【課題】メトトレキサート(MTX)による副作用の発現リスクに関連する新規SNPマーカーセットを同定し、そのようなマーカーセットを利用して、関節リウマチ患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定を補助する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 関節リウマチ患者から得た生体試料における、所定の遺伝子多型部位から選択される少なくとも7つの部位を含む組み合わせについて塩基種の変異を検出し、その検出結果に基づいて、上記の患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得して、上記の患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定を補助することにより、上記の課題を解決する。
前記(2)に記載の群から選択される遺伝子多型部位が、ABCC5遺伝子のc.3624位およびCOMT遺伝子のc.36位の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
前記(2)に記載の群から選択される遺伝子多型部位が、ADH7遺伝子のc.690位、ALB遺伝子のc.-400位、FMO2遺伝子のc.585位およびADH1B遺伝子のc.143位から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項2に記載の方法。
前記遺伝子多型部位の塩基種の変異が、PPARG遺伝子のc.*1411G>C、UGT2B4遺伝子のc.*225T>CおよびCYP2C19遺伝子の17948G>A、ABCC5遺伝子のc.3624C>T、COMT遺伝子のc.36C>T、ADH7遺伝子のc.690G>A、ALB遺伝子のc.-400G>A、FMO2遺伝子のc.585A>G、ADH1B遺伝子のc.143A>G、EPHX1遺伝子のc.357G>A、ATP7B遺伝子のc.1216T>G、ATP7B遺伝子のc.*1172G>A、NR1I2遺伝子のc.795-93G>A、NR1I2遺伝子のc.938-17C>T、CYP4A11遺伝子のc.*3733G>A、SULT1C4遺伝子のc.15C>G、SLC10A2遺伝子のc.511G>T、SLC22A4遺伝子のc.917C>T、MTHFD1遺伝子のc.1958G>A、およびADORA2A遺伝子のc.-1751A>Cである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記(3)に記載の群から選択される遺伝子多型部位が、COMT遺伝子のc.36位、ADH1B遺伝子のc.143位、およびMTHFD1遺伝子のc.1958位から選択される少なくとも1つを含む、請求項5に記載の方法。
前記(3)に記載の群から選択される遺伝子多型部位が、ABCC5遺伝子のc.3624位、ALB遺伝子のc.-400位、EPHX1遺伝子のc.357位、およびADORA2A遺伝子のc.-1751位から選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項6に記載の方法。
前記遺伝子多型部位の塩基種の変異が、PPARG遺伝子のc.*1411G>C、UGT2B4遺伝子のc.*225T>CおよびCYP2C19遺伝子の17948G>A、ABCC5遺伝子のc.3624C>T、COMT遺伝子のc.36C>T、ALB遺伝子のc.-400G>A、FMO2遺伝子のc.585A>G、ADH1B遺伝子のc.143A>G、EPHX1遺伝子のc.357G>A、MTHFD1遺伝子のc.1958G>A、ADORA2A遺伝子のc.-1751A>C、SLC28A3遺伝子のc.267G>A、およびMTRR遺伝子のc.66A>Gである、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
前記取得工程において、前記遺伝子多型部位の塩基種の変異の有無を用いて多重ロジスティックモデルにより前記患者におけるMTXの副作用の発現リスクに関する情報を取得する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
前記多重ロジスティックモデルにより算出される副作用リスク値と、所定の閾値とを比較することにより、前記患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得する、請求項10に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の関節リウマチ患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定を補助する方法(以下、単に「方法」ともいう)では、関節リウマチ患者から得た生体試料について、上記の(1)および(2)に記載される20の遺伝子多型部位から選択される少なくとも7つの部位を含む組み合わせについて塩基種の変異を検出する。以下では、上記の(1)に記載される3つの遺伝子多型を「第1の群」とも呼び、上記の(2)に記載される17の遺伝子多型部位を「第2の群」とも呼ぶ。
【0016】
本発明の別の実施形態においては、関節リウマチ患者から得た生体試料について、上記の(1)および(3)に記載される13の遺伝子多型部位から選択される少なくとも7つの部位を含む組み合わせについて塩基種の変異を検出してもよい。以下では、上記の(3)に記載される10の遺伝子多型を「第3の群」とも呼ぶ。
【0017】
本明細書において、「遺伝子多型部位の塩基種の変異」という表現は「一塩基多型」(SNP)と同義である。よって、本明細書では、遺伝子多型部位の塩基種の変異をSNPと表記する場合がある。なお、SNPとは、ゲノムDNAの塩基配列が1カ所だけ変異した状態またはその部位を指す。SNPは、その変異が所定の母集団において1%以上の頻度で見られる点で、点突然変異とは違うものである。
【0018】
本発明の方法において、関節リウマチ患者(以下、「RA患者」とも呼ぶ)は、関節リウマチであると診断された患者であれば特に限定されないが、本発明の方法は、MTXによる副作用の発現リスクの判定に関連することから、RA患者としては、MTXによる治療をまだ受けていないか、またはMTXを投与されているが副作用がまだ現れていない患者が、本発明の方法の対象として好ましい。
【0019】
MTXによる副作用としては、肝機能障害、間質性肺炎、骨髄障害、感染症などが知られているが、本発明の方法は、肝機能障害の発現リスクの判定に特に適している。
【0020】
本発明の方法に用いられる生体試料は、RA患者のゲノムDNAを含む生体由来の試料であれば特に制限されない。そのような生体試料としては、体液、尿、手術または生検により採取した組織などが挙げられる。体液としては、血液、血清、血漿、リンパ液、腹水、骨髄液、乳頭分泌液などが挙げられる。採取の簡便性の観点から、生体試料としては末梢血が特に好ましい。
【0021】
本発明の実施形態においては、生体試料からゲノムDNAを抽出することにより、測定用試料を調製することが好ましい。生体試料からのゲノムDNAの抽出方法は、当該技術において公知である。例えば、生体試料と、界面活性剤(例えばコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなど)を含む処理液とを混合し、得られた混合液に物理的処理(撹拌、ホモジナイズ、超音波破砕など)を施して、生体試料に含まれるゲノムDNAを該混合液中に遊離させることによって、ゲノムDNAを抽出することができる。この場合、混合液を遠心分離して細胞破片を沈殿させ、遊離したゲノムDNAを含む上清を後述の検出方法に用いることが好ましい。また、得られた上清を当該技術において公知の方法により精製してもよい。なお、生体試料からのゲノムDNAの抽出および精製は、市販のキットを用いて行うこともできる。
【0022】
本発明の実施形態においては、検出対象の遺伝子多型部位が存在する領域を含む限り、RA患者のゲノムDNAから合成されるcDNAまたはcRNAを測定用試料として用いてもよい。なお、ゲノムDNAからcDNAまたはcRNAを合成する方法自体は当該技術において公知である。以下、RA患者の生体試料から得られるゲノムDNA、ならびにこのゲノムDNAから得られるcDNAおよびcRNAを総称して、「RA患者の生体試料由来の核酸」ともいう。
【0023】
上記の遺伝子多型が存在する遺伝子の名称を、以下の表1に示す。これらの遺伝子については、検出対象の遺伝子多型部位を含むゲノムDNAの塩基配列自体は公知である。なお、これらの塩基配列は、例えば米国国立医学図書館の国立生物情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)により提供されるデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)などの公知のデータベースから知ることができる。
【0025】
ここで、上記の各遺伝子の遺伝子多型部位の表記について説明する。なお、これらの遺伝子多型の表記法は、Human Genome Variation Society (http://www.hgvs.org/)により定められたガイドラインに従っている。
PPARG遺伝子のc.*1411位とは、PPARG遺伝子のコーディング配列の3'末端から下流側へ数えて1411番目の塩基の位置を指す。ここで、「遺伝子のコーディング配列の3'末端から下流側へ数える」とは、ゲノムDNA上の遺伝子の塩基配列において、該遺伝子のコーディング配列の3'末端の塩基の3'側に隣接する塩基を1番目として、下流側(3'側)へ塩基を数えていくことを意図する。
UGT2B4遺伝子のc.*225位とは、UGT2B4遺伝子のコーディング配列の3'末端から下流側へ数えて225番目の塩基の位置を指す。
CYP2C19遺伝子の17948位とは、ゲノムDNA上のCYP2C19遺伝子の塩基配列の1番目の塩基から下流側へ数えて17948番目の塩基の位置を指す。なお、CYP2C19遺伝子の17948位は、CYP2C19遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて636番目の塩基の位置でもある。ここで、「遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数える」とは、ゲノムDNA上の遺伝子の塩基配列において、該遺伝子のコーディング配列の5'末端にある開始コドン(ATG)のアデニンを1番目として、下流側(3'側)へ塩基を数えていくことを意図する。
【0026】
ABCC5遺伝子のc.3624位とは、ABCC5遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて3624番目の塩基の位置を指す。
COMT遺伝子のc.36位とは、COMT遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて36番目の塩基の位置を指す。
ADH7遺伝子のc.690位とは、ADH7遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて690番目の塩基の位置を指す。
ALB遺伝子のc.-400位とは、ALB遺伝子のコーディング配列の5'末端から上流側へ数えて400番目の塩基の位置である。ここで、「遺伝子のコーディング配列の5'末端から上流側へ数える」とは、ゲノムDNA上の遺伝子の塩基配列において、該遺伝子のコーディング配列の5'末端にある開始コドン(ATG)のアデニンの5'側に隣接する塩基を1番目として、上流側(5'側)へ塩基を数えていくことを意図する。
FMO2遺伝子のc.585位とは、FMO2遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて585番目の塩基の位置を指す。
ADH1B遺伝子のc.143位とは、ADH1B遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて143番目の塩基の位置を指す。
【0027】
EPHX1遺伝子のc.357位とは、EPHX1遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて357番目の塩基の位置を指す。
ATP7B遺伝子のc.1216位とは、ATP7B遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて1216番目の塩基の位置を指す。
ATP7B遺伝子のc.*1172位とは、ATP7B遺伝子のコーディング配列の3'末端から下流側へ数えて1172番目の塩基の位置を指す。
NR1I2遺伝子のc.795-93位とは、NR1I2遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて795番目の塩基から開始するエクソン配列の5'末端から上流側へ数えて93番目の塩基の位置を指す。ここで、「エクソン配列の5'末端から上流側へ数える」とは、ゲノムDNA上の遺伝子の塩基配列において、該遺伝子のエクソン配列の5'末端の塩基の5'側に隣接する塩基を1番目として、上流側(5'側)へ塩基を数えていくことを意図する。
NR1I2遺伝子のc.938-17位とは、NR1I2遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて938番目の塩基から開始するエクソン配列の5'末端から上流側へ数えて17番目の塩基の位置を指す。
【0028】
CYP4A11遺伝子のc.*3733位とは、CYP4A11遺伝子のコーディング配列の3'末端から下流側へ数えて3733番目の塩基の位置を指す。
SULT1C4遺伝子のc.15位とは、SLUT1C4遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて15番目の塩基の位置を指す。
SLC10A2遺伝子のc.511位とは、SLC10A2遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて511番目の塩基の位置を指す。
SLC22A4遺伝子のc.917位とは、SLC22A4遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて917番目の塩基の位置を指す。
MTHFD1遺伝子のc.1958位とは、MTHFD1遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて1958番目の塩基の位置を指す。
ADORA2A遺伝子のc.-1751位とは、ADORA2A遺伝子のコーディング配列の5'末端から上流側へ数えて1751番目の塩基の位置を指す。
【0029】
MTRR遺伝子のc.66位とは、MTRR遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて66番目の塩基の位置を指す。
SLC28A3遺伝子のc.267位とは、SLC28A3遺伝子のコーディング配列の5'末端から下流側へ数えて267番目の塩基の位置を指す。
【0030】
上記の各遺伝子多型部位のゲノムDNA上の位置は、NCBIにより提供されるデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)などの公知のデータベースから知ることができる。各遺伝子多型部位のRS番号(Reference SNP ID number)を表2に示す。表2中の配列番号1〜20および28は、各遺伝子多型部位の前の500塩基および後の500塩基を含む計1001塩基の配列を表している。配列番号1〜20および28の塩基配列においては、501番目の塩基の位置がSNPの位置である。配列番号27の塩基配列においては、1066番目の塩基の位置がSNPの位置である。
【0032】
本発明の方法で検出対象となる遺伝子多型部位の組み合わせは、第1の群の3つの遺伝子多型部位を含み、且つ、第2の群から選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位を含む、少なくとも7つの遺伝子多型部位の組み合わせであれば特に限定されない。
【0033】
検出対象となる遺伝子多型部位の組み合わせは、第1の群の3つの遺伝子多型部位を含み、且つ、第3の群から選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位を含む、少なくとも7つの遺伝子多型部位の組み合わせであってもよい。
【0034】
本発明の実施形態においては、第2の群から選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位は特に限定されないが、ABCC5遺伝子のc.3624位およびCOMT遺伝子のc.36位の少なくとも1つを含むことが好ましく、ADH7遺伝子のc.690位、ALB遺伝子のc.-400位、FMO2遺伝子のc.585位およびADH1B遺伝子のc.143位から選択される少なくとも1つをさらに含むことがより好ましい。
【0035】
また、第3の群から選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位は特に限定されないが、COMT遺伝子のc.36位、ADH1B遺伝子のc.143位およびMTHFD1遺伝子のc.1958位の少なくとも1つを含むことが好ましく、ABCC5遺伝子のc.3624位、ALB遺伝子のc.-400位、EPHX1遺伝子のc.357位およびADORA2A遺伝子のc.-1751位の少なくとも1つをさらに含むことがより好ましい。
【0036】
各遺伝子多型部位について検出すべき塩基種の変異は、SNPの定義に該当する変異であれば特に限定されないが、具体的には、次に挙げる変異が特に好ましい:PPARG遺伝子のc.*1411G>C、UGT2B4遺伝子のc.*225T>C、CYP2C19遺伝子の17948G>A、ABCC5遺伝子のc.3624C>T、COMT遺伝子のc.36C>T、ADH7遺伝子のc.690G>A、ALB遺伝子のc.-400G>A、FMO2遺伝子のc.585A>G、ADH1B遺伝子のc.143A>G、EPHX1遺伝子のc.357G>A、ATP7B遺伝子のc.1216T>G、ATP7B遺伝子のc.*1172G>A、NR1I2遺伝子のc.795-93G>A、NR1I2遺伝子のc.938-17C>T、CYP4A11遺伝子のc.*3733G>A、SULT1C4遺伝子のc.15C>G、SLC10A2遺伝子のc.511G>T、SLC22A4遺伝子のc.917C>T、MTHFD1遺伝子のc.1958G>A、ADORA2A遺伝子のc.-1751A>C、SLC28A3遺伝子のc.267G>A、およびMTRR遺伝子のc.66A>G。
【0037】
なお、上記の変異の表記において、「>」の左側には変異前の塩基が示され、右側には変異後の塩基が示されている。例えば、「PPARG遺伝子のc.*1411G>C」は、PPARG遺伝子のc.*1411位におけるグアニンからシトシンへの変異を示す。
【0038】
本発明の方法において、遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出は、変異の有無および変異している部位の数を検出することに限らず、変異の有無と相関する情報を取得することも含まれる。そのような情報としては、例えば、後述の変異の検出方法での測定値および該測定値に基づいて取得される数値指標(例えば、比、シグナル強度、多重ロジスティックモデルにより算出されるリスクなど)が挙げられる。
【0039】
本発明の方法では、遺伝子多型部位の塩基種の変異を検出する方法は特に限定されず、当該技術において公知のSNP検出方法およびSNPタイピング方法から適宜選択すればよい。そのような方法としては、例えば、ダイレクトシーケンス法、クエンチング・プローブ(QProbe)法(特許第4950414号参照)、マイクロアレイ法などが挙げられる。また、TaqMan(商標) SNP Genotyping Assaysのような市販のSNPタイピング用キットを用いてもよい。
【0040】
ダイレクトシーケンス法では、ゲノムDNA中の遺伝子多型部位を含む領域を所定のプライマーセットを用いるPCR法によって増幅し、得られた増幅産物の塩基配列を解析することによって、SNPの存否を検出する。本発明の方法において解析対象となる遺伝子はいずれも塩基配列自体は公知であるので、その塩基配列に基づいて増幅用プライマーおよびシーケンス用プライマーを設計すればよい。なお、プライマーは、当該技術において公知の核酸合成法により合成することができる。
【0041】
QProbe法でSNPを検出する場合は、ゲノムDNA中の遺伝子多型部位を含む領域を所定のプライマーセットを用いるPCR法によって増幅し、得られた増幅産物の塩基配列に相補的な配列を有するQProbeとハイブリダイズさせる。ここで、増幅産物にSNPが存在する場合、該増幅産物とQProbeとが解離する温度が、増幅産物にSNPが存在しない場合の温度と異なるので、QProbe法では、この差を利用してSNPを検出する。なお、QProbe自体は当該技術において公知であり、一般に入手可能である。
【0042】
マイクロアレイ法でSNPを検出する場合、解析用マイクロアレイは、上記の各遺伝子多型部位が存在する領域の塩基配列に相補的な核酸プローブを、基板上に固定して作製できる。なお、このようなマイクロアレイは、当該技術において公知の方法により作製できる。マイクロアレイによる解析では、生体試料由来の核酸は、当該技術において公知の標識物質により標識されていることが好ましい。なお、標識物質としては、蛍光物質、ビオチンなどのハプテン、放射性物質などが挙げられる。また、蛍光物質としては、Cy3、Cy5、FITC、Alexa Fluor(商標)などが挙げられる。このようにDNAを標識することにより、マイクロアレイ上のプローブからのシグナルの測定が容易になる。なお、DNAをこれらの標識物質で標識する方法は、当該技術において公知である。
【0043】
上記のシグナルは、マイクロアレイの種類に応じて適切なシグナルであり得る。例えば、シグナルは、マイクロアレイの各プローブとハイブリダイズしたDNA断片が存在する場合に発生する電気的シグナルであってもよいし、上記のように解析対象のDNAが標識されている場合は、標識物質から生じる蛍光、発光などのシグナルであってもよい。シグナルの検出は、通常のマイクロアレイ測定装置に備えられたスキャナーにより行うことができる。スキャナーとしては、例えば、GeneChip(登録商標) Scanner3000 7G(Affymetrix社)などが挙げられる。
【0044】
本発明の方法では、上記の検出工程で得られた検出結果に基づいて、RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得する。ここで、MTXによる副作用の発現リスクに関する情報とは、RA患者におけるMTXによる副作用の発現を判定する際にその補助となりうる情報であれば、特に限定されない。そのような情報としては、例えば、対象がMTXを投与されているRA患者であれば、MTXによる副作用が該患者に生じている可能性およびMTXによる副作用がこれから発生するリスクなどが挙げられる。また、対象がMTXをまだ投与されていないRA患者であれば、該患者にMTXを投与した後に副作用が発生するリスクなどが挙げられる。
【0045】
具体的には、情報取得工程では、検出工程の結果と所定の判別式とを用いて、RA患者にMTXによる副作用が発生しているか否かについての情報、または、RA患者においてMTXによる副作用が今後発生するリスクが高いか否かについての情報を取得することができる。よって、本発明の方法によると、投与したMTXによってRA患者において副作用が発現しているか否か、またはMTXの投与を予定しているRA患者においてMTXによる副作用が発現するリスクがある若しくは高いか否かについて判定がなされ、その情報を医師などに提供することにより副作用の発現リスクの判定を補助することができる。
【0046】
本発明の方法では、変異の有無と相関する情報を検出結果とし、これに基づいて副作用の発現リスクに関する情報を取得することができる。例えば、検出工程において、検出された各遺伝子多型部位の変異の有無を多変量解析して取得される数値指標に基づいて、副作用の発現リスクに関する情報を取得することができる。そのような多変量解析により取得される数値指標としては、例えば、多重ロジスティックモデルにより算出されるリスクが挙げられる。なお、多変量解析は、当該技術において公知であり、市販のソフトウェアを用いてコンピュータに実行させることができる。
【0047】
情報取得工程における判定は、多重ロジスティックモデルに基づいて構築された回帰式を用いて行うことができる。そのような回帰式としては、例えば、下記の式(I)の回帰式を用いることができる。この式(I)の回帰式は、連続尺度による回帰式である。判定は、具体的には、検出工程において患者のサンプルから検出された各SNPの変異に関する情報を式(I)に代入して得られるP値と、所定の閾値とを比較することにより行われる。ここで、SNPの変異に関する情報としては、遺伝子座において対立遺伝子の遺伝子多型部位のいずれにも変異がない場合は「0」を、対立遺伝子の遺伝子多型部位のいずれか一方に変異がある場合は「1」を、対立遺伝子の遺伝子多型部位の両方に変異がある場合は「2」を用いることができる。これらの値を、下記の式(I)の
*SNP
nに代入する。b
0は切片の係数、b
1〜b
nは各SNPの係数であり、判別に使用するSNPの種類によって適宜設定することができる。
【0049】
あるいは、回帰式としては、下記の式(II)の回帰式を用いてもよい。この式(II)の回帰式は、名義尺度による回帰式である。情報取得工程における判定は、検出工程において患者のサンプルから検出された各SNPの変異に関する情報を用いて式(II)から得られるP値と、所定の閾値とを比較することにより行われる。式(II)では、SNPの変異に関する情報は、遺伝子座において対立遺伝子の遺伝子多型部位のいずれにも変異がない場合は「WT」であり、対立遺伝子の遺伝子多型部位のいずれか一方に変異がある場合は「HT」であり、対立遺伝子の遺伝子多型部位の両方に変異がある場合は「MT」である。式(II)においては、SNPの変異に関する情報、すなわち、判別に使用するSNPの種類およびその遺伝子型(WT、HTまたはMT)によって、各SNPの係数であるb
1〜b
nに代入する値が異なる。b
1〜b
nに代入する値は、当該技術において公知の方法により算出することができる。式(II)において、b
0は切片の係数である。
【0051】
式(I)または(II)により算出されるP値は、MTXによる副作用の発現のリスク(以下、「副作用リスク値」ともいう)を示す。本発明の実施形態においては、閾値を例えば0.5としたとき、副作用リスク値が0.5以上であれば、RA患者にはMTXによる副作用の発現リスクがある(または高い)と判定し、副作用リスク値が0.5未満であれば、RA患者にはMTXによる副作用の発現リスクがない(または低い)と判定することができる。なお、閾値は、当業者が任意に設定できる。また、上記の回帰式(I)および(II)は、本発明の方法における副作用リスク値の判別式となり得る。
【0052】
本発明には、関節リウマチ患者におけるメトトレキサートによる副作用の発現リスクの判定に適するシステムも含まれる。そのようなシステムとしては、例えば、次のとおりである。
【0053】
プロセッサおよび該プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、
該メモリには、下記のステップ:
RA患者から得た生体試料における下記(1)および(2)に記載の少なくとも7つの遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果を取得するステップと、
(1)PPARG遺伝子のc.*1411位、UGT2B4遺伝子のc.*225位、およびCYP2C19遺伝子の17948位の3つの遺伝子多型部位;
(2)ABCC5遺伝子のc.3624位、COMT遺伝子のc.36位、ADH7遺伝子のc.690位、ALB遺伝子のc.-400位、FMO2遺伝子のc.585位、ADH1B遺伝子のc.143位、EPHX1遺伝子のc.357位、ATP7B遺伝子のc.1216位、ATP7B遺伝子のc.*1172位、NR1I2遺伝子のc.795-93位、NR1I2遺伝子のc.938-17位、CYP4A11遺伝子のc.*3733位、SULT1C4遺伝子のc.15位、SLC10A2遺伝子のc.511位、SLC22A4遺伝子のc.917位、MTHFD1遺伝子のc.1958位、およびADORA2A遺伝子のc.-1751位からなる群より選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位;
上記の遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果に基づいて、該患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得するステップと、
上記のMTXによる副作用の発現リスクに関する情報に基づいて、RA患者においてMTXによる副作用の発現リスクの有無を判定するステップと
を該コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、
RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定に適するシステム。
【0054】
あるいは、以下のシステムであってもよい。すなわち、プロセッサおよび該プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、
該メモリには、下記のステップ:
RA患者から得た生体試料における下記(1)および(3)に記載の少なくとも7つの遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果を取得するステップと、
(1)PPARG遺伝子のc.*1411位、UGT2B4遺伝子のc.*225位、およびCYP2C19遺伝子の17948位の3つの遺伝子多型部位;
(3)ABCC5遺伝子のc.3624位、COMT遺伝子のc.36位、ALB遺伝子のc.-400位、FMO2遺伝子のc.585位、ADH1B遺伝子のc.143位、EPHX1遺伝子のc.357位、MTHFD1遺伝子のc.1958位、ADORA2A遺伝子のc.-1751位、SLC28A3遺伝子のc.267位、およびMTRR遺伝子のc.66位からなる群より選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位;
上記の遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果に基づいて、該患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得するステップと、
上記のMTXによる副作用の発現リスクに関する情報に基づいて、RA患者においてMTXによる副作用の発現リスクの有無を判定するステップと
を該コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、
RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定に適するシステム。
【0055】
また、本発明には、関節リウマチ患者におけるメトトレキサートによる副作用の発現リスクの判定をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム製品も含まれる。そのようなコンピュータプログラム製品としては、例えば、次のとおりである。
【0056】
コンピュータに読み取り可能な媒体を備え、
該媒体には、下記のステップ:
RA患者から得た生体試料における下記(1)および(2)に記載の少なくとも7つの遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果を取得するステップと、
(1)PPARG遺伝子のc.*1411位、UGT2B4遺伝子のc.*225位、およびCYP2C19遺伝子の17948位の3つの遺伝子多型部位;
(2)ABCC5遺伝子のc.3624位、COMT遺伝子のc.36位、ADH7遺伝子のc.690位、ALB遺伝子のc.-400位、FMO2遺伝子のc.585位、ADH1B遺伝子のc.143位、EPHX1遺伝子のc.357位、ATP7B遺伝子のc.1216位、ATP7B遺伝子のc.*1172位、NR1I2遺伝子のc.795-93位、NR1I2遺伝子のc.938-17位、CYP4A11遺伝子のc.*3733位、SULT1C4遺伝子のc.15位、SLC10A2遺伝子のc.511位、SLC22A4遺伝子のc.917位、MTHFD1遺伝子のc.1958位、およびADORA2A遺伝子のc.-1751位からなる群より選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位;
上記の遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果に基づいて、該患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得するステップと、
上記のMTXによる副作用の発現リスクに関する情報に基づいて、RA患者においてMTXによる副作用の発現リスクの有無を判定するステップと
を該コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、
RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム製品。
【0057】
あるいは、以下のコンピュータプログラム製品であってもよい。すなわち、コンピュータに読み取り可能な媒体を備え、
該媒体には、下記のステップ:
RA患者から得た生体試料における下記(1)および(3)に記載の少なくとも7つの遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果を取得するステップと、
(1)PPARG遺伝子のc.*1411位、UGT2B4遺伝子のc.*225位、およびCYP2C19遺伝子の17948位の3つの遺伝子多型部位;
(3)ABCC5遺伝子のc.3624位、COMT遺伝子のc.36位、ALB遺伝子のc.-400位、FMO2遺伝子のc.585位、ADH1B遺伝子のc.143位、EPHX1遺伝子のc.357位、MTHFD1遺伝子のc.1958位、ADORA2A遺伝子のc.-1751位、SLC28A3遺伝子のc.267位、およびMTRR遺伝子のc.66位からなる群より選択される少なくとも4つの遺伝子多型部位;
上記の遺伝子多型部位の塩基種の変異の検出結果に基づいて、該患者におけるMTXによる副作用の発現リスクに関する情報を取得するステップと、
上記のMTXによる副作用の発現リスクに関する情報に基づいて、RA患者においてMTXによる副作用の発現リスクの有無を判定するステップと
を該コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、
RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの判定をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム製品。
【0058】
上記の媒体は、上記のコンピュータプログラムが非一時的に記録され、且つコンピュータに読取可能な媒体であってもよい。
【0059】
以下に、本発明の方法を実施するのに好適な装置の一形態を、図面を参照して説明する。しかし、本発明はこの実施形態のみに限定されるものではない。
図1は、MTXによる副作用の発現リスクの判定装置の一例を示した概略図である。
図1に示された判定装置1は、測定装置2と、該測定装置2と接続されたコンピュータシステム3とを含んでいる。
【0060】
本実施形態において、測定装置2は、マイクロアレイ上のプローブと結合した核酸に基づくシグナルを検出するマイクロアレイスキャナーである。本実施形態において、シグナルは、蛍光シグナルなどの光学的情報である。測定用試料と接触させたマイクロアレイを測定装置2にセットすると、測定装置2は、マイクロアレイ上のプローブに結合した、RA患者の生体試料由来の核酸に基づく光学的情報を取得し、得られた光学的情報をコンピュータシステム3に送信する。
【0061】
マイクロアレイスキャナーは、マイクロアレイ上のプローブに結合した核酸に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されない。シグナルは、RA患者の生体試料由来の核酸の標識に用いられた標識物質によって異なることから、マイクロアレイスキャナーは、標識物質の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、標識物質が放射性物質である場合、測定装置2として、該放射性物質から生じる放射線を検出可能なマイクロアレイスキャナーが用いられる。
【0062】
なお、遺伝子多型部位の塩基種の変異をダイレクトシーケンス法により検出する場合、測定装置2は、核酸増幅装置およびシーケンス解析装置からなる装置であってもよい。この場合、測定用試料、核酸増幅用の酵素およびプライマーなどを含む反応液を測定装置2にセットし、核酸増幅法によって反応液中の核酸を増幅させる。そして、測定装置2は、増幅産物の塩基配列を解析して配列情報を取得し、得られた配列情報をコンピュータシステム3に送信する。
【0063】
コンピュータシステム3は、コンピュータ本体3aと、入力デバイス3bと、検体情報、判定結果などを表示する表示部3cとを含む。コンピュータシステム3は、測定装置2から光学的情報を受信する。そして、コンピュータシステム3のプロセッサは、光学的情報に基づいて、RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクを判定するプログラムを実行する。
【0064】
図2は、
図1に示された判定装置の機能構成を示すブロック図である。
図2に示されるように、コンピュータシステム3は、取得部301と、記憶部302と、算出部303と、判定部304と、出力部305とを備える。取得部301は、測定装置2と、ネットワークを介して通信可能に接続されている。なお、算出部303と判定部304とは、制御部306を構成している。
【0065】
取得部301は、測定装置2から送信された情報を取得する。記憶部302は、判定に必要な閾値および多重ロジスティックモデルの判別式を記憶する。算出部303は、取得部301で取得された情報を用い、記憶部302に記憶された判別式にしたがって、副作用リスク値を算出する。判定部304は、算出部303によって算出された副作用リスク値と、記憶部302に記憶された閾値とに基づいてMTXによる副作用の発現リスクの有無を判定する。出力部305は、判定部304による判定結果を出力する。
【0066】
図3は、
図1に示された判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図3に示されるように、コンピュータ本体3aは、CPU(Central Processing Unit)30と、ROM(Read Only Memory)121と、ROM32と、ハードディスク33と、入出力インターフェイス34と、読出装置35と、通信インターフェイス36と、画像出力インターフェイス37とを備えている。CPU30、ROM31、RAM(Random Access Memory)32、ハードディスク33、入出力インターフェイス34、読出装置35、通信インターフェイス36および画像出力インターフェイス37は、バス38によってデータ通信可能に接続されている。
【0067】
CPU30は、ROM31に記憶されているコンピュータプログラムおよびROM32にロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。CPU30がアプリケーションプログラムを実行することにより、上述した各機能ブロックが実現される。これにより、コンピュータシステムが、MTXによる副作用の発現リスクの有無の判定装置としての端末として機能する。
【0068】
ROM31は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM31には、CPU30によって実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータが記録されている。
【0069】
ROM32は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。ROM32は、ROM31およびハードディスク33に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。ROM32はまた、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU30の作業領域として利用される。
【0070】
ハードディスク33は、CPU30に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(MTXによる副作用の発現リスクの有無の判定のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラムおよび当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。
【0071】
読出装置35は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブなどによって構成されている。読出装置35は、可搬型記録媒体40に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。
【0072】
入出力インターフェイス34は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス34には、キーボード、マウスなどの入力デバイス3bが接続されている。操作者は、当該入力デバイス3bを使用することにより、コンピュータ本体3aにデータを入力することが可能である。
【0073】
通信インターフェイス36は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイスなどである。コンピュータシステム3は、通信インターフェイス36により、プリンタへの印刷データの送信が可能である。
【0074】
画像出力インターフェイス37は、LCD、CRTなどで構成される表示部3cに接続されている。これにより、表示部3cは、CPU30から与えられた画像データに応じた映像信号を出力することができる。表示部3cは、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0075】
次に、判定装置1による、MTXによる副作用の発現リスクの有無の判定の処理手順を説明する。
図4は、
図1に示された判定装置を用いたMTXによる副作用の発現リスクの判定のフローチャートである。ここでは、マイクロアレイ上のプローブに結合した、RA患者の生体試料由来の核酸に基づく蛍光情報から、多重ロジスティックモデルにより副作用リスク値を取得し、得られた副作用リスク値を用いて判定を行なう場合を例として挙げて説明する。しかし、本発明は、この実施形態のみに限定されるものではない。
【0076】
まず、ステップS1−1において、判定装置1の取得部301は、測定装置2から蛍光情報を取得する。次に、ステップS1−2において、算出部303は、取得部301が取得した蛍光情報から蛍光強度を算出し、記憶部302に送信する。そして、ステップS1−3において、算出部303は、記憶部302に記憶された前記蛍光強度から各遺伝子多型部位における変異の有無を判定し、記憶部302に記憶された判別式(上記の式(I))にしたがって、多重ロジスティックモデルに基づく副作用リスク値を算出する。
【0077】
その後、ステップS1−4において、判定部304は、算出部303で算出された副作用リスク値と、記憶部302に記憶された閾値とを用いて、RA患者におけるMTXによる副作用の発現リスクの有無を判定する。ここで、副作用リスク値が閾値よりも低いとき、処理は、ステップS1−5に進行し、判定部304は、RA患者にはMTXによる副作用の発現リスクがない(または低い)ことを示す判定結果を出力部305に送信する。また、副作用リスク値が閾値よりも低くないとき(すなわち、副作用リスク値が閾値以上であるとき)、RA患者にはMTXによる副作用の発現リスクがある(または高い)ことを示す判定結果を出力部305に送信する。
【0078】
そして、ステップS1−7において、出力部305は、判定結果を出力し、表示部3cに表示させたり、プリンタに印刷させたりする。これにより、RA患者においてMTXによる副作用の発現リスクがあるのか、またはないのかについて判定することを補助する情報を医師などに提供することができる。
【0079】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
実施例1:メトトレキサートによる副作用の発現リスクに関連する遺伝子多型の同定
(1)対象
神鋼病院膠原病リウマチセンターにおいて関節リウマチと診断され、メトトレキサート(MTX)で治療中の患者の診療情報を調査し、これらの患者を、以下の基準によってMTX肝障害群と対照群とに分類した。
1. MTXの投与量が8mg/week以下であって、且つ、明らかにMTX投与を原因として血液検査によるALT値またはAST値が40IU/L以上を示した患者(33名)を、MTX肝障害群として選出した。
2. MTXの投与量が8mg/week以上であって、且つ、血液検査によるALT値またはAST値が40IU/L以下の患者(38名)を、対照群として選出した。
【0081】
(2)ゲノムDNAの抽出
QIAamp DNA blood mini kit(QIAGEN社)を用いて、各群のリウマチ患者の抹消血(200μL)から血液細胞のゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAは、後述の遺伝子多型解析に使用するまで−30℃にて保管した。
【0082】
(3)遺伝子多型解析
抽出したゲノムDNAの遺伝子変異解析を、DMET(商標) Plus Solution(Affymetrix社)およびダイレクトシーケンス法を用いて行い、MTXによる副作用の発現リスクに関連する遺伝子多型を探索した。
【0083】
(3-1)DMET(商標) Plus Solutionによる解析
抽出したゲノムDNAについて、DMET(商標) Plus Arrayを用いて遺伝子のタイピングを行った。このアレイには、所定の231遺伝子上の1936箇所のSNPに対応するプローブが搭載されている。なお、具体的な操作は、Affymetrix社が提供するDMET(商標) Plus Starter Packのプロトコールに従って行った。
【0084】
(3-2)ダイレクトシーケンス法による解析
抽出したゲノムDNAを鋳型核酸として用いて、MTXの薬効または副作用との関連が報告されている2種類の遺伝子を増幅し、SNP(以下、「既知マーカー」とも呼ぶ)を解析した。増幅に用いたフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列を以下に示す。PCRの反応系には、ゲノムDNA(2ng/反応)、各プライマーおよびポリメラーゼとしてTaKaRa Ex-TaqまたはTaKaRa LA-Taq(タカラバイオ株式会社)を添加した。ポリメラーゼとしてTaKaRa LA-Taqを用いた反応液は、該ポリメラーゼに添付のプロトコールに従って調製した。ポリメラーゼとしてEx-Taqを用いた反応液は、該ポリメラーゼに添付のプロトコールに記載された組成の反応液にDMSOを終濃度5%(V/V)となるように添加して調製した。
【0085】
<MTHFD1_c.1958G>A>
・フォワードプライマー:5'- TGTAGGGGGTGAGTGGTGCACTG -3'(配列番号21)
・リバースプライマー:5'- TCAGGCTGGAGGTGAGGATGAGC -3'(配列番号22)
<ADORA2A_c.-1751A>C>
・フォワードプライマー:5'- GTGCATCCCTGCCAACGACA -3'(配列番号23)
・リバースプライマー:5'- TGCTCTGCGCATTGTTGTCACG -3'(配列番号24)
【0086】
反応終了後、反応液をAmpure XP(Beckman Coulter社)を用いて精製した。精製した反応液の一部をアガロース電気泳動に付して、増幅産物の存在を確認した。そして、以下に示すシーケンス用プライマーを用いて、増幅産物の塩基配列を解析した。
【0087】
<MTHFD1_c.1958G>A>
・シーケンス用プライマー:5'- CCACTTTGAAGCAGGATTGG -3'(配列番号25)
<ADORA2A_c.-1751A>C>
・シーケンス用プライマー:5'- CTTCGAGCCTGTGAATGGTC -3'(配列番号26)
【0088】
(4)統計解析
DMET(商標) Plus Solutionおよびダイレクトシーケンス法により取得した遺伝子多型データを用いて、Fisherの正確確率検定を行った。その結果、DMET(商標) Plus Solutionの解析対象である1936の遺伝子多型のうち、p<0.1を示したSNPを、MTXによる肝障害と有意に関連する遺伝子多型として選出した。選出されたSNPと、各SNPのFisherの正確確率検定でのp値と、各SNP検出に用いたDMET(商標) Plus ArrayのProbe Set IDとを表3に示す。なお、Probe Set IDは、DMET(商標) Plus Array(Affymetrix社)に搭載されているプローブを特定するための番号である。
【0089】
【表3】
【0090】
また、ダイレクトシーケンス法により解析したSNP(既知マーカー)を、Fisherの正確確率検定でのp値とともに、表4に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
上記の表3および表4に示されるSNPのデータを用いて、クロスバリデーション法による多重ロジスティック回帰分析を行ったところ、9組のマーカーセットを特定した。各マーカーセットに用いられるSNPの組み合わせを、表5に示す。表5では、「●」が付されたSNPのデータが、後述の判別式に用いられていることを示す。なお、多重ロジスティック回帰分析は、統計計算用ソフトウェア「R」によって行った。「R」はhttp://www.r-project.org/からダウンロードすることができる。
【0093】
各マーカーセットに対応する判別式を上述の回帰式(I)に基づいて構築し、判別式1〜9とした。式(I)に適用される係数は、判別式ごとに異なっている。各判別式の係数を、表6に示す。なお、各判別式の係数の計算は、統計解析ソフトウェア「JMP10」(SAS社製)を用いて行った。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
表5から分かるように、各種遺伝子のSNPのうち、PPARG遺伝子のc.*1411G>C、UGT2B4遺伝子のc.*225T>CおよびCYP2C19遺伝子の17948G>Aは全ての判別式で用いられていた。また、ABCC5遺伝子のc.3624C>TおよびCOMT遺伝子のc.36C>Tは高い頻度で判別式に用いられており、ADH7遺伝子のc.690G>A、ALB遺伝子のc.-400G>A、FMO2遺伝子のc.585A>GおよびADH1B遺伝子のc.143A>Gは中程度の頻度で判別式に用いられており、残りのSNPは比較的低い頻度で判別式に用いられていた。
【0097】
構築された各判別式を用いて、ROC解析を行った。具体的には、各判別式により上記(1)で述べた患者のサンプルを用いて、MTXによる肝障害のリスク判定を行った。判別式の
*SNP
1〜
*SNP
nに、患者のサンプルから検出された各SNPについて対立遺伝子のいずれにも変異がない場合は0、いずれか一方に変異がある場合は1、対立遺伝子の遺伝子多型部位の両方に変異がある場合は2を代入し、副作用リスク値を算出した。上記のいずれの判別式においても、副作用リスク値が0.5以上となった場合はMTXによる肝障害リスクありと判定し、0.5未満となった場合はMTXによる肝障害リスクなしと判定した。判定結果の感度および特異度を表7に示す。また、X軸を「1−特異度」の値(すなわち、偽陽性率)、Y軸を「感度」(すなわち、陽性率)として、ROC曲線を作成し、ROC曲線下面積(AUC)を算出した。AUCの値を表7に示す。また、判別式1〜9のROC曲線をそれぞれ
図5〜13に示す。なお、ROC曲線の作成は、統計解析ソフトウェア「JMP10」(SAS社製)により行った。
【0098】
【表7】
【0099】
表7および
図5〜13から分かるように、本発明のマーカーセットを用いる判別式を用いた場合、感度、特異度およびAUCが良好な値となる。上記の判別式によると、リウマチ患者のMTXによる肝障害の発症の有無を高い精度で鑑別できることが示された。
【0100】
参考例:ステップワイズ法による遺伝子多型の選出
本参考例では、実施例1のRA患者(71名)の遺伝子多型データをステップワイズ法により解析して、MTXによる副作用の発現リスクに関連する遺伝子多型を選出した。
(1)生体試料
本参考例では、実施例1で取得したMTX肝障害群および対照群のゲノムDNAを生体試料として用いた。
【0101】
(2)遺伝子多型解析
本参考例では、実施例1と同様にして、上記のゲノムDNAについて、DMET(商標) Plus Solution(Affymetrix社)およびダイレクトシーケンス法により遺伝子変異解析を行った。ダイレクトシーケンス法では、既知マーカーとして、MTHFD1_c.1958G>AおよびADORA2A_c.-1751A>Cに加えてMTRR_c.66A>Gについても解析した。MTRR_c.66A>Gの解析に用いたフォワードプライマー、リバースプライマーおよびシーケンス用プライマーの各配列を以下に示す。
【0102】
<MTRR_c.66A>G>
・フォワードプライマー:5'- TCATGCCAGGTGCCGTTCTGG -3'(配列番号29)
・リバースプライマー:5'- TACCGTGGCAGGGCTGCATA -3'(配列番号30)
・シーケンス用プライマー:5'- CTTTAGGTTGTTACTGCTTC -3'(配列番号31)
【0103】
(4)統計解析
上記で取得した遺伝子多型データを用いてFisherの正確確率検定を行い、p<0.1を示したSNPを、MTXによる肝障害と有意に関連する遺伝子多型として選出した。そして、選出されたSNPのデータを、JMP10(SAS社製)を用いてステップワイズ法により解析した。その結果、MTXによる副作用の発現リスクに関連する遺伝子多型として12個のSNPを選出した。これらのSNPのうち、10個のSNPは実施例1で選出されたSNPと同じであった。よって、本参考例では、MTRR_c.66A>GおよびSLC28A3_c.267G>Aが新たに選出された。これら2つのSNPのFisherの正確確率検定でのp値を表8に示す。なお、SLC28A3_c.267G>Aの検出に用いたDMET(商標) Plus ArrayのProbe Set IDは、AM_15307である。
【0104】
【表8】
【0105】
本発明のマーカーセットとして、本参考例で選出された12個のSNPと、実施例1で選出されたALB_c.-400G>Aとの計13個のSNPを以下の実施例2に用いた。なお、ALB_c.-400G>Aは、本参考例のステップワイズ法では選出されていないが、アルブミンとMTX代謝との関連が興味深いことから追加した。
【0106】
実施例2:バリデーション・スタディ
(1)対象
本実施例の対象は、実施例1での対象とは異なる関節リウマチ患者群であって、MTXで治療中の患者群である。これらの患者の診療情報を調査し、これらの患者を、以下の基準によってMTX肝障害群と対照群とに分類した。
1. MTXの投与量が8mg/week以下であって、且つ、明らかにMTX投与を原因として血液検査によるALT値またはAST値が40IU/L以上を示した患者(44名)を、MTX肝障害群として選出した。
2. MTXの投与量が8mg/week以上であって、且つ、血液検査によるALT値またはAST値が40IU/L以下の患者(56名)を、対照群として選出した。
【0107】
(2)ゲノムDNAの抽出
QIAamp DNA blood mini kit(QIAGEN社)またはQuickGene-810(Kurabo社)を用いて、各群のリウマチ患者の抹消血(200μL)から血液細胞のゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAは、後述の遺伝子多型解析に使用するまで−30℃にて保管した。
【0108】
(3)遺伝子多型解析
抽出したゲノムDNAについて、上記の参考例で同定した13個のSNPの解析を TaqMan(商標) SNP Genotyping Assays(ライフテクノロジーズ社)およびダイレクトシーケンス法を用いて行った。各SNPとその解析方法との対応を、表9に示す。なお、ADORA2a c.-1751A>Cの解析には、ライフテクノロジーズ社に委託して製造したTaqMan(商標) SNP Genotyping Assaysのカスタム製品を用いた。
【0109】
【表9】
【0110】
(3-1) TaqMan(商標) SNP Genotyping Assaysによる解析
抽出したゲノムDNA(10 ng)について、TaqMan(商標) SNP Genotyping AssaysとTaqMan(商標) GTXpress Master Mix(ライフテクノロジーズ社)を用いて、Real-Time PCR法にて測定を行った。なお、具体的な操作は、ライフテクノロジーズ社が提供するプロトコールに従って行った。
【0111】
(3-2)ダイレクトシーケンス法による解析
抽出したゲノムDNAを鋳型核酸として用いて、遺伝子多型部位を含むFMO2遺伝子をPCR反応により増幅した。増幅に用いたフォワードプライマーおよびリバースプライマーの配列を以下に示す。PCRの反応系には、ゲノムDNA(2ng/反応)、各プライマーおよびポリメラーゼとしてTaKaRa Ex-TaqまたはTaKaRa LA-Taq(タカラバイオ株式会社)を添加した。ポリメラーゼとしてTaKaRa LA-Taqを用いた反応液は、該ポリメラーゼに添付のプロトコールに従って調製した。ポリメラーゼとしてEx-Taqを用いた反応液は、該ポリメラーゼに添付のプロトコールに記載された組成の反応液にDMSOを終濃度5%(V/V)となるように添加して調製した。
【0112】
<FMO2 c.585A>G>
・フォワードプライマー:5'- TCCAGAAAGGAAAAGCTGGCAATG -3'(配列番号32)
・リバースプライマー:5'- GAGCCATCTCCCAGAGAAGTGAA -3'(配列番号33)
【0113】
反応終了後、反応液をAmpure XP(Beckman Coulter社)を用いて精製した。精製した反応液の一部をアガロース電気泳動に付して、増幅産物の存在を確認した。そして、以下に示すシーケンス用プライマーを用いて、増幅産物の塩基配列を解析した。
【0114】
<FMO2 c.585A>G>
・シーケンス用プライマー:5'- TGACATAGTTGCTCTGGAGC -3'(配列番号34)
【0115】
(4)統計解析
表9に示した13個のSNPから、4組のマーカーセット(7SNP、9SNP、11SNPおよび13SNPの組み合わせ)を選出した。各マーカーセットに用いられるSNPの組み合わせを、表10に示す。表10では、「●」が付されたSNPのデータが、後述の判別式に用いられていることを示す。なお、7SNPおよび9SNPの組み合わせは、実施例1で得た判別式8および9で使用されるSNPの組み合わせと同じである。この4組のマーカーセットについて、対象患者100名のデータを用いて多重ロジスティック解析を行い、各マーカーセットに対応する判別式を上述の回帰式(II)に基づいて構築した。得られた判別式を、それぞれ判別式8
*、9
*、10
*および11
*とした。
【0116】
【表10】
【0117】
上記の各判別式の係数を、表11−1および11−2に示す。式(II)に適用される係数の計算は、JMP10(SAS社製)を用いて行った。なお、実施例1では、多重ロジスティック解析において、変異アレル数を連続尺度(0、1または2)として扱っていたが、本実施例では変異アレル数を名義尺度(WT、HTまたはMT)として扱った。よって、連続尺度に基づく判別式と区別するために、本実施例で得られた判別式には「*」を付して表記した。
【0118】
【表11-1】
【0119】
【表11-2】
【0120】
構築された各判別式を用いて、ROC解析を行った。具体的には、各判別式により上記(1)で述べた患者のサンプルを用いて、MTXによる肝障害のリスク判定を行った。いずれの判別式においても、副作用リスク値が0.5以上となった場合はMTXによる肝障害リスクありと判定し、0.5未満となった場合はMTXによる肝障害リスクなしと判定した。また、実施例1と同様にしてROC曲線を作成し、AUCを算出した。判定結果の感度および特異度、並びにAUCの値を表12に示す。また、判別式8
*〜11
*のROC曲線をそれぞれ
図14〜17に示す。
【0121】
【表12】
【0122】
表12および
図14〜17から分かるように、本発明のマーカーセットを用いる判別式を用いた場合、バリデーション・スタディにおいても感度、特異度およびAUCが良好な値となり、リウマチ患者のMTXによる肝障害の発症の有無を高い精度で鑑別できることが示された。