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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-12833(P2015-12833A)
(43)【公開日】2015年1月22日
(54)【発明の名称】麺類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/16 20060101AFI20141219BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20141219BHJP
   C12P 19/14 20060101ALN20141219BHJP
【FI】
   A23L1/16 A
   C12N1/20 A
   C12P19/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-141636(P2013-141636)
(22)【出願日】2013年7月5日
(71)【出願人】
【識別番号】598096991
【氏名又は名称】学校法人東京農業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】岡田 早苗
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚人
(72)【発明者】
【氏名】島田 研作
(72)【発明者】
【氏名】松田 功
【テーマコード(参考)】
4B046
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B046LA01
4B046LC01
4B046LC10
4B046LG16
4B064AF02
4B064AF03
4B064AF04
4B064CA02
4B064CA21
4B064CB07
4B064CC03
4B064CD19
4B064DA10
4B065AA21X
4B065BA23
4B065BB18
4B065CA32
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】天然志向が高く、且つ物性が改変された加工澱粉を用いて食感及び茹で時間が短縮された麺類の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させることにより、物性が改変された加工澱粉を得ることができる。この加工生澱粉を原材料の一部として使用することにより、食感が改良され、かつ茹で時間が短縮された麺類を製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させて得られる加工生澱粉を原材料の一部として使用することを特徴とする、麺類の製造方法。
【請求項2】
ビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株がビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)MD39株(NITE P-1630)である、請求項1記載の麺類の製造方法。
【請求項3】
生澱粉が、コーンスターチ、タピオカ生澱粉、甘藷澱粉または馬鈴薯澱粉である、請求項1又は2に記載の麺類の製造方法。
【請求項4】
生澱粉の加工が、澱粉からグルコース、マルトース及びマルトトリオースを主成分とする糖質を生成する加工である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の麺類の製造方法。
【請求項5】
生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させる工程が生澱粉を前記菌株の培養菌体、培養液又は培養上清と接触させる工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の麺類の製造方法。
【請求項6】
生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株の培養菌体、培養液又は培養上清と接触させる工程が澱粉からグルコース、マルトース及びマルトトリオースを主成分とする糖質を生成する条件下で行われる、請求項5に記載の麺類の製造方法。
【請求項7】
生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させて得られ麺類製造用加工澱粉。
【請求項8】
生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させることを特徴とする麺類製造用加工澱粉の製造方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の麺類製造用加工澱粉から製造される麺類。
【請求項10】
ビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)MD39株(NITE P-1630)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺類の製造方法に関し、特にビフィドバクテリウム属細菌で加工した澱粉を使用することを特徴とする麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国においては、食の多様化に伴う食感改変のニーズに対応するため、物性の異なる多種多様の澱粉素材が利用されており、それと対をなして澱粉の物性を改変する様々な加工方法が知られている。
最も汎用されている加工方法として、化学修飾が知られている。化学修飾を施した澱粉は加工澱粉(化工澱粉)と呼ばれており、近年の即席麺・パン・冷凍食品・チルド食品において、食感改変などのニーズへ対応した必要不可欠な食品素材となっている。しかしながら、これらは2008年10月に食品添加物に指定されたことで、これまでのように食品として取り扱うことが出来ない状況となった。そのため、食感改変に寄与しつつも、食品として取り扱いできる澱粉が望まれている。
これに対応した澱粉の加工方法として、微生物あるいは酵素を利用した加工方法が知られている。例えば特許文献1には穀物粉を乳酸発酵して得られることを特徴とする穀物粉加工品の製造方法が記載されている。
特許文献2および3には澱粉粒に澱粉分解酵素を作用させることを特徴とする特性を改変した澱粉粒の製造方法が記載されている。しかしながらこれらは、多様化する食感改変に対応した澱粉素材を製造する加工方法として、必ずしも十分満足できる方法と言えるものではなかった。
また、麺のつるみ感に関わる食感改良方法として特許文献1、4及び5が、また、茹で時間を短縮する方法として特許文献6が挙げられるが、食感改良と茹で時間の短縮の両方を満たす麺類の製造方法に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−182750
【特許文献2】特開平6−269291
【特許文献3】WO2011/021372
【特許文献4】特開2007−159564
【特許文献5】特開2008−54538
【特許文献6】特開2011−254805
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、天然志向が高く、且つ物性が改変された加工澱粉を用いて食感及び茹で時間が短縮された麺類の製造方法、麺類製造用加工澱粉、麺類製造用加工澱粉の製造方法、加工澱粉の製造に使用する微生物及び麺類を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために澱粉の加工に有用な微生物を自然界に検索した。その結果、澱粉処理工場内の澱粉沈殿槽から分離したビフィズス菌が生澱粉を分解することを見出した。そして、その菌株を作用させて得られた澱粉が食品の製造、特に麺類の製造に有用であることを見出し本発明の完成に至った。すなわち、本発明は下記を提供する。
【0006】
(1) 生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させて得られる加工生澱粉を原材料の一部として使用することを特徴とする、麺類の製造方法。
(2) ビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株がビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)MD39株である、上記(1)記載の麺類の製造方法。
(3) 生澱粉がタピオカ生澱粉である、上記(1)又は(2)に記載の麺類の製造方法。
(4) 生澱粉の加工が、澱粉からグルコース、マルトース及びマルトトリオースを主成分とする糖質を生成する加工である、上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の麺類の製造方法。
(5) 生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させる工程が生澱粉を前記菌株の培養菌体、培養液又は培養上清と接触させる工程である、上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の麺類の製造方法。
(6) 生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株の培養菌体、培養液又は培養上清と接触させる工程が澱粉からグルコース、マルトース及びマルトトリオースを主成分とする糖質を生成する条件下で行われる、上記(5)に記載の麺類の製造方法。
(7) 生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させて得られ麺類製造用加工澱粉。
(8) 生澱粉をビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)に属する菌株と接触させることを特徴とする麺類製造用加工澱粉の製造方法。
(9) 上記(7)または(8)記載の麺類製造用加工澱粉から製造される麺類。
(10) ビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)MD39株(NITE P-1630)。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、天然志向が高く、且つ物性が改変された加工澱粉を含む、食感及び茹で時間が短縮された麺類を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】走査型電子顕微鏡による菌体処理澱粉表面の観察結果(×4000)を示す。
図2】MD39株菌体処理澱粉のRVA測定結果を示す。
図3】MD39株培養上清処理澱粉のRVA測定結果を示す。
図4】MD39株培養上清処理澱粉の破断強度、破断凹みおよびゼリー強度を示す。
図5】破断強度、破断凹み及びゼリー強度へ及ぼす澱粉のMD39株培養上清による処理時間の影響を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に使用するビフィズス菌の菌株としては、ビフィドバクテリウム・サブチル(Biffidobacteriumu subtile)MD39株が例示される。MD39株は、16S−rRNA遺伝子塩基配列が既存のビフィドバクテリウム・サブチル細菌のそれと高い相同性を示すことから、ビフィドバクテリウム・サブチル細菌の一菌株であると同定された。本菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に受託番号NITE P-1630として寄託されている。
【0010】
本発明に使用する生澱粉としては各種起源のものを任意に使用することができ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉などが例示できるが、好ましくはタピオカ澱粉である。タピオカ澱粉は、好ましい食感を麺類に付与することができるからである。
本発明に使用する加工澱粉は、生澱粉をビフィズス菌と接触させることによって得ることができる。接触させる方法としては、ビフィズス菌の培養菌体、培養液又は培養上清を生澱粉に作用させる方法が例示される。
【0011】
ビフィズス菌の培養に用いる培地は公知のものを用いることができ、MRS培地(メルク社)、LBS培地(Difco社)、GYP培地(「乳酸菌実験マニュアル」小崎道雄 監修,内村泰・岡田早苗 著 朝倉書店 ISBN 4−254−43049−3 C3061)などが例示できる。生澱粉分解能力を誘導する培地には、例えばGYP培地の糖質源(Glucose)を澱粉に置換した誘導培地を用いることができる。
【0012】
本発明において、培養菌体を生澱粉に作用させる際には、生澱粉からグルコース、マルトース及びマルトトリオースを主成分とする糖質を生成する条件下で行われることが好ましい。そのような条件としては以下の条件を例示できる。すなわち、GYP培地の糖質源を除いて滅菌した液体培地に糖質源として生澱粉を10〜30質量%、好ましくは20〜30質量%になるよう添加した乳液に、生理食塩水で洗浄したビフィズス菌、例えばMD39株菌体を澱粉当り、湿重量として0.001〜0.10%好ましくは0.005〜0.05%接種し、pHが常時6.8〜5.0となる様に乾熱滅菌済みのNaHCO3を加えながら25℃で2〜3日間時々撹拌して均質化しながら静置培養する。このような条件下で培養菌体を生澱粉に作用させた後、作用液をブフナー漏斗で濾過して加工された澱粉を分離し、純水による洗浄を行った後、40℃で送風乾燥して加工澱粉を得ることができる。
【0013】
本発明において、培養液又は培養上清を生澱粉に作用させる際には、生澱粉からグルコース、マルトース及びマルトトリオースを主成分とする糖質を生成する条件下で行われることが好ましい。そのような条件としては以下の条件を例示できる。すなわち、GYP培地の糖質源を生澱粉に置換して滅菌した液体培地に、MD39株の洗浄菌体を接種し、pHが常時6.8〜5.0となる様に乾熱滅菌済みのNaHCO3を加えながら25℃で3日間静置培養して培養液とする。また、培養液を遠心分離して菌体を除去し、さらに0.45μmのメンブレンフィルター(Cellulose Acetate)でろ過して培養上清を得る。培養液のpHは6.8になるようにHClおよびNaOHで調整する。上記培養液又は培養上清に生澱粉を10〜30質量%、好ましくは20〜30質量%になるよう添加し、37℃で6〜72時間、好ましくは12〜48時間、更に好ましくは18〜48時間撹拌する。このような条件で培養液又は培養上清を生澱粉に作用させた後、作用液をブフナー漏斗で濾過して加工された澱粉を分離・洗浄の後、40℃で送風乾燥して加工澱粉を得ることができる。
【0014】
上記製造方法により得られる加工澱粉の表面を電子顕微鏡で観察すると、加工前の生澱粉と比較して、表面に凹凸あるいは穴あきなどが見られる。
また、上記製造方法により得られる加工澱粉は、ゲル破断法により評価を行うと、破断強度、破断凹み及びゼリー強度のいずれも、加工前の生澱粉と比較して高い値となることが好ましい。
本発明の製造方法により得られる加工澱粉のゼリー強度は、1500mm・gf以上であることが好ましく、1800mm・gf以上であることがより好ましく、2000mm・gf以上であることが更に好ましい。
本発明の製造方法により得られる加工澱粉の破断強度は、破断前の強度に対し、1.5倍以上であることが好ましく、1.8倍以上であることがより好ましい。
【0015】
このようにして得られる加工澱粉は物性が改変された澱粉であり、麺類の製造に用いた場合、つるみ感が改善され、しかも茹で時間が短縮された麺類を得ることができる。
【0016】
本発明における麺類とは、小麦粉又はその他の穀粉及びその他の原材料に加水混練して製麺したものを指し、麺類を特に限定するものではない。例えば、うどん、中華麺、和そば、素麺、冷麦、冷麺、ビーフン、きしめん、マカロニ、パスタ等が挙げられる。麺類の形態は特に限定されるものではないが、生麺、茹で麺、蒸し麺、生タイプ即席麺(LL麺)、即席麺、乾麺、冷凍麺、調理麺のいずれであってもよい。
【0017】
麺類の一般的な製造方法は以下の通りである。まず、小麦粉又は小麦粉に澱粉等の原料を配合した粉末(原料粉)に、食塩又はその他の塩類を溶解した水溶液を混合し、ミキサーにて数分間混捏してそぼろ状の粉体を得る。そぼろ状の粉体を複合機により麺帯とし、圧延工程を繰り返した後、切刃にて切り出し麺線を得る。
本発明の麺類としては、以上の手順により得られた麺線をそのまま包装する生麺、乾燥して包装する乾麺、沸騰水や蒸気で加熱した後、流水にて水洗冷却し包装する茹で麺や蒸し麺、冷凍し包装する冷凍麺、加熱α化した後熱風又は油熱にて乾燥する即席麺等が例示される。LL麺の様に長期保存を目的とする場合は、包装後蒸熱殺菌等を行う。
本発明の加工澱粉は、一般的な麺類の製造において用いる小麦粉と加工澱粉を併せた質量に対し、5〜50質量%程度添加することができ、10〜30質量%添加することがより好ましい。
【実施例】
【0018】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1 生澱粉分解能を有するビフィズス菌株の分離
生澱粉分解酵素生産菌は堆積澱粉中に生息していると予想し、乳酸菌の分離源は、松谷化学工業株式会社・湿式工場・排水処理施設の澱粉とした。分離は「乳酸菌実験マニュアル」小崎道雄 監修,内村泰・岡田早苗 著 朝倉書店 ISBN 4−254−43049−3 C3061に拠った。分離培地は、GYP培地の糖質源(Glucose)をタピオカ澱粉に置換した選択培地を用いた。その結果、排水処理施設の澱粉から、乳酸菌と思われる酸生成菌を147株分離することができた。
【0019】
次に、α化澱粉分解酵素生産菌のスクリーニングを実施した。すなわち、GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換して121℃、15分間処理した寒天培地を調製し、直径90mmペトリ皿(滅菌済み)に寒天平板を作成した。前記酸生成菌の前培養液3mlを遠心(3000rpm,10min)して集菌し、4.5mlの0.85%食塩水で懸濁して洗浄した菌体を寒天培地に白金線で穿刺接種し、25℃で5日間静置培養した。寒天培地に0.05mol/mlヨウ素溶液1.5mlを均一に塗布して可溶性澱粉のヨウ素呈色反応により澱粉分解活性を検出した。その結果、147株中18株に活性を認めた。
【0020】
次に、生澱粉分解酵素生産菌のスクリーニングを実施した。すなわち、GYP培地の糖質源を除いて121℃、15分間滅菌した5mlの液体培地にコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉ならびに馬鈴薯澱粉を糖質源としてそれぞれ0.05g添加してスクリーニング培地とした。前記18株の前培養液3mlを遠心(3000rpm,10min)して集菌し、4.5mlの0.85%食塩水で懸濁して洗浄した菌体を、さらに遠心(3000rpm,10min)して集菌した。集菌した菌体を再度4.5mlの生理食塩水で懸濁し、その懸濁液をスクリーニング培地にそれぞれ20μl接種し、25℃で静置培養して0時間後、20時間後、42時間後、68時間後にpHを測定した。その結果、3株においてpHの低下を認めた。
【0021】
16SrRNA遺伝子の塩基配列
pHの低下を認めた3株について、16SrRNA遺伝子の塩基配列(前半約500bp)のシークエンス解析を行った結果、いずれもビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)と99%の同一性を有することが分かり、それぞれビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)MD39株、MD42株及びMD90株と名付けた。これらは同様の機能を有するが、これらの内、MD39株をNITE特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P-1630)。
【0022】
実施例2 MD39株菌体で処理した澱粉の調製
糖質源を除去して121℃、15分間滅菌した200mlのGYP培地に、糖質源としてコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉又は馬鈴薯澱粉を40g添加して乳液とした。MD39株の前培養液3mlを遠心(3000rpm,10min)して集菌し、4.5mlの0.85%食塩水で懸濁して洗浄した菌体を、さらに遠心(3000rpm,10min)して集菌し、集菌した菌体を再度4.5mlの生理食塩水で懸濁し、乳液にその懸濁液をそれぞれ20μl接種し、pHが常時6.8〜5.0となる様にNaHCO3(180℃、3hrsの乾熱滅菌済み)を加えながら25℃で時々撹拌して均質化しながら静置培養した。培養3日後に、培養液60gを中和し、ブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、40℃で送風乾燥してMD39株菌体で処理した加工澱粉を得た。回収率はそれぞれ98.6、97.2、94.2及び95.3%であった。
【0023】
得られた菌体処理澱粉及び処理前の澱粉に対して、走査型電子顕微鏡(×4000)で表面を観察した(図1)。図1のA〜Hは以下の澱粉を観察したものである。
A:未処理コーンスターチ
B:MD39株処理コーンスターチ
C:未処理タピオカ澱粉
D:MD39株処理タピオカ澱粉
E:未処理甘藷澱粉
F:MD39株処理甘藷澱粉
G:未処理馬鈴薯澱粉
H:MD39株処理馬鈴薯澱粉
コーンスターチおよび甘藷澱粉では、MD39株菌体処理により、表面のところどころに穴あきが認められた(図1−B・F)。タピオカ澱粉においては、穴あきは観察されないものの表面の凹凸が観察された(図1−D)。馬鈴薯澱粉においては、表面のところどころに大きな穴あきが認められた(図1−H)。
【0024】
次にRVA分析による物性評価を実施した(図2)。RVAとは水溶液をパドルで連続的に撹拌しながら加熱、冷却し、粘度(撹拌モーターにかかるトルク)を連続的に測定するもので、澱粉の物性(特に糊化特性)を評価することが出来る装置である。その結果、MD39株で処理した各種澱粉について、コーンスターチ、甘藷澱粉と馬鈴薯澱粉は未処理のものと比べて特に最高粘度に差が認められた(図2−A,C及びD)。タピオカ澱粉は未処理のものと比べて最高粘度と、一度温度を上昇させた後の低温領域の粘度に差が認められた(図2−B)。何れの処理澱粉でも物性改変が確認された(図2)。
【0025】
実施例3 培養上清で処理した澱粉の調製
GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換して121℃、15分間滅菌した300mlの液体培地に、実施例2と同様の方法でMD39株を接種し、pHが常時6.8〜5.0となる様にNaHCO3(180℃、3hrsの乾熱滅菌済み)を加えながら25℃で時々撹拌して均質化しながら3日間静置培養した。培養液を6000rpm、4℃、10分間遠心分離して菌体を除去し、さらに0.45μmのメンブレンフィルター(Cellulose Acetate)でろ過して培養上清を得た。培養液のpHは6.8になるようにHClおよびNaOHで調整した。
それぞれ10gのコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉及び甘藷澱粉に培養上清をそれぞれ50g添加し、37℃で48時間懸濁しながら処理し、ブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。回収率はそれぞれ91.4、88.7、90.7及び96.4%であった。
【0026】
RVAによる物性の評価結果(図3)より、MD39株培養上清で処理したコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉および馬鈴薯澱粉において、未処理のものと比べて最高粘度に差が認められた(図3−A〜D)。何れの処理澱粉でも菌体処理澱粉と同様、物性改変が確認された(図3−A〜D)。MD39株培養上清処理タピオカ(図3−B)については、菌体処理澱粉で確認された低温領域の粘度上昇は認められなかった。
【0027】
実験1 生成する糖質の分析
それぞれ1gのタピオカ澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉および甘藷澱粉に実施例3の培養上清をそれぞれ9ml添加し、37℃で24時間反応させた後、メンブレンフィルターでろ過し、ろ液を得た。これをイオン交換樹脂で脱塩した後、HPLC分析(カラム:MCI GEL CK04SS 三菱化学社製)して生成した糖質の糖組成を分析した。その結果、マルトース、マルトトリオース及びグルコースを主成分とする糖質を生成することを認めた(表1)。何れの澱粉においても糖組成はほぼ同等であった。また五糖以上のオリゴ糖も産生していることも明らかになった。
以上のことから、MD39株は澱粉分解酵素を培養液中に分泌して生澱粉を分解し、それらの分解様式から、α-アミラーゼを含むことが明らかになった。
【0028】
表1 生成する糖質の糖組成(%)
【0029】
実施例4 ゲル破断法による物性評価
GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換した培地2000mlを121℃、15分間滅菌し、実施例2と同様に調製したMD39株を接種し、実施例3と同様の方法で培養上清を得た。
それぞれ50gのコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉に培養上清をそれぞれ250g添加し、37℃で48時間懸濁しながら処理し、ブフナー漏斗で澱粉を濾過・洗浄した後、40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。
得られた培養上清処理澱粉に対して、RVA分析を実施したところ実施例3の物性が再現されていたため、ゲル破断法による物性の評価を行った(図4)。ゲル破断法とは、プランジャー押出式レオメーターを用いて澱粉の加熱ゲルの破断強度および破断凹みを測定する方法である。具体的には、固形分20gの検体に水道水を加えて100gとし、撹拌してスラリーとする。これを片方を結んだ折径60mmの塩化ビニル製チューブに充填し、撹拌棒で撹拌しながら沸騰水中で湯煎する。半ゲル状になったら撹拌棒を素早く抜き、空気が入らないようにタコ糸で結んでケーシングする。再び沸騰浴中に投入し、95℃、30分間加熱した後、冷水で冷却し、4℃、24時間静置して加熱ゲルを得る。加熱ゲルの両端および中央を輪切りにした円柱状の加熱ゲルをプランジャー押出式レオメーター(プランジャー直径7mm、進入速度6cm/min)に供し、破断強度と破断凹みを測定する。次いで、破断強度と破断凹みを乗じてゼリー強度とする。
【0030】
ゲル破断法による培養上清処理澱粉の物性評価の結果、培養上清処理コーンスターチは破断強度、破断凹み及びゼリー強度の何れにおいても、生コーンスターチと同等であった(図4−A)。培養上清処理タピオカ澱粉は、破断強度、破断凹み及びゼリー強度の何れにおいても、生タピオカ澱粉より高く、顕著な物性の違いが認められた(図4−B)。興味深いことに、破断強度と破断凹みの両方が高まる物性は、化学的に架橋した加工澱粉の物性に相当する。培養上清処理馬鈴薯澱粉は生馬鈴薯澱粉に比べ、破断強度及びゼリー強度は高いが、破断凹みは同じであった(図4−C)。培養上清処理甘藷澱粉は生甘藷澱粉に比べ、破断強度及びゼリー強度は高いが、破断凹みは低いことが認められた(図4−D)。破断強度が高く、破断凹みが低い物性は、物理処理した老化澱粉の物性に相当する。
【0031】
実施例5 澱粉の物性に及ぼす培養上清による処理時間の影響(タピオカ澱粉を使用)
タピオカ澱粉100gに実施例4で用いた培養上清を500g添加し、37℃で24および48時間懸濁しながら処理し、それぞれブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、それぞれ40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。
得られた培養上清処理澱粉に対して、ゲル破断法による物性の評価を実施した結果、処理時間を長くするほど、破断強度、破断凹み及びゼリー強度が高まることが認められた(図5)。このことから、生澱粉分解酵素など培養上清に含まれる何らかの成分が澱粉に作用して物性を変化させていることを強く示唆する結果となった。
【0032】
実施例6 食品への応用
GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換した培地2500ml×2本を121℃、15分間滅菌し、それぞれ実施例2と同様に調製したMD39株を接種し、実施例3と同様の方法で培養上清を得た。
タピオカ澱粉500gに培養上清を2994g添加し、37℃で18時間懸濁しながら処理し、ブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。得られた培養上清処理澱粉に対して、ゲル破断法による物性の評価を行った結果、実施例5に示した物性が再現されていることを認めた。
次に、表2および表3に示すレシピおよび製法でチルドうどんを試作し、試食して官能評価した。
【0033】
【0034】
表3 チルドうどんの製法
【0035】
試作品1および2を湯戻しし、茹で時間、つるみ感、硬さ、弾力性について、よく訓練された3名のパネラーによって、表4に示す基準で評価を行った。
【0036】
表4 評価の基準
【0037】
その結果、培養上清処理タピオカ澱粉を用いた試作品2は生タピオカ澱粉を用いた試作品1に比べて、茹で時間が短縮され、つるみ感を有する食感を有し、弾力性の増加が感じられ、従来にはない新規な物性のチルド麺を開発することが出来た(表5)。
【0038】
表5 チルドうどんの官能評価
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の菌株を作用させて得られた澱粉は食品の製造に有用である。
図2
図3
図4
図5
図1