【解決手段】固体塩基触媒、銅化合物および界面活性剤を混合して得られる混合物に対して、水熱処理を施して、触媒前駆体を得る混合工程と、触媒前駆体を焼成して、銅担持触媒を得る焼成工程とを含む方法により得られる銅担持触媒。
前記銅化合物が、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、ギ酸銅、過塩素酸銅、ヨウ素酸銅、および、リン酸銅からなる群から選択される少なくとも1種の銅塩を含む、請求項1または2に記載の銅担持触媒。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の銅担持触媒およびその製造方法、並びに、該銅担持触媒を用いた乳酸の製造方法およびギ酸の製造方法の好適態様について説明する。
本発明の特徴点は、上述したように、固体塩基触媒、銅化合物および界面活性剤を用いて、所定の手順にて製造した銅担持触媒を使用している点が挙げられる。
以下では、まず、銅担持触媒の製造方法について詳述し、その後、該銅担持触媒を用いた各種反応について詳述する。
【0011】
<銅担持触媒の製造方法>
銅担持触媒の製造方法の好適態様としては、触媒前駆体を得る混合工程、および、触媒前駆体を焼成して銅担持触媒を得る焼成工程の少なくとも2つの工程を有する態様が挙げられる。
以下、各工程で使用される材料、および、その手順について詳述する。
【0012】
[混合工程]
混合工程は、固体塩基触媒、銅化合物および界面活性剤を混合して得られる混合物に対して、水熱処理を施して、触媒前駆体を得る工程である。本工程を実施することにより、焼成処理が施される触媒前駆体が得られる。
以下では、まず、本工程で使用される材料(固体塩基触媒、銅化合物、界面活性剤など)について詳述し、その後、本工程の手順について詳述する。
【0013】
(固体塩基触媒)
固体塩基触媒とは、固体状態でその表面が塩基性を示す物質であり、例えば、金属酸化物、金属塩、担持塩基、複合酸化物、ゼオライトなどのうちで表面塩基性を示す固体である。例えば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、酸化物、水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、並びにこれらを含む混合酸化物などが挙げられる。より具体的には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素カリウム、酸化ケイ素−酸化マグネシウム複合酸化物、酸化ケイ素−酸化カルシウム複合酸化物、酸化ケイ素−酸化ストロンチウム複合酸化物、Naイオン交換X型ゼオライト、Kイオン交換Y型ゼオライトが挙げられる。
この中でも、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウムおよび酸化バリウムからなる群から選ばれる1種以上を含む触媒が好ましい。なかでもアルカリ土類金属酸化物を用いることがより好ましい。
また、層状複水酸化物(ハイドロタルサイト)、ゼオライト(K−Y)を用いることもできる。さらに、通常用いられる担体に、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を担持させて得られる触媒を固体塩基触媒として用いてもよい。なお、担体としては無機多孔質坦体で中性または塩基性のものであれば用いることができる。例えば、アルミナ、珪藻土等が例示できる。
【0014】
層状複水酸化物の代表例としてハイドロタルサイト類がある。ハイドロタルサイト類の一般式は[M
2 +1-XM
3+X(OH)
2][A
n-X/n・mH
2O]で表される。
(ただし、M
2+は2価の金属イオン、M
3+は3価の金属イオン、A
n-X/nは層間陰イオンである。)
ハイドロタルサイト類は、層状粘土鉱物であり全体としては正の電荷を有するが層間および表面にアニオンが吸着する特質を持っており、表面のOH
-、HCO
3-が塩基として機能する。
固体塩基触媒は、従来から公知の合成法により製造することができる。例えば、ゾル・ゲル法、共沈法、含浸法、尿素法等が例示される。
【0015】
(銅化合物)
銅化合物は、銅元素を含む化合物であり、いわゆる銅塩、銅錯体などが挙げられる。なかでも、水と混合した際、水溶性が高く、容易に銅イオンを解離するものが好ましく、銅を含む水溶性塩がより好ましい。
銅化合物として具体的には、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅、酢酸銅、ギ酸銅、過塩素酸銅、ヨウ素酸銅、リン酸銅、トリフルオロ酢酸銅等の銅塩(2価の銅を含む水溶性塩)が挙げられ、硫酸銅、塩化銅、硝酸銅が特に好ましい。
【0016】
(界面活性剤)
界面活性剤の種類は特に制限されず、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。なかでも、乳酸またはギ酸の収率がより優れる点で、カチオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤が好ましく、カチオン性界面活性剤がより好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、セチルピリジウム塩、デシルピリジウム塩等のアルキルピリジウム塩、オキシアルキレントリアルキルアンモニウム塩、ジオキシアルキレンジアルキルアンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンプロピレンエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0017】
(本工程の手順)
本工程では、まず、上述した固体塩基触媒、銅化合物、および、界面活性剤を混合する処理(以下、工程Aとも称する)と、その後、混合物に対して水熱処理を施す処理(以下、工程Bとも称する)とが実施される。
以下では、工程Aおよび工程Bの手順について詳述する。
【0018】
工程Aにおいて、上述した、固体塩基触媒、銅化合物、および、界面活性剤を混合する方法は特に制限されず、公知の方法が採用され、例えば、溶媒の存在下、これらの成分を撹拌する方法(溶液法)や、ビーズミルなどにより混合する方法が挙げられ、手順が容易であり、乳酸またはギ酸の収率がより優れる点から、上記溶液法が好ましく挙げられる。以下、溶液法の手順について詳述する。
【0019】
溶液法において、使用される溶媒の種類は特に制限されず、上記固体塩基触媒、銅化合物、および、界面活性剤を溶解または分散させる溶媒であればよい。例えば、水、有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒)、または、これらの混合液が使用される。なかでも、得られる溶液を後述する水熱処理をそのまま実施でき、工程がより簡便となる点で、水が好ましい。
【0020】
固体塩基触媒、銅化合物、および、界面活性剤を溶媒に添加する順番は特に制限されず、例えば、溶媒中に固体塩基触媒を分散させた溶液中に、銅化合物および界面活性剤をこの順で加える手順が挙げられる。
上記各成分を添加する際には、一括で添加しても、所定量毎に分割して添加してもよい。
上記各成分の混合条件(混合温度、混合時間)は特に制限されず、混合温度としては室温〜80℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。混合時間としては1〜10時間が好ましく、2〜4時間がより好ましい。
【0021】
銅化合物と界面活性剤との混合モル比(銅化合物のモル量/界面活性剤のモル量)は特に制限されないが、得られる銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、0.3〜3.0が好ましく、1.5〜2.5がより好ましい。
銅化合物と固体塩基触媒との混合質量比(銅化合物の質量/固体塩基触媒の質量)は特に制限されないが、得られる銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、0.006〜1.0が好ましく、0.05〜0.50がより好ましい。
溶媒と、固体塩基触媒、銅化合物および界面活性剤の合計質量との混合質量比は特に制限されないが、得られる銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、溶媒100質量に対して、上記合計質量が1.0〜13.0質量部が好ましく、4.0〜7.0質量部がより好ましい。
【0022】
なお、必要に応じて、上記各成分を混合した後、一旦溶媒を除去してもよい。
溶媒を除去する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、濾過により混合物を回収する方法、溶媒を留去する方法、など)を採用できる。
なお、溶媒として水を使用した場合は、上述した手順により得られた固体塩基触媒、銅化合物、および、界面活性剤を含む水溶液から水を除去することなく、そのまま水熱処理に施すことができる。
【0023】
次に、工程Bでは、工程Aで得られた混合物に対して、水熱処理を施す。
水熱処理とは、化学反応および物理反応を促進することを目的として、水を溶媒とする閉鎖系において、水の沸点である100℃以上に加熱することにより得られる高温・高圧の状態に曝露する操作を指す。なお、水熱処理には、一般的に「オートクレーブ」と呼ばれる耐圧性の密閉容器を用いる。
水熱処理時の反応温度(水熱処理温度)は特に制限されず、使用される各種材料(銅化合物、固体塩基触媒)の種類に応じて適宜最適な条件が選択されるが、生産性および得られる銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、130〜250℃が好ましく、160〜200℃がより好ましい。
水熱処理の処理時間は特に制限されず、使用される各種材料(銅化合物、固体塩基触媒)の種類に応じて適宜最適な条件が選択されるが、生産性および得られる銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、5〜40時間が好ましく、20〜30時間がより好ましい。
【0024】
水熱処理を行う際には、上記混合物に水を添加して、上記処理を実施する。なお、溶媒としては、水と共に有機溶媒を混合して使用してもよい。なお、混合物と水との混合比率は特に制限されないが、上記工程Aでの、溶媒と、固体塩基触媒、銅化合物および界面活性剤の合計質量との混合質量比の範囲とすることが好ましい。
また、上述したように、工程Aにおいて溶液法を採用し、溶媒として水を使用した場合は、上記成分を含む溶液を用いて水熱処理を実施することができる。
【0025】
上記水熱処理を実施することにより、後述する焼成処理が施される触媒前駆体が得られる。
また、必要に応じて、上記水熱処理後に、溶媒(例えば、水および有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒)からなる群から選択される溶媒)を用いて、触媒前駆体を洗浄してもよい。
さらに、必要に応じて、上記水熱処理後に、溶媒(例えば、水および有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒)からなる群から選択される溶媒)を触媒前駆体から除去する処理を実施してもよい。
溶媒を除去する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、濾過により溶媒を除去する方法、溶媒を留去する方法、加熱乾燥処理を施す方法など)を採用できる。
【0026】
[焼成工程]
焼成工程は、上記混合工程で得られた触媒前駆体を焼成して、銅担持触媒を得る工程である。本工程を実施することにより、銅成分が固体塩基触媒に担持された銅担持触媒が得られる。
焼成条件は特に制限されず、使用される材料の種類に応じて最適な条件が選択されるが、生産性および得られる銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、焼成温度は100〜900℃が好ましく、400〜600℃がより好ましく、焼成時間は2〜10時間が好ましく、5〜7時間がより好ましい。
焼成時の雰囲気は特に制限されず、空気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、ネオン等を用いることができる。
【0027】
上記工程を経て、銅成分が担持された銅担持触媒が得られる。
得られる銅担持触媒中の銅成分としては、主に、CuOおよびCu
2Oが含まれる。銅成分として、上記2種の酸化銅成分が含まれることにより、所望の効果が得られていると推測される。なお、混合工程において、界面活性剤を使用しなかった場合は、得られる銅担持触媒中の銅成分としては、CuO成分が含まれておらず、所望の効果が得られない。
【0028】
銅担持触媒中における銅成分の含有量は特に制限されないが、銅担持触媒中における銅元素の含有割合(質量%)は、銅担持触媒の触媒活性がより優れる点で、銅担持触媒全質量に対して、1.0〜13.0質量%が好ましく、5.0〜7.0質量%がより好ましい。
銅元素の含有量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(島津製作所社製「ICP−AES」)により測定できる。
【0029】
<乳酸の製造方法>
上述した銅担持触媒は、乳酸の製造方法に好適に使用できる。より具体的には、アルカリ条件下にて、銅担持触媒と単糖類とを接触させて乳酸を得ることができる(スキーム1)。なお、本製造方法では、単糖類中の炭素−炭素結合が開裂して、乳酸が得られる。
【0031】
本製造方法の出発物質である単糖類は、バイオマス原料から得ることができる。
単糖類の種類は特に制限されず、3〜7炭糖類のいずれでもよいが、好ましくは5炭糖類または6炭糖類である。5炭糖類の具体例としては、リボース、キシロース、アラビノース等が挙げられ、6炭糖類の具体例としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等が挙げられる。
【0032】
反応系における単糖類と銅担持触媒との混合割合は特に制限されないが、乳酸の収率がより優れる点から、単糖類のモル量と銅担持触媒中の銅元素のモル量との比(単糖類のモル量/銅元素のモル量)は、0.1〜50が好ましく、1〜30がより好ましく、3〜15がさらに好ましい。
【0033】
上記反応は、pHがアルカリ条件下にて実施する。アルカリ条件としては、pHが7超であればよく、乳酸の収率がより優れる点で、pHは8〜14が好ましく、11〜12がより好ましい。
なお、反応系をアルカリ条件下にするには、公知のアルカリ化合物(水に加えた際にアルカリ性を示すものであればよいが、安価で入手容易なことからアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムがさらに好ましい。)を反応系に添加すればよい。
【0034】
また、必要に応じて、溶媒の存在下で上記反応を実施してもよい。溶媒の種類は特に制限されず、水、または、有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒)が挙げられる。
なお、溶媒の添加量は特に制限されないが、単糖類および銅担持触媒の合計質量100質量部に対して、10〜10000質量部が好ましい。
【0035】
本製造方法においては、単糖類および銅担持触媒の混合方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。また、各成分を加える順番も特に限定されず、反応容器に上記成分を同時に添加しても、それぞれ順番に添加してもよい。
なお、反応容器としては、反応系が加圧条件になることが考えられるため、耐圧ガラス反応管やオートクレーブを使用することが好ましい。
【0036】
本製造方法においては、必要に応じて、加熱処理を施してもよい。より具体的には、単糖類と銅担持触媒とを含む反応系(反応溶液)に加熱処理を施してもよい。
加熱処理の温度条件は特に制限されないが、収率がより優れる点で、反応温度としては、100℃超が好ましく、120℃以上が好ましい。上限は特に制限されないが、経済性の点から、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0037】
本製造方法の反応時間は特に制限されないが、乳酸の収率がより優れる点で、0.5〜30時間が好ましく、1〜25時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。
反応雰囲気は特に制限されず、空気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、ネオン等を用いることができる。
さらに、反応の際の圧力条件は特に制限されないが、乳酸の収率がより優れる点で、0.1〜1.0MPaが好ましく、0.3〜0.5MPaがより好ましい。
【0038】
上記反応系においては、反応終了後、銅担持触媒は、濾過または遠心分離のような分離方法により生成物である乳酸と容易に分離することができ、工業的な観点から優れた系であるといえる。
なお、上記工程で生成された乳酸は、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
なお、回収された銅担持触媒は、再度繰り返し使用することができる。
【0039】
<ギ酸の製造方法>
上述した銅担持触媒は、ギ酸の製造方法に好適に使用できる。より具体的には、上記銅担持触媒の存在下、単糖類と酸化剤とを反応させてギ酸を得ることができる(スキーム2)。なお、本製造方法では、単糖類中の炭素−炭素結合が開裂して、ギ酸が得られる。
【0041】
本製造方法で使用される単糖類の定義は、上述の通りである。
酸化剤としては、公知の酸化剤を使用することができ、例えば、酸素含有ガス、過酸化物、例えば、過酸化水素(H
2O
2)、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化ベンゾイルおよび過酸化ジアセチル;過酸または過酸の塩、例えば、過ギ酸、過酢酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム;オキソ酸もしくはオキソ酸の塩、例えば、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過塩素酸、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム;過マンガン酸塩、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムおよび過マンガン酸リチウム;クロム酸の塩、例えば、クロム酸カリウム、クロム酸ナトリウムおよびクロム酸アンモニウムが挙げられる。
【0042】
反応系における単糖類と銅担持触媒との混合割合は特に制限されないが、ギ酸の収率がより優れる点から、単糖類のモル量と銅担持触媒中の銅元素のモル量との比(単糖類のモル量/銅元素のモル量)は、0.1〜50が好ましく、1〜30がより好ましく、3〜15がさらに好ましい。
反応系における単糖類と酸化剤との混合割合は特に制限されないが、ギ酸の収率がより優れる点から、単糖類のモル数と酸化剤のモル数との比(単糖類のモル量/酸化剤のモル量)は、0.1〜1.0が好ましく、0.12〜0.30がより好ましい。
【0043】
また、必要に応じて、溶媒の存在下で上記反応を実施してもよい。溶媒の種類は特に制限されず、水、または、有機溶媒(例えば、アルコール系溶媒)が挙げられる。
なお、溶媒の添加量は特に制限されないが、単糖類、酸化剤、および銅担持触媒の合計質量100質量部に対して、10〜10000質量部が好ましい。
【0044】
本製造方法においては、単糖類、酸化剤、および銅担持触媒の混合方法は特に制限されず、公知の方法が採用できる。また、各成分を加える順番も特に限定されず、反応容器に上記成分を同時に添加しても、それぞれ順番に添加してもよい。
なお、反応容器としては、反応系が加圧条件になることが考えられるため、耐圧ガラス反応管やオートクレーブを使用することが好ましい。
【0045】
本製造方法においては、必要に応じて、加熱処理を施してもよい。より具体的には、単糖類と、酸化剤と、銅担持触媒とを含む反応系(反応溶液)に加熱処理を施してもよい。
加熱処理の温度条件は特に制限されないが、収率がより優れる点で、反応温度としては、100℃超が好ましく、120℃以上が好ましい。上限は特に制限されないが、経済性の点から、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0046】
本製造方法の反応時間は特に制限されないが、ギ酸の収率がより優れる点で、2〜30時間が好ましく、15〜25時間がより好ましく、15〜21時間がさらに好ましい。
反応雰囲気は特に制限されず、空気下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、ネオン等を用いることができる。
さらに、反応の際の圧力条件は特に制限されないが、ギ酸の収率がより優れる点で、0.1〜1.0MPaが好ましく、0.3〜0.5MPaがより好ましい。
【0047】
上記反応系においては、反応終了後、銅担持触媒は濾過または遠心分離のような分離方法により生成物であるギ酸と容易に分離することができ、工業的な観点から優れた系であるといえる。
なお、上記工程で生成されたギ酸は、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
なお、回収された銅担持触媒は、再度繰り返し使用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
(合成例1:銅担持触媒1の合成)
酸化マグネシウム(関東化学社製)(1.0g)を水(25ml)に分散させた反応溶液を激しく撹拌しながら、硝酸銅(Cu(NO
3)
2・3H
2O)(和光化学社製、1.0mmol)を水(5ml)に溶解させた溶液を反応溶液に滴下した。その後、さらに、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)(0.5mmol)を反応溶液に添加した。得られた反応溶液を、室温条件下、さらに1000rpmにて3時間撹拌した。
次に、得られた反応溶液をオートクレーブ内に入れ、180℃で24時間水熱処理を行った。水熱処理後、反応溶液を濾過して固形分を回収して、水およびエタノールで洗浄した。その後、室温下にて一晩乾燥し、触媒前駆体を得た。
次に、得られた触媒前駆体を、空気下にて、500℃で6時間焼成し、銅成分が担持された銅担持触媒1を得た。
得られた銅担持触媒中における銅元素の質量は、銅担持触媒全質量に対して、6.3質量%であった。なお、銅元素の質量は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(島津製作所社製「ICP−AES」)にて測定した。また、銅成分としては、CuOおよびCu
2Oが含まれていた。
【0050】
【化3】
【0051】
(合成例2〜合成例7)
上記セチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)の代わりに、表1に示す界面活性剤をそれぞれ用いた以外は、合成例1と同様の手順に従って、銅担持触媒2〜7を得た。なお、各銅担持触媒中の銅元素の質量は、銅担持触媒1と同様であった。
【0052】
【表1】
【0053】
【化4】
【0054】
【化5】
【0055】
(合成例8〜12)
硝酸銅(Cu(NO
3)
2・3H
2O)の使用モル量を表2に示す量にそれぞれ変更した以外は、合成例1と同様の手順に従って、銅担持触媒8〜12を得た。各銅担持触媒中の銅元素の量を、表2にまとめて示す。
【0056】
【表2】
【0057】
<実施例A:乳酸の製造>
(実施例1〜4)
1MのNaOH水溶液(1ml)を水(5ml)に溶解させたアルカリ水溶液(pH=12)に、表3に記載の単糖類(90mg)と、銅担持触媒9(60mg)とを加えて、得られた反応溶液をオートクレーブ中に入れて、アルゴン雰囲気下(0.4MPa)、120℃にて1時間加熱した。
次に、高速液体クロマトグラフィー(Water 600, Aminex HPX-87Hカラム)を用いて、反応溶液中に生成物である乳酸(以後、LAとも称する)があることを同定した。
生成物の収率は、出発物質である各単糖類の仕込み量から計算した。より具体的には、出発物質が6炭糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース)の場合、1分子の6炭糖類から2分子の乳酸が得られることを理想反応として、乳酸の収率を計算した。また、出発物質が5炭糖類(キシロース)の場合、1分子の5炭糖類から1分子の乳酸が得られることを理想反応として、乳酸の収率を計算した。
結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
表3に示すように、本発明の銅担持触媒を用いると、各単糖類から乳酸を効率よく得ることができた。
【0060】
(実施例5)
1MのNaOH水溶液の代わりに、2.5MのNaOH水溶液を使用して、単糖類としてグルコースを使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、乳酸を製造した(1回目)。
次に、反応終了後、反応溶液を濾過して銅担持触媒9を回収し、再度、回収した銅担持触媒9を用いて同様の手順に従って、乳酸を製造した(2回目)。
さらに、反応終了後、反応溶液を濾過して銅担持触媒9を回収し、再度、回収した銅担持触媒9を用いて同様の手順に従って、乳酸を製造した(3回目)。
表4に、結果をまとめて示す。なお、上記1回目〜3回目までの反応条件は、アルカリ条件下(pH:7超)であった。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、本発明の銅担持触媒は繰り返し使用しても、優れた触媒活性を示すことが確認された。
【0063】
(実施例6〜12)
1MのNaOH水溶液の代わりに2.5MのNaOH水溶液を使用し、銅担持触媒9の代わりに表5に示す各銅担持触媒を使用して、単糖類としてグルコースを使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、乳酸を製造した。なお、反応条件は、アルカリ条件下(pH:7超)であった。
結果を表5にまとめて示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5に示すように、種々の界面活性剤を用いて製造した銅担持触媒1〜7において、優れた収率が得られた。特に、カチオン性界面活性剤またはアニオン性界面活性剤(特に、カチオン性界面活性剤)を用いて製造された銅担持触媒において、収率がより優れていた。
【0066】
(実施例13〜17)
NaOH水溶液の使用量を1.0mlから0.5mlに変更し、銅担持触媒9の代わりに銅担持触媒1を使用して、単糖類としてグルコースを使用し、反応時間を1時間から3時間に変更し、反応温度を表6に示す温度に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、乳酸を製造した。結果を表6にまとめて示す。なお、反応条件は、アルカリ条件下(pH:7超)であった。
なお、表6において、実施例14〜17の収率は、実施例13の収率を「1.0」とした相対値として示す。例えば、実施例14は、実施例13の収率よりも1.4倍の収率を示す。
【0067】
【表6】
【0068】
表6に示すように、反応温度を変更した場合も乳酸が得られることが確認された。特に、反応温度が120℃以上の場合、収率がより優れることが確認された。
【0069】
(実施例18〜21)
NaOH水溶液の使用量を1.0mlから0.5mlに変更し、銅担持触媒9の代わりに表7に記載の銅担持触媒を使用して、単糖類としてグルコースを使用し、反応時間を1時間から3時間に変更し、モル比(グルコースのモル量/銅元素のモル量)を表7に示す値に変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、乳酸を製造した。結果を表7にまとめて示す。なお、反応条件は、アルカリ条件下(pH:7超)であった。
なお、表7においては、実施例18〜20の収率は、実施例21の収率を「1.0」とした相対値として示す。
【0070】
【表7】
【0071】
表7に示すように、モル比(グルコースのモル量/銅元素のモル量)を変更した場合も、乳酸が得られることが確認された。特に、該モル比が3.0〜15.0において、収率がより優れることが確認された。
【0072】
<実施例B:ギ酸の製造>
(実施例30〜33)
30%H
2O
2水溶液(H
2O
2のモル量:2mmol)を水(5ml)に溶解させた水溶液に、表8に記載の単糖類(0.5mmol)と、銅担持触媒8(60mg)とを加えて、得られた反応溶液をオートクレーブ中に入れて、アルゴン雰囲気下(0.4MPa)、120℃にて12時間加熱した。
次に、高速液体クロマトグラフィー(Water 600, Aminex HPX-87Hカラム)を用いて、反応溶液中に生成物であるギ酸(以後、FAとも称する)があることを同定した。
生成物の収率は、出発物質である各単糖類の仕込み量から計算した。より具体的には、出発物質が6炭糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース)の場合、1分子の6炭糖類から6分子のギ酸が得られることを理想反応として、ギ酸の収率を計算した。また、出発物質が5炭糖類(キシロース)の場合、1分子の5炭糖類から5分子のギ酸が得られることを理想反応として、ギ酸の収率を計算した。
【0073】
【表8】
【0074】
表8に示すように、本発明の銅担持触媒を用いると、各単糖類からギ酸を効率よく得ることができた。
【0075】
(実施例34)
30%H
2O
2水溶液の使用モル量を2mmolから4mmolに変更し、単糖類としてグルコースを使用し、銅担持触媒8の使用量を60mgから90mgに変更した以外は、上記実施例30〜33と同様の手順に従って、ギ酸を製造した(1回目)。
次に、反応終了後、反応溶液を濾過して銅担持触媒8を回収し、再度、回収した銅担持触媒8を用いて同様の手順に従って、ギ酸を製造した(2回目)。
さらに、反応終了後、反応溶液を濾過して銅担持触媒8を回収し、再度、回収した銅担持触媒8を用いて同様の手順に従って、ギ酸を製造した(3回目)。
表9に、結果をまとめて示す。
【0076】
【表9】
【0077】
表9に示すように、本発明の銅担持触媒は繰り返し使用しても、優れた触媒活性を示すことが確認された。