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特開2015-133306コネクタ用電気接点材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-133306(P2015-133306A)
(43)【公開日】2015年7月23日
(54)【発明の名称】コネクタ用電気接点材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/03 20060101AFI20150630BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20150630BHJP
【FI】
   H01R13/03 D
   H01R43/16
   H01R13/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-5554(P2014-5554)
(22)【出願日】2014年1月16日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 滋
【テーマコード(参考)】
5E063
【Fターム(参考)】
5E063GA08
5E063XA04
(57)【要約】
【課題】製造が容易であり、長期間にわたって低い接触抵抗を維持することができるコネクタ用電気接点材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】コネクタ用電気接点材料1は、金属材料よりなる基材2と、基材2上に形成された合金層3と、合金層3の表面に形成された導電性皮膜層4とを有している。合金層3は、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含んでいる。導電性皮膜層4は、Sn32(OH)2の水酸化酸化物を含んでいる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる基材と、
Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含み、上記基材上に形成された合金層と、
Sn32(OH)2の水酸化酸化物を含み、上記合金層の表面に形成された導電性皮膜層とを有することを特徴とするコネクタ用電気接点材料。
【請求項2】
上記導電性皮膜層は、さらにCuOa(a≠1)、ZnOb(b≠1)、CoOc(c≠1)、NiOd(d≠1)及びPdOe(e≠1)から選択される1種又は2種以上の酸化物を含有していることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項3】
2種以上の上記添加元素Mを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項4】
上記合金層は、Cu6Sn5の金属間化合物を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項5】
上記Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換されていることを特徴とする請求項4に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項6】
上記合金層における上記添加元素Mの含有量は1〜50原子%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項7】
上記基材と上記合金層との間に拡散バリア層が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項8】
金属材料よりなる基材上に、Sn層及びM層(ただし、M層は、Cu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種又は2種以上の添加元素Mよりなる1層または2層以上の金属層)を含む2層以上の金属層を、複数の該金属層のうち最も酸化されにくい金属からなる上記金属層が最外層となるように積層した多層金属層を形成し、
その後、該多層金属層を酸化雰囲気下において加熱するリフロー処理を行うことにより、上記基材上に、Sn及び上記添加元素Mを含む合金層を形成し、かつ、該合金層の表面にSn32(OH)2の水酸化酸化物を含む導電性皮膜層を形成することを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項9】
上記リフロー処理により、上記導電性皮膜層に、さらにCuOa(a≠1)、ZnOb(b≠1)、CoOc(c≠1)、NiOd(d≠1)及びPdOe(e≠1)から選択される1種又は2種以上の酸化物を形成することを特徴とする請求項8に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項10】
上記多層金属層には、2層以上の上記M層が含まれることを特徴とする請求項8または9に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項11】
上記リフロー処理により、上記合金層にCu6Sn5の金属間化合物を形成することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項12】
上記リフロー処理により、上記Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換された金属間化合物を形成することを特徴とする請求項11に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ用電気接点材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタ用の電気接点材料としては、Cu(銅)合金が主に用いられている。Cu合金は、その表面に不導体または電気抵抗率が高い酸化皮膜が形成されることにより、接触抵抗の上昇を引き起こし、電気接点材料としての機能低下をもたらすおそれがある。
【0003】
そのため、Cu合金よりなる電気接点材料の表面に、酸化されにくいAu(金)あるいはAg(銀)などの貴金属の層をめっき処理などによって形成することがある。しかし、貴金属層の形成はコストが高いため、一般的には、安価で比較的耐食性の高いSn(スズ)めっきが多用されている。
【0004】
一方、Snめっき膜は、比較的軟らかいため、電気接点材料の表面に設けた場合、早期に摩耗して接触抵抗の上昇を招くおそれがある。さらに、Snめっき膜を設けた電気接点材料を用いた端子は、端子挿入時の挿入力が高くなるという欠点もある。
【0005】
これらの従来の問題点に対応すべく、コネクタ用電気接点材料の最表面にCuSn合金層を形成する技術(特許文献1)、最表面にSnまたはSn合金層を形成し、その下側にCu−Snを主体とする金属間化合物を含む合金層を形成する技術(特許文献2)、Sn系めっき層の上にAg3Sn合金層を形成する技術(特許文献3)などが提案されている。
【0006】
ところが、上記従来の技術では、上述した問題を十分に解決できているとまでは言えない。そこで、本発明者は、鋭意検討し、基材上にNiSnやCuSnなどの合金層を形成した後、その表面に形成されている絶縁性の酸化物層を一旦除去して、再度酸化処理を施す方法を開発した。この方法によれば、合金層の表面に、NiOx(x≠1)とSnOy(y≠1)との混合酸化物層やCuOx(x≠1)とSnOy(y≠1)との混合酸化物または水酸化物からなる層が形成される。これらの酸化物または水酸化物の層は導電性を有し、さらに、一旦形成されるとそれ以上酸化が進行しないため、長期間に亘って導電性を維持することができ、安定して低い接触抵抗を得ることができる。そして、基材上に形成された合金層は硬くて耐摩耗性に優れると共に低摩擦係数であるため、端子挿入時の挿入力を充分に小さくすることができる(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−267418号公報
【特許文献2】特開2011−12350号公報
【特許文献3】特開2011−26677号公報
【特許文献4】特開2012−237055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献4の技術を適用する場合には、絶縁性の酸化物層を一旦除去する工程を設ける必要があるため、工程が煩雑となるという問題がある。このため、合金化に際して形成された絶縁性の酸化物層を一旦除去する工程を設けることなく、安定した接触抵抗を長期間にわたって維持することができ、さらに、表面に容易に導電性の酸化物または水酸化物の層を形成することができるコネクタ用電気接点材料の製造方法の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、製造が容易であり、長期間にわたって低い接触抵抗を維持することができるコネクタ用電気接点材料及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、金属材料よりなる基材と、
Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含み、上記基材上に形成された合金層と、
Sn32(OH)2の水酸化酸化物を含み、上記合金層の表面に形成された導電性皮膜層とを有することを特徴とするコネクタ用電気接点材料にある。
【0011】
本発明の他の態様は、金属材料よりなる基材上に、Sn層及びM層(ただし、M層は、Cu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種又は2種以上の添加元素Mよりなる1層または2層以上の金属層)を含む2層以上の金属層を、複数の該金属層のうち最も酸化されにくい金属からなる上記金属層が最外層となるように積層した多層金属層を形成し、
その後、該多層金属層を酸化雰囲気下において加熱するリフロー処理を行うことにより、上記基材上に、Sn及び上記添加元素Mを含む合金層を形成し、かつ、該合金層の表面にSn32(OH)2の水酸化酸化物を含む導電性皮膜層を形成することを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
上記コネクタ用電気接点材料(以下、適宜「電気接点材料」と省略する。)は、上記合金層の表面に、Sn32(OH)2を含む導電性皮膜層を有している。これにより、上記電気接点材料は、従来のSnめっき膜に比べて高温環境下での耐久性が向上し、長期間に渡って低い接触抵抗を維持することができる。このことは、後述する実施例及び比較例から明らかである。
【0013】
また、上記電気接点材料は、上記多層金属層を形成する工程と、上記リフロー処理を行う工程とを含む上記製造方法を採用することにより、容易に製造することができる。すなわち、従来のような酸化膜除去の工程を実施する必要がなく、上記多層金属層にリフロー処理を施すことにより、上記合金層と、上記特定の水酸化酸化物を含む上記導電性皮膜層とを容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における、電気接点材料の構成を示す説明図。
図2】実施例における、多層金属層の構成を示す説明図。
図3】実施例における、電気接点材料(試料E1)を用いて行ったボルタンメトリー法より得られる電流−電位曲線。
図4】実施例における、電気接点材料(試料E1)を用いて行った耐久性試験の結果を示すグラフ。
図5】比較例における、電気接点材料の構成を示す説明図。
図6】比較例における、電気接点材料(試料C1)を用いて行ったボルタンメトリー法より得られる電流−電位曲線。
図7】比較例における、電気接点材料(試料C1)を用いて行った耐久性試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上記コネクタ用電気接点材料に用いる上記基材は、導電性を有する種々の金属から選択可能である。具体的には、上記基材としては、Cu、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)、またはこれらの金属を含む合金が好適に用いられる。これらの金属材料は、導電性だけではなく、成形性やバネ性にも優れ、種々の態様の電気接点に適用可能である。基材の形状としては、棒状、板状等種々の形状があり、厚み等の寸法は、用途に応じて種々選択可能である。なお、通常、厚みは0.2〜2mm程度とすることが好ましい。
【0016】
上記導電性皮膜層は、上記特定の水酸化酸化物を必須に含み、さらにSn酸化物、Sn水酸化物、添加元素Mの酸化物、添加元素Mの水酸化物及び不可避不純物等の他の化合物を含有し得る。導電性皮膜層の厚みは、5〜500nmが好ましく、10〜200nmがより好ましい。
【0017】
また、上記導電性皮膜層は、さらにCuOa(a≠1)、ZnOb(b≠1)、CoOc(c≠1)、NiOd(d≠1)及びPdOe(e≠1)から選択される1種又は2種以上の酸化物を含有していることが好ましい。上記特定の酸化物は、上記特定の水酸化酸化物と共存することにより、上記導電性皮膜層に上記特定の水酸化酸化物のみが存在する場合に比べて、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。この理由は、以下のように考えられる。
【0018】
上記特定の水酸化酸化物は、高温環境下において、より安定なSnOに変化する。そして、導電性を有する上記特定の水酸化酸化物が不導体であるSnOに変化することにより、接触抵抗が増大する。これに対し、導電性皮膜層に上記特定の水酸化酸化物と上記特定の酸化物とが共存する場合には、上述したSnOへの変化が抑制されると考えられる。これにより、上記電気接点材料は、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができると考えられる。
【0019】
また、上記電気接点材料は、2種以上の添加元素Mを含むことが好ましい。この場合には、上記導電性皮膜層に、2種以上の上記特定の酸化物が形成されやすい。そして、2種以上の上記特定の酸化物が存在することにより、上記特定の水酸化酸化物の変質が抑制され、ひいては高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【0020】
上記合金層は、Snと添加元素Mとの合金より構成されている。Snと添加元素Mとの化学成分比は、上記合金層が導電性を有するように、添加元素Mの種類に応じて適宜設定することができる。
【0021】
例えば、添加元素MがNiの場合には、合金層がNi3Sn4の金属間化合物やNiSn3の金属間化合物を含むようにSnとNiとの化学成分比を設定することが好ましい。また、添加元素MがCuの場合には、合金層がCu6Sn5の金属間化合物を含有するようにSnとCuとの化学成分比を設定することが好ましい。
【0022】
上述した金属間化合物が上記合金層中に存在することにより、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。また、導電性の観点からは、添加元素Mとして導電率の高いCuを含有し、上記合金層がCu6Sn5の金属間化合物を含有することがより好ましい。
【0023】
また、合金層がCu6Sn5を含む場合には、Cu6Sn5におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換されていることが更に好ましい。すなわち、合金層に、(Cu,M’)6Sn5金属間化合物が含まれていることが更に好ましい。この場合には、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。この理由は、以下のように考えられる。
【0024】
Cu6Sn5は、高湿環境下に放置された場合、より抵抗率の大きいCu3Snという別形態の金属間化合物に変化し、これによって接触抵抗が増大する。一方、(Cu,M’)6Sn5金属間化合物は、Cu6Sn5に比べてCu3Snへの変化がより起こりにくく、(Cu,M’)6Sn5の状態をより長期間維持することができると考えられる。これにより、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができると考えられる。
【0025】
また、上記合金層における上記添加元素Mの含有量は、上記合金層に存在する添加元素M及びSnの合計を100原子%とした場合に、1〜50原子%であることが好ましい。この場合には、上記導電性皮膜層に、上記特定の水酸化酸化物と上記特定の酸化物とを確実に共存させることができる。それ故、上記電気接点材料は、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【0026】
また、上記合金層にCu及び置換元素M’が含まれている場合には、Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部が置換元素M’に置換されてなる(Cu,M’)6Sn5金属間化合物を確実に生成させることができる。それ故、上記電気接点材料は、高湿環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【0027】
また、高温環境及び高湿環境における耐久性をより向上させる観点からは、上記添加元素Mの含有量は、上記合金層に存在する添加元素M及びSnの合計を100原子%とした場合に、5〜10原子%の範囲内とすることがより好ましい。
【0028】
また、上記基材と上記合金層との間には、拡散バリア層が設けられていてもよい。拡散バリア層は、基材上に積層される合金層の膨れや剥がれ等を抑制することができる。なお、このような問題が生じない場合には、必ずしも拡散バリア層を設ける必要が無く、その分コストダウンを図ることができる。拡散バリア層としては、Cuめっき層、Niめっき層及びCoめっき層等を用いることができる。例えば、上記基材がCu合金である場合には、厚みが0.5μm程度のCuめっき層を用いることが好ましい。
【実施例】
【0029】
(実施例)
上記コネクタ用電気接点材料及びその製造方法につき、図を用いて説明する。本例の電気接点材料1は、図1に示すように、金属材料よりなる基材2と、基材2上に形成された合金層3と、合金層3の表面に形成された導電性皮膜層4とを有している。合金層3は、Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含んでいる。また、導電性皮膜層4はSn32(OH)2の水酸化酸化物を含んでいる。以下、電気接点材料1の詳細な構成を、製造方法と共に説明する。
【0030】
<製造方法>
[基材2]
基材2としては、黄銅からなる板状材を準備した。なお、基材2の材質及び形態は、用途に応じて種々変更することができる。
【0031】
[多層金属層30の形成]
基材2の表面に電解脱脂処理を実施した後、以下の条件でめっき処理を行い、多層金属層30を形成した。図2に示すように、多層金属層30は、Niめっき層301、Snめっき層302、Znめっき層303及びCuめっき層304が順次積層された4層構造を有しており、Niめっき層301が基材2上に積層され、Cuめっき層304が最表面に配されている。
【0032】
(Niめっき層301の形成)
・めっき浴の液組成
硫酸ニッケル(NiSO4):265g/L
塩化ニッケル(NiCl2):45g/L
ホウ酸(H3BO4):40g/L
・光沢材
・膜厚:1μm
・液温:50℃
・電流密度:0.5A/dm
【0033】
(Snめっき層302の形成)
・めっき浴の液組成
硫酸第1スズ(SnSO4):40g/L
硫酸(H2SO4):100g/L
・光沢材
・膜厚:2μm
・液温:50℃
・電流密度:0.5A/dm
【0034】
(Znめっき層303の形成)
・めっき浴の液組成
塩化亜鉛(ZnCl2):60g/L
塩化ナトリウム(NaCl):35g/L
水酸化ナトリウム(NaOH):80g/L
・膜厚:0.3μm
・液温:25℃
・電流密度:1A/dm
【0035】
(Cuめっき層304の形成)
・めっき浴の液組成
硫酸銅(CuSO4):180g/L
硫酸(H2SO4):80g/L
塩素イオン(Cl-):40mL/L
・膜厚:0.3μm
・液温:20℃
・電流密度:1A/dm
【0036】
なお、多層金属層30を構成するSnめっき層302、Znめっき層303及びCuめっき層304の厚みは、原子比において、(Cu+Zn):Snがほぼ6:5になるように設定している。また、多層金属層30を構成する金属層のうち、最も酸化されにくいCuからなるCuめっき層304が最外層となるように多層金属層30を形成した。
【0037】
[リフロー処理]
次に、多層金属層30を酸化雰囲気下において加熱するリフロー処理を行った。具体的には、大気雰囲気において、多層金属層30を有する基材2を300℃で3分間加熱する熱処理を施した。このリフロー処理により、多層金属層30におけるSnめっき層302、Znめっき層303及びCuめっき層304が、図1に示す合金層3及び導電性皮膜層4に変化した。また、Niめっき層301を構成するNiの一部は合金層3に拡散し、残部が拡散バリア層5となった。合金層3、導電性皮膜層4及び拡散バリア層5の膜厚は、それぞれ、2μm、0.02μm及び0.5μmであった。以上により、電気接点材料1を得た。
【0038】
<組成分析>
次に、電気接点材料1から採取した試料(以下、「試料E1」という。)の組成分析を以下の方法により行った。
【0039】
[合金層3]
EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて合金層3の組成分析を行った。その結果、合金層3には、Sn、Cu、Zn及びNiが存在していると共に、Sn、Cu及びZnが合金化した(Cu,Zn)6Sn5の金属間化合物が存在していることを確認した。
【0040】
[導電性皮膜層4]
XPS(X線光電子分光法)を用いて、導電性皮膜層4の組成分析を行った。その結果、導電性皮膜層4には、Sn、Cu及びZnが存在していることを確認した。しかしながら、これらの元素の化学状態を判別することはできず、Sn、Cu及びZnは、酸化物または水酸化物の状態で存在していることを確認した。なお、XPSでは、酸化物と水酸化物とを分離することが難しいのが実情である。
【0041】
次に、Snの化学状態を決定するため、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて、導電性皮膜層4に存在するSn系化合物の格子定数を測定した。その結果、Sn系化合物の格子定数は0.260〜0.262nmであった。この値に対応するSn系化合物としては、Sn32(OH)2(格子定数0.254nm)及びSnO2(格子定数0.265nm)の2種の化合物が考えられる。しかしながら、格子定数の値からは両者を判別することは困難である。
【0042】
そこで、導電性皮膜層4に存在するSn系化合物の化学状態を更に詳細に分析するために、ボルタンメトリー法を用いた分析を行った。具体的には、0.5mol/LのNH4OH水溶液と0.5mol/LのNH4Cl水溶液との混合水溶液に、電気接点材料1、対極(Pt網)及び基準電極(ビー・エー・エス製、Ag/AgCl(3mol/L NaCl))を浸漬した。この状態において、電気接点材料1の電位を、2mV/sの速度で浸漬した際の電位から掃引し、試料E1に流れる電流を測定した。
【0043】
図3に、ボルタンメトリー法により得られた初期状態の電流−電位曲線(符号60)を示す。図3の縦軸は電流であり、横軸は基準電極と試料E1との電位差である。図3より知られるように、本測定においては、−900mV付近に還元ピーク(符号601)が現れた。一方、特許第5235810号公報等に記載されているように、SnOに対応する還元ピークは−1200mV付近に出現し、SnO2に対応する還元ピークは−1450mV付近に出現することが知られている。従って、試料E1に含まれるSn系化合物は、Sn32(OH)2であると推定できる。
【0044】
また、160℃の高温下に120時間保持する高温耐久試験を行った後の試料E1より得られた電流−電位曲線(符号61)及び温度85℃、相対湿度85%RHの雰囲気下に96時間保持する高湿耐久試験を行った後の試料E1より得られた電流−電位曲線(符号62)を図3に示した。これらの電流−電位曲線の取得方法は、上述のボルタンメトリー法と同一である。
【0045】
図3より知られるように、試料E1は、初期状態(符号60)、高温耐久試験後(符号61)及び高湿耐久試験後(符号62)のいずれの状態においても、Sn32(OH)2に対応する−900mV付近の還元ピーク(符号601)が現れた。また、高湿耐久試験後においては、SnOに対応する小さい還元ピーク(符号621)が現れた。これらの結果から、試料E1は、高温環境下及び高湿環境下のいずれの環境においても、Sn32(OH)2の変質が抑制されていることがわかる。
【0046】
<耐久性試験>
試料E1を用い、初期状態における接触抵抗の測定(初期評価)、高温耐久試験を行った後の接触抵抗の測定(高温耐久試験後評価)及び高湿耐久試験を行った後の接触抵抗の測定(高湿耐久試験後評価)の3種の測定を行った。
【0047】
接触抵抗の測定は、以下の手順により実施した。まず、半径3mmの半球状凸部を備えた硬質Auめっき材を接触子として準備し、上記半球状凸部を測定対象の試料に当接させた。この状態から、試料E1と接触子との間に付与する荷重を徐々に増加させ、荷重が1Nのときの接触抵抗を測定した。その結果を図4に示す。なお、図4の縦軸は、接触抵抗の値である。
【0048】
図4より知られるように、試料E1は、初期評価、高温耐久試験後評価及び高湿耐久試験後評価のいずれの評価においても、接触抵抗が10mΩ未満であった。この結果は、コネクタ端子に要求される性能を十分に満足するものである。
【0049】
(比較例)
比較例の電気接点材料100(以下、「試料C1」という。)として、図5に示す、基材2の表面にSnめっき層311及びリフロー処理によって生じた酸化皮膜312のみを有するものを準備した。すなわち、試料C1は、実施例1において、Snめっき層302のみを基材2上に形成した後、リフロー処理を実施することにより作製した。
【0050】
<組成分析>
実施例と同様にボルタンメトリー法による分析を行った。その結果を図6に示す。図6の縦軸は電流であり、横軸は基準電極と試料C1との電位差である。
【0051】
図6より知られるように、試料C1は、初期状態(符号70)においてはSn32(OH)2に対応する−900mV付近の還元ピーク(符号701)が現れ、酸化皮膜312中にSn32(OH)2が存在していると推定された。
【0052】
一方、高温耐久試験後(符号71)においては、−900mV付近の還元ピーク(符号701)がショルダー(符号711)に変化し、SnOに対応する−1200mV付近の還元ピーク(符号712)が現れた。同様に、高湿耐久試験後(符号72)においては、−900mV付近の還元ピーク(符号701)が消失し、SnOに対応する−1200mV付近の還元ピーク(符号722)が現れた。これらの結果から、Snめっき層311及び酸化皮膜312のみを有する従来の電気接点材料100(試料C1)は、高温環境または高湿環境において、Sn32(OH)2からSnOへの変質が起きたと推定できる。
【0053】
<耐久性試験>
実施例1と同様に、試料C1を用い、初期状態における接触抵抗の測定(初期評価)、高温耐久試験を行った後の接触抵抗の測定(高温耐久試験後評価)及び高湿耐久試験を行った後の接触抵抗の測定(高湿耐久試験後評価)の3種の測定を行った。
【0054】
図7より知られるように、試料C1は、初期評価においては、接触抵抗が10mΩ未満であったが、高温耐久試験後評価及び高湿耐久試験後評価においては、接触抵抗が10mΩ以上となった。特に、高温耐久試験後において接触抵抗が初期評価の10倍程度に増大したことから、高温環境下での耐久性が極めて低いことがわかる。
【符号の説明】
【0055】
1 電気接点材料
2 基材
3 合金層
4 導電性皮膜層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2014年11月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる基材と、
Snを必須に含有し、さらにCu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の添加元素Mを含み、上記基材上に形成された合金層と、
Sn32(OH)2の水酸化酸化物を含み、上記合金層の表面に形成された導電性皮膜層とを有することを特徴とするコネクタ用電気接点材料。
【請求項2】
上記導電性皮膜層は、さらに、1種または2種以上の上記添加元素Mを酸化物または水酸化物の形態で含有していることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項3】
2種以上の上記添加元素Mを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項4】
上記合金層は、Cu6Sn5の金属間化合物を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項5】
上記Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換されていることを特徴とする請求項4に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項6】
上記合金層における上記添加元素Mの含有量は1〜50原子%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項7】
上記基材と上記合金層との間に拡散バリア層が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項8】
金属材料よりなる基材上に、Sn層及びM層(ただし、M層は、Cu、Zn、Co、Ni及びPdから選択される1種又は2種以上の添加元素Mよりなる1層または2層以上の金属層)を含む2層以上の金属層を、複数の該金属層のうち最も酸化されにくい金属からなる上記金属層が最外層となるように積層した多層金属層を形成し、
その後、該多層金属層を酸化雰囲気下において加熱するリフロー処理を行うことにより、上記基材上に、Sn及び上記添加元素Mを含む合金層を形成し、かつ、該合金層の表面にSn32(OH)2の水酸化酸化物を含む導電性皮膜層を形成することを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項9】
上記リフロー処理により、上記添加元素Mの酸化物または水酸化物を上記導電性皮膜層中に形成することを特徴とする請求項8に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項10】
上記多層金属層には、2層以上の上記M層が含まれることを特徴とする請求項8または9に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項11】
上記リフロー処理により、上記合金層にCu6Sn5の金属間化合物を形成することを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項12】
上記リフロー処理により、上記Cu6Sn5金属間化合物におけるCuの一部がZn、Co、Ni及びPdから選択される1種または2種以上の置換元素M’に置換された金属間化合物を形成することを特徴とする請求項11に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0017
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0017】
また、上記導電性皮膜層は、さらに、1種または2種以上の上記添加元素Mを酸化物または水酸化物の形態で含有していることが好ましい。添加元素Mの酸化物または水酸化物は、例えば、CuOa(a≠1)、ZnOb(b≠1)、CoOc(c≠1)、NiOd(d≠1)及びPdOe(e≠1)等の組成式で表される。添加元素Mの酸化物や水酸化物は、上記特定の水酸化酸化物と共存することにより、上記導電性皮膜層に上記特定の水酸化酸化物のみが存在する場合に比べて、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。この理由は、以下のように考えられる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
上記特定の水酸化酸化物は、高温環境下において、より安定なSnOに変化する。そして、導電性を有する上記特定の水酸化酸化物が不導体であるSnOに変化することにより、接触抵抗が増大する。これに対し、導電性皮膜層に上記特定の水酸化酸化物と添加元素Mの酸化物や水酸化物とが共存する場合には、上述したSnOへの変化が抑制されると考えられる。これにより、上記電気接点材料は、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができると考えられる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0019
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0019】
また、上記電気接点材料は、2種以上の添加元素Mを含むことが好ましい。この場合には、上記導電性皮膜層に、2種以上の添加元素Mが酸化物または水酸化物の形態で形成されやすい。そして、2種以上の添加元素Mが酸化物または水酸化物の形態で存在することにより、上記特定の水酸化酸化物の変質が抑制され、ひいては高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
また、上記合金層における上記添加元素Mの含有量は、上記合金層に存在する添加元素M及びSnの合計を100原子%とした場合に、1〜50原子%であることが好ましい。この場合には、上記導電性皮膜層に、上記特定の水酸化酸化物と添加元素Mの酸化物や水酸化物とを確実に共存させることができる。それ故、上記電気接点材料は、高温環境下において低い接触抵抗をより長期間維持することができる。