ビシクロ[4.2.0]オクタン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物とを、モル比で該テトラカルボン酸二無水物100に対して、該ジアミン化合物の合計が90〜110の範囲でイミド化重合反応して得られるポリイミド樹脂を使用すること。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[ポリイミド樹脂]
本発明のポリイミド樹脂は、一般式(1)
【化5】
で表されるテトラカルボン酸二無水物と、
芳香族ジアミン化合物とを、イミド化重合反応を行うことにより得られる。
【0024】
(テトラカルボン酸二無水物)
テトラカルボン酸二無水物は、上記一般式(1)で表される、ビシクロ[4.2.0]オクタン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物であり、本発明のポリイミド樹脂の構成成分である。
【0025】
一般式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物の製造方法としては光二量化反応が推奨される。具体例としては、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物と無水マレイン酸の等モル量を、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒またはジオキサン等のエーテル系溶媒に溶解させて、高圧水銀ランプ等を用いて250〜400nmの光を照射することで当該テトラカルボン酸二無水物反応物を得ることができる。
【0026】
テトラカルボン酸二無水物は、テトラカルボン酸、又はテトラカルボン酸のモノ、ジ、トリ又はテトラ酸塩化物、及び、炭素数1〜4の低級アルコールとのモノ、ジ、トリ又はテトラエステルなどの誘導体として使用することもできる。
【0027】
テトラカルボン酸二無水物は、本発明の効果を妨げない範囲で、テトラカルボン酸二無水物の一部を他のテトラカルボン酸二無水物に置き換えて使用することができる。他のテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0028】
具体的には、芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’ ,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、 3,3’ ,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’ ,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト[1,2−c]フラン−1.3−ジオン及びそれらの誘導体などが例示される。
【0029】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物及びそれらの誘導体などが例示される。
【0030】
また、脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸二無水物及びそれらの誘導体などが例示される。
【0031】
上記の他のテトラカルボン酸二無水物は、単独で又は2種以上を適宜混合して当該イミド化重合反応に供することができる。
【0032】
テトラカルボン酸二無水物の一部を上記の他のテトラカルボン酸二無水物に置き換えて使用する場合には、その使用量は全テトラカルボン酸二無水物のモル数に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に5モル%以下が推奨される。
【0033】
(芳香族ジアミン化合物)
芳香族ジアミン化合物は、本発明のポリイミド樹脂の構成成分である。芳香族ジアミン化合物は、特に制限はなく市販品や従来公知の製造方法により得られるものが使用できる。
【0034】
芳香族ジアミン化合物の具体例としては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、O−トリジン、m−トリジンなどが例示される。これらの中でも、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテルが好ましい。特に好ましいジアミン化合物として、下記一般式(2)のジアミン化合物が挙げられる。これらの芳香族ジアミン化合物は、単独で使用してもよいし2種以上適宜混合して用いてもよい。
【化6】
【0035】
芳香族ジアミン化合物は、本発明の効果を妨げない範囲で、その一部を他のジアミン化合物に置き換えて使用することができる。他のジアミン化合物としては、脂環式ジアミン化合物及び脂肪族ジアミン化合物が挙げられる。
【0036】
脂環式ジアミン化合物の具体例としては、ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジメチルージアミノジシクロヘキシルメタン、テトラメチルージアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどが例示される。これらの中でも、ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ジメチルージアミノジシクロヘキシルメタン、ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどが例示される。
【0037】
また、脂肪族ジアミン化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミンなどが例示される。
【0038】
上記の脂環式ジアミン化合物及び脂肪族ジアミン化合物は、単独で又は2種以上を適宜混合して当該イミド化重合反応に供することができる。
【0039】
芳香族ジアミン化合物の一部を上記の他のジアミン化合物に置き換えて使用する場合には、その使用量は全ジアミン化合物のモル数に対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に5モル%以下が推奨される。
【0040】
本発明に係るイミド化重合反応でのモル比は、全てのテトラカルボン酸二無水物100に対して、全てのジアミン化合物90〜110の範囲であり、より好ましくは95〜105の範囲であり、さらに好ましくは98〜102の範囲である。この範囲内でイミド化重合反応を行うことで、十分な重合度のポリイミド樹脂を得ることができる。
【0041】
本明細書及び特許請求の範囲において、ジアミン化合物は、「ジアミン」の形態で記載しているが、反応性の向上の目的で且つ本発明の効果を奏する限り、それらの代わりにアミノ基の一部又は全部をイソシアネート基に変換した化合物やシリル化した化合物等を使用することができる。
【0042】
[ポリアミド酸樹脂]
本発明に係るポリイミド樹脂前駆体であるポリアミド酸樹脂は、反応溶媒中、上記に記載のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を5℃〜100℃の温度範囲で共重合反応して得られる。
【0043】
(反応溶媒)
共重合反応で使用される反応溶媒は、共重合反応より生成するポリアミド酸樹脂を溶解できるものであれば何れの反応溶媒でも良い。例えば、非プロトン性溶媒、フェノール系溶媒、エーテル系溶媒、カーボネート系溶媒などが好ましい例として挙げられる。
【0044】
非プロトン性溶媒の具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素などのアミド系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン系溶媒、ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミドなどの含リン系アミド系溶媒、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒、アセトン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、ピコリン、ピリジンなどのアミン系溶媒、酢酸(2−メトキシ−1−メチルエチル)などのエステル系溶媒などが例示される。
【0045】
フェノール系溶媒の具体例としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノールなどが例示される。
【0046】
エーテル系溶媒の具体例としては、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが例示される。
【0047】
また、カーボネート系溶媒の具体例としては、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが例示される。上記の反応溶媒は単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0048】
これらの反応溶媒の中でも、特に、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトンが推奨される。
【0049】
反応溶媒の使用量としては、生成するポリアミド酸樹脂を溶解できる量であれば良い。具体的なポリアミド酸樹脂の濃度としては、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%となるように調整することが推奨される。
【0050】
反応溶媒は、ポリアミド酸ワニスを構成する有機溶剤と同一でも異なってもよいが、溶媒置換の作業等の煩雑さを考慮すると同一であることが好ましい。
【0051】
共重合反応系内は、その反応系の着色防止及び安全性の観点から、不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。通常、不活性ガスで反応系内を置換し、反応中は不活性ガスを流通させるおく方法が推奨される。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが例示される。
【0052】
本発明に係るポリアミド酸樹脂の共重合反応において、塩の発生抑制剤を使用することができる。塩の発生抑制剤としては、ポリアミド酸樹脂ワニスを加熱イミド化する際に揮発して除去可能であることが好ましい。
【0053】
塩の発生抑制剤には、例えば、一般的なシリル化剤を用いることができ、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドやN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドやトリメチルシリルクロリドやヘキサメチルジシラザンなどが例示される。
【0054】
ポリアミド酸樹脂の共重合反応の反応時間は、仕込み比率、基質濃度などにもよるが、通常2〜24時間程度が好ましい。反応時間が短すぎる場合には、重合度が低くなる傾向が認められる。反応時間が長すぎる場合には、部分的にアミド基部分が加水分解反応を起こして重合度が低下することがある。
【0055】
ポリアミド酸樹脂の数平均分子量は、好ましくは6,000以上、且つ、重量平均分子量が10,000以上であり、より好ましくは数平均分子量が6,000〜100,000で、且つ、重量平均分子量が10,000〜500,000の範囲のものである。この範囲は、特に成形体を与えることができる程度の重合度を有している範囲である。なお、本明細書及び特許請求範囲においてポリアミド酸樹脂の分子量は、後術の実施例に記載した方法で測定された値である。
【0056】
(イミド化重合反応)
イミド化重合反応の方法としては、(1)反応溶媒と少量の共沸溶剤の存在下でテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを加熱し、生成水を共沸により系外に留去させる熱イミド化方法、(2)ポリイミド前駆体のポリアミド酸を製造後、無水酢酸、無水プロピオン酸等の酸無水物、又はジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物の脱水作用を用いる化学イミド化方法、(3)ポリイミド前駆体のポリアミド酸を製造後、300℃以上に加熱する熱イミド化方法等が挙げられる。
【0057】
上記ポリイミド樹脂の製造方法のうち(3)の熱イミド化方法が工業的に好ましく、例えば、ポリアミド酸樹脂を300〜350℃の温度範囲で加熱することで、イミド化反応に伴う生成水を留去してイミド化重合反応する方法が挙げられる。
【0058】
上記(3)のポリアミド酸樹脂の加熱イミド化反応におけるイミド化率は、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に95%以上が推奨される。さらに、ポリイミド樹脂の使用用途によってはイミド化率を100%に近づけることが望ましい場合もある。
【0059】
[ポリアミド酸ワニス]
本発明のポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸樹脂と有機溶剤とを含有することを特徴とするものである。
【0060】
ポリアミド酸ワニスの粘度として所望の用途により適宜選択することができるが、25℃における粘度としては、0.1〜500Pa・sの範囲が好ましく、より好ましくは1〜100Pa・sの範囲が推奨される。
【0061】
ポリアミド酸ワニス中のポリアミド酸樹脂の濃度としては、好ましくは5〜50重量%であり、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%となるように調整することが推奨される。
【0062】
また、ポリアミド酸ワニスからポリイミド樹脂の塗膜を得る際に、乾燥工程を効率よく行う目的で、有機溶剤の一部を低沸点溶剤に代えることができる。係る低沸点溶剤としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類が例示される。これらの低沸点溶剤を使用する場合、その使用量は、全有機溶剤量に対して、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは、5〜20重量%の範囲が推奨される。
【0063】
また、本発明のポリイミド樹脂前駆体であるポリアミド酸ワニスには、本発明の効果を妨げない範囲でその他の成分を添加しても良い。例えば、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂(本発明のポリイミド樹脂を除く。)、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの高分子化合物、平滑剤、レベリング剤、脱泡剤、難燃剤、消泡剤、酸化防止剤などが例示される。
【0064】
[ポリイミド成形体]
本発明のポリイミド成形体は、アミド酸ワニスを成形加工して得られるものである。成形加工する方法としては、特に制限なく従来公知の方法が使用できる。
例えば、該ポリアミド酸ワニスを、基板に塗布した後(膜状、フィルム状又はシート状に塗布若しくは成形した後)、該ポリアミド酸ワニスを200℃以上、好ましくは300℃以上に乾燥して加熱イミド化しながら溶剤を除去して、膜状、フィルム状又はシート状のポリイミド成形体に成形する方法などが例示される。
【0065】
ポリイミド成形体を製造する例としては、PET基板(ポリエチレンテレフタレート基板)上にポリアミド酸ワニスをキャストし、真空乾燥機内(減圧度1〜10mmHg)で、室温にて30分〜2時間、さらに約200℃まで30分〜2時間で昇温し、その温度で1〜4時間溶剤を留去させる。室温まで冷却後、真空乾燥機からPET基板上に形成されたポリイミドフィルムを取出し、PET基板から剥離する。剥離したポリアミド酸フィルムをステンレス製の金属枠に固定し、再び真空乾燥機にて、室温から230〜330℃まで1〜4時間で昇温し、その温度で2〜5時間乾燥し溶剤を完全に留去し、室温まで冷却後、真空乾燥機から取出すことでポリイミドフィルムを得ることができる。このように得られたポリイミドフィルムの厚みは、キャスト時の塗工厚みを調整することで目的の厚さに調整する方法が挙げられる。
【0066】
本発明のポリイミド樹脂の線膨張係数の範囲は好ましくは60ppm/K以下であり、さらに好ましくは56ppm/K以下、特に52ppm/K以下が好ましい。線膨張係数は、本明細書及び特許請求の範囲において、後述の実施例に記載した方法にて得られる値である。例えば、上記の線膨張係数の範囲は、特に有機EL等の透明フレキシブル基板用途では有効な範囲である。
【0067】
本発明のポリイミド樹脂の透明性は、全光線透過率で評価することができる。全光線透過率の範囲は、好ましくは87%以上であり、さらに好ましくは88%以上、特に89%以上が好ましい。全光線透過率は、本明細書及び特許請求の範囲において、後述の実施例に記載した方法にて得られる値である。例えば、上記の全光線透過率の範囲は、特に高透明性を要求される用途では有効な範囲である。
【0068】
本発明のポリイミド樹脂の耐熱性は、ガラス転移温度で評価することができる。ガラス転移温度の範囲は好ましくは280℃以上であり、さらに好ましくは290℃以上、特に300℃以上が好ましい。ガラス転移温度は、本明細書及び特許請求の範囲において、後述の実施例に記載した方法にて得られる値である。例えば、上記のガラス転移温度の範囲は、特に耐熱性を要求される用途では有効な範囲である。
【0069】
[プラスチック基板/電気部品・電子部品]
本発明のプラスチック基板は、上記ポリイミド成形体からなることを特徴とする。その製造方法は、従来公知の製造方法を用いることができる。
【0070】
該プラスチック基板は、本発明のポリイミド成形体が高透明性、耐熱性及び低線膨張係数を有することにより、例えば、フレキシブル透明基板などに好適に使用される。
【0071】
また、フレキシブル透明基板は、電気部品又は電子部品で数多く使用されており、例えば、電子ペーパー、有機太陽電池、有機EL照明、フレキシブル液晶ディスプレーなどの部品として好適に使用される。
【0072】
[耐熱絶縁材/耐熱塗料/耐熱コーティング材/耐熱接着材]
本発明の耐熱絶縁材、耐熱塗料、耐熱コーティング材又は耐熱接着材は本発明のポリイミド樹脂を使用したものである。 その製造方法は、従来公知の製造方法を用いることができる。何れも、該ポリイミド樹脂が高透明性、耐熱性及び低線膨張係数を有することから、好適に使用される。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例及び比較例中の各特性の測定方法、化合物の略称は以下の通りである。
【0074】
<化合物の略号>
[テトラカルボン酸二無水物(A)]
BCODA:ビシクロ[4.2.0]オクタン−3,4,7,8−テトラカルボン酸二無水物
DSDA:3,3’ ,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
[芳香族ジアミン化合物(B)]
DPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
DAM:4,4’−ジアミノジフェニルメタン
BAPS:ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン
BAPB:4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル
TPE−Q:1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
m−TD:m−トリジン
[反応溶媒]
NMP :N−メチル−2−ピロリドン
【0075】
<ポリアミド酸樹脂の数平均分子量と重量平均分子量>
ポリアミド酸樹脂の反応溶液(ポリアミド酸ワニス)約1gをN,N−ジメチルホルムアミド約30mlで希釈して、分子量測定用の試料溶液を調製する。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて下記の測定条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求めた。
[測定条件]
装置:東ソー株式会社製 EcoSEC HLC−8320GPC
カラム:東ソー株式会社製 SuperH−Hを1本とSuperHM−Mを3本直列に連結
カラム温度:40℃
溶離液:(5.15mmol/L−臭化リチウム+5.10mmol/L−リン酸)/N,N−ジメチルホルムアミド
流速:0.5mL/min
検出器:RI
【0076】
<線膨張係数>
JIS K7197(1991年)に準拠し、ポリイミドフィルム(40μm)を順風乾燥機内で300℃×30分間加熱して応力緩和処理を行った。このフィルムから切り取った4.0×10.0mmをエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製TMA/SS6100を用いて100〜150℃の範囲を窒素流量200ml/min、昇温速度10℃/minの条件で測定し、その測定値の平均値を線膨張係数とした。
【0077】
<全光線透過率>
JIS K7361−1(1997年)に準拠し、ポリイミドフィルム(40μm)を株式会社東洋精機製作所製HAZE−GUARD IIを用いて、D
65光源を使用したシングルビーム法により測定した。
【0078】
<ガラス転移温度>
動的粘弾性測定装置RHEOGEL−E4000(ユーピーエム社製)を用いて、下記の測定条件下、ポリイミド成形体(フィルム)のtanδを測定した。そのtanδの極大値をガラス転移温度(℃)とした。
測定条件;
測定モード:引張モード
正弦波:10Hz
昇温速度:5℃/min
空気流速:10L/min
【0079】
<機械的特性評価>
ポリイミド成形体(フィルム)の「弾性率」、「強度」及び「伸び」は、インストロン製の万能材料試験機5565を用いて、JIS K−7161(1994年)に準拠して測定した。
【0080】
[製造例]
BCODAは特許文献US3423431を参考に製造した。具体的には、内容積700ml内部照射型パイレックス(登録商標)ガラス製五つ口反応フラスコに無水マレイン酸37.0g(377mmol)と1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物(新日本理化社製 リカシッドTH)60.0g(394mmol)及び光増感剤としてベンゾフェノン5.0g(27mmol)及びメチルエチルケトン375gを仕込み、反応器外壁をアルミ箔で被いながら室温で撹拌溶解させた。さらにアルゴンガスを用いて15分間バブリングして、反応容器中の酸素を除いた。続いて撹拌しながら反応容器を20℃に冷却し、フラスコ中央部の光源冷却管中の100W高圧水銀ランプを用いて光照射を24時間続けた。反応終了後、濾過によりDCODA結晶4.7g(19mmol、収率5%)を得た。
【0081】
[実施例1]
撹拌機を備え付けた200mL三角フラスコにNMP136g及び芳香族ジアミン化合物としてm−TD11.04g(52mol)を加えて15分間撹拌した。得られた溶液にBCODA13.01g(52mmol)を加えてから終夜撹拌して本発明のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0082】
[実施例2]
芳香族ジアミン化合物をDPE10.41g(52mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0083】
[実施例3]
芳香族ジアミン化合物をTPE−Q15.20g(52mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0084】
[実施例4]
芳香族ジアミン化合物をBAPB19.16g(52mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0085】
[実施例5]
芳香族ジアミン化合物をBAPS22.49g(52mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0086】
[実施例6]
芳香族ジアミン化合物をDAM10.31g(52mmol)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で本発明のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0087】
[比較例1]
テトラカルボン酸二無水物をBCODAからDSDA18.63g(52mol)に変更した以外は、実施例2と同様の方法でポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの平均分子量の測定結果を表1に示す。
【0088】
[実施例7]
実施例1〜6で得られたポリアミド酸ワニスを、ガラス基板上にバーコーターを用いて、乾燥膜厚が40μmとなるよう塗布し、真空乾燥機内で真空下(減圧度10mmHg以下)、300℃×1時間乾燥し、室温へ冷却後、ガラス基板より剥離させ、ポリイミド成形体(フィルム)を得た。得られたポリイミド成形体(フィルム)の線膨張係数、全光線透過率、ガラス転移温度及び機械的特性の測定結果を表1に示す。
【0089】
[比較例2]
比較例1で得られたポリアミド酸ワニスを、実施例13と同様の方法でポリイミド成形体(フィルム)を得た。得られたポリイミド成形体(フィルム)の線膨張係数、全光線透過率、ガラス転移温度及び機械的特性の測定結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
本発明のポリイミド樹脂は、表1から60ppm/K以下という低い線膨張係数、87%以上という高い全光線透過率且つ280℃以上という高いガラス転移温度の優れた物性を有していることが明らかである。比較例1のポリイミド樹脂は、全光線透過率が低いことが明らかである。