【実施例】
【0018】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
生澱粉分解能を有するビフィズス菌株の分離
生澱粉分解酵素生産菌は堆積澱粉中に生息していると予想し、乳酸菌の分離源は、松谷化学工業株式会社・湿式工場・排水処理施設の澱粉とした。分離は「乳酸菌実験マニュアル」小崎道雄 監修,内村泰・岡田早苗 著 朝倉書店 ISBN 4−254−43049−3 C3061に拠った。分離培地は、GYP培地の糖質源(Glucose)をタピオカ澱粉に置換した選択培地を用いた。その結果、排水処理施設の澱粉から、乳酸菌と思われる酸生成菌を147株分離することができた。
【0019】
次に、α化澱粉分解酵素生産菌のスクリーニングを実施した。すなわち、GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換して121℃、15分間処理した寒天培地を調製し、直径90mmペトリ皿(滅菌済み)に寒天平板を作成した。前記酸生成菌の前培養液3mlを遠心(3000rpm,10min)して集菌し、4.5mlの0.85%食塩水で懸濁して洗浄した菌体を寒天培地に白金線で穿刺接種し、25℃で5日間静置培養した。寒天培地に0.05mol/mlヨウ素溶液1.5mlを均一に塗布して可溶性澱粉のヨウ素呈色反応により澱粉分解活性を検出した。その結果、147株中18株に活性を認めた。
【0020】
次に、生澱粉分解酵素生産菌のスクリーニングを実施した。すなわち、GYP培地の糖質源を除いて121℃、15分間滅菌した5mlの液体培地にコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉ならびに馬鈴薯澱粉を糖質源としてそれぞれ0.05g添加してスクリーニング培地とした。前記18株の前培養液3mlを遠心(3000rpm,10min)して集菌し、4.5mlの0.85%食塩水で懸濁して洗浄した菌体を、さらに遠心(3000rpm,10min)して集菌した。集菌した菌体を再度4.5mlの生理食塩水で懸濁し、その懸濁液をスクリーニング培地にそれぞれ20μl接種し、25℃で静置培養して0時間後、20時間後、42時間後、68時間後にpHを測定した。その結果、3株においてpHの低下を認めた。
【0021】
16SrRNA遺伝子の塩基配列
pHの低下を認めた3株について、16SrRNA遺伝子の塩基配列(前半約500bp)のシークエンス解析を行った結果、いずれもビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)と99%の同一性を有することが分かり、それぞれビフィドバクテリウム・サブチル(Bifidobacterium subtile)MD39株、MD42株及びMD90株と名付けた。これらは同様の機能を有するが、これらの内、MD39株をNITE特許微生物寄託センターに寄託した(受託番号:NITE P-1630)。
【0022】
実施例2
MD39株菌体で処理した澱粉の調製
糖質源を除去して121℃、15分間滅菌した200mlのGYP培地に、糖質源としてコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉又は馬鈴薯澱粉を40g添加して乳液とした。MD39株の前培養液3mlを遠心(3000rpm,10min)して集菌し、4.5mlの0.85%食塩水で懸濁して洗浄した菌体を、さらに遠心(3000rpm,10min)して集菌し、集菌した菌体を再度4.5mlの生理食塩水で懸濁し、乳液にその懸濁液をそれぞれ20μl接種し、pHが常時6.8〜5.0となる様にNaHCO
3(180℃、3hrsの乾熱滅菌済み)を加えながら25℃で時々撹拌して均質化しながら静置培養した。培養3日後に、培養液60gを中和し、ブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、40℃で送風乾燥してMD39株菌体で処理した加工澱粉を得た。回収率はそれぞれ98.6、97.2、94.2及び95.3%であった。
【0023】
得られた菌体処理澱粉及び処理前の澱粉に対して、走査型電子顕微鏡(×4000)で表面を観察した(
図1)。
図1のA〜Hは以下の澱粉を観察したものである。
A:未処理コーンスターチ
B:MD39株処理コーンスターチ
C:未処理タピオカ澱粉
D:MD39株処理タピオカ澱粉
E:未処理甘藷澱粉
F:MD39株処理甘藷澱粉
G:未処理馬鈴薯澱粉
H:MD39株処理馬鈴薯澱粉
コーンスターチおよび甘藷澱粉では、MD39株菌体処理により、表面のところどころに穴あきが認められた(
図1−B・F)。タピオカ澱粉においては、穴あきは観察されないものの表面の凹凸が観察された(
図1−D)。馬鈴薯澱粉においては、表面のところどころに大きな穴あきが認められた(
図1−H)。
【0024】
次にRVA分析による物性評価を実施した(
図2)。RVAとは水溶液をパドルで連続的に撹拌しながら加熱、冷却し、粘度(撹拌モーターにかかるトルク)を連続的に測定するもので、澱粉の物性(特に糊化特性)を評価することが出来る装置である。その結果、MD39株で処理した各種澱粉について、コーンスターチ、甘藷澱粉と馬鈴薯澱粉は未処理のものと比べて特に最高粘度に差が認められた(
図2−A,C及びD)。タピオカ澱粉は未処理のものと比べて最高粘度と、一度温度を上昇させた後の低温領域の粘度に差が認められた(
図2−B)。何れの処理澱粉でも物性改変が確認された(
図2)。
【0025】
実施例3
培養上清で処理した澱粉の調製
GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換して121℃、15分間滅菌した300mlの液体培地に、実施例2と同様の方法でMD39株を接種し、pHが常時6.8〜5.0となる様にNaHCO
3(180℃、3hrsの乾熱滅菌済み)を加えながら25℃で時々撹拌して均質化しながら3日間静置培養した。培養液を6000rpm、4℃、10分間遠心分離して菌体を除去し、さらに0.45μmのメンブレンフィルター(Cellulose Acetate)でろ過して培養上清を得た。培養液のpHは6.8になるようにHClおよびNaOHで調整した。
それぞれ10gのコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉及び甘藷澱粉に培養上清をそれぞれ50g添加し、37℃で48時間懸濁しながら処理し、ブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。回収率はそれぞれ91.4、88.7、90.7及び96.4%であった。
【0026】
RVAによる物性の評価結果(
図3)より、MD39株培養上清で処理したコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉および馬鈴薯澱粉において、未処理のものと比べて最高粘度に差が認められた(
図3−A〜D)。何れの処理澱粉でも菌体処理澱粉と同様、物性改変が確認された(
図3−A〜D)。MD39株培養上清処理タピオカ(
図3−B)については、菌体処理澱粉で確認された低温領域の粘度上昇は認められなかった。
【0027】
実験1
生成する糖質の分析
それぞれ1gのタピオカ澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉および甘藷澱粉に実施例3の培養上清をそれぞれ9ml添加し、37℃で24時間反応させた後、メンブレンフィルターでろ過し、ろ液を得た。これをイオン交換樹脂で脱塩した後、HPLC分析(カラム:MCI GEL CK04SS 三菱化学社製)して生成した糖質の糖組成を分析した。その結果、マルトース、マルトトリオース及びグルコースを主成分とする糖質を生成することを認めた(表1)。何れの澱粉においても糖組成はほぼ同等であった。また五糖以上のオリゴ糖も産生していることも明らかになった。
以上のことから、MD39株は澱粉分解酵素を培養液中に分泌して生澱粉を分解し、それらの分解様式から、α-アミラーゼを含むことが明らかになった。
【0028】
表1 生成する糖質の糖組成(%)
【0029】
実施例4
ゲル破断法による物性評価
GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換した培地2000mlを121℃、15分間滅菌し、実施例2と同様に調製したMD39株を接種し、実施例3と同様の方法で培養上清を得た。
それぞれ50gのコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉に培養上清をそれぞれ250g添加し、37℃で48時間懸濁しながら処理し、ブフナー漏斗で澱粉を濾過・洗浄した後、40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。
得られた培養上清処理澱粉に対して、RVA分析を実施したところ実施例3の物性が再現されていたため、ゲル破断法による物性の評価を行った(
図4)。ゲル破断法とは、プランジャー押出式レオメーターを用いて澱粉の加熱ゲルの破断強度および破断凹みを測定する方法である。具体的には、固形分20gの検体に水道水を加えて100gとし、撹拌してスラリーとする。これを片方を結んだ折径60mmの塩化ビニル製チューブに充填し、撹拌棒で撹拌しながら沸騰水中で湯煎する。半ゲル状になったら撹拌棒を素早く抜き、空気が入らないようにタコ糸で結んでケーシングする。再び沸騰浴中に投入し、95℃、30分間加熱した後、冷水で冷却し、4℃、24時間静置して加熱ゲルを得る。加熱ゲルの両端および中央を輪切りにした円柱状の加熱ゲルをプランジャー押出式レオメーター(プランジャー直径7mm、進入速度6cm/min)に供し、破断強度と破断凹みを測定する。次いで、破断強度と破断凹みを乗じてゼリー強度とする。
【0030】
ゲル破断法による培養上清処理澱粉の物性評価の結果、培養上清処理コーンスターチは破断強度、破断凹み及びゼリー強度の何れにおいても、生コーンスターチと同等であった(
図4−A)。培養上清処理タピオカ澱粉は、破断強度、破断凹み及びゼリー強度の何れにおいても、生タピオカ澱粉より高く、顕著な物性の違いが認められた(
図4−B)。興味深いことに、破断強度と破断凹みの両方が高まる物性は、化学的に架橋した加工澱粉の物性に相当する。培養上清処理馬鈴薯澱粉は生馬鈴薯澱粉に比べ、破断強度及びゼリー強度は高いが、破断凹みは同じであった(
図4−C)。培養上清処理甘藷澱粉は生甘藷澱粉に比べ、破断強度及びゼリー強度は高いが、破断凹みは低いことが認められた(
図4−D)。破断強度が高く、破断凹みが低い物性は、物理処理した老化澱粉の物性に相当する。
【0031】
実施例5
澱粉の物性に及ぼす培養上清による処理時間の影響(タピオカ澱粉を使用)
タピオカ澱粉100gに実施例4で用いた培養上清を500g添加し、37℃で24および48時間懸濁しながら処理し、それぞれブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、それぞれ40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。
得られた培養上清処理澱粉に対して、ゲル破断法による物性の評価を実施した結果、処理時間を長くするほど、破断強度、破断凹み及びゼリー強度が高まることが認められた(
図5)。このことから、生澱粉分解酵素など培養上清に含まれる何らかの成分が澱粉に作用して物性を変化させていることを強く示唆する結果となった。
【0032】
実施例6
食品への応用
GYP培地の糖質源を可溶性澱粉に置換した培地2500ml×2本を121℃、15分間滅菌し、それぞれ実施例2と同様に調製したMD39株を接種し、実施例3と同様の方法で培養上清を得た。
タピオカ澱粉500gに培養上清を2994g添加し、37℃で18時間懸濁しながら処理し、ブフナー漏斗を用いた濾過で澱粉を分離・洗浄した後、40℃で送風乾燥して培養上清処理澱粉を得た。得られた培養上清処理澱粉に対して、ゲル破断法による物性の評価を行った結果、実施例5に示した物性が再現されていることを認めた。
次に、表2および表3に示すレシピおよび製法でチルドうどんを試作し、試食して官能評価した。
【0033】
【0034】
表3 チルドうどんの製法
【0035】
試作品1および2を湯戻しし、茹で時間、つるみ感、硬さ、弾力性について、よく訓練された3名のパネラーによって、表4に示す基準で評価を行った。
【0036】
表4 評価の基準
【0037】
その結果、培養上清処理タピオカ澱粉を用いた試作品2は生タピオカ澱粉を用いた試作品1に比べて、茹で時間が短縮され、つるみ感を有する食感を有し、弾力性の増加が感じられ、従来にはない新規な物性のチルド麺を開発することが出来た(表5)。
【0038】
表5 チルドうどんの官能評価