【課題】流体の供給停止時や供給開始時であっても、触媒などの充填材が、流体分散手段の流体通過口を通って一次側に落下(逆流)することのない上向流型反応器の運転方法及び水処理装置を提供すること。
【解決手段】流体を分散供給する複数のノズル25を有する分散器20の上方に充填材30を充填し、且つノズル25の流体通過口の大きさを少なくとも一部の充填材30の大きさよりも大きくした構造の上向流型反応器1−1である。流体通過口から充填材30中に供給する流体の供給開始時は、その供給量を漸増させる。一方、流体通過口から充填材30中に供給する流体の供給停止時は、その供給量を漸減させる。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒を充填した触媒充填塔に原水を通水して、原水中の処理対象物質を処理する触媒接触方式による処理方法がある。この種の処理方法の中には、原水を下側から通水する上向流型と、原水を上側から投入する下向流型がある。下向流型の場合は、触媒の有効径や均等係数にもよるが、多かれ少なかれ、原水中の懸濁物質を触媒充填層で除去するろ過機能を有する。一方、上向流型の場合は、原水の通水に伴って、触媒を流動化させて運転する場合が通例のため、原水中の懸濁物質は触媒充填層で捕捉されることなく流出する。下向流型と上向流型では、触媒充填層での懸濁物質除去の有無が大きな違いとなっており、懸濁物質が除去される下向流型と除去されない上向流型では、原水の通水速度に大きな差が生じる(上向流型の方が速い)。
【0003】
触媒充填塔の後段に、例えば、砂ろ過や膜ろ過のような除濁手段を設置する場合は、前段の触媒充填塔では除濁を行う必要がないため、触媒充填塔には上向流型を選択することが一般的であり、合理的なプロセスとなる。
【0004】
上向流型の利点は、触媒充填層で懸濁物質を抑留しないために、高速で処理することが可能な点である。逆に言うと、触媒充填層で懸濁物質を抑留すると、そこで圧力を損失するため、高速での処理にとって不利になると言える。
【0005】
上向流型では、充填した触媒が原水流入部に混入しないように、分散ノズルや流入ストレーナを設置したり、あるいは砂利を敷設したろ床板などを設けて触媒と原水流入部を分離したりすることが一般的である。これらの分散ノズルや流入ストレーナの開口部(流体通過口)は、触媒が落下しないように、触媒の径よりも小さい必要がある。
【0006】
一方上記上向流型において、懸濁物質を含む原水を高速で処理しようとした場合には、触媒充填層では懸濁物質の捕捉はないものの、この分散ノズルや流入ストレーナ、あるいは砂利層に懸濁物質が捕捉され、目詰まりを生じることがある。そうすると「懸濁物質を抑留しないために高速処理が可能」な上向流型の利点を損なうこととなる。
【0007】
それを防止するために、砂利層を無くして、分散ノズルや流入ストレーナの開口部を懸濁物質が詰まらない程度に十分大きくする方法が考えられる。このとき、充填する触媒の粒径が小さいと、懸濁物質が詰まらない程度に大きくした分散ノズルや流入ストレーナの開口部が、触媒の粒径よりも大きくなることがある。その場合、開口部から分散ノズルや流入ストレーナ内に触媒が落下すること(原水側あるいは一次側に流出すること、以下「逆流」とも言う。ここで、通常運転時の流体の流れ方向を考えたとき、分散ノズルや流入ストレーナの通過前を一次側、通過後を二次側と呼ぶ。)が懸念されるが、触媒の安息角を考慮した開口部の構造にすることで、それらの問題を回避することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、触媒の安息角を考慮した開口部の構造を用いることで、通常時の運用では、開口部内へ、あるいは一次側への触媒の落下(逆流)を防ぐことができる。
【0010】
しかしながら、原水の供給から停止に切り替わる際(原水供給状態から停止時への移行時)、または、原水の停止から供給に切り替わる際(停止時から原水供給状態への移行時)には、たとえ前記触媒の安息角を考慮した開口部の構造を用いたとしても、この開口部内へ(一次側へ)の触媒の落下(逆流)現象(原水側への流出現象)が生じてしまうという問題があった。
【0011】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、流体の供給停止時や供給開始時であっても、触媒などの充填材が、分散ノズルやストレーナ等の流体分散手段の流体通過口(開口部)内に(一次側に)落下(逆流)することのない上向流型反応器の運転方法及び水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、流体の供給停止時や供給開始時に生じる上記充填物の流体通過口から原水側への落下(逆流)現象につき、その原因を次のように考えた。即ち、通常の運用時は、複数ある流体通過口の全てから原水が流出しているため、充填物が流体通過口から原水側に逆流することは困難である。
【0013】
一方、原水の供給を開始した場合、全ての流体通過口から原水が均等に流出するまでには、一定の時間が必要となる。特に、供給流量が多くなれば、同じような圧力損失を設定された流体通過口の中でも、微々たる違いの中で、最も圧力損失が低いところから原水の流出が始まる。これは通常運用状態では問題にならない圧力損失の差である。しかし、運転開始時には、まだ動き出していない流体が流体通過口の一次側にあり、慣性の法則によって留まろうとする。留まろうとする流体は、後ろから来る流体に押され易い流体が先に押されて、最も出易いところから出ることになる。定常状態になれば、全ての流体が動き、微々たる損失差など関係なく、全ての流体通過口から原水が流出するが、停止状態から流体が動き出す場合には問題となる。動き出しの瞬間に一部の流体通過口から流体が流出すると、流出した液体分の空間を埋めるために、流体通過口の上流側(一次側)に負圧が生じる。その負圧によって、水が流出しなかった流体通過口は周辺の水を吸い込み、その際、流体通過口付近の触媒を吸い込むのである。この現象は、触媒の安息角を考慮した構造の流体通過口であっても避けることはできない。
【0014】
一方、原水供給状態から停止する場合も同様の吸込現象が起きる。即ち、原水供給を急に停止した場合、例えば閉止したバルブより下流側、あるいはポンプより下流側にある流体は慣性の法則に従って動き続ける。しかし、原水の供給は止まっているので、残勢で動くのみである。また、閉止したバルブやポンプ付近からは流体が慣性によって離れるが、後から原水の供給は無いために、閉止したバルブやポンプに近い辺りから負圧が生じることとなる。その負圧によって、閉止したバルブやポンプに近い流体通過口では、流体が逆流する現象が起き、その際、流体通過口付近の触媒を吸い込むのである。この現象は、触媒の安息角を考慮した構造の流体通過口でも避けることはできない。
【0015】
そして本願発明者は、上記流体通過口への充填物吸込現象を防止する方法として、原水供給を開始する、あるいは停止する際に、徐々に流量を上げて行く、あるいは、下げていく操作が有効であることを見出した。
【0016】
即ち、本発明にかかる上向流型反応器の運転方法は、流体を分散供給する流体通過口を有する流体分散手段の上方に充填材を充填し、且つ前記流体通過口の大きさを少なくとも一部の充填材の大きさよりも大きくした構造の上向流型反応器を用意し、前記流体通過口から前記充填材中に供給する流体の供給開始時は、その供給量を漸増させ、又は前記流体通過口から前記充填材中に供給する流体の供給停止時は、その供給量を漸減させることを特徴としている。前記流体通過口は複数となる。なお複数の流体通過口とは、一つの流体通過口を有する複数のノズルがある場合の他に、一つのノズルが複数の流体通過口を有し、ノズルが複数ある場合がある。
この発明のように、流体供給開始時に、徐々に流量を増加して行けば、流体は徐々に動き出し、流速も遅いので、圧損に軽微な差のある流体通過口でも関わりなく、ほぼ均等に流体の流出を開始させることが可能になる。これによって局所的な負圧の発生を防ぎ、充填物の逆流を防止することができる。
また、この発明のように、流体供給停止時に、徐々に流量を低下させていけば、急激に流体供給を停止した場合に起こる負圧の発生を防止することができ、充填物の逆流を防止することができる。
流体供給停止時に徐々に流量を低下させることのさらなる効果として、停止するまでに供給量が徐々に低下するため、上向流の動きをしていた充填物は徐々に落下することができ、且つ流体通過口の廻りには、流体が流出する流れを依然保持しているため、充填物は流体通過口の廻りに堆積し辛くなる。それによって、さらに充填物の逆流を防ぐことができる。
【0017】
また本発明は、前記流体の供給量の漸増が、流体の供給開始時に流体分散手段の全ての流体通過口において流体あるいは充填材が前記流体分散手段内に(あるいは、一次側に)吸い込まれない状態での漸増であり、前記流体の供給量の漸減が、流体の供給停止時に流体分散手段の全ての流体通過口において流体あるいは充填材が前記流体分散手段内に(あるいは、一次側に)吸い込まれない状態での漸減であることを特徴としている。
流体の供給量の漸増・漸減をこのように構成すれば、流体分散手段の流体通過口への充填物の逆流を確実に防止できる。
【0018】
また本発明は、前記流体分散手段に流体を供給するための流体流路における、前記漸増又は漸減時の流体流速の速度変化が、毎秒1m/s以下であることを特徴としている。
ここで前記流体分散手段に流体を供給するための流体流路とは、例えば、分岐がある場合は分岐前の主管(下記する主管21等)や主管の上流側に接続される配管(下記する配管29等)をいう。
【0019】
また本発明にかかる水処理装置は、充填材と、前記充填材を充填する反応器と、前記反応器内の充填材の下方に設置され、流体を分散して供給する流体通過口を有し、且つ前記流体通過口の大きさを少なくとも一部の充填材の大きさよりも大きく構成した流体分散手段と、前記流体分散手段に供給する液体の供給量を漸減あるいは漸増させる流量調整手段と、前記流量調整手段を制御して、前記流体通過口から前記充填材中に供給する流体の供給開始時の供給量を漸増させ、又は前記流体通過口から前記充填材中に供給する流体の供給停止時の供給量を漸減させる制御手段と、を備えることを特徴としている。
この水処理装置によれば、上述のように、流体供給開始時に、圧損に軽微な差のある流体通過口でも関わりなく、ほぼ均等に流体の流出を開始させることが可能になり、充填物の逆流を防止することができる。
またこの水処理装置によれば、上述のように、流体供給停止時に、急激に流体供給を停止した場合に起こる負圧の発生を防止することができ、充填物の逆流を防止することができる。
また流体供給停止時に、上向流の動きをしていた充填物は徐々に落下し、且つ流体通過口の廻りには流体が流出する流れを依然保持しているため、充填物は流体通過口の廻りに堆積し辛くなる。それによって、さらに充填物の逆流を防ぐことができる。
【0020】
また本発明は、前記流量調整手段が、ポンプの電動機であるか、あるいはバルブであることを特徴としている。
【0021】
また本発明は、前記制御手段が、インバータであるか、あるいは、バルブのアクチュエータであることを特徴としている。
【0022】
また本発明は、前記充填材が触媒であり、前記反応器が触媒充填塔であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、流体の供給停止時や供給開始時であっても、触媒などの充填物が、分散ノズルやストレーナ等の流体分散手段の流体通過口内に(一次側に)落下(逆流)することを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態にかかる水処理装置1−1の全体概略構成図である。同図に示す水処理装置(以下「上向流型反応器」という)1−1は、マンガン含有水の処理に用いられる触媒接触塔であり、反応器(以下「反応器本体」という)10内の下部に、原水(流体)を分散供給する複数の流体通過口(下記するノズル25の孔)を有する流体分散手段(以下「分散器」という)20を設置し、この分散器20の上方に充填材30を充填して構成されている。この上向流型反応器1−1は、浄水場などに設置される。この上向流型反応器1−1は、充填材30と分散器20の間に、充填材30を支持する砂利などの充填材支持層を保有しない構造である。
【0026】
反応器本体10は円筒状であって、その上部に処理水(流体)を排出する排水路11を設置している。排水路11は、反応器本体10からオーバーフローする流体を導入し、導入した流体を次の処理工程に移送する。
【0027】
図2は反応器本体10の下部に設置された分散器20を上方より見た状態を示す概略平面図である。
図1,
図2に示すように、分散器20は、主管21から枝分かれした多数本の枝管23中に、多数のノズル25を設けて構成されている。各ノズル25には小径の流体通過口が設けられ、反応器本体10の底面近傍の全面にわたって略均等に配置されている。各ノズル25それぞれに設ける流体通過口は、一つでも複数でも良い。
【0028】
図3はノズル25近傍部分の要部拡大側面図である。同図に示すようにノズル25は、枝管23の上部に上向きに取り付けられている。各ノズル25の流体通過口の内径は、この例では15mmとしている。各ノズル25の先端の上部には、円錐形の傘部27が設置されている。
【0029】
図1に戻って、充填材30は、この例では粒状のマンガン触媒(Mn砂)であり、その有効径が0.6mmのものを用いている。マンガン触媒は、原水中に含まれるマンガンイオンを不溶性マンガンとして析出させ、原水中から除去する作用を有する。
【0030】
前記分散器20の主管21の上流側の配管29は、反応器本体10の外部に引き出されており、上流側に向かってバルブ40とポンプ50が接続されている。配管29及びこの配管29に連続する主管21は同径に形成されている。バルブ40はアクチュエータ41によって、その開閉速度が制御される。アクチュエータ41は、電動でも空圧でも良い。ポンプ50は電動機51によってその駆動が制御される。また電動機51はインバータ53によって、その回転速度が制御される。インバータ53として、この例では、VVVFインバータを用いている。
【0031】
次に上記上向流型反応器1−1の運転方法の例を説明する。
図4は上向流型反応器1−1の運転方法の一制御例を示す概略制御ブロック図であり、バルブ40の開閉速度を制御することによって、原水の供給開始時と供給停止時の供給量を制御する方法を示している。この例で用いるバルブ40としては、例えばアクチュエータ41をモータ等とする電動弁を用いる。
【0032】
まず
図4において、上向流型反応器1−1の始動指令があると(ステップ1−1)、ポンプ50が始動し(ステップ1−2)、次にバルブ40を始動して、これを開く(ステップ1−3)。バルブ40は電動弁のため、これを開く速度を調整できる。そして本実施形態では、前記バルブ40が開く速度を、主管21(枝管23が枝分かれするよりも上流側の部分。以下、同様)あるいは配管29を通過する流体が、毎秒1m/s以下の速度変化でゆっくりと漸増するように設定している。
【0033】
図5は、原水供給開始時と、原水供給停止時において、主管21あるいは配管29から各ノズル25を介して反応器本体10内に供給する原水を漸増又は漸減させる加速度を変更した場合に、各ノズル25へ充填材30の逆流が生じるか否かを実験した結果を示す図である。同図に示すように、主管21あるいは配管29を通過する流体の漸増加速度(又は漸減加速度)を1〔(m/s)/s〕以下とした場合は、全てのノズル25において逆流が生じなかった。また漸増加速度(又は漸減加速度)を1〔(m/s)/s〕〜3〔(m/s)/s〕とした場合は、一部のノズル25において少量の逆流が生じた。さらに漸増加速度(又は漸減加速度)を3〔(m/s)/s〕以上とした場合は、一部のノズル25において大量の逆流が生じた。
【0034】
そして本実施形態では、上述のように、バルブ40を開く速度を、主管21あるいは配管29を通過する流体が、毎秒1m/s以下の速度変化、即ち漸増加速度を1〔(m/s)/s〕以下としたので、全てのノズル25において流体の逆流現象が生じない。言い換えれば、原水の供給開始時に分散器20の全てのノズル25において流体が分散器20内に吸い込まれない状態を維持しながら漸増するように、バルブ40が開く速度を設定した。もし逆流現象が生じると、ノズル25から逆流した充填材30が枝管23内又は主管21内の下部に溜まって固まり、流体の流れを阻害したり、またバルブ40に至ってその開閉動作に支障を生じさせたりする等の恐れがあるが、本実施形態では、これらの問題を防止できる。
【0035】
図4に戻って、バルブ40が完全に開いた後は、各ノズル25から規定の供給量の流体が反応器本体10内に供給され、上向流型反応器1−1の通常運転が行われる(ステップ1−4)。これによって、反応器本体10内に導入された原水中のマンガンイオンは、充填材30の触媒作用によって、不溶性マンガンとして析出され、原水中から除去される。マンガンイオンが除去された処理水は、排水路11から排出され、次の処理工程に移送される。
【0036】
次に上向流型反応器1−1の停止が指示されると(ステップ1−5)、バルブ40を始動してこれを閉じる(ステップ1−6)。そして本実施形態では、前記バルブ40が閉じる速度を、主管21あるいは配管29を通過する流体が、毎秒1m/s以下の速度変化でゆっくりと漸減するように設定している。つまり、漸減加速度を1〔(m/s)/s〕以下としたので、全てのノズル25において流体の逆流現象は生じない。言い換えれば、原水の供給停止時に分散器20の全てのノズル25において流体が分散器20内に吸い込まれない状態を維持しながら漸減するように、バルブ40が閉じる速度を設定した。従ってこのときも逆流現象は生じず、充填材30によって枝管23内又は主管21内の流体の流れが阻害されたり、またバルブ40に至ってその開閉動作に支障が生じたりする等の恐れを防止できる。
【0037】
そして、バルブ40の全閉を確認したら(ステップ1−7)、ポンプ50を停止し(ステップ1−8)、上向流型反応器1−1の運転を終了する。
【0038】
上述のように、上記制御例の場合、各ノズル25からの原水供給開始時と原水供給停止時における、原水の漸増又は漸減は、バルブ40の開閉速度によって制御される。つまり上記例の場合、バルブ40が流量調整手段であり、アクチュエータ41が制御手段になる。なお上記例の場合、ポンプ50は通常通りに運転を開始または停止すればよい。
【0039】
なお、アクチュエータ41によって、バルブ40をインチング動作させることで、バルブ40をゆっくり動作させるように制御しても良い。またバルブ40としてスピードコントローラ付きの空圧弁を用い、スピードコントローラによって弁の開閉速度を調整しながら動作させるように構成しても良い。
【0040】
図6は上向流型反応器1−1の運転方法の他の一例を示す概略制御ブロック図であり、ポンプ50を制御することによって原水の供給開始時と供給停止時の供給量を制御する方法を示している。この例で用いるバルブ40としては、例えば空圧弁を用いる。空圧弁はスピードコントローラを用いない場合、その開閉速度が速い。
【0041】
まず
図6において、上向流型反応器1−1の始動指令があると(ステップ2−1)、バルブ40を開にすると同時にインバータ53の出力周波数を規定の周波数増速率で増加していくことでポンプ50を始動する。即ちこのときバルブ40は即座に全開となるが、ポンプ50の電動機51はインバータ53によってその回転数が徐々に増加するように制御されるため、ポンプ50の吐出流量は徐々に増加する。本制御例では、前記電動機51の回転速度(即ちポンプ50の羽根車の回転速度)の増加を、主管21あるいは配管29を通過する流体の流速が毎秒1m/s以下の速度変化となるように、即ち漸増加速度が1〔(m/s)/s〕以下となるように制御したので、上述のように、全てのノズル25において流体の逆流現象が生じない。
【0042】
次に、ポンプ50が通常運転となった後は、規定の供給量の流体が各ノズル25から反応器本体10内に噴出され、上向流型反応器1−1の通常運転が行われる(ステップ2−3)。これによって、反応器本体10内に導入された原水中のマンガンイオンが除去され、マンガンイオンが除去された処理水が、排水路11から排出され、次の処理工程に移送される。
【0043】
次に上向流型反応器1−1の停止が指示されると(ステップ2−4)、インバータ53の出力周波数は、既定の周波数減速率で減少する。本制御例では、前記電動機51の回転速度(即ちポンプ50の羽根車の回転速度)の減少を、主管21あるいは配管29を通過する流体の流速が毎秒1m/s以下の速度変化となるように、即ち漸減加速度が1〔(m/s)/s〕以下となるように制御したので、上述のように、全てのノズル25において流体の逆流現象が生じない。
【0044】
そして、ポンプ50の停止を確認したら(ステップ2−6)、このポンプ50の停止と同時にバルブ40を閉止し(ステップ2−7)、上向流型反応器1−1の運転を終了する。また、十分に主管21または配管29における流体の流速が減じられた時点で、ポンプ50停止前にバルブ40を閉止し、全閉後にポンプ50を停止しても良い。
【0045】
上記制御例の場合、各ノズル25からの原水供給開始時と原水供給停止時における、原水の漸増又は漸減は、ポンプ50の運転状態(電動機51の回転速度)によって制御される。つまり上記制御例の場合、電動機51が流量調整手段であり、インバータ53が制御手段になる。なお上記制御例の場合、バルブ40は通常通りに開閉すればよい。場合によっては、バルブ40の代りに逆止弁を設置しても良く、さらにはバルブ40を省略しても良い。また、上記バルブ40による制御とポンプ50による制御を両方用いて、原水の供給開始時と供給停止時の供給量を制御するように構成しても良い。
【0046】
図7は、前記
図3に示す上向きのノズル25の代りに用いられる下向きのノズル25−2近傍部分の要部拡大側面図である。同図に示すノズル25−2は、枝管23−2の下部に下向きに取り付けられている。各ノズル25−2の流体通過口の内径は、前記ノズル25と同様に、この例では15mmとしている。各ノズル25−2の先端は下方向に向かって円錐形(ラッパ状)に張り出している。このような下向きのノズル25−2であっても、本発明を適用できる。なおノズル25−2以外の事項については、前記
図1〜
図6に示す実施形態と同じである。
【0047】
図8は本発明の他の実施形態にかかる水処理装置1−3の全体概略構成図である。同図に示す水処理装置(以下「上向流型反応器」という)1−3において、前記
図1に示す上向流型反応器1−1と相違する点は、分散器20の代りに、ノズル付きのろ床板60−3を設置した点である。ろ床板60−3以外の構成は、前記
図1〜
図6に示す上向流型反応器1−1の構成と同一なので、同一又は相当部分には同一符号を付す(但し、各符号には添え字「−3」を付す)。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記
図1〜
図6に示す実施形態と同じである。
【0048】
ろ床板60−3は、反応器本体10−3内の底部近傍に、その上下を仕切るように設置され、多数のノズル25−3が上向きに且つろ床板60−3の全面に略均等に取り付けられている。各ノズル25−3の流体通過口の内径は、前記ノズル25と同様に、15mmとしている。この例でも、各ノズル25−3の先端の上部には、円錐形の傘部27−3が設置されている。
【0049】
このように構成した上向流型反応器1−3においても、前記
図4や
図6に示すと同様の制御方法を用い、上記上向流型反応器1−1と同様に、配管29−3を通過する流体の供給開始時と供給停止時の供給量を、毎秒1m/s以下の速度変化、即ち漸増加速度と漸減加速度を1〔(m/s)/s〕以下とすることで、全てのノズル25−3において流体の逆流現象を防止できる。
【0050】
図9は本発明のさらに他の実施形態にかかる水処理装置1−4の全体概略構成図である。同図に示す水処理装置(以下「上向流型反応器」という)1−4において、前記
図1に示す上向流型反応器1−1と相違する点は、ポンプ及びこれに付随する電動機やインバータを設置せず、自然流下によって原水を反応器本体10−4内に供給するように構成した点である。従って、配管29−4には、バルブ40−4が接続され、また配管29−4の上流側は、反応器本体10−4内の流体の水位よりも高い水位を有する水源70−4が接続されている。なお、上記以外の構成は、前記
図1〜
図6に示す上向流型反応器1−1の構成と同一なので、同一又は相当部分には同一符号を付す(但し、各符号には添え字「−4」を付す)。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記
図1〜
図6に示す実施形態と同じである。
【0051】
次に上記上向流型反応器1−4の運転方法の例を説明する。
図10は上向流型反応器1−4の運転方法の一制御例を示す概略制御ブロック図であり、バルブ40−4の開閉速度を制御することによって原水の供給開始時と供給停止時の供給量を制御する方法を示している。この例で用いるバルブ40−4も、例えばアクチュエータ41−4をモータ等とする電動弁を用いる。
【0052】
まず
図10において、上向流型反応器1−4の始動指令があると(ステップ4−1)、バルブ40−4を開くように始動する(ステップ4−2)。バルブ40−4は電動弁のため、これを開く速度を調整することができ(例えば電源の入り切りで)、例えばその開く速度を、主管21−4あるいは配管29−4を通過する流体が、毎秒1m/s以下の速度変化でゆっくりと漸増するようにする。これによって、上述のように、全てのノズル25−4において、流体供給開始時の逆流が生じなくなる。
【0053】
バルブ40−4が完全に開いた後は、上向流型反応器1−4の通常運転を行い(ステップ4−3)、これによって、反応器本体10−4内に導入された原水中のマンガンイオンは、充填材30−4の触媒作用によって、不溶性マンガンとして析出され、原水中から除去される。マンガンイオンが除去された処理水は、排水路11−4から排出され、次の処理工程に移送される。
【0054】
次に上向流型反応器1−4の停止が指示されると(ステップ4−4)、バルブ40−4を閉じるように始動する(ステップ4−5)。そして本実施形態では、前記バルブ40−4が閉じる速度を、主管21−4あるいは配管29−4を通過する流体が、毎秒1m/s以下の速度変化でゆっくりと漸減するようにする。これによって、上述のように、全てのノズル25−4において、流体供給停止時の逆流が生じなくなる。そしてその後、バルブ40−4は全閉し、上向流型反応器1−4の運転が終了する。
【0055】
上述のように、この例の場合も、各ノズル25−4からの原水供給開始時と原水供給停止時における、原水の漸増と漸減は、バルブ40−4の開閉速度によって制御される。つまりこの例の場合も、バルブ40−4が流量調整手段であり、アクチュエータ41−4が制御手段になる。
【0056】
なお、アクチュエータ41−4によって、バルブ40−4をインチング動作させることで、バルブ40−4をゆっくり動作させるように制御しても良い。またバルブ40−4としてスピードコントローラ付きの空圧弁を用い、スピードコントローラによって弁の開閉速度を調整しながら動作させるように構成しても良い。また流量計と自動弁(電動式、空圧式を含む)を用い、流量計で計測した流量をフィードバックしながら、一定量ずつ原水の流量を増加または減少させていくように制御しても良い。
【0057】
図11は、本発明のさらに他の実施形態にかかる水処理装置1−5の反応器本体10−5の分散器20−5を上方より見た状態を示す概略平面図である。同図に示す水処理装置(以下「上向流型反応器」という)1−5において、前記
図1に示す上向流型反応器1−1と相違する点は、分散器20−5の構造のみである。分散器20−5以外の構成は、前記
図1〜
図6に示す上向流型反応器1−1の構成と同一なので、同一又は相当部分には同一符号を付す(但し、各符号には添え字「−5」を付す)。なお以下で説明する事項以外の事項については、前記
図1〜
図6に示す実施形態と同じである。
【0058】
分散器20−5は、配管29−5の下流側に複数本(図では3本)の主管21−5を枝分かれするように接続し、さらに枝分かれした各主管21−5に多数本の枝管23−5を接続し、各枝管23−5に多数のノズル25−5を設けて構成されている。この例の場合、配管29−5の内径を各主管21−5の内径よりも大きくし、これによって配管29―5を通過する流体の流速と、各主管21−5を通過する流体の流速を、何れもほぼ同じになるようにしている。
【0059】
このように構成した上向流型反応器1−5においても、前記
図4や
図6に示すと同様の制御方法を用い、上記上向流型反応器1−1と同様に、配管29−5(あるいは主管21−5)を通過する流体の供給開始時と供給停止時の供給量を、毎秒1m/s以下の速度変化、即ち漸増加速度と漸減加速度を1〔(m/s)/s〕以下とすることで、全てのノズル25−5において流体の逆流現象を防止できる。
【0060】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば、上記各上向流型反応器の例では、流体通過口として突起状のノズルを用いたが、例えば配管やろ床板(仕切り板)に開口を設けるだけで流体通過口を構成しても良い。
【0061】
また上記各上向流型反応器の例では、充填材の粒径寸法に対して流体通過口の内径寸法をかなり大きくしているが、流体通過口の大きさは、少なくとも充填材の内の一部の充填材の大きさよりも大きくした構造であればよい。即ち充填材の中に、流体通過口を通過できない大きさの充填材が含まれていても良い。
【0062】
また上記各上向流型反応器の例では、流体通過口から充填材中に供給する流体の供給開始時と供給停止時の両者においてその供給量を漸増又は漸減させたが、流体の供給開始時と供給停止時の何れか一方の時のみに本発明を適用しても良い。
【0063】
また上記各上向流型反応器の例では、充填材としてマンガン触媒を用いたが、他の各種触媒を用いても良く、さらに触媒以外の各種充填材(例えばイオン交換樹脂、微生物付着担体、活性炭など)を用いてもよい。即ち、本発明は上水処理に限定されず、下水処理や工場などの排水処理などに用いることもできる。充填材として例えば好気性微生物群を担持した担体等を用いる場合は、エアレータや曝気装置付きとしても良い。
【0064】
また流量調整手段としては、流体分散手段(分散器)に供給する流体の供給量を漸減あるいは漸増させるものであれば、ポンプの電動機やバルブ以外の流量調整手段を用いても良い。また制御手段としては、流量調整手段を制御して流体通過口から充填材中に供給する流体の供給開始時の供給量を漸増させながら規定の供給量としたり、又は流体通過口から充填材中に供給する流体の供給停止時の供給量を漸減させながら停止させるものであれば、上記インバータやバルブのアクチュエータ以外の制御手段を用いても良い。