【背景技術】
【0002】
フライ食品はパン粉と油脂独特の食感の良さ、香りの良さから家庭内においてはもちろん、外食産業にも幅広く受け入れられて大量生産もされている食品である。種々の食材にパン粉を衣付けして油ちょうするフライ食品の衣の役割としては、油脂の高温が直接材料に伝わらないように緩衝作用をおこなうこと、うまみ成分やビタミン類などの食品成分の留出や分解による損失を防ぐこと、高温で短時間加熱して油脂を含む層を形成することにより独特の食感を有する表層を形成すること、適度にこげて吸油した衣層が独特の香りを呈することにより食欲を増進すること、などが挙げられる。また、家庭環境の変化、また、消費者の嗜好の変化や低カロリー志向、あるいは電子レンジやオーブンの普及と性能の向上により、油を用いない揚げ物様食品、いわゆるノンフライ食品の需要も高まってきている。このような消費者の健康意識から、フライ食品のカロリー摂取量を低減するために、油ちょう時の吸油量を抑えたパン粉および/または油切れのよいパン粉が求められるようになっている。ノンフライ食品についても、油を用いた揚げ物同様に、厳しい品質が要求される。
【0003】
そのような背景の下に、パン粉および製粉業界ではフライ衣の吸油に伴う問題点を緩和するために油ちょう時の吸油量が少ないおよび/または油切れのよいバッターミックスやパン粉の開発がなされてきた。例えば、常法によって得られるパンブロックを圧延した後、粉砕することによりフライ時の吸油量が極めて少なく、かつ形状、食感にも優れたパン粉のように物理的な力を加えた加工によるパン粉(特許文献1)、とうもろこしの種皮から調製された食物繊維および大豆から調製された蛋白質を含有する低吸油性フライ用パン粉(特許文献2)、同じくとうもろこしから調製された食物繊維を含有するフライ用パン粉としては、フライ用パン粉の原料の一部として穀類から調製された食物繊維を含有させるにあたり、好ましくは、NDF値が50%以上、粒度は80メッシュより細かいものであり、穀類から調製された食物繊維をフライ用パン粉原料の主成分である小麦粉と前記食物繊維との総量中1〜30重量%含有させたパン粉(特許文献3)や、大豆から抽出した食物繊維を配合する吸油率の低いパン粉(特許文献4)などのように食物繊維類の使用が提案されている。
【0004】
また、繊維類としてセルロース類を添加することが提案されていて、例えば、穀粉、調味料および粒状化または凝集体化されたメチルセルロースを含むバッターミックスに水を添加してバッターを形成すること、食品を該バッターと接触させてバッター付食品を得ること、ならびに該バッター付食品を油調理することを含む、油調理された食品の油吸収を低減する方法(特許文献5)や、フライ食品用具材の周囲に、小麦粉、澱粉、脱脂粉乳、粉末卵白、食塩、香辛料、調味料を主成分とするバッターミックスに、セルロースを添加したセルロース入りバッターミックスを付けた後、該バッターミックスの表面に、小麦粉、ブドウ糖、食塩、油脂、およびイーストを主成分とするパン粉に、セルロースを添加焼成したセルロース入りパン粉を付着させた電子レンジ調理加熱用油ちょう済パン粉付フライ食品(特許文献6)が提案されている。
【0005】
さらに、パン生地原料にオキアミの殻および/またはオキアミ成分、並びに、食物繊維を添加して、(一定面積当たりのパン断面に存在する検出可能サイズ以上の気泡の数)/(検出した気泡の断面積の総和)で定義される気泡数が185個/cm
2以上であり、かつ、平均気泡断面積が0.5mm
2以下に成るように、ならびに、(パンの体積)/(パンの重量)で定義されるパンの比容積を小さくするように制御したパンから製造した、低吸油性でありながら良好な食感を維持したパン粉となるように気泡の制御をすることにより低吸収のパン粉(特許文献7)が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、近年の健康志向の強まりにより油脂からのカロリーの過剰摂取が問題にされるフライ食品において、吸油量を抑制および/または油切れに適合するものとして、体内に留まってゆるやかに分解されるまで、ずっと効能を発揮し続けるβ−グルカンに着目した。これまでにパン粉の吸油量を抑制および/または油切れをよくする方法として、パン生地原料に各種の食物繊維やタンパクを添加する、もしくは生地の醗酵を抑制してパン比容積を減少させること等が提案されてきた。しかしながら、各種食物繊維、セルロースやタンパクを添加し、生地の醗酵などを抑制して作製されたパンから調製されたパン粉は食感が硬くなり、油ちょう後の食味は著しく低下するなどの不具合が生じることがあった。
【0008】
すなわち、これらの食物繊維及びタンパクが低吸油衣としての効果を十分に発揮するにはかなりの量を添加しなくてはならず、添加量の増加に伴って、パン粉は大変硬くなり、食味が低下する。また、パン比容積の抑制やパンブロックの圧延といった方法に関しても、パンのメを詰まらせることによりパン粉は硬くなり、食味低下は避けられない。最近のパン粉利用の傾向として、食感の硬いドライタイプから生のソフトタイプへ移行している点などを考慮すると、フライ衣は食感が軽い方が好ましい。すなわち、従来の低吸油フライ衣の技術ではフライ時の吸油量は低下するものの、食感が硬くなるという嗜好面での問題を残しており、そのため、それらのパン粉は広く普及していないのが現状である。
【0009】
そこで、本発明は、食感をあまり変化させずに、すなわち食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制するおよび/または油切れをよくすることができるパン粉、バッターミックス、天ぷら粉、または、から揚げ粉の何れかを提供することを目的とする。すなわち、本発明は、体内で免疫反応を向上させている可能性が推測されている大麦に由来するβ−グルカンを含有するパンを利用して低吸油性および/または油切れ性でありながら良好な食感を有するパン粉、あるいは大麦に由来するβ−グルカンを含有するバッターミックス、天ぷら粉、または、から揚げ粉を製造したものであり、食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制および/または油切れをよくすることができるパン粉、バッターミックス、天ぷら粉、または、から揚げ粉の何れか(以下、「バッターミックス、天ぷら粉、から揚げ粉の何れか」は、バッターミックスで代表させて「バッターミックス」という場合がある。)、ならびに、それを用いたフライ類を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、食感をあまり変化させずに、すなわち食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制することおよび/または油切れをよくすることができるパン粉あるいはバッターミックスを提供するために、パン粉の硬さを抑制する機能および健康食品の機能性表示に着目した。
パン粉の硬さを抑制する機能は、パンを中心としたベーカリー食品が最大の用途である食品用乳化剤の目的の多くは乳化以外であり、老化防止剤、ソフナー、生地調整剤としての用途が中心であること、パンの老化防止としては、小麦粉に対し0.2〜1%添加された飽和脂肪酸モノグリセリドが澱粉粒表面に溶出するアミロースと複合体を形成し、澱粉粒を保護すると同時に内部に浸透して結晶アミロースやアミロペクチンとも複合体を形成する。これによりアミロースのゲル化が抑制され、柔らかさが維持されることから、食品用乳化剤を用いることを考えた。
オーツ麦又はオオムギ由来のβ−グルカン類の豊富な材料により、油類及び他の非水混和性の液体と,水又は主として水溶液及び懸濁液との安定した乳濁液,又は非分離性混合物が調製されること、すなわちオオムギ由来のβ−グルカン類は安定なエマルションを形成するために添加される両親媒性物質であることが記載されている(特許文献8)。
次に、機能性表示が可能な配合物として、オーツ麦および大麦可溶性食物繊維(β―グルカン)が知られている。大麦には豊富な水溶性食物繊維が含まれており、その大部分はβ−グルカンである。穀物β−グルカンは、主にアリューロン層や胚乳細胞の細胞壁に含まれている。オーツ麦には4%程度、小麦玄麦には0.5%程度のβ−グルカンが含まれるが、精製小麦には殆ど含まれない。大麦では精白したものでも4%程度のβ−グルカンが含まれる。米国食品医薬品局(FDA)は、オーツ麦および大麦は水溶性食物繊維を含むため、「1食当たり0.75gのオーツ麦および大麦可溶性食物繊維(β−グルカン)の摂取は、冠動脈心疾患のリスクを低減する」旨のヘルスクレームを認可している(特許文献9)。
そこで、15〜25重量%のタンパク質とともに25〜35重量%の食物繊維を含み、食物繊維の40〜60重量%が水溶性食物繊維であり、水溶性食物繊維の80重量%以上がβ−グルカンである大麦から得られる穀物粒(特許文献10)に着目し、鋭意研究開発を行うことにより本発明に到達した。
【0011】
本発明は以下の技術的な事項により構成される。
(1)油ちょう用衣材中に大麦由来のβ−グルカンを含有させ、その含有量が0.1〜7.0g/100gの範囲であることを特徴とする吸油量の少ない油ちょう用衣材。
(2)大麦由来のβ−グルカンは大麦粉の形態で含有させる上記(1)に記載の吸油量の少ない油ちょう用衣材。
(3)大麦粉は、油ちょう衣材中の小麦粉と大麦粉の総重量において10〜60重量%を占めている上記(2)に記載の吸油量の少ない油ちょう用衣材。
(4)油ちょう用衣材が、パン粉、バッターミックス、天ぷら粉、または、から揚げ粉の何れかである上記(1)から(3)のいずれかに記載の吸油量の少ない油ちょう用衣材。
(5)大麦が、二条大麦、四条大麦、六条大麦、および裸大麦から選ばれる1種以上である上記(1)から(4)のいずれかに記載の吸油量の少ない油ちょう用衣材。
(6)上記(1)から(5)のいずれかに記載の吸油量の少ない油ちょう用衣材を食材に付着させて油ちょうしたことを特徴とするフライ食品。
【発明の効果】
【0012】
1)本発明により、β−グルカンの含有量(裸麦パン粉100g中に約1g含有する。β−グルカンの含有量測定結果より)を高めることができる。食品化学では、β−グルカンは食物繊維として扱われている。植物繊維のβ−グルカンは、大麦に多く含まれている。β−グルカンがガン細胞に対して効能があることが報告されたのは1963年で、以後は各国でβ−グルカンの研究が活発に行われ、現在に続いている。人体に注入されたβ−グルカンは、それから数ヶ月は体内に留まっていることが研究で判明している。血管を伝って脾臓や肝臓に届けられる。β−グルカンを分解できるような酵素は人体には存在していない。β−グルカンはゆるやかに分解されるまで、ずっと効能を発揮し続ける。β−グルカンはこの肝臓や脾臓に留まり、免疫反応を向上させている可能性が推測されている。抗ガン作用があるというβ−グルカンのサプリメントは、免疫力の向上だけでなくガンの予防や抑制目的でも販売されている。ガン予防効果が謳われているβ−グルカンであるが、進行ガンの延命や薬の効能を向上させ、抗ガン剤の化学療法に対する副作用を減らす効果も期待されている。
2)また、本発明により、吸油率の低下(従来品と比べて20−30%前後減少。吸油率測定試験結果より)を実現することができる。
3)さらにまた、本発明により、大麦独特の風味が、今までのパン粉に無かった独特の風味とおいしさを付与することができる。
以上のとおり、本発明は、低吸油性(油ちょう時の油の吸収を抑制することおよび/または油切れをよくすることができる)でありながら良好な食感を有するパン粉あるいはバッターミックスを提供することができる。それらを使用して、油脂の高温が直接材料に伝わらないように緩衝作用をおこなうこと、うまみ成分やビタミン類などの食品成分の留出や分解による損失を防ぐこと、高温で短時間加熱して油脂を含む層を形成することにより独特の食感を有する表層を形成すること、適度にこげて吸油した衣層が大麦由来の独特の香りを呈することにより食欲を増進すること、を備えたフライ類を提供することができる。
また、食感を変化させずに、すなわち食味を損なわずに油ちょう時の油の吸収を抑制することおよび/または油切れをよくすることができるパン粉、それを使用した低吸油性(油ちょう時の油吸収抑制および/または油切れのよい)フライ類を提供することができ、次に述べるような効果を発揮することができる。
(イ)パネラーによる、試食テストの結果により、オオムギ粉特有の風味が加わり、また、クリスピー感のあるパン粉が得られることが判明した。パン粉の柔らかさに関しては、従来品より劣るが、もろさのあるカリカリした独特のクリスピー感がある。(テクスチャー試験およびテクスチャー曲線の結果より、裸麦50%添加のパン粉の破断応力ともろさ応力が歪率60%のところで独特の波形を示していることによる。)米粉パン粉の食感のように、冷えると本当に硬さのあるカリカリしたものではない。裸麦パン粉の硬さは、逆にクリスピー感としての独特の食感を有する。柔らかさに関しては、製パン時に、裸麦粉の添加量を、50%、30%、10%に減段階的に減らしてテストしたところ、添加量を少なくするほど、柔らかさは従来のパン粉の食感に近いものになり、自在に調整できることが判明した。ただし、β−グルカンの含有量は、100g中、約1g、約0.6g、約0.1gと次第に減少していく。(β−グルカンの含有量測定結果より)
(ロ)大麦粉の使用により吸油率の低い(油ちょう時の油吸収抑制および/または油切れのよい)パン粉を開発することができた。
(ハ)大麦由来のビタミン類を始め、β−グルカン等の機能性成分を含む栄養的にも優れたパン粉を用いた機能性食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、油ちょう用衣材中に大麦由来のβ−グルカンを含有させ、その含有量が0.1〜7.0g/100gの範囲であることを特徴とする吸油量の少ない油ちょう用衣材であり、さらには、大麦由来のβ−グルカンは大麦粉の形態で含有させ、大麦粉が油ちょう衣材中の小麦粉と大麦粉の総重量において10〜60重量%を占めていることを特徴とする。具体的には、パン粉あるいはバッターミックスとして有用な油ちょう用衣材に係るものである。
【0015】
本発明の低吸油性の油ちょう用衣材に含有される大麦は、食物繊維に富み、特に機能性の高い水溶性のβ−グルカンを豊富に含んでいるため、大変優れた健康食品素材であるということができる。大麦の食品用途としては、麦飯、味噌、焼酎、及びビール、さらには大麦パンとしての食品用途が知られているが、大麦パンは、例えば、特許文献11および12に記載されているごとくよく知られた食品である。現在、大麦パンとして知られているものとしては、小麦粉の一部を大麦粉に置き換えて製造した大麦パンが挙げられるが、大麦パンは比容積が小さく硬くて食感が悪いものでありこうした問題点を改善するべく技術開発がなされてきているものの油ちょう用のパン粉あるいはバッターミックスとしての適用について注目した事例は見あたらない。さらに、パン粉に関しては、パン粉の日本農林規格(平成19年11月28日制定、農林水産省告示第1491号、平成25年12月24日最終改訂農林水産省告示第3121号)いわゆるパン粉JASの規定に、原材料(食品添加物以外の)として「次に揚げるものもの以外のものを使用していないこと。」とし、1.小麦粉、2.イースト、3.米粉、とうもろこし粉、大豆粉、ライ麦粉及びでん粉、4.米こうじ及び麦芽粉、5.大豆食物繊維、6.粉末状植物性たん白、7.乳製品及び卵、8.食塩、9砂糖類、10.還元水あめ、11.醸造酢、12.食用油脂、13.野菜及び果実並びにそれらの加工品と定義されている。上記のパン粉JASの規定に、大麦、並びに裸麦等の記載がなく、パン粉の製造に、大麦並びに裸麦等に注目して使用した事例が見当たらないと考えられる。
本発明の油ちょう用衣材のパン粉は、大麦粉を原料に配合して製造したパンから通常の手法によりパン粉に加工され、また、バッターミックスは大麦粉を含む通常の製法によって得ることができる。
【0016】
[パン粉]
パン粉とは、原料小麦粉からパンを焼成しそのパンを粉砕して粒状(または、切片状)にしたものであって、魚、貝などのフライ、カツレツやコロッケなどの揚げ物、ハンバーグなどのひき肉料理、グラタンなどに用いられる材料であり、業務用と家庭用に広く利用されている。また、パン粉は、水分コンテント(水分含有量)によって、生パン粉、中生(セミドライ)パン粉、乾燥(ドライ)パン粉の3種類に分類される。一般に、生パン粉は水分コンテントが35%±3%前後のものを言い、中生(セミドライ)パン粉は水分が約20%前後のものを言う。乾燥(ドライ)パン粉は水分が約14%以下に乾燥したものを言う。本発明のパン粉は上記のいずれの種類のものとしても製造される。
【0017】
パン粉製造法としては通常の手法が利用できる。例えば、食パンの場合よりも、砂糖、油脂を半分以下にし、脱脂粉乳も加えないで、中種法か直捏法で生地をつくり、醗酵、分割、丸め、整形、型詰め、焙炉(ほいろ)の工程を経たのち、普通のパン窯で焼く(焙焼式)、あるいは電極式パン焼き機によって焼成(電極式)することができる。焼き温度の関係で、焙焼式ではパンの表面に焦げ目ができるが、電極式ではパンの表面が焦げないので、電極式パン粉のほうが均一な外観のパン粉になる。冷却、粉砕、乾燥、ふるい分けをして製品になる。中種法はソフトなパン粉には欠かせない方法であり、ソフトなサウサク感のあるパン粉ができ、揚げ色を薄くした場合は退色し易くなる。直捏法は小麦粉、食塩、糖類、油脂を一度に捏ねあげて醗酵させる。直捏法は中種法のパン粉と比較するとやや固めのパン粉となり、揚げ色は退色し難い。
目的とするパン粉の特性に応じて製法あるいは添加剤などを調整することができる。
【0018】
[バッターミックス]
パン粉付けフライ食品は、惣菜・外食産業においては、打粉をした揚げ種(食材)を、小麦粉や澱粉、水、牛乳等を主原料とするバッター液に浸漬し、更にパン粉を付着させた後、フライして製造されるのが一般的である。パン粉付けしたフライ食品においてバッター液を用いるのは、主にパン粉と揚げ種の結着性を向上させるためである。バッターミックスを使うことによって、安定した粘度が得られ均一な付着量となる。さらにパンク防止、結着性の改善、サクサク感の付与や、調理しやすく、食べやすく、おいしい製品とすることが可能となる。本発明のバッターミックスは従来の製法に従って製造される。
【0019】
[大麦粉]
本発明の油ちょう用衣材として使用される大麦は、その形態の違いから、主に、二条オオムギ、四条オオムギ、六条オオムギ、ハダカムギ、野生オオムギに分かれる。六条オオムギとハダカムギは古来より日本で栽培されてきた品種で、押し麦や引き割り麦などにして米に混ぜるなど雑穀としての使用のほか、麦茶の原料ともなっている。本発明では、大麦はその種類に限定されることなく使用することができる。
大麦は粉砕して粉体状のものが使用されるが、大麦粉は、大麦粒を必要に応じ歩留り60%程度まで精白(搗精)した後、これを粉砕することによって得られるものであり、さらに必要に応じ、精製、蒸煮、加熱、分級、漂白などの処理を施したものなどいずれをも用いることができる。特にβ−グルカンを多く含むものが好ましい。大麦粉を得るには、原料となる大麦として、β−グルカンを比較的多量に含むことが知られている大麦、例えば、蛋白質含有量の高い性質を持った二条や六条の大麦種、あるいは、澱粉がもち性の性質を持ったもち性皮つき大麦、もち性裸大麦を使用する方法、大麦粒の外周部と内部でのβ−グルカン含量及び存在形態の違いを利用して粉砕後に分級してβ−グルカン含量の高い部分を得た分級大麦粉を使用する方法でもよく、また、これらの2法を組み合わせてもよい。大麦の粉砕方法は、常法に従えば良く、例えば、ローラー式粉砕機、衝撃式粉砕機、ハンマーミル(粉砕機)、石臼粉砕機などを使用して粉砕すればよい。分画方法は特に限定されず、例えば穀類の分級に通常用いられる篩い、気流分級などにより分画し、篩い分画では、例えば、所望の粗さのスクリーンを用いて一定時間篩い分画して、スクリーン上の画分を分取すればよい。市販小麦粉(薄力粉)の粒度分布は、粒径30μm以上の粒子が45重量部程度含まれている。小麦粉と同様に、本発明で用いる大麦粉は大麦を通常の製粉方法で粉砕するにあたり、例えば、粒径30μm以下が80重量%以上になるよう大麦粉を採取する。50μm以下の粒径が60%以上含まれると、結着防止効果は維持されるが、カリカリとした適度な歯ごたえと軽さのバランスをもつ食感を創出する事ができない。分級大麦粉を得るためには、例えば、少なくとも胚乳部分を50質量%以上含む大麦を、粒子径500μm以上の粒子が10体積%以下であり且つ粒子径40μm以下の粒子が30〜95体積%となるように粉砕し、得られた粉砕物から粒子径50〜500μmの粒子が80体積%以上の画分を利用するのが好ましい。
また、パン粉中に含有される大麦粉は、油ちょう衣材中の小麦粉と大麦粉の総重量において10〜60重量%を占めていることが好ましい。下限値の10重量%を下回ると油ちょうがうまくいった後の油きれが良くないなどの不都合が生じ好ましくない。上限値の60重量%を上回ると硬くなりもろくなりすぎて好ましくない。さらに好ましい大麦粉の含有範囲は30〜60重量%であり、最も好ましくは50〜60重量%の範囲である。
【0020】
[β−グルカン]
大麦中にはβ−グルカンが含まれている。その含有量は大麦の品種により異なるが、例えば、ビューファイバー品種には9.8%、イチバンボシ品種には3.2%含有されるとされている。
β−グルカンは、免疫力や抵抗力を高める作用と体内のがん細胞や感染細胞を攻撃したりする作用があるといわれている。一般に、β−グルカンとはβ−(1→3)−D−グルカンを指し免疫賦活作用やガンに対する予防効果、抑制効果などの効能が認められ、一般の人であっても、β−グルカンが免疫賦活作用や抗がん作用を示すキノコ類などの有効成分であると答えるほど知名度は高い物質である。免疫力の向上により、アレルギー反応の沈静化、血糖値を下げる、血圧を抑える、腸を刺激して便通をよくする作用、コレステロール値を低下させる働きなどがあるとされている。
本発明は、大麦粉を油ちょう用のパン粉あるいはバッターミックスに使用することにより、大麦中に含まれるβ−グルカンを利用することが可能となり、低油脂含有の油ちょう用衣材とすることと相まって健康増進をいっそう図ることができる。
油ちょう用衣材中に含有される衣材中には、β−グルカンを0.1〜7.0g/100gの範囲で含有することが好ましく、下限値の0.1g/100gを下回ると油きれが悪く、衣中の油含有量が多くなり好ましくない。上限値の7.0g/100gを上回ると衣が固くなりすぎるため好ましくない。さらに好ましいβ−グルカンの含有範囲は0.5〜5.0g/100gであり、最もさらに好ましくは1.0〜4.0g/100gの範囲である。
【0021】
[パンの製造]
次に記載の原料配合によりパンを焼成してパン粉を製造し、本発明の油ちょう用衣材とすることができる。また、その製造工程については表1および表2に示す。
(配合例1:一般的な小麦粉100%使用の配合例)
小麦粉 57.14%、ブドウ糖2.12%、塩0.85%、ショートニング0.85%、水分38.25%の他にイースト、粉末状大豆蛋白、イーストフード、乳化剤を加えて総計100%とした。
(配合例2:裸麦50%、小麦粉50%使用の配合例)
裸麦30.68%、小麦粉30.68%、ショートニング1.19%、塩0.85%、水分35.46%の他にブドウ糖、イーストフード、乳化剤を加えて総計100%となるよう配合した。
次いで、下記の条件により醗酵、焼成、粉砕を行いパン粉の製造した後、以下に示す試験に供した。
【0024】
次に、本発明の具体例を以下の実施例により説明するが、本発明がこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例における、吸油率、β−グルカン量などの各種検査は、一般社団法人おいしさの科学研究所に依頼した。
【実施例1】
【0025】
[パン粉の水分コンテントの測定と吸油率と残油率の測定]
以下の5種のパン粉、1.焙焼パン粉6mm、2.電極パン粉6mm、3.電極裸麦10%パン粉6mm、4.電極裸麦30%パン粉8mm、5.電極裸麦パン粉10mmを評価試料として用意し水分コンテントの測定と吸油率と残油率を測定した。上記5種類のパン粉の試料を表3に示した。
No.1の「6mm焙焼」は、配合例1に記載のパン原料を使用して表2に記載の焙焼式で焼成したパンを使用し、粉砕機で6mmの網を使用して粉砕したパン粉を表す。
No.2の「6mm F」は、配合例1に記載のパン原料を表1に記載の電極方式で焼成したパンを使用し、粉砕機で6mmの網を使用して粉砕したパン粉を表す。
No.3の「10mm 裸麦50%」は、配合例2に記載のパン原料を使用して、表1に記載の電極方式で焼成したパンを使用し、粉砕機で10mmの網を使用して粉砕したパン粉を表す。
本発明の実施例にあたるNo.3、4および5(表6参照)は小麦粉および裸麦粉の合計量の10重量%、30重量%、50重量%が裸麦粉である原材料を用いて、表1の電極方式でパンを焼成し、粉砕機でそれぞれ「6mm」、「8mm」、「10mm」の網で粉砕したパン粉を表す。
【0026】
【表3】
【0027】
1.試験方法
パン粉は5℃の冷蔵庫で一晩解凍し、2mm目の篩にかけ、細かい粒子を除いたものを試料とした。
2.乾燥試験
シャーレに試料を5g量りとり、150℃で2時間乾燥させた後、重量を測定した。蒸発した水分量を元のパン粉の重量で割り、水分率をもとめた。結果を表4に示す。
【0028】
【表4】
【0029】
3.吸油試験
茶こしに試料を5g量り取り、油を175℃に熱した後、IHヒーターを切ってから茶こしごと試料を油に入れ、2分間揚げた。従って揚げ温度は175〜165℃である。揚げた試料をキッチンペーパーの上に広げ、10分間油きりをした後、重量を測定した。また、油きりした試料をガーゼに包み、専用の金属容器(
図6)に入れ、遠心分離(3000rpm、10分、25℃)して重量を測定した。
(吸油量1)キッチンペーパーで油きりした後の試料に含まれている油の量、(吸油量2)遠心分離で分離された油の量、(残油率)遠心分離で分離されなかった油の量のそれぞれを試料の乾燥重量で割って、吸油率1、吸油率2、残油率をもとめた。結果を表5に示す。
【0030】
【表5】
吸油率1:油ちょう後キッチンペーパーで油切した後の試料に含まれている油の量/試料の乾燥重量
吸油率2:遠心分離された油の量/試料の乾燥重量
残油率:遠心分離で分離されなかった油の量/試料の乾燥重量
【0031】
4.吸油率試験
吸油率1、吸油率2、残油率の結果のから、実際に食べる時の状態に近い吸油率1の値を対比すると、裸麦を入れたサンプルは裸麦の入っていないサンプルよりも吸油率の値が低くなっており(統計的に有意差もみられる)、パン粉に裸麦を入れることで順次、吸油率が低くなると結論される。特に、裸麦を50重量%含有する「は50」は「焙焼」や「F」の65%程度と吸油率が低下している。また、パン粉の構造物(グルテン膜、澱粉、β−グルカンなど)と油の親和性を示すと考えられる残油率を見ると、水分率とは逆に、「F」が高く、「焙焼」が低く、裸麦入りパン粉は焙焼とFの中間の値を示した。水分率と残油率がほぼ逆の関係を示したのは、これらがパン粉自身の構造物の親水性、親油性の傾向をそのまま表していると考えると合理的と言える。一方、吸油率1は残油率とは傾向が異なっており、構造物自身の性質よりパン粉の立体構造が大きな影響を及ぼしていることが考えられる。
【実施例2】
【0032】
[パン粉の官能検査]
表6に示したパン粉3種について、官能検査により硬さ、サクサク感、およびおいしさを評価した。評価試料としてのパン粉は、比較例とともに表6に示す3点を用意し以下の試験に供した。
No.1の「6mm焙焼」は、配合例1に記載のパン原料を表2に記載の焙焼方式で焼成したパンを原料とする平均粒径6mmのパン粉を表す。
No.2の「6mm F」は、配合例1に記載のパン原料を表1に記載の焼成方式で焼成したパンを原料とする平均粒径6mmのパン粉を表す。
本発明の実施例にあたるNo.3は小麦粉および裸麦粉の合計量の50重量%が裸麦粉であるパン原料を表2に記載の焼成方式で焼成したパンを原料とする平均粒径「10mm」のパン粉を表す。
【0033】
【表6】
【0034】
予め訓練した5名(男性4名、女性1名)をパネリストとして用いた。試料は,パン粉はそのままあげたもの、白身魚フライ及びささみフライの3つの方法で調製し、これらについて試験を行った。
試料の調理方法は以下の通りである。
(1)パン粉そのまま
表6に示した各評価試料をそれぞれ茶こしに10g量りとり、175℃で2分間揚げた後、油から出して茶こしを20回振って油きりをした。揚がったパン粉は4枚重ねのキッチンペーパー上に10cm四方に広げ、10分間放置したものをサンプルとした。
(2)白身魚フライ
株式会社サヌキフーズが株式会社キョーワに3種それぞれのパン粉を用いた冷凍白身魚フライの作成を依頼し、送られてきたものを用いた。フライヤーは網で3区画に区切り、それぞれのパン粉を用いた白身魚フライを各1個ずつ、合計3個を一度に以下の様に調理した。冷凍庫から取り出した直後のものを200℃で3分30秒間揚げた後、4枚重ねのキッチンペーパー上において10秒放置し、紙皿の上に移して5分間放置し、4等分にした真ん中二つをサンプルとして用いた。
(3)ささみフライ
株式会社サヌキフーズの担当者3名で揚げる直前に3種それぞれのパン粉を用いた一口ささみフライを作成した。フライヤーは網で3区画に区切り、それぞれのパン粉を用いたささみフライを各1個ずつ、合計3個を一度に調理した。200℃で3分間揚げた後、4枚重ねのキッチンペーパー上において10秒放置し、紙皿の上に移して5分間放置し、2等分したものをサンプルとして用いた。
以上の(1)〜(3)のように調理したサンプルをどのパン粉を使用しているかを伏せた状態で食し、硬さ、サクサク感、おいしさの3項目で5段階に評価し、表7の基準で点数を振ってそれぞれの項目で平均値を求めた。
【0035】
【表7】
【0036】
パン粉官能検査結果(平均値)について表8および
図1、2、3に示した。項目でみると、硬さは「は50」>「F」>「焙焼」、サクサク感は「焙焼」>「F」>「は50」、おいしさは「焙焼」>「F」>「は50」の順になっている。以上のことから、裸麦パン粉を使用したパン粉は硬く、サクサクというよりはカリカリとした食感であり、おいしさは若干劣る程度だと判断される。また、パン粉そのままよりも白身魚フライやささみフライに加工した方が、特においしさの点では他のパン粉との差が小さくなることも分かった。
【0037】
【表8】
【実施例3】
【0038】
[テクスチャー試験]
表3に示した5種類のパン粉についてそれらのテクスチャーを測定した。
茶こしに試料を5g量りとり、油を175℃に熱した後、IHヒーターを切ってから茶こしごと試料を油に入れ、2分間揚げた。従って揚げ温度は175〜165℃である。揚げた試料を1.2g(「は50」は1.5g)金属容器に量りとり、クリープメーター(山電社製 RE2−33005S)により、φ12mmの円柱プランジャーを用いて、歪み率90%、速度1.0mm/sの条件で圧縮試験を行った。テクスチャー試験の解析結果を表9に、それぞれのサンプルで典型的な波形を
図5のグラフに示した。
【0039】
【表9】
【0040】
テクスチャー試験の結果では、破断応力をみると、「焙焼」>「F」、「は10」>「は30」、「は50」となっていて、統計的に有意であった。もろさ応力については、「焙焼」>「は10」>「F」>「は30」≫「は50」の順になっており、特に「は50」は他ものと比較して統計的に優位で高い値を示した。これらの結果や、テクスチャー曲線の波形から、裸麦をパン粉に30%以上入れることで硬くなり、さらに50%ではもろさも生じ、カリカリとしたクリスピー感のある食感になると結論される。
【実施例4】
【0041】
[β−グルカンの定量]
パン粉5検体について、β-グルカン測定キット(MIXED−LINKAGE BETA−GULUKAN ASSAY PROCEDURE McCLEARY METHOD Megazyme製)を用いてβ−グルカン含有量の測定を行なった。
試験に供したパン粉を表10に示した。これらのパン粉の原料、パンの焼成、およびパン粉の製造は上記実施例1と同様に行った。
【0042】
【表10】
【0043】
[試験方法]
パン粉は5℃の冷蔵庫で一晩解凍し、室温で1時間放置した。パン粉10gを量りとり、ヘキサン(試薬特級)40mlを加えて17時間脱脂した後、ヘキサンを捨ててシャーレ上に広げ、ドラフト内で30分間放置し、ヘキサンを風乾した。105℃に予熱した乾燥機で2時間乾燥し、乳鉢で5分間すりつぶしたサンプルを15mlのコニカルチューブに100mg量とった。0.2mlのエタノール水溶液(50%v/v)を加えて分散させ、20mMリン酸緩衝液(pH4.0)4.0ml加え、ボルテックミキサーで10秒間撹拌した。コニカルチューブを沸騰水につけて60秒間保持し、ボルテックスミキサーで10秒間撹拌し、再び沸騰水につけて2分間保持した。コニカルチューブを40℃恒温槽につけて保温し、リケナーゼ溶液を0.2ml加えてボルテックミキサーで10秒間撹拌し、40℃恒温槽につけて1時間保持した(20分ごとにボルテックミキサーで10秒間撹拌した)。0.2M酢酸緩衝液(pH4.0)5.0mlを加えてボルテックミキサーで10秒間撹拌し、室温で30分間放冷した。遠心分離(1000g、10分)し、上清を0.1mlずつ4本の15mlコニカルチューブに分注した。4本のうち3本にはβ-グルコシダーゼ溶液を0.1ml加え、残りの1本には50mM酢酸緩衝液(pH4.0)0.1mlを加えた(これをブランクとする)。40℃恒温槽につけて10分間保持し、グルコースオキシダーゼ・ペルオキシダーゼ混合試薬をそれぞれ3.0ml加え、40℃恒温槽につけて20分間保持した。恒温槽から取り出して30分間放冷した後、分光光度計UV−2500PC(SHIMADZU製)を用いて、510nmの吸光度を測定した。
何れも、3回繰り返し測定の平均値を、表11および
図4に示した。
【0044】
【表11】
【0045】
β−グルカンは「焙焼」、「F」にはほとんど含まれていなかった。「焙焼」の試料でβ−グルカンが測定されているが、僅かであり、「F」で測定できなかったことから、これらの数値は誤差の範囲内であり、実質的には含有されていないものと考えられる。
「は10」、「は30」、「は50」の結果から、β−グルカンの量と裸麦の割合が大きくなるにしたがってβ−グルカンの含有量も増大した。また、全サンプル間において1%の有意差がみられるため数値は信頼性があるものとかんがえられる。裸麦パン粉を含有するパン粉は、他のパン粉よりも明らかに多くのβ−グルカンを含有しており、裸麦50%で最も高いことが判明した。
【実施例5】
【0046】
[バッターミックスの製造]
小麦粉50%、大麦粉(オオムギ粉または裸麦粉)50%、ブドウ糖2.4%、食塩0.96%、油脂0.96%、イースト0.76%、大豆たん白0.16%、イーストフード0.08%、乳化剤0.08%を含有する原料を焼成したパンよりバッターミックスを製造した粒度は0.25mm以下とした。
バッターミックスを通常の方法により製造して上記のパン粉と同様の試験により吸油率を測定して、吸油率が低下していることを確認した。