【課題】酸性水相中で、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分が疎水性から親水性に変化し安定した乳化状態を維持することができ、かつ大きな希釈倍率で希釈される場合でも、乳化状態を維持できる家畜用乳化状酸性組成物を提供すること。
【解決手段】水相に、自発的自己組織化作用で形成される両親媒性物質の閉鎖小胞体並びに、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分を含み、酸性域に維持され、前記閉鎖小胞体が前記水相と、前記油性成分の油滴相との界面に介在することにより前記油性成分が乳化状態に維持されることを特徴とする家畜用乳化状酸性組成物により解決される。
水相に、自発的自己組織化作用で形成される両親媒性物質の閉鎖小胞体並びに、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分を含み、酸性域に維持され、前記閉鎖小胞体が前記水相と、前記油性成分の油滴相との界面に介在することにより前記油性成分が乳化状態に維持されることを特徴とする家畜用乳化状酸性組成物。
前記中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸モノグリセリドのいずれか一方を含む態様においてはその質量部10に対し、また、前記中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドのいずれをも含む態様においてはその合計質量部10に対し、前記常温で液状の油脂の含有量が5質量部以上であることを特徴とする請求項8に記載の家畜用乳化状酸性組成物。
前記ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルのエチレンオキサイドの平均付加モル数が20から100であることを特徴とする請求項12に記載の家畜用乳化状酸性組成物。
前記ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルのエチレンオキサイドの平均付加モル数が40から80であることを特徴とする請求項12に記載の家畜用乳化状酸性組成物。
【背景技術】
【0002】
家畜の生産性を高めるために、農林水産大臣が指定する合成抗菌剤や抗生物質を飼料に添加し家畜に与えることがしばしば行なわれている。しかしながら、畜産界において抗菌性物質が安易に使用された結果、薬剤抵抗性の細菌を生む要因となっている疑いが強く、人の感染症治療にとって大きな懸念材料となっている。このため、EU諸国では家畜に対する成長促進目的での抗菌性物質の使用が全面的に禁止されている。
【0003】
家畜に投与された抗菌剤や抗生物質はその体内に残留するため、例えば家畜の肉類を人間が摂取することにより、これらの残留薬剤が人体に摂取されるおそれがある。このため、各薬剤の残留基準値が規定されており、また、残留薬剤を減少させるために、例えば、飼料添加物に指定されている亜鉛バシトラシンは孵化後から出荷前7日までに供給するブロイラー用飼料には配合することができるが、出荷前6日間に供給する飼料には配合することができない。
【0004】
これらの薬剤の代わりに使用できる抗菌性物質の代替物として、中鎖脂肪酸が知られている。例えば、特許文献1には、オクタン酸、デカン酸および他の中鎖脂肪酸を主成分とした抗菌性を有する動物用医薬が開示されている。また、炭素数8〜12の中鎖脂肪酸とそのモノグリセリドには、カンピロバクター菌、サルモネラ菌および大腸菌等のグラム陰性菌に対して生育抑制作用があることも報告されている(非特許文献1)。経口投与された中鎖脂肪酸は、家畜の体内に吸収された後エネルギー源として代謝されてしまうため、残留の恐れがないことから、その抗菌作用を期待して、これを飼料に混ぜて家畜に与える方法がある(非特許文献2)。さらには、水に難溶性である中鎖脂肪酸を二酸化ケイ素に吸着させて粉体とし、飼料に混ぜて与えることができる商品も販売されている(非特許文献3)。このように、一般的に中鎖脂肪酸を抗菌性物質の代替物として家畜に与える場合、固形物として飼料に混入させて摂取させる方法が採られている。しかしながら飼料に混合した後実際に家畜が摂取するまでにタイムラグが生じることと、体調を崩し食欲が減退した動物では摂取量が減少してしまうため効率が悪い。
【0005】
また、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸および酪酸などの短鎖脂肪酸(有機酸)はグラム陰性菌に対して抗菌作用を示すことが知られている。
【0006】
疎水性の化合物である中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドは、その性質によりそのままでは水相に均一に分散させることができない。したがって、疎水性物質を水相に均一に、かつ安定的に分散させるためには、通常、界面活性剤が用いられる。界面活性剤は水に溶けた状態では、空気/水、油/水の界面に単分子状に吸着して界面張力を低下させる。公知のように界面活性剤は、その分子内の疎水性部位を油滴内に、親水性部位を水相側に配向させて油滴全面を覆うとともに、界面張力を低下させ、油滴の凝集力が低下する結果、油滴同士の合一が妨げられ、互いの油滴は水相中に均一に乳化分散することになる。
【0007】
一方、上述とは異なった機構により疎水性物質を乳化する方法が特許文献2に開示されている。本方法は、水相にて自発的自己組織化作用で形成される両親媒性物質の閉鎖小胞体が、ファンデルワールス力によって油性基質(疎水性物質)の表面に付着することで、油/閉鎖小胞体/水系の関係が維持され、乳化状態となるものである(いわゆる、三相乳化法)。本方法により形成される三相乳化エマルションは、界面活性作用によるO/W型やW/O型の二相乳化エマルションに比べて非常に高い安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[本願発明の対象となる家畜]
本願発明に係る家畜用乳化状酸性組成物は、牛、豚や鶏などの様々な家畜に対して投与可能である。
【0019】
本願発明に係る乳化状酸性組成物は家畜に対して用いられるものであるから、従来安全性が認められている飼料添加物や天然物から選択して構成される。
【0020】
以下に好ましい形態について列挙するがこれに限定される趣旨ではない。
【0021】
[形態1]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、中鎖脂肪酸がオクタン酸、デカン酸またはそれらの混合物であることが好ましい。
【0022】
[形態2]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、中鎖脂肪酸モノグリセリドがオクタン酸モノグリセリド、デカン酸モノグリセリドまたはそれらの混合物であることが好ましい。
【0023】
[形態3]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物が、水相に短鎖脂肪酸をさらに含んで構成されることが好ましい。
【0024】
[形態4]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、短鎖脂肪酸が、炭素数1〜5のモノ、ジまたはトリカルボン酸であることが好ましい。
【0025】
[形態5]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、短鎖脂肪酸の含有量が、0.1〜3質量部であることが好ましい。
【0026】
[形態6]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、酸性域が、pH1.5〜5の範囲であることが好ましい。
【0027】
[形態7]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、油性成分が、常温で液状の油脂を含有することが好ましい。
【0028】
[形態8]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸モノグリセリドのいずれか一方を含む態様においてはその質量部10に対し、また、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドのいずれをも含む態様においてはその合計質量部10に対し、常温で液状の油脂の含有量が5質量部以上であることが好ましい。
【0029】
[形態9]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、常温で液状の油脂が、植物油であることが好ましい。
【0030】
[形態10]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、植物油が、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールであることが好ましい。
【0031】
[形態11]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、両親媒性物質がポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0032】
[形態12]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルのエチレンオキサイドの平均付加モル数が20から100であることが好ましい。
【0033】
[形態13]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルのエチレンオキサイドの平均付加モル数が40から80であることが好ましい。
【0034】
[油性成分−中鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸モノグリセリド]
本願発明を構成する中鎖脂肪酸には、一般的に炭素数が8〜12の脂肪酸があり、オクタン酸、デカン酸が挙げられ、また中鎖脂肪酸モノグリセリドには、オクタン酸モノグリセリド、デカン酸モノグリセリドが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、それらを混合してもよい。中鎖脂肪酸のオクタン酸とデカン酸の混合比率は10:0〜0:10、好ましくは7:3〜3:7、さらに好ましくは5:5である。なお、中鎖脂肪酸モノグリセリドにおける、オクタン酸モノグリセリドとデカン酸モノグリセリドの混合比も同様である。オクタン酸やデカン酸のような中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む乳化物は、非解離状態でグラム陽性細菌および、大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクター菌等のグラム陰性菌の両方の細菌類の生育を抑制する。
【0035】
本願発明を構成する中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方の含有量は、下記油性成分量との関係で適宜定められる。たとえば、中鎖脂肪酸などの含有量が合計10質量部以上であっても乳化可能である。
【0036】
[油性成分−常温で液状の油脂]
本願発明を構成する中鎖脂肪酸のうち、オクタン酸とデカン酸の融点はそれぞれ16℃と31℃である。本願発明の乳化状酸性組成物の実用面を考慮すれば、オクタン酸、デカン酸およびそれらの混合物などに、常温での流動性を持たせることが望ましい。そこで、常温にて液状の油脂、たとえば、菜種油、大豆油、サフラワー油、ひまわり油、オリーブ油などの植物油を油性成分として含有させることにより常温にて流動性を持たせることができる。また、ここでいう植物油には、たとえば、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(一般的にMCTとも称される)が含まれる。植物油または中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールを含む油性成分を常温で流動性のある油状物質とすることで乳化も容易となり、安定性も増加する。植物油や中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールはそれ自体では抗菌作用はないが、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの乳化を補助する効果を有しており、さらに、乳化状酸性組成物を長期間、より安定な状態に保ち、低温で固化し難くさせる効果を生じる。かくて、長期間より安定な乳化状態を保つと共に冬季に固化し難い等、使用時の利便性を向上させる。このように、本願発明の乳化状酸性組成物の油性成分は、氷点で固化しない植物油、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールなどの常温流動性のある油脂を含むことによって乳化状態と低温固化を改善することができる。
【0037】
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物において、中鎖脂肪酸または中鎖脂肪酸モノグリセリドのいずれか一方を含む態様においてはその質量部10に対し、また、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドのいずれをも含む態様においてはその合計質量部10に対し、常温で液状の油脂の含有量が5質量部以上であることが好ましい。例えば、中鎖脂肪酸10質量部に10質量部の植物油または中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールを添加した本願発明の乳化状酸性組成物は、安定した乳化状態を6ヶ月以上保ち、低温でも固化することはない。
【0038】
[本願発明の家畜用乳化状酸性組成物の希釈倍率とpH]
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物は酸性域に維持される。本願発明の家畜用乳化状酸性組成物を酸性域に維持することが可能な酸は適宜選択することができる。本願発明の乳化状酸性組成物を原液として調製した場合、その原液のpHは1.5〜5とすることが好ましいが、pH2〜3に調製しておくのが希釈して家畜に供給する実用範囲かと思われる。原液は、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方の抗菌作用が保障できる限界、すなわち中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方の濃度が100〜500ppm程度となるまで希釈することができる。原液が添加、希釈された家畜の飲料水のpHを酸性域であるpH4〜5に制御すれば、家畜の飲水に支障を与えず、消化管内で中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドがアンモニアで中和されるのを防止することができ、かつそれらが有する抗菌力を高めることができる。
【0039】
[水性成分−短鎖脂肪酸]
本願発明の乳化状酸性組成物の水相には、水溶性の短鎖脂肪酸がさらに含まれることが好ましく、本願発明の組成物を酸性域に維持するためには短鎖脂肪酸との共存が有効である。短鎖脂肪酸としては例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、プロピオン酸、酪酸およびクエン酸などの、炭素数が1〜5のモノ、ジまたはトリカルボン酸が挙げられ、またそれらの組み合わせでもよい。短鎖脂肪酸は、本願発明の乳化状酸性組成物を酸性域に維持することにより、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの抗菌力を高める効果を生じさせ、また、本願発明の乳化状酸性組成物が添加された家畜の飲料水をpH4〜5の酸性域に保つことにより、短鎖脂肪酸自体の抗菌効果が保障される。
【0040】
本願発明の乳化状酸性組成物に配合する短鎖脂肪酸の量は、本願発明の乳化状酸性組成物を飲料水に添加する場合の希釈倍率と相関する。本願発明の乳化状酸性組成物を原液とした場合、実際の使用時にはこの原液は適切な濃度にまで希釈される。すなわち原液は、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方の抗菌作用が保障される範囲で、かつ家畜の飲水に支障を与えず、短鎖脂肪酸の抗菌作用が保障されるpH4〜5となるまで希釈され得る。原液における短鎖脂肪酸の含有量は0.1〜3質量部、好ましくは1〜2質量部であり、この場合の原液のpHは1.5〜5となるが、pH2〜3に調製しておくのが、希釈して家畜に供給する実用範囲かと思われる。実際に飲料水として使用する時には、飲料水のpHが4〜5となるように原液は適宜希釈して使用できる。
【0041】
[両親媒性物質]
水系において自発的自己組織化作用を示し閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質として、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルなどを用いることができる。この中で、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルは、本願発明に用いられる乳化剤として好適である。
【0042】
上記ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルにおいて、エチレンオキサイドの平均付加モル数は、好ましくは20から100であり、さらに好ましくは、40から80である。エチレンオキサイドの平均付加モル数が少ないとポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルの閉鎖小胞体で覆われた油性成分の極微粒子の親水性が不足し、水相に均一に分散させることが困難となり、結果として乳化することができない。
【0043】
[乳化状態]
本願発明の乳化状酸性組成物の乳化機構は、従来の界面活性剤による界面活性作用を利用したものとは異なる。本願発明に用いる両親媒性物質は、水相において自発的に自己組織化し閉鎖小胞体を形成する。この閉鎖小胞体がファンデルワールス力によって油性(疎水性)基質表面に付着し、油性基質の油滴相と水相の界面に介在することにより互いの油滴の合一が阻止され、油性基質が水相に安定分散(すなわち、乳化状態)する。従来の界面活性剤による乳化状態は、水相中のフリーの界面活性剤と油滴に吸着した界面活性剤とが互いに可逆的に平衡吸脱着しており、したがって、もし水で大きな希釈倍率で希釈されると、その平衡状態を維持する必要性から油滴に吸着していた界面活性剤が油滴から離脱し水相側へ移動する。すなわち、油滴を水相中に安定分散できるだけの十分な界面活性剤は、もはや油滴表面に残存し得なくなり、こうして乳化状態が崩壊していく。一方、本願発明を構成する閉鎖小胞体を介して乳化したものは、前述のように閉鎖小胞体がファンデルワールス力によって油滴に不可逆的に付着しており、希釈された場合においてもこのファンデルワールス力が影響を受けることはあり得ないことから、安定な乳化状態を維持するのである。さらに酸性域においても従来の界面活性剤によるものは、その乳化状態が破壊されることは周知のとおりであるが、前記同様の理由により、本願発明の乳化状酸性組成物であれば乳化状態が破壊されることはない。
【0044】
[その他の添加物]
本願発明の乳化状酸性組成物は、必要により栄養成分のビタミンE(酢酸dl-α-トコフェロール)、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)などの酸化防止剤、着香料などをさらに含んでも良い。
【0045】
[中鎖脂肪酸などの微細化と製品安定性]
本願発明の乳化状酸性組成物に含まれる中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分は、実用的な範囲において分離しないなどの保存安定性が必要とされる。
【0046】
例えば高圧式微細化装置(または高圧ホモジナイザー)を用いて、中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分の平均粒径を1000ナノメーター以下、好ましくは800ナノメーター以下、さらに好ましくは、500から200ナノメーターの極めて細かい粒子としたうえで、本願発明を構成する閉鎖小胞体により乳化を行なうことも可能である。
【0047】
本願発明を構成する中鎖脂肪酸および中鎖脂肪酸モノグリセリドの少なくとも一方を含む油性成分の平均粒径を、たとえば上記500から200ナノメーターに調製するには、攪拌式乳化機より、前記高圧式微細化装置のような高圧衝撃粉砕式の微細化装置を使うのが効率的である。平均粒径の測定は、粒子アナライザーFPAR1000(大塚電子株式会社製)を使用して測定可能である。
【0048】
本願発明の乳化状酸性組成物によれば、家畜の飼育時における抗生物質などの薬剤の使用を抑制することができ、薬剤耐性菌の発生リスクを軽減することができる。また、と殺直前まで使用することが可能であるため、食中毒の原因となるカンピロバクター菌やサルモネラ菌による食品の汚染のリスクを軽減することができる。
【実施例】
【0049】
1.両親媒性物質の選択
実施例1の乳化液を表1に示す配合処方に従って、以下の手順で調製した。
【0050】
水中にエチレンオキサイドの平均付加モル数が60であるポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(ノイゲンHC-600:第一工業製薬株式会社製)を加えて分散液を調製した。さらに90%濃度の乳酸(発酵乳酸90:扶桑化学工業株式会社製)を加えて、酸性の乳化剤分散液とした。
【0051】
次に液状にしたオクタン酸(NAA-82:日油株式会社製)とデカン酸(NAA-102:日油株式会社製)とを混合し、さらに植物油(菜種サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)を加えて、乳化対象の混合油とした。
【0052】
常温下で乳化剤分散液を高速撹拌式乳化機(ラボ・リューション/ホモミクサーMARK II 2.5型:プライミクス株式会社製)を用いて8000rpmの回転数で撹拌しながら、混合油を徐々に添加し、乳化液を調製した。
【0053】
比較例として、液状にしたオクタン酸(NAA-82:日油株式会社製)とデカン酸(NAA-102:日油株式会社製)、植物油(菜種サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)を混合し、さらにポリグリセリン脂肪酸エステル(SYグリスターMO-7S:坂本薬品工業株式会社製)を分散させた。撹拌しながら水を徐々に加えて乳化液を調製した。得られた乳化液に90%濃度の乳酸(発酵乳酸90:扶桑化学工業株式会社製)を加えて比較例1とした。比較例2も同様の手順にて、ポリグリセリン脂肪酸エステルをポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ソルゲンTW-80V:第一工業製薬株式会社製)に換えて調製した。
【0054】
[安定性試験1]
各乳化液を2時間室温(20℃)で静置させ、油相と水相への相分離の有無を判別することにより安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:分離が見られず安定、×:乳化できない又は経時相分離)。
【0055】
[希釈試験]
実施例1の乳化液を100倍、1000倍の希釈倍率で希釈した場合の状態を確認した。
【0056】
【表1】
【0057】
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物の安定性は、比較例として用いた一般的な乳化法と異なる本願発明に係る方法により生じる。比較例1および2の結果に示す通り、一般的な乳化法によって得られた乳化液は、乳酸を加えて酸性域環境になると乳化状態が維持できなくなる。また、希釈試験を行った結果より、実施例1の乳化液は、100倍、1000倍という大きな希釈倍率で希釈しても乳化状態が維持されたままであることが分かった。
【0058】
2.エチレンオキサイドの平均付加モル数の確認
表2に示す配合処方に従い、実施例1の乳化液の調製と同様の操作を行い、各乳化液(比較例3および実施例2〜6)を調製した。得られた乳化液を用いて下記評価試験を行った。
【0059】
[安定性試験2]
上述の安定性試験1と同様の評価試験を行った。すなわち、各乳化液を2時間室温で静置させ、油相と水相への相分離の有無を判別することにより安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:相分離が見られず安定、×:乳化できない)。
【0060】
[微粒子化工程]
各乳化液をさらに、高圧式湿式微細化装置(アルティマイザー:株式会社スギノマシン製)に通すことにより、粒子が微細な乳化液を得た。
【0061】
[安定性試験3]
各乳化液を1ヶ月間室温で静置させ、油相と水相への相分離の有無を判別することにより安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:相分離が見られず安定、×:乳化できない)。
【0062】
【表2】
【0063】
本願発明の家畜用乳化状酸性組成物の安定性は、それに含有されるポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルのエチレンオキサイドの平均付加モル数の違いにより影響を受ける。すなわち、エチレンオキサイドの平均付加モル数が10である比較例3が示す通り、エチレンオキサイドの平均付加モル数が少ないとポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルの閉鎖小胞体で覆われた油性成分の極微粒子の親水性が不足し、水相に均一に分散させることが困難となり、結果として乳化することができない。これに対し、安定性試験3の結果が示すとおり、実施例2から6でのエチレンオキサイドの平均付加モル数では長期間安定性を維持することができる。
【0064】
3.植物油の添加量の確認
表3に示す配合処方に従い、実施例1の乳化液の調製と同様の操作を行い、各乳化液(実施例7〜12)を調製した。得られた乳化液を用いて下記評価試験を行った。
【0065】
[安定性試験4]
上述の安定性試験1と同様の評価試験を行った。すなわち、各乳化液を2時間室温(20℃)で静置し、分離の有無で安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:相分離が見られず安定、×:乳化できない)。
【0066】
[安定性試験5]
各乳化液を24時間冷蔵庫(約5℃)で静置し、低温下における油性成分の安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:相分離または固化が見られず安定、×:固化)。
【0067】
【表3】
【0068】
表3の結果には、植物油の添加量が、乳化液の安定性に影響することが示されている。実施例7〜12のように、室温で2時間静置させても乳化状態を維持できる。しかしながら、実施例7の乳化剤は、2時間より長い時間経過すると油相の分離が生じる。これに対して実施例8では、実施例7よりも長時間乳化状態を維持することができる。しかしながら、実施例7、8のように植物油が無添加またはその添加量が少ないと、低温において安定的に乳化状態を維持することができなくなるので、望ましいのは実施例9〜12のように、植物油を多く添加して、低温での安定性を確保するのが良い。
【0069】
4.中鎖脂肪酸の混合比率の確認
表4に示す配合処方に従い、実施例1の乳化液の調製と同様の操作を行い、各乳化液(実施例13〜21)を調製した。得られた乳化液を用いて下記評価試験を行った。
【0070】
[安定性試験6]
上述の安定性試験1と同様の評価試験を行った。すなわち、各乳化液を2時間室温(20℃)で静置させ、油相と水相への相分離の有無を判別することにより安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:分離が見られず安定、×:乳化できない)。
【0071】
[微粒子化工程]
各乳化液をさらに、高圧式湿式微細化装置(アルティマイザー:株式会社スギノマシン製)に通すことにより、粒子が微細な乳化液を得た。
【0072】
[安定性試験7]
上記の安定性試験5と同様の評価試験を行った。すなわち、各乳化液を24時間冷蔵庫(約5℃)で静置し、低温下における油性成分の安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:相分離または固化が見られず安定、×:固化)。
【0073】
【表4】
【0074】
表4の結果より、オクタン酸とデカン酸の混合割合がいかなる割合でも乳化可能である。オクタン酸が単独であるか、あるいはデカン酸の割合が5割より大きい、または中鎖脂肪酸の含有量が多くなると、冷蔵庫(約5℃)で24時間静置させた場合、乳化液が固化する可能性があるが、その場合には植物油を増量することで低温でも固化せず、安定な乳化状態を維持することができる。
【0075】
5.中鎖脂肪酸モノグリセリドの添加の確認
表5に示す配合処方に従い、実施例1の乳化液の調製と同様の操作を行い、各乳化液(実施例22〜24)を調製した。得られた乳化液を用いて下記評価試験を行った。
【0076】
[安定性試験8]
上述の安定性試験1と同様の評価試験を行った。すなわち、各乳化液を2時間室温(20℃)で静置させ、油相と水相への相分離の有無を判別することにより安定性を評価した。評価は次の基準に従い行った(○:分離が見られず安定、×:乳化できない)。
【0077】
【表5】
【0078】
表5に記載した安定性試験8の結果が示すように、中鎖脂肪酸モノグリセリドが添加された場合においても、安定性は維持される。
【0079】
6.抗菌性確認試験
[実施例25の乳化液の調製]
表6に示す配合処方に従い、水中にエチレンオキサイドの平均付加モル数が60であるポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル(ノイゲンHC-600:第一工業製薬株式会社製)を加えて分散液を調製した。さらに90%濃度の乳酸(発酵乳酸90:扶桑化学工業株式会社製)を加えて、酸性の乳化剤分散液とした。
【0080】
次に液状にしたオクタン酸(NAA-82:日油株式会社製)とデカン酸(NAA-102:日油株式会社製)とを混合し、さらに中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(ココナードMT:花王株式会社製)を加えて、乳化対象の混合油とした。
【0081】
常温下で乳化剤分散液を高速撹拌式乳化機(ラボ・リューション/ホモミクサーMARK II:プライミクス株式会社製)を用いて、8000rpmの回転数で撹拌しながら混合油を徐々に添加し、粗粒子の乳化液を得た。さらにこの粗粒子乳化液を高圧式微細化装置(アルティマイザー:株式会社スギノマシン製)に通すことにより、粒子が微細な実施例25の乳化液を得た。この乳化液の1%水希釈液を粒子径測定機(FPAR-1000:大塚電子株式会社製)で測定したところ、乳化物の平均粒子径は300nmであった。
【0082】
[実施例26の乳化液の調製]
表6に示す配合処方に従い、実施例25の乳化液の組成中、90%濃度乳酸を、プロピオン酸(プロサン液状品:東北東ソー化学株式会社製)および90%濃度乳酸と置き換え、さらに混合油中の中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールを植物油(菜種サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)に置き換えて、上記と同様の操作手順にて調製を行い、平均粒子径300nmの微細な実施例26の乳化液を得た。
【0083】
【表6】
【0084】
[抗菌性評価試験方法]
実施例25および26の乳化液を蒸留水にて、主に10倍階段希釈で10000倍まで希釈し、各希釈サンプルに等量の各供試菌(供試菌1:大腸菌 Escherichia coli(O-139型)、供試菌2:サルモネラ菌 Salmonella Infantis)の菌液(約10
3の細菌数に調製した菌液)を加え室温で15分間感作した。感作した液をミュラーヒントン寒天培地に各10μLずつ接種し、37℃の恒温室で24時間培養して、細菌コロニー数を判定した。
【0085】
【表7】
【0086】
実施例25の乳化液は、大腸菌、サルモネラ菌に対して抗菌性を有していることが確認された。実施例26の乳化液も、大腸菌、サルモネラ菌に対して抗菌性を有していることが確認された。中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールの代わりに植物油を添加した場合でも、実施例25と同様に抗菌性を維持できる。