【解決手段】ゲート式テンション付与装置3は、走行する糸Yを屈曲させることによって糸Yにテンションを付与するものであり、第1ゲート体30と、走行経路を挟んで第1ゲート体30と反対側に配置されると共に第1ゲート体30に対して開閉方向に移動可能に設けられた第2ゲート体40と、を備える。第1ゲート体30には第1テンション部材32が、第2ゲート体40には複数の第2テンション部材42が、走行経路方向Dに沿って並設され、閉状態において交互に噛み合うように配置される。少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42は、閉状態において、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔が不等間隔となるように配置される。
前記第1テンション部材及び前記第2テンション部材の少なくとも一方は、走行する前記糸の位置を規定する溝部が形成された案内部を有する、請求項1〜6の何れか一項に記載のゲート式テンション付与装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0022】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る糸巻取装置としての自動ワインダ、及び該自動ワインダが備えるゲート式テンション付与装置について、
図1から
図8を用いて説明する。以下においては、説明の便宜上、図面における交差矢印と前後、左右、及び上下の表示とで示した方向を、前後方向、左右方向、及び上下方向と規定する。
図1に示すように、自動ワインダ100は、給糸ボビンBから解舒された糸Yを巻き取ってパッケージPを作成する。
【0023】
自動ワインダ100は、本体フレームFを基体として構成されている。本体フレームFには、下から上へ延びる糸Yの走行経路に沿って、給糸部1、解舒補助装置2、ゲート式テンション付与装置3、テンションセンサ4、糸継装置5、糸欠陥検出装置6、及び巻取部7等の各装置が配置されている。
【0024】
給糸部1は、自動ワインダ100に供給された給糸ボビンBを保持する。解舒補助装置2は、給糸ボビンBから解舒される糸Yの膨らみ(バルーン)を規制し、解舒張力を安定させる。ゲート式テンション付与装置3は、給糸ボビンBから送給される糸Yに所定の張力を付与する。テンションセンサ4は、ゲート式テンション付与装置3を通過した糸Yの走行経路に設けられており、糸Yの張力を測定して得られた測定データを出力する。
【0025】
糸継装置5は、糸欠陥検出装置6で糸欠陥が検知されて糸Yが切断されたとき等に、(糸欠陥部分が除去された後の)パッケージP側の上糸と給糸ボビンB側の下糸とを継ぎ合わせる。本体フレームFには、糸継時に下糸を捕捉して糸継装置5に渡す中継ぎパイプ12と、上糸を捕捉して糸継装置5に渡すサクションマウス13とが設けられている。ゲート式テンション付与装置3に対する糸Yの導入は、中継ぎパイプ12が糸継装置5に下糸を渡す過程で行なわれる。巻取部7は、巻取ボビン9に糸Yを巻き取り、パッケージPを作成する。
【0026】
巻取部7は、糸Yを綾振りする溝付きの綾振ドラム14と、パッケージPの巻取ボビン9を支持するクレードル15等で構成されている。なお、巻取部7の構成はこれに限定されず、例えば、綾振ドラム14に替えて溝なしの接触ローラと、当該接触ローラから独立した綾振り機構とを備える構成であってもよい。
【0027】
次に、ゲート式テンション付与装置3について説明する。ゲート式テンション付与装置3は、
図2〜
図4に示すように、走行する糸Yを屈曲させることによって糸Yにテンションを付与する。ゲート式テンション付与装置3は、主に、ケーシング21、第1ブラケット22、第2ブラケット23、第1ゲート体(固定側の張力付与体)30、第2ゲート体(可動側の張力付与体)40、及び駆動機構51を備えている。
【0028】
ケーシング21は、ゲート式テンション付与装置3の基体を構成する。ケーシング21の上部には、第1ブラケット22が設けられている。ケーシング21の下部には、第2ブラケット23が設けられている。第1ブラケット22及び第2ブラケット23は、それぞれ平板状に形成され、第1導入溝24又は第2導入溝25を有している。第1導入溝24及び第2導入溝25は、前側が開放端で、前後方向に長いスリット状の溝である。第1導入溝24及び第2導入溝25は、糸継時に糸Yを第1ゲート体30と第2ゲート体40との間に案内する。
【0029】
第1ゲート体30及び第2ゲート体40は、第1ブラケット22及び第2ブラケット23の間に配置される。第2ゲート体40は、糸Yの走行経路を挟んで第1ゲート体30と反対側に配置される。第2ゲート体40は、第1ゲート体30に対して揺動自在に設けられる。具体的には、第2ゲート体40は、第1ゲート体30に対して開閉方向Z(
図2参照)に移動可能に設けられる。
【0030】
図2に示すように、第1ゲート体30に対して第2ゲート体40が開かれた待機位置状態である開状態では、第2ゲート体40が第1ゲート体30から離間し、第1ゲート体30と第2ゲート体40との間への糸Yの導入に備える。一方、
図3に示すように、第1ゲート体30に対して第2ゲート体40が接近するように移動されて閉じられた作動位置状態である閉状態では、第1ゲート体30と第2ゲート体40とが協同して糸Yを挟み込み、走行する糸Yを屈曲させることで糸Yにテンションを付与する。
【0031】
第1ゲート体30は、ベース31及び複数の第1テンション部材32を有している。ベース31はケーシング21に固定されている。複数の第1テンション部材32は、走行経路方向D(
図4参照)に沿って互いに間隔をあけてベース31上に並設され、全体として櫛歯状となっている。なお、ここでの走行経路方向Dは、糸Yの走行経路に沿う糸走行方向であって、作動位置時に第1及び第2ゲート体30,40で糸Yが挟み込まれてジグザグに屈曲された走行方向ではなく、本来の装置上下方向(機台高さ方向)に延びる走行方向を意図している。
【0032】
第1テンション部材32はセラミック製のものとされ、ベース31に対して着脱自在に設けられている。着脱自在であるため、第1テンション部材32が摩耗した際には、容易に部品交換することができる。ただし、第1テンション部材32は、セラミック製以外のものであってもよく、また、ベース31に着脱自在に設けられていなくてもよい。
【0033】
図4、
図5(A)及び
図7に示すように、第1テンション部材32は板状体である。第1テンション部材32の糸道(糸Yの走行経路)に面する縁部は糸Yと接触する部分であり、縦断面(上下方向に切断した断面)が円弧状に形成されている(第1テンション部材32の外周面が丸く形成されている:
図5の※印部参照)。ただし、当該縁部は、円弧状に限定されるものではなく、糸Yを切断しない程度に丸みがついていればよい。
【0034】
図2、
図3及び
図5(A)に示すように、第1テンション部材32の平面形状は、糸Yを前方から後方に向けて円滑に導入し、所定の位置に位置決めできる形状に形成されている。具体的には、第1テンション部材32の前側には、第1ブラケット22及び第2ブラケット23の第1導入溝24及び第2導入溝25で導入された糸Yを円滑に導入できるように円弧部34が形成されている。円弧部34の後側には、湾曲形状の第1案内部35が形成されている。第1案内部35は、円弧部34で導入した糸Yを所定の位置に位置決めする。第1案内部35には、第1溝部36が形成されている。第1案内部35の後側には、糸Yが後方へ移動するのを規制するための突起部37が形成されている。
【0035】
第2ゲート体40は、ボス41及び複数の第2テンション部材42を有している。ボス41は、下側の第2ブラケット23に固定した揺動軸59に揺動自在に支持されている。複数の第2テンション部材42は、作動位置時において、複数の第1テンション部材32と互い違い状に交差できるように、走行経路方向Dに沿って互いに間隔をあけてボス41上に並設され、全体として櫛歯状となっている。第2テンション部材42はセラミック製であって、ボス41に対して着脱自在に設けられている。着脱自在であるため、第2テンション部材42が摩耗した際には、容易に部品交換することができる。ただし、第2テンション部材42は、セラミック製以外のものであってもよく、また、着脱自在に設けられていなくてもよい。
【0036】
図4、
図5(B)及び
図7に示すように、第2テンション部材42は板状体である。第2テンション部材42の糸道に面する縁部は糸Yと接触する部分であり、縦断面(上下方向に切断した断面)が円弧状に形成されている(第2テンション部材42の外周面が丸く形成されている:
図5の※印部参照)。ただし、当該縁部は、円弧状に限定されるものではなく、糸Yを切断しない程度に丸みがついていればよい。
【0037】
図2、
図3及び
図6に示すように、第2テンション部材42の平面形状は、第1テンション部材32と協同して糸Yを挟んだときに、糸Yが前方へ移動するのを規制する形状である。具体的には、第2テンション部材42には、前側から後側にかけて、第1テンション部材32に対向する側(糸道に面する側)が凹状となるように湾曲する第2案内部44が形成されている。第2案内部44には、第2溝部45が形成されている。
【0038】
図2及び
図3に示すように、駆動機構51は、主に回転型の第1ソレノイドアクチュエータ52と第2ソレノイドアクチュエータ53、第1レバー54、第2レバー55、第1ロッド56、及び第2ロッド57を有する。第1レバー54は、第1ソレノイドアクチュエータ52の回転軸に固定されている。第2レバー55は、第2ソレノイドアクチュエータ53の回転軸に固定されている。第1ロッド56は、第1レバー54の一端と第2レバー55の一端とを連動可能に連結している。第2ロッド57は、第1レバー54の他端とボス41に設けた第3レバー58とを連動可能に連結している。
【0039】
第1ソレノイドアクチュエータ52及び第2ソレノイドアクチュエータ53の駆動は、自動ワインダ100の各部を制御する制御装置60(
図1参照)によって制御される。第1ソレノイドアクチュエータ52が駆動されると、第2ゲート体40が待機位置(
図2参照)から作動位置(
図3参照)へと切り換えられる。第2ソレノイドアクチュエータ53が駆動されると、第2ゲート体40が作動位置(
図3参照)から待機位置(
図2参照)へと切り換えられる。
【0040】
次に、第1テンション部材32の第1溝部36と、第2テンション部材42の第2溝部45とについて説明する。第1テンション部材32の第1溝部36は、湾曲形状である第1案内部35の屈曲点に相当する位置(湾曲の底となる位置)に形成されている。より詳しくは、第1溝部36が形成される位置は、第1テンション部材32が第2テンション部材42と協同して糸Yを挟んだときに、第1テンション部材32の第1案内部35と第2テンション部材42の第2案内部44で糸Yが規制される位置である。なお、第1溝部36の位置は、走行中の糸Yの位置を規定できるのであれば、第1案内部35の屈曲点からずれた位置に形成されていてもよい。
【0041】
第1溝部36の形状は、略V字形状である。第1溝部36は、直線状の左右一対の側壁部38と円弧状の底部39を有する。一対の側壁部38は、底部39の円弧の両端点から当該端点における接線方向に延びていれば、各側壁部38と底部39との接続がなめらかになるために好ましい。また、一対の側壁部38がなす角度は、例えば0度以上170度以下とすることが好ましい。
【0042】
底部39は、平面視で所定の半径R1の円弧状に形成されている(
図6(A)参照)。この半径R1の数値は、走行する糸Yの外周の少なくとも一部に沿うような大きさに設定されること、換言すれば、走行する糸Yと所定の接触領域を確保する弧の形状に形成されていることが好ましく、例えば0.2mmから2.0mmが好ましい。ただし、半径R1の数値はこれに限定されるものではなく、例えば0.1mmであってもよいし、3.0mmであってもよい。この数値は、糸Yの種類や太さやその他の糸巻取条件によって可変する。また、底部39は円弧状であれば特に加工の観点で好ましいが、正円でない弧状であってもよい。
【0043】
底部39の縦断面(上下方向に切断した断面)は円弧状に形成されており、その半径R2は、例えば1.0mmから1.5mm程度が好ましい(
図7参照)。ただし、半径R2の数値はこれに限定されるものではない。
【0044】
第2テンション部材42の第2溝部45は、湾曲形状である第2案内部44の屈曲点に相当する位置(湾曲の底となる位置)に形成されている。より詳しくは、第2溝部45が形成される位置は、第2テンション部材42が第1テンション部材32と協同して糸Yを挟んだときに、第2テンション部材42の第2案内部44と第1テンション部材32の第1案内部35で糸Yが規制される位置である。なお、第2溝部45の位置は、走行中の糸Yの位置を規定できるのであれば、第2案内部44の屈曲点からずれた位置に形成されていてもよい。
【0045】
第1溝部36と第2溝部45の形状は、同じ形状に形成されている。具体的には、第2溝部45の形状は、略V字形状である。第2溝部45は、直線状の一対の側壁部46と円弧状の底部47を有する。一対の側壁部46は、底部47の円弧の両端点から当該端点における接線方向に延びていれば、各側壁部46と底部47との接続がなめらかになるために好ましい。また、一対の側壁部46がなす角度は、例えば0度以上170度以下とすることが好ましい。
【0046】
底部47は、平面視で所定の半径R3の円弧状に形成されている(
図6(A)参照)。この半径R3の数値は、走行する糸Yの外周の少なくとも一部に沿うような大きさに設定されること、換言すれば、走行する糸Yと所定の接触領域を確保する弧の形状に形成されていることが好ましく、例えば0.2mmから2.0mmが好ましい。ただし、半径R3の数値はこれに限定されるものではなく、例えば0.1mmであってもよいし、3.0mmであってもよい。この数値は、糸Yの種類や太さやその他の糸巻取条件によって可変する。また、底部47は円弧状であれば特に加工の観点で好ましいが、正円でない弧状であってもよい。
【0047】
底部47の縦断面(上下方向に切断した断面)は円弧状に形成されており、その半径R4は、例えば1.0mmから1.5mm程度が好ましい(
図7参照)。ただし、半径R4の数値はこれに限定されるものではない。
【0048】
次に、第1及び第2テンション部材32,42の配置位置に関して説明する。
図4に示すように、複数の第1テンション部材32は、第1ゲート体30において走行経路方向Dに沿って等間隔で並設されている。ここでの複数の第1テンション部材32は、走行経路方向Dに沿って間隔Laで配置されている。複数の第2テンション部材42は、第2ゲート体40において走行経路方向Dに沿って等間隔で並設されている。ここでの複数の第2テンション部材42は、走行経路方向Dに沿って、間隔Laと等しい間隔Lbで配置されている。第1及び第2テンション部材32,42の各厚さ(走行経路方向Dにおける寸法)は、互いに等しくされている。
【0049】
第1ゲート体30に対して第2ゲート体40が閉じられた閉状態では、複数の第1テンション部材32及び第2テンション部材42は、交互に噛み合うように配置される。換言すると、隣接する第1テンション部材32の間に第2テンション部材42が位置するように、これらが互い違いで配置される。
【0050】
ここで、本実施形態における第2ゲート体40は、走行経路方向Dにおいて、その中心位置が第1ゲート体30の中心位置に対して上側に相対的にずれるように配置される。つまり、閉状態において、第2テンション部材42は、第1テンション部材32間における走行経路方向Dの中心位置に対して、走行経路方向Dの一方側である上側にずれて(偏って)配置される。
【0051】
これにより、閉状態において、少なくとも一部の第1テンション部材32及び第2テンション部材42は、隣接する第1テンション部材32と第2テンション部材42との走行経路方向Dにおける間隔について、不等間隔となるように配置される。例えば、一の第1テンション部材32とその上側に位置する第2テンション部材42との間隔は広い一方で、当該一の第1テンション部材32とその下側に位置する第2テンション部材42との間隔は狭くなっている。
【0052】
次に、上記説明したゲート式テンション付与装置3の動作について説明する。例えば、パッケージPを作成中に糸Yに糸欠陥が発見されて、糸欠陥部分が糸欠陥検出装置6のカッターで切断された場合、中継ぎパイプ12及びサクションマウス13は、切断された糸Yを吸引捕捉する。制御装置60は、第2ソレノイドアクチュエータ53を駆動して第2ゲート体40を作動位置(
図3参照)から待機位置(
図2参照)へ切り換える。
【0053】
続いて、中継ぎパイプ12を上方向へ旋回させて、糸Yを、ゲート式テンション付与装置3の第1ブラケット22及び第2ブラケット23の第1導入溝24及び第2導入溝25を介して、待機位置にある第2ゲート体40と、第1ゲート体30との間へ導入する。その後、制御装置60は、第1ソレノイドアクチュエータ52を駆動して、第2ゲート体40を待機位置(
図2参照)から作動位置(
図3参照)へ切り換える。そして糸Yは、第1ゲート体30の第1テンション部材32、及び第2ゲート体40の第2テンション部材42でジグザグ状に挟み込まれた状態で走行する。第1テンション部材32及び第2テンション部材42は、第1溝部36及び第2溝部45で走行する糸Yの位置を規定しながら、糸Yに張力を付与する。
【0054】
糸Yの走行速度(以下、「糸速」という)は、600m/分以上に設定することが好ましい。糸速の設定は、自動ワインダ100の運転条件を設定するための設定部61で行うことができる。
【0055】
本願発明者は、多数の実験を実施することによって、糸速と毛羽増加数(給糸ボビンBに巻かれた糸Yの毛羽数と、パッケージPに巻かれた糸Yの毛羽数との差)との間に所定の相関関係があるという知見を得た。実験の結果、テンション付与装置のない自動ワインダでは、糸速が増大するに従って、糸Yの毛羽増加数は増大する傾向が確かめられた。これは、給糸ボビンBからの糸Yの解舒時に、糸速(解舒速度)が増大するに従って糸Yに作用する力(衝撃)が大きくなり、毛羽が増大するためと考えられる。
【0056】
従来のゲート式テンション付与装置を備えた自動ワインダの場合、糸速が所定の低速領域における毛羽増加数は、テンション付与装置のない自動ワインダよりも多いが、糸速が高くなると、毛羽増加数は、テンション付与装置のない自動ワインダよりも少なくなることが確かめられた。これは、一般にゲート式テンション付与装置は、糸の毛羽を増加させる作用と、糸の毛羽を減少させる作用の両方を有し、糸速によってそれらの作用が変化するためであると考えられる。すなわち、比較的低速では、糸Yの毛羽を増加させる作用が毛羽を減少させる作用よりも優位であり、比較的高速では、それが逆転するものと考えられる。
【0057】
本実施形態に係るゲート式テンション付与装置3を備えた自動ワインダ100の場合、糸速が600m/分以上の全域において、従来のゲート式テンション付与装置を備えた自動ワインダよりも毛羽増加数が少ないことが確かめられた。本実施形態に係るゲート式テンション付与装置3は、糸Yの毛羽を増加させる作用よりも糸Yの毛羽を減少させる作用のほうが、従来のゲート式テンション付与装置に比べて非常に優位に働いていると推測される。したがって、糸速は、毛羽の増加量を抑制する観点も考慮して、実験で優れた効果があることを確認した600m/分以上に設定することが好ましい。ただし、これは、600m/分以下の糸速で走行することを、不適であるとして除外するわけではない。
【0058】
図8は、第1及び第2テンション部材32,42の配置位置と毛羽増加数との関係を示すグラフである。図中において、「等配置」の値は、
図9(A)に示すような比較例のゲート式テンション付与装置を用いた場合における毛羽増加数の実測値である。「偏り配置」の値は、上記ゲート式テンション付与装置3と同様な装置であって、
図9(B)に示すような本実施形態に係るゲート式テンション付与装置を用いた場合における毛羽増加数の実測値である。
【0059】
図9(A)に示す比較例のゲート式テンション付与装置では、閉状態において、隣接する第1及び第2テンション部材32´,42´の間の間隔が等間隔となるように、第1及び第2テンション部材32´,42´が配置される。
図9(B)に示す本実施形態に係るゲート式テンション付与装置では、閉状態において隣接する第1及び第2テンション部材32,42の間隔が不等間隔となるように、第1及び第2テンション部材32,42が配置される。
【0060】
また、
図8(A)に示す値では、その作動条件として、綿番手40番の糸Yを用い、糸速を1200[m/分]とし、糸Yに付与するテンションを16.6[cN]としている。
図8(B)に示す値では、その作動条件として、綿番手80番の糸Yを用い、糸速を1200[m/分]とし、糸Yに付与するテンションを10.5[cN]としている。各作動条件において、毛羽増加数を算出するために、給糸ボビンB及びパッケージP夫々における毛羽数の計測を10回2セット実施し、各回で計測した毛羽数に基づいて算出した毛羽増加数の平均値を、
図9(A)及び
図9(B)にそれぞれ示している。
【0061】
図8(A)の結果によれば、偏り配置とした場合、毛羽増加数について、等配置の場合の毛羽増加数を基準(100%)として約10%低減されている。
図8(B)の結果によれば、偏り配置とした場合、毛羽増加数について、等配置の場合の毛羽増加数を基準(100%)として約8%低減されている。これにより、本実施形態では、糸Yにテンションを付与しつつ糸Yの毛羽を効果的に伏せることができ、毛羽増加数を低減できることが確認できる。これは、例えば以下の理由によると考えられる。
【0062】
すなわち、等配置と偏り配置とを比較すると、第1及び第2テンション部材32,42と糸Yとの接触長が異なる。同じ大きさのスペースに複数の第1及び第2テンション部材32,42を配置した場合、等配置よりも偏り配置のほうが、接触長が長くなる。この長い接触長が糸Yの毛羽を寝かせることに有効に機能すると推測される。
【0063】
以上に説明した本実施形態に係るゲート式テンション付与装置3及び自動ワインダ100では、第1ゲート体30に対し第2ゲート体40を閉じた閉状態とすることにより、走行する糸Yを、交互に噛み合うように配置された複数の第1及び第2テンション部材32,42でもって挟み込んで屈曲でき、当該糸Yにテンションを付与できる。このとき、第1及び第2テンション部材32,42の少なくとも一部は、走行経路方向Dにおいて不等間隔となるように配置されることから、糸Yの毛羽を効果的に伏せることができる。すなわち、糸Yにテンションを付与しつつ、糸Yの毛羽を効果的に伏せて毛羽増加数を低減することが可能となる。さらに、毛羽量の増加自体を抑制できることから、毛羽伏せ用の装置を別途設置する必要がないという利点がある。
【0064】
本実施形態では、第1テンション部材32が第1ゲート体30において等間隔に配置され、第2テンション部材42が第2ゲート体40において等間隔に配置され、第1テンション部材32の間隔Laと第2テンション部材42の間隔Lbとが互いに等しくされている。第1及び第2テンション部材32,42の双方が各ゲート体30,40それぞれにて互いに等しい等間隔に配置されるため、第1及び第2テンション部材32,42を簡素化(シンプルに)して製造することできる。
【0065】
本実施形態では、第1テンション部材32は、走行する糸Yの位置を規定する第1溝部36が形成された第1案内部35を有し、第2テンション部材42は、走行する糸Yの位置を規定する第2溝部45が形成された第2案内部44を有する。この点からも、糸Yの毛羽を効果的に伏せ、解舒時に増加した毛羽の量を従来よりも減少させることができる。その結果、毛羽伏せ用の装置を別途設置する必要がないという利点を高めることが可能となる。
【0066】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第1溝部36の底部39、及び第2溝部45の底部47は、走行する糸Yと所定の接触領域を確保する弧の形状に形成されている。従って、走行する糸Yが第1溝部36及び第2溝部45の内壁に接触する接触領域を適度に確保でき、解舒時に増加した毛羽量を減少させることが可能となる。
【0067】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第1案内部35は、湾曲形状に形成され、第1溝部36は、第1案内部35の屈曲点に形成されている。従って、第1案内部35の湾曲形状によって滑らかに糸Yを第1溝部36まで案内でき、この案内時に余計な力が糸Yに作用することを防止できる。
【0068】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第2ゲート体40は、第1ゲート体30に対して揺動自在に設けられている。従って、例えば第1ゲート体30に対して接離方向に平行移動するように設けられている場合と比べて、駆動機構51を簡素化できる。
【0069】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第1溝部36は、側壁部38と弧状の底部39とを有している。また、第2溝部45は、側壁部46と弧状の底部47とを有している。従って、第1溝部36及び第2溝部45の内壁と走行する糸Yとの接触領域を十分に確保でき、毛羽立ちを抑制することができる。また、第1溝部36の底部39、及び第2溝部45の底部47が尖っていないため、底部39,47に風綿等の異物が詰まることを防止できる。
【0070】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第1溝部36及び第2溝部45は、V字の谷底に丸みをつけた略V字形状に形成されている。従って、第1溝部36及び第2溝部45の内壁と糸Yとが、糸Yの外周の約半周に相当する接触領域で接触することが可能となる。これにより、接触領域を十分に確保して、毛羽立ちを抑制できる。また、第1溝部36及び第2溝部45は略V字形状に形成されており、糸Yが第1溝部36及び第2溝部45内に入る間口が大きいため、糸Yを第1溝部36及び第2溝部45内にスムーズに案内できる。
【0071】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第1及び第2テンション部材32,42の両方が、第1溝部36及び第2溝部45が形成された第1案内部35及び第2案内部44を有している。従って、走行する糸Yの両側に第1溝部36及び第2溝部45が配置され、糸Yの略全周に亘って第1及び第2テンション部材32,42が接触するため、毛羽立ちをより抑制できる。
【0072】
本実施形態では、ゲート式テンション付与装置3の第1テンション部材32の第1溝部36と第2テンション部材42の第2溝部45は、互いに同じ形状で形成されている。従って、走行する糸Yの両側から同じ形状の第1溝部36及び第2溝部45に接触するため、毛羽立ちを糸Yの略全周に亘って同じ様に抑制できる。
【0073】
本実施形態では、自動ワインダ100は、給糸ボビンBから解舒された糸速を600m/分以上に設定する設定部61を備え、ゲート式テンション付与装置3は、設定部61によって600m/分以上の所定の糸速に設定されて、走行する糸Yにテンションを付与する。従って、ゲート式テンション付与装置3によって毛羽立ちを抑制する効果は糸速に相関し、600m/分以上の糸速において毛羽立ちをより抑制できる。
【0074】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係るゲート式テンション付与装置について、
図10(A)を参照して説明する。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0075】
図10(A)に示すように、本実施形態のゲート式テンション付与装置3
2において、第2ゲート体40は、走行経路方向Dにおいて、その中心位置が第1ゲート体30の中心位置に対して下側に相対的にずれるように配置される。つまり、閉状態において、第2テンション部材42は、第1テンション部材32間における走行経路方向Dの中心位置に対して、走行経路方向Dの一方側である下側にずれて(偏って)配置される。
【0076】
これにより、閉状態において、少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42は、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔について不等間隔となるように配置される。例えば、一の第1テンション部材32とその上側に位置する第2テンション部材42との間隔は狭い一方で、当該一の第1テンション部材32とその下側に位置する第2テンション部材42との間隔は広くなっている。
【0077】
以上、本実施形態においても、上記実施形態と同様な効果、すなわち、糸Yにテンションを付与しつつ糸Yの毛羽を効果的に伏せることができるという効果等を奏する。
【0078】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係るゲート式テンション付与装置について、
図10(B)を参照して説明する。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0079】
図10(B)に示すように、本実施形態のゲート式テンション付与装置3
3は、第2ゲート体40(
図4参照)に代えて第2ゲート体40
3を備えている。第1ゲート体30における第1テンション部材32の間隔Laと、第2ゲート体40
3における第2テンション部材42の間隔Lbとは、互いに異なっており、ここでは、一例として、間隔La>間隔Lbとされている。
【0080】
第2ゲート体40
3は、走行経路方向Dにおいて、その中心位置が第1ゲート体30の中心位置と等しくなるように配置される。これにより、閉状態において、少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42は、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔について不等間隔となるように配置される。例えば、走行経路方向Dの真ん中に位置する第2テンション部材42と、その上側に位置する第1テンション部材32との間隔は広い間隔とされる。一方で、当該第1テンション部材32と、その上側に隣接する第2テンション部材42との間隔は狭くなっている。
【0081】
以上、本実施形態においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、本実施形態では、第1及び第2テンション部材32,42が各ゲート体30,40それぞれで等間隔に配置されるため、第1及び第2テンション部材32,42を簡素化して製造することできる。
【0082】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態に係るゲート式テンション付与装置について、
図11(A)を参照して説明する。本実施形態では、上記第3実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0083】
図11(A)に示すように、本実施形態のゲート式テンション付与装置3
4において、第2ゲート体40
3は、走行経路方向Dにおいて、その中心位置が第1ゲート体30の中心位置に対して上側に相対的にずれるように配置される。これにより、閉状態において、第1及び第2テンション部材32,42は、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔について不等間隔となるように配置される。
【0084】
図示される例では、複数の第1及び第2テンション部材32,42の間隔の全てが、互いに異なるようになっている。例えば、第1テンション部材32の間隔La=10αとし、第2テンション部材42の間隔Lb=7αとした場合、第1及び第2テンション部材32,42の間隔のうち狭い順に、D1=α、D2=3α、D3=4α、D4=6α、D5=7α、及びD6=9αとされている。
【0085】
以上、本実施形態においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、本実施形態では、第1及び第2テンション部材32,42の間隔の全てが互いに異なるものとなり、第1及び第2テンション部材32,42の間隔の不等度(疎密度)が多様となる。
【0086】
[第5実施形態]
次に、第5実施形態に係るゲート式テンション付与装置について、
図11(B)を参照して説明する。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0087】
図11(B)に示すように、本実施形態のゲート式テンション付与装置3
5は、第2ゲート体40(
図4参照)に代えて第2ゲート体40
5を備えている。第2ゲート体40
5では、第2テンション部材42が不等間隔に配置されている。具体的には、一方の第2テンション部材42間の間隔Lb1と、他方の第2テンション部材42間の間隔Lb2とは、互いに異なっており、ここでは、一例として、間隔Lb1>間隔Lb2とされている。これにより、閉状態において、少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42は、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔について不等間隔となるように配置される。
【0088】
以上、本実施形態においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、本実施形態では、第2テンション部材42が第2ゲート体40
5にて不等間隔に配置されているため、閉状態において第1及び第2テンション部材32,42が自然に(第1及び第2ゲート体30,40
5の中心位置を揃えて配置することのみで)不等間隔に配置されることとなり、第1及び2テンション部材32,42の配置及び組付けが容易となる。
【0089】
[第6実施形態]
次に、第6実施形態に係るゲート式テンション付与装置について、
図12(A)を参照して説明する。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0090】
図12(A)に示すように、本実施形態のゲート式テンション付与装置3
6は、第1ゲート体30(
図4参照)に代えて第1ゲート体30
6を備えている。第1ゲート体30
6では、第1テンション部材32が不等間隔に配置されている。具体的には、第1テンション部材32間の間隔La1〜Lb3は互いに異なっており、ここでは、一例として、間隔La1>間隔La2>間隔La3とされている。これにより、閉状態において、少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42は、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔について、不等間隔となるように配置される。
【0091】
以上、本実施形態においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、本実施形態では、第1テンション部材32が第1ゲート体30
6において不等間隔に配置されているため、閉状態において第1及び第2テンション部材32,42が自然に不等間隔に配置されることとなり、第1及び2テンション部材32,42の配置及び組付けが容易となる。
【0092】
[第7実施形態]
次に、第7実施形態に係るゲート式テンション付与装置について、
図12(B)を参照して説明する。本実施形態では、上記第5実施形態と異なる点についてのみ説明する。
【0093】
図12(B)に示すように、本実施形態のゲート式テンション付与装置3
7は、第1ゲート体30(
図11(B)参照)に代えて第1ゲート体30
7を備えている。第1ゲート体30
7では、第1テンション部材32が不等間隔に配置されている。具体的には、第1テンション部材32間の間隔La1〜Lb3は互いに異なっており、ここでは、一例として、間隔La1>間隔La2>間隔La3とされている。これにより、閉状態において、少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42は、隣接する第1及び第2テンション部材32,42の走行経路方向Dにおける間隔について、不等間隔となるように配置される。
【0094】
以上、本実施形態においても、上記実施形態と同様な効果を奏する。また、本実施形態では、第1及び第2テンション部材32,42の双方が各ゲート体30
7,40
5それぞれにおいて不等間隔に配置される。そのため、例えば各ゲート体30
7,40
5における第1及び第2テンション部材32,42の各不等間隔を多様に設計することにより、閉状態における第1及び第2テンション部材32,42の間隔を、所望の不等間隔にきめ細かく設定することができる。
【0095】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態は、第1テンション部材32を4個備え、第2テンション部材42を3個備えているが、第1及び第2テンション部材32,42の個数はこれに限定されない。また、第1及び第2テンション部材32,42の形状も限定されるものではなく、板状以外に棒状であってもよいし、その他の形状であってもよい。
【0096】
上記実施形態では、第1及び第2テンション部材32,42は全体として異なる形状に形成されているが、同じ形状であってもよい。また、上記実施形態では、第1ゲート体30が固定され、第2ゲート体40が可動するように説明したが、第1ゲート体30が可動し、第2ゲート体40が固定されるように構成されていてもよく、第1ゲート体30と第2ゲート体40の両方が可動するように構成されていてもよい。要は、少なくとも、第1ゲート体30及び第2ゲート体40という相対するゲート体が、それぞれ櫛歯状になるように複数個の第1及び第2テンション部材32,42を備え、且つ、第1及び第2テンション部材32,42が互い違いに噛み合って糸Yに接触し、所望の張力を付与可能に構成されていればよい。
【0097】
上記実施形態では、上述のように、少なくとも一部の第1及び第2テンション部材32,42の間隔が異なっていればよく、すなわち、第1及び第2テンション部材32,42についての複数の間隔の全てが互いに異なっていてもよいし、当該複数の間隔のうち一部が互いに異なって他部が等しくてもよい。
【0098】
上記実施形態では、第1テンション部材32及び第2テンション部材42の両方に溝部(第1溝部36、第2溝部45)が形成されているが、これに限定されず、第1及び第2テンション部材32,42の一方だけに溝部が形成されていてもよい。この場合においても、毛羽の増加量を抑制する効果を得られる。
【0099】
上記実施形態では、第1溝部36及び第2溝部45は、略V字形状に形成されているが、これに限定されない。例えば、第1溝部36及び第2溝部45の形状を略U字形状としてもよい。この場合、第1溝部36及び第2溝部45の内壁と糸Yとが、糸Yの外周の約半周に相当する接触領域で接触することが可能となるので、接触領域を十分に確保して、毛羽立ちを抑制することができる。また、第1ゲート体30及び第2ゲート体40を可動させる構成も前述の駆動機構51の構成に限定されない。
【0100】
上記実施形態は、第1及び第2テンション部材32,42の間隔を調整する間隔調整装置をさらに備えていてもよい。これによれば、組み付け後に、多様な作動条件下で毛羽増加数をより低減すべく、当該間隔を適宜に調整することができる。
【0101】
また、上記実施形態では、給糸ボビンBから解舒された糸Yを巻取ボビン9に巻き取ってパッケージPを形成する自動ワインダ100に本発明を適用した例について説明したが、自動ワインダ以外の糸巻取装置に本発明を適用することも可能である。上記において「等しい」及び「等間隔」は、略等しいものを含み、例えば設計上や製造上の誤差及びばらつき等を含むものである。