(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-129321(P2015-129321A)
(43)【公開日】2015年7月16日
(54)【発明の名称】Cu−Fe−P系銅合金板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/08 20060101AFI20150619BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20150619BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20150619BHJP
C25D 7/12 20060101ALI20150619BHJP
C25D 5/34 20060101ALI20150619BHJP
C22C 9/00 20060101ALN20150619BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20150619BHJP
H01B 1/02 20060101ALN20150619BHJP
【FI】
C22F1/08 S
H01B13/00 501Z
C25D7/06 B
C25D7/12
C25D5/34
C22C9/00
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 671
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
H01B1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-519(P2014-519)
(22)【出願日】2014年1月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 淳一
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
(72)【発明者】
【氏名】菊川 一徳
(72)【発明者】
【氏名】内山 康孝
【テーマコード(参考)】
4K024
5G301
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024BB10
4K024BB13
4K024BC01
4K024CA06
4K024DA01
4K024DA03
4K024DA04
4K024DA05
4K024GA02
5G301AA03
5G301AA04
5G301AA05
5G301AA07
5G301AA08
5G301AA09
5G301AA12
5G301AA23
5G301AA30
5G301AD05
(57)【要約】
【課題】板自体に良好な光沢性を有し、その表面にめっき処理がなされた後においても優れた光沢性を有し、半導体装置用リードフレームに適する。
【解決手段】表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である銅合金板の製造方法であり、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で製造するに際して、仕上げ冷間圧延の後に、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理に対して高い耐性を有する加工変質層を形成する為の第1表面処理工程を実施した後、銅合金表面の光沢度を得る為の第2表面処理工程を実施する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である銅合金板の製造方法であり、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で前記銅合金板を製造するに際して、前記仕上げ冷間圧延の後に、前記銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理に対して高い耐性を有する前記加工変質層を形成する為の第1表面処理工程を実施した後、前記銅合金表面の光沢度を得る為の第2表面処理工程を実施することを特徴とするCu−Fe−P系銅合金板の製造方法。
【請求項2】
前記第2表面処理工程が酸洗研磨処理であることを特徴とする請求項1に記載のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法。
【請求項3】
前記銅合金板は、Ni;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法。
【請求項4】
前記銅合金板は、Al、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が0.0007〜0.5質量%に設定されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な光沢性を有し、表面にめっき処理が施された後も優れた光沢性を有する半導体装置用リードフレームとしての使用に適したCu−Fe−P系銅合金板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ICやLSI等の半導体装置に用いられるリードフレーム用の銅合金板として、熱伝導性、プレス加工性、導電性、機械的強度等の特性のバランスが取れ、その表面にSn、Ag、Ni等のめっき処理が施されたCu−Fe−P系銅合金板が多用されている。最近の発光ダイオードを用いたLEDチップ等の光学部材では、リードフレーム自体に高い光沢度が必要であり、特に、銅合金板自体のみならずめっき処理後も優れためっき光沢度を有するCu−Fe−P系銅合金板が求められている。
銅合金板は、一般的に鋳造、熱間圧延、冷間圧延、バフ研磨処理、焼鈍等の工程を適切に組み合わせて製造されており、その過程において、種々の塑性加工を受け、銅合金板の表層には、銅合金板内部よりも微細な結晶組織を呈する加工変質層と塑性変形層とが形成されている。加工変質層は、ベイルビー層(上層)と微細結晶層(下層) とからなり、その表面に形成されるめっきの諸性状に大きな影響を及ぼすことが知られている。
特許文献1では、銅合金の表層に存在する加工変質層の厚さを0.2μm以下、好ましくは、0.05μm以下にすることにより、めっき時の異常析出を防止してめっき性を向上させ、また、表層の加工変質層の厚さが0.2μm以下の銅合金上にめっきを施したものをリードフレーム、端子、コネクタ等の電子機器に適用することにより、これらの製品の品質向上に寄与することが開示されている。
特許文献2では、良好な外観を有する光沢ニッケルめっき材、光沢ニッケルめっき材を用いた電子部品、及び、光沢ニッケルめっき材の製造方法が開示されており、光沢ニッケルめっき材は、圧延、スキンパス圧延、バフ研磨、ブラシ研磨により、表面に厚さが0.2μm以上で、結晶粒径が0.01〜0.3μmである加工変質層を形成した、ステンレス鋼、銅または銅合金等の金属基材と、該金属表面に形成したニッケルめっき層とを備えている。
特許文献3では、機械研磨上がりのNi−P−Sn系銅合金板において、錫めっきの耐熱剥離性を改善した、Ni:0.4〜1.6%(mass%、以下同じ)、Sn:0.4〜1.6%、P:0.027〜0.15%、Fe:0.005〜0.15%、及びZn:0.1〜1.1%を含み、Ni含有量とP含有量の比Ni/Pが15未満、残部が銅と不可避不純物からなる銅合金板が開示されており、熱処理上がり後に機械研磨で表面を清浄化され、微細結晶粒からなる表層の加工変質層の厚さは0.4μm以下とされている。
特許文献4には、Feを0.1質量%以上3.0質量%以下、Pを0.01質量%以上0.3質量%以下でそれぞれ含有し、残部がCuと不可避不純物からなる圧延された銅合金板において、銅合金板の表面層の加工変質層の厚さが100nm以下とすることにより、銅合金板の酸化膜密着性を向上させることが開示されている。
特許文献5には、リードフレーム用基体の表面に、厚さが好ましくは3μm以下の銀又は銀合金の皮膜からなる反射層を設けた、圧延加工によって形成された光半導体装置用リードフレームであって、JISZ8741準拠の入射角60°で測定した該基体の表面における光沢度が、圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であって、かつ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2であるものが開示されており、LED・フォトカプラ・フォトインタラプタなどに使用される光半導体装置用リードフレームにおいて、近紫外域〜可視光域(波長340〜800nm)における反射率が極めて良好な光半導体装置用基体、さらにその基体を用いたリードフレームおよびその製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−39804号公報
【特許文献2】特開2011−214066号公報
【特許文献3】特開2010−236038号公報
【特許文献4】特開2012−153950号公報
【特許文献5】特開2013−201399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のめっき(主にAgめっき、或いは、Niめっき)処理が表面に施されたCu−Fe−P系銅合金板は、光沢度が不足気味で均質性に欠け、リードフレームとしてLEDなどの光学部材へ適用した際に、光学素子からの光の取出し効率を低下させる大きな要因となっていた。
【0005】
本発明では、上述の欠点を改良し、銅合金板自体に良好な光沢性を有し、その表面にめっき(主にAgめっき、或いは、Niめっき)処理がなされた後においても優れた光沢性を有する半導体装置用リードフレームとしての使用に適したCu−Fe−P系銅合金板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特願2013−143454にて、特定の組成を有するCu−Fe−P系銅合金母板の表面に形成された加工変質層と、その加工変質層の表面に形成されたAgめっき層或いはNiめっき層の光沢度との関係につき、鋭意検討した結果、加工変質層の厚みと結晶粒径と表面粗さの比{(Rz=最大高さ粗さ)/(Rq=二乗平均平方根粗さ)}とが、それぞれに適正な範囲内である場合にのみ、加工変質層の表面に均質で良好な光沢度を有するAgめっき層或いはNiめっき層が形成されることを見出し、光沢度に優れためっき付き銅合金板を提案している。
また、上述のCu−Fe−P系銅合金母板は、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で銅合金母板を製造するに際して、仕上げ冷間圧延の前或いは後に、ライン速度を20〜120mm/minとして、ワイヤー直径が0.1〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、押付け圧力を1〜15KPa、回転数を500〜2500rpmとして、仕上げ冷間圧延の前或いは後の銅合金板の表面を機械研磨することにより、上述の最適な加工変質層が得られ、その表面上にAgめっき或いはNiめっきを施した際に、均質で良好な光沢度を有するAgめっき層或いはNiめっき層が得られることも見出し、Cu−Fe−P系銅合金母板の製造方法を提案している。
【0007】
本発明者らは、上記の特許出願を基礎に鋭意検討の結果、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である銅合金板につき、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で製造する場合に、仕上げ冷間圧延の後に、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理に対して高い耐性を有する加工変質層を形成する為の第1表面処理工程を実施した後、銅合金板自体の表面に優れた光沢度を得る為の第2表面処理工程を実施することにより、銅合金板自体の表面の光沢度に優れ、更に、銅合金板に施されためっき表面の光沢度も良好となるCu−Fe−P系銅合金板が得られることを見出した。
この場合、第1表面処理工程により、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理による劣化の少ない加工変質層が形成され、第2表面処理工程により、加工変質層の表面が均質に微細化され、銅合金板自体の表面の光沢度が良好になると考えられる。
【0008】
即ち、本発明のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法は、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である銅合金板の製造方法であり、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で前記銅合金板を製造するに際して、前記仕上げ冷間圧延の後に、前記銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理に対して高い耐性を有する前記加工変質層を形成する為の第1表面処理工程を実施した後、前記銅合金表面の光沢度を得る為の第2表面処理工程を実施することを特徴とする。
【0009】
本発明では、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板を、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で製造するに際して、仕上げ冷間圧延後に、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理に対して高い耐性を有する加工変質層を形成する為の第1表面処理工程を実施した後、銅合金表面の光沢度を得る為の第2表面処理工程を実施することにより、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である銅合金板が製造される。
仕上げ冷間圧延後の第1表面処理工程により、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理による劣化の少ない加工変質層が形成され、第2表面処理工程により、加工変質層の表面が均質に微細化され、銅合金板自体の表面の光沢度が良好になる。
【0010】
本発明での第1表面処理工程とは、切削表面処理、ブラスト表面処理、ブラッシング表面処理、圧延表面処理、研磨表面処理などで表面を処理し、加工変質層を形成する工程であり、加工変質層の厚みを0.1〜0.5μm、結晶粒径を0.05〜0.5μmとして、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理による劣化の少ない加工変質層が形成される。
本発明での第2表面処理工程とは、切削表面処理、ブラスト表面処理、ブラッシング表面処理、圧延表面処理、研磨表面処理などで表面を処理し、第1表面処理工程で形成された加工変質層の表面を均質に微細化し、銅合金板自体の表面の光沢度を良好にする工程である。
本発明の第1表面処理工程と第2表面処理工程では、その表面処理方法はそれぞれ異なり、第2表面処理工程は、加工変質層の表面を均質に微細化する目的であるので、第1表面処理工程より軽度の表面処理方法であることが好ましい。
本発明の製造方法により得られた銅合金板は、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、また、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である。
加工変質層の厚みが0.1μm未満であると、めっき前処理による劣化が大きくなり、
厚みが0.5μmを超えると、めっき後の充分な光沢度が得られなくなる。
結晶粒径が0.05μm未満では、めっき後の光沢度の均質性に乏しくなり、0.5μmを超えると、めっき後に充分な光沢度が得えられず、めっき前処理による劣化も大きくなる。
JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2であることにより、張出し加工を行っても、割れが発生し難く、波長340〜800nmの光の反射率に優れるリードフレーム用の基体とすることができる。
また、表面の光沢度を圧延平行方向と圧延直角方向で所定の関係に調整することによって、その表面に施されるめっき層の厚さを薄くしても、銅合金表面に生じる圧延筋の影響を著しく小さくして、近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)における反射率が著しく高い光反射特性を有する光半導体装置用リードフレーム用の基体とすることができる。
本発明でのめっき前処理とは、汚れを銅合金板の表面から除去し、目的とするめっきに最も適した清浄な状態にする操作又は工程であり、脱脂洗浄、酸洗い・酸電解洗浄、電解洗浄などを含む。
【0011】
更に、本発明のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法は、前記第2表面処理工程が酸洗研磨処理であることを特徴とする。
第2表面処理工程は、形成された加工変質層の表面を均質に微細化する工程であり、処理自体に微調整を必要とする工程であり、例えば、銅合金板の製造ラインで使用している酸洗研磨処理であることが好ましく、酸洗液、ライン速度、研磨ロールの粒度を適宜選択して酸洗及び機械研磨を実施することにより、効率的に目的とする本発明のCu−Fe−P系銅合金を得ることができる。
【0012】
更に、本発明のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法は、前記銅合金板は、Ni;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有することを特徴とする。
Niは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Niを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
Snは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Snを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0013】
更に、本発明のCu−Fe−P系銅合金板の製造方法は、前記銅合金板は、Al、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が0.0007〜0.5質量%に設定されていることを特徴とする。
これらの元素は、銅合金板の様々な特性を向上させる役割を有しており、用途に応じて選択的に添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、板自体に良好な光沢性を有し、その表面にめっき(主にAgめっき、或いは、Niめっき)処理がなされた後においても優れた光沢性を有し、半導体装置用リードフレームとしての使用に適したCu−Fe−P系銅合金板の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の製造方法にて製造されたCu−Fe−P系銅合金板の断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の一実施形態の製造方法にて製造されたCu−Fe−P系銅合金板(以下、単に銅合金板という)1は、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有し、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層2の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である。
【0017】
[銅合金板の成分組成]
本発明で使用する銅合金板1の基本組成は、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である。
Feは、銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が1.5質量%未満では析出物の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、2.4質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物粒子が存在してしまい、耐熱性に効果のある析出物粒子が不足してしまうことになる。このため、Feの含有量は1.5〜2.4質量%の範囲内とすることが好ましい。
Pは、Feと共に銅の母相中に分散する析出物粒子を形成して強度及び耐熱性を向上させる効果があるが、その含有量が0.008質量%未満では析出物粒子の個数が不足し、その効果を奏功せしめることができない。一方、0.08質量%を超えて含有すると、強度及び耐熱性の向上に寄与しない粗大な析出物が存在してしまい、耐熱性に効果のあるサイズの析出物粒子が不足してしまうことになると共に導電率及び加工性が低下してしまう。このため、Pの含有量は0.008〜0.08質量%の範囲内とすることが好ましい。
Znは、銅の母相中に固溶して半田耐熱剥離性を向上させる効果を有しており、0.01質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有しても、更なる効果を得ることが出来なくなると共に母層中への固溶量が多くなって導電率の低下をきたす。このため、Znの含有量は0.01〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0018】
更に、この基本組成に対し、Ni;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有していることが好ましい。
Niは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Niを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
Snは、母相中に固溶して強度を向上させる効果を有しており、0.003質量%未満ではその効果を奏功せしめることができない。一方、0.5質量%を超えて含有すると導電率の低下をきたす。このため、Snを含有する場合には、0.003〜0.5質量%の範囲内とすることが好ましい。
更に、前述の基本組成に対し、或いは、この基本組成にNi;0.003〜0.5質量%及びSn;0.003〜0.5質量%を含有している上述の組成に対して、Al、Be、Ca、Cr、Mg及びSiのうちの少なくとも1種以上を含有し、その含有量の合計が0.0007〜0.5質量%に設定されていることが好ましい。
これらの元素は、銅合金の様々な特性を向上させる役割を有しており、用途に応じて選択的に添加することが好適である。
【0019】
[銅合金板の加工変質層]
本発明の製造方法により得られた銅合金板1の表面の加工変質層2は、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、また、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である。
加工変質層2の厚みが0.1μm未満であると、めっき前処理による劣化が大きくなり、厚みが0.5μmを超えると、めっき後の充分な光沢度が得られなくなる。
結晶粒径が0.05μm未満では、めっき後の光沢度の均質性に乏しくなり、0.5μmを超えると、めっき後に充分な光沢度が得えられず、めっき前処理による劣化も大きくなる。
JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2であることにより、張出し加工を行っても、割れが発生し難く、波長340〜800nmの光の反射率に優れるリードフレーム用の基体とすることができる。
また、表面の光沢度を圧延平行方向と圧延直角方向で所定の関係に調整することによって、その表面に施されるめっき層の厚さを薄くしても、銅合金表面に生じる圧延筋の影響を著しく小さくして、近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)における反射率が著しく高い光反射特性を有する光半導体装置用リードフレーム用の基体とすることができる。
【0020】
[銅合金板の製造方法]
本発明では、Fe;1.5〜2.4質量%、P;0.008〜0.08質量%、Zn;0.01〜0.5質量%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金板を、溶解鋳造、熱間圧延、熱処理、仕上げ冷間圧延をこの順で含む工程で製造するに際して、仕上げ冷間圧延後に、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理に対して高い耐性を有する加工変質層を形成する為の第1表面処理工程を実施した後、銅合金表面の光沢度を得る為の第2表面処理工程を実施することにより、圧延方向に平行な断面をSEMで観察した際に、表面の加工変質層の厚みが0.1〜0.5μmであり、結晶粒径が0.05〜0.5μmであり、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した表面の光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であり、且つ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である銅合金板1が製造される。
仕上げ冷間圧延後の第1表面処理工程により、銅合金板1に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理による劣化の少ない加工変質層2が形成され、第2表面処理工程により、加工変質層2の表面が均質に微細化され、銅合金板自体の表面の光沢度が良好になる。
【0021】
本発明での第1表面処理工程とは、切削表面処理、ブラスト表面処理、ブラッシング表面処理、圧延表面処理、研磨表面処理などで表面を処理し、加工変質層2を形成する工程であり、加工変質層2の厚みを0.1〜0.5μm、結晶粒径を0.05〜0.5μmとして、銅合金板に施されためっき表面の光沢度を良好に保ち、且つ、めっき前処理による劣化の少ない加工変質層2が形成される。
本発明での第2表面処理工程とは、切削表面処理、ブラスト表面処理、ブラッシング表面処理、圧延表面処理、研磨表面処理などで表面を処理し、第1表面処理工程で形成された加工変質層2の表面を均質に微細化し、銅合金板自体の表面の光沢度を良好にする工程である。
本発明の第1表面処理工程と第2表面処理工程では、その表面処理方法はそれぞれ異なり、第2表面処理工程は、加工変質層2の表面が均質に微細化する目的であるので、第1表面処理工程より軽度の表面処理方法であることが好ましい。
本発明でのめっき前処理とは、汚れを銅合金板の表面から除去し、目的とするめっきに最も適した清浄な状態にする操作及び工程であり、脱脂洗浄、酸洗い・酸電解洗浄、電解洗浄などを含む。
【0022】
また、本発明の製造方法では、前記第2表面処理工程が酸洗研磨処理であることが好ましい。
第2表面処理工程は、形成された加工変質層2の表面を均質に微細化する工程であり、処理自体に微調整を必要とする工程であり、銅合金板の製造ラインで使用している酸洗研磨処理であることが好ましく、酸洗液、ライン速度、研磨ロールの粒度を適宜選択して酸洗及び機械研磨を実施することにより、効率的に目的とする本発明のCu−Fe−P系銅合金を得ることができる。
【0023】
[加工変質層の表面に施されたAgめっき層或いはNiめっき層]
発光ダイオードを用いたLEDチップ等への適用では、リードフレーム自体に均質な高い光沢度が求められ、そのめっきとしては、Agめっき或いはNiめっきが特に好ましいが、用途に応じては、Ni−Auめっき、Ni−Pd−Auめっき等でも支障はない。
加工変質層2の表面に形成されるAgめっき層或いはNiめっき層等のめっき層3の厚みは、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択すれば良いが、費用対効果を考慮すると1〜5μmが好適である。そのめっき手法や条件も特に限定はされないが、例えば、Niめっき層3は、銅合金板1の表面を脱脂及び酸洗した後に、無光沢Niめっき浴(スルファミン酸ニッケル;60g/l、ホウ酸;40g/l)を使用して、液温60℃、電流密度5A/dm
2にてNiめっきを施して形成されることが好ましい。また、例えば、Agめっき層3は、銅合金板1の表面を脱脂及び酸洗した後に、Agめっき浴(シアン化銀;50g/L、シアン化;ナトリウム100g/L、炭酸カリウム;10g/L)を使用して、液温20℃、電流密度1.0A/dm
2にてAgめっきを施して形成されることが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の実施例について比較例を含めて詳細に説明する。
表1に示す組成の銅合金(添加元素以外の成分はCu及び不可避不純物)を、電気炉にて還元性雰囲気下で溶解し、厚さが30mm、幅が100mm、長さが250mmの鋳塊を作製した。この鋳塊を730℃にて1時間加熱した後、圧延率67%にて熱間圧延を施して厚さ10mmに仕上げ、その表面をフライスで板厚8mmになるまで面削した後、920℃にて3時間の溶体化処理を施し、板厚1.5mmまで冷間圧延を施し、450〜575℃にて3〜12時間の時効処理を施し、加工率70%にて仕上げ冷間圧延を施し、各銅合金板を作製した。
更に、それらの仕上げ冷間圧延後の銅合金板を表1に示す方法にて、第1表面処理、第2表面処理工程を施し、表面に表1に示す加工変質層を有する各銅合金板を作製した。
ブラッシング表面処理(表1には「ブラシ」と表記)は、ライン速度を20〜120mm/minとして、ワイヤー直径が0.10〜0.6mmである回転型ワイヤーブラシにて、回転数を500〜2500rpmとして、仕上げ冷間圧延後の銅合金板の表面を機械研磨した。
研磨(バフ)表面処理(表1には「研磨」と表記)は、ライン速度を60mm/minとして、ナイロン不織布にアルミナ製砥粒(番手1000)を含有したバフ材を使用した研磨ロールにて、回転数を1000rpmとして、仕上げ冷間圧延後の銅合金板の表面を機械研磨した。
スキンパス圧延表面処理(表1には「スキンパス圧延」と表記)は、微張力をかけた状態で加工率0.5%にて、仕上げ冷間圧延後の銅合金板の表面を圧延研磨した。
酸洗・研磨表面処理(表1には「酸洗」と表記)は、酸洗液として濃度25質量%でpH=1の希硫酸の水溶液を使用し、浸漬時間を180秒として酸洗処理を実施した後、ライン速度を60mm/minとして、ナイロン不織布にアルミナ製砥粒(番手500)を含有したバフ材を使用した研磨ロールにて、回転数を800rpmとして、仕上げ冷間圧延後の銅合金板の表面を機械研磨した。
これらの銅合金板につき、加工変質層の厚み、結晶粒径、及び、表面の光沢度を測定した。
表面の加工変質層の厚み、結晶粒径は、イオンミリングシステム(日立ハイテクノロジーズ社IM4000)を用いて試料の表面の横断面を研磨し、圧延方向に平行な断面を走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察して測定した。
表面の光沢度は、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した。
これらの結果を表1に示す。この表1において、光沢度は、圧延方向と平行方向又は直角方向のいずれかの光沢度のうちの最低値を示しており、光沢度比は、圧延方向と平行方向の光沢度に対する直角方向の光沢度の比を示す。
【0025】
【表1】
【0026】
次に、これらの銅合金板につき、超音波、アルカリ洗浄、アルカリ電解洗浄、酸浸漬の順にめっき前処理を施した後に、その表面の光沢度を測定した。
表面の光沢度は、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した。
これらの結果を表2に示す。
次に、めっき前処理後の銅合金板につき、無光沢Niめっき浴(スルファミン酸ニッケル;60g/l、ホウ酸;40g/l)を使用して、試料の表面に、液温60℃、電流密度5A/dm
2にて厚さ3μmのNiめっき層を形成し、表面の光沢度を測定した。
表面の光沢度は、光沢度計(日本電色工業製反射濃度計ND−1)を用いて、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した。
これらの結果を表2に示す。この表2においても、光沢度は、圧延方向と平行方向又は直角方向のいずれかの光沢度のうちの最低値を示しており、光沢度比は、圧延方向と平行方向の光沢度に対する直角方向の光沢度の比を示す。
【0027】
【表2】
【0028】
これらの結果より、本発明の製造方法で製造された実施例1〜5の銅合金板は、比較例の1〜4の銅合金板と比べ、良好な光沢性を有し、めっき前処理にても加工変質層の劣化が少なく、表面にNiめっきがなされた後においても優れた光沢性を有しており、半導体装置用リードフレームの素材として最適であることが良くわかる。
【0029】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 Cu−Fe−P系銅合金板
2 加工変質層
3 めっき層