特開2015-130239(P2015-130239A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2015130239-絶縁電線 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-130239(P2015-130239A)
(43)【公開日】2015年7月16日
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20150619BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20150619BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20150619BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20150619BHJP
   H01B 3/28 20060101ALI20150619BHJP
【FI】
   H01B7/02 Z
   C08L53/00
   C08L23/28
   C08L27/06
   H01B3/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-240(P2014-240)
(22)【出願日】2014年1月6日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 毅
【テーマコード(参考)】
4J002
5G305
5G309
【Fターム(参考)】
4J002BB24W
4J002BD04W
4J002BP01X
4J002BP03X
4J002GQ01
5G305AA02
5G305AB17
5G305AB40
5G305CA37
5G305CA45
5G305CA47
5G309RA07
5G309RA08
5G309RA10
5G309RA11
(57)【要約】
【課題】可塑剤のブルーミング、他の絶縁電線が有する絶縁体への可塑剤の移行を抑制しつつ、柔軟性を向上させることが可能な絶縁電線を提供する。
【解決手段】絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁体3とを有している。絶縁体3は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有している。スチレン系熱可塑性エラストマーには、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、これらの変性体などが用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを有しており、
上記絶縁体は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有することを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、および、これらの変性体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記塩素含有樹脂は、塩化ビニル樹脂、および、塩素化ポリエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、上記塩素含有樹脂100質量部に対して0.1質量部〜100質量部の範囲内とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両や電気・電子機器には、導体と導体の外周を被覆する絶縁体とを有する絶縁電線が使用されている。絶縁体の材料としては、一般に、可塑剤が配合されてなる塩化ビニル樹脂が多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、可塑剤、無機フィラー、酸化防止剤が配合されてなる塩化ビニル樹脂を絶縁体として用いた絶縁電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−207973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は、以下の点で問題がある。すなわち、塩化ビニル樹脂に可塑剤が配合されてなる絶縁体を有する従来の絶縁電線は、比較的細径のものが多い。近年では、パワーケーブル等、比較的太径の絶縁電線が必要とされている。しかし、従来の絶縁体は、太径の絶縁電線に適用した場合に、柔軟性が不足するという問題がある。
【0006】
従来の絶縁体の柔軟性を向上させるため、可塑剤の配合量を増加させる方法が考えられる。しかし、可塑剤の増量は、絶縁体表面への可塑剤のブルーミングを生じさせる。また、ハーネス形状等のように絶縁電線が束で使用された場合に、他の絶縁電線が有する絶縁体に可塑剤が移行し、他の絶縁電線の特性が劣化する。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、可塑剤のブルーミング、他の絶縁電線が有する絶縁体への可塑剤の移行を抑制しつつ、柔軟性を向上させることが可能な絶縁電線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、導体と該導体の外周を被覆する絶縁体とを有しており、
上記絶縁体は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有することを特徴とする絶縁電線にある。
【発明の効果】
【0009】
上記絶縁電線は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有する絶縁体を有している。つまり、上記絶縁電線は、絶縁体の柔軟化のため、低分子量の可塑剤に比べて分子量が大きく、かつ柔軟な高分子化合物であるスチレン系熱可塑性エラストマーを用いている。そのため、上記絶縁電線は、可塑剤のブルーミング、他の絶縁電線が有する絶縁体への可塑剤の移行を抑制しつつ、柔軟性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記絶縁電線において、導体としては、例えば、絶縁電線の柔軟性向上等の観点から、複数本の金属素線が撚り合わされてなる金属撚り線などを用いることができる。金属撚り線は、複数本の金属素線が一括で撚り合わされていてもよいし、複数回に分けて撚り合わされていてもよい。上記金属撚り線は、具体的には、複数本の金属素線が撚り合わされてなる副金属撚り線がさらに複数本撚り合わされてなる構成とすることができる。この場合には、導体断面積が比較的大きくなった場合でも、導体中に隙間が多く形成されるため、絶縁電線の柔軟性向上に有利である。上記導体を構成する金属(合金含む)としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を例示することができる。
【0012】
上記導体の導体断面積は、上記作用効果を十分に発揮できるなどの観点から、好ましくは3mm〜50mm、より好ましくは5mm〜50mmの範囲内から選択することができる。
【0013】
上記絶縁体は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有している。
【0014】
上記塩素含有樹脂は、分子内に塩素原子を含有する樹脂であり、具体的には、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。塩化ビニル樹脂としては、具体的には、ポリ塩化ビニル、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体に塩化ビニルがグラフト重合されたグラフト共重合体などが挙げられる。市販品の塩素含有樹脂としては、具体的には、大洋塩ビ社製のリューロン、TE−650、TE−800、TE−1050、TE−1300、TG−100、TH−500、TH−640、TH−700、TH−800、TH−1000、TH−1300、TH−1700、TH−2500、TH−3800、昭和電工社製のエラスレン、信越化学社製のTK−500、TK−600、TK−700、TK−800、TK−1000、TK−1700E、TK−2000E、TK−2500LS、GR−800T、GR−1300T、GR−1300Sなどを挙げることができる。
【0015】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、これらの変性体などを用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0016】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーは、十分な柔軟性を有しているので、塩素含有樹脂との併用により、絶縁電線の柔軟性向上に好適である。また、スチレン系熱可塑性エラストマーは、可塑剤に比べて分子量が大きいため、ブルーミングし難く、他の絶縁電線が有する絶縁体へ移行して電線特性を劣化させることもない。
【0017】
上記スチレン系熱可塑性エラストマーを変性させる場合、変性剤としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の誘導体などを用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。不飽和カルボン酸としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、具体的には、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステルなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、導体との密着性向上、絶縁体に添加されうる無機フィラー等のフィラーとの密着性向上、フィラーの分散性向上などの観点から、マレイン酸、無水マレイン酸などであるとよい。
【0018】
なお、上記スチレン系熱可塑性エラストマーの変性方法としては、例えば、グラフト法や直接法などが挙げられる。また、変性量は、変性前のエラストマーに対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.2〜10質量%、さらに好ましくは0.2〜5質量%とすることができる。
【0019】
市販品のスチレン系熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、旭化成ケミカルズ社製のタフテックH1052、H1062、H1053、H1041、H1051、H1043(以上、SEBS)、M1911、M1913、M1943(以上、変性SEBS)、クラレ社製のセプトンS4099、S4077、S4055(以上、SEEPS)、S2006、S2004(以上、SEPS)、S2005、S1001(以上、SEP)、S8006、S8004、S8007、S8076、S8104(以上、SEBS)などを挙げることができる。
【0020】
上記絶縁体は、他にも、ポリオレフィン樹脂等を含有することができる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)などを挙げることができる。
【0021】
上記絶縁体において、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、塩素含有樹脂100質量部に対して0.1質量部〜100質量部の範囲内とされているとよい。
【0022】
この場合には、絶縁電線として適度な柔軟性を有することができるとともに優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0023】
スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、柔軟性と耐摩耗性とのバランス等の観点から、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上、さらにより好ましくは1質量部以上とすることができる。また、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は、柔軟性と耐摩耗性とのバランス等の観点から、好ましくは98質量部以下、より好ましくは95質量部以下、さらに好ましくは90質量部以下とすることができる。
【0024】
上記絶縁体は、上述した作用効果を損なわない範囲内であれば、フィラー、酸化防止剤、老化防止剤、銅害防止剤、顔料などの各種の添加剤が1種または2種以上添加されていてもよい。
【0025】
例えば、上記絶縁体が、上述した作用効果を損なわない範囲内でフィラーを適量含む場合には、耐摩耗性の向上に有利である。この場合、上記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量の上限は、塩素含有樹脂100質量部に対して180質量部以下、好ましくは170質量部以下、さらに好ましくは160質量部以下、さらにより好ましくは150質量部以下の範囲まで拡大させることができる。この際、フィラーの含有量は、具体的には、柔軟性向上と耐摩耗性向上とのバランスなどの観点から、塩素含有樹脂100質量部に対して1〜30質量部、好ましくは3〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部の範囲内とすることができる。
【0026】
上記フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムなどを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、上記フィラーは、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体あるいはこれらの混合物や、シランカップリング剤などの表面処理剤によって表面処理されていてもよい。
【0027】
フィラーの平均粒径は、好ましくは0.01〜20μm、より好ましくは0.02〜10μm、さらに好ましくは0.03〜8μmの範囲内とすることができる。フィラーの平均粒径を0.01μm以上とすることにより、フィラーの二次凝集による機械特性の低下を抑制しやすくなる。また、フィラーの平均粒径を20μm以下とすることにより、絶縁体の外観不良が生じ難くなる。なお、上記平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である。
【0028】
炭酸カルシウムとしては、具体的には、白石カルシウム社製の白艶華CC、白艶華CCR、白艶華DD、Vigot10、Vigot15、白艶華Uなどを挙げることができる。酸化マグネシウムとしては、具体的には、宇部マテリアルズ社製のUC95S、UC95M、UC95Hなどを挙げることができる。水酸化マグネシウムとしては、具体的には、宇部マテリアルズ社製のUD−650−1、UD−653などを挙げることができる。
【0029】
上記絶縁電線において、絶縁体の厚みは、絶縁電線の柔軟性向上と耐摩耗性等の電線特性の確保とのバランスなどの観点から、好ましくは0.1mm〜3mm、より好ましくは0.2mm〜2.5mmの範囲内から選択することができる。
【0030】
上記絶縁電線は、自動車等の車両、電子・電気機器に使用することができる。より具体的には、上記絶縁電線は、ハイブリッド車や電気自動車等に用いられるパワーケーブル等に好適に適用することができる。
【0031】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例の絶縁電線について、図面を用いて説明する。
【0033】
(実施例1)
図1に示すように、本例の絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周を被覆する絶縁体3とを有している。絶縁体3は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有している。
【0034】
本例では、導体2は、複数本の金属素線(不図示)が撚り合わされてなる副金属撚り線20がさらに複数本撚り合わされて構成されている。また、金属素線は、具体的には、軟銅線である。また、絶縁体3に含まれる塩素含有樹脂は、具体的には、塩化ビニル樹脂または塩素化ポリエチレンである。また、絶縁体3に含まれるスチレン系熱可塑性エラストマーは、具体的には、SEP、SEPS、SEBS、SEEPS、および、これらの変性体からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0035】
以下、絶縁体の配合が異なる絶縁電線の試料を複数作製し、各種評価を行った。その実験例について説明する。
【0036】
(実験例)
−材料の準備−
絶縁体の材料として以下のものを準備した。
・塩素化ポリエチレン(1)[昭和電工社製、「エラスレン301A」]
・塩素化ポリエチレン(2)[昭和電工社製、「エラスレン303B」]
・塩化ビニル樹脂(1)[大洋塩ビ社製、「リューロンE−1700」]
・塩化ビニル樹脂(2)[大洋塩ビ社製、「リューロンE−2200」]
・スチレン系熱可塑性エラストマー(1)(変性SEBS)[旭化成ケミカルズ社製、「タフテックM1943」]
・スチレン系熱可塑性エラストマー(2)(SEEPS)[クラレ社製、「セプトンS4077」]
・スチレン系熱可塑性エラストマー(3)(SEPS)[クラレ社製、「セプトンS2004」]
・DINP(フタル酸ジイソノニル)
・DOP(フタル酸ジオクチル)
【0037】
―絶縁電線の作製―
表1に示される所定の配合割合にて各材料を二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイザーを用いてペレット状に成形した。その後、軟銅線を9本拠り合わせてなる軟銅撚り線をさらに19本撚り合わせて構成された導体の外周に、押し出し成形機を用いて上記ペレット状の成形物を押し出し被覆し、絶縁体を形成した。導体径は5.3mm、導体断面積は15mmである。また、絶縁体の厚みは1.1mmである。これにより、試料1〜試料13の絶縁電線を作製した。
【0038】
−柔軟性−
各試料の絶縁電線から長さ500mmの試験電線を採取した。次いで、一対の板状治具が取り付けられたロードセルの各板状治具間に、試験電線を横向きのU字状に湾曲させた状態で固定した。具体的には、各板状治具の表面に形成された各V字状の溝に、上記湾曲させた試験電線の各端部をそれぞれ嵌め込んで固定した。なお、各板状治具間の距離は200mmとした。次いで、ロードセルにて試験電線に圧縮方向の荷重を加え、各板状治具間の距離が100mmになるまで荷重を負荷したときの最大荷重[N]を測定した。最大荷重の値は、その値が小さい程、絶縁電線の柔軟性が良好であることを示す。
【0039】
−耐摩耗性−
絶縁体の柔軟性が過度になると、絶縁体が摩耗し、電線特性の一つである耐摩耗性が低下することが考えられる。そこで、各試料の絶縁電線について、絶縁体の耐摩耗性の確認を行った。
【0040】
具体的には、社団法人自動車技術会規格「JASO D618」に準拠し、ブレード往復法によって絶縁体の耐摩耗性を評価した。すなわち、各試料の絶縁電線から長さ750mmの試験片を採取した。次いで、23±5℃の室温下、軸方向に10mm以上の長さ、毎分50回の速さにて、試験片の絶縁体表面上でブレードを往復させた。この際、ブレードにかかる荷重は7Nとした。そして、ブレードが導体に接するまでの往復回数を測定した。ブレードの往復回数が1500回以上2000回未満であった場合を耐摩耗性が良好であるとして「A」、ブレードの往復回数が2000回以上であった場合を耐摩耗性に優れるとして「A+」とした。
【0041】
表1に、各試料の絶縁電線における絶縁体の配合(質量部)、柔軟性、耐摩耗性の評価結果をまとめて示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1によれば、次のことがわかる。すなわち、試料8〜試料13の絶縁電線は、いずれも、塩素含有樹脂に低分子量の可塑剤が配合されてなる絶縁体を有している。これらのうち、試料8〜試料12の絶縁電線は、表1に示される配合割合で可塑剤が配合されているものの、柔軟性試験における最大荷重が38[N]以上と大きく、柔軟性に劣っていることがわかる。また、絶縁体の柔軟性を向上させるため、さらに可塑剤が増量された試料13の絶縁電線は、絶縁体の表面に可塑剤のブルーミングが発生した。この結果から、可塑剤の増量による絶縁体の柔軟性向上には、限界があるといえる。また、試料8〜試料13の絶縁電線は、いずれも、低分子量の可塑剤が比較的多く含まれている。そのため、試料8〜試料13の絶縁電線は、絶縁電線が束で使用された場合に、他の絶縁電線が有する絶縁体に可塑剤が移行しやすく、他の絶縁電線の特性を劣化させることが懸念される。
【0044】
これらに対し、試料1〜試料7の絶縁電線は、塩素含有樹脂とスチレン系熱可塑性エラストマーとを含有する絶縁体を有している。つまり、試料1〜試料7の絶縁電線は、絶縁体の柔軟化のため、低分子量の可塑剤に比べて分子量が大きく、かつ柔軟な高分子化合物であるスチレン系熱可塑性エラストマーを用いている。そのため、試料1〜試料7の絶縁電線は、試料8〜試料13の絶縁電線に比べ、柔軟性試験における最大荷重が小さく、柔軟性が向上されている。また、試料1〜試料7の絶縁電線は、柔軟性向上のために積極的に可塑剤が配合されていないので、可塑剤のブルーミングがなく、他の絶縁電線が有する絶縁体への可塑剤の移行も抑制することが可能であるといえる。
【0045】
さらに、試料1〜試料7の絶縁電線同士を比較する。試料1〜試料3、試料6の絶縁電線は、スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量が、塩素含有樹脂100質量部に対して0.1質量部〜100質量部の範囲内とされている。そのため、試料1〜試料3、試料6の絶縁電線は、適度な柔軟性を有するとともに優れた耐摩耗性を有していることが確認された。
【0046】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 絶縁電線
2 導体
3 絶縁体
図1