(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-133397(P2015-133397A)
(43)【公開日】2015年7月23日
(54)【発明の名称】マグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子
(51)【国際特許分類】
H01L 43/00 20060101AFI20150630BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20150630BHJP
【FI】
H01L43/00
G01R33/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-3884(P2014-3884)
(22)【出願日】2014年1月14日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】何 東風
(72)【発明者】
【氏名】志波 光晴
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AC06
2G017AD44
2G017AD47
2G017BA05
5F092AA01
5F092AB01
5F092AC01
5F092BD04
5F092BD19
5F092BD20
5F092BE06
5F092EA08
(57)【要約】
【課題】小型かつ高感度であり、磁気顕微鏡および高空間分解能の渦電流非破壊評価に適用して好適なマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子を提供すること。
【解決手段】本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子は、磁性アモルファスワイヤ2に卷回するコイル3に高周波電流I
ACを印加して、コイル3に発生する高周波電圧V
ACの振幅は外部磁場とともに変化するマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子であって、磁性アモルファスワイヤ2に電気接続が無いことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性アモルファスワイヤに卷回するコイルに高周波電流を印加して、前記コイルに発生する高周波電圧の振幅は外部磁場とともに変化するマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子において、
前記磁性アモルファスワイヤに電気接続が無いことを特徴とするマグネトインピーダンス磁気センサー素子。
【請求項2】
前記磁性アモルファスワイヤの長さが1mm乃至10mmであり、前記磁性アモルファスワイヤの直径が10μm乃至1mmであると共に、
前記コイルの卷数が10乃至200であることを特徴とする請求項1に記載のマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子。
【請求項3】
前記コイルに印加する直流電流によって、前記磁性アモルファスワイヤに対するバイアス静磁場を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子。
【請求項4】
単一のコイルが、励起コイル、検知コイルおよびバイアス磁場コイルを兼用することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子。
【請求項5】
前記コイルの一端は接地されており、前記コイルの他端は第1のコンデンサーを介して前記高周波電流が供給されると共に、第2のコンデンサーを介して前記高周波電圧を発生することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子。
【請求項6】
前記コイルの一端は接地されており、前記コイルの他端は第1のコンデンサーを介して前記高周波電流が供給されると共に、第2のコンデンサーを介して前記高周波電圧を発生し、
さらに、前記コイルの他端と前記第2のコンデンサーの接続点にインダクタが接続されていると共に、このインダクタを介して前記直流電流を印加することを特徴とする請求項3又は4に記載のマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気顕微鏡および高空間分解能の渦電流非破壊評価に用いて好適なマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平7−181239号には、アモルファスワイヤによる磁気インピーダンス効果を利用した磁気検出素子(以下「MI素子」という)が開示されている。磁気インピーダンス効果とは、磁性体にMHz帯域の高周波電流を流すと外部磁界により磁性体のインピーダンスが変化し、それによる磁性体両端電圧の振幅が数ガウス程度の微小磁界で数10%変化する現象である。
【0003】
図7は、従来公知のマグネトインピーダンス(以下MIと略す)センサー素子を説明する構成図である。従来のMI磁気センサー素子aは、
図7(a)に示すようなMIセンサー素子が知られており、例えば非特許文献1に開示されていると共に、アモルファスワイヤに高周波電流を印加して使用する。従来のMI磁気センサー素子aは、アモルファスワイヤ18とそれに接続される結線から構成されている。MI磁気センサー素子aのアモルファスワイヤ用電極端子19は接地側に位置し、その電極端子20は高周波電流I
ACの供給側に位置している。MI磁気センサー素子aの電圧用電極端子21は電極端子19に接続され、その電極端子22は電極端子20と接続されている。このように構成されたMI磁気センサー素子aにおいては、アモルファスワイヤ18の電圧V
ACの振幅は外部磁界とともに変化する。
【0004】
また、従来のMI磁気センサー素子bは、
図7(b)に示すようなMIセンサー素子が知られており、例えば特許文献1、特許文献2、非特許文献2に開示されていると共に、アモルファスワイヤに高周波電流を印加して使用する。そして、MI磁気センサー素子bのアモルファスワイヤ用電極端子26は接地側に位置し、その電極端子27は高周波電流I
ACの供給側に位置している。MI磁気センサー素子bの検出コイル用電極端子28は高周波電圧V
ACの基準電位側、その電極端子29は高周波電圧V
ACの変動電位側と接続されている。このように構成された従来のMI磁気センサー素子bにおいては、アモルファスワイヤ24に卷回した検出コイル25に外部磁場強さに対応する電圧振幅の変化を発生させる。
【0005】
ところで、磁気顕微鏡および高空間分解能の渦電流非破壊評価に磁気センサー素子を用いる場合に、MI磁気センサーはサンプルにより接近していることが望まれる。他方で、従来のセンサー素子については、アモルファスワイヤを電気的に接続することが必要であり、その結果、電気接続によって材料のジュール熱損失を引き起こすと共に、MIセンサーとサンプルの間の距離は大きくなるという課題がある。それ故に、現在のところ、従来のMIセンサーは、磁気顕微鏡および高空間分解能の渦電流非破壊評価に適用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2008−134236号公報
【特許文献2】特開平2009−300093号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.V.Panina,K.Mohri, K.Bushida and M.Noda,J.Appl.Phys.76,6198−6203(1994).
【非特許文献2】K.Mohri,F.B.Humphrey,L.V.Panina,Y.Honkura,J.Yamasaki,T.Uchiyama,and M.Hirami,Phys.Status Solidi 206,601−607(2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決したもので、小型かつ高感度であり、磁気顕微鏡および高空間分解能の渦電流非破壊評価に適用して好適なマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子は、例えば
図1に示すように、磁性アモルファスワイヤ2に卷回するコイル3に高周波電流I
ACを印加して、コイル3に発生する高周波電圧V
ACの振幅は外部磁場とともに変化するマグネトインピーダンスを用いた磁気センサー素子であって、磁性アモルファスワイヤ2に電気接続が無いことを特徴とする。
【0010】
本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子において、好ましくは、磁性アモルファスワイヤ2の長さが1mm乃至10mmであり、磁性アモルファスワイヤ2の直径が10μm乃至1mmであると共に、コイル3の卷数が10乃至200であるとよい。
本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子において、好ましくは、コイル3に印加する直流電流によって、磁性アモルファスワイヤ2に対するバイアス静磁場を印加する構成とするとよい。
本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子において、好ましくは、単一のコイルが、励起コイル、検知コイルおよびバイアス磁場コイルを兼用するとよい。
【0011】
本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子において、好ましくは、例えば
図1に示すように、コイル3の一端は接地されており、コイル3の他端は第1のコンデンサーC1を介して高周波電流I
ACが供給されると共に、第2のコンデンサーC2を介して高周波電圧V
ACを発生する構成とするとよい。
【0012】
本発明のマグネトインピーダンス磁気センサー素子において、好ましくは、例えば
図1に示すように、コイル3の一端は接地されており、コイル3の他端は第1のコンデンサーC1を介して高周波電流I
ACが供給されると共に、第2のコンデンサーC2を介して高周波電圧V
ACを発生する構成とし、さらに、コイル3の他端と第2のコンデンサーC2の接続点にインダクタLが接続されていると共に、このインダクタLを介して直流電流I
DCを印加する構成とするとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMI磁気センサー素子では、磁性アモルファスワイヤに対して電気的な接続は無いので、MIセンサーとサンプルの間の距離は小さくなり得る。従来のMIセンサーと比較して、本発明のMIセンサーは、磁気顕微鏡および高空間分解能渦電流を用いた非破壊検査(NDE:Non Destructive Examination)に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施例を説明するマグネトインピーダンス(MI)を用いた磁気センサー素子の要部回路図である。
【
図2】本発明の一実施例を説明する回路図で、MI磁気センサー素子を用いて構成された磁気検出器の全体回路ブロック図を示している。
【
図3】
図2の装置における、外部磁場の変化に応じた出力電圧の応答を示す図である。
【
図4】
図2の磁気検出器の出力電圧の周波数応答図である。
【
図5】
図2の磁気検出器におけるノイズスペクトラムの一例を説明する図で、(a)は磁気シールドボックス中で計測した場合、(b)は磁気シールドが無い実験室で計測した場合を示している。
【
図6】本発明の一実施例を説明する要部拡大図で、MI磁気センサー磁気顕微鏡に適用される場合を示している。
【
図7】従来のMI磁気センサー素子を説明する要部回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を説明する。
なお、本明細書において、『磁気インピーダンス素子』は、アモルファス合金ワイヤなどの高透磁率合金磁性体の磁気インピーダンス効果を基礎に、パルス通電磁気インピーダンス効果をCMOS電子回路で実現した新原理の高感度マイクロ磁気センサーをいう。
『磁気インピーダンス効果』は、広義には、外部磁場の関数として、ある材料の電気的インピーダンスが大きく変化することをいう。なお、狭義の『磁気インピーダンス効果』は、磁性体にMHz帯域の高周波電流を流すと外部磁界により磁性体のインピーダンスが変化し、それによる磁性体両端電圧の振幅が数ガウス程度の微小磁界で数10%変化する現象である(特開平7−181239号、特開平9−127218号)。
【0016】
図1は、本発明のマグネトインピーダンス(MI)を用いた磁気センサー素子の要部回路図である。磁性アモルファスワイヤ2は、例えばFe−Co−B系アモルファス材料からなる線材である。なお、磁性アモルファスワイヤ2は、Fe−Ta−N系、Fe−Ta−C系等の微結晶膜などの高透磁率金属磁性膜を有するものであってもよく、要は磁気抵抗変化が生ずる線材であればよい。磁性アモルファスワイヤ2の長さが1mm乃至10mmであり、磁性アモルファスワイヤ2の直径が10μm乃至1mmである。磁性アモルファスワイヤ2は、特段の電気的な接続線は接続されておらず、そこで接地もされていない。
【0017】
コイル3は、磁性アモルファスワイヤ2の周面を卷回する状態で装着されている。コイル3の卷数は10乃至200であるとよい。コイル3の一端7は接地されており、コイル3の他端は第1のコンデンサーC1を介して高周波電流I
ACが供給されると共に、第2のコンデンサーC2を介して高周波電圧V
ACを発生する構成とし、さらに、コイル3の他端と第2のコンデンサーC2の接続点にインダクタLが接続されていると共に、このインダクタLを介して直流電流I
DCを印加する構成としている。
【0018】
このように構成された装置においては、磁性アモルファスワイヤ2に対して電気接続は無い。磁性アモルファスワイヤ2に卷回するコイル3に高周波電流I
ACを印加すると、高周波電圧V
ACの振幅は外部磁場とともに変化する。バイアス静磁場は同じコイル3に印加する直流電流I
DCによって供給される。コンデンサーC1、C2とインダクタLを利用して、高周波電流I
AC、高周波電圧V
ACおよび直流電流I
DCの信号が分離される。
【0019】
続いて、MI素子の動作原理を説明する。式(1)は、コイル3のインダクタンスを示す。ここで、Lはコイル3のインダクタンス、l(エル)はコイル3の長さ、Nはコイル3の卷数、Sはコイル3の横断面積、μ
0は真空の透磁率、μ
rは比透磁率、2Rはアモルファスワイヤの直径、κは2R/lによって決定された因子である。
【数1】
【0020】
式(2)は、コイル3のインピーダンスを示す。Zはコイル3のインピーダンス、ωは周波数である。コイル3に高周波電流I
AC=Ie
jωtを印加する場合、コイルの電圧V
AC は式(3)によって示される。Iは電流I
ACの振幅、Vは電圧V
ACの振幅である。
【数2】
【0021】
磁性アモルファスワイヤのM−Hカーブの非線形により、アモルファスワイヤの比透磁率μ
r=dM/dHは外部磁場により変化する。そして、コイルのインピーダンスと電圧も外部磁場とともに変化する。これが、本発明のMIセンサーの原理である。
【0022】
図2は、本発明のMI磁気センサー素子を利用して構築された磁気検出器の回路図である。磁性アモルファスワイヤ2の長さは5mm、直径は100μmであり、またアモルファスワイヤに卷回するコイルの卷数は30である。コイル3に印加する電流の周波数は1MHzである。バイアス靜磁場は同じコイルに印加する直流電流I
DCによって提供される。バイアス靜磁場の強さは約2.5Gaussである。
信号発生器11が、第1のコンデンサーC1を介してコイル3の他端に接続されている。プリアンプ12は、高周波電圧V
ACを入力して、復調器13に出力する。そして、復調器13とアンプ14を介して出力電圧Voutが出力される。直流電流I
DCはインダクタLを介してコイル3の他端に供給されている。コイル3の電圧は低ノイズのプリアンプ12に送られて、復調器13を経由後、出力電圧Voutを測定することにより外部磁界の変化を測定する。
【0023】
図3は、外部磁場とともに変化する出力電圧を示している。−2Gaussと+2Gaussの間の外部磁場において、出力電圧の応答は線形である。
図4は、磁気検出器の周波数レスポンスを示している。-3dBの帯域幅は約25kHzである。
【0024】
図5(a)は、構築された磁気検出器を使って、1mmパーマロイ磁気シールドボックス中で計測したノイズスペクトラムである。白色雑音領域では30pT/√Hzであり、また1Hzでの雑音レベルは70pT/√Hzである。構築された磁気検出器は磁気シールド無しでよく作動する。
図5(b)は、実験室で測定されたノイズスペクトラムである。
【0025】
図6は、本発明のMIセンサーを用いた磁気顕微鏡の例を説明する構成図である。磁気顕微鏡の空間分解能を増加させるためには、アモルファスワイヤの先端を鋭く尖らせることが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のMI磁気センサー素子により、高感度磁気検出器を構築することができる。この検出器は、地質探査、医療診断、安全管理、非破壊評価などの様々な領域で応用可能である。また、磁性アモルファスワイヤに電気接続は無いので、本発明のMIセンサー素子は、磁気顕微鏡および高空間分解能渦電流非破壊評価に適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1: マグネトインピーダンス(MI)磁気センサー素子
2: 磁性アモルファスワイヤ
3: コイル
4、5: コンデンサーC1、C2
6: インダクタL
I
AC: 高周波電流
I
DC: 直流電流
V
AC: 高周波電圧