特開2015-134415(P2015-134415A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-134415(P2015-134415A)
(43)【公開日】2015年7月27日
(54)【発明の名称】ターンアップブラダー
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/32 20060101AFI20150701BHJP
【FI】
   B29D30/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-5657(P2014-5657)
(22)【出願日】2014年1月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花 和孝
【テーマコード(参考)】
4F212
【Fターム(参考)】
4F212AH20
4F212VA02
4F212VK17
4F212VP15
(57)【要約】
【課題】エア入りの抑制と耐久性の向上を実現できるターンアップブラダーを提供する。
【解決手段】タイヤの成形に用いられるターンアップブラダー1において、一方の端部11から他方の端部12に亘ってブラダーの骨格をなす本体プライ2と、本体プライ2よりも幅狭に形成され、本体プライ2に貼り合わされた補強プライ3とを備え、本体プライ2と補強プライ3は、それぞれ周方向に対して傾斜して延びるコードC2,C3を含んでおり、周方向に対する補強プライ3のコード角度θ3が、50〜90度の範囲内であって、周方向に対する本体プライ2のコード角度θ2と同じかそれよりも小さい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの成形に用いられるターンアップブラダーにおいて、
一方の端部から他方の端部に亘ってブラダーの骨格をなす本体プライと、前記本体プライよりも幅狭に形成され、前記本体プライに貼り合わされた補強プライとを備え、
前記本体プライと前記補強プライは、それぞれ周方向に対して傾斜して延びるコードを含んでおり、
周方向に対する前記補強プライのコード角度が、50〜90度の範囲内であって、周方向に対する前記本体プライのコード角度と同じかそれよりも小さいことを特徴とするターンアップブラダー。
【請求項2】
周方向に対する前記補強プライのコード角度が80〜90度の範囲内にある請求項1に記載のターンアップブラダー。
【請求項3】
前記補強プライのコード角度と前記本体プライのコード角度との差が10度以内である請求項1又は2に記載のターンアップブラダー。
【請求項4】
前記補強プライのコードが、前記本体プライのコードと同じ向きに傾斜している請求項1〜3いずれか1項に記載のターンアップブラダー。
【請求項5】
前記本体プライよりも幅狭に形成され、前記本体プライに貼り合わされた補強ゴムテープを備える請求項1〜4いずれか1項に記載のターンアップブラダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの成形においてカーカスプライの端部を折り返すのに用いられるターンアップブラダーに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの成形には、通常、円筒状に形成されたカーカスプライの端部を折り返す(ターンアップする)工程が含まれる。カーカスプライは成形ドラムの外周に貼り合わされて円筒状に形成され、その端部の近くに配置された環状のビードコアとビードフィラーが、端部を折り返されたカーカスプライによって挟み込まれる。このようなカーカスプライの端部の折り返しには、ターンアップブラダー(またはサイドブラダー)と呼ばれるゴムバックの膨張機構が利用される。
【0003】
普段のターンアップブラダーは収縮した状態にあり、カーカスプライの端部を折り返す際には給気により一旦膨張するものの、その後すぐに排気が行われて収縮した状態に戻される。膨張時のターンアップブラダーは、その外径を拡げながら断面を円形に近付けるように変形するが、その態様によってはカーカスプライの端部がビードコアやビードフィラーに密着せず、それらの間にエアが混入することで、エア入りと呼ばれる工程不良を生じることがあった。
【0004】
特許文献1に記載されたターンアップブラダーでは、その骨格をなすコードプライの膨張部のうち、成形ドラムに近い側の固定脚部の近傍に、周方向に対して平行(角度0)となるコードを埋設した環状の補強帯を一体に形成してある。かかる構造は、中央部分の径成長に伴って内側部分(成形ドラムに近い側の部分)が引き摺られる動作を妨げ、それによりエア入りの発生を抑制することを企図したものである。
【0005】
ところが、タイヤの成形では、偏平率などに応じて必要なターンアップ量(折り返されるカーカスプライの端部の長さ)が異なり、それに伴って、望ましいターンアップブラダーの膨張変形の態様も違ってくる。例えば、偏平率が低いタイヤでは、必要なターンアップ量が小さいために、膨張時のターンアップブラダーの外径を抑えることが有利であり、必要以上に外径が大きくなると、カーカスプライの端部が円滑に折り返されずにエア入りを生じる場合がある。また、膨張と収縮の繰り返しによる負荷が大きい部位では、パンクの原因となる穴が空くこともあるため、耐久性を向上する余地があった。
【0006】
引用文献1に記載のターンアップブラダーは、成形ドラムに近い側の固定脚部の近傍という特定の部位に補強帯を一体に形成するものであるため、上述したような膨張時のターンアップブラダーの外径を抑える目的には適していない。もとより、上記の如きコードを埋設した補強帯が形成された部位は殆ど拡径せず、それ故に固定脚部から離れた部位への適用は実質的に困難と考えられる。加えて、固定脚部から離れた部位が補強されないので、耐久性を向上するうえでも十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−202992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エア入りの抑制と耐久性の向上を実現できるターンアップブラダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係るターンアップブラダーは、タイヤの成形に用いられるターンアップブラダーにおいて、一方の端部から他方の端部に亘ってブラダーの骨格をなす本体プライと、前記本体プライよりも幅狭に形成され、前記本体プライに貼り合わされた補強プライとを備え、前記本体プライと前記補強プライは、それぞれ周方向に対して傾斜して延びるコードを含んでおり、周方向に対する前記補強プライのコード角度が、50〜90度の範囲内であって、周方向に対する前記本体プライのコード角度と同じかそれよりも小さいものである。
【0010】
このターンアップブラダーでは、補強プライのコード角度が、50〜90度の範囲内であって、しかも本体プライのコード角度と同じかそれよりも小さいことから、補強プライを貼り合わせた部位において、ある程度の拡径を許容しながらも、そのコード角度に応じた度合で拡径が抑えられる。よって、これを利用すれば、カーカスプライの端部がビードコアやビードフィラーに密着するよう、ターンアップブラダーの膨張変形を制御してエア入りの発生を抑制できる。また、膨張と収縮の繰り返しによる負荷が大きい部位に補強プライを貼り合わせることが可能であり、耐久性の向上に資する。
【0011】
周方向に対する前記補強プライのコード角度が80〜90度の範囲内にあるものが好ましい。かかる構成によれば、補強プライを貼り合わせた部位の拡径が相応に許容されるために補強プライの適用範囲が広くなり、エア入りを抑制しうるターンアップブラダーの膨張変形を実現するうえで都合がよい。
【0012】
前記補強プライのコード角度と前記本体プライのコード角度との差が10度以内であるものが好ましい。これによって、本体プライと補強プライとの間でのコード角度の変化が緩やかになり、膨張時のターンアップブラダーがいびつに変形することを防止でき、エア入りの発生を抑制するうえで都合がよい。
【0013】
前記補強プライのコードが、前記本体プライのコードと同じ向きに傾斜しているものが好ましい。かかる構成によれば、補強プライを貼り合わせた部位の拡径が相応に許容されるために補強プライの適用範囲が広くなり、エア入りを抑制しうるターンアップブラダーの膨張変形を実現するうえで都合がよい。
【0014】
前記本体プライよりも幅狭に形成され、前記本体プライに貼り合わされた補強ゴムテープを備えるものが好ましい。かかる構成によれば、補強プライに加えて補強ゴムテープによる補強効果も奏して、耐久性をより良好に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るターンアップブラダーの一例を概略的に示す断面図
図2図1のターンアップブラダーを直線状に伸ばしたときの断面図
図3図2のターンアップブラダーを示す平面図
図4】カーカスプライの端部を折り返す工程を説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1,2に示したターンアップブラダー1(以下、単に「ブラダー1」と呼ぶ場合がある)は、後述するようなタイヤの成形においてカーカスプライの端部を折り返すのに用いられる。ブラダー1は、一方の端部11から他方の端部12に亘ってブラダーの骨格をなす本体プライ2と、その本体プライ2よりも幅狭に形成され、本体プライ2に貼り合わされた補強プライ3とを備える。図1のブラダー1は収縮した状態にあり、これに給気を行って膨張させることでトロイダル状に変形する。
【0018】
ブラダー1の端部11,12には、それぞれ鋼線等の収束体からなる環状のビード13が配置されているため、膨張時でも端部11,12は拡径しない。本体プライ2の端部は、ビード13を挟み込むようにして折り返されており、本実施形態では、その折り返した端部の先に補強プライ3が貼り合わされている。既述の通り、補強プライ3は本体プライ2よりも幅狭であるが、このことは、図2のように測定される本体プライ2の幅W2よりも補強プライ3の幅W3が小さいことを意味する。幅W3は、例えば、幅W2の5〜90%に設定され、貼り合わせる領域が広い場合には幅W2の50〜90%に設定される。
【0019】
インナーライナー4は、ブチルゴムなどの耐空気透過性に優れたゴムにより形成され、膨張時の内圧を保持するために本体プライ2の内周側に貼り合わされて、ブラダー1の内周面を形成している。また、補強プライ3を貼り合わせた本体プライ2の外周側に、それらを覆うようにして1枚以上のカバーライナー(不図示)を貼り合わせることもできる。カバーライナーは、例えば、本体プライ2や補強プライ3よりも厚みの小さいゴムシートによって形成される。
【0020】
図3に示すように、本体プライ2と補強プライ3は、それぞれ周方向(図3における上下方向)に対して傾斜して延びるコードC2,C3を含んでいる。本体プライ2では、複数本のコードC2が互いに平行となるように引き揃えられており、補強プライ3におけるコードC3もこれと同様である。図3では概念的に描かれているが、実際には各コードC2,C3がもっと密に配列されている。コードC2,C3の材料としては、ポリエステルやレーヨン、ナイロン等の有機繊維が例示される。
【0021】
周方向に対する補強プライ3のコード角度θ3は、50〜90度の範囲内であって、周方向に対する本体プライ2のコード角度θ2と同じかそれよりも小さい。即ち、50度≦θ3≦90度の関係が満たされるとともに、θ3≦θ2の関係が満たされる。これにより、補強プライ3を貼り合わせた部位においては、ある程度の拡径を許容しながらも、そのコード角度θ3に応じた度合で拡径を抑えることができる。また、膨張と収縮の繰り返しによる負荷が大きい部位に補強プライ3を貼り合わせることで、耐久性の向上に資する。
【0022】
コード角度θ2は、例えば60〜90度の範囲内に設定されるが、ブラダー1を円滑に膨張させるうえでは80〜90度の範囲内が好ましい。また、コード角度θ3は、65〜90度の範囲内が好ましく、80〜90度の範囲内がより好ましい。コード角度θ3をコード角度θ2よりも小さくする場合には、コード角度θ3を88度以下に設定することが好ましい。いずれの場合においても、コード角度θ3とコード角度θ2との差(θ2−θ3)は10度以内であることが好ましい。
【0023】
図4は、このブラダー1を利用してタイヤを成形する様子を示している。まずは、(A)のように、タイヤ構成部材としてのインナーライナー5とカーカスプライ6を、それらの両端部が外側に突出する状態にて、成形ドラム7の外周に貼り合わせて円筒状に形成する。続いて、(B)のように、成形ドラム7の端部を窄めてカーカスプライ6の端部を萎ませた後、その近くにビードコア8aとビードフィラー8bを配置する。このとき、ブラダー1は、ビードコア8aが配置される箇所の内側近傍で待機しており、具体的には成形ドラム7内に格納されている。
【0024】
次に、(C)のように、ブラダー1に給気を行って膨張させ、ビードコア8aとビードフィラー8bを挟み込むようにカーカスプライ6の端部を折り返す。本実施形態では、不図示の機構によってブラダー1を成形ドラム7側へ押し付けている。エア入りを防ぐうえで望ましいブラダー1の膨張変形の態様は、成形するタイヤの偏平率などの諸条件によって異なる。例えば、偏平率が低い(例えば偏平率が30前後の)タイヤでは、膨張時のブラダー1の外径を抑えることが有利であり、偏平率が高い(例えば偏平率が80前後の)タイヤでは、膨張時のブラダー1の外径を相応に大きくすることが有効である。
【0025】
ブラダー1の膨張変形は、補強プライ3を貼り合わせる部位やそのコード角度θ3などに応じて変化し、したがって補強プライ3に基づきブラダー1の膨張変形の態様を制御できる。よって、これを利用することにより、エア入りの発生が抑制されるような態様でブラダー1を膨張させることができる。補強プライ3の幅W3や、これを貼り合わせる部位は、かかる事情に鑑みて適宜に設定され、図1〜3で示したものに限られない。また、複数枚(例えば5枚以下)の補強プライ3を用いて、補強プライ3を1つ又は複数の部位に貼り合わせることも可能である。
【0026】
図3に示すように、本実施形態では、補強プライ3のコードC3が、本体プライ2のコードC2と同じ向き(図3において右上がりとなる向き)に傾斜している。ここで言うコードC2の向きは、本体プライ2の折り返した部分ではなく、それ以外の部分(ブラダー全体を構成する部分)において特定される。所望の膨張変形を実現するうえでは、コードC3がコードC2と交差する向きに傾斜していても構わない。
【0027】
ブラダー1は、本体プライ2よりも幅狭に形成され、本体プライ2に貼り合わされた補強ゴムテープ9を備えるものでもよい。補強ゴムテープ9はコードを含まないゴム単層の部材であり、これを膨張と収縮の繰り返しによる負荷が大きい部位に貼り合わせることで、ブラダー1の耐久性を更に向上できる。補強ゴムテープ9は、本体プライ2の外周側において、例えば図1の破線で示した部位に貼り合わされる。この部位は、図4(C)のように、カーカスプライ6の端部を折り返す際に成形ドラム7の端部の外周側に位置する部位である。
【0028】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0029】
本発明の構成と効果を確認するため、表1に示した仕様のターンアップブラダーを作製し、エア入りの発生状況と耐久性を調査するとともに、材料費の比較を行った。材料費については、実施例1を100としたときの指数で表している。
【0030】
【表1】
【0031】
比較例2を除く各例において、補強プライは、図2のように本体プライの折り返した端部の先に貼り合わせた。比較例2は、プライ部材として本体プライのみを備え、補強プライは備えていない。また、実施例4では、図4(C)で示した部位に補強ゴムテープを貼り合わせた。実施例5では、補強プライを更に追加し、それを図4(C)の破線で示した部位に貼り合わせた。追加の補強プライにおける幅とコード角度は、括弧書きで記載している。特筆しない構成に関して、各例における構造やゴム配合は共通である。
【0032】
エア入りの抑制については、比較例1と実施例3〜6が最も優れており、次いで実施例2が優れており、比較例2が最も劣っていた。但し、タイヤの偏平率が比較的低い場合には、膨張時のブラダーの外径を抑える効果が殆ど得られない比較例1よりも実施例1の方が有利であり、実施例1は比較例1よりも汎用性に優れる。また、耐久性について、実施例1では5000〜6000回の膨張を繰り返した段階でパンクが発生したのに対し、実施例5の耐久性はそれと同程度、実施例6の耐久性はそれ以上であった。比較例1,2及び実施例2〜4は実施例1に比べて耐久性が低かったが、中でも比較例2が顕著であった。
【符号の説明】
【0033】
1 ターンアップブラダー
2 本体プライ
3 補強プライ
6 カーカスプライ
7 成形ドラム
9 補強ゴムテープ
11 端部
12 端部
13 ビード
C2 コード
C3 コード
θ2 コード角度
θ3 コード角度
図1
図2
図3
図4