【解決手段】油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理工程と、前記好気性処理工程において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送工程と、を備える油脂含有排水の処理方法。
前記分散工程が、前記嫌気性処理工程および/または前記好気性処理工程において発生した油脂残渣に、前記油脂含有排水および/または前記濃縮物と共に分散処理を施して前記分散処理水を得る工程である、請求項3に記載の油脂含有排水の処理方法。
前記分散手段が、前記嫌気性処理手段および/または前記好気性処理手段において発生した油脂残渣に、前記油脂含有排水および/または前記濃縮物と共に分散手段を施して前記分散処理水を得る手段である、請求項8に記載の油脂含有排水の処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理工程と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理工程と、前記好気性処理工程において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送工程と、を備える油脂含有排水の処理方法である。このような処理方法を、以下では「本発明の方法」ともいう。
また、本発明は、油脂含有排水に嫌気性処理を施して嫌気性処理水を排出する嫌気性処理手段と、前記嫌気性処理水に好気性処理を施す好気性処理手段と、前記好気性処理手段において発生した汚泥を、前記油脂含有排水へ供給する汚泥返送手段と、を有する油脂含有排水の処理装置である。このような処理装置を、以下では「本発明の装置」ともいう。
本発明の方法は、本発明の装置を用いて行うことが好ましい。
以下において、単に「本発明」と記した場合、本発明の方法および本発明の装置の両方を意味するものとする。
【0012】
本発明について図を用いて説明する。
図1は、本発明の装置を示す概略図である。
図1において本発明の装置1は、油脂含有排水2に嫌気性処理を施して嫌気性処理水4を排出する嫌気性処理手段3と、嫌気性処理水4に好気性処理を施して処理水7を排出する好気性処理手段5と、好気性処理手段5において発生した汚泥8を、油脂含有排水2へ供給する汚泥返送手段9とを有する。
【0013】
<油脂含有排水>
本発明の処理対象物である油脂含有排水について説明する。
本発明において油脂含有排水は油脂分を含む水を意味する。油脂含有排水として、油脂分として動植物性油脂(トリグリセリドやその部分分解物)を主に含む排水が挙げられる。具体例として、食品工場や厨房から排出される排水や生活排水が例示される。油脂含有排水は、油脂分以外の成分(例えばそのほかの有機質や、窒素成分(アンモニア性窒素、有機性窒素等))をさらに含んでいてもよい。
【0014】
本発明において油脂含有排水は、ヘキサン抽出物濃度の下限が30mg/L、好ましくは50mg/L、より好ましくは100mg/Lであってよく、上限が、50,000mg/L、好ましくは30,000mg/L、より好ましくは10,000mg/Lであってよい。
ここで油脂含有排水のヘキサン抽出物濃度は、工場排水試験方法(JIS K0102 24)に基づき測定して得た値を意味するものとする。
以下の説明においてヘキサン抽出物濃度は、このような方法で測定して得た値を意味するものとする。
【0015】
本発明では、油脂含有排水に前処理を施したものに嫌気性処理を施すことができる。したがって、油脂含有排水に前処理を施したものは、本発明において油脂含有排水に該当するものとする。本発明における油脂含有排水の一態様として、例えば、油脂含有排水に濃縮処理を施して得られた濃縮物、油脂含有排水に分散処理を施して得られる分散処理水があげられる。
【0016】
<嫌気性処理手段、嫌気性処理工程>
本発明の装置1が有する嫌気性処理手段3について説明する。
嫌気性処理手段3は油脂含有排水2に嫌気性処理を施して嫌気性処理水4を排出する。
【0017】
嫌気性処理について説明する。
本発明において嫌気性処理とは、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させる処理を意味する。
したがって、本発明における嫌気性処理は、従来公知の嫌気性処理であってよく、嫌気消化であってもよい。
従来公知の嫌気性処理(嫌気性生物処理)とは、酸素のない嫌気性環境下で生育する嫌気性菌の代謝作用によって、有機物をメタンガスや炭酸ガスに分解する生物処理方法を意味する。また、ここで有機物からメタンガスへの分解経路は3段階からなると考えられており、具体的には、有機物の加水分解による可溶化、低分子化を行う第1段階、次に、低分子物質の酸発酵による揮発性脂肪酸、アルコール類の生成を行う第2段階、最後に、酢酸または水素と二酸化炭素からメタンガスを生成する第3段階という3段階からなると考えられている。
【0018】
また、酸素のない嫌気性環境下または酸素が微量である微好気性環境下において、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを、油脂含有排水に含まれる油脂分に作用させることで、主として、これらの菌が生産するバイオサーファクタント等の代謝産物によって油脂分の乳化を促進および/または、リパーゼなどの酵素によって一部分解させる処理であって、原則として、絶対嫌気性菌であるメタン生成菌による分解に伴うガス(メタンガス、炭酸ガス等)の発生を伴わない処理であってもよい。
このような処理を、以下では「準嫌気性処理」ともいう。
【0019】
準嫌気性処理は、このような従来の嫌気性処理における第3段階に相当する分解反応(メタンガス生成反応)を原則として含まないため、メタンガスは発生しない。また、第2段階に相当する分解反応(酸発酵)もほぼ含まないと本発明者は推定している。さらに、第1段階に相当する分解反応(加水分解)は、少なくとも油脂分の一部について進行している可能性がある。
準嫌気性処理は、従来の嫌気消化(例えば特許文献2に記載の嫌気消化)を含まない。
【0020】
本発明における嫌気性処理は、例えば、嫌気性菌や微好気性菌等を油脂含有排水2に作用させる条件(時間、pH、温度等)を調整することで行うことができる。
【0021】
嫌気性処理において、油脂含有排水2に嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを作用させる時間の下限を20時間とすることが好ましく、2日とすることがより好ましく、3日とすることがさらに好ましい。また、この時間の上限を15日とすることが好ましく、10日とすることがより好ましい。
【0022】
なお、後述するように2段階以上の嫌気性処理を施す場合、各段階における処理時間の合計が、上記のような、油脂含有排水2に嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも一つを作用させる時間に相当するものとする。
【0023】
嫌気性処理は、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)のpHを7.2以上として行うことが好ましい。また、このpHは11.0以下として行うことが好ましく、8.8以下として行うことが好ましい。
【0024】
嫌気性処理は、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)の温度を20℃以上として行うことが好ましく、30℃以上として行うことがより好ましい。また、この温度を58℃以下として行うことが好ましく、47℃以下として行うことがより好ましい。
【0025】
嫌気性処理は、油脂含有排水2へ硫酸イオンを含有させて行うことが好ましい。また、油脂含有排水2における硫酸イオンの濃度を10〜3,000mg/Lとすることが好ましく、50〜2,000mg/Lとすることがより好ましく、100〜1000mg/Lとすることがさらに好ましい。
【0026】
また、嫌気性菌や通性嫌気性菌を油脂含有排水2へ作用させて嫌気性処理行う場合は、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)の酸化還元電位が好ましくは−200mV以下、より好ましくは−300mV以下となるように調整して嫌気性処理を施す。
【0027】
なお、本発明において酸化還元電位は白金電極によるORP電極法により測定して得られた値を意味するものとする。
【0028】
嫌気性処理における油脂含有排水2の受入れ可能なヘキサン抽出物濃度は30〜30,000mg/Lとすることが好ましく、30〜20,000mg/Lとすることがより好ましく、30〜10,000mg/Lとすることがさらに好ましい。
【0029】
本発明を準嫌気性処理で行う場合には、以下のような条件のもとで行うと好ましい。バイオサーファクタント等の代謝産物による油脂分の乳化および/または、リパーゼなどの酵素による部分分解が進行する傾向にあるためである。準嫌気性処理は、例えば、嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを油脂含有排水2に作用させる条件(時間、pH、温度等)を調整することで行うことができる。
【0030】
準嫌気性処理において、油脂含有排水2に嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを作用させる時間の下限を20時間とすることが好ましく、2日とすることがより好ましく、3日とすることがさらに好ましい。また、この時間の上限を15日とすることが好ましく、10日とすることがより好ましい。従来公知の嫌気消化における処理時間は30〜60日程度であるため、準嫌気性処理は、より短時間とすることができるので好ましい。
【0031】
また、準嫌気性処理は、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)のpHを7.2以上として行うことが好ましい。また、このpHは11.0以下として行うことが好ましく、8.8以下として行うことが好ましい。
【0032】
また、準嫌気性処理は、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)の温度を20℃以上として行うことが好ましく、30℃以上として行うことがより好ましい。また、この温度を58℃以下として行うことが好ましく、47℃以下として行うことがより好ましい。
【0033】
また、準嫌気性処理は、油脂含有排水2へ硫酸イオンを含有させて行うことが好ましい。また、油脂含有排水2における硫酸イオンの濃度を10〜3,000mg/Lとすることが好ましく、50〜2,000mg/Lとすることがより好ましく、100〜1,000mg/Lとすることがさらに好ましい。
【0034】
微好気性菌および/または好気性菌を油脂含有排水2へ作用させて準嫌気性処理を行う場合、例えば従来公知の曝気処理とは異なる、制限された酸素供給を油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)に対して行うことが好ましい。このとき、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)の酸化還元電位が+50mV以下、より好ましくは−50mV以下、さらに好ましくは−50〜−250mVとなるように調整して準嫌気性処理を施すことが好ましい。
【0035】
本発明の装置1が有する嫌気性処理手段3は、上記のような嫌気性処理(好ましくは準嫌気性処理)を油脂含有排水2に対して施して、嫌気性処理水4を排出できる手段であれば特に限定されない。例えば、酸素のない嫌気性環境下において生息する嫌気性菌を内部に有する密閉容器内に油脂含有排水2を受け入れ、これに嫌気性菌を作用させて、嫌気性処理水4を排出するものが挙げられる。また、例えば、酸素が微量である微好気性環境下において生息する嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを内部に有する容器であって、油脂含有排水2を内部に受け入れ、これに嫌気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌および好気性菌からなる群から選ばれる少なくとも1つを作用させて、嫌気性処理水4を排出するものが挙げられる。いずれの容器を用いた場合でも、その内部を撹拌できる装置を有することが好ましい。
【0036】
嫌気性処理手段3として、嫌気性固定床法、嫌気性流動床法、UASB法、EGSB法等の従来公知の処理を行う装置を利用することができる。嫌気性処理として準嫌気性処理を行う場合は、上記のように原則としてメタン生成菌による分解(メタン発酵)が進行しない条件で処理するため、メタンガスを貯留するためのガスホルダや脱硫処理装置等の付帯設備は原則必要ない。
【0037】
嫌気性処理手段3は、上記のように油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)のpH、温度、酸化還元電位を調整できる手段をさらに有するものであることが好ましい。pHや温度は公知の酸、アルカリ添加手段や、加熱手段によって調整することができる。酸化還元電位は、油脂含有排水2(嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その槽内容物)に対して適量の空気を吹き付けながら準嫌気性処理を施すことで調整することができる。
また、上記のように、油脂含有排水2または、嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合その槽内容物へ硫酸イオンを添加できる手段をさらに有するものであることが好ましい。硫酸イオンは公知の添加手段によって添加することができる。
【0038】
嫌気性処理手段3は、2段階以上の嫌気性処理を施すものであることが好ましい。
ここで2段階の嫌気性処理とは、嫌気性処理を2回施すことを意味する。例えば、密閉容器を前段部と後段部との2つの部分に仕切り、油脂含有排水2に前段部で嫌気性処理を施した後、さらに後段部で嫌気性処理を施す態様が挙げられる。また、例えば、2つの装置を用い、油脂含有排水2に1つ目の装置にて嫌気性処理を施した後、さらに2つ目の装置にて嫌気性処理を施す態様が挙げられる。
嫌気性処理手段3は、3回以上の嫌気性処理を施す態様のものであってよい。
このように2段階以上の嫌気性処理を油脂含有排水2に施すと、得られた嫌気性処理水4についてさらに好気性処理手段5を施すことで、より水質が優れる処理水7が得られるからである。
【0039】
嫌気性処理手段3において油脂含有排水2について嫌気性処理を施すと、油脂残渣は発生し難い。発生するとしても、その量は従来法と比較して格段に少ない。油脂残渣が発生した場合、後述する分散手段によって油脂残渣を処理することが好ましい。
【0040】
嫌気性処理手段3は、好気性処理手段5において発生する返送汚泥を受け入れることができるように構成されていることが好ましい。返送汚泥を受け入れて油脂含有排水2とともに処理すると、得られた嫌気性処理水4についてさらに好気性処理手段5を施すことによって、より水質が優れた処理水が得られるからである。
本発明の方法が備える嫌気性処理工程は、上記のような嫌気性処理手段3によって行うことができる。
【0041】
<好気性処理手段、好気性処理工程>
本発明の装置1が有する好気性処理手段5について説明する。好気性処理手段5は嫌気性処理水4について好気性処理を施して、処理水7および汚泥8を排出する。
【0042】
好気性処理について説明する。本発明において好気性処理とは、酸素が存在する好気性環境下において生息する好気性菌を主体とした微生物を、嫌気性処理水に作用させて分解する処理を意味する。
【0043】
本発明の好気性処理として、例えば従来公知の好気性生物処理を適用することができる。具体的には、嫌気性処理水4を槽内に受け入れ、撹拌しながら曝気する処理が例示される。より具体的には、従来公知の浮遊生物処理法(回分式活性汚泥法、連続式活性汚泥法等)や生物膜処理法(回転円板法、好気性ろ床法、流動床法等)が例示される。
【0044】
また、好気性処理が、複数種類の処理を含むことが好ましい。例えば、嫌気性処理水4に連続式活性汚泥法を適用した後、流動床法を適用する処理であることが好ましい。また、嫌気性処理水4に曝気処理を施した後、連続式活性汚泥法を適用する処理であることが好ましい。さらに、前記の処理プロセスに脱窒素工程を導入しても良い。
【0045】
好気性処理が、複数種類の処理を含む場合、そのうちの1つとして従来公知の活性汚泥処理を含むことが好ましい。このような場合、最終的に得られる処理水7の清浄度がより高まり、下水道法に規定される下水放流基準値を満足するヘキサン抽出物濃度の処理水7が得られるからである。
【0046】
本発明における好気性処理は、例えば、好気性菌等を嫌気性処理水4に作用させる条件(時間、pH、温度等)を調整することで行うことができる。
【0047】
好気性処理において、嫌気性処理水4に好気性菌等を作用させる時間の下限を3時間とすることが好ましく、3日とすることがより好ましく、4日とすることがさらに好ましい。また、この時間の上限を14日とすることが好ましく、7日とすることがさらに好ましい。嫌気性処理水4に好気性菌を作用させる時間がこのような範囲であると、より清浄度の高い処理水7が得られるからである。
なお、後述するように2段階以上の好気性処理を施す場合、各段階における処理時間の合計が、上記のような、嫌気性処理水4に好気性菌を作用させる時間に相当するものとする。
【0048】
好気性処理は、嫌気性処理水4(好気性処理手段5において反応槽を用いる場合、その槽内容物)のpHを7.2以上として行うことが好ましく、7.5以上として行うことがより好ましい。また、このpHは11.0以下として行うことが好ましく、9.0以下として行うことがより好ましい。このような範囲のpHとして嫌気性処理水4に好気性処理を施すと、より清浄度の高い処理水7が得られるからである。
【0049】
好気性処理は、嫌気性処理水4(好気性処理手段5において反応槽を用いる場合、その槽内容物)の温度を20℃以上として行うことが好ましく、30℃以上として行うことがより好ましい。また、この温度を58℃以下として行うことが好ましく、47℃以下として行うことがより好ましい。このような範囲の温度として嫌気性処理水4に好気性処理を施すと、より清浄度の高い処理水7が得られるからである。
【0050】
好気性処理は、嫌気性処理水4における油脂分の質量と窒素原子の質量の比(窒素原子/油脂分)を0.05以上として行うことが好ましく、0.1〜0.5として行うことがより好ましい。
好気性処理は、嫌気性処理水4における油脂分の質量とリン原子の質量の比(リン/油脂分)を0.01以上として行うことが好ましく、0.05〜0.1として行うことがより好ましい。
このような窒素、リンおよび油脂分の質量比となるように、好気性処理の際に窒素源等の栄養素を補給することが好ましい。
【0051】
後述するように、好気性処理手段5が2段階以上の好気性処理を施すものである場合、第1段目の好気性処理は、処理槽内における溶存酸素量(DO)が2mg/L以下となるように行うことが好ましく、1.0mg/L以下となるように行うことがより好ましく、0.6mg/L以下となるように行うことがさらに好ましい。第2段目以降の好気性処理槽内における溶存酸素量(DO)は1.0mg/L以上となるように行うことが好ましく、2.0mg/L以上となるように行うことがより好ましく、3.0mg/L以上となるように行うことがさらに好ましい。より清浄度の高い処理水7が得られるからである。なお、好気性処理手段5が1段の場合、処理槽内における溶存酸素量(DO)は1.0mg/L以上となるように行うことが好ましく、2.0mg/L以上となるように行うことがより好ましく、3.0mg/L以上となるように行うことがさらに好ましい。
【0052】
本発明の装置1が有する好気性処理手段5は、上記のような好気性処理を嫌気性処理水4に対して施して、処理水7および汚泥8を排出できる手段であれば特に限定されない。例えば、酸素が存在する好気性環境下において生息する好気性菌を内部に有する容器内に嫌気性処理水4を受け入れ、これに好気性菌を作用させて、処理水7を排出するものが挙げられる。このような容器の内部を撹拌できる装置を有することが好ましい。
好気性処理手段5として、浮遊生物処理法(回分式活性汚泥法、連続式活性汚泥法等)や生物膜処理法(回転円板法、好気性ろ床法、流動床法等)等の従来公知の処理を行う装置を利用することが可能である。
さらに、上記のように、嫌気性処理水4(好気性処理手段5において反応槽を用いる場合、その槽内容物)のpH、温度、窒素、リン、溶存酸素量等を調整できる手段をさらに有するものであることが好ましい。pHや温度は従来公知の酸、アルカリ添加手段や、加熱手段によって調整することができる。窒素やリンの調整は、従来公知の窒素源やリン源の補給手段を用いることができる。溶存酸素量は、通気撹拌手段によって調整することができる。
【0053】
好気性処理手段5は、2段階以上の好気性処理を施すものであることが好ましい。
ここで2段階の好気性処理とは、好気性処理を2回施すことを意味する。例えば、容器を前段部と後段部との2つの部分に仕切り、嫌気性処理水4に前段部で好気性処理を施した後、さらに後段部で好気性処理を施す態様が挙げられる。また、例えば、2つの装置を用い、嫌気性処理水4に1つ目の装置にて好気性処理を施した後、さらに2つ目の装置にて好気性処理を施す態様が挙げられる。
好気性処理手段5は、3回以上の好気性処理を施す態様のものであってよい。
このように2段階以上の好気性処理を嫌気性処理水4に施すと、より水質が優れる処理水7が得られるからである。
【0054】
好気性処理手段5における好気性処理では、処理中に処理液の表面から泡が発生する場合がある。泡が発生すると、反応槽から汚泥が流出する、または、好気性処理手段5が備える配管等を閉塞する可能性があり、好ましくない。このような場合、好気性処理手段5は、さらにこの泡を除去する泡除去手段を備えることが好ましい。
泡除去手段として、好気性処理にて消泡剤を添加することが挙げられる。消泡剤を添加すると泡の発生を抑制することができる。消泡剤として、非イオン性の界面活性剤の消泡剤を用いることが好ましい。
【0055】
また、別の泡除去手段として、処理中の液面の上部空間に、発生する泡を付着させることができる構造物を用いることができる。このような構造物を処理中の液面の上部空間に設置すると、泡が構造物の表面に膜状に付着していくので、泡を液面から分離することができる。そして、好気性処理における油脂分の処理速度を向上することができる。構造物として、例えばシート状のフィルターを垂直方向に配置したユニットなどが挙げられる。
本発明の方法は、このような泡除去手段を用いて行うことができる泡除去工程をさらに備えることが好ましい。
【0056】
本発明の方法が備える嫌気性処理工程は、泡除去工程において分離した泡と共に前記油脂含有排水に嫌気性処理を施す工程であることが好ましい。
上記のように、泡除去手段として、処理中の液面の上部空間に発生する泡を付着させることができる構造物を用いる場合、回収した泡を前記油脂含有排水および/または嫌気性処理手段の工程に加えることで、分離した泡と共に前記油脂含有排水に嫌気性処理を施すことができる。
他の態様として、好気性処理工程で発生する泡を、嫌気性処理工程に移送する手段を備えることで、回収した泡とともに前記油脂含有排水に嫌気性処理を施すことができる。
また、例えば、好気性処理を行う反応槽を密封構造とし、嫌気性処理を行う反応槽から越流された反応液(嫌気性処理水4)を好気性処理を行う反応槽に導入する構造とすることで、分離した泡を嫌気性処理を行うための反応槽(準嫌気性処理手段3)へ供給して、分離した泡と共に前記油脂含有排水に嫌気性処理を施すことができる。このような場合、嫌気性処理を行う反応槽から越流する反応液と、エアレーションによる排気と共に排出される泡とが対抗する流れが形成され、泡の少なくとも一部を嫌気性処理に供する反応槽内に供給することができる。嫌気性処理を行う反応槽内に供給された泡は、反応槽内の攪拌流により消滅する。
【0057】
好気性処理手段5において嫌気性処理水4に好気性処理を施すと、油脂残渣は発生し難い。発生するとしても、その量は、従来法と比較して格段に少ない。油脂残渣が発生した場合、後述する分散手段によって油脂残渣を処理することが好ましい。
【0058】
好気性処理手段5は、内部に汚泥8が貯留されるので、これを排出できる構成を備えている。
好気性処理手段5は、固液分離手段を含んでいることが好ましい。この場合、好気性処理手段5において貯留される汚泥8の排出をすみやかに行うことができる。上記のように、本発明における好気性処理は活性汚泥処理を含むことが好ましいが、活性汚泥処理は、通常、曝気槽および沈殿槽からなる装置を用いる処理であって、沈殿槽によって活性汚泥のフロックを自然沈降によって分離する手段を含む。このように好気性処理手段5が活性汚泥処理を行うための沈殿槽のような固液分離手段を含むことが好ましい。もちろん、活性汚泥処理を含まない好気性処理手段5において、固液分離手段を含むことも好ましい。
好気性処理手段5から排出された汚泥8は返送汚泥として用いて、汚泥返送手段9によって油脂含有排水2へ加えられる。
本発明の方法が備える好気性処理工程は、上記のような好気性処理手段5によって行うことができる。
【0059】
<汚泥返送手段、汚泥返送工程>
本発明の装置1が有する汚泥返送手段9について説明する。汚泥返送手段9は、好気性処理手段5において発生した汚泥8を、油脂含有排水2へ供給する手段である。
汚泥返送手段9として、例えば、好気性処理手段5における汚泥8の排出口から、嫌気性処理手段3の前段に配置した油脂含有排水2を貯留する槽までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって汚泥8を移送し、汚泥8を油脂含有排水2へ添加する手段が例示される。
汚泥返送手段9による油脂含有排水2への返送汚泥の添加量は、添加後のSS濃度が50〜500mg−SS/Lとなる量であることが好ましい。
【0060】
本発明の装置が、油脂含有排水2へ返送汚泥を添加する汚泥返送手段9を有すると、格段に油脂残渣が発生し難くなることを、本発明者は見出した。また、油脂分の分解がより容易になり、より清浄度の高い処理水7が得られることを、本発明者は見出した。
【0061】
本発明の方法は、前記好気性処理工程において発生した汚泥8を、油脂含有排水2へ供給する汚泥返送工程をさらに備え、前記嫌気性処理工程において、汚泥8を、油脂含有排水2と共に処理することが好ましい。このような汚泥返送工程は、汚泥返送手段9によって行うことができる。
【0062】
本発明の装置は、上記のような嫌気性処理手段3と、好気性処理手段5と、汚泥返送手段9とを有し、さらに、濃縮手段および/または分散手段を有することが好ましい。
【0063】
嫌気性処理手段3と、好気性処理手段5とを有し、複数の汚泥返送手段(11、23、26)を有し、さらに、濃縮手段18および分散手段19を有する本発明の装置の好適例について、
図2を用いて説明する。
【0064】
図2は、本発明の装置の好適態様(装置10)を示す概略図である。
装置10は、嫌気性処理手段3および好気性処理手段5を有し、さらに、汚泥返送手段11、濃縮手段18、分散手段19、汚泥返送手段23および汚泥返送手段26を有する。また、装置10は、油脂含有排水2にPAC(ポリ塩化アルミニウム)を添加するPAC添加手段12および凝集ポリマを添加する凝集ポリマ添加手段13を有する。
以下では装置10について、
図1に示した本発明の装置1と異なる箇所について詳しく説明する。なお、
図2では装置10について、
図1に示した本発明の装置1と同じ構成要素については同じ符号を付している。
【0065】
汚泥返送手段11について説明する。汚泥返送手段11は、好気性処理手段5において発生した返送汚泥28を、油脂含有排水2へ添加する手段である。
汚泥返送手段11として、例えば、好気性処理手段5における返送汚泥28の排出口から、濃縮手段18の前段に配置した油脂含有排水2を貯留する槽までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥28を移送し、返送汚泥28を油脂含有排水2へ添加する手段が例示される。
汚泥返送手段11による油脂含有排水2への返送汚泥の添加量は、添加後のSS濃度が50〜500mg−SS/Lとなる量であることが好ましい。
【0066】
本発明の装置(装置10)が、油脂含有排水2へ返送汚泥を添加する汚泥返送手段11を有すると、格段に油脂残渣が発生し難くなることを、本発明者は見出した。また、油脂分の分解がより容易になり、より清浄度の高い処理水7が得られることを、本発明者は見出した。後述するように、分散手段19において汚泥返送手段23によって返送汚泥を添加する場合や、嫌気性処理手段3において汚泥返送手段26によって返送汚泥を添加する場合と比較して、濃縮手段18の前段階にて油脂含有排水2へ汚泥返送手段11によって返送汚泥を添加する方が、より油脂残渣が発生し難くなり、さらに油脂分の分解がより容易になることを、本発明者は見出した。
油脂含有排水2へ返送汚泥を加えた後、加圧浮上槽等の濃縮手段18を施すと、濃縮物21(フロス等)が油脂の塊ではなく、返送汚泥の表面に油脂分が吸着して分散した状態になるため、続く嫌気性処理における反応性が向上し、油脂残渣の発生が抑制され、油脂分も分解されやすくなるものと本発明者は推定している。
【0067】
本発明の方法は、前記好気性処理工程において発生した返送汚泥28を、油脂含有排水2へ供給する汚泥返送工程をさらに備え、前記嫌気性処理工程において、返送汚泥28を、油脂含有排水2またはこれをさらに処理して得た濃縮物21もしくは分散処理水25と共に処理することが好ましい。このような汚泥返送工程は、汚泥返送手段11によって行うことができる。
【0068】
PAC添加手段12および凝集ポリマ添加手段13について説明する。
PAC添加手段12によって所望量のPACを油脂含有排水2へ添加することができる。また、凝集ポリマ添加手段13によって所望量の凝集ポリマを油脂含有排水2へ添加することができる。凝集ポリマとしてカチオンポリマまたはアニオンポリマを用いることができる。PACおよび/または凝集ポリマを油脂含有排水2へ添加すると、装置10から排出される処理水7の清浄度が高くなる傾向がある。また、本発明の装置が濃縮手段18を備える場合、PACおよび/または凝集ポリマを油脂含有排水2へ添加すると、濃縮手段18において分離効率がより高まり、濃縮物における油脂分の濃度がより高まる傾向があり、装置10から排出される処理水7の清浄度が高くなる傾向がある。
【0069】
PAC添加手段12および凝集ポリマ添加手段13の各々は、専用タンク内にPACまたは凝集ポリマを溶液または分散液として貯留し、ポンプの作用によって配管を通じて所望の供給量で油脂含有排水2へ供給することができるものが例示される。
【0070】
装置10が調整槽をさらに備える場合、ここへPAC添加手段12および/または凝集ポリマ添加手段13からのPACおよび/または凝集ポリマを受け入れて、油脂含有排水2と混合した後、所望の排出量にて濃縮手段18等の後工程へ排出することが好ましい。
なお、調整槽は油脂含有排水2を貯留できる貯留部を有するものであれば、その構造物の形態は特に限定されない。
【0071】
濃縮手段18について説明する。濃縮手段18は、油脂含有排水2(返送汚泥、PACまたは凝集ポリマを含む場合もある)を受け入れ、油脂含有排水2に含まれる油脂分を濃縮し、濃縮物21として排出し、また、濃縮物21以外の部分を分離水22として排出する手段である。
【0072】
濃縮物21は分散手段19へ供給できるように構成されている。分離水22は好気性処理手段5における好気性処理の過程またはその流入口付近もしくは流出口付近へ供給できるように構成されている。
好気性処理手段5における好気性処理が活性汚泥処理を含む場合、活性汚泥処理を行う直前、例えば、活性汚泥槽の流入口付近へ、分離水22を供給することが好ましい。
【0073】
濃縮手段18によって、油脂含有排水2に含まれる油脂分の濃度を10倍以上に濃縮した濃縮物21を得ることが好ましい。この濃縮の程度は、40〜50倍が好ましい。
濃縮手段18として加圧浮上槽を用いることが好ましい。加圧浮上槽を用いた浮上分離処理による濃縮物をフロスともいう。
【0074】
本発明の装置が濃縮手段18を有すると、油脂含有排水2に含まれる油脂分を高濃度に含む濃縮物21について嫌気性処理手段3を施し、さらに好気性処理手段5を施すことになるので、嫌気性処理および好気性処理における微生物の濃度が高くなり、油脂分と微生物との接触効率が高くなることで、分解速度が高くなるので好ましい。
また、油脂含有排水2に対して嫌気性処理を施す場合と比較して、濃縮物21に対して嫌気性処理を施す場合の方が、処理対象物の体積が格段に小さくなる。そのため、嫌気性処理手段3において反応槽を用いる場合、その反応槽の体積当たりの処理時間(滞留時間)を長くすることができて好ましい。
【0075】
本発明の方法は、前記嫌気性処理工程が、油脂含有排水2に濃縮処理を施して濃縮物21と分離水22とを得た後、濃縮物21に嫌気性処理を施す工程であることが好ましい。このような濃縮処理は、濃縮手段18によって行うことができる。
【0076】
分散手段19について説明する。分散手段19は、濃縮物21を受け入れ、これを撹拌し、分散処理水25として排出する手段である。また、分散手段19は油脂残渣24および汚泥返送手段23からの返送汚泥を受け入れることができるように構成されている。したがって、分散手段19は、必要に応じて油脂残渣24および/または返送汚泥28を受け入れ、これらと共に濃縮物21を撹拌し、分散処理水25として排出する。分散手段19は、例えば、撹拌装置を備える貯留部を有する構造物が例示される。
【0077】
分散手段19における撹拌は、機械撹拌等の物理的な撹拌手段であることが好ましい。また、アルカリpH条件下における機械撹拌、高温条件における機械撹拌、リパーゼなどの分解酵素作用環境下における機械撹拌、乳化剤などの界面活性物質共存下における機械撹拌、オゾン、化学酸化剤などの酸化剤作用環境下における機械撹拌などであると、良好な分散状態が得られるのでさらに好ましい。
本発明の装置が分散手段19を有すると、油脂残渣が発生した場合に、これを効率的に分解することができるので好ましい。分散手段19として、例えば、内部に撹拌装置を備える貯留部を有する構造物が例示される。
【0078】
本発明の方法は、さらに、油脂含有排水2および/または濃縮物21に分散処理を施して分散処理水25を得る分散工程を備え、前記嫌気性処理工程が、分散処理水25に嫌気性処理を施す工程であることが好ましい。
また、このような分散工程が、前記嫌気性処理工程および/または前記好気性処理工程において発生した油脂残渣24に、油脂含有排水2および/または濃縮物21と共に分散処理を施して分散処理水25を得る工程であることが好ましい。
このような分散工程は、上記の分散手段19によって行うことができる。
【0079】
汚泥返送手段23について説明する。汚泥返送手段23は、好気性処理手段5において発生した返送汚泥28を、分散手段19において濃縮物21へ添加する手段である。
汚泥返送手段23として、前述の汚泥返送手段11と同様の態様のものを挙げられる。例えば、好気性処理手段5における返送汚泥28の排出口から、分散手段19までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥28を移送し、返送汚泥28を濃縮物21へ添加する手段が例示される。汚泥返送手段23による濃縮物21への返送汚泥の添加量は、添加後のSS濃度が500〜5,000mg−SS/Lとなる量であることが好ましい。
【0080】
本発明の装置(装置10)が、濃縮物21へ返送汚泥を添加する汚泥返送手段23を有すると、油脂残渣が発生し難くなることを、本発明者は見出した。また、油脂分の分解がより容易になり、より清浄度の高い処理水7が得られることを、本発明者は見出した。後述するように、嫌気性処理手段3において汚泥返送手段26によって返送汚泥を添加する場合と比較して、分散手段19において濃縮物21へ汚泥返送手段23によって返送汚泥を添加する方が、より油脂残渣が発生し難くなり、さらに油脂分の分解がより容易になることを、本発明者は見出した。
【0081】
本発明の方法は、前記好気性処理工程において発生した返送汚泥28を、油脂含有排水2の一態様である濃縮物21へ供給する汚泥返送工程をさらに備え、前記嫌気性処理工程において、返送汚泥28を、濃縮物21またはこれをさらに処理して得た分散処理水25と共に処理することが好ましい。このような汚泥返送工程は、汚泥返送手段23によって行うことができる。
【0082】
嫌気性処理手段3について説明する。嫌気性処理手段3は、
図1に示した態様と同様であってよい。嫌気性処理手段3は、分散処理水25を受け入れ、嫌気性処理を行い、嫌気性処理水4を排出する。
また、嫌気性処理手段3は、汚泥返送手段26によって返送汚泥を受け入れることができるように構成されている。また、前述のように、油脂残渣24が発生した場合に、これを回収して分散手段19へ供給することができるように構成されている。
油脂残渣の回収は、例えば水面に浮上した油脂残渣を、掻き寄せ機で回収し、人力またはコンベアで移送するという手段によって行うことができる。好気性処理手段5においても同様の方法で油脂残渣を回収することができる。
【0083】
汚泥返送手段26について説明する。汚泥返送手段26は、好気性処理手段5において発生した返送汚泥28を、嫌気性処理手段3において濃縮物21および/または分散処理水25へ添加する手段である。
汚泥返送手段26として、前述の汚泥返送手段11および返送汚泥23と同様の態様のものを挙げられる。例えば、好気性処理手段5における返送汚泥28の排出口から、嫌気性処理手段3までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥28を移送し、返送汚泥28を濃縮物21および/または分散処理水25へ添加する手段が例示される。
汚泥返送手段26による分散処理水25への返送汚泥の添加量は、添加後のSS濃度が500〜5,000mg−SS/Lとなる量であることが好ましい。
本発明の装置(装置10)が、濃縮物21および/または分散処理水25へ返送汚泥を添加する汚泥返送手段26を有すると、油脂残渣が発生し難くなることを、本発明者は見出した。また、油脂分の分解がより容易になり、より清浄度の高い処理水7が得られることを、本発明者は見出した。
【0084】
本発明の方法は、前記好気性処理工程において発生した返送汚泥28を、油脂含有排水2の一態様である濃縮物21および/または分散処理水25へ供給する汚泥返送工程をさらに備え、前記嫌気性処理工程において、返送汚泥28に、濃縮物21および/または分散処理水25と共に嫌気性処理を施すことが好ましい。このような汚泥返送工程は、汚泥返送手段26によって行うことができる。
【0085】
好気性処理手段5について説明する。好気性処理手段5は、
図1に示した態様と同様であってよい。好気性処理手段5は、嫌気性処理水4を受け入れ、好気性菌の作用によって好気的処理を行い、処理水7を排出する。また、好気性処理手段5は分離水22を受け入れることができるように構成されている。また、前述のように、油脂残渣24が発生した場合に、これを回収して分散手段19へ供給することができるように構成されている。
【0086】
さらに、好気性処理手段5は沈殿槽等のような固液分離手段を含むことが好ましい。
固液分離手段は沈殿物を返送汚泥28として排出し、上澄みを処理水7として排出できるように構成されている。
好気性処理手段5から排出された返送汚泥28は、油脂含有排水2、分散手段19または嫌気性処理手段3へ返送汚泥として供給することができるように構成されている。
好気性処理手段5が固液分離手段を含むと、より清浄度の高い処理水7が得られるので好ましい。
【0087】
また、好気性処理手段5が2段階以上の好気性処理を施すものである場合、前段側の処理において発生する汚泥を、返送汚泥として用いることが好ましい。また、ここで得られた汚泥を、濃縮手段18にて処理する前に返送汚泥として油脂含有排水2へ添加して用いることが好ましい。例えば、好気性処理手段5が好気槽、活性汚泥槽および沈殿槽をこの順で有する態様である場合、前段側である好気槽にて発生する汚泥を返送汚泥として用いると、後段側である沈殿槽にて発生する汚泥を返送汚泥として用いた場合と比較して、より清浄度の高い処理水7が得られるので好ましい。
【実施例】
【0088】
本発明について実施例を用いて説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
【0089】
実施例において用いた実験装置について
図3および
図4を用いて説明する。実施例では、以下に説明する実験装置30(
図3)または実験装置90(
図4)を用いた。
【0090】
実験装置30について説明する。
図3に示す実験装置30は、調整槽32、加圧浮上槽34、分散槽36、嫌気槽38、好気槽40、活性汚泥槽42および沈殿槽44を有する。また、実験装置30は、汚泥返送手段52、62、70、74を有する。
【0091】
加圧浮上槽34は、本発明の装置が有することが好ましい濃縮手段に相当する。
分散槽36は、本発明の装置が有することが好ましい分散手段に相当する。
嫌気槽38は、本発明の装置が有する嫌気性処理手段に相当する。
好気槽40、活性汚泥槽42および沈殿槽44は、本発明の装置が有する好気性処理手段に相当する。
汚泥返送手段52、62、70は、本発明の装置が有する汚泥返送手段に相当する。
【0092】
調整槽32は油脂含有排水50を貯留するものであり、本実験装置30では貯留部を有する構造物を用いた。この調整槽32内へ油脂含有排水50を受け入れて貯留し、所望の供給量で加圧浮上槽34へ供給することができるように構成されている。
また、調整槽32の内部へ汚泥返送手段52、PAC添加手段54および凝集ポリマ添加手段56によって、返送汚泥、PACおよび凝集ポリマを供給できるように構成されている。具体的にPACおよび凝集ポリマは、各々、専用タンク内に溶液または分散液として貯留され、ポンプの作用によって配管を通じて所望の供給量で調整槽32へ供給することができるように構成されている。また、具体的に汚泥返送手段52は、好気槽40および沈殿槽44における返送汚泥76および汚泥80の排出口から、調整槽32までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥76および汚泥80を移送し、返送汚泥76および汚泥80を調整槽32の内部の油脂含有排水2へ添加することができるように構成されている。
【0093】
加圧浮上槽34は、調整槽32から供給された油脂含有排水50(返送汚泥、PACまたは凝集ポリマを含む場合もある)を受け入れ、浮上分離処理を行い、フロス58と分離水60とを排出する。また、フロス58を分散槽36または嫌気槽38へ供給できるように構成されている。さらに、分離水60を活性汚泥槽42の流入口または流出口へ供給できるように構成されている。
【0094】
分散槽36は、油脂残渣64及び/又は返送汚泥を受け入れ、これらと共にフロス58を撹拌し、分散処理水66として排出する。
分散槽36は貯留部とその内部の撹拌装置を有していて、撹拌装置によって貯留部内を撹拌できるように構成されている。また、分散槽36は油脂残渣64および汚泥返送手段62による返送汚泥を受け入れることができるように構成されている。具体的に汚泥返送手段62は、好気槽40および沈殿槽44における返送汚泥76および汚泥80の排出口から、分散槽36までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥76および汚泥80を移送し、返送汚泥76および汚泥80を分散槽36の内部のフロス58へ添加することができるように構成されている。
分散槽36は、油脂残渣64および/または返送汚泥を受け入れ、これらと共にフロス58を撹拌し、分散処理水66として排出することができる。
【0095】
嫌気槽38は、貯留部を有し、かつその貯留部が密閉可能に構成されたものであり、内部を撹拌できるように撹拌機が備えられている。また、内部を2分割または3分割に仕切ることが可能なように構成されている。嫌気槽38は、分散処理水66および/またはフロス58を受け入れ、嫌気性処理を行い、嫌気性処理水68を排出する。
また、嫌気槽38は、汚泥返送手段70によって返送汚泥を受け入れることができるように構成されている。具体的に汚泥返送手段70は、好気槽40および沈殿槽44における返送汚泥76および汚泥80の排出口から、嫌気槽38までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥76および汚泥80を移送し、返送汚泥76および汚泥80を嫌気槽38の内部のフロス58または分散処理水66へ添加することができるように構成されている。
また、嫌気槽38は、前述のように、油脂残渣64が発生した場合に、これを回収して分散槽36へ供給することができるように構成されている。
【0096】
好気槽40は、貯留部を有し、その貯留部内へ空気を供給することができるように構成されたものである。また、内部を2分割または3分割に仕切ることが可能なように構成されている。好気槽40は、嫌気性処理水68を受け入れ、好気性菌や通性嫌気性菌等の作用によって好気的処理を行い、反応液の一部を返送汚泥76として排出し、好気処理水72として排出する。
また、好気槽40は、汚泥返送手段74によって返送汚泥を受け入れることができるように構成されている。具体的に汚泥返送手段74は、好気槽40および沈殿槽44における返送汚泥76および汚泥80の排出口から、好気槽40までを配管で繋ぎ、ポンプの作用によって返送汚泥76および汚泥80を移送し、返送汚泥76および汚泥80を好気槽40の流入口付近へ添加することができるように構成されている。
また、好気槽40は前述のように、油脂残渣64が発生した場合に、これを回収して分散槽36へ供給することができるように構成されている。さらに、好気槽40は、流出口付近の反応液を返送汚泥76として排出することができるように構成されている。
【0097】
活性汚泥槽42は、貯留部を有し、その貯留部内へ空気を供給することができ、また、撹拌することができるように構成されたものであり、内部は3分割されている。活性汚泥槽42は、好気処理水72(分離水60を含む場合もある)を受け入れ、従来公知の活性汚泥処理を行い、活性汚泥処理水78を排出する。
【0098】
沈殿槽44は活性汚泥処理水78(分離水60を含む場合もある)を受け入れることができるように構成されている。そして、沈殿物を汚泥80として排出し、上澄みを処理水82として排出できるように構成されている。
【0099】
次に、実験装置90について説明する。
図4に示す実験装置90は、
図3に示した実験装置30と一部が異なる。具体的には、実験装置90は加圧浮上槽34および活性汚泥槽42を有さないが、2つの好気槽(第1好気槽および第2好気槽)を有する。以下では実験装置90について実験装置30と異なる箇所について詳しく説明する。なお、
図4では実験装置90について、
図3に示した実験装置30と同じ構成要素については同じ符号を付している。
【0100】
図4に示す実験装置90は、調整槽32、分散槽36、嫌気槽38、第1好気槽401、第2好気槽402および沈殿槽44を有する。また、実験装置90は、汚泥返送手段52、62、70、74を有する。2つの好気槽(第1好気槽および第2好気槽)ならびに沈殿槽44が本発明の装置が有する好気性処理手段に相当する。
調整槽32、分散槽36、嫌気槽38および沈殿槽44ならびに汚泥返送手段52、62、70、74は、
図3に示した実験装置30と同様である。
図4に示す実験装置90は加圧浮上槽34を有さないので、調整槽32から排出された油脂含有排水50(返送汚泥、PACまたは凝集ポリマを含む場合もある)は、分散槽36および/または嫌気槽38に供給される。分離水60は発生しない。
【0101】
第1好気槽401および第2好気槽402は、各々、実験装置30が有する好気槽40と同様の態様である。すなわち、各々は、貯留部を有し、その貯留部内へ空気を供給することができるように構成されたものである。また、内部を2分割または3分割に仕切ることが可能なように構成されている。
第1好気槽401は、嫌気性処理水68を受け入れ、好気性菌や通性嫌気性菌等の作用によって好気的処理を行い、第1好気処理水73を排出する。また、第2好気槽402は、第1好気処理水73を受け入れ、好気性菌の作用によって好気的処理を行い、第2好気処理水79を排出する。
また、第1好気槽401は、汚泥返送手段74によって返送汚泥を受け入れることができるように構成されている。また、前述のように、油脂残渣64が発生した場合に、これを回収して分散槽36へ供給することができるように構成されている。さらに、第1好気槽401は、流出口付近の反応液を返送用汚泥として移送し、排出できるように構成されている。返送汚泥76は、実験装置30が有する好気槽40と同様に、汚泥返送手段52、62、70、74によって返送汚泥として利用可能に構成されている。
【0102】
沈殿槽44は
図1に示した実験装置30が有する沈殿槽44と同様の態様である。第2好気処理水79を受け入れ、沈殿物を汚泥80として排出し、上澄みを処理水82として排出できるように構成されている。
【0103】
このような実験装置30または実験装置90を用いて、食品工場から排出された油脂含有排水50を種々の条件にて処理した。
なお、油脂含有排水50を加圧浮上槽34によって処理する工程のみ回分式とし、その他の工程は連続した処理を行った。
【0104】
<実施例1>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。連続処理における処理水量は3L/日とした。
【0105】
実施例1では、調整槽32へ、好気槽40から発生した返送汚泥を添加し(すなわち、汚泥返送手段52によって返送汚泥76を返送汚泥として添加し)、さらにPAC添加手段54および凝集ポリマ添加手段56によってPACおよび凝集ポリマを添加した。ここで返送汚泥の添加量は、返送汚泥を添加した後の調整槽32内の油脂含有排水50のSS濃度が150mg−SS/Lとなる量とした。また、PACの添加量は、調整槽32内の油脂含有排水50に対して300mg/Lとした。さらに凝集ポリマの添加量は、調整槽32内の油脂含有排水50に対して1mg/Lとした。
【0106】
次に、返送汚泥、PACおよび凝集ポリマを添加された油脂含有排水50を加圧浮上槽34にて処理した。そして、得られたフロス58は、全量を分散槽36へ供給した。なお、フロス58と分離水60との体積比は1:39であった。なお、実施例1では分散槽36による分散処理は行わなかった。
分離水60は全量を活性汚泥槽42の流入口へ供給した。すなわち、好気処理水72へ分離水60を合流させた後、活性汚泥槽42にて処理した。
【0107】
嫌気槽38では槽を密閉し、槽内pHが8.5となるようにNaOHを適宜加えて調整した。また、槽内温度が37℃となるように調整した。さらに内部を機械撹拌した。また、嫌気槽38における滞留時間は4日間とした。
なお、このような嫌気槽38における処理は嫌気性処理に相当する。
好気槽40では槽内pHが8.0となるようにNaOHを適宜加えて調整した。また、槽内温度が37℃となるように調整した。さらに1L/分の条件で通気した。また、好気槽40における滞留時間は5日間とした。
【0108】
活性汚泥槽42では槽内容物の溶存酸素濃度が3.0mg/Lとなる条件で通気しながら、撹拌した。また、活性汚泥槽42における滞留時間は6時間とした。
【0109】
実施例1では嫌気槽38および好気槽40における仕切の数を調整して、第1表に示すような4つのケースについて処理を行った。具体的には、実施例1−1では嫌気槽38を仕切なし、好気槽40を仕切なしとし、実施例1−2では嫌気槽38を仕切なし、好気槽40を2分割とし、実施例1−3では嫌気槽38を仕切なし、好気槽40を3分割とし、実施例1−4では嫌気槽38を3分割、好気槽40を3分割とした。
また、比較のため、嫌気槽38による処理を行わず、好気槽40のみの処理を行うケース(比較例1−1)と、好気槽40による処理を行わず、嫌気槽38のみの処理を行うケース(比較例1−2)とを行った。なお、比較例1−1では好気槽40を3分割し、比較例1−2では嫌気槽38を3分割した。
【0110】
このような実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理し、実施例および比較例の合計6つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水60、嫌気性処理水68、好気処理水72、および処理水82についてヘキサン抽出物濃度を測定した。なお、ヘキサン抽出物濃度の測定方法は前述のとおりである。結果を第1表に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
第1表に示すように、全ての実施例において処理水82のヘキサン抽出物濃度が下水放流基準値である30mg/Lを満足した。また、全ての実施例において、嫌気槽38および好気槽40において油脂残渣の発生は認められなかった。
これに対して、2つの比較例では、いずれも処理水82のヘキサン抽出物濃度が高く、下水放流基準値を満足しなかった。また、比較例1−1では油脂残渣が発生した。
【0113】
このような実施例1の結果より、嫌気性処理と好気性処理とを組み合わせる生物処理によって、油脂残渣を発生させずにフロスを効率よく処理することが可能であると考えられる。また、嫌気槽および/または好気槽に仕切を設けることで、水質を改善させることが可能と考えられる。フロスの嫌気性処理では激しい曝気処理を行わないため、油脂残渣の発生を防止することが可能と推定され、また、嫌気性微生物や微好気性環境で生育可能な微生物が生産するバイオサーファクタントによる乳化作用や、両微生物群がフロス中に含まれる油脂分を低分子化する作用によって油脂分の可溶化が進行することで、後段の好気性処理での処理速度を向上させることができると推定される。実施例1のようなフロスの準嫌気性処理では、一般的なメタン発酵を主反応とする嫌気消化は行われず、油脂分の減量化はほとんど進行しないものの、後段の好気性処理との組み合わせによって油脂分の分解を達成することができると考えられる。
【0114】
<実施例2>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例2ではフロスの生物処理工程における反応効率を促進するため、返送汚泥の必要性、返送汚泥の供給源および供給先の影響について調べた。
実験は、分散槽36による分散処理を行うことと、返送汚泥の供給源および供給先の条件以外は、実施例1−4と同様とした。
ここで、分散処理条件について説明する。分散槽36では、受け入れたフロス58へ適宜NaOHを加えて槽内pHを8.5〜9.5に維持した。また、槽内温度を50℃に保持した。さらに内部を機械撹拌した。また、分散槽36における滞留時間は1時間とした。
そして、次のように返送汚泥を用いて油脂含有排水50を処理した。
【0115】
実施例2−1では、好気槽40から排出された返送汚泥76を汚泥返送手段52によって調整槽32へ供給した。
実施例2−2では、沈殿槽44から排出された汚泥80を汚泥返送手段52によって調整槽32へ供給した。
実施例2−3では、好気槽40から排出された返送汚泥76を汚泥返送手段62によって分散槽36へ供給した。
実施例2−4では、沈殿槽44から排出された汚泥80を汚泥返送手段62によって分散槽36へ供給した。
実施例2−5では、好気槽40から排出された返送汚泥76を汚泥返送手段70によって嫌気槽38の流入口付近へ供給した。
実施例2−6では、沈殿槽44から排出された汚泥80を汚泥返送手段70によって嫌気槽38の流入口付近へ供給した。
比較例2−1では、好気槽40から排出された返送汚泥76を汚泥返送手段74によって好気槽40の流入口付近へ供給した。
比較例2−2では、沈殿槽44から排出された汚泥80を汚泥返送手段74によって好気槽40の流入口付近へ供給した。
比較例2−3では返送汚泥76および汚泥80のいずれをも用いなかった。
【0116】
このような実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理し、実施例および比較例の合計9つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水60、好気処理水72、および処理水82についてヘキサン抽出物濃度を測定した。また、油脂残渣の発生量を測定した。
なお、油脂残渣の発生量の測定方法は、発生した油脂残渣を回収して質量を測定した。結果を第2表に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
第2表に示すように、実施例2−1および実施例2−2において油脂残渣の発生は認められなかったが、その他の実施例および比較例では油脂残渣が発生した。
このような結果より、フロスの生物処理における反応効率の向上および油脂残渣の発生防止のために、汚泥返送を使用することが好ましいと考えられる。また、返送汚泥の供給源として好気槽40や沈殿槽44の汚泥が有効であり、特に前者の好気槽40の汚泥は、油分処理の促進および油脂残渣の発生を防止するためにより効果的であると考えられる。好気槽40では、油分の分解能力が特に高い微生物種が高濃度で存在することや、これらが油分を分散させるためのバイオサーファクタント(微生物界面活性剤)を分泌することで高い効果が得られると考えられる。
【0119】
さらに、返送汚泥の供給先は、調整槽32が最も効果的であり、次いで分散槽36、嫌気槽38で効果が認められる。これに対して好気槽40への汚泥返送手段74による返送汚泥の供給の効果は高くなかった。このような効果は、返送汚泥の供給先を加圧浮上槽34の前段とすることで、フロスに含まれる油分の分散性を最適化することができるためと推定される。また、返送汚泥の供給先を加圧浮上槽34よりも前段として返送汚泥に含まれる水分を分離水60とすることで、嫌気性処理および好気性処理の対象物の体積を小さくし、嫌気槽および好気槽における滞留時間を長くすることが可能であるためと推定される。
【0120】
<実施例3>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例3ではフロス58を嫌気性処理に供する前処理工程として設置する分散槽36の効果について調べた。
実施例3−1は実施例2−3の条件を基本とし、フロス58を分散槽36へ供給し、さらに好気槽40から排出された返送汚泥76を分散槽36へ供給し、排出された分散処理水66を嫌気槽38へ供給した。また、嫌気槽38および好気槽40で発生した油脂残渣64を回収し、分散槽36へ供給した。
実施例3−2は実施例2−3の条件と同一であり、フロス58を分散槽36へ供給し、さらに好気槽40から排出された返送汚泥76を分散槽36へ供給し、排出された分散処理水66を嫌気槽38へ供給した。また、嫌気槽38および好気槽40で発生した油脂残渣64の分散槽36への供給は行わなかった。
比較例3−1は比較例2−1の条件を基本とし、好気槽40から排出された返送汚泥76を好気槽40の流入口付近へ供給した。そして、フロス58は分散槽36へ供給せず、全量を嫌気槽38へ供給した。また、嫌気槽38および好気槽40で発生した油脂残渣64を回収し、分散槽36へ供給した。
比較例3−2は比較例2−1の条件を基本とし、好気槽40から排出された返送汚泥76を好気槽40の流入口付近へ供給した。そして、フロス58は分散槽36へ供給せず、全量を嫌気槽38へ供給した。また、嫌気槽38および好気槽40で発生した油脂残渣64の分散槽36への供給は行わなかった。
【0121】
このような実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理し、実施例および比較例の合計4つのケースの各々において嫌気槽38および好気槽40における合計の油脂残渣の発生量を測定した。結果を第3表に示す。
【0122】
【表3】
【0123】
第3表に示すように、実施例3−1および実施例3−2において油脂残渣の発生は極わずかとなった。
また、分散槽36にてフロス58を処理することで、油脂残渣の発生を顕著に抑制することができると考えられる。
また、嫌気槽38および好気槽40にて発生した油脂残渣を回収し、分散槽36で処理を施すことにより、油脂残渣の発生量を抑制することができると考えられる。
【0124】
<実施例4>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例4は、調整槽32へ供給する返送汚泥の量の影響について実験を行った。実験は実施例2−1の条件を基本として実施した。
実施例4−1では、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が20mg−SS/Lとなるようにした。
実施例4−2では、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が50mg−SS/Lとなるようにした。
実施例4−3では、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が100mg−SS/Lとなるようにした。
実施例4−4では、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が300mg−SS/Lとなるようにした。
実施例4−5では、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が1000mg−SS/Lとなるようにした。
実施例4−6では、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が2000mg−SS/Lとなるようにした。
【0125】
そして、実施例4の合計6つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水66、好気処理水72および処理水82についてヘキサン抽出物濃度を測定した。結果を第4表に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
第4表より、調整槽32への汚泥返送の供給量の最適値は、調整槽32において返送汚泥を加えた後の油脂含有排水50における返送汚泥濃度が50〜1000mg−SS/Lとなる供給量であると考えられる。
【0128】
<実施例5>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例5ではフロスの嫌気性処理におけるpHの影響について調べた。実験は、実施例1−4の条件を基本とし、嫌気槽38における槽内pHを調整した。
実施例5−1では嫌気槽38における槽内pHを7.2に調整した。
実施例5−2では嫌気槽38における槽内pHを7.8に調整した。
実施例5−3では嫌気槽38における槽内pHを8.3に調整した。
実施例5−4では嫌気槽38における槽内pHを8.8に調整した。
実施例5−5では嫌気槽38における槽内pHを9.5に調整した。
【0129】
そして、実施例5の合計5つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水60、好気処理水72、および処理水82についてヘキサン抽出物濃度および油脂残渣の発生量を測定した。結果を第5表に示す。
【0130】
【表5】
【0131】
第5表より、嫌気槽38の槽内pHは7.2〜8.8が好ましいと考えられる。
【0132】
<実施例6>
図4に示す実験装置90を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例6では嫌気槽38内の温度の影響について調べた。なお、連続処理における処理水量は3L/日とした。
【0133】
実施例6では、調整槽32へ、第1好気槽401から発生した返送汚泥76を添加した。すなわち、汚泥返送手段52によって返送汚泥76を返送汚泥として油脂含有排水50へ添加した。ここで返送汚泥の添加量は、返送汚泥を添加した後の調整槽32内の油脂含有排水50の返送汚泥濃度が500mg−SS/Lとなる量とした。
【0134】
次に、返送汚泥が添加された油脂含有排水50の全量を分散槽36へ供給した。尚、PACおよび凝集ポリマの添加は行わなかった。
分散槽36では受け入れた油脂含有排水50へ適宜NaOHを加えて槽内pHを8.5〜9.5に維持し、槽内温度を50℃に保持した。さらに内部を機械撹拌した。また、分散槽36における滞留時間は1時間とした。
【0135】
嫌気槽38では槽を密閉し、槽内pHが8.5となるようにNaOHを適宜加えて調整した。また、槽内温度が37℃となるように調整した。さらに内部を機械撹拌した。また、嫌気槽38における滞留時間は20時間とした。
【0136】
第1好気槽401では槽内pHが8.0となるようにNaOHを適宜加えて調整した。また、槽内温度が37℃となるように調整した。さらに、1L/分の条件で通気、撹拌した。また、第1好気槽401における滞留時間は6時間とした。
【0137】
第2好気槽402では槽内pHが8.0となるようにNaOHを適宜加えて調整した。また、槽内温度が37℃となるように調整した。さらに、1L/分の条件で通気、撹拌した。また、第2好気槽402における滞留時間は6時間とした。
【0138】
そして、嫌気槽38における槽内温度を変更した実験を行った。
実施例6−1では嫌気槽38における槽内温度を20℃に維持した。
実施例6−2では嫌気槽38における槽内温度を30℃に維持した。
実施例6−3では嫌気槽38における槽内温度を37℃に維持した。
実施例6−4では嫌気槽38における槽内温度を47℃に維持した。
実施例6−5では嫌気槽38における槽内温度を58℃に維持した。
【0139】
そして、実施例6の合計5つのケースの各々において、油脂含有排水50、嫌気性処理水68、第1好気処理水73、および第2好気処理水79についてヘキサン抽出物濃度を測定した。結果を第6表に示す。
【0140】
【表6】
【0141】
第6表より、嫌気槽38の槽内の温度は20〜58℃が好ましいと考えられる。
また、実施例6では全ての条件で油脂残渣の発生は認められなかった。
【0142】
<実施例7>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例7ではフロスの嫌気性処理および好気性処理における反応効率を促進するため、嫌気性処理における硫酸添加および通気(酸素投入)の影響について調べた。実験は、実施例1−4の条件を基本とし、嫌気槽38における反応条件等を調整した。また、嫌気槽38の槽内の液中における酸化還元電位を白金電極によるORP計を用いて測定した。
【0143】
実施例7−1では嫌気槽38を密閉して通気は行わなかった。また、硫酸は添加しなかった。
実施例7−2では嫌気槽38を密閉して通気は行わず、硫酸を添加して槽内の硫酸イオン濃度を30mg/Lとした。
実施例7−3では嫌気槽38を密閉して通気は行わず、硫酸を添加して槽内の硫酸イオン濃度を1,000mg/Lとした。
実施例7−4では嫌気槽38を密閉して通気は行わず、硫酸を添加して槽内の硫酸イオン濃度を3,000mg/Lとした。
実施例7−5では嫌気槽38の槽内の液中における酸化還元電位が−250mVとなるように槽内液の表面へ空気を吹き付けた。また、硫酸は添加しなかった。
実施例7−6では嫌気槽38の槽内の液中における酸化還元電位が−180mVとなるように槽内液の表面へ空気を吹き付けた。また、硫酸を添加して槽内の硫酸イオン濃度を30mg/Lとした。
実施例7−7では嫌気槽38の槽内の液中における酸化還元電位が−50mVとなるように槽内液の表面へ空気を吹き付けた。また、硫酸は添加しなかった。
【0144】
そして、実施例の合計7つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水60、嫌気性処理水68、好気処理水72、および処理水82についてヘキサン抽出物濃度および油脂残渣の発生量を測定した。結果を第7表に示す。
【0145】
【表7】
【0146】
第7表より、嫌気性処理における硫酸添加および通気(酸素投入)によって処理性能が向上すると考えられる。
【0147】
<実施例8>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例8では嫌気性処理水68の好気性処理におけるpHの影響について調べた。実験は、実施例1−3の条件を基本とし、好気槽40における槽内pHを調整した。
実施例8−1では好気槽40における槽内pHを7.2に調整した。
実施例8−2では好気槽40における槽内pHを7.5に調整した。
実施例8−3では好気槽40における槽内pHを8.5に調整した。
実施例8−4では好気槽40における槽内pHを9.0に調整した。
実施例8−5では好気槽40における槽内pHを10.0に調整した。
実施例8−6では好気槽40における槽内pHを11.0に調整した。
【0148】
そして、実施例の合計6つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水60、好気処理水72、および処理水82についてヘキサン抽出物濃度および油脂残渣の発生量を測定した。結果を第8表に示す。
【0149】
【表8】
【0150】
第8表より、好気槽40の槽内pHは7.5〜11.0が好ましいと考えられる。
【0151】
<実施例9>
図4に示す実験装置90を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例9では好気槽内の温度の影響について調べた。実験は、加圧浮上槽34による固液分離を行わないという条件以外は、実施例1−3の条件を基本とし、第1好気槽401および第2好気槽402における槽内温度を調整した。
実施例9−1では槽内温度を20℃に維持した。
実施例9−2では槽内温度を30℃に維持した。
実施例9−3では槽内温度を37℃に維持した。
実施例9−4では槽内温度を47℃に維持した。
実施例9−5では槽内温度を58℃に維持した。
【0152】
そして、実施例の合計5つのケースの各々において、油脂含有排水50、嫌気性処理水68、第1好気処理水73、および第2好気処理水79についてヘキサン抽出物濃度を測定した。結果を第9表に示す。
【0153】
【表9】
【0154】
第9表より、第1好気槽401および第2好気槽402の槽内の温度は30〜58℃が好ましいと考えられる。
また、実施例9では全ての条件で油脂残渣の発生は認められなかった。
【0155】
<実施例10>
図3に示す実験装置30を用いて油脂含有排水50を処理した。
実施例10は、好気槽40における仕切り設置場所の影響、好気槽40の水面上に構造物(微生物膜を形成するための微生物膜ユニット)を設置した場合の影響、および好気槽40で発生した発泡物を前段の嫌気槽38に流出させたときの影響について調べた。
ここで微生物膜ユニットはポリエチレン製の不織布を垂直方向に複数枚垂らすように配置したものである。
なお、実験は、実施例1−2を基本条件とした。
【0156】
実施例10−1では、好気槽40における前段と後段との容積比率が1:2となる位置に仕切りを設置した。微生物膜ユニットは設置せず、好気槽40で発生した発泡物の嫌気槽38へ返送も行わなかった。
実施例10−2では、好気槽40における前段と後段との容積比率が1:1となる位置に仕切りを設置した。微生物膜ユニットは設置せず、好気槽40で発生した発泡物の嫌気槽38へ返送も行わなかった。
実施例10−3では、好気槽40における前段と後段との容積比率が2:1となる位置に仕切りを設置した。微生物膜ユニットは設置せず、好気槽40で発生した発泡物の嫌気槽38へ返送も行わなかった。
実施例10−4では、好気槽40における前段と後段との容積比率が1:1となる位置に仕切りを設置した。そして、好気槽における液面の上部に微生物膜ユニットを設置した。なお、好気槽40で発生した発泡物の嫌気槽38へ返送は行わなかった。
実施例10−5では、好気槽40における前段と後段との容積比率が1:1となる位置に仕切りを設置した。微生物膜ユニットは設置しなかった。しかし、好気槽40で発生した発泡物の嫌気槽38へ返送を行った。
【0157】
そして、実施例の合計5つのケースの各々において、油脂含有排水50、フロス58、分離水66、および処理水82、ならびに好気槽40における前段部および後段部の各々におけるサンプル水についてヘキサン抽出物濃度を測定した。また、好気槽40における前段部および後段部の各々におけるサンプル水についてMLSSを測定した。さらに、好気槽40における前段部におけるサンプル水について溶存酸素量(DO)を測定した。
なお、溶存酸素量の測定方法は溶存酸素電極を用いた酸素電極法により行った。
また、MLSSの測定方法は工場排水試験方法(JIS K0102 14)に基づく。
結果を第10表に示す。
【0158】
【表10】
【0159】
第10表より、好気槽40に設置する仕切は、槽を均等に区分する位置に設置するとより良い水質の処理水82が得られると考えられる。また、好気槽40における前段の溶存酸素濃度が0.6mg/L以下の条件では、好気槽40内のMLSS濃度を高く維持でき、処理性能を向上することが可能であった。
好気槽40に微生物膜ユニットを設置した場合、油分の除去性能が最も高い結果が得られた。
好気槽40で発生した発泡物を嫌気槽38に導入することで、消泡剤の添加が不要となり、かつ、油脂残渣の発生が無く、良好な水質の処理水を得ることができた。