(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-133896(P2015-133896A)
(43)【公開日】2015年7月23日
(54)【発明の名称】送電線の移線工法及び移線装置
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20150630BHJP
【FI】
H02G1/02 307B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-248070(P2014-248070)
(22)【出願日】2014年12月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-254959(P2013-254959)
(32)【優先日】2013年12月10日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592091529
【氏名又は名称】東光電気工事株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390031934
【氏名又は名称】日本リーテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119943
【弁理士】
【氏名又は名称】南 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100077849
【弁理士】
【氏名又は名称】須山 佐一
(72)【発明者】
【氏名】水野 俊志
(72)【発明者】
【氏名】日高 直輔
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 智則
(57)【要約】
【課題】移線時に発生する送電線の垂下の抑制およびその垂下に伴うショックを抑制でき、複数本の送電線を一組として、これらを一方の径間から他方の径間へ簡単な作業で安全かつ経済的に移線可能にする。
【解決手段】金車11、ショックアブソーバ12、第1の接続コード収納部13とを順に接続してなる複数組の第1の移動補助装置Aと、第1の移線補助装置Aの金車11をクランプ19を用いて保持部材20に懸架可能とする第2の接続コード収納部17を有する第2の移動補助装置Bと、を備えて、金車11の一部とこの金車11による保持部以外の前記送電線15上の所定部位との間に、送電線15を金車11に支持させる支持部材21を連結した構成である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線を保持する金車と、この金車に連接され、接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納し、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第1の接続コード収納部とを順に接続してなる複数組の第1の移動補助装置を用意する工程と、
第1の径間に架設された複数本の送電線間に、複数組が順に接続された前記第1の移線補助装置を取り付ける移動補助装置取付工程と、
前記金車の一部とこの金車による保持部以外の前記送電線上の所定部位との間に接続した支持部材により、各送電線を前記金車に支持させる送電線支持工程と、
前記第1の移線補助装置のうち最上部の組における金車と保持した送電線とを、接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納するとともに、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第2の接続コード収納部を持つ第2の移動補助装置を介して連結する連結工程と、
前記送電線間に取り付けられた第1の移線補助装置および第2の移線補助装置の所定の伸縮限度内で、前記保持した送電線を第1の径間から第2の径間へ移動することによって各金車に保持された複数の送電線を第1の径間から第2の径間へ移線する移線工程と
を備えることを特徴とする送電線の移線工法。
【請求項2】
請求項1記載の送電線の移線工法の移線補助装置取付工程で、前記複数本の送電線間が、その送電線の所定長おきに接続された前記第1の移線補助装置を取り付ける移線補助装置取付工程であることを特徴とする送電線の移線工法。
【請求項3】
送電線を保持する金車と、ショックアブソーバと、接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納し、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第1の接続コード収納部とを順に接続してなる複数組の第1の移動補助装置と、
これらの第1の移線補助装置が順に接続され、最上部に接続された前記第1の移線補助装置の金車をその上部の送電線に懸架可能とするように当該金車に連設され、かつ接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納するとともに、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第2の接続コード収納部を有する第2の移動補助装置と、
前記金車の一部とこの金車による保持部以外の前記送電線上の所定部位との間に接続されて、その送電線を前記金車に支持させる支持部材と、を具備することを特徴とする送電線の移線装置。
【請求項4】
前記支持部材がゴム紐であることを特徴とする請求項3記載の送電線の移線装置。
【請求項5】
前記支持部材が、前記金車の一部とこの金車を介在する前記送電線上の対称となる2位置との間に接続されていることを特徴とする請求項3または4記載の送電線の移線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線を一方の径間から他方の径間へ移線するのに用いる送電線の径間における取付位置を変更するために自立式防護装置を使用した送電線の移線工法及び移線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道、幹線道路、送配電線などの重要設備がある箇所での移線・延線工事においては、離隔を確保する吊り金工法を使った場合でも電線の垂れこみが発生する心配がある。このため、防護足場を構築し、絶縁ロープを使ったネットを張っている。中でも鉄道事業者は運行安全確保の観点から防護足場設置に加え、列車走行のない夜間帯の施工を求めることが通例である。また、市街地では、防護足場設置用地確保が困難なことが多い。一方、山間地の特高送電線横断の場合には、特高送電線よりはるかに高い防護足場を構築する必要があり、設置用地の確保、コストに課題がある。
【0003】
これに対し、自立式(インディペンス・サポート)伸縮装置を使うことにより、重要設備がある箇所において、防護足場を構築しないで、安全かつ効率的な移線作業を提供する工法が提案されている。この工法に類似するものとして、スライド移線工法、ルーパ工法、送電線縦移線工法およびキャリア移線工法が、知られている。これらのうち、スライド移線工法は、新設鉄塔と既設鉄塔間に親ワイヤを張り渡し、その親ワイヤに沿って移動可能とされた金車に設けた支持滑車を使って移動させる工法である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ルーパ工法は、多導体送電線の移線において、2本の電線をルーパ装置で連結し、それぞれのユニバーサル金車を固定ロープにより電線に沿って連結し、その2本の電線を最大6mまで毎に固定ロープとともに移線、仮緊線を尺取虫のように繰り返す工法である(例えば、特許文献2参照)。また、送電線縦移線工法は、鉄塔間に架設された複数本の電線のうち、いずれかの電線の一方または他方の取り付け場所を当該鉄塔より高い鉄塔に移線させる工法である(例えば、特許文献3参照)。さらに、キャリア移線工法は、スライド移線と同様の工法で、運搬に用いるキャリアを使用することにより移線用電線の高さ方向の移動を可能とした工法である(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3442638号公報
【特許文献2】特許第3742376号公報
【特許文献3】特開2010-142005号公報
【特許文献4】特開2003-180009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる従来の工法のうちスライド移線工法にあっては、電線の実長変化に対してはワイヤの出し入れが必要となり、支持線の取付位置、移線時の離隔、鉄塔強度などの事前検討が必要で、準備作業に通常よりも時間を要する。
また、ルーパ工法にあっては2本の電線を尺取虫のように移線と仮緊線を交互に繰り返す必要があるが、その移線、仮緊線を固定ロープとともに実施する必要があり、鉄道横断箇所においての施工には、防護足場構築が強く求められるという不都合がある。
【0007】
また、電線縦移線工法にあっては、延縄式吊金車を2線ごとに展開、電線引き上げを繰り返す必要がある。空打ち吊金車、延縄式吊金車、移線用上金車、移線用下金車、操作ロープ、展開ロープ等の多くの専用工具が必要である。電線実長さ変化に対してはセミ金車とカムアロング間での調整により行う必要があり、逸走防止には二重防護が必要となる。
さらに、キャリア移線工法にあっては、準備作業に手間を要するほか、移動用電線を上下させることにより電線の垂れ下がりの抑制が容易になるが、垂れ下がりを完全に防ぐことができないなどの不都合があった。
【0008】
本発明は前述のような従来の問題点を解消するものであり、その目的とするところは、移線途上でいずれかの送電線が垂下しても、複数本の送電線間に、その送電線の所定長おきに取り付けられた移線補助装置によってその垂下を抑制でき、また送電線を所定間隔に維持しながら前記送電線の垂下に伴うショックを吸収可能にし、さらに移線補助装置により支持された複数本の送電線を一組として、これらを一方の径間から他方の径間へ簡単な作業により安全、かつ効率的に移線できる送電線の移線装置および移線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的達成のために、本発明にかかる送電線の移線工法は、送電線を保持する金車と、この金車に連接され、接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納し、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第1の接続コード収納部とを順に接続してなる複数組の第1の移動補助装置を用意する工程と、
第1の径間に架設された複数本の送電線間に、複数組が順に接続された前記第1の移線補助装置を取り付ける移動補助装置取付工程と、
前記金車の一部とこの金車による保持部以外の前記送電線上の所定部位との間に接続した支持部材により、各送電線を前記金車に支持させる送電線支持工程と、
前記第1の移線補助装置のうち最上部の組における金車に保持し、接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納するとともに、その引き出し方向の加速度が所定値を超えると、その引き出しをロックする第2の接続コード収納部を持つ第2の移動補助装置を介して連結する連結工程と、
前記送電線間に取り付けられた第1の移線補助装置および第2の移線補助装置の所定の伸縮で各金車に保持された複数の送電線を第1の径間から第2の径間へ移線する移線工程と、
を備えることを特徴とする。なお、第1の移線補助装置の金車を送電線に保持する際、保持材を介して保持してもよい。
【0010】
これにより、送電線が一部で切断したり緩んだりすることがあっても複数の送電線どうしが相互に干渉したり、大きく垂下したりすることを回避できる。また、送電線が垂下しようとしても、接続コードのロック作用によりその垂下を阻止できる。さらに、その接続コードのロック時に送電線に加わる衝撃をショックアブソーバによって抑制し、その衝撃の反動作用で送電線が跳ねることを回避できる。
また、1本の保持した送電線を利用して既設の鉄塔から新設の鉄塔に移動させることで複数の同時移線が可能になり、複数本の送電線を新設の径間に一気に移線することができる。この場合において、各送電線は金車との間に介在した支持部材により自立的に支持される。
従って、この移線方法では、移線作業の安全性と効率化および作業コストの低減を共に図ることができる。
【0011】
また、本発明にかかる送電線の移線装置は、送電線を保持する金車と、ショックアブソーバと、接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納し、その引き出し方向の加速度が所定値を超えると、その引き出しをロックする第1の接続コード収納部とを順に接続してなる複数組の第1の移線補助装置と、
これらの第1の移線補助装置が順に接続され、最上部に接続された前記第1の移線補助装置の金車をその上部の送電線に懸架可能とするように当該金車に連設され、かつ接続コードを巻き取りおよび引き出し可能に収納するとともに、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第2の接続コード収納部を有する第2の移線補助装置と、
前記金車の一部とこの金車による保持部以外の前記送電線上の所定部位との間に接続されて、その送電線を前記金車に支持させる支持部材と、
を具備することを特徴とする。
【0012】
この構成により、第1の移線補助装置および第2の移線補助装置は自立式伸縮機能による伸縮可能限界内で移線すべき複数の送電線どうしおよび送電線とを所定の間隔を維持するように保ち、送電線が一部で切断したり緩むことがあっても相互に干渉したり、大きく垂下したりすることを回避できる。
また、送電線が所定値を超える加速度で垂下しようとしても、接続コード収納部が持つ接続コードのロック機能によりその垂下が急速に阻止され、送電線の大きな揺動を回避できる。
さらに、前記接続コードのロックによって送電線に加わる衝撃はショックアブソーバによって吸収可能になり、その衝撃の反動作用で送電線が跳ねることを未然に回避することができる。
【0013】
一方、1本の保持された送電線を既設の鉄塔から新設の鉄塔に移動させることで、複数本の送電線を前記所定の間隔を維持した状態にて新設の径間に一気に、つまり迅速かつ簡単に移線することができる。
この場合において、各送電線は金車との間に介在した前記支持部材により自立的に支持(吊持)され、例えば従来、送電線ごとに並設した固定ロープ(送電線支持部材)の必要性をなくし、以って移線作業の効率化および経済性を大きく改善することができる。
【0014】
また、本発明にかかる送電線の移線装置は、前記支持部材をゴム紐としたことを特徴とする。これにより支持部材の取り扱いを容易化でき、しかもこれを安価に得ることができるほか、各送電線を金車に対してフレキシブルに支持でき、金車に対する送電線の相対位置の変位に対してもその送電線の支持を確実かつ安定的に実施できる。
【0015】
また、本発明にかかる送電線の移線装置は、前記支持部材を、前記金車の一部とこの金車を介在する前記送電線上の対称となる2位置との間に接続したことを特徴とする。これにより、金車に対する送電線の相対位置の変位を常に正規の位置に保つように送電線を保持することができ、移線時における各送電線ごとの位置ずれを最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数本の送電線の所定長おきに、その送電線間に取り付けられた複数組の移線補助装置によって、移線時に発生する送電線の垂下の抑制およびその垂下に伴うショックを抑制でき、さらに複数本の送電線を一組として、これらを一方の径間から他方の径間へ簡単な作業で安全かつ経済的に移線することができる。
【0017】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に本発明を実施するための最良の形態を添付の図面を参照して、詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態による送電線の移線装置を示す正面図である。
【
図2】
図1における移線装置の要部を示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態による送電線の移線方法を示す移線工程図である。
【
図4】本発明の実施形態による送電線の移線方法を示す移線工程図である。
【
図5】本発明の実施形態による送電線の移線方法を示す移線工程図である。
【
図6】本発明の実施形態による送電線の移線方法を示す移線工程図である。
【
図7】本発明の実施形態による送電線の移線方法を示す移線工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態にかかる送電線の移線装置を、
図1乃至
図3を参照して説明する。
【0020】
図1は本実施の形態にかかる送電線の移線装置を示す。この送電線の移線装置は第1の移動補助装置Aと第2の移動補助装置Bとを備えて構成される。これらのうち、第1の移動補助装置Aは3組(3段分)用意されて、それぞれが直列接続されている。第1の移動補助装置Aはいずれも金車11と、ショックアブソーバ12と、第1の接続コード収納部13と、接続コード14とを順に接続した構成である。そして金車11は全体としてリング状をなし、そのリング状部の中に送電線を挿通可能にするとともに、その送電線を移動自在に支持するように機能する。従って、図示のように3本の送電線15は3組の第1の移動補助装置Aの各金車11に支持される。
【0021】
ショックアブソーバ12は金車11の下部に連結され、送電線の後述のような垂下に続く垂下停止によって第1の移動補助装置Aおよび第2の移動補助装置Bに印加される衝撃を緩和するように機能する。
このショックアブソーバ12として、例えば空気圧式や油圧式のものを用いることができる。第1の接続コード収納部13はショックアブソーバ12の下部に連結され、接続コード14を巻き取りおよび引き出し(巻き戻し)可能に収納している。
また、この第1の接続コード収納部13は接続コード14の引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロック(停止)する機能を有する。
【0022】
なお、この第1の接続コード収納部13内では、接続コード14が渦巻き状に巻装されていて、図示しないばね部材により常時巻き取り方向に付勢されている。この第1の接続コード収納部13から引き出される接続コード14の先端が、次の組(下段)の第1の移動補助装置Aの金車11に連結されている。このように、金車11、ショックアブソーバ12、第1の接続コード収納部13および接続コード14がシリアルに連結されて、第1の移線補助装置Aを構成している。
【0023】
一方、第2の移線補助装置Bは、3組ある前記第1の移動補助装置Aのうちの最上部のものに連結されている。すなわち、第2の移線補助装置Bは、接続コード16と接続コード収納部17とを備え、接続コード収納部17は接続コード16を巻き取りおよび引き出し(巻き戻し)可能に収納している。また、この接続コード収納部17は接続コード16の引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロック(停止)する機能を有する。そして、接続コードの引き出し側の先端が、3組ある前記第1の移動補助装置Aのうち最上部のものの金車11に連結されている。
第2の移線補助装置Bの取付位置はかならずしも最上部の位置に限定されない。
【0024】
接続コード収納部17には、直にまたは図示のショックアブソーバ18を介してクランプ19が連結されている。このクランプ19は送電線15上方(鉄塔の上端部)に懸架された保持部材20に懸架自在な構成となっている。従って、第1の移動補助装置Aの金車11に第2の移動補助装置Bの接続コード16端を連結し、その第2の移動補助装置Bの接続コード収納部17、またはショックアブソーバ18をクランプ19に連結し、さらにそのクランプ19を保持部材20に懸架させることで、その保持部材20に第1の移動補助装置Aおよび第2の移動補助装置Bを介して3本の送電線15を所定間隔を保った状態にて懸垂(吊持)させることができる。
【0025】
また、各送電線15を支持する金車11の所定部位pとこの金車11による送電線15の保持部以外の部位との間、ここでは金線11を中心とする送電線15上の対称位置q、rとの間には、
図2に示すように、この送電線15を支持する支持部材21が連結されている。この支持部材21としては、例えば摩擦抵抗が大きく、取り扱いが容易なゴム紐を用いてもよく、この場合には、送電線15を金車11に対しフレキシブルに支持させることができ、送電線15と金車11との少しの位置ずれにも対応して、送電線15を所定の支持位置に安定に保持できる。
【0026】
次に、本実施形態の移線装置による送電線15の移線手順を
図3〜
図7を用いて説明する。本実施形態の移線方法は、複数本の送電線15を既設の径間から新設の径間に一気に移線する方法である。ここでは
図3に示すように、送電線15を、既設の鉄塔L、Mの第1(既設)の径間から、既設の鉄塔Lおよび新設の鉄塔Nの第2(新設)の径間に、移線する場合について説明する。
先ず、第1の径間の3本の送電線15および保持部材20に保持された送電線のそれぞれの間に、第1の移線補助装置Aおよび第2の移動補助装置Bを
図1に示すようにセットする。
【0027】
すなわち、地上に鉄道や危険物がある領域に臨む所定長の3本の送電線15を、各移線補助装置Aの各金車11にそれぞれを通して支持させるとともに、金車11の所定部位pと送電線15上の所定の2部位q、rとに、ゴム紐などの支持部材21の両端を連結する。これにより、送電線15は金車11のみでなく、金車11に連結された支持部材21によっても金車11に支持され、このため、送電線15が金車11に対しフレキシブルに懸架(吊持)された状態となる。
【0028】
続いて、最上段の第1の移線補助装置Aの金車11を、第2の移線補助装置Bを構成する接続コード16および第2の接続コード収納部17と、ショックアブソーバ18とを介してクランプ19に連結し、さらにこのクランプ19を保持部材20に保持された送電線に懸架、保持させる。このとき、送電線15上のスペーサなどを全て撤去する。
【0029】
次に、吊りロープや吊りワイヤ等を併用して鉄塔Nのアーム先端から移動用金車(図示しない)を降し、直下の保持部材20に保持された送電線を既設の懸垂クランプが遊ぶまで持ち上げ、懸垂解体を行う。そして、保持部材20に保持された送電線を、
図5の矢印Hに示す方向に、一気に鉄塔Nの所定位置まで引き上げて移線する。
続いて、最上段の移線補助装置Aから中段および下段の送電線15を
図6、
図7に示すように各移線補助装置Aを収縮させるように順次移線させ、最後に各送電線15間と、送電線15および保持部材20に保持された送電線間からそれぞれ送電線移線補助装置Aおよび移線補助装置Bの回収を行って、一連の移線作業を終了する。
なお、前記においては、説明を簡単にするために、1回線3本の送電線15の移線について述べたが、2回線以上の複数本の送電線15の移線も前記同様の手順にて実施できる。
【0030】
以上のように、本実施形態では、送電線15を保持する金車11と、この金車11に連接され、接続コード14を巻き取りおよび引き出し可能に収納し、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第1の接続コード収納部14とを順に接続してなる複数組の第1の移動補助装置Aを用意し、第1(既設)の径間に架設された複数本の送電線15間に、その送電線15の所定長おきに複数組が順に接続された前記第1の移線補助装置Aを取り付け、前記金車11の一部とこの金車11による保持部以外の送電線15上の所定部位との間に接続した支持部材21により、各送電線15を金車11に支持させ、第1の移線補助装置Aのうち最上部の組における金車11と保持部材20とを、接続コード14を巻き取りおよび引き出し可能に収納するとともに、その引き出し方向の加速度が所定値を超えるとその引き出しをロックする第2の接続コード収納部17を持つ第2の移動補助装置Bを介して連結し、送電線15間に取り付けられた第1の移線補助装置Aおよび第2の移線補助装置Bの所定の伸縮限度内で、前記保持部材20に保持された送電線を第1(既設)の径間から第2(新設)の径間へ移動することによって各金車11に保持された複数の送電線15を第1の径間から第2の径間へ同時に移線することとしている。
【0031】
従って、送電線15が一部で切断したり緩んだりすることがあっても、複数の送電線15どうしおよび送電線15と保持部材20に保持された送電線とが相互に干渉したり、大きく垂下したりすることを回避でき、また、送電線15が垂下しょうとしても、接続コード14、16のロック作用によりその垂下を阻止でき、さらに、その接続コード14、16のロック時に送電線15に作用する衝撃をショックアブソーバ12、18によって抑制し、その衝撃の反動作用で送電線15が跳ねることを回避できる。
また、1本の保持部材20を既設の鉄塔から新設の鉄塔に移動させることで、複数本の送電線15を新設の径間に一気に移線することができる。この場合において、各送電線15は金車11との間に介在した支持部材21により自立的に支持される。従って、この移線方法では、移線作業の安全性と効率化および作業コストの低減を共に図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の送電線の移線装置は、複数本の送電線の所定長おきに、その送電線間に取り付けられた複数組の移線補助装置によって、移線時に発生する送電線の垂下の抑制およびその垂下に伴うショックを抑制でき、さらに複数本の送電線を一組として、これらを一方の径間から他方の径間へ簡単な作業で安全かつ経済的に移線することができるという効果を有し、送電線を一方の径間から他方の径間へ移線するのに用いる送電線の移線装置および移線方法頭に有用である。
【符号の説明】
【0033】
11 金車
12 ショックアブソーバ
13 第1の接続コード収納部
14 接続コード
15 送電線
16 接続コード
17 第2の接続コード収納部
18 ショックアブソーバ
19 クランプ
20 保持部材
21 支持部材
A 第1の移動補助装置
B 第2の移動補助装置
L、M、N 鉄塔