特開2015-130854(P2015-130854A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大正製薬株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-130854(P2015-130854A)
(43)【公開日】2015年7月23日
(54)【発明の名称】臭いの評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20150630BHJP
   A61L 9/00 20060101ALI20150630BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20150630BHJP
【FI】
   C12Q1/02
   A61L9/00 Z
   G01N30/88 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-245921(P2014-245921)
(22)【出願日】2014年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-257747(P2013-257747)
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】横井 芳昂
(72)【発明者】
【氏名】清水 清香
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 章博
(72)【発明者】
【氏名】長濱 徹
(72)【発明者】
【氏名】坪井 良治
【テーマコード(参考)】
4B063
4C080
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QQ73
4B063QR47
4B063QR75
4B063QS39
4B063QX10
4C080AA04
4C080AA05
4C080AA07
4C080BB02
4C080BB04
4C080CC02
4C080CC12
4C080HH01
4C080JJ01
4C080KK01
4C080LL01
4C080QQ20
(57)【要約】
【課題】
本発明は、悪臭、特に足白癬患者の足臭を客観的かつ簡便に評価する方法、及び、悪臭の消臭効果を評価する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
足白癬患者の皮膚患部において顕著に増加するCorynebacterium striatumに着目し、この菌が悪臭を発生すること、Corynebacterium striatumが足白癬患者の足臭の生成菌であること、さらにはCorynebacterium striatumから発生する悪臭にイソ吉草酸が含まれることを突き止め、悪臭の評価に利用できることを見出した。
すなわち、Corynebacterium striatum由来の悪臭の評価方法、悪臭のマスキング評価方法、悪臭抑制剤のスクリーニング方法である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Corynebacterium striatum由来の悪臭の評価方法。
【請求項2】
Corynebacterium striatum由来の悪臭のマスキング評価方法。
【請求項3】
Corynebacterium striatum由来の悪臭成分を指標とする、悪臭抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
悪臭成分がイソ吉草酸である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
悪臭が足臭、腋臭又は汗臭である、請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項6】
足白癬患者の足臭として用いる請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭の評価方法、マスキング評価方法、悪臭抑制剤のスクリーニング方法に関する。更に詳しくは、実際の足白癬患者の足の臭いを再現し、足白癬患者の足臭のマスキング評価又は足臭抑制剤のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体臭は、皮膚常在菌が汗、皮脂、角質老廃物等を代謝することにより発生する低級脂肪酸、不飽和脂肪酸、アルデヒド等が原因であることが知られている(非特許文献1)。また、体臭の中でも足の臭いは皮膚常在菌が角質老廃物のロイシンを分解して生じるイソ吉草酸が主な原因物質であると報告されている(非特許文献2)。
皮膚常在菌にはCorynebacterium属、Propionibacterium属、Micrococcus属などの菌種がある。このうちCorynebacterium属の菌は腋窩、陰股部、趾間、足底に常在し、腋臭症の主な原因菌とされ、更に足の臭いとの関連性も指摘されている(非特許文献3)。
【0003】
また近年、水虫の疾患と足の臭いの関連性が報告され、足白癬患者は足の臭いが強いことが知られている。足白癬患者は健常人と足の菌叢が異なり、Corynebacterium属の特定の菌種が増加する。増加する菌種はCorynebacterium striatum、Corynebacterium coyleae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacterium minutissimum等があり、その中でもCorynebacterium striatumの増加が顕著である(非特許文献3)。
【0004】
これまでに、Corynebacterium属の菌種のうちCorynebacterium xerosisについては、イソ吉草酸を発生させることが知られている(非特許文献4) 。
【0005】
しかしながら、非特許文献1〜4では、前述の足白癬患者で顕著に増加する特定の菌種が悪臭を発生することについて、何ら示唆していない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】日本味と匂学会誌 7(1)2000 3-10
【非特許文献2】Can.J.Microbiol. 52 2006 357-364
【非特許文献3】日本医真菌学会雑誌 51 2010 85
【非特許文献4】香粧会誌 28 (3) 2004 177-182
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、悪臭、特に足白癬患者の足臭を客観的かつ簡便に評価する方法、及び、悪臭の消臭効果を評価する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため種々検討した結果、足白癬患者の皮膚患部において顕著に増加するCorynebacterium striatumに着目し、この菌が悪臭を発生すること、Corynebacterium striatumが足白癬患者の足臭の生成菌であること、さらにはCorynebacterium striatumから発生する悪臭にイソ吉草酸が含まれることを突き止め、悪臭の評価に利用できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)Corynebacterium striatum由来の悪臭の評価方法、
(2)Corynebacterium striatum由来の悪臭のマスキング評価方法、
(3)Corynebacterium striatum由来の悪臭成分を指標とする、悪臭抑制剤のスクリーニング方法、
(4)悪臭成分がイソ吉草酸である(3)に記載の方法、
(5)悪臭が足臭、腋臭又は汗臭である、(1)〜(3)の何れかに記載の方法、
(6)足白癬患者の足臭として用いる(4)に記載の方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、Corynebacterium striatumから発生する臭いの評価、及びマスキング効果を客観的かつ簡便に評価することができる。また、本発明のスクリーニング方法は、悪臭をマスキングする悪臭抑制剤を的確にスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。特に、足白癬患者の足臭の評価、及びマスキング効果を客観的かつ簡便に評価することができる。また、足白癬患者の足の臭いをマスキングする足臭抑制剤を的確にスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の悪臭とは、Corynebacterium striatumから発生する臭いを意味する。
【0012】
本発明の評価方法又はスクリーニング方法に用いられるCorynebacterium striatumの入手方法に特に制限はない。市販されているものの他、一般に入手可能なものでもよいし、健常人、足白癬患者の皮膚から採取したものでもよい。
【0013】
健常人、足白癬患者の皮膚から前記物質を採取する方法に特に制限はなく、濡らした綿棒で皮膚をこすり付着した細菌を緩衝液に回収して寒天平板培地に播く方法、皮膚上にガラス製のリング状カップを当てその中を緩衝液で満たし、テフロン(登録商標)などの棒で皮膚表面をこすり、緩衝液中に遊離した細菌を回収して寒天平板培地に播く方法、皮膚表面に寒天平板培地を直接押し当て、細菌を培地に付着させ採取する方法、皮膚表面に粘着テープを貼り付け、剥がした後皮膚付着面を下にして寒天平板培地の上に乗せて培養する方法等が挙げられる。
【0014】
以下に、本発明に必要な量のCorynebacterium striatumを調製するための方法について具体例を挙げて説明する。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0015】
Corynebacterium striatumを培養する培地は、通常、Corynebacterium striatumが生育する培地であれば良く、具体的には、ソイビーン・カゼイン・ダイジェスト寒天培地、羊血液寒天培地等が挙げられる。炭素源としては菌体が資化することができる炭素化合物であればいずれでも使用可能であり、グルコース、スクロース、水飴、廃糖蜜などが挙げられる。窒素源としては、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機窒素源、酵母エキス、ペプトン、肉エキスなどの有機窒素源を使用することができる。これらの他に、必要に応じて、無機塩類、金属塩、ビタミンなどを添加することもできる。
【0016】
培養条件に特に制限はないが、通常15〜40℃、より好ましくは25〜37℃の条件下で行うことが好ましい。
【0017】
Corynebacterium striatumの培養は嫌気下でも好気下でもよいが、好気下での培養が好ましい。培養時間はCorynebacterium striatumが活発に生育できる時間であれば良く、特に制限はないが、18〜24時間が好ましい。
【0018】
培養後の菌は培地から掻き取り、菌が生存可能な水溶液に懸濁する。生存可能な水溶液は水、生理食塩水、緩衝液などが挙げられるが、生理食塩水であることが好ましい。このようにして得られたCorynebacterium striatumを本発明に用いることができる。
【0019】
次に、Corynebacterium striatumから悪臭を発生させる方法を、以下に具体例を挙げて説明する。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
媒体中で、Corynebacterium striatumとロイシンを共存させることで両者を接触させることにより発生させることができる。媒体としては、臭いの官能評価および機器分析評価を妨げないものが好ましく、具体的には標準培地、水、生理食塩水、緩衝液が挙げられるが、標準培地であることが好ましく、必要に応じて羊脱繊維血液を添加することができる。
【0021】
ロイシンとCorynebacterium striatumを接触させる際、ロイシンと菌の濃度は特に制限はないが、接触させた状態でロイシン濃度は0.01%〜0.5%、菌濃度は1.0×106〜1.0×10CFU/mLであることが好ましい。
【0022】
悪臭を発生させるために、Corynebacterium striatumとロイシンを含む媒体を所望の時間インキュベートする。インキュベート温度、インキュベート時間に特に制限はないが、悪臭が発生するのに十分な温度及び時間であることが好ましく、具体的には15〜40℃、好ましくは25〜37℃で7日間〜14日間インキュベートすることが好ましい。
【0023】
本発明の悪臭の評価方法において、悪臭の検知方法に特に制限はないが、官能評価等、定性的な方法によって行ってもよいが、ガスクロマトグラフィーを用いて定量的に悪臭成分のイソ吉草酸を検知することもできる。この場合、イソ吉草酸の量が50ppm以上である場合には、臭いがあると判定することができる。
【0024】
また、本発明者は、足白癬患者の皮膚患部で顕著に増加するCorynebacterium striatumが、イソ吉草酸を発生させることを見出している。したがって、Corynebacterium striatumに作用してイソ吉草酸の発生を抑制する被験物質は、Corynebacterium striatum由来の悪臭の発生を抑制するためのマスキング剤として有用である。
【0025】
本発明の悪臭抑制剤のスクリーニング方法は、Corynebacterium striatumに起因する悪臭の発生を抑制するための悪臭抑制剤のスクリーニング方法である。その方法とは、前記Corynebacterium striatumを被験物質とロイシンを含有する培地で培養し、得られたCorynebacterium striatumの生菌数および/またはイソ吉草酸の量を測定することにより被験物質がイソ吉草酸の発生を抑制するかどうかを判定し、イソ吉草酸の発生を抑制する被験物質を悪臭抑制剤として選択するか、もしくは、Corynebacterium striatumを被験物質とロイシンを含有する培地で培養し、悪臭を抑制する被験物質を悪臭抑制剤として選択する方法である。
【0026】
本発明の悪臭抑制剤のスクリーニング方法では、足白癬患者に特有に見られるCorynebacterium striatumの増加に着目し、Corynebacterium striatum由来の悪臭を抑制する被験物質を悪臭抑制剤として選択するか、Corynebacterium striatumにより産生されるイソ吉草酸の量により、イソ吉草酸の生成を抑制する被験物質を臭い抑制剤として選択する。したがって、本発明の臭い抑制剤のスクリーニング方法は、簡便な操作で客観的かつ的確に悪臭抑制剤を評価することができる。
【0027】
前記被験物質としては、特に制限はなく、例えば薬効成分、殺菌剤、香料、イソ吉草酸を吸収又は吸着することが期待される成分、イソ吉草酸の構造を変化させることが期待される成分などが挙げられる。
【0028】
前記培地における被験物質の含有率は、被験物質の種類や用途によって異なるが、通常、0.000001〜5質量%、好ましくは0.00001〜2質量%である。培養方法、悪臭を発生する方法、イソ吉草酸を産生する方法は、上記と同様の方法で行うことができる。
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明は、下記の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
(1)検量線の作成
既知の濃度のイソ吉草酸を2〜200ppmになるように精製水で希釈し、ガスクロマトグラフによって分析した。イソ吉草酸に相当するピーク面積を測定し、イソ吉草酸濃度に対するピーク面積の検量線を作成した。
【0030】
(2)Corynebacterium属の菌から発生するイソ吉草酸量の定量
表1に示す菌を羊血液寒天培地上で約37℃、24時間培養した。その後、培地上の発育した菌を掻き取り、0.5%Tween80添加滅菌生理食塩水で懸濁、希釈して菌液(約1.0×108CFU/mL)を調製した。
菌液2mLとロイシン0.2%を含有した標準液体培地2mL、羊脱繊維血液0.4mLを混合したものをサンプルとした。
上記サンプルを37℃で14日間培養した後、サンプルを超遠心(10000rpm、5分)し、上清を分取する。上清2mLに10%硫酸0.5mLを添加し、さらにジエチルエーテル3mLを加えた。超音波照射(15分)後、振とう(15分)、遠心(2600rpm 5分)し、エーテル相をバイアル瓶に移してガスクロマトグラフで分析し、イソ吉草酸に相当するピーク面積を求め、検量線から試料溶液中のイソ吉草酸濃度を算出した。イソ吉草酸濃度の結果、及び培養後にサンプルから発せられるイソ吉草酸臭を官能的に評価した結果を表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表2よりCorynebacterium striatumは悪臭を発生し、悪臭の原因物質であるイソ吉草酸を発生することが分かった。したがって、足白癬患者の足臭の評価、足白癬患者の足臭のマスキング評価又は足臭抑制剤のスクリーニング方法に用いることができることが示された。一方、足白癬患者に増加する他の菌種であるCorynebacterium coyleae、Corynebacterium jeikeium、Corynebacterium minutissimumからは臭いは感知されず、またイソ吉草酸がほとんど発生せず、足白癬患者の足臭の評価、足白癬患者の足臭のマスキング評価又は足臭抑制剤のスクリーニング方法には適さないことが示された。