【実施例】
【0029】
図1に示すように、切断機10は、棒状の素材(例えば、丸鋼棒)11を載せるベッド12と、このベッド12に載せられた素材11を押さえるクランパ13と、切断刃14とからなる。
棒状素材11は長尺の鋼棒であって、ベッド12から所定寸法Lだけ突出させ、切断刃14を下ろす(切断工程)。この際、素材11の切断部位に予め切削油を塗布又は噴射しておく。
【0030】
例えば、厚紙を切れの良くない鋏で切断すると、切断面に「むしれ」と称する毛羽立ちが発生したり、粗い面が残る。鋼材を剪断作用で破断すると、同様にむしれや粗い面が残る。この「むしれ」や粗い面を、以下、破断面と呼ぶことにする。
【0031】
図2に示すように、素材11を切断して得られた切断材15は、端面に切断面16を有するが、この切断面16には、破断面17が残っている。
【0032】
次に、
図3に示すように、予備成形機20に切断材15をセットする。予備成形機20は、例えば、切断材挿入穴21及び半球状凹部22を有するアプセット用下型23と、半球状凹部24を有するアプセット用上型25とからなる。
切断面16が上位になるようにして、切断材15を切断材挿入穴21に挿入する。次に、アプセット用上型25を下げて、切断材15の上端部を圧縮しつつ、増径する(予備成形工程)。この際、変形部位に予め切削油を塗布又は噴射しておく。
【0033】
結果、
図4に示すような予備成形品27を得ることができる。予備成形品27は一端に球状頭部28を有しているが、この球状頭部28に接断面16及び破断面17が残っている。
次に実施する湿式ショットブラスト処理のために、
図5に示すような多角形状のショット粒31を準備する。このショット粒31は、代表寸法Aが100μmのステンレス鋼製の研磨材である。
【0034】
このようなショット粒31を投射する湿式ショットブラスト機30の原理を、
図6で説明する。
図6に示すように、湿式ショットブラスト機30は、水に代表される液体32及びショット粒31の混合体を貯留するタンク33と、このタンク33からショット粒31を含む液体32を汲み上げるポンプ34と、このポンプ34から延びる液体ホース35と、タンク33とは別に設けられる高圧空気源36と、この高圧空気源36から延びるエアホース37と、液体ホース35及びエアホース37の先端に接続される投射ガン38とからなる。
【0035】
この投射ガン38は、ロボットハンドなどにより、破断面17が残っている球状頭部28に沿って、範囲Bを正確に位置制御される。
この際に、予備成形品27は長手軸回りに回される。
投射ガン38から高圧空気で霧化された液体32が球状頭部28へ投射される。霧化される液体32には所定割合のショット粒31が含まれている。
【0036】
図7(a)は、湿式ショットブラスト処理前の球状頭部28の要部断面図であり、破断面17が残っており、谷の最大深さはdである。この最大深さdは、複数個の予備成形品(
図4、符号27)を試作し、表面粗さ計で測定することにより、予め定めることができる。
【0037】
図6に示す投射ガン38で球状頭部28に液体32を投射すると、含まれるショット粒31で球状頭部28の表面が研削される。この際、切削油が液体32で洗い流されて脱脂される。研削深さは、投射時間に比例するため、研削深さがdに達するまで投射を続ける。
投射後は、
図7(b)に示すように、表面が滑らかな研削済み材料39が得られる。
【0038】
すなわち、
図7(a)に示す予備成形品27における切断面16(破断面17)を含む領域の表面を、
図6に示す湿式ショットブラスト機30を用いて研削することで、
図7(b)に示す研削済み材料39を得る(湿式ショットブラスト工程)。
【0039】
次に、
図8に示すように、潤滑剤塗布機40で、研削済み材料39の研削面を含む表面に潤滑剤41を塗布することで潤滑剤塗布済み材料42を得る(潤滑剤塗布工程)。
潤滑剤41には、一工程型潤滑剤が好適である。一工程型潤滑剤は、水媒体に潤滑成分と無機質系ベース成分を分散させたものである。塗布後に乾燥させることで、水分を蒸発させ、表面に潤滑成分皮膜を形成し、その上に無機質系ベース成分皮膜を形成することができる。なお、乾燥時間を短縮するために、潤滑剤塗布前に材料を予熱することが推奨される。
【0040】
比較のため従来広く採用されているボンデ処理について説明する。
ボンデ処理によれば、材料の表面に、リン酸塩皮膜を形成し、その上に金属石けん皮膜を形成し、その上に未反応石けん皮膜を形成する。
一般的なボンデ処理は、脱脂−水洗−酸洗−水洗−リン酸塩処理−水洗−中和−石けん処理−乾燥の多工程で実施する。
【0041】
リン酸塩処理で、リン酸塩皮膜を形成するが、この際に材料中の鉄にリン酸が反応してリン酸鉄が反応副産物として生成される。このリン酸鉄はスラッジの形態で反応槽に溜まるため、その処理が大変である。
また、脱脂廃液には油分が混じっており、廃液処理にコストが掛かる。酸洗廃液は、中和処理を必要とするため、廃液処理にコストが掛かる。
【0042】
本発明では、潤滑剤塗布工程前に湿式ショットブラスト工程を実施する。湿式ショットブラスト工程で、材料の表面に付着する油及び錆を除去することができるため、脱脂及び酸洗は、不要となる。よって、廃液処理コストを大幅に低減することができる。
加えて、リン酸塩処理−水洗−中和−石けん処理を、一工程潤滑剤の塗布に置き換えることができるため、工程数の大幅な削減が図れる。
【0043】
図8で説明した潤滑剤塗布済み材料42に冷間鍛造を施す冷間鍛造工程を次に説明する。
図9に示すように、冷間鍛造機50は、下金型51と、下パンチ52と、ノックアウト53と、上金型54と、上パンチ55とを備えている。
【0044】
下金型51に潤滑剤塗布済み材料42を載せ、上金型54を降ろし、下パンチ52を上げ、上パンチ55を下げる。結果、球状頭部28から膨出部61が張り出し形成される(冷間鍛造工程)。
次に、下パンチ52を降ろし、上金型54及び上パンチ55を上げる。次に、ノックアウト53で成形品を突き出して下金型51から排出する。
【0045】
図10(a)に示すように、得られた鍛造品60は、タイロッドエンドハウジングであって、ソケット部62と称する凹部を有するカップ部63を一端に備え、更にカップ部63に鍔状の膨出部61を備えている。
【0046】
従来、このような膨出部61には、亀裂が入ることが多かった。しかし、
図10(a)のb矢視図である
図10(b)に示すように、本鍛造品60の膨出部61には亀裂が入っていない。
つまり、冷間鍛造前に切断材15の切断面16に残る破断面17を除去した結果、亀裂の発生を防止することができ、良好な鍛造品60を得ることができた。さらには、破断面17を湿式ショットブラストで除去することで、高い生産性と、加工コストの低減を図ることができた。
【0047】
尚、実施例では鍛造品は、タイロッドエンドハウジングとしたが、鍛造領域に破断面が現れる製品、特に製品のフランジ(膨出部)に破断面が現れるものに対して好適であり、種類や形状は問わない。
また、ショット粒は、実施例では多角形状の研磨材としたが、球状の研磨材の使用を妨げるものではない。