となる。具体的には、仮押しパンチの成形面形状を軸心に対する角度で20〜50°とし、仮押しパンチの成形圧が0.01〜3ton/cm
2となるように調整することが好ましい。
【0041】
仮押しパンチの成形面形状が軸心に対する角度で50°を超えると、所望の高い熱伝導性を確保できなくなる。一方、仮押しパンチの成形面形状が軸心に対する角度で20°未満では、成形時に粉末の移動が大きくなりすぎて、所望の境界面形状に成形できなくなる。また、仮押しパンチの成形圧が0.01ton/cm
2未満では、境界面が周方向、あるいは径方向でばらつき、所望の境界面精度を確保できない。一方、仮押しパンチの成形圧が3ton/cm
2を超えて大きくなると、支持部材側層とフェイス面側層との密着力が低下し、バルブシートの強度が低下する。このようなことから、仮押しパンチの成形面形状を軸心に対する角度で20〜50°とし、仮押しパンチの成形圧を0.01〜3ton/cm
2の範囲となるように調整することとした。
【0042】
また、本発明で使用する高熱伝導型バルブシートでは、境界面が上記した範囲内となるように調整するとともに、好ましくはバルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、10〜60%となるように調整する。バルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、10%未満では、バルブ当り面側層の厚さが薄く、耐久性が不足する。一方、60%を超えて多くなると、バルブ当り面側層の厚さが厚くなりすぎて、熱伝導性が低下する。
【0043】
なお、本発明で使用する標準型バルブシートでは、境界面をバルブシート軸に対する角度で90°とし、さらにバルブ当り面側層が、バルブシート全量に対する体積%で、40〜60%となるように調整することが好ましい。
本発明で使用するバルブシートのバルブ当り面側層は、基地相中に硬質粒子が分散した基地部を有する鉄基焼結合金製とする。基地相中に硬質粒子を分散させることにより、バルブシートの耐摩耗性が顕著に向上する。基地相中に分散させる硬質粒子は、Co基金属間化合物粒子等とすることが好ましい。Co基金属間化合物粒子は、比較的軟らかなCo基地中に硬さが高い金属間化合物が分散し、相手攻撃性が低いという特徴がある。なお、好ましいCo基金属間化合物粒子としては、Si−Cr−Mo系Co基金属間化合物粒子、Mo−Ni−Cr系Co基金属間化合物粒子が例示できる。
【0044】
バルブ当り面側層では、硬質粒子を、バルブ当り面側層全量に対する質量%で、5〜40%分散させることが好ましい。分散させる量が、5%未満では、所望の耐摩耗性が確保できない。一方、40%を超えて多量に分散させても、効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できなくなる。このため、バルブ当り面側層における硬質粒子の分散量はバルブ当り面側層全量に対する質量%で、5〜40%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは20〜30%である。
【0045】
なお、バルブ当り面側層では、上記した硬質粒子に加えてさらに、固体潤滑剤粒子をバルブ当り面側層全量に対する質量%で、0.5〜4%含有してもよい。含有量が0.5%未満では、所望の潤滑効果が期待できないうえ、切削性が低下する。一方、4%を超えて含有すると、効果が飽和するうえ、強度が低下する。このため、含有する場合には、0.5〜4%の範囲に限定することが好ましい。固体潤滑剤粒子としては、MnS、CaF
2が例示できる。
【0046】
バルブ当り面側層では、基地相と、硬質粒子と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子を含む基地部は、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を有することが好ましい。
C:0.2〜2.0%
Cは、焼結体の強度、硬さを増加させ、焼結時に金属元素の拡散を容易にする元素であり、このような効果を得るためには0.2%以上含有させることが好ましい。一方、2.0%を超える含有は、基地中にセメンタイトが生成しやすくなり、焼結時に液相が発生しやすく、寸法精度が低下する。このため、Cは0.2〜2.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.7〜1.3%である。
【0047】
Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上:合計で40%以下
Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sはいずれも、焼結体の強度、硬さを増加させ、さらには耐摩耗性向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには、硬質粒子起因を含め、少なくとも1種以上を選択して、合計で5%以上含有することが望ましい。一方、合計で40%を超えて含有すると、成形性、強度を低下させる。このため、Co、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、Sのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で40%以下に限定することが好ましい。なお、好ましくは合計で30%以下である。
【0048】
上記した以外のバルブ当り面側層の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
一方、本発明で使用するバルブシートの支持部材側層は、鉄基焼結合金製で、バルブ当り面側層と境界面を介して一体化されている。支持部材側層は、バルブとは接触せず、当たり面側層を支え、バルブシートとして所望の強度を確保できる組成とすることが好ましい。
【0049】
なお、支持部材側層は、必要に応じて、基地中にさらに固体潤滑剤粒子を支持部材側層全量に対する質量%で、0.5〜4%含有してもよい。含有量が0.5%未満では、所望の潤滑効果が期待できないうえ、切削性が低下する。一方、4%を超えて含有すると、効果が飽和するうえ、強度が低下する。このため、含有する場合には、0.5〜4%の範囲に限定することが好ましい。固体潤滑剤粒子としては、MnS、CaF
2が例示できる。なお、より好ましくは0.5〜3%である。
【0050】
本発明で使用するバルブシートの支持部材側層の基地相組成(固体潤滑剤粒子が分散している場合には、それを含む基地部組成)は、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、あるいはさらに、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることが好ましい。
C:0.2〜2.0%
Cは、焼結体の強度、硬さを増加させる元素であり、バルブシートとして所望の強度、硬さを確保するために、0.2%以上含有することが望ましい。一方、2.0%を超えて含有すると、基地中にセメンタイトが生成しやすくなるとともに、焼結時に液相が生成しやすくなり、寸法精度が低下する。このため、Cは0.2〜2.0%に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.7〜1.3%である。
【0051】
上記した成分が支持部材側層の基本の成分であるが、この基本組成に加えてさらに、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上を合計で20%以下含有してもよい。
Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上:合計で20%以下
Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pはいずれも、焼結体の強度、硬さを増加させる元素であり、必要に応じて、1種または2種以上含有できる。このような効果を得るためには、合計で5%以上含有することが望ましいが、熱伝導性の観点からはできるだけ少なくすることが好ましい。一方、合計で20%を超えると、成形性が低下する。このため、含有する場合には、Mo、Si、Cr、Ni、Mn、W、V、S、Pのうちから選ばれた1種または2種以上の合計で20%以下に限定することが好ましい。
【0052】
支持部材側層では、上記した以外の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
なお、支持部材側層は、レーザーフラッシュ法で測定された20〜300℃における熱伝導率が23(W/m・K)以上である熱伝導性の高い層とすることが肝要となる。そのため、支持部材側層は、上記した組成の範囲内でも、とくに高価な合金元素の含有を必要としない、質量%で、C:0.2〜2.0%を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる基地部組成を基本とする鉄基焼結合金製とすることが好ましい。
【0053】
次に、本発明で使用する鉄基焼結合金製バルブシートの好ましい製造方法について説明する。
本発明で使用する鉄基焼結合金製バルブシートは、ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチ、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダと、独立して駆動可能な仮押しパンチと、を有するプレス成形機を利用することが好ましい。
【0054】
まず、支持部材側層用の原料粉として、鉄系粉末と、黒鉛粉末、他の合金元素粉末等の合金用粉末と、潤滑剤粒子粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末と、を上記した所望の支持部材側層組成となるように、所定量配合し、混合、混練して支持部材側層用混合粉とすることが好ましい。
バルブ当り面側層用の原料粉としては、鉄系粉末と、黒鉛粉末、他の合金元素粉末等の合金用粉末と、硬質粒子粉末と、潤滑剤粒子粉末と、あるいはさらに固体潤滑剤粒子粉末と、を上記した所望のバルブ当り面側層組成となるように、所定量配合し、混合、混練してバルブ当り面側層用混合粉とすることが好ましい。
【0055】
第一のフィーダに支持部材側層用混合粉を、第二のフィーダにバルブ当り面側層用混合粉を装入しておく。まず、第一のフィーダを移動させたのち、ダイとコアロッドを下パンチに対し、相対的に上昇させて、支持部材側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間に支持部材側層用混合粉を充填する。そして、仮押しパンチを移動させて、バルブ当り面側層との境界面となる上面を所定の形状になるように、仮押しパンチの成形面形状、成形圧を調整して、支持部材側層用混合粉を仮押しする。
【0056】
本発明で使用する高熱伝導型バルブシートを製造する際には、仮押しパンチの成形面形状を、得られる圧粉体の境界面に対し、バルブシート軸に対する角度で20〜40%小さくなるように調整した形状とし、仮押しの成形圧を0.01〜3ton/cm
2の範囲内となるように調整して仮押しすることが好ましい。
ついで、第二のフィーダを移動させたのち、ダイとコアロッドを下パンチに対して相対的に上昇させて、バルブ当り面側層用の充填空間を形成しながら、該充填空間にバルブ当り面側層用混合粉を充填する。そして、上パンチを下降させて、バルブ当り面側層用混合粉および支持部材側層用混合粉とを一体的に加圧し、圧粉体とする。バルブ当り面側層用混合粉および支持部材側層用混合粉とを一体的に加圧するに際しては、6.5〜7.5g/cm
3の範囲の圧粉体密度となるように成形圧を調整することが好ましい。
【0057】
ついで、得られた圧粉体を、常用の焼結方法である、アンモニア分解ガス、真空等の保護雰囲気中で、1100〜1200℃に加熱し焼結して、焼結体とする。このようにして得られた焼結体を、切削、研削等の加工により所定寸法形状の内燃機関用バルブシートとする。
【実施例】
【0058】
バルブ素材をオーステナイト系耐熱鋼SUH35(20℃での熱伝導率:18W/m・K)とし、該バルブ素材に、鍛造成形工程、穴穿設工程、冷却材装填工程と、中空部密閉工程とを順次施して、
図1に示す構造の中空ポペットバルブを作製した。なお、中空部に装填した冷却材は金属ナトリウム(0℃での熱伝導率:142W/m・K)とした。また、バルブ素材から、切削・研磨加工工程を経て、
図8(a)に示す構造の中実バルブを作製した。
【0059】
また、表2に示すバルブシートの焼結体組成、焼結体組織となるように、原料粉を配合し、混合、混練してバルブ当り面側層用混合粉、および支持部材側層用混合粉とした。これら混合粉を用い、ダイ、コアロッド、上パンチ、下パンチ、互いに独立して駆動可能な2種のフィーダと、独立して駆動可能な仮押しパンチと、を有するプレス成形機を利用して、圧粉成形し、2層構造の圧粉体としたのち、さらに焼結処理を施して焼結体を得た。得られた焼結体を、切削、研削等の加工により、所定寸法形状(外径:30mmφ×内径:25mmφ×高さ6mm)のバルブ当り面側層と支持部材側層からなる2層構造の鉄基焼結合金製内燃機関用バルブシートとした。得られたバルブシートは、
図5(a)に示す構造の高熱伝導型バルブシート、および、
図5(b)に示す構造の標準バルブシートである。
【0060】
なお、
図5(a)に示す構造の高熱伝導型バルブシートでは、バルブ当り面側層と支持部材側層の境界面は、バルブシート外周面でバルブシートの着座面から5mmの円形状の線と、バルブシート内周面で着座面から2.5mmである円形状の線とを含む面であり、バルブシート軸とのなす角度が45°となる。なお、境界面は、バルブ当り面の幅方向中央位置でバルブ当り面に垂直な方向に1.0mm離れた面である。この境界面は、バルブ当り面の幅方向中央位置でバルブ当り面に垂直な方向に0.5mmである円形状の線を含み、バルブシート軸とのなす角度が45°である面と、バルブシートの内周面とバルブシートの着座面との交線と、バルブシートの外周面上で、バルブシートの上端面からの距離がバルブシート高さの1/2である円形状の線とを含む面に囲まれた領域にある。
【0061】
また、
図5(a)に示す構造の高熱伝導型バルブシートでは、20〜300℃における熱伝導率が、バルブ当り面側層で13W/m・K、支持部材側層で37W/m・Kであった。
図5(b)に示す構造の標準バルブシートでは、20〜300℃における熱伝導率が、バルブ当り面側層で13W/m・K、支持部材側層で37W/m・Kであった。
なお、高熱伝導型バルブシートでは、圧粉成形における仮押しパンチの成形面形状を軸心に対する角度で25〜40°とし、仮押しパンチの成形圧を0.02〜1ton/cm
2の範囲に調整して成形した。標準型バルブシートの製造では、仮押しパンチの成形面形状はフラット(軸心に対する角度で90°)とした。
【0062】
【表1】
【0063】
上記したバルブと上記したバルブシートとを組み合わせて、バルブとバルブシートの組合せ体とした。組合せ体は、(A)中実バルブ(No.Ba)と標準バルブシート(No.Sa)の組合せ体、(B)中実バルブ(No.Ba)と高熱伝導型バルブシート(No.Sb)の組合せ体、(C)中空バルブ(No.Bb)と標準バルブシート(No.Sa)の組合せ体、(D)中空バルブ(No.Bb)と高熱伝導型バルブシート(No.Sb)の組合せ体、とした。
【0064】
これらのバルブとバルブシートの組合せ体をそれぞれ、自動車用ガソリンエンジン(1.8リットル、直列4気筒)に組み付けた。なお、バルブの首部に、熱電対を溶着してバルブ表面温度を測定した。
所定時間の暖機運転を行ったのち、所定の回転数で高負荷運転を所定の運転条件で行ない、バルブの表面温度を測定した。所定の回転数は約1000〜5500rpmの領域とした。
【0065】
得られた結果を、組合せ体No.Aを基準として、各組合せ体のバルブ温度低下率(={(基準組合せ体のバルブ表面温度)−(当該組合せ体のバルブ温度)}/(基準組合せ体のバルブ温度))を算出して、
図7に示す。
図7から、本発明のバルブとバルブシートの組合せ体(組合せ体No.C、No.D)はいずれも、基準とした組合せ体(No.A)に比べて、バルブ温度の低下率が大きく、バルブ温度の上昇を顕著に抑制できる、バルブとバルブシートの組合せ体となっている。