特開2015-133430(P2015-133430A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

特開2015-133430電極構造、その製造方法、及びそれを有する色素増感型太陽電池
<>
  • 特開2015133430-電極構造、その製造方法、及びそれを有する色素増感型太陽電池 図000003
  • 特開2015133430-電極構造、その製造方法、及びそれを有する色素増感型太陽電池 図000004
  • 特開2015133430-電極構造、その製造方法、及びそれを有する色素増感型太陽電池 図000005
  • 特開2015133430-電極構造、その製造方法、及びそれを有する色素増感型太陽電池 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-133430(P2015-133430A)
(43)【公開日】2015年7月23日
(54)【発明の名称】電極構造、その製造方法、及びそれを有する色素増感型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20150630BHJP
【FI】
   H01G9/20 111D
   H01G9/20 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-4640(P2014-4640)
(22)【出願日】2014年1月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構最先端研究開発支援プログラム(低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】福島 岳行
(72)【発明者】
【氏名】染井 秀徳
(57)【要約】
【課題】色素増感型太陽電池における集電体の腐食を効果的に防止し得る新たな電極構造及びその製造方法の提供。
【解決手段】透明導電膜1と、その上に形成された金属からなる集電体層2と、を有し、透明導電膜1上の集電体層2の近傍にシロキサン含有層3と熱可塑性樹脂層4とがこの順序で積層されてなる、電極構造。当該電極構造は、好適には、透明導電膜1上に金属からなる集電体層2を形成し、透明導電膜1上の集電体層2の近傍にシロキサン含有層3を形成し、シロキサン含有層3上に熱可塑性樹脂層4を形成することにより製造される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜と、その上に形成された金属からなる集電体層と、を有し、
透明導電膜上の集電体層の近傍にシロキサン含有層と熱可塑性樹脂層とがこの順序で積層されてなる、
電極構造。
【請求項2】
シロキサン含有層と熱可塑性樹脂層とが積層されてなる領域から集電体層の一部が突出している請求項1記載の電極構造。
【請求項3】
さらに、集電体層上の少なくとも一部にもシロキサン含有層と熱可塑性樹脂層とがこの順序で積層されてなる、請求項1又は2記載の電極構造。
【請求項4】
負極と酸化物半導体層との積層体と、正極と、前記積層体と正極との間に封入された流動性電解質とを有し、負極の少なくとも一部に請求項1〜3のいずれか1項記載の電極構造が形成されてなる、色素増感型太陽電池。
【請求項5】
熱可塑性樹脂層と酸化物半導体層との接触部分を有する請求項1〜4のいずれか1項記載の色素増感型太陽電池。
【請求項6】
透明導電膜上に金属からなる集電体層を形成し、
透明導電膜上の集電体層の近傍にシロキサン含有層を形成し、
シロキサン含有層上に熱可塑性樹脂層を形成する、
電極構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池(以下、「DSSC」ともいう。)に好適な電極構造、その製造方法、及びそれを有する太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池(以下DSSC)は、透明導電膜が形成された透光性基板の透明導電膜上に増感色素が担持された金属酸化物層を形成することで作製した発電電極(負極)と、触媒金属が形成された対向電極(正極)とを対向させた構造を有する。対向させた両電極間に電解質を含有した電解液を内包している。DSSCに光が照射されると、金属酸化物層である酸化チタンに吸着した色素が電子励起を起こし、励起電子が酸化チタンの伝導帯に注入され、電子が酸化チタンから透明導電膜であるITOやFTOに移動し、電流として取り出すことができる。
【0003】
DSSCの更なる変換効率向上のため、ガラス製の透光性基板の透明導電膜上に太い帯状の金属電極(バスバー電極)や細い筋状の金属電極(フィンガー電極)等を形成して、透明導電膜に起因した内部抵抗を減少することが考案されている。この場合、金属電極自体は電解質溶液への耐性が小さいため、金属電極の腐食等の新たな問題が生じており、金属電極の腐食の問題を解決するために、金属電極を熱可塑性樹脂によって保護する例が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−243557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記腐食問題の解消のために、負極側の透明導電膜上および正極の対向電極上に設置された網状の銅集電体を、熱可塑性樹脂で被覆することにより封止する提案がある。しかしながら、熱可塑性樹脂による封止のみでは腐食問題を防ぎ切れないことが本発明者らの研究により判明した。そのような状況をかんがみて、本発明は、DSSCにおける集電体の腐食を効果的に防止し得る新たな電極構造、その製造方法及びそのような電極構造を有するDSSCの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下の発明を完成した。
本発明の電極構造は、透明導電膜と、その上に形成された金属からなる集電体層と、を有し、透明導電膜上の集電体層の近傍にシロキサン含有層と熱可塑性樹脂層とがこの順序で積層されている。
シロキサン含有層と熱可塑性樹脂層とが積層されてなる領域から集電体層の一部が突出していてもよい。
さらに、集電体層上の少なくとも一部にもシロキサン含有層と熱可塑性樹脂層とがこの順序で積層されていてもよい。
このような電極構造は、好適には、透明導電膜上に金属からなる集電体層を形成し、透明導電膜上の集電体層の近傍にシロキサン含有層を形成し、シロキサン含有層上に熱可塑性樹脂層を形成することにより製造される。
本発明によれば、負極と酸化物半導体層との積層体と、正極と、前記積層体と正極との間に封入された流動性電解質とを有し、負極の少なくとも一部に上述の電極構造が形成されてなる、色素増感型太陽電池も提供される。ここで、熱可塑性樹脂層と酸化物半導体層との接触部分が存在していてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、透明導電膜であるITOやFTOなどの表面にシロキサン含有層を形成することで、ITOやFTOなどの表面とシロキサン含有層との間に強固な結着力を生じさせることができ、また、そのシロキサン含有層に隣接して熱可塑性樹脂層が形成されるので、シロキサン含有層と熱可塑性樹脂との間にも強固な結着力が生じる。これにより、これまで熱可塑性樹脂単独では困難とされていた集電体層の保護が可能となる。とりわけ、液状の電解質が集電体層の下側、つまり、透明導電膜との境界部分からしみ込んで侵食することが効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の電極構造の模式断面図である。
図2】本発明の電極構造の模式断面図である。
図3】本発明の色素増感型太陽電池の模式断面図である。
図4】実施例における電極の評価の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を適宜参照しながら本発明を詳述する。但し、本発明は図示された態様に限定されるわけでなく、また、図面においては発明の特徴的な部分を強調して表現することがあるので、図面各部において縮尺の正確性は必ずしも担保されていない。
【0010】
図1は、本発明の電極構造の模式断面図である。この電極構造は、透明導電膜1および集電体層2を有する。集電体層2は、透明導電膜1の上に形成された金属からなる。透明導電膜1の上には、集電体層2の近傍に、シロキサン含有層3と熱可塑性樹脂層4とがこの順序で積層されてなる。換言すると、集電体層2の近傍に、透明導電膜1、シロキサン含有層3、熱可塑性樹脂層4がこの順序で積層してなる積層構造が存在する。前記積層構造においては、シロキサン含有層3は、透明導電膜1および熱可塑性樹脂層4に直接接触するように挟まれて存在することが好ましい。
【0011】
シロキサン含有層3は、透明導電膜1および熱可塑性樹脂層4と相互に強固に結合するため、集電体層2と透明導電膜1との界面付近からの液状体の浸入を効果的に防ぐことができる。よって、例えば、DSSCにおいて流動性電解質を用いる場合に、その流動性電解質が集電体層2と透明導電膜1との界面付近に達することが抑制されるため、流動性電解質に集電体層2を侵食する物質が含まれていても、集電体層2への侵食が効果的に抑制される。
【0012】
図2(A)〜(D)はいずれも本発明の電極構造の模式断面図である。図2(A)は、集電体層2とシロキサン含有層3とは接しておらず、距離Tだけ離れている。本発明では、上述した、透明導電膜1、シロキサン含有層3および熱可塑性樹脂層4からなる積層構造は集電体層2の近傍に存在しており、好ましくは、前記積層構造は集電体層2に接している(つまり、T=0)。しかし、例えば、シロキサン含有層3の形成のためにスプレー法を行う場合などを考慮すると、前記積層構造は集電体層2からやや離れていてもよい。集電体層2と透明導電膜1との界面からの液状体の侵食を防ぐ観点から、上記Tはできるだけ小さいことが好ましく、具体的には、例えば、1mm以下であり、より好ましくは100μm以下である。
【0013】
図2(B)の形態では、透明導電膜1、シロキサン含有層3および熱可塑性樹脂層4からなる積層構造と、集電体層2とが接していて、上述のTはゼロである。なお、図2(B)の形態では、集電体層2の上にはシロキサン含有層3が形成されておらず、集電体層2の上には熱可塑性樹脂層4が直接形成されている。
【0014】
図2(C)の形態では、透明導電膜1、シロキサン含有層3Aおよび熱可塑性樹脂層4からなる積層構造と、集電体層2とが距離Tだけ離れている。Tの距離に関しては、図(A)に準ずる。この形態では、集電体層2の上にもシロキサン含有層3Bが形成され、そのうえに熱可塑性樹脂層4が形成している。集電体層2の上にシロキサン含有層3Bが形成されることで、集電体層2の上部分においても強固な結合が形成されることになり、集電体層2の上側からの侵食に対して強い耐性が備えられる。集電体層2の上にシロキサン含有層3Bを形成する場合、集電体層2の上面の全面あるいは少なくとも一部にシロキサン含有層3Bが形成されていてもよい。
【0015】
図2(D)の形態では、集電体層2の側面および上面を全て取り囲むようにシロキサン含有層3が形成され、その上に熱可塑性樹脂層4が形成されている。よって、透明導電膜1、シロキサン含有層3および熱可塑性樹脂層4からなる積層構造は、集電体層2に接して存在していると解釈することができる。また、この形態では、集電体層2の上にも、シロキサン含有層3と熱可塑性樹脂層4からなる積層構造が存在している。
【0016】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、加熱によって軟化して可塑性を示し冷却によって固化する性質をもつ樹脂であり、紫外線による硬化を必要とせず、酸性又はアルカリ性を呈する官能基を側鎖にもつポリマーが好適に用いられる。熱可塑性樹脂の基本骨格は特に限定無く、好ましくはポリオレフィン骨格、ポリオキシアルキレン骨格、セルロース骨格、ポリイミド骨格などが非限定的に挙げられる。側鎖にもつ官能基としては、好適にはカルボキシル基、りん酸基、ホスホン酸基などが非限定的に挙げられる。熱可塑性樹脂は、変性された樹脂であってもよいし、変性されていなくてもよい。具体的な樹脂としては、アイオノマー樹脂、ポリエチレングリコール共重合体、メチルセルロース共重合体、エチルセルロース共重合体、ポリフッ化ビニリデン共重合体、ポリメチルメタクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル共重合体、ポリオレフィン共重合体、けん化メチルセルロース、けん化エチルセルロース、変性ポリフッ化ビニリデン、けん化ポリメチルメタクリレート、けん化ポリアクリロニトリル、変性ポリオレフィン、変性ポリイミド、変性ポリオレフィン共重合体、変性ポリイミド共重合体、ポリアミドイミド、変性ポリアミドイミド、変性ポリテトラフルオロエチレン、けん化ポリビニルアルコール、けん化ポリビニルブチラート等が非限定的に挙げられる。
【0017】
本発明によれば、透明導電膜1と熱可塑性樹脂層4との間の少なくとも一部にシロキサン含有層3が設けられる。シロキサンはケイ素と酸素を骨格とする物質であり、Si−O−Si結合(シロキサン結合)を持つ。好適には、シロキサン含有層3は、ケイ素原子に1〜3個の有機基が結合し、単独のシロキサン化合物からシロキサン結合が長く連なり高分子となった有機ポリシロキサンまでを含む化合物からなる層である。シロキサン結合においては水素結合を生じるため、透明導電膜1との結合性の向上が期待され、また、ケイ素原子に結合した有機基は上述の熱可塑性樹脂層4との親和性の向上が期待される。よって、熱可塑性樹脂層4と透明導電膜1との結合力が向上し、集電体層2を流動性電解質などからの侵食から保護する能力の向上が期待される。
【0018】
シロキサン含有層3の形成方法は特に限定はなく、好ましくは、シランカップリング剤の塗布・乾燥によりなされる。透明導電膜1にシランカップリング剤をアルコールあるいはアルコールと水の混合溶媒に希釈したものを塗布して、それを大気中で乾燥させることにより、シランカップリング剤における加水分解反応と脱水縮合反応が進行し、上述のシロキサン結合が形成してシロキサン含有層が形成される。上述のようにシランカップリング剤を塗布する代わりに、シランカップリング剤を含む溶液をスプレー等で透明導電膜1上に散布してもよい。シロキサン含有層3の存在は断面のSEM像や化学分析などにより検知することができる。ここで用いるシランカップリング剤としては、アルキルアミンやエポキシ基を有するシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤に由来するシロキサン含有層3の存在により、強固な接着性と集電体層2の高度な保護とを両立することができる。
【0019】
図3は、本発明のDSSCの模式断面図である。DSSCは対向する一対の電極を有する。電極を構成する基板10・20は典型的には板状であり、電解質の浸透を防ぐものであれば、形態や材質には特に限定は無い。図3の形態では、片方の基板は透明基板10と透明導電膜1との積層体からなり、対向する他方の電極基板20が別途存在する。図示されるように、一対の基板の片方又は両方は複数の層や膜からなる積層体であってもよい。基板は硬質基板であってもよいし、可撓性をもつ基板(いわゆるフレキシブル基板)であってもよい。DSSCでは、酸化物半導体層50が積層されている電極基板10・1が負極として作用し、対向する電極基板20が正極として作用する。DSSCでは、負極10・1と酸化物半導体層50との積層体と、正極20と、の間に流動性電解質30が封入される。
【0020】
DSSCでは電解質は何らかの媒体と共存させて使用するのが一般的である。電解質そのものが流動可能であるか、あるいは、電解質を流動可能な媒体と共存させたものを流動性電解質とよぶ。流動可能な形態としては、例えば、液体、ゲル状態、などの形態が特に限定無く挙げられる。流動性電解質30の具体的な態様については、DSSCにおける従来技術を適宜参照することができる。
【0021】
負極としての透明基板10としてはガラスやプラスチックからなるものが非限定的に挙げられる。透明導電膜1としては、ITOやFTOなどが非限定的に挙げられる。透明導電膜1に隣接して好適に設けられる酸化物半導体層50は発電層として作用し、材質としては、酸化チタンから構成される多孔質膜や、酸化亜鉛から構成される多孔質膜などが非限定的に挙げられる。本発明では、負極部分に上述した電極構造を採り入れる。すなわち、負極として透明導電膜1を用い、集電体層2を形成し、上述したシロキサン含有層3と熱可塑性樹脂層4との積層構造が集電体層2の近傍に形成される。負極積層される半導体層50と熱可塑性樹脂層4とが接していてもよい。DSSCの流動性電解質30を封止するための封止樹脂40として、上述の電極構造において使用した熱可塑性樹脂4と同じ樹脂を用いることもできる。
【0022】
正極については、DSSCに関する従来技術を適宜参照することができ、例えば、電極基板20と触媒層(図示せず)との積層体を正極として用いることが挙げられる。
【0023】
図3の形態では、シロキサン含有層3と熱可塑性樹脂層4とが積層されてなる領域から集電体層2の一部が突出している。
【0024】
本発明の電極構造の製造方法によれば、透明導電膜1に集電体層2を形成する。集電体層2は金属から形成される。次いで、透明導電膜1の上の、集電体層2の近傍にシロキサン含有層3を形成する。その際に、シランカップリング剤を塗布又は散布してから乾燥させることによりシロキサン含有層3を生成せしめることが好ましい。そして、シロキサン含有層3の上に熱可塑性樹脂を塗布して熱可塑性樹脂層4を形成する。
【0025】
本発明の電極構造の製法においては、シランカップリング剤や熱可塑性樹脂の塗工・乾燥方法などや、基板の貼り合わせや流動性電解質の充填方法などについては従来技術を適宜参照することができ、このため、当業者であれば、以上の記載及び請求項の記載にもとづいて、集電体層2の侵食防止に優れる電極構造をもつDSSCを得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に記載された態様に限定されるわけではない。
【0027】
(実施例1)プラスチック/ITO基板のITO表面に形成した集電体層の保護(シランカップリング処理有り)
図4は、実施例における電極の評価の説明図であり、図4(A)は平面図であり、図4(B)は断面図である。プラスチック基板としてのPEN(ポリエチレンナフタレート)基板10にITOをスパッタしてPEN/ITO基板を用意した。そのITO膜1に低温焼成用銀ペーストをスクリーン印刷により1mm×50mmの大きさで印刷し、150℃の加熱により銀ペーストを硬化させ、集電体層2を得た。一般的なシランカップリング剤として信越シリコーンのKBE−903を用いた。エタノールと水の9:1の混合溶液を用いて、このシランカップリング剤を10倍に希釈した(重量比率、以下、特に明記しない限り同じ。)。PEN/ITO基板のITO膜1の集電体層2の上面と周囲に、上述の希釈したシランカップリング剤を塗布し、室温で30分程度乾燥させて、シロキサン含有層3を得た。この時、集電体層2の長手方向の両端は、抵抗測定のために空けておいた。シロキサン含有層3を全て覆うように、酸変性ポリプロピレン樹脂を塗布し、室温で1時間程度乾燥させて熱可塑性樹脂層4を得た。この時にも、集電体層2の長手方向の両端は、抵抗測定のために空けておいた。このようにして作製した集電体層2の保護した部分に、電解液60を浸した。電解液60は、プロピレンカーボネートに0.6Mのヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、0.1Mのヨウ化リチウム、0.05Mのヨウ素、0.5Mのt−ブチルピリジンを溶解して調製した。電解液を浸す前と(0時間)、電解液を浸したまま室温で72時間経過後の集電体層2の抵抗値を測定した。0時間での抵抗値は2.6Ωであり、72時間後の抵抗値は2.6Ωだった。
【0028】
(実施例2)プラスチック/ITO基板のITO表面に形成した集電体層の保護(シランカップリング処理有り)
熱可塑性樹脂層4として、酸変性ポリプロピレン樹脂を使わずに、代わりに、ポリアミドイミド樹脂を用いたことの他は、実施例1と同様に電極を得た。ポリアミドイミド樹脂の乾燥は、減圧下で30分間程度の加熱にした。実施例1と同様の評価を行い、0時間での抵抗値は2.5Ωであり、72時間後の抵抗値は2.7Ωという結果を得た。
【0029】
(比較例1)プラスチック/ITO基板のITO表面に形成した集電体層の保護(シランカップリング処理のみ)
熱可塑性樹脂層を形成しなかったことの他は、実施例1と同様の電極を製造し、上記と同様の評価を行った。0時間での抵抗値は2.9Ωであり、72時間後の抵抗値は10.3Ωという結果を得た。
【0030】
(比較例2)プラスチック/ITO基板のITO表面に形成した集電体層の保護(熱可塑性樹脂層の形成のみ)
シランカップリング剤による処理を行わなかったことの他は(つまり、シロキサン含有層を形成しなかった)、実施例1と同様の電極を製造し、上記と同様の評価を行った。0時間での抵抗値は2.8Ωであり、72時間後の抵抗値は48Ωという結果を得た。
【0031】
(実施例3)色素増感太陽電池の製造
負極用の基板として、プラスチック基板を用い、その上に、透明導電膜としてITO膜を形成した。ITO膜の表面に、低温形成タイプの銀ペーストを用いて、スクリーン印刷により集電体層を形成し、基板とともに、150℃で加温することで集電体層を低抵抗化した。一般的なシランカップリング剤として信越シリコーンのKBE−903を用いた。エタノールと水の9:1の混合溶液を用いて、このシランカップリング剤を5倍に希釈した。集電体層を製造した上記基板における集電体層の周囲と上に、5倍に希釈したシランカップリング剤を塗布し、室温で30分乾燥させることでシロキサン含有層を形成した。シロキサン含有層の上に、酸変性ポリプロピレン樹脂を塗布し、120℃で1時間乾燥させた。この時、減圧乾燥を用いて100℃で乾燥させた。次いで、ITO膜の上に、酸化チタンからなる発電層をスクリーン印刷で形成、乾燥させ、150℃で脱バインダー処理を行った後に、酸化チタンからなる光閉じ込め層をスクリーン印刷で形成、乾燥させた。その後、色素溶液に浸漬し室温から50℃に加温した条件で所定の時間色素吸着を進行させた。色素吸着後に余剰色素を洗浄し、溶媒を乾燥させて負極とした。一方、チタン電極に白金をスパッタした正極を準備し、封止剤を塗布した部位より内側に、電解液をスポイトで注ぎ、封止部を加熱しながら圧着することで電解液を2枚の電極間に封止した色素増感太陽電池を作製した。
このようにして作製した色素増感太陽電池に対して光照射時の直列抵抗値を計測したところ、0.50Ωとなった。
【0032】
(比較例3)色素増感太陽電池の製造(シロキサン含有層無し)
シロキサン含有層を形成しなかったことの他は、実施例3と同様に色素増感太陽電池を製造した。得られた色素増感太陽電池について、光照射時の直列抵抗値を計測したところ、集電体層部分に電解液が浸漬し、計測不能となった。
【0033】
実施例1〜3における製造物について集電体層の断面をSEM観察したところ、集電体層に接する部分およびITO膜の上にシロキサン含有層3と、熱可塑性樹脂層4に相当する層が異なる層として検知された。ITO膜と熱可塑性樹脂層4との間に位置する層3についてエネルギー分散形X線分光器(EDS、EDX)にて化学分析を行ったところ、Si−O−Si結合の存在が確認され、当該層がシロキサン含有層であることが確認された。
【符号の説明】
【0034】
1:透明導電膜 2:集電体層
3:シロキサン含有層 4:熱可塑性樹脂層
10:透明基板 20:基板
30:流動性電解質 40:封止樹脂
50:酸化物半導体層 60:電解液
図1
図2
図3
図4