【解決手段】円筒状をなすスリーブ印刷版30をシリンダ6の外周に装着するときに、前記シリンダ6に対して前記スリーブ印刷版30の位置を合わせるためのスリーブ印刷版の位置合わせ構造50であって、前記スリーブ印刷版30には、その軸線方向の端部に切り欠き部70が形成され、前記シリンダ6の外周には、前記切り欠き部70に挿入されるピン部材60が突設され、前記切り欠き部70の前記軸線回りに沿う周方向CDの長さW
よりも小さくされており、前記スリーブ印刷版30が弾性変形により拡径されつつ前記シリンダ6の外周に嵌合されるときに、変形した前記切り欠き部70の前記周方向CDの長さW
円筒状をなすスリーブ印刷版をシリンダの外周に装着するときに、前記シリンダに対して前記スリーブ印刷版の位置を合わせるためのスリーブ印刷版の位置合わせ構造であって、
前記スリーブ印刷版には、その軸線方向の端部に切り欠き部が形成され、
前記シリンダの外周には、前記切り欠き部に挿入されるピン部材が突設され、
前記切り欠き部の前記軸線回りに沿う周方向の長さは、前記ピン部材の前記周方向の長さよりも小さくされており、
前記スリーブ印刷版が弾性変形により拡径されつつ前記シリンダの外周に嵌合されるときに、変形した前記切り欠き部の前記周方向の長さが、前記ピン部材の前記周方向の長さに対応する大きさとなることを特徴とするスリーブ印刷版の位置合わせ構造。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るスリーブ印刷版の位置合わせ構造50について、図面を参照して説明する。
本実施形態のスリーブ印刷版の位置合わせ構造50は、
図1に示されるオフセット印刷装置Aのシリンダ6、及び、
図2に示されるスリーブ印刷版30に備えられ、具体的には、円筒状をなすスリーブ印刷版30をシリンダ6の外周に装着するときに、シリンダ6に対してスリーブ印刷版30の位置を合わせる(位置決めする)ための構造である。
【0023】
図1において、本実施形態のオフセット印刷装置Aは、円筒状の被印刷物である缶20の外周面に印刷を施す缶の印刷装置であり、このオフセット印刷装置Aは、インキ付着機構Bと、缶移動機構Cと、を有している。
インキ付着機構Bは、インキを供給するインカーユニット1と、インカーユニット1に接触してインキを写し取った後、缶(缶胴)20の外周面に接触して該インキを印刷する(転写する)ブランケット9を外周に備えたブランケットホイール8と、を有している。
【0024】
インカーユニット1は、インキ源2と、インキ源2に接触してインキを受け取るダクティングロール3と、ダクティングロール3に接続する複数のローラからなる中間ローラ4と、中間ローラ4に接続するゴムローラ5と、ゴムローラ5に接続するシリンダ6と、を備えており、シリンダ6は、印刷装置Aの不図示のシャフト部に片持ち状態で回転自在に支持されている。
【0025】
シリンダ6は円筒状又は円柱状をなしており、該シリンダ6の外周面には、
図2に示される円筒状のスリーブ印刷版30が着脱可能に嵌合している。シリンダ6の外周にスリーブ印刷版30が装着された状態で、これらシリンダ6及びスリーブ印刷版30は、軸線Oを共通軸として互いに同軸に配置されている。
また、スリーブ印刷版30の外周面には、缶20に転写する画像パターンと同形状にレーザー彫刻された画像部分を有する缶の印刷用凸版(以下、凸版と省略することがある)40が、スリーブ印刷版30の軸線O回りに互いに間隔をあけて複数、又は1つのみ設けられている。シリンダ6及びスリーブ印刷版30の詳しい構成については、後述する。
【0026】
図1において、ブランケットホイール8の外周面には、ブランケット9が複数枚設けられており、これらブランケット9は、シリンダ6の外周面に装着されたスリーブ印刷版30の凸版40に接触し、また缶20にも接触するように構成されている。
【0027】
缶移動機構Cは、缶20を印刷装置Aに取り入れる缶シュータ10と、缶シュータ10から供給された缶20を回転自在に保持するマンドレル11と、マンドレル11に装着された缶20を、順次インキ付着機構Bへ向かわせるように回転移動させるマンドレルターレット12と、を有している。
【0028】
このような構成とされたオフセット印刷装置Aにおいては、複数のインカーユニット1のインキ源2から各々異なった色のインキが、ダクティングロール3、中間ローラ4、ゴムローラ5を介して、シリンダ6の外周面に配設されたスリーブ印刷版30の凸版40に付着させられ、これら各色のインキが、回転するブランケットホイール8上のブランケット9に画像パターンとして乗せられ、この画像パターンがマンドレル11に保持された缶20に接触しつつ印刷されるようになっている。
【0029】
ここで、本明細書においては、シリンダ6及びスリーブ印刷版30の中心軸線(共通軸)を軸線Oという。また、軸線O方向(軸線Oが延びる方向であり、以下、軸方向ADという場合がある)に沿う印刷装置Aのシャフト部の基部へ向かう方向を奥側(又は基端側、
図2における左側)といい、軸線O方向に沿う印刷装置Aのシャフト部の基部とは反対側(シャフト部の先端側)へ向かう方向を手前側(又は先端側、
図2における右側)という。また、軸線Oに直交する方向を径方向といい、軸線O回りに周回する方向を周方向CDという。
【0030】
図2において、シリンダ6は、例えばその外径D
Aが100〜250mm、軸方向ADに沿う長さが50〜500mmとされている。具体的に本実施形態では、シリンダ6の外径D
Aが226mm、軸方向ADに沿う長さが178mmとなっている。
シリンダ6の外周(外周面)には、圧縮エア(高圧エア)を噴出可能なエア孔13が複数形成されている。またシリンダ6の外周には、該シリンダ6の径方向に沿う外側へ向けて突出するピン部材60が設けられている。図示の例では、シリンダ6の外周における軸方向ADに沿う両端部のうち、一方の端部(シリンダ6の奥側の端部)に、径方向に延びるピン部材60が1つ突設され、他方の端部(シリンダ6の手前側の端部)に、径方向に穿設されたエア孔13が周方向CDに間隔をあけて複数開口している。
【0031】
図3に示されるピン部材60の断面視(シリンダ6の径方向に垂直な断面視)において、ピン部材60は略矩形状をなしており、具体的にはこの断面視で、ピン部材60のうち軸方向ADに沿う手前側の端部(ピン部材60のうち軸方向ADに沿うシリンダ6の中央側に位置する端部、
図3における下端部)が半円形状とされ、それ以外の部分が矩形状とされている。
本実施形態では、ピン部材60の軸方向ADに沿う長さ(奥行き)L
Aが6mm、周方向CDに沿う長さ(幅)W
Aが6mm、手前側の端部に位置する半円柱状部分の外周面の曲率半径R
Aが3mmとなっている。尚、このようにピン部材60の手前側の端部が、断面半円形状の半円柱状をなしていることで、該ピン部材60が後述するスリーブ印刷版30の切り欠き部70内に挿入されるときにスムーズに案内されやすくなっている。またピン部材60において、手前側の端部に位置する半円柱状部分以外の部位は、直方体状をなしている。
【0032】
またピン部材60には、周方向CDに背向配置(背中合わせに配置)されてそれぞれ平面状をなす一対の壁部61が形成されている。一対の壁部61同士の周方向CDに沿う距離(幅W
Aに相当)は、これら壁部61の軸方向ADに沿う全域にわたって一定とされている。すなわち、ピン部材60の一対の壁部61は、軸方向ADに沿うように延びるとともに、互いに周方向CDに間隔をあけて平行に背向配置されている。
【0033】
図2において、スリーブ印刷版30は、軸方向ADに沿って延びる円筒状をなすスリーブ支持体31と、スリーブ支持体31の外周側に配設された版材32と、を備えている。尚、本実施形態では、版材32はスリーブ支持体31に一体に形成されている。
【0034】
スリーブ支持体31は、例えば繊維強化プラスチック(FRP)、NiやSUS等の金属材料、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(塩ビ)等の樹脂材料などから選択される所定の材質で形成されているとともに、弾性変形により拡径可能とされており、拡径された状態からは復元変形して縮径可能である。尚、本実施形態においては、スリーブ支持体31はFRPで形成されている。スリーブ支持体31は、例えばその内径D
Bが100〜250mm、軸方向ADに沿う長さが50〜500mm、肉厚が0.25〜2mmとされている。
【0035】
版材32は、レーザー光による彫刻が可能な感光性樹脂からなり、例えば肉厚が0.5〜1.0mmとされた円筒状をなしている。この版材32の外周面には、レーザー加工(レーザー彫刻)によって形成された画像パターン(印刷デザイン)を有する凸版40が、周方向CDに互いに間隔をあけて複数又は1つ刻設されている。尚、特に図示していないが本実施形態では、版材32の外周面に2つの凸版40が設けられており、これら凸版40同士が軸線Oを挟んで互いに背向配置されている。
【0036】
また凸版40は、その画像パターンとされる版面に、インキが付着される画像部分と、インキが付着されない非画像部分と、を有している。凸版40の画像パターンは、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、エキシマレーザー、及び半導体レーザーのいずれかのレーザーにより彫刻されて形成されている。
【0037】
弾性変形により拡径される前のスリーブ印刷版30の内径D
Bは、シリンダ6の外径D
Aよりも小さくされている。具体的に本実施形態では、スリーブ印刷版30の内径D
Bが225.5mmとされて、シリンダ6の外径D
Aよりも0.5mm小さくなっている。また、スリーブ印刷版30の版片側厚み(径方向の厚さ)は1.3mmであり、そのうちスリーブ支持体31の厚さが0.6mm、版材32の厚さが0.7mmとなっている。スリーブ印刷版30の軸方向ADに沿う長さについては、シリンダ6の軸方向ADに沿う長さと同一、又は若干大きくされている。
【0038】
スリーブ印刷版30には、その軸方向ADの端部に切り欠き部70が形成されている。具体的に切り欠き部70は、スリーブ印刷版30における軸方向ADに沿う両端部のうち、一方の端部(スリーブ印刷版30の奥側の端部)に、該スリーブ印刷版30を径方向に貫通するとともに奥側へ向けて開口して、1つ形成されている。
【0039】
図4(a)に示される、スリーブ印刷版30が弾性変形により拡径する前(変形前)の切り欠き部70の正面視(スリーブ印刷版30を径方向の内側へ向かって見た正面視)において、切り欠き部70は略矩形孔状をなしており、具体的にはこの正面視で、切り欠き部70のうち軸方向ADに沿う手前側の端部(切り欠き部70のうち軸方向ADに沿うスリーブ印刷版30の中央側に位置する端部、
図4における下端部)が半月孔状とされ、それ以外の部分が矩形孔状とされている。また切り欠き部70の内周縁は、スリーブ印刷版30の奥側(
図4における上側)へ向けて開口するU字状をなしている。
【0040】
そして、切り欠き部70の周方向CDに沿う長さ(幅)W
Bは、ピン部材60の周方向CDに沿う長さW
Aよりも小さくされており、スリーブ印刷版30が弾性変形により拡径されつつシリンダ6の外周に嵌合されるときに、
図4(b)に示されるように、変形した切り欠き部70の周方向CDの長さW
Bが、ピン部材60の周方向CDの長さW
Aに対応する大きさとなり、これにより、切り欠き部70内にピン部材60が緊密に係合しつつ挿入可能とされている。
【0041】
具体的に、
図4(a)において変形前の切り欠き部70には、軸方向ADに沿うように延びるとともに、互いに周方向CDに間隔をあけて平行に対向配置されてそれぞれ直線状をなす一対の辺部71が形成されている。一対の辺部71同士の周方向CDに沿う距離(幅W
Bに相当)は、これら辺部71の軸方向ADに沿う全域にわたって一定とされている。そして、切り欠き部70における一対の辺部71同士の距離が、ピン部材60の周方向CDの長さW
Aよりも小さくされている。つまり、切り欠き部70の一対の辺部71同士の距離は、ピン部材60の一対の壁部61同士の距離よりも小さくなっている。
また、
図4(a)に示される変形前の切り欠き部70において、一対の辺部71同士を繋ぐ円弧状部分(切り欠き部70の内周のうち手前側の端部)は、その中心角が180°よりも小さく設定されている。
【0042】
本実施形態では、切り欠き部70の軸方向ADに沿う長さ(奥行き)L
Bが6mm、周方向CDに沿う長さ(幅)W
Bが5.8mm、手前側の端部に位置する円弧状部分の内周面の曲率半径R
Bが3mmとなっている。
【0043】
そして、スリーブ印刷版30がシリンダ6の外周に装着されたときに、ピン部材60の外周に対して切り欠き部70の内周は、周方向CDの両側から当接されるとともに、軸方向ADからも当接されるようになっている。
具体的に
図4(b)において、切り欠き部70にピン部材60が挿入され、これらが係合状態とされたときに、切り欠き部70の一対の辺部71が、ピン部材60の一対の壁部61に周方向CDからそれぞれ当接しており、切り欠き部70の手前側の端部(円弧状部分)が、ピン部材60の手前側の端部(半円柱状部分)に軸方向ADから当接している。つまり、切り欠き部70とピン部材60とは、互いに周方向CDの両側部分及び軸方向ADに沿う片側部分(手前側部分)で少なくとも3箇所接触するようになっている。
【0044】
図4(b)に示される例では、切り欠き部70の手前側の端部(円弧状部分)と、ピン部材60の手前側の端部(半円柱状部分)とが、これら端部の周長全域にわたって互いに当接している。また、切り欠き部70の一対の辺部71と、ピン部材60の一対の壁部61とは、これら辺部71及び壁部61のうち、少なくとも軸方向ADに沿う手前側部分で互いに当接している。具体的に、一対の辺部71と一対の壁部61とは、これら辺部71及び壁部61の軸方向ADに沿う全長の1/3以上の領域で互いに当接しており、より好ましくは、1/2以上の領域で互いに当接している。また
図4(b)において、符号Fで示される範囲は、係合状態とされた切り欠き部70とピン部材60との接触領域を表している。
【0045】
以上説明した本実施形態に係るスリーブ印刷版の位置合わせ構造50において、スリーブ印刷版30をシリンダ6の外周に嵌合する際には、シリンダ6のエア孔13から圧縮エアを噴出させ、該シリンダ6の外周とスリーブ印刷版30の内周との間にエア層を形成しつつ、スリーブ印刷版30をシリンダ6に対して軸方向ADに沿う奥側(
図2における左側)へ向けてスライド移動させていき、シリンダ6の外周を覆うように装着する。このとき、スリーブ印刷版30はエア圧により拡径され、該スリーブ印刷版30の切り欠き部70も変形させられて、該切り欠き部70の周方向CDの長さ(幅)W
Bが大きくなる。
【0046】
そこで本実施形態では、上述のように変形させられた切り欠き部70の周方向CDの長さW
Bを、シリンダ6の外周に突設されたピン部材60の周方向CDの長さ(幅)W
Aに対応する大きさとなるように、例えばスリーブ印刷版30(スリーブ支持体31、版材32)の材質、ヤング率、厚さ・直径等の各寸法値などに基づく計算値や経験値等により予め設定しておくことで、シリンダ6の外周にスリーブ印刷版30が嵌合した際に、ピン部材60の外周と切り欠き部70の内周とが少なくとも周方向CDにおいて互いに当接させられて、シリンダ6に対するスリーブ印刷版30の位置合わせ(位置決め)が高精度に行われるようになっている。
尚、スリーブ印刷版30をシリンダ6の外周に被せて切り欠き部70とピン部材60とを係合させた後は、圧縮エアの供給を停止することで、スリーブ印刷版30が復元変形(縮径)するとともにシリンダ6に対して密着し固定される。このとき、スリーブ印刷版30が縮径されるのにともない切り欠き部70も変形して、該切り欠き部70の内周がピン部材60の外周に対して押し当てられる(押圧される)ことから、切り欠き部70とピン部材60との係合状態、及びスリーブ印刷版30とシリンダ6との位置合わせ状態が安定して維持されることになる。
【0047】
つまり従来のように、スリーブ印刷版を拡径してシリンダの外周に嵌合したときに、該スリーブ印刷版が拡径するのにともなって切り欠き部も拡がり、該切り欠き部の内周とピン部材の外周との間に隙間が生じて位置合わせ精度を十分に確保できず、印刷精度に影響するような不具合が、本実施形態によれば顕著に抑制されるのである。
ここで、
図8(a)(b)に示されるものは、従来のスリーブ印刷版の位置合わせ構造100である。このスリーブ印刷版の位置合わせ構造100では、
図8(a)において、変形前の切り欠き部107の周方向CDの長さW
Bが、ピン部材106の周方向CDの長さW
Aと同一であり、スリーブ印刷版が弾性変形により拡径されつつシリンダの外周に嵌合されるときに、
図8(b)に示されるように、変形した切り欠き部107の周方向CDの長さW
Bが、ピン部材106の周方向CDの長さW
Aよりも大きくなり、このため切り欠き部107の内周とピン部材106の外周との接触領域Fは、これら切り欠き部107及びピン部材106の手前側の端部に位置する円弧状部分のみの狭い範囲とされている。
つまり
図8(b)に示される従来例では、切り欠き部107とピン部材106とが周方向CDに対向配置される領域(前記円弧状部分以外の部位)において、これらが互いに接触する部分が設けられておらず、そのためシリンダに対するスリーブ印刷版の周方向CDの位置精度を十分に確保することが難しい。
【0048】
尚、本発明の実施形態でいう「変形した切り欠き部70の周方向CDの長さW
Bが、ピン部材60の周方向CDの長さW
Aに対応する大きさとなる」とは、スリーブ印刷版30の拡径により変形した切り欠き部70の周方向CDの長さ(周方向CDに沿う切り欠き部70の内形寸法)W
Bが、ピン部材60の周方向CDの長さ(周方向CDに沿うピン部材60の外形寸法)W
Aに対して略同一とされる(周方向CDの長さW
A、W
Bが互いに同一となる、又は切り欠き部70の周方向長さW
Bがピン部材60の周方向長さW
Aに対して僅かに小さくされる)ことを指している。より詳しくは、切り欠き部70が変形して該切り欠き部70内にピン部材60が挿入され、これらが係合状態とされたときに、切り欠き部70とピン部材60とが周方向CDに対向配置される領域(本実施形態では一対の辺部71と一対の壁部61とが対向配置される領域)のうち、周方向CDの長さW
A、W
Bが互いに略同一とされた箇所が少なくとも一部以上に設けられていることを指す。
【0049】
以上より、本実施形態のスリーブ印刷版の位置合わせ構造50によれば、シリンダ6に対するスリーブ印刷版30の位置合わせ精度を向上して、印刷精度を高めることができる。またこれにより、高精細な印刷品位(精度)の要求に対応することが可能であり、かつ、複雑な調整等を要することなく印刷不良が顕著に低減されて、生産性及び製品歩留まりが向上される。
【0050】
また本実施形態では、スリーブ印刷版30がシリンダ6の外周に装着されたときに、ピン部材60に対して切り欠き部70が、軸方向ADから(軸方向ADに沿う手前から奥側へ向けて)当接されるようになっているので、下記の効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、切り欠き部70とピン部材60とが、互いに周方向CDに沿う両側部分(周方向CDの両端部)、及び軸方向ADに沿う片側部分(手前側の端部)で少なくとも3箇所接触して、互いの相対移動が規制されることになる。つまり、切り欠き部70とピン部材60とを用いて、上述したシリンダ6に対するスリーブ印刷版30の周方向CDの位置合わせのみならず、軸方向ADの位置合わせも高精度に行えることから、簡単な構造によって印刷精度を顕著に高めることができる。
【0051】
また本実施形態において、変形前の切り欠き部70には、軸方向ADに沿うように延びるとともに、互いに周方向CDに間隔をあけて平行に対向配置された一対の辺部71が形成されており、該切り欠き部70における一対の辺部71同士の距離(幅W
Bに相当)が、ピン部材60の周方向CDの長さW
Aよりも小さくされているので、下記の効果を奏する。
すなわち上記構成によれば、スリーブ印刷版30がシリンダ6の外周に嵌合されたときに、切り欠き部70において軸方向ADに沿うように延びる一対の辺部71が、ピン部材60に対して確実に当接しやすくなり、上述した効果がより顕著で安定したものとなる。
【0052】
ここで、
図5〜
図7を参照して、本実施形態の変形例について説明する。
図5の変形例では、
図5(a)に示されるように、変形前の切り欠き部70の周方向CDの長さW
Bが、該切り欠き部70のうち、軸方向ADに沿うスリーブ印刷版30の中央側部分(スリーブ印刷版30の手前側部分、
図5(a)における切り欠き部70の下側部分)に比べて、端部側部分(スリーブ印刷版30の奥側部分、
図5(a)における切り欠き部70の上側部分)で小さくされている。
詳しくは、切り欠き部70の内周のうち、互いに周方向CDに間隔をあけて対向配置された一対の辺部71同士の距離が、該切り欠き部70の手前から奥側(
図5(a)における上側)へ向かうに従い漸次狭められている。
【0053】
具体的にこの変形例では、切り欠き部70の軸方向ADに沿う長さ(奥行き)L
Bが6mm、周方向CDに沿う長さ(幅)W
Bが5.5mm、手前側の端部に位置する円弧状部分の内周面の曲率半径R
Bが3mmとなっている。そして、スリーブ印刷版30が拡径されたときに、切り欠き部70が変形してその周方向CDの長さW
Bが5.9mmまで広げられることで、切り欠き部70内にピン部材60を押し込んで挿入することができ、
図5(b)に示されるように、切り欠き部70とピン部材60とが係合される。
【0054】
図5(b)に示される切り欠き部70とピン部材60との係合状態において、切り欠き部70の内周とピン部材60の外周との接触領域Fは、該切り欠き部70の内周全域にわたっている。
尚、この変形例におけるピン部材60の形状については、本実施形態で前述した通りである。
【0055】
図5に示される変形例によれば、下記の効果を奏する。
すなわち、切り欠き部70は、スリーブ印刷版30の軸方向ADに沿う端部(奥側端部)に開口していることから、スリーブ印刷版30が拡径されたときに、該切り欠き部70においてはその軸方向ADに沿うスリーブ印刷版30の端部側部分(奥側の開口部分)での変形量が、その軸方向ADに沿うスリーブ印刷版30の中央側部分(手前側部分)での変形量に比べて大きくなりやすい。
そこで、上記構成とすることにより、スリーブ印刷版30が拡径されたときに、切り欠き部70の周方向CDの長さW
Bを軸方向ADの全域にわたって均一となるようにでき、これにより、切り欠き部70とピン部材60との接触領域Fを増大できるとともに、これらの係合状態がさらに確実かつ安定したものとなる。
【0056】
また
図6の変形例では、
図6(a)に示されるように、変形前の切り欠き部70の周方向CDの長さW
Bが、該切り欠き部70のうち、軸方向ADに沿うスリーブ印刷版30の中央側部分(図示の例では切り欠き部70の手前側の端部、
図6(a)における切り欠き部70の下端部)に比べて、端部側部分(切り欠き部70の奥側部分(手前側の端部以外の部分であり、切り欠き部70のうち軸方向ADに沿う一対の辺部71が配置された部分)、
図6(a)における切り欠き部70の上側部分)で小さくされている。
【0057】
また、
図6(a)において変形前の切り欠き部70には、軸方向ADに沿うように延びるとともに、互いに周方向CDに間隔をあけて平行に対向配置されてそれぞれ直線状をなす一対の辺部71が形成されている。一対の辺部71は、切り欠き部70の内周のうち、軸方向ADに沿うスリーブ印刷版30の前記端部側部分(図示の例では切り欠き部70の下端部以外の部分)に対応して形成されている。一対の辺部71同士の周方向CDに沿う距離(幅W
Bに相当)は、これら辺部71の軸方向ADに沿う全域にわたって一定とされている。そして、切り欠き部70における一対の辺部71同士の距離が、ピン部材60の周方向CDの長さW
Aよりも小さくされている。
【0058】
この変形例では、切り欠き部70の手前側の端部(手前側部分)が周方向CDに長い長円孔形状とされており、該手前側の端部以外の部分(奥側部分)は矩形孔状とされていて、手前側の端部における周方向CDの長さが、該手前側の端部以外の部分における周方向CDの長さよりも大きくされている。
具体的には、切り欠き部70の軸方向ADに沿う長さ(奥行き)L
Bが6mm、周方向CDに沿う長さ(幅)W
Bが5.6mm、手前側の端部に位置する長円孔において、その周方向CDの両端部に形成された円弧状部分の内周面の曲率半径R
Bが1mmとなっている。
【0059】
図6に示される変形例によれば、上述した
図4及び
図5のスリーブ印刷版の位置合わせ構造50と同様の効果が得られる。
さらに、
図6の変形例では、スリーブ印刷版30が拡径されたときに、切り欠き部70の手前側の端部を
図4及び
図5の例よりも積極的に周方向CDに変形させることができ、これにより、該切り欠き部70の奥側の開口部分での変形量と、手前側部分での変形量との差を小さくすることができる。従ってこの変形例によれば、
図6(b)に示されるように、切り欠き部70の一対の辺部71と、ピン部材60の一対の壁部61とが、これら辺部71及び壁部61の軸方向ADに沿う全域にわたって互いに当接されやすくなり、上述した効果がより格別顕著なものとなる。
【0060】
また
図7の変形例では、
図7(a)に示される、スリーブ印刷版30が弾性変形により拡径する前(変形前)の切り欠き部70の正面視において、切り欠き部70は略矩形孔状をなしており、具体的にはこの正面視で、切り欠き部70のうち軸方向ADに沿う手前側の端部は半円孔状とされ、それ以外の部分が矩形孔状とされている。
また、切り欠き部70の内周には、軸方向ADに沿うように延びるとともに、互いに周方向CDに間隔をあけて平行に対向配置されてそれぞれ直線状をなす一対の辺部71と、これら辺部71同士を繋ぐ円弧状部分(切り欠き部70の内周のうち手前側の端部)と、が形成されている。
【0061】
そしてこの変形例では、
図7(b)に示されるように、ピン部材60において周方向CDに背向配置された一対の壁部61同士の周方向CDに沿う距離が、該ピン部材60のうち、軸方向ADに沿うシリンダ6の中央側部分(ピン部材60の手前側部分、
図7(b)におけるピン部材60の下側部分)に比べて、端部側部分(ピン部材60の奥側部分、
図7(b)におけるピン部材60の上側部分)で大きくされている。
詳しくは、ピン部材60の外周のうち、互いに周方向CDに背向配置された一対の壁部61同士の距離が、該ピン部材60の手前から奥側(
図7(b)における上側)へ向かうに従い漸次広げられている。
【0062】
具体的にこの変形例では、切り欠き部70の軸方向ADに沿う長さ(奥行き)L
Bが6mm、周方向CDに沿う長さ(幅)W
Bが6mm、手前側の端部に位置する円弧状部分の内周面の曲率半径R
Bが3mmとなっている。また、ピン部材60の軸方向ADに沿う長さ(奥行き)L
Aが6mm、周方向CDに沿う長さ(幅)W
Aが6.8mm、手前側の端部に位置する半円柱状部分の外周面の曲率半径R
Aが3mmとなっている。そして、スリーブ印刷版30が拡径されたときに、切り欠き部70が変形してその周方向CDの長さW
Bが6.8mmまで広げられることで、切り欠き部70内にピン部材60を押し込んで挿入することができ、これら切り欠き部70とピン部材60とが緊密に隙間なく係合される。
特に図示していないがこの変形例では、切り欠き部70とピン部材60との係合状態において、切り欠き部70の内周とピン部材60の外周との接触領域Fは、該切り欠き部70の内周全域にわたっている。
【0063】
図7に示される変形例によれば、前述した本実施形態及び変形例と同様の効果を奏する。
さらにこの変形例では、スリーブ印刷版30がシリンダ6の外周に嵌合されたときに、ピン部材60において周方向CDの両側を向く(つまり周方向CDに背向配置された)一対の壁部61の形状に対応するように、切り欠き部70の一対の辺部71が変形して(つまり一対の辺部71同士が互いに非平行となり)、これら一対の壁部61と一対の辺部71とが、より広範囲に確実に当接されることになる。従って、上述した効果が安定して得られる。
具体的には、切り欠き部70の一対の辺部71と、ピン部材60の一対の壁部61とが、軸方向ADに対して傾斜して延びて互いに当接させられていることから、
図5の変形例に比べて、より接触領域Fを大きく確保できる。
【0064】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0065】
例えば、前述の実施形態では、スリーブ印刷版30がシリンダ6の外周に装着されたときに、ピン部材60に対して切り欠き部70が周方向CDから当接し、かつ軸方向ADからも当接することとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、スリーブ印刷版30とシリンダ6との軸方向ADの相対移動については、切り欠き部70とピン部材60との係合によらず規制することとしても構わない。ただし、前述の実施形態のように、スリーブ印刷版30とシリンダ6との軸方向ADの相対移動についても、切り欠き部70とピン部材60との当接(係合)によって規制することで、簡単な構造で印刷精度を向上させることができ、より好ましい。
【0066】
また、前述の実施形態では、シリンダ6の外周における奥側の端部にピン部材60が1つ突設され、スリーブ印刷版30の奥側の端部に切り欠き部70が1つ形成されていることとしたが、互いに係合されるピン部材60及び切り欠き部70の組は、複数組設けられていてもよい。
【0067】
また、前述の実施形態では、ピン部材60の手前側の端部が、断面半円形状の半円柱状をなしていることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、ピン部材60の手前側の端部は、例えば断面多角形状の多角形柱状や、断面半楕円形状の半楕円柱状とされていてもよい。
【0068】
また、前述の実施形態では、凸版40を備えた版材32が、スリーブ支持体31に一体に形成されていると説明したが、これに限定されるものではなく、版材32が、スリーブ支持体31に着脱可能に配設されていてもよい。つまり、スリーブ支持体31の外周面に、該スリーブ支持体31とは別体の版材32が装着(積層)されたスリーブ印刷版30であってもよい。
また、スリーブ支持体31及び版材32の材質や寸法、スリーブ支持体31に設けられる版材32の数や配置等は、前述の実施形態で説明したものに限定されない。
【0069】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及び尚書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[見当合わせ確認試験]
本発明の実施例1〜3として、前述の実施形態で説明したスリーブ印刷版の位置合わせ構造50を採用したシリンダ6及びスリーブ印刷版30を用意した。
具体的には、実施例1として、
図5に示されるスリーブ印刷版の位置合わせ構造50のスリーブ印刷版30を1組(2つ)用意し、実施例2として、
図4に示されるスリーブ印刷版の位置合わせ構造50のスリーブ印刷版30を1組用意し、実施例3として、
図6に示されるスリーブ印刷版の位置合わせ構造50のスリーブ印刷版30を1組用意した。また、各組のスリーブ印刷版30のうち、一方のスリーブ印刷版30の凸版40に、
図9に示される略十字状の位置ずれ量測定マーク80の第1のマーク81のみをレーザー彫刻し、他方のスリーブ印刷版30の凸版40に、位置ずれ量測定マーク80の第2のマーク82のみをレーザー彫刻した。
【0072】
そして、これら凸版40を用いて、同一の缶20の外周面(缶胴)に印刷を施し、印刷後の缶20における位置ずれ量測定マーク80の第1、第2のマーク81、82同士の位置ずれ量を、周方向CD及び軸方向ADについてそれぞれ確認した。またこの確認作業を、スリーブ印刷版30をシリンダ6から一旦取り外し、再び装着して行うことで5回繰り返し、そのうち位置ずれ量が最大となった値を、測定結果とした。
【0073】
一方、従来の比較例として、
図8に示されるスリーブ印刷版の位置合わせ構造100を採用したシリンダ及びスリーブ印刷版を用意した。比較例についても、前記実施例1〜3と同様にして、確認作業を行った。
結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
[評価]
表1に示されるように、本発明の実施例1〜3においては、周方向CDの位置ずれ量及び軸方向ADの位置ずれ量ともに、0.1mm以下となり、見当合わせの精度が十分に確保されるとともに、印刷精度が高められることが確認された。中でも実施例1、3においては、周方向CDの位置ずれ量がともに0.01mm以下となり、格別顕著な効果が得られた。
一方、比較例においては、周方向CDの位置ずれ量が0.7mmとなり、印刷精度が確保できなかった。