(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-129633(P2015-129633A)
(43)【公開日】2015年7月16日
(54)【発明の名称】伝熱方法
(51)【国際特許分類】
F25B 1/00 20060101AFI20150619BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20150619BHJP
【FI】
F25B1/00 396Z
C09K5/04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-26010(P2015-26010)
(22)【出願日】2015年2月13日
(62)【分割の表示】特願2011-531537(P2011-531537)の分割
【原出願日】2009年10月13日
(31)【優先権主張番号】0857032
(32)【優先日】2008年10月16日
(33)【優先権主張国】FR
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】アバ, ロラン
(72)【発明者】
【氏名】ラシェド, ウィザム
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、70℃以上の温度での冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つの過程を有する圧縮システムを使用した伝熱方法を提供する。
【解決手段】冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロオレフィンを含む。冷媒液の凝縮温度は70〜140℃、好ましくは95〜125℃であるのが好ましく、ヒドロフルオロオレフィンは、1−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペンの中から選択される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、70℃以上の温度での冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の
膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用した伝熱
方法において、
冷媒液が少なくとも一種のヒドロクロロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記温度が70〜140℃の間、好ましくは95〜125℃の間にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷媒液が少なくとも一種のハイドロフルオロカーボンを含む請求項1または2に記載の方
法。
【請求項4】
冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルを含む請求項1〜3のいずれか一項
に記載の方法。
【請求項5】
冷媒液は少なくとも一種のフルオロアルケンを含む請求項1〜4のいずれか一項に記載
の方法。
【請求項6】
ヒドロクロロフルオロオレフィンが少なくとも3つのフッ素原子を有する請求項1〜5のいず
れか一項に記載の方法。
【請求項7】
ヒドロクロロフルオロオレフィンが1-クロル-3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2-クロル-3
,3,3−トリフルオロプロペンの中から選択をされる請求項1〜6のいずれか一項に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロクロロフルオロ・オレフィンを含む組成物を用いた伝熱方法に関するものである。
本発明は特に、ヒートポンプでのヒドロクロロフルオロ・オレフィンを含む組成物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気オゾン層を破壊する物質によって生じる問題(ODP:オゾン層破壊係数)に関してはモントリオールで話し合われ、クロロフルオロカーボン(CFC)の製造とその使用を削減するという議定書が批准された。この議定書は修正され、その修正案ではCFCの放棄が課され、他の化合物にも規制が広げられた。
【0003】
冷凍産業および空調産業はこれらの冷媒流体の代替物に多くの投資を行ってきた。自動車産業では、多くの国で販売されている車両の空調装置でクロロフルオロカーボン(CFC−12)冷媒流体からオゾン層への影響が少ないヒドロフルオロカーボン(1,1,1,2−テトラフルオロエタン:HFC−134a)冷媒流体へ切り替えられた。しかし、京都議定書で設定された目的を考慮するとHFC−134a(GWP=1300)は地球温暖化係数が高いとみなされている。
温室効果に対する流体の寄与は規格GWP(地球温暖化係数)によって定量化される。このGWPは二酸化炭素の基準値を1にして温暖化可能性を指数化したものである。
【0004】
HFC−134aの代わりに、非毒性、不燃性でGWPが極めて低い二酸化炭素が空調装置用の冷媒流体として提案されている。しかし、二酸化炭素の使用には多くの欠点、特に、既存の装置および技術で冷媒流体として使用するには極めて高い圧力を必要とする等の欠点がある。
【0005】
特許文献1(日本国特許第JP 4110388号公報)には、式C
3H
mF
n(ここで、mおよびnは1〜5までの整数を表し、m+n=6)のヒドロフルオロプロペン、特にテトラフルオロプロペンおよびトリフルオロプロペンを熱伝導流体として用いることが記載されている。
【0006】
特許文献2(国際特許第WO 2004/037913号公報)には、3または4個の炭素原子を有する少なくとも一種のフルオロアルケン、特にペンタフルオロプロペンおよびテトラフルオロプロペンを含み、好ましくはGWPが150以下である組成物を熱伝導流体として用いることが開示されている。
【0007】
特許文献3(国際特許第WO2007/002625号公報)には3〜6個の炭素原子を有するフルオロハロアルケン、特にテトラフルオロプロペン、ペンタフルオロプロペン、クロルトリフルオロ−プロペンを熱媒体流体として使用することが記載されている。
【0008】
ヒートポンプの分野では高凝縮温度条件下でのジクロロテトラフルオロエタン(HCFC−114)の代用品の使用が提案されている。すなわち、特許文献4(米国特許第US6814884号明細書)には1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)と、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)の中から選ばれる少なくとも一つの化合物とから成る組成物が記載されている。しかし、これらの化合物は高いGWPを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特許第JP 4110388号公報
【特許文献2】国際特許第WO2004/037913号公報
【特許文献3】国際特許第WO2007/002625号公報
【特許文献4】米国特許第US6814884号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、ヒドロクロロフルオロオレフィンを含む組成物が高い凝縮温度で運転されるヒートポンプの熱媒体流体として非常に適しているということを発見した。しかも、この組成物はODPおよびGWPが既存の熱媒体流体のものより低く、無視しえるものである。
【0011】
「ヒドロクロロフルオロオレフィン」という用語は一つの塩素原子と少なくとも一つのフッ素原子とを含む3〜4個の炭素原子を有するオレフィンを意味する。塩素原子は不飽和炭素に結合しているのが好ましい。
【0012】
ヒートポンプは最も冷たい媒体から最も熱い媒体へ熱の移送を可能にする熱力学機器である。加熱用に使われるヒートポンプは圧縮ヒートポンプとよばれ、運転は冷媒液と呼ばれる液体の圧縮サイクルの原理に基づいて行われる。このヒートポンプは単一または複数のステージから成る圧縮システムで運転される。一つのステージで冷媒液が圧縮されて気状から液体に変化し、発熱反応(凝縮)で熱が作られる。逆に、液体が膨張して液体から気体に変化すると吸熱反応(蒸発)で冷気が生じる。従って、全ては閉回路内で使われる液体の状態変化に依存する。
【0013】
圧縮システムの各ステージは下記の段階から成る:
(i) 冷媒液がその低沸点によって周囲環境の熱と接触して液体から気体に変化する蒸発の段階、
(ii) 上記段階からのガスを高圧にする圧縮段階、
(iii)ガスの熱を加熱回路に伝える凝縮段階(冷媒はさらに圧縮されて再び液体になる)、
(iv)冷媒液の圧力を低下させて冷媒液を膨張させる段階。冷媒液は冷たい周囲環境から熱を新たに吸収する準備ができている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一つの対象は、冷媒液の蒸発段階と、圧縮段階と、70℃以上の温度での冷媒液の凝縮段階と、冷媒液の膨張段階とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用した伝熱方法において、冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロオレフィンを含むことを特徴とする方法にある。
冷媒液の凝縮温度は70〜140℃、好ましくは95〜125℃であるのが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ヒドロクロロフルオロオレフィンは少なくとも3つのフッ素原子を有するのが好ましい。特に有利なヒドロクロロフルオロオレフィンは、クロロトリフルオロプロピレン(HCFO−1233)、特に、1−クロル−3,3,3−トリフルオロプロピレン(HCFO−1233zd)および2−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペン(HCFO−1233xf)である。1−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペンはシス形でもトランス形でもよい。
【0016】
冷媒液はヒドロクロロフルオロオレフィンの他に少なくとも一種のハイドロフルオロカーボンを含むことができる。ハイドロフルオロカーボンとしては特に1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,2,2−ペンタ−フルオロプロパンおよび1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパンを挙げることができる。
【0017】
冷媒液はさらに、少なくとも一つのフルオロエーテル、好ましくは少なくとも一種のヒドロフルオロエーテル、より好ましくは3〜6個の炭素原子を有する少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルを含むことができる。ヒドロフルオロエーテルとして特にヘプタフルオロメトオキシプロパン、ノナフルオロメトオキシブタンそして、ノナフルオロエトオキシブタンを挙げることができる。ヒドロフルオロエーテルはいくつかの異性体、例えば1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロエトオキシブタン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−エトオキシブタン、1,1,1、(2,2,3,3,4,4−)ノナフルオロメトオキシブタンおよび1,1,1
,2,3,3−ヘキサフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−メトオキシブタンの形で入手できる。
【0018】
冷媒液はさらに、3〜6の炭素原子を有する少なくとも一種のフルオロアルケンを含むことができる。フルオロアルケンはフルオロプロペン、特にトリフルオロプロペン、例えば1,1,1−トリフルオロプロペン、テトラフルオロプロピレン、例えば2,3,3,3−テトラフルオロプロピレン(HF0−1234yf)、1,3,3,3−テトラフルオロプロピレンおよびフルオロブテンの中から選択するのが好ましい。フルオロメチル−プロピレンが適している。
【0019】
冷媒液は少なくとも10重量%のヒドロクロロフルオロオレフィンを含むのが好ましい。
【0020】
本発明で使用する冷媒液はヒドロクロロフルオロオレフィンの安定剤を含むことができる。安定剤は冷媒液の全組成物に対して最大で5重量%である。
【0021】
安定剤として特にニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、アゾール、例えばトルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール、フェノール化合物、例えばトコフェロール、ハイドロキノン、t−ブチルヒドロキノン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、エポキシド(アルキル必要に応じてフッ素化またはパーフルオロ化されていてもよい、またはアルケニルまたは芳香族エポキシド)、例えばn−ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルまたはブチルフェニルグリシジルエーテル、亜リン酸エステル、ホスフェート、ホスホネート、チオールおよびラクトンが挙げられる。
【0022】
本発明方法で使用される冷媒は潤滑剤、例えば鉱油、アルキルベンゼン、ポリアルキレン・グリコールおよびポリビニールエーテルを含むことができる。
【実施例】
【0023】
実験の部
以下の実施例で、
EvapPは蒸発器の圧力、
CondPは凝縮器の圧力、
Tcondは凝縮温度、
Te compはコンプレッサの吸込み温度、
比: 圧縮比、
T outlet compはコンプレッサ吐出温度、
COP:成績係数(ヒートポンプでは系が取り入れたまたは消費した動力に対する系によって提供された有効な熱パワーで定義される)
CAP:容積能力(volumetric capacity)(単位容積当たりの熱容量)(kJ/m
3)、
%CAPまたはCOPはHCFC−114で得られる同じ値に対する冷媒液のCAPまたはCOPの値の比である。
【0024】
実施例1
蒸発器温度を10℃にセットし、凝縮器温度を100℃にセットした上記ヒートポンプ運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は14.19バール、容積能力は785kJ/m
3、COPは2.07である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0025】
【表1】
【0026】
実施例2
蒸発器温度を50℃にセットし、凝縮器温度を80℃にセットした上記ヒートポンプ運
転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は9.3バール、容積能
力は3321kJ/m
3、COPは8.19である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0027】
【表2】
【0028】
実施例3
蒸発器温度を50℃にセットし、凝縮器温度を95℃にセットした上記ヒートポンプ運
転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は12.82バール、容
積能力は2976kJ/m
3、COPは5.19である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0029】
【表3】
【0030】
実施例4
蒸発器温度を50℃にセットし、凝縮器温度を110℃にセットした上記ヒートポンプ
運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は17.26バール、容
積能力は2573kJ/m
3、COPは3.46である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0031】
【表4】
【0032】
実施例5
蒸発器温度を50℃にセットし、凝縮器温度を120℃にセットした上記ヒートポンプ
運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は20.82バール、容
積能力は2257kJ/m
3、COPは2.76である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0033】
【表5】
【0034】
実施例6
蒸発器温度を80℃にセットし、凝縮器温度を110℃にセットした上記ヒートポンプ
運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は17.26バール、容
積能力は5475kJ/m
3、COPは7.94である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0035】
【表6】
【0036】
実施例7
蒸発器温度を80℃にセットし、凝縮器温度を120℃にセットした上記ヒートポンプ
運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は20.82バール、容
積能力は4810kJ/m
3、COPは5.45である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0037】
【表7】
【0038】
実施例8
蒸発器温度を80℃にセットし、凝縮器温度を130℃にセットした上記ヒートポンプ
運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は24.96バール、容
積能力は4027kJ/m
3、COPは3.79である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0039】
【表8】
【0040】
実施例9
蒸発器温度を80℃にセットし、凝縮器温度を140℃にセットした上記ヒートポンプ
運転条件下での冷媒液の運転性能を以下に示す。
HCFC−114の場合、以下の運転状態下で、公称運転圧力は29.61バール、容
積能力は297kJ/m
3、COPは2.46である:
コンプレッサの有効効率(insentropic efficiency):80%
【0041】
【表9】
【手続補正書】
【提出日】2015年3月16日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のヒドロクロロ−フルオロオレフィンの、冷媒液の蒸発階段と、圧縮階段と、70℃以上の温度での冷媒液の凝縮階段と、冷媒液の膨張階段とを順次有する少なくとも一つのステージを有する圧縮システムを使用した伝熱方法での冷媒液としての使用。
【請求項2】
上記温度が70〜140℃の間にある請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記温度が95〜125℃の間にある請求項2に記載の使用。
【請求項4】
冷媒液が少なくとも一種のハイドロフルオロカーボンをさらに含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
冷媒液が少なくとも一種のヒドロフルオロエーテルをさらに含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
冷媒液は少なくとも一種のフルオロアルケンをさらに含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
ヒドロクロロ−フルオロオレフィンが少なくとも3つのフッ素原子を有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
ヒドロクロロ−フルオロオレフィンが1−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペンおよび2−クロル−3,3,3−トリフルオロプロペンの中から選択をされる請求項1〜7のいずれか一項に記載の使用。