【解決手段】第1セレクタSEL1は、第2入力信号SIG2および第2基準電圧Vref2を受け、いずれかを選択する。第1バッファBUF1は、第1セレクタSEL1の出力信号を受け、第1抵抗R1の他端、第3抵抗R3の他端へ出力する。第2セレクタSEL2は、第1入力信号SIG1および第3入力信号SIG3を受け、いずれかを選択する。第4セレクタSEL4は、演算増幅器AMP1の出力信号、第2セレクタSEL2の出力信号S2に応じた信号S2’および第2入力信号SIG2に応じた信号S3が入力され、いずれかを選択する。
カスケードに接続されたn個(nは2以上の自然数)の処理ブロックを含み、各処理ブロックが前段からの出力信号に所定の信号処理を施して次段へと出力するよう構成された信号処理回路であって、
i段目(iは1≦i≦nを満たす所定の自然数)からj段目(jはi<j<nを満たす所定の自然数)の処理ブロックをバイパスするバイパス経路と、
少なくとも2つの入力端子とひとつの出力端子を有し、第1入力端子にj段目の処理ブロックの出力信号を、第2入力端子にi段目の処理ブロックの入力信号を受け、いずれか一方の信号を選択して出力するソフトスイッチ回路であり、信号の切りかえの際には、その出力を、一方の入力端子に入力される信号から他方の入力端子に入力される信号へと緩やかに遷移させるソフトスイッチ回路と、
を備えることを特徴とする信号処理回路。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1に示すような入力セレクタ300を設計した場合、1系統の差動形式の信号、2系統のシングルエンド形式の信号、1系統のグランドアイソレーション形式の信号のみを受信することができ、その他の組み合わせの信号を受けることができない。たとえば、2系統のシングルエンド形式の信号の代わりに、別系統の差動形式の信号を受けたい場合、受信回路304を受信回路302に置き換える必要がある。
【0005】
つまり
図1の入力セレクタ300を利用した電子機器の設計者は、一度、入力信号の形式の組み合わせを決定すると、その後、入力形式の組み合わせを変更することができない。入力形式の組み合わせを変更する場合、新たな組み合わせに対応した入力セレクタに置き換える必要が生ずる。このことは電子機器の設計の自由度を低下させる。
別の観点から見れば、入力セレクタの製造者は、電子機器の設計者からの要望に応じて、入力セレクタを設計する必要が生じる。
【0006】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、さまざまな入力形式の信号に柔軟に適応可能な汎用性の高い、入力セレクタの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1. 本発明のある態様は、入力セレクタに関する。この入力セレクタは、第1、第2入力信号をそれぞれ受ける第1、第2入力ポートと、一端が第1入力ポートに接続された第1抵抗と、一端が第2入力ポートに接続され、他端に第1基準電圧が印加された第2抵抗と、第2入力信号および第2基準電圧を受け、いずれかを選択する第1セレクタと、第1セレクタの出力信号を受け、第1抵抗の他端へ出力する第1バッファと、第1、第2入力端子と出力端子を有し、第1入力端子に受けた信号を出力する状態および第2入力端子に受けた信号を出力する状態の少なくとも一方と、第1入力端子に受けた信号と第2入力端子に受けた信号の差分に応じた信号を出力する状態が切りかえ可能に構成される出力回路と、を備える。出力回路は、その第1入力端子に第1入力信号を受け、その第2入力端子に第2入力信号を受ける。
【0008】
この態様によると、第1セレクタおよび出力回路の状態の組み合わせによって、第1、第2入力ポートに、シングルエンド形式、差動形式、グランドアイソレーション形式の信号を受けることが可能となる。
【0009】
ある態様の入力セレクタは、第3入力信号を受ける第3入力ポートと、一端が第3入力ポートに接続された第3抵抗と、第1入力信号および第3入力信号を受け、いずれかを選択する第2セレクタと、をさらに備えてもよい。出力回路は、その第1入力端子に第2セレクタの出力信号を受け、その第2入力端子に第2入力信号を受けてもよい。
この態様によると、第1セレクタ、第2セレクタおよび出力回路の状態の組み合わせによって、第1〜第3入力ポートに、シングルエンド形式、差動形式、グランドアイソレーション形式の信号を受けることが可能となる。
【0010】
ある態様の入力セレクタは、第2入力ポートから出力回路の第2入力端子に至る経路に設けられ、その入力端子に第2入力信号を受ける第3セレクタをさらに備えてもよい。出力回路は、その第2端子に第3セレクタを介して第2入力信号を受けてもよい。
この場合、第2セレクタを経る経路と、第3セレクタを経る経路のインピーダンスを等しくすることができ、第3セレクタを設けない場合に比べて、波形歪みを抑制できる。
【0011】
ある態様の入力セレクタは、第4入力信号を受ける第4入力ポートと、一端が第4入力ポートに接続され、他端に第3基準電圧が印加された第4抵抗と、をさらに備えてもよい。第1セレクタは、第2入力信号および第2基準電圧に加えて第4入力信号を受けてもよく、第3セレクタは、第2入力信号に加えて第4入力信号を受けてもよい。
この場合、第1〜第3セレクタおよび出力回路の状態の組み合わせによって、第1〜第4入力ポートに、シングルエンド形式、差動形式、グランドアイソレーション形式の信号の組み合わせを受けることが可能となる。
【0012】
第1セレクタは、第2入力信号および第4入力信号に代えて、第3セレクタの出力信号に応じた信号を受けてもよい。この場合、回路を簡略化できる。
【0013】
出力回路は、2つの入力端子と1つの出力端子を有する演算増幅器と、一端が演算増幅器の一方の入力端子に接続され、他端に当該出力回路の第1入力端子の信号に応じた信号を受ける第1出力抵抗と、一端が演算増幅器の一方の入力端子に接続され、他端に第4基準電圧が印加された第2出力抵抗と、一端が演算増幅器の他方の入力端子に接続され、他端に当該出力回路の第2入力端子の信号に応じた信号を受ける第3出力抵抗と、一端が演算増幅器の他方の入力端子に接続され、他端が演算増幅器の出力端子と接続された第4出力抵抗と、演算増幅器の出力信号、当該出力回路の第1入力端子の信号に応じた信号、当該出力回路の第2入力端子の信号に応じた信号を受け、いずれかを選択する第4セレクタと、を含んでもよい。
【0014】
出力回路は、2つの入力端子と1つの出力端子を有する演算増幅器と、2つの入力端子を有し、その出力端子が演算増幅器の一方の入力端子に接続された第5セレクタと、2つの入力端子を有し、その第1入力端子が演算増幅器の出力端子と接続され、その出力端子が演算増幅器の他方の入力端子に接続された第6セレクタと、一端が第5セレクタの第1入力端子に接続され、他端に当該出力回路の第1入力端子の信号に応じた信号を受ける第1出力抵抗と、一端が第5セレクタの第1入力端子に接続され、他端に第4基準電圧が印加された第2出力抵抗と、一端が第6セレクタの第2入力端子に接続され、他端に当該出力回路の第2入力端子の信号に応じた信号を受ける第3出力抵抗と、一端が第6セレクタの第2入力端子と接続され、他端が演算増幅器の出力端子と接続された第4出力抵抗と、を含んでもよい。
【0015】
出力回路は、当該出力回路の第1入力端子から第1出力抵抗の他端に至る経路に設けられた第2バッファと、当該出力回路の第2入力端子から第3出力抵抗の他端に至る経路に設けられた第3バッファと、をさらに含んでもよい。
【0016】
本発明の別の態様もまた、入力セレクタである。この入力セレクタは、上述のいずれかの態様の入力セレクタを2組備えてもよい。この態様によると、2組の入力セレクタを設けることにより、たとえば左右2チャンネルのステレオオーディオ信号に適用できる。
【0017】
上述の入力セレクタが2組設けられてもよい。一方の入力セレクタ側の第1セレクタは、第2入力信号、第2基準電圧、第4入力信号に加えて、他方の入力セレクタ側の第1セレクタの出力信号が入力されてもよい。この場合、より多様な入力信号形式の組み合わせに対応することができる。
【0018】
2. 本発明のある態様は、カスケードに接続されたn個(nは2以上の自然数)の処理ブロックを含み、各処理ブロックが前段からの出力信号に所定の信号処理を施して次段へと出力するよう構成された信号処理回路に関する。信号処理回路は、i段目(iは1≦i≦nを満たす所定の自然数)からj段目(jはi<j<nを満たす所定の自然数)の処理ブロックをバイパスするバイパス経路と、少なくとも2つの入力端子とひとつの出力端子を有し、第1入力端子にj段目の処理ブロックの出力信号を、第2入力端子にi段目の処理ブロックの入力信号を受け、いずれか一方の信号を選択して出力するソフトスイッチ回路であり、信号の切りかえの際には、その出力を、一方の入力端子に入力される信号から他方の入力端子に入力される信号へと緩やかに遷移させるソフトスイッチ回路と、を備える。
【0019】
この態様によると、ソフトスイッチ回路によって第2入力端子側の信号を選択させることによって、i段目からj段目の処理ブロックをバイパスすることができ、信号の劣化を抑制できる。また、ソフトスイッチ回路は、一方の入力端子から他方の入力端子へと緩やかに切りかえ可能であるため、バイパスの切りかえの際のノイズを抑制することができる。
【0020】
ある態様の信号処理回路は、ソフトスイッチ回路の状態を制御する制御部をさらに備えてもよい。制御部は、n個の処理ブロックそれぞれが実行すべき信号処理を規定する設定データを監視し、i段目からj段目の処理ブロックに対する設定データのいずれもが、処理対象の信号に影響を及ぼさない値に設定されるとき、ソフトスイッチ回路に、第2入力端子に入力される信号を選択させ、i段目からj段目の処理ブロックに対する設定データの少なくともひとつが、処理対象の信号に影響を及ぼす値に設定されるとき、ソフトスイッチ回路に、第1入力端子に入力される信号を選択させてもよい。
この場合、信号処理回路を搭載したセットの設計者は、信号処理回路の内部のソフトスイッチ回路の制御を意識する必要がなく、設計の負担を軽減できる。
【0021】
ある態様の信号処理回路は、ソフトスイッチ回路の状態を制御する制御部をさらに備えてもよい。制御部は、外部からソフトスイッチ回路の状態を指示する制御信号を受け、当該制御信号にもとづいてソフトスイッチ回路を制御してもよい。
この場合、ソフトスイッチ回路を、各処理ブロックの状態と独立して制御することができる。
【0022】
本信号処理回路は、オーディオ信号に信号処理を施す回路であり、i段目からj段目の処理ブロックのひとつは、所定の周波数成分を増幅もしくは減衰させるトーンコントロール回路であってもよい。
【0023】
本信号処理回路は、オーディオ信号に信号処理を施す回路であり、i段目からj段目の処理ブロックのひとつは、低域を強調するラウドネス回路であってもよい。
【0024】
本信号処理回路は、オーディオ信号に信号処理を施す回路であり、i段目からj段目の処理ブロックのひとつは、サブウーハーで生成すべき成分を除去するハイパスフィルタであってもよい。
【0025】
本信号処理回路は、オーディオ信号に信号処理を施す回路であり、i段目からj段目の処理ブロックのひとつは、低域を強調するバスブースト回路であってもよい。
【0026】
本信号処理回路は、オーディオ信号に信号処理を施す回路であり、(i−1)段目の処理ブロックは、ユーザの設定値に応じた利得でオーディオ信号を増幅するボリウム回路であり、(j+1)段目の処理ブロックはオーディオ信号を増幅して電気音響変換素子へと出力するパワーアンプであってもよい。
この場合、i段目からj段目をバイパスした状態において、オーディオ信号に必要最小限の処理を施すことができ、劣化の少ない状態で再生することができる。
【0027】
本発明の別の態様は、オーディオシステムである。このオーディオシステムは、オーディオ信号を生成するオーディオ信号源と、オーディオ信号それぞれに対して所定の信号処理を施す上述のいずれかの態様の信号処理回路と、信号処理回路を経たオーディオ信号によって駆動される電気音響変換素子と、を備える。
【0028】
3. 本発明のある態様は、入力ポートに受けたオーディオ信号に信号処理を施し、出力ポートから出力するオーディオ信号処理回路に関する。オーディオ信号処理回路は、オーディオ信号をフィルタリングするフィルタと、設定された利得でオーディオ信号を増幅または減衰させる可変利得増幅器と、入力ポート、出力ポート、フィルタの入力端子および出力端子、可変利得増幅器の入力端子および出力端子それぞれに接続されるマトリクススイッチ回路と、を備える。マトリクススイッチ回路は、入力ポート、可変利得増幅器、フィルタ、出力ポートの順に接続する第1状態と、入力ポート、フィルタ、可変利得増幅器、出力ポートの順に接続する第2状態と、が切りかえ可能に構成される。
【0029】
この態様によると、フィルタと可変利得増幅器の位置を自由に入れ換えることができるため、フィルタに生ずるノイズを可変利得増幅器で減衰させたり、反対に可変利得増幅器で生ずるノイズをフィルタでカットすることが可能となるため、オーディオ信号に施す処理に応じて回路配置を最適化することにより、ノイズを低減することができる。
【0030】
ある態様において、マトリクススイッチ回路は、可変利得増幅器の利得が所定のしきい値より高いとき第1状態に、可変利得増幅器の利得がしきい値より低いとき第2状態に設定されてもよい。
可変利得増幅器の利得に応じて、マトリクススイッチ回路の状態を切りかえることにより、オーディオ信号処理回路全体のノイズを低減できる。
【0031】
マトリクススイッチ回路は、入力ポートとフィルタの入力端子の間に設けられた第1入力スイッチと、入力ポートと可変利得増幅器の入力端子の間に設けられた第2入力スイッチと、フィルタの出力端子と可変利得増幅器の入力端子の間に設けられた第1中間スイッチと、可変利得増幅器の出力端子とフィルタの入力端子の間に設けられた第2中間スイッチと、フィルタの出力端子と出力ポートの間に設けられた第1出力スイッチと、可変利得増幅器の出力端子と出力ポートの間に設けられた第2出力スイッチと、を含んでもよい。
【0032】
マトリクススイッチ回路は、第1状態と第2状態とが、シームレスに緩やかに切りかえ可能であってもよい。
この場合、第1状態と第2状態の切りかえの際に、信号の不連続に起因するノイズを抑制できる。
【0033】
マトリクススイッチ回路は、第1、第2入力端子およびフィルタの入力端子と接続された出力端子を有し、第1、第2入力端子の信号のいずれか一方を選択して出力端子から出力する第1ソフトスイッチ回路であり、選択の切りかえの際には、その出力端子の信号を、一方の入力端子の信号から他方の入力端子の信号へと緩やかに遷移させる第1ソフトスイッチ回路と、第1、第2入力端子および出力ポートと接続された出力端子を有し、第1、第2入力端子の信号のいずれか一方を選択して出力端子から出力する第2ソフトスイッチ回路であり、選択の切りかえの際には、その出力端子の信号を、一方の入力端子の信号から他方の入力端子の信号へと緩やかに遷移させる第2ソフトスイッチ回路と、入力ポートと第1ソフトスイッチ回路の第1入力端子の間に設けられた第1入力スイッチと、入力ポートと可変利得増幅器の入力端子の間に設けられた第2入力スイッチと、入力ポートと第1ソフトスイッチ回路の第2入力端子の間に設けられた第3入力スイッチと、フィルタの出力端子と可変利得増幅器の入力端子の間に設けられた第1中間スイッチと、可変利得増幅器の出力端子と第1ソフトスイッチ回路の第1入力端子の間に設けられた第2中間スイッチと、フィルタの出力端子と第2ソフトスイッチ回路の第1入力端子の間に設けられた第1出力スイッチと、可変利得増幅器の出力端子と第2ソフトスイッチ回路の第1入力端子の間に設けられた第2出力スイッチと、フィルタの出力端子と第2ソフトスイッチ回路の第2入力端子の間に設けられた第3出力スイッチと、を含んでもよい。
この場合、2つのソフトスイッチ回路を利用することにより、第1状態と第2状態とが、シームレスに緩やかに切りかえ可能となる。
この態様によれば、2つの可変利得増幅器を設けることにより、
(1)第1状態から第2状態への切りかえ、
(2)第2状態から第1状態への切りかえ、
(3)ある利得を有する第1状態から、別の利得を有する第1状態への切りかえ、
(4)ある利得を有する第2状態から、別の利得を有する第2状態への切りかえ
がシームレスに実現できる。
【0034】
ある態様のオーディオ信号処理回路は、オーディオ信号を増幅または減衰させるレプリカ可変利得増幅器をさらに備えてもよい。マトリクススイッチ回路は、入力ポートとレプリカ可変利得増幅器の入力端子の間に設けられた第4入力スイッチと、フィルタの出力端子とレプリカ可変利得増幅器の入力端子の間に設けられた第3中間スイッチと、レプリカ可変利得増幅器の出力端子と第1ソフトスイッチ回路の第1入力端子の間に設けられた第4中間スイッチと、可変利得増幅器の出力端子と第1ソフトスイッチ回路の第2入力端子の間に設けられた第5中間スイッチと、レプリカ可変利得増幅器の出力端子と第1ソフトスイッチ回路の第2入力端子の間に設けられた第6中間スイッチと、レプリカ可変利得増幅器の出力端子と第2ソフトスイッチ回路の第1入力端子の間に設けられた第4出力スイッチと、をさらに含んでもよい。
この態様によれば、2つの可変利得増幅器を設けることにより、
(1)第1状態から第2状態への切りかえ、
(2)第2状態から第1状態への切りかえ、
(3)ある利得を有する第1状態から、別の利得を有する第1状態への切りかえ、
(4)ある利得を有する第2状態から、別の利得を有する第2状態への切りかえ
がシームレスに実現でき、さらに(3)、(4)における聴感上の違和感を低減できる。
【0035】
本発明の別の態様は、第1ポートに受けたオーディオ信号の帯域を補正し、第2ポートから出力するトーンコントロール回路に関する。このトーンコントロール回路は、上述のいずれかの態様のオーディオ信号処理回路と、オーディオ信号処理回路の入力ポートと第1ポートの間に設けられた第1スイッチと、第1ポートの信号とオーディオ信号処理回路の出力ポートの信号を合成し、第2ポートに出力する合成回路と、第2ポートの信号を反転する反転アンプと、反転アンプの出力端子とオーディオ信号処理回路の入力ポートの間に設けられた第2スイッチと、を備える。
【0036】
第1スイッチをオン、第2スイッチをオフするとき、マトリクススイッチ回路が第1状態に設定され、第2スイッチをオン、第1スイッチをオフするとき、マトリクススイッチ回路が第2状態に設定されてもよい。
トーンコントロール回路をブースト回路として利用する場合、可変利得増幅器をフィルタの前段に配置し、トーンコントロール回路をカット回路として利用する場合、可変利得増幅器をフィルタの後段に配置することにより、ノイズを好適に低減できる。
【0037】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0038】
本発明のある態様によれば、さまざまな入力形式の信号に適応できる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0041】
本明細書において、「部材Aが部材Bと接続」された状態とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合や、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。同様に、「部材Aと部材Bの間に部材Cが設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0042】
1. 第1の実施の形態
図2は、第1の実施の形態に係る入力セレクタ11の構成を示す回路図である。
入力セレクタ11は、第1入力ポートPi1〜第3入力ポートPi3、第1抵抗R1〜第3抵抗R3、第1バッファBUF1、第1セレクタSEL1〜第3セレクタSEL3、出力回路10を備える。本明細書に示されるセレクタSELは、出力端子が黒塗りで、入力端子が白抜きで示される。
【0043】
第1入力ポートPi1〜第3入力ポートPi3はそれぞれ、第1入力信号SIG1〜第3入力信号SIG3を受ける。入力信号SIG1〜SIG3は、たとえばアナログオーディオ信号である。
【0044】
第1抵抗R1の一端は、第1入力ポートPi1に接続される。第2抵抗R2の一端は第2入力ポートPi2に接続され、その他端には第1基準電圧Vref1が印加される。第3抵抗R3の一端は、第3入力ポートPi3に接続される。
【0045】
第1セレクタSEL1は、第1入力端子I1に第2入力信号SIG2を、第2入力端子I2に第2基準電圧Vref2を受け、いずれかを選択する。
図2において第1セレクタSEL1は3つの入力端子I1〜I3を備えるが、ひとつI3は非接続(NC:Non-connection)であるため、2入力のセレクタを用いてもよい。
【0046】
第1バッファBUF1は、第1セレクタSEL1の出力信号S1を受け、第1抵抗R1の他端および第3抵抗R3の他端へ、出力信号S1に応じた信号S1’を出力する。
【0047】
第2セレクタSEL2は、第1入力端子I1に第1入力信号SIG1を、第2入力端子I2に第3入力信号SIG3を受け、いずれかを選択する。
【0048】
第3セレクタSEL3の一方の入力端子(第1入力端子I1)には、第2入力信号SIG2が入力され、他方の入力端子(第2入力端子I2)は非接続(NC)となっている。したがって第3セレクタSEL3は単なる配線を置き換えることも可能であるが、第3セレクタSEL3を設けることにより、第2セレクタSEL2側の経路と、第3セレクタSEL3側の経路のインピーダンスを等しくすることができ、波形歪みを抑制できるという利点がある。これは、それぞれの経路に、差動信号のポジティブ成分とネガティブ成分が伝搬する場合に特に有効である。
図2において、第3セレクタSEL3の出力信号S3は、第2入力信号SIG2である。
【0049】
出力回路10は、第1入力端子IN1、第2入力端子IN2と出力端子OUTを有し、第1入力端子IN1に受けた信号を出力する状態(第1状態φ1)、第2入力端子IN2に受けた信号を出力する状態(第2状態φ2)、第1入力端子IN1に受けた信号と第2入力端子IN2に受けた信号の差分に応じた信号を出力する状態(第3状態φ3)、が切りかえ可能に構成される。
図2において、出力回路10は、その第1入力端子IN1に第2セレクタSEL2の出力信号S2を受け、その第2入力端子IN2に第3セレクタSEL3の出力信号S3(第2入力信号SIG2)を受ける。
【0050】
出力回路10は、第2バッファBUF2、第3バッファBUF3、第4セレクタSEL4、演算増幅器AMP1、第1出力抵抗Ro1〜第4出力抵抗Ro4を含む。
演算増幅器AMP1は、2つの入力端子(反転入力端子および非反転入力端子)を有する。第1出力抵抗Ro1の一端は、演算増幅器の一方の入力端子(非反転入力端子)に接続され、その他端は、第2セレクタSEL2の出力信号S2に応じた信号S2’を受ける。具体的には、第1出力抵抗Ro1と第2セレクタSEL2の間には、第2バッファBUF2が設けられる。第2バッファBUF2は、第2セレクタSEL2の出力信号S2を受け、第1出力抵抗Ro1の一端に出力する。
【0051】
第2出力抵抗Ro2の一端は、演算増幅器AMP1の一方の入力端子(非反転入力端子)に接続され、その他端には、第4基準電圧Vref4が印加される。
【0052】
第1基準電圧Vref1〜第4基準電圧Vref4は共通の電圧源によって生成されてもよいし、個別の電圧源によって生成されてもよい。言い換えれば、基準電圧Vref1〜Vref3の電圧値は等しくてもよいし、あるいは個別に調整可能であってもよい。差動形式あるいはグランドアイソレーション形式の信号が入力される場合、基準電圧は差動信号のコモンレベルに設定されてもよい。あるいは第1基準電圧Vref1〜第4基準電圧Vref4はいずれも接地電圧であってもよい。
【0053】
第3抵抗R3の一端は、演算増幅器AMP1の他方の入力端子(反転入力端子)に接続され、他端に第2入力信号SIG2に応じた信号S3’を受ける。具体的には、第3出力抵抗Ro3と第3セレクタSEL3の間には、第3バッファBUF3が設けられる。第3バッファBUF3は、第3セレクタSEL3の出力信号S3を受け、第3出力抵抗Ro3の一端に出力する。
【0054】
第4出力抵抗Ro4の一端は、演算増幅器AMP1の他方の入力端子(反転入力端子)に接続され、その他端は演算増幅器AMP1の出力端子と接続される。
【0055】
なお、第1入力ポートPi1〜第3入力ポートPi3に接続される回路の出力インピーダンスが十分に低い場合、あるいは入力セレクタ11を伝搬する際に、有る程度の波形歪みが許容される場合、第2バッファBUF2および第3バッファBUF3を省略してもよい。反対に言えば、第2バッファBUF2および第3バッファBUF3を設けることにより、波形歪みを低減できる。
【0056】
第4セレクタSEL4は、第1入力端子I1〜第3入力端子I3それぞれに、演算増幅器AMP1の出力信号S4、出力回路10の第1入力端子IN1の信号に応じた信号(つまり第1入力信号SIG1または第3入力信号SIG3)、出力回路10の第2入力端子IN2の信号に応じた信号(つまり第2入力信号)を受け、いずれかを選択する。
【0057】
第4セレクタSEL4の第1入力端子I1、第3入力端子I3にはそれぞれ、第2バッファBUF2、第3バッファBUF3それぞれの出力信号S2’、S3’が入力されてもよい。第4セレクタSEL4の出力信号S5は、入力セレクタ11によって選択された信号として、図示しない回路へと出力される。
【0058】
第1状態φ1は、第4セレクタSEL4が第1入力端子IN1を選択した状態であり、第2状態φ2は、第4セレクタSEL4が第3入力端子IN3を選択した状態であり、第3状態φ3は、第4セレクタSEL4が第2入力端子IN2を選択した状態である。
【0059】
以上が入力セレクタ11の構成である。続いてその動作を説明する。入力セレクタ11の状態は、第1セレクタSEL1〜第4セレクタSEL4の選択状態に応じて決定される。以下、第1セレクタSEL1が選択した入力端子の番号をC1、第2セレクタSEL2が選択した入力端子の番号をC2、第3セレクタSEL3が選択した入力端子の番号をC3(=1)、第4セレクタSEL4が選択した入力端子の番号をC4と表記する。たとえば、第1セレクタSEL1が第1入力端子I1を選択し、第4セレクタSEL4が第2入力端子I2を選択した状態は、C1=1、C4=2と示される。C1〜C4は、セレクタSEL1〜SEL4に対する制御信号と把握することもできる。なお、
図2の構成では、固定的にC3=1であるため、特に明記しない。
【0060】
1. シングルエンド入力
1a. C4=1,C1=2,C2=i(i=1,2)
この場合、i=1のとき、第1入力ポートPi1にシングルエンド形式の第1入力信号SIG1を受けることができ、i=2のとき、第3入力ポートPi3にシングルエンド形式の第3入力信号SIG3を受けることができる。
【0061】
1b. C4=3
この場合、第2入力ポートPi2にシングルエンド形式の第2入力信号SIG2を受けることができる。C1は冗長項DC(Don't Care)である。
【0062】
2.差動入力
C4=2,C2=i(i=1,2)
第1バッファBUF1がオフされ、その出力インピーダンスが十分に大きく設定される。また基準電圧Vref1を生成する電圧源がオフされ、その出力インピーダンスも十分に大きく設定される。
i=1のとき、第1入力ポートPi1と第2入力ポートPi2に、差動形式の入力信号SIG1、SIG2を受けることができる。
i=2のとき、第3入力ポートPi3と第2入力ポートPi2に、差動形式の入力信号SIG3、SIG2を受けることができる。
【0063】
3. グランドアイソレーション入力
C4=2,C1=1,C2=i(i=1,2)
第1基準電圧Vref1を生成する電圧源をオンし、第1バッファBUF1をオンする。
i=1のとき、第1入力ポートPi1と第2入力ポートPi2に、グランドアイソレーション形式の入力信号SIG1、SIG2を受けることができる。
i=2のとき、第3入力ポートPi3と第2入力ポートPi2に、グランドアイソレーション形式の入力信号SIG3、SIG2を受けることができる。
【0064】
このように、
図2の入力セレクタ11によれば、各スイッチの状態の組み合わせによって、各入力ポートPi1〜Pi3に、さまざまな形式の入力信号を受けることができる。
【0065】
図3は、第1の変形例に係る入力セレクタ11aの構成を示す回路図である。入力セレクタ11aは、
図2の入力セレクタ11に加えて、第4入力ポートPi4、第4抵抗R4をさらに備える。
【0066】
第4入力ポートPi4は、第4入力信号SIG4を受ける。第4抵抗R4の一端は、第4入力ポートPi4に接続され、その他端には、第3基準電圧Vref3が印加される。第3基準電圧Vref3は、その他の基準電圧と同一であってもよいし、別であってもよい。
【0067】
図3の第1セレクタSEL1は、第2入力信号SIG2および第2基準電圧Vref2に加えて第4入力信号SIG4が入力され、入力端子I1〜I3のいずれかの信号を選択可能に構成されている。
図3の第3セレクタSEL3は、第2入力信号SIG2に加えて第4入力信号SIG4が入力され、入力端子I1、I2のいずれかの信号を選択可能に構成される。
【0068】
以上が
図3の入力セレクタ11aの構成である。続いてその動作を説明する。
【0069】
1. シングルエンド入力
1a. C4=1,C1=2,C2=i(i=1,2)
この場合、i=1のとき、第1入力ポートPi1にシングルエンド形式の第1入力信号SIG1を受けることができ、i=2のとき、第3入力ポートPi3にシングルエンド形式の第3入力信号SIG3を受けることができる。
【0070】
1b. C4=3,C3=j(j=1,2)
j=1の場合、第2入力ポートPi2にシングルエンド形式の第2入力信号SIG2を受けることができ、j=2の場合、第4入力ポートPi4にシングルエンド形式の第4入力信号SIG4を受けることができる。C1、C2はいずれも冗長項(DC)である。
【0071】
2.差動入力
C4=2,C2=i(i=1,2),C3=j(j=1,2)
第1バッファBUF1がオフされ、その出力インピーダンスが十分に大きく設定される。また基準電圧Vref1、Vref4を生成する電圧源がオフされ、その出力インピーダンスも十分に大きく設定される。
この場合、i=1のとき第1入力ポートPi1に、i=2のとき第3入力ポートPi3に、差動形式の入力信号の一方を受けることができ、j=1のとき第2入力ポートPi2に、j=2のとき第4入力ポートPi4に、差動形式の入力信号の他方を受けることができる。
【0072】
3. グランドアイソレーション入力
3a. C4=2,C1=1,C2=i(i=1,2),C3=1
第1基準電圧Vref1を生成する電圧源をオンし、第1バッファBUF1をオンする。
i=1のとき、第1入力ポートPi1と第2入力ポートPi2に、グランドアイソレーション形式の入力信号SIG1、SIG2を受けることができる。
i=2のとき、第3入力ポートPi3と第2入力ポートPi2に、グランドアイソレーション形式の入力信号SIG3、SIG2を受けることができる。
【0073】
3b. C4=2,C1=3,C2=i(i=1,2),C3=2
第3基準電圧Vref3を生成する電圧源をオンし、第1バッファBUF1をオンする。
i=1のとき、第1入力ポートPi1と第4入力ポートPi4に、グランドアイソレーション形式の入力信号SIG1、SIG4を受けることができる。
i=2のとき、第3入力ポートPi3と第4入力ポートPi4に、グランドアイソレーション形式の入力信号SIG3、SIG4を受けることができる。
【0074】
このように、
図3の入力セレクタ11aによれば、
図2の入力セレクタ11に比べて、さらに多様な形式の組み合わせに対応できる。
【0075】
図4は、第2の変形例に係る入力セレクタ11bの構成を示す回路図である。
図3の入力セレクタ11aと比較して、
図4の入力セレクタ11bは、第1セレクタSEL1の入力が異なっている。具体的には、
図3において、第1セレクタSEL1の第1入力端子I1、第3入力端子I3にはそれぞれ、第2入力信号SIG2、第4入力信号SIG4が入力されているのに対して、
図4では、第3入力端子I3に第3セレクタSEL3の出力信号S3が入力され、第1入力端子I1は非接続となっている。上述のように、第3セレクタSEL3の出力信号S3は、第2入力信号SIG2または第4入力信号SIG4に切りかえ可能であるため、等価的な機能を果たす。この場合、第1セレクタSEL1を2入力にできるため、回路規模を小さくできる。
【0076】
さらに、第1セレクタSEL1は、第3バッファBUF3を介して第3セレクタSEL3の出力信号S2が入力されている。したがって、第1バッファBUF1を省略することも可能である。
【0077】
図5は、第3の変形例に係る入力セレクタ11cの構成を示す回路図である。入力セレクタ11cは、
図2の2つの入力セレクタ11_1、11_2を備えている。2つの入力セレクタ11_1、11_2は、上述のいずれの形態であっても構わないが、
図5には、
図3の入力セレクタ11aを利用した形態が示されている。2系統の入力セレクタを設けることにより、ステレオ2チャンネルのオーディオ信号を好適に受けることができる。
図5において、各部材の符号は説明に支障がない範囲で省略している。
【0078】
さらに
図5の変形例は、以下の着目すべき特徴を備える。すなわち、一方の入力セレクタ11_2側の第1セレクタSEL1は、それ自身の第2入力信号SIG2、第2基準電圧Vref2、第4入力信号SIG4に加えて、他方の入力セレクタ11_1側の第1セレクタSEL1の出力信号S1が入力される。
この変形例によれば、2系統の入力セレクタ11を組み合わせて、さらに多様な入力信号形式の組み合わせに対応することができる。
さらなる変形例として、他方の入力セレクタ11_1側の第1セレクタSEL1は、それ自身の第2入力信号SIG2、第2基準電圧Vref2、第4入力信号SIG4に加えて、一方の入力セレクタ11_2側の第1セレクタSEL1の出力信号S1が入力されてもよい。
【0079】
図2の入力セレクタ11は3入力であったが、これを2入力としてもよい。この場合、第3入力ポートPi3および第3抵抗R3を省略し、第2セレクタSEL2の第2入力端子I2を非接続(NC)とすればよい。この場合、第1入力信号SIG1、第2入力信号SIG2に、シングルエンド形式、差動形式、グランドアイソレーション形式の信号を受けることができる。
【0080】
さらに、第2セレクタSEL2と第3セレクタSEL3の両方を省略してもよい。この場合、2つの経路のインピーダンスは等しくなり、さらに第2セレクタSEL2、第3セレクタSEL3を設けた場合に比べて、信号経路上の不要な素子を減らすことができるため、信号の歪みを低減できる。
【0081】
まとめると、上述のさまざまな態様の入力セレクタ11を用いることにより、入力セレクタ11を搭載する電子機器の設計者は、入力セレクタ11の各入力ポートに、さまざまな形式の入力信号を柔軟に割り当てることができ、設計変更が生じた場合でも、各セレクタを切りかえるのみで対応することができる。
【0082】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0083】
図6は、出力回路の別の構成を示す回路図である。
図6の出力回路10aは、
図2等の出力回路10の第4セレクタSEL4に代えて、第5セレクタSEL5、第6セレクタSEL6を有する。
第5セレクタSEL5の出力端子は、演算増幅器AMP1の一方の入力端子(非反転入力端子)に接続される。第6セレクタSEL6の第1入力端子I1は、演算増幅器AMP1の出力端子と接続され、第6セレクタSEL6の出力端子は、演算増幅器AMP1の他方の入力端子(反転入力端子)に接続される。第1出力抵抗Ro1は、一端が第5セレクタSEL5の第1入力端子I1に接続され、他端に当該出力回路10aの第1入力端子IN1の信号に応じた信号を受ける。第2出力抵抗Ro2は、一端が第5セレクタSEL5の第1入力端子I1に接続され、他端に第4基準電圧Vref4が印加される。第3出力抵抗Ro3の一端は、第6セレクタSEL6の第2入力端子I2に接続され、他端に出力回路10の第2入力端子IN2の信号に応じた信号を受ける。第4出力抵抗Ro4の一端は、第6セレクタSEL6の第2入力端子I2と接続され、他端が演算増幅器AMP1の出力端子と接続される。
【0084】
図6の出力回路10aは以下のように動作する。
C5=2,C6=1のとき、第1状態φ1
C5=1,C6=2のとき、第3状態φ3
【0085】
2. 第2の実施の形態
2.1 背景
CDプレイヤや、オーディオアンプ、カーステレオ、あるいは、携帯型ラジオや携帯型のオーディオプレイヤなどの、オーディオ信号を再生する機能を備えた電子機器は、音量を調節するためのボリウムや、周波数特性を調節するイコライザなどを備えるのが一般的である。かかるボリウムやイコライザの制御は、オーディオ信号の振幅を変化させることにより行われる。
【0086】
オーディオ信号は、増幅器によって増幅され、最終的に、電気音響変換素子であるスピーカやヘッドホンから、音声として出力される。音量の調節は、増幅器の利得を制御したり、減衰器の減衰率を制御することにより実現される。たとえば、特許文献1、2には、増幅器の利得や、減衰器の減衰率を、可変抵抗の抵抗値を切り換えることにより行う電子ボリウム回路が開示される。
【0087】
ボリウム回路は、複数の入力ソースを選択する入力セレクタ、複数の入力ソースそれぞれのレベルを均一化するための入力ゲインコントロール回路、所定の周波数帯域を増幅または減衰させるトーンコントロール回路などとともに集積化される。このような回路を、オーディオ信号処理回路と称する。
【0088】
【特許文献1】特開2005−117489号公報
【特許文献2】特開2005−217710号公報
【特許文献3】特開2004−222077号公報
【特許文献4】特開平11−340759号公報
【0089】
2.2 課題
かかるオーディオ信号処理回路は、入力セレクタ、入力ゲインコントロール回路、ボリウム回路、トーンコントロール回路(これらそれぞれを処理ブロックとも称する)がカスケードに接続されて構成される。
【0090】
各処理ブロックは、その入力段に、入力インピーダンスを高めるための入力バッファが設けられるのが一般的である。したがって、各処理ブロックがオーディオ信号に対して何の処理も施さない場合であっても、オーディオ信号は処理ブロックに設けられた入力バッファを通過するため、音質の劣化は避けられない。入力バッファが設けられない場合であっても、不要な回路要素や配線を通過することにより、信号は劣化する。さらにオーディオ信号以外を扱う信号処理回路においても、かかる問題は発生しうる。
【0091】
本発明のある態様は係る課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、信号の劣化を抑制する技術の提供にある。以下、第2の実施の形態では、この技術を説明する。
【0092】
図7は、第2の実施の形態に係る信号処理システム100の構成を示すブロック図である。信号処理システム100は、オーディオ信号を処理対象とし、これの音量を調節し、増幅し、帯域補正を行って、後段のスピーカやヘッドホンをはじめとする電気音響変換素子(以下、スピーカSPという)へと出力する。信号処理システム100ならびに音源4およびスピーカSPは、オーディオシステム2を構成する。
【0093】
オーディオシステム2は、たとえば車載用オーディオシステムである。音源4は、CDプレイヤやDVDプレイヤ、カーナビゲーションシステムなどであり、2チャンネル(RチャンネルおよびLチャンネル)の音声信号SR、SLを出力する。別の実施例において、音源4は、5.1チャンネルの音声信号を出力してもよい。オーディオシステム2は、フロントの2チャンネルのスピーカSP(FR)、SP(FL)と、リアの2チャンネルのスピーカSP(RR)、SP(RL)の合計4つのスピーカから音声を出力する。オーディオシステム2には、図示しないサブウーハが設けられてもよい。
【0094】
信号処理システム100は、複数(たとえば3)系統の外部入力IN1〜IN3を備え、それぞれに、外部からのステレオ2チャンネルの音声信号SR/SLを受けることができる。たとえば第1の外部入力IN1には、CDプレイヤからの信号が、外部入力IN2には、カーナビゲーションシステムからの信号が、外部入力IN3には、ポータブル用のシリコンオーディオプレイヤからの信号が入力される。
【0095】
信号処理システム100は、カスケードに接続されたn個(nは2以上の自然数)の処理ブロックBLK1〜BLKn、バイパス経路26L、26R、ソフトスイッチ回路30、制御部40を備える。
図7には理解の容易化のため、例示的にn=8の場合が示されているが、その数は任意である。各処理ブロックは、前段の処理ブロックからの出力信号に所定の信号処理を施して次段へと出力するよう構成されている。
【0096】
具体的には、1段目から8段目の処理ブロックBLK1〜BLK8はそれぞれ、入力セレクタ回路11、入力ゲインコントロール回路12、ボリウム回路14、トーンコントロール回路16、ラウドネス回路18、ハイパスフィルタ20、フェーダボリウム回路22、パワーアンプ24である。信号処理システム100は、ステレオの2チャンネルL、Rに対応して、2系統(Lch、Rch)の信号経路を有している。必要に応じて、各処理ブロックや信号には処理対象のチャンネルを示す添え字L、Rを付すものとし、特に必要が無い場合には、添え字を省略する。
【0097】
各処理ブロックBLK1〜BLK8は以下の処理を行う。
BLK1:入力セレクタ回路11は、3つの外部入力端子IN1〜IN3の信号のいずれかを選択する。この入力セレクタ回路11の詳細については、第1の実施の形態で
図2〜
図6を参照して説明した。
BLK2:入力ゲインコントロール回路12は、外部入力端子IN1〜IN3に接続される外部機器からのオーディオ信号の振幅レベルを均一化するために、入力セレクタ回路11からのオーディオ信号を所定の利得で増幅する(もしくは減衰させる)。
BLK3:ボリウム回路14は、ユーザが設定したボリウムに対応する利得で、オーディオ信号を増幅する。
BLK4:トーンコントロール回路16は、ハイパスフィルタ、ローパスフィルタ、帯域通過フィルタなどが切りかえ可能であり、ユーザが設定した周波数帯域を増幅または減衰させる。いわゆるイコライザ回路である。このトーンコントロール回路16の詳細については、第3、第4の実施の形態の
図9〜
図20を参照して後述する。
BLK5:車が走行中に、ロードノイズによってスピーカから再生されるオーディオ信号(特に低周波数成分)が聞こえにくくなる場合がある。ラウドネス回路18はオン状態において、オーディオ信号の低域成分を増幅して強調する。
BLK6:4チャンネルのスピーカに加えて、サブウーハが設けられる場合、サブウーハから重低音および低域を、4チャンネルのスピーカから低音および中高音を出力させたい場合がある。ハイパスフィルタ20は、この場合にサブウーハから出力すべき重低音成分を除去する。ハイパスフィルタ20はサブウーハの有無に応じて、オン、オフが切りかえられる。
BLK7:フェーダボリウム回路22は前側スピーカと後ろ側スピーカに音を振り分ける。
BLK8:パワーアンプ24は、オーディオ信号をスピーカを駆動するために十分なレベルに増幅する。信号処理システム100の外部に別のパワーアンプが設けられてもよい。
【0098】
信号処理システム100は、複数の処理ブロックBLK1〜BLK8に加えて、バイパス経路26L、26Rを(バイパス経路26と総称する)備える。バイパス経路26は、4段目から7段目の処理ブロックBLK4〜BLK7をバイパスするように設けられる。
一般化すると、バイパス経路26は、i段目(iは1≦i≦nを満たす自然数)からj段目(jはi<j<nを満たす自然数)の処理ブロックをバイパスする任意の箇所に設けることができる。(iとj)の組み合わせの変形例については後述する。
【0099】
ソフトスイッチ回路30は、信号経路ごとのソフトスイッチ素子SSWを含む。
各ソフトスイッチ素子SSWは、少なくとも2つの入力端子P1、P2とひとつの出力端子Poを有する。各スイッチSSWの第1入力端子P1には、j(=7)段目の処理ブロックBLK4の出力信号が入力され、第2入力端子P2にはi(=4)段目の処理ブロックへの入力信号(言い換えれば、i−1段目の処理ブロックの出力信号)が入力されている。各ソフトスイッチ素子SSWは、制御部40からの切りかえ信号(不図示)を受け、2つの入力端子P1、P2のいずれか一方の信号を選択して出力する。ソフトスイッチ素子SSWは、信号の切りかえの際には、その出力を、一方の入力端子に入力される信号から他方の入力端子に入力される信号へと緩やかに遷移させる。かかるソフトスイッチ素子SSWは、ポップアップノイズやボツ音などと称されるノイズを抑制するためにオーディオ信号処理の分野において用いられるものであり、公知の、あるいは将来に開発される技術を利用すればよく、その構成は限定されない。たとえば、特開2006−262264号公報や特開2006−262265号公報には関連する技術が開示される。
【0100】
制御部40は、外部の図示しないホストプロセッサからの制御データDctrlを受け、信号処理システム100全体を統合的に制御する。この制御データDctrlには、各処理ブロックBLK1〜BLK8それぞれが実行すべき信号処理を規定するパラメータ(設定データSD1〜SD8)が含まれる。具体的には、外部入力のチャンネルを指示するデータSD1、入力ゲインを設定するためのデータSD2、ボリウムを設定するための設定データSD3、イコライザの周波数特性を設定するためのデータSD4、ラウドネスのオン、オフを切りかえるためのデータSD5、ハイパスフィルタのカットオフ周波数や減衰量を切りかえるためのデータSD6、前側スピーカSP(F)と後ろ側スピーカSP(R)への音量の振り分けを指定するデータSD7などが例示される。
【0101】
制御部40は、これらの設定データを監視し、i(=4)段目からj(=7)段目の処理ブロックに対する設定データのいずれもが、処理対象の信号に影響を及ぼさない値に設定されるとき、ソフトスイッチ回路30に、第2入力端子P2に入力される信号を選択させる。このとき、4段目から7段目の処理ブロックBLK4〜BLK7がバイパスされる。
【0102】
反対に、i段目からj段目の処理ブロックに対する設定データの少なくともひとつが、処理対象の信号に影響を及ぼす値に設定されるとき、制御部40は、ソフトスイッチ回路30に、第2入力端子P2に入力される信号を選択させる。このとき、パワーアンプ24には、第4から第7段目の処理ブロックBLK4〜BLK7を経たオーディオ信号が入力される。
【0103】
以上が信号処理システム100の構成である。続いてその動作を説明する。
図8は、
図7の信号処理システム100の動作を示すタイムチャートである。Dctrlは、制御部40に入力される制御データを、SSWのソフトスイッチ素子SSWの状態(ローレベルが第1入力端子P1を選択した状態、ハイレベルが第2入力端子P2を選択した状態に対応する)を示す。
【0104】
時刻t0に信号処理システム100の電源が投入され、時刻t1に制御部40はホストプロセッサからの制御信号Dctrlを受ける。制御部40は、制御信号Dctrlにもとづいて、各処理ブロックBLK1〜BLK8の状態を設定する。
【0105】
設定データSD4によって、トーンコントロール回路16(BKL4)には、ある利得と帯域が設定されたとする。またその他の処理ブロックには、オーディオ信号に影響を与えないパラメータが与えられたとする。そうすると、制御部40は、トーンコントロール回路16がオーディオ信号に影響を及ぼすと判定し、ソフトスイッチ回路30に第1入力端子側の信号を選択させる(時刻t2)。その結果、スピーカSPからは、トーンコントロール回路16によって帯域が調整されたオーディオ信号が再生される。
【0106】
続いて、ユーザがボリウムの変更を指示する。そうするとホストプロセッサから制御部40に対して、ボリウム回路14(処理ブロックBLK3)のゲインを設定するパラメータ(設定データSD3)が出力され、ボリウム回路14のゲインが変更される(時刻t3)。ここでボリウム回路14(処理ブロックBLK3)は、4〜7段目に含まれないため、ソフトスイッチ回路30の制御には影響が及ばない。
【0107】
続いて、ユーザがトーンコントロールを無効化(解除)したとする。そうすると、ホストプロセッサから制御部40に対して、フラットな周波数特性が得られるようなトーンコントロール回路16の利得、帯域、Q値などを指示する設定データSD4が出力される(時刻t4)。その結果、i(=4)段目からj(=7)段目の処理ブロックに対する設定データSD4〜SD7のすべてが、処理対象の信号に影響を及ぼさない値に設定される。この状態において、制御部40は、ソフトスイッチ回路30を第1入力端子P1を選択した状態から、第2入力端子P2を選択した状態へと、所定のソフトスタート期間Tssにわたって緩やかに遷移させる(時刻t5〜t6)。
【0108】
その結果、4段目から7段目の処理ブロックBLK4〜BLK7がバイパスされる。つまりオーディオ信号は、すべての処理ブロックBLK1〜BLK8を経てスピーカから出力される状態から、入力セレクタ回路11、入力ゲインコントロール回路12、ボリウム回路14、パワーアンプ24を経て、スピーカSPへと出力される状態へシームレスに切りかえられる。
その後、制御部40は、受信した設定データSD4に応じて、トーンコントロール回路16を利得ゼロの状態へと変化させる。
【0109】
その後、ユーザがラウドネス機能をオンしたとする。そうすると制御部40には、ラウドネス回路18(BLK5)のオンを指示する設定データSD5が入力される(時刻t7)。制御部40は、設定データSD5にもとづいてラウドネス回路18の状態を切りかえる。その後、制御部40は、時刻t8〜t9のソフトスタート期間Tssに、ソフトスイッチ回路30の状態を、第2入力端子P2を選択した状態から、第1入力端子P1を選択した状態へと緩やかに遷移させる。その結果、オーディオ信号は、ラウドネス処理(およびその他の処理)がされないフラットな状態から、ラウドネス機能によって低域が強調された状態へとシームレスに切りかえられる。
【0110】
以上が信号処理システム100の動作である。
本実施の形態に係る信号処理システム100によれば、ソフトスイッチ回路30によって第2入力端子P2側の信号を選択させることによって、i段目からj段目(4〜7段目)の処理ブロックBLK4〜BLK7をバイパスすることができ、信号の劣化を抑制できる。具体的には、不要なブロックをバイパスした状態において、オーディオ信号は、入力セレクタ回路11、入力ゲインコントロール回路12、ボリウム回路14、パワーアンプ24のみを経てスピーカSPへと入力される。したがってバイパスしない場合に比べて、オーディオ信号が経由するバッファの個数が半減されている。
【0111】
また、ソフトスイッチ回路30は、一方の入力端子P1から他方の入力端子P2(またはその逆)へと緩やかにシームレスに切りかえ可能であるため、バイパスの切りかえの際のノイズを抑制するとともに、オーディオ信号に対するエフェクト処理を、緩やかにオン、オフできる。
【0112】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0113】
実施の形態では、4段目から7段目の処理ブロックBLK4〜BLK7をバイパスする単一のバイパス経路26を設ける場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。
たとえば、
図7のバイパス経路26に加えて、あるいはこれに変えて、トーンコントロール回路16のみをバイパスする経路を設けてもよい。トーンコントロール回路は、他のブロックよりも信号歪みを受けやすいため、これをバイパスすることにより、高音質を得ることができる。
【0114】
これらのバイパス経路に変えて、あるいは加えて、ハイパスフィルタ20のみをバイパスするバイパス経路を設けてもよい。ハイパスフィルタ20のオン、オフは、サブウーハの有無に応じて決められることから、ハイパスフィルタは固定的にオン、またはオフされることが多い。したがって、これをバイパス可能とすることにより、サブウーハが設けられないシステムの音質を向上できる。
【0115】
別の観点から見れば、(i−1)段目の処理ブロックは、ユーザの設定値に応じた利得でオーディオ信号を増幅するボリウム回路であってもよい。この場合、オーディオ信号は、必ずボリウム回路を経ることになるため、ユーザは最低限、音量を調整することができる。また、(j+1)段目の処理ブロックはオーディオ信号を増幅してスピーカSPへと出力するパワーアンプであってもよい。
【0116】
制御部40は、外部からソフトスイッチ回路30の状態を指示する専用の制御信号を受けてもよい。制御部40は、この制御信号にもとづいてソフトスイッチ回路30を制御してもよい。この場合、外部のホストプロセッサからソフトスイッチ回路30の切りかえタイミングなど柔軟に制御できる。
【0117】
実施の形態では、オーディオ信号を処理対象として説明したが、画像信号などのアナログ信号にも、本発明は適用可能である。
【0118】
(第3、第4の実施の形態)
3.1 背景
オーディオ信号の周波数特性を変化させるために、トーンコントロール回路、イコライザ、低域強調回路(ラウドネス回路)などのさまざまな信号処理回路が利用される。こうした信号処理回路は、シーケンシャルに接続されたフィルタと可変利得増幅器(減衰器)を含むのが一般的である(特許文献1参照)。
【0119】
特許文献1の
図9に記載のトーンコントロール回路は、入力信号(Vi)を増幅する利得制御手段(4)と、利得制御手段(4)の出力信号(Vk)をフィルタリングする伝達関数手段すなわちフィルタ(5)と、伝達関数手段(5)の出力信号Vfを入力信号(Vi)と合成する演算手段(2)を備える。
【特許文献1】特開平7−263988号公報
【0120】
3.2 課題
オーディオ信号の帯域は数Hz〜数十kHzであるため、この帯域に有効に作用するフィルタ(5)を構成するには、キャパシタの容量値を大きくするか、抵抗の抵抗値を大きくする必要がある。ところが、フィルタを半導体集積回路に内蔵する場合、キャパシタの容量値には面積の制約からの限界があるため、フィルタの抵抗の値を大きくする必要がある。抵抗値を大きくすると、フィルタで発生する熱雑音が大きくなる。またフィルタ(5)を、キャパシタ、抵抗およびバイポーラトランジスタの差動対を有するアンプを用いて構成する場合、大きな抵抗にべース電流が流れることによりアンプにオフセットが生ずる。これを嫌ってMOSFETを用いてアンプを構成すると、フリッカノイズが発生することになる。あるいはスイッチドキャパシタ型フィルタを用いると、スイッチングノイズが発生する。
【0121】
したがって、特許文献1に記載のトーンコントロール回路では、フィルタで発生したノイズが、演算手段(2)を経て、出力信号Voに重畳されるという問題がある。また、特許文献1の技術では、周波数帯域や利得を切りかえる際に、ノイズが発生するという問題がある。
【0122】
オーディオ信号を処理する回路においては、ときにノイズを低減し、ときにノイズを発生させることなく周波数帯域や利得を切りかえる必要があり、こうした問題に柔軟に対応可能な信号処理回路が望まれている。
【0123】
本発明のある態様は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、ノイズの低減にある。以下の第3、第4の実施の形態では、この技術を説明する。
【0124】
(第3の実施の形態)
図9は、第3の実施の形態に係るオーディオ信号処理回路100の構成を示す回路図である。オーディオ信号処理回路100は、入力ポートPiに受けたオーディオ信号に信号処理を施し、出力ポートPoから出力する。オーディオ信号処理回路100は、フィルタ50、可変利得増幅器52、マトリクススイッチ回路54を備える。
【0125】
フィルタ50は、その入力端子INに入力されたオーディオ信号をフィルタリングする。フィルタ50は、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンド除去フィルタなどである。フィルタ50は固定的なフィルタであってもよいし、任意の周波数特性が切りかえ可能に構成されてもよい。
【0126】
可変利得増幅器52は、その入力端子INに入力されたオーディオ信号を、設定された利得で増幅または減衰させる。つまり、可変利得増幅器52の利得は、1より小さい下限値(減衰)から、1より上限値(増幅)の間で切りかえられる。
【0127】
マトリクススイッチ回路54は、入力ポートPi、出力ポートPo、フィルタ50の入力端子INおよび出力端子OUT、可変利得増幅器52の入力端子INおよび出力端子OUTそれぞれに接続される。マトリクススイッチ回路54は、その内部に複数のスイッチ(不図示)を含み、その接続状態に応じて、以下に示す第1状態φ1と第2状態φ2が切りかえ可能に構成されている。
第1状態φ1: 入力ポートPi、可変利得増幅器52、フィルタ50、出力ポートPoが、順に直列に接続された状態
第2状態φ2: 入力ポートPi、フィルタ50、可変利得増幅器52、出力ポートPoが、順に直列に接続された状態
【0128】
フィルタ50を「F」、可変利得増幅器52を「A」と記すと、第1状態φ1は、[Pi−A−F−Po]と表され、第2状態φ2は、[Pi−F−A−Po]と表される。
【0129】
図10は、
図9のマトリクススイッチ回路54の構成例を示す回路図である。マトリクススイッチ回路54は、第1入力スイッチSWi1、第2入力スイッチSWi2、第1中間スイッチSWm1、第2中間スイッチSWm2、第1出力スイッチSWo1、第2出力スイッチSWo2を含む。
【0130】
第1入力スイッチSWi1は、入力ポートPiとフィルタ50の入力端子INの間に設けられる。第2入力スイッチSWi2は、入力ポートPiと可変利得増幅器52の入力端子INの間に設けられる。
【0131】
第1中間スイッチSWm1は、フィルタ50の出力端子OUTと可変利得増幅器52の入力端子INの間に設けられる。第2中間スイッチSWm2は、可変利得増幅器52の出力端子OUTとフィルタ50の入力端子INの間に設けられる。
【0132】
第1出力スイッチSWo1は、フィルタ50の出力端子OUTと出力ポートPoの間に設けられる。第2出力スイッチSWo2は、可変利得増幅器52の出力端子OUTと出力ポートPoの間に設けられる。
なお以降の図において、一方の端子が共通に接続される複数のスイッチは、等価的な機能を有するセレクタ回路(マルチプレクサあるいはデマルチプレクサ)を用いて構成してもよい。
【0133】
図10の回路において、第1状態φ1、第2状態φ2は、各スイッチの状態と以下のように対応づけられる。
【0134】
第1状態φ1
SWi1=OFF、SWi2=ON
SWm1=OFF、SWm2=ON
SWo1=ON、SWo2=OFF
【0135】
第2状態φ2
SWi1=ON、SWi2=OFF
SWm1=ON、SWm2=OFF
SWo1=OFF、SWo2=ON
【0136】
図11は、
図9および
図10のオーディオ信号処理回路100のノイズ特性を示す図である。縦軸はノイズ量を、横軸は可変利得増幅器52の利得を示す。
三角のプロットは、第1状態φ1におけるノイズ特性を、四角のプロットは第2状態φ2におけるノイズ特性を示している。
【0137】
可変利得増幅器52において発生するノイズが、フィルタ50において発生するノイズに比べて十分小さい状況について考察する。かかる状況では、可変利得増幅器52がフィルタ50の前段に配置される第1状態φ1(三角プロット)では、オーディオ信号処理回路100から出力されるノイズは、フィルタ50が発生するノイズとほぼ一致し、可変利得増幅器52の利得によらずほぼ一定値となる。
【0138】
これに対して、可変利得増幅器52がフィルタ50の後段に配置される第2状態φ2(四角プロット)では、フィルタ50が発生するノイズが、可変利得増幅器52によって増幅され、あるいは減衰されるため、可変利得増幅器52の利得が高い程、ノイズ量が大きく、利得が低いほど、ノイズ量は小さくなる。第1状態φ1と第2状態φ2それぞれにおけるオーディオ信号処理回路100全体から出力されるノイズ量は、可変利得増幅器52の利得が0dBのときに一致する。
【0139】
かかる状況においては、オーディオ信号処理回路100の状態は、フィルタ50の利得に応じて切りかえることが、ノイズ低減の観点から有効である。すなわち、
図11に「x」のプロットで示すように、可変利得増幅器52の利得が所定のしきい値(
図11の例では0dB、1倍)より高いとき、オーディオ信号処理回路100を第1状態φ1に設定し、利得がしきい値より低いとき、オーディオ信号処理回路100を第2状態φ2に設定すれば、第1状態φ1あるいは第2状態φ2に固定的に設定される場合に比べて、ノイズを低減することができる。
【0140】
また、第1状態φ1において可変利得増幅器52が発生するノイズの周波数帯域がフィルタ50の不透過周波数域に含まれる場合には、可変利得増幅器52で生ずるノイズを後段のフィルタ50でカットすることが可能となるため、ノイズを低減することができる。
【0141】
可変利得増幅器52およびフィルタ50のノイズ特性が、
図11のそれとは異なっている場合であっても、オーディオ信号処理回路100全体としてのノイズが小さくなるように、第1状態φ1と第2状態φ2を切りかえることが可能である。
【0142】
以下では、第1状態φ1と第2状態φ2は、可変利得増幅器52の利得に応じて切りかえられること、具体的には利得が0dBより高いとき第1状態φ1、利得が0dBより低いとき第2状態φ2に設定されることを前提として説明する。ただし、本発明はこれには限定されず、任意の利得において、任意の状態に設定されて構わない。
【0143】
続いて、第1状態φ1と第2状態φ2の間の遷移について説明する。
図9および
図10において、マトリクススイッチ回路54は第1状態φ1と第2状態φ2がシームレスに、言い換えれば出力ポートPoの信号が不連続とならないように、緩やかに切りかえ可能であることが好ましい。シームレスな状態遷移は、いわゆるオーディオ信号処理の分野において、「ソフト切りかえ」と呼ばれる技術を用いて実現される。この「ソフト切りかえ」は、ボリウム回路やイコライザ回路などにおいて、ポップノイズ(ボツ音)と称されるノイズを抑制するために利用される。
【0144】
たとえばソフト切りかえは、以下の構成によって実現できる。
図12は、ソフト切りかえが可能なオーディオ信号処理回路の第1の構成例を示す回路図である。
【0145】
図12のオーディオ信号処理回路100aは、第1状態φ1、第2状態φ2に加えて、以下のバイパス状態φ3に設定可能である。
バイパス状態φ3: 入力ポートPi、フィルタ50、出力ポートPoが、順に直列に接続された状態
第3状態φ3は、[Pi−F−Po]と表される。
【0146】
3つの状態を実現し、かつ任意の2状態の間でシームレスに遷移するために、マトリクススイッチ回路54aは、
図10のマトリクススイッチ回路54に加えて、2つのソフトスイッチSSW1、SSW2、第3入力スイッチSWi3、第3出力スイッチSWo3をさらに有する。
【0147】
第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2はそれぞれ、第1入力端子I1、第2入力端子I2(白抜き)、出力端子OUT(黒塗り)を備え、第1、第2入力端子I1、I2の信号のいずれか一方を選択して出力端子OUTから出力する。第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2はそれぞれ、選択の切りかえの際には、その出力端子OUTの信号を、一方の入力端子I1(I2)の信号から他方の入力端子I2(I1)の信号へと緩やかに遷移させる。
【0148】
第1ソフトスイッチ回路SSW1の出力端子OUTは、フィルタ50の入力端子INと接続される。第1入力スイッチSWi1は、入力ポートPiと第1ソフトスイッチ回路SSW1の第1入力端子I1の間に設けられる。第2入力スイッチSWi2は、入力ポートPiと可変利得増幅器52aの入力端子INの間に設けられる。第3入力スイッチSWi3は、入力ポートPiと第1ソフトスイッチ回路SSW1の第2入力端子I2の間に設けられる。
【0149】
第1中間スイッチSWm1は、フィルタ50の出力端子OUTと可変利得増幅器52aの入力端子INの間に設けられる。第2中間スイッチSWm2は、可変利得増幅器52aの出力端子OUTと第1ソフトスイッチ回路SSW1の第1入力端子I1の間に設けられる。
【0150】
第1出力スイッチSWo1は、フィルタ50の出力端子OUTと第2ソフトスイッチ回路SSW2の第1入力端子I1の間に設けられる。第2出力スイッチSWo2は、可変利得増幅器52aの出力端子OUTと第2ソフトスイッチ回路SSW2の第1入力端子I1の間に設けられる。第3出力スイッチSWo3は、フィルタ50の出力端子OUTと第2ソフトスイッチ回路SSW2の第2入力端子I2の間に設けられる。
【0151】
図12の回路において、第1状態φ1、第2状態φ2、第3状態φ3は、各スイッチの状態と以下のように対応づけられる。「DC」は、オン、オフを問わない冗長項(Don't Care)を示す。また以下に例示される組み合わせの他にも、等価的な回路状態が実現できることは理解できよう。
【0152】
第1状態φ1
SWi1=OFF、SWi2=ON、SWi3=DC
SWm1=OFF、SWm2=ON、
SWo1=ON、SWo2=OFF、SWo3=DC
SSW1=I1、SSW2=I1
【0153】
第2状態φ2
SWi1=ON、SWi2=OFF、SWi3=DC
SWm1=ON、SWm2=OFF、
SWo1=OFF、SWo2=ON、SWo3=DC
SSW1=I1、SSW2=I1
【0154】
第3状態φ3
SWi1=DC、SWi2=DC、SWi3=ON
SWm1=DC、SWm2=DC
SWo1=DC、SWo2=DC、SWo3=ON
SSW1=I2、SSW2=I2
【0155】
以上がマトリクススイッチ回路54aの構成である。続いて、
図12のオーディオ信号処理回路100aの動作を説明する。
このオーディオ信号処理回路100aでは、以下の2つの状態遷移をシームレスに実行できる。
【0156】
(1)第1状態φ1→第2状態φ2
(2)第2状態φ2→第1状態φ1
【0157】
各遷移の際の動作を説明する。
図13(a)、(b)はそれぞれ、
図12のオーディオ信号処理回路100aの状態遷移を示すタイムチャートである。タイムチャートは、上からの順にスイッチのオン、オフ状態、ソフトスイッチ回路の状態、可変利得増幅器52aの利得を示す。
【0158】
(1)第1状態φ1→第2状態φ2
図13(a)を参照する。時刻t0以前は、可変利得増幅器52aの利得は0dBより高いある第1の値g1に設定されている。第1の値g1は、たとえば3dBであり、可変利得増幅器52aはオーディオ信号を増幅している。このときオーディオ信号処理回路100aは第1状態φ1である。
【0159】
時刻t0にオーディオ信号処理回路100aに対して、可変利得増幅器52aの利得を、0dBより低い第2の値g2(たとえば−3dB)へと切りかえる指示が入力される。つまり、第2状態φ2への遷移が指示される。この遷移は、以下の処理を経て実行される。
【0160】
時刻t1に、第3入力スイッチSWi3および第3出力スイッチSWo3がオン状態となる(S1)。
【0161】
続いて、時刻t2〜t3にかけて、第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2がそれぞれ、第1入力端子I1側にオンした状態から、第2入力端子I2側にオンした状態へと緩やかに遷移する(S2)。
【0162】
時刻t3〜t5の期間は、第3状態φ3である。第3状態φ3に設定される期間中の時刻t4に、可変利得増幅器52aの利得が、第1の値g1から第2の値g2へと切りかえられる。また第1入力スイッチSWi1がオンに、第2入力スイッチSWi2がオフに、第1中間スイッチSWm1がオンに、第2中間スイッチSWm2がオフに、第1出力スイッチSWo1がオフに、第2出力スイッチSWo2がオンに切りかえられる(S3)。
第3状態φ3では、可変利得増幅器52aはバイパスされているため、その利得を切りかえても、出力信号に影響は及ばない。またその他のスイッチの切りかえも、出力信号には影響は及ぼさない。
【0163】
続いて時刻t5〜t6にかけて、第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2がそれぞれ、第2入力端子I2側にオンした状態から、第1入力端子I1側にオンした状態へと緩やかに遷移する(S4)。
【0164】
時刻t6以降、オーディオ信号処理回路100aは第2状態φ2に設定され、フィルタ50、可変利得増幅器52の順で処理されたオーディオ信号が、出力ポートPoから出力される。
【0165】
このように
図12のオーディオ信号処理回路100aによれば、状態遷移にともなうノイズを発生させることなく、フィルタ50と可変利得増幅器52aの配置を入れ換えることができる。
【0166】
(2)第2状態φ2→第1状態φ1
第2状態φ2から第1状態φ1への遷移についても同様である。すなわち、
図13(b)に示されるように、
図13(a)の遷移と反対の順序でスイッチが切りかえられる。
【0167】
さらにオーディオ信号処理回路100aは、
(3)第1状態φ1における可変利得増幅器52の利得切りかえ
(4)第2状態φ2における可変利得増幅器52の利得切りかえ
もシームレスに実行することができる。以下、これらの遷移時の処理を説明する。
【0168】
(3)第1状態φ1→第1状態φ1
初期状態として、可変利得増幅器52aの利得は0dBより高いある第1の値g1に設定されている。第1の値g1は、たとえば+3dBであり、可変利得増幅器52aはオーディオ信号を増幅している。このときオーディオ信号処理回路100aは第1状態φ1である。続いて、オーディオ信号処理回路100aに対して、可変利得増幅器52aの利得を0dBより高い第2の値g2(たとえば+5dB)へと切りかえる指示が入力される。利得切りかえ後も、第1状態φ1である。
【0169】
このような遷移は、
図13(a)のタイムチャートにおいて、ソフトスイッチ回路SSW1、SSW2ならびにスイッチSWi3、SWo3のみを切りかえ、残りのスイッチSWi1、SWi2、SWm1〜SWm2、SWo1、SWo2を切りかえずに、固定させることにより実行できる。
【0170】
すなわち、利得の切りかえが指示されると、第3入力スイッチSWi3および第3出力スイッチSWo3がオン状態となる(S1)。
【0171】
続いて、第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2がそれぞれ、第1入力端子I1側にオンした状態から、第2入力端子I2側にオンした状態へと緩やかに遷移する(S2)。
【0172】
時刻t3〜t5の期間は、第3状態φ3である。第3状態φ3の間に、可変利得増幅器52aの利得が、第1の値g1から第2の値g2へと切りかえられる。その他のスイッチは固定されている。第3状態φ3では、可変利得増幅器52aはバイパスされているため、その利得を切りかえても、出力信号に影響は及ばない。
【0173】
続いて時刻t5〜t6にかけて、第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2がそれぞれ、第2入力端子I2側にオンした状態から、第1入力端子I1側にオンした状態へと緩やかに遷移する(S4)。
【0174】
時刻t6以降、オーディオ信号処理回路100aは再度、第1状態φ1に設定され、可変利得増幅器52、フィルタ50の順で処理されたオーディオ信号が、出力ポートPoから出力される。
【0175】
(4)第2状態φ2→第2状態φ2
第2状態φ2における利得切りかえも、(3)の場合と同様に実行される。すなわち、
図13(b)のタイムチャートにおいて、ソフトスイッチ回路SSW1、SSW2ならびにスイッチSWi3、SWo3のみを切りかえ、残りのスイッチSWi1、SWi2、SWm1、SWm2、SWo1、SWo2を切りかえずに、固定させることにより実行できる。
【0176】
なお、(3)の利得切りかえでは、第1状態φ1、第3状態φ3、第1状態φ1の順で遷移する。かかる利得切りかえは、最小ステップ(たとえば1dBステップ)の繰り返しによって利得を遷移させる場合や、オーディオ帯域以外の帯域除去フィルタ(たとえばサンプリングクロック除去用のフィルタ)等の切りかえでは問題なく動作する。一方、比較的大きなステップで利得を遷移させる場合、たとえばオーディオ信号処理回路100全体の利得は、g1(=3dB)、0dB(バイパス状態)、g2(=5dB)の順で切りかえられる。かかる利得の遷移は、ある周波数帯域のオーディオ信号を時間的に増減させるため、ユーザに対して、聴感上の違和感を与える可能性がある。(4)の利得切りかえについても同様の問題が発生しうる。以下では、かかる問題を解消するための実施例を説明する。
【0177】
図12の回路から、第3入力スイッチSWi3および第3出力スイッチSWo3を省略した構成も有効である。
【0178】
図14は、ソフト切りかえが可能なオーディオ信号処理回路の第2の構成例を示す回路図である。
図14のオーディオ信号処理回路100bは、可変利得増幅器のペア(12a、12b)を備える。一方を単に可変利得増幅器52aと称し、他方をレプリカ可変利得増幅器52bと称する。
【0179】
フィルタ50を「F」可変利得増幅器52aを「A」、レプリカ可変利得増幅器52bを「B」、入力ポートPiを「Pi」、出力ポートPoを「Po」と表記するとき、オーディオ信号処理回路100aは、以下の5つの接続状態が切りかえ可能となっている。
第1出力状態φ1o : [Pi−A−F− Po]
第1中間状態φ1m : [Pi−B−F− Po]
第2出力状態φ2o : [Pi− F−A−Po]
第2中間状態φ2m : [Pi− F−B−Po]
バイパス状態φ3 : [Pi− F− Po]
【0180】
第1出力状態φ1oは上述の第1状態φ1に対応する状態であり、入力ポートPiに入力されたオーディオ信号は、可変利得増幅器52a、フィルタ50の順で処理され、出力ポートPoから出力される。第1出力状態φ1oは、通常のオーディオ信号の再生時に利用される。
【0181】
第1中間状態φ1mにおいて、入力ポートPiに入力されたオーディオ信号は、レプリカ可変利得増幅器52b、フィルタ50の順で処理され、出力ポートPoから出力される。第1中間状態φ1mは主として、通常のオーディオ信号の再生中ではなく、各状態を遷移する途中で利用される。
【0182】
第2出力状態φ2oは上述の第2状態φ2に対応する状態であり、入力ポートPiに入力されたオーディオ信号は、フィルタ50、可変利得増幅器52aの順で処理され、出力ポートPoから出力される。
【0183】
第2中間状態φ2mにおいて、入力ポートPiに入力されたオーディオ信号は、フィルタ50、レプリカ可変利得増幅器52bの順で処理され、出力ポートPoから出力される。第2中間状態φ2mは主として、通常のオーディオ信号の再生中ではなく、各状態を遷移する途中で利用される。
【0184】
バイパス状態φ3において、入力ポートPiに入力されたオーディオ信号は、フィルタ50のみによって処理され、出力ポートPoから出力される。バイパス状態φ3も、通常のオーディオ信号の再生中ではなく、各状態を遷移する途中で利用される。
【0185】
ただし後述のように、第1中間状態φ1m、第2中間状態φ2mを、通常のオーディオ信号の再生時に利用することも可能である。この場合、第1出力状態φ1o、第2出力状態φ2oが、遷移の途中で利用される。
【0186】
5つの状態を実現するために、マトリクススイッチ回路54bは以下のように構成される。ここではマトリクススイッチ回路54aとの相違点のみを説明する。
【0187】
図14のマトリクススイッチ回路54bは、
図12のマトリクススイッチ回路54aに加えて、第4入力スイッチSWi4、第3中間スイッチSWm3〜第6中間スイッチSWm6、第4出力スイッチSWo4をさらに備える。
【0188】
第4入力スイッチSWi4は、入力ポートPiとレプリカ可変利得増幅器52bの入力端子INの間に設けられる。
【0189】
第3中間スイッチSWm3は、フィルタ50の出力端子OUTとレプリカ可変利得増幅器52bの入力端子INの間に設けられる。第4中間スイッチSWm4は、レプリカ可変利得増幅器52bの出力端子OUTと第1ソフトスイッチ回路SSW1の第1入力端子I1の間に設けられる。第5中間スイッチSWm5は、可変利得増幅器52aの出力端子OUTと第1ソフトスイッチ回路SSW1の第2入力端子I2の間に設けられる。第6中間スイッチSWm6は、レプリカ可変利得増幅器52bの出力端子OUTと第1ソフトスイッチ回路SSW1の第2入力端子I2の間に設けられる。
【0190】
第4出力スイッチSWo4は、レプリカ可変利得増幅器52bの出力端子OUTと第2ソフトスイッチ回路SSW2の第1入力端子I1の間に設けられる。
【0191】
以上がマトリクススイッチ回路54bの構成である。続いて、
図14のオーディオ信号処理回路100bの動作を説明する。このオーディオ信号処理回路100bでは、以下の4つの状態遷移が発生しうる。
【0192】
(1)第1出力状態φ1o→第2出力状態φ2o
(2)第2出力状態φ2o→第1出力状態φ1o
(3a)第1出力状態φ1oにおける可変利得増幅器52aの利得切りかえ
(4a)第2出力状態φ2oにおける可変利得増幅器52aの利得切りかえ
【0194】
(1) 第1出力状態φ1o→第2出力状態φ2o
この遷移は、
図12のオーディオ信号処理回路100aの動作と同様である。
【0195】
(2) 第2出力状態φ2o→第1出力状態φ1o
この遷移は、
図12のオーディオ信号処理回路100aの動作と同様である。
【0196】
(3a) 第1出力状態φ1o→第1出力状態φ1o
図15は、
図14のオーディオ信号処理回路100bの状態遷移を示すタイムチャートである。タイムチャートにおいて、GAIN_Aは可変利得増幅器52aの利得を、GAIN_Bはレプリカ可変利得増幅器52bの利得を示す。
【0197】
初期状態として、可変利得増幅器52aの利得GAIN_Aは0dBより高いある第1の値g1(たとえば3dB)に設定されている。このときオーディオ信号処理回路100bは第1状態φ1である。続いて、オーディオ信号処理回路100bに対して、可変利得増幅器52aの利得GAIN_Aを0dBより高い第2の値g2(たとえば+5dB)へと切りかえる指示が入力される。利得切りかえ後も、第1状態φ1である。
【0198】
時刻t0に利得の切りかえが指示されると、時刻t1に第4入力スイッチSWi4および第3出力スイッチSWo3がオン状態となる(S1)。またレプリカ可変利得増幅器52bの利得GAIN_Bが、第2の値g2に設定される。
【0199】
続いて、時刻t2〜t3の間、第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2がそれぞれ、第1入力端子I1側にオンした状態から、第2入力端子I2側にオンした状態へと緩やかに遷移する(S2)。
【0200】
時刻t3〜t5の期間は、第1中間状態φ1mである。時刻t4に、可変利得増幅器52aの利得GAIN_Aが、第1の値g1から第2の値g2へと切りかえられる。その他のスイッチは固定されている。第1中間状態φ1mでは、可変利得増幅器52aはバイパスされているため、その利得を切りかえても、出力信号に影響は及ばない。
【0201】
続いて時刻t5〜t6にかけて、第1ソフトスイッチ回路SSW1、第2ソフトスイッチ回路SSW2がそれぞれ、第2入力端子I2側にオンした状態から、第1入力端子I1側にオンした状態へと緩やかに遷移する(S4)。
【0202】
時刻t6以降、オーディオ信号処理回路100bは、第1出力状態φ1oに戻り、可変利得増幅器52a、フィルタ50の順で処理されたオーディオ信号が、出力ポートPoから出力される。
【0203】
このように、
図14のオーディオ信号処理回路100bによれば、第3状態φ3に代えて、第1中間状態φ1mを利用することにより、利得0dBの状態を経由せずに、利得を第1の値g1から第2の値g2へと変化させることができる。したがって、聴感上の違和感を低減することができる。
【0204】
(4a) 第2出力状態φ2o→第2出力状態φ2o
(3a)と同様に遷移させることができるため説明を省略する。
【0205】
なお、
図14のオーディオ信号処理回路100bにおいて、第1中間状態φ1m、第2中間状態φ2mを利用して、第1出力状態φ1oから第2出力状態φ2oへ遷移させることも可能であるし、その反対の遷移も可能となる。
【0206】
図16は、
図10のオーディオ信号処理回路の変形例を示す回路図である。
図16のオーディオ信号処理回路100cは、
図10とマトリクススイッチ回路54cの構成が異なっている。具体的には、出力を共通に接続される2つのスイッチ素子を、セレクタ回路に置き換えた構成となっている。第1セレクタSEL11は、
図10のスイッチSWi1、SWm2に対応し、第2セレクタSEL12は、
図10のスイッチSWi2、SWm1に対応し、第3セレクタSEL13は、
図10のスイッチSWo1、SWo2に対応する。
図16の各セレクタSEL11〜SEL13の接続状態は、第2状態φ2に対応しており、
図16と異なるセレクタの状態は、第1状態φ1に対応する。この変形例によっても、第1状態と第2状態を切りかえることができる。
【0207】
図17は、第3の実施の形態で利用可能な可変利得増幅器52の構成例を示す回路図である。ただし可変利得増幅器52の構成は
図17のそれに限定されるものではない。
可変利得増幅器52は、第1アンプAMP1、第2アンプAMP2、第3AMP3を含む。第1アンプAMP1から第3アンプAMP3は、同様に構成されており、具体的には、演算増幅器OPと、第1抵抗R1、第2抵抗R2を含む。第1抵抗R1、第2抵抗R2は、演算増幅器OPの出力端子と接地端子の間に直列に接続される。演算増幅器OPの非反転入力端子には、前段からの信号が入力され、その反転入力端子には、2つの抵抗R1、R2の接続点N1の電位がフィードバックされる。
【0208】
中段の第2アンプAMP2は、さらにブースト用スイッチSW11、SW12、カット用スイッチSW21、SW22を含む。ブースト用スイッチSW11は、演算増幅器OPの出力端子の電圧を取り出すために設けられており、カット用スイッチSW21は、2つの抵抗R1、R2の接続点N1の電位を取り出すために設けられている。
また、ブースト用スイッチSW12は、接続点N1と演算増幅器OPの反転入力端子の間に設けられ、カット用スイッチSW22は、演算増幅器OPの出力端子と演算増幅器OPの反転入力端子の間に設けられる。
【0209】
ブースト用スイッチSW11、SW12がオンのとき、可変利得増幅器52は全体としてオーディオ信号を増幅し、カット用スイッチSW21、SW22がオンのとき、可変利得増幅器52は全体としてオーディオ信号を減衰させることができる。言い換えれば、この処理が実現できるように、各ステージのアンプの抵抗値が決められている。なおスイッチSW11、SW21のペア、スイッチSW12、SW22のペアのいずれか、あるいは両方をセレクタで置換してもよい。さらにそのセレクタは、上述したソフトスイッチであってもよい。
【0210】
図18は、
図16のオーディオ信号処理回路の変形例を示す回路図である。
図18のオーディオ信号処理回路100eは、2チャンネルのオーディオ信号処理回路100c_1、100c_2およびソフトスイッチSSW3を備える。オーディオ信号処理回路100c_1、100c_2の構成は、
図16のオーディオ信号処理回路100cと同様である。第3ソフトスイッチ回路SSW3には、オーディオ信号処理回路100c_1、100c_2の出力信号が入力されている。
【0211】
続いて
図18のオーディオ信号処理回路100eの動作を説明する。ここでは、第2状態から第1状態の切りかえを説明する。
ステップ1. 初期状態として、第3ソフトスイッチ回路SSW3は、第1チャンネルのオーディオ信号処理回路100c_1を選択している。つまり、第1チャンネルのオーディオ信号処理回路100c_1がアクティブとなっている。オーディオ信号処理回路100c_1の各スイッチSEL11〜SEL13は、
図18に示される状態に設定されており、第2状態に設定される。つまり、オーディオ信号は、入力ポートPi、第1セレクタSEL11、フィルタ50、第2セレクタSEL12、第3セレクタSEL13、第3ソフトスイッチ回路SSW3、出力ポートPoの経路を伝搬する。
【0212】
ステップ2. 第1チャンネルがアクティブの間、第2チャンネルのオーディオ信号処理回路100c_2のセレクタSEL14〜SEL16およびフィルタ50の周波数特性、可変利得増幅器52の利得(減衰率)を目標となる第1状態(
図18の状態)に切りかえる。
【0213】
ステップ3. 続いて、第3ソフトスイッチ回路SSW3の入力側を、第1入力端子から第2入力端子へと緩やかに切りかえる。この処理により、第1チャンネルがアクティブの状態から、第2チャンネルがアクティブの状態へと緩やかに切りかえられ、第2状態から第1状態へとシームレスに切りかえることができる。
【0214】
ステップ1〜3と同様の処理によって、第1状態から第2状態、第1状態から第1状態、第2状態から第2状態のソフト切りかえも実現できる。
【0215】
(第4の実施の形態)
第3の実施の形態では、単一の可変利得増幅器52と単一のフィルタ50の配置を自在に入れ換える態様について説明した。これに対して第4の実施の形態では、2つの可変利得増幅器52d、13がそれぞれ、フィルタ50の前段と後段に配置された構成となっている。
【0216】
図19は、第4の実施の形態に係るオーディオ信号処理回路100dの構成を示す回路図である。第1可変利得増幅器52dは、フィルタ50の前段に設けられ、アクティブな状態において入力ポートPiに受けたオーディオ信号を、設定された利得で増幅する。第2可変利得増幅器53は、フィルタ50の後段に設けられ、アクティブな状態において、フィルタ50の出力信号を、設定された利得(減衰率)で減衰させる。
【0217】
第1可変利得増幅器52dおよび第2可変利得増幅器53は、相補的にアクティブとしてもよい。非アクティブな状態で、第1可変利得増幅器52dおよび第2可変利得増幅器53はそれぞれ、バイパスされ、あるいは利得(減衰率)が1となる。
【0218】
第1可変利得増幅器52dおよび第2可変利得増幅器53は、同時にアクティブとなってもよい。この場合、第1可変利得増幅器52dの増幅率と、第2可変利得増幅器53の減衰率の積、つまり合成利得(総利得)でオーディオ信号を増幅、減衰させることができる。
【0219】
図19のオーディオ信号処理回路100dによれば、第1可変利得増幅器52dをアクティブ、第2可変利得増幅器53を非アクティブとすることにより、入力ポートPi、可変利得増幅器52d、フィルタ50、出力ポートPoが順に接続される第1状態が実現できる。また第1可変利得増幅器52dを非アクティブ、第2可変利得増幅器53をアクティブとすることにより、入力ポートPi、フィルタ50、第2可変利得増幅器53、出力ポートPoが順に接続される第2状態が実現できる。
【0220】
図19のオーディオ信号処理回路100dによれば、第3の実施の形態と同様に、フィルタ50に生ずるノイズを第2可変利得増幅器53で減衰させたり、反対に可変利得増幅器52dで生ずるノイズをフィルタ50でカットすることが可能となるため、オーディオ信号に施す処理に応じてを第1可変利得増幅器52dおよび第2可変利得増幅器53の利得(減衰率)を最適化することにより、ノイズを低減することができる。
【0221】
最後に、上述したいくつかの実施の形態に係るオーディオ信号処理回路の好適なアプリケーションを説明する。
図20は、第3または第4の実施の形態に係るオーディオ信号処理回路を備えるトーンコントロール回路の構成を示すブロック図である。
【0222】
トーンコントロール回路200は、第1ポートP1に受けたオーディオ信号の帯域を補正し、第2ポートP2から出力する。トーンコントロール回路200は、
図9ないし
図19に説明されるオーディオ信号処理回路100と、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2、合成回路202、反転アンプ204を備える。
【0223】
第1スイッチSW1は、オーディオ信号処理回路100の入力ポートPiと、第1ポートP1の間に設けられる。合成回路202は、第1ポートP1の信号とオーディオ信号処理回路100の出力ポートPoの信号を合成し、第2ポートP2に出力する。反転アンプ204は、第2ポートP2の信号を反転する。第2スイッチSW2は、反転アンプ204の出力端子とオーディオ信号処理回路100の入力ポートPiの間に設けられる。
【0224】
トーンコントロール回路200は、ブースト回路と、カット回路が切りかえ可能である。ブースト回路として機能する際、第1スイッチSW1がオン、第2スイッチSW2がオフされ、オーディオ信号処理回路100のマトリクススイッチ回路54が第1状態φ1に設定される。トーンコントロール回路200がカット回路として機能する際、第2スイッチSW2がオン、第1スイッチSW1がオフされ、マトリクススイッチ回路54が第2状態φ2に設定される。
【0225】
このトーンコントロール回路200によれば、信号処理の形態(ブースト回路かカット回路か)に応じて、オーディオ信号処理回路100の状態を切りかえることにより、ノイズを好適に低減することができる。また、ソフト切りかえが可能なオーディオ信号処理回路100を用いることにより、ブースト回路とカット回路の切りかえる際にノイズが発生するのを防止できる。
【0226】
なお、オーディオ信号処理回路100の用途はトーンコントロール回路200には限定されず、フィルタおよび可変利得増幅器がシリーズに接続されるさまざまな回路に利用できる。
【0227】
実施の形態にもとづき、特定の語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が可能である。