特開2015-134895(P2015-134895A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-134895(P2015-134895A)
(43)【公開日】2015年7月27日
(54)【発明の名称】印刷インキ組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/10 20140101AFI20150701BHJP
【FI】
   C09D11/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-31635(P2014-31635)
(22)【出願日】2014年2月21日
(11)【特許番号】特許第5689548号(P5689548)
(45)【特許公報発行日】2015年3月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-239875(P2013-239875)
(32)【優先日】2013年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-263810(P2013-263810)
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】田島 哲士
(72)【発明者】
【氏名】古田 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】立川 正明
(72)【発明者】
【氏名】松田 信弘
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB10
4J039AE02
4J039AE06
4J039AF01
4J039AF07
4J039BA04
4J039BC02
4J039BE12
4J039BE15
4J039EA19
4J039GA02
(57)【要約】
【課題】 本発明は黒色顔料としてカーボンブラックを含有する印刷インキであって、薄膜印刷を可能とし,かつ印刷時に実用可能な印刷濃度を印刷物に付与できる印刷インキ組成物を提供することを課題とする。
また浸透乾燥方式の新聞印刷に用いる場合、セットオフや裏抜けの少ない高濃度インキの特徴を生かし、従来に比べ軽量な新聞用紙の利用を可能とし、新聞用紙コストの削減や森林資源の保全による環境負荷の低減に寄与することができる印刷インキ組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 黒色顔料としてカーボンブラックを20〜40質量%含有し、ビヒクル成分としてアルキッド樹脂を含有する印刷インキ組成物であって、前記のアルキッド樹脂の固形分酸価が1.5〜5mgKOH/gであるか、及び又は前記のアルキッド樹脂の固形分水酸基価が5〜15mgKOH/gである印刷インキ組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色顔料としてカーボンブラックを20〜40質量%含有し、ビヒクル成分としてアルキッド樹脂を含有する印刷インキ組成物。
【請求項2】
前記のアルキッド樹脂の固形分酸価が1.5〜5mgKOH/gである請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記のアルキッド樹脂の固形分水酸基価が5〜15mgKOH/gである請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記のアルキッド樹脂の油長が50〜90である請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項5】
アルキッド樹脂を2〜30質量%含有する請求項1に記載の印刷インキ組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の印刷インキ組成物であって、その乾燥方式が浸透乾燥型である印刷インキ組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色顔料としてカーボンブラックを含有し、ビヒクル成分として特定範囲内の酸価及び又は水酸基価を有するアルキッド樹脂を含有する印刷インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
枚葉、オフ輪、新聞印刷に代表される平版オフセット印刷では、コスト削減や生産性向上の観点から薄膜印刷を可能とするインキへの期待が高まっている。
薄膜印刷とは、紙等の基材に印刷されたインキの膜厚を通常よりも薄くして印刷することを言い、薄膜印刷により、ブロッキングや裏移りの低減による損紙削減、高精細印刷対応といった品質面での改善、ミスチング低減による作業環境の改善等が実現できる。さらに納期の短縮、インキ使用量の削減といったメリットも享受できる。
【0003】
しかしながら、従来インキを用いて薄膜印刷を行った場合、紙面上のインキ膜厚が薄くなるため、文字や絵柄の濃度が薄くなり、即ち印刷物の印刷濃度が低下して紙面品質の低下を招く。
従って薄膜印刷を行うためには、紙面上のインキ膜厚が薄くても従来と同等の文字や絵柄の濃度が得られるように、インキ中の顔料濃度を高めたもの、即ち高濃度インキが必要となる。
【0004】
平版オフセット印刷の中で、インキが紙面上に印刷された直後からインキ中の溶剤、植物油などの低粘度液状成分が紙などの繊維部分に浸透し,顔料を含んだ樹脂が表面に定着して、見かけ上乾燥するものを浸透乾燥と呼ぶ。新聞インキのほとんどがこの浸透乾燥方式に分類される。
新聞印刷では、新聞用紙に関わるコストの削減や森林資源の保全による環境負荷低減のため、従来に比べて軽量な新聞用紙の利用が拡大している。
【0005】
しかしながら従来インキを用いて、このような軽量新聞用紙に印刷を行った場合、用紙中の繊維分が従来の用紙に比べて減少しているため、紙面に浸透したインキが用紙の反対側から透けて見える、いわゆる裏抜けを起こす。新聞印刷に高濃度インキを用いれば、紙面上のインキ膜厚そのものが減少するのでインキの裏抜けを低減でき、紙面品質の向上につながる。
【0006】
印刷インキの高濃度化への動きは黄・紅・藍といったカラーインキが主たるものであった。カーボンブラック等の黒色顔料を含有する墨インキでは顔料の高濃度化によって、インキ製造時に練肉しづらくなる、インキの流動性が低下する、印刷時にインキの転移性・着肉性が低下する等の理由により製品化されていないのが現状であった。
【0007】
特に墨インキの使用量の多い新聞印刷では、高濃度化によりインキの使用量を大幅に削減できるだけでなく、墨インキの裏抜けを低減することができて紙面品質の大幅な向上につながるため、高濃度墨インキの開発が強く望まれていた。
【0008】
従来の技術では、印刷インキ中の顔料の高濃度化により流動性が低下するため、着肉性の低下やドットゲイン不足となる。これを改善するためには、アルキッド樹脂の添加が考えられるが、一般的なアルキッド樹脂ではインキの乳化適性が損なわれ、良好な印刷適性を維持できない。このような理由から、インキ中へのアルキッド樹脂の添加量は制限され、課題とする高濃度化と薄膜印刷の両立には至らなかった。
アルキッド樹脂を含む印刷インキに係る公知技術及び特許出願は多いが、アルキッド樹脂の使用と顔料の高濃度化とを関連付ける技術思想は知られていない。
【0009】
特許文献1の実施例1〜3にはアルキッド樹脂と一価のカルボン酸無水物を反応させた樹脂組成物からなる印刷インキ組成物が記載されているが、いずれもカラーインキに関するもので、カーボンブラックを含有する墨インキの高濃度化についての記載や示唆はない。
特許文献2には、水酸基含有のアルキッド樹脂もしくはエポキシエステル樹脂に一価カルボン酸無水物を反応させ、副生した一価カルボン酸を除去してなる樹脂及び該樹脂をビヒクル成分として含む印刷インキ組成物が記載されている。しかしながら、カーボンブラックを含有する墨インキの高濃度化についての記載や示唆はない。
また、一般に油長の高いアルキッド樹脂ほど顔料への濡れ性が高くなる傾向にあるが、特許文献2の実施例に記載されているアルキッド樹脂の組成から判断すると、該アルキッド樹脂の油長は50未満であるため、印刷時の汚れを低減することができたとしても、顔料への濡れ性が低下するため、顔料の高濃度化には好ましくないと考えられる。
【0010】
特許文献3では黒色顔料濃度で22.5〜30質量%の実施例が示されており、アルキッド樹脂の使用に関しても記載されている。
しかしながら、一般的なアルキッド樹脂では酸価及び水酸基価が高いため、インキ中に多量に添加した場合、インキの乳化適性が損なわれ、十分な印刷適性を付与できない。
そのため、特許文献3ではアルキッド樹脂とギルソナイト樹脂との合計の最大添加量は、インキ中のロジン変性フェノール樹脂とロジン変性マレイン酸樹脂との合計に対し3〜10質量%とインキ中ではごく少量に制限される。本文献の実施例において、イエロー,マゼンタ及びシアンの印刷インキではアルキッド樹脂(大豆油変性アルキド樹脂)の添加量は1%であり、またブラック印刷インキ組成物ではアルキッド樹脂は全く添加されておらず、本発明とは構成が異なる。またアルキッド樹脂を用いて顔料濃度を高めるための手段や可能性についての記載や示唆は見られない。
【0011】
特許文献3に記載の墨インキの場合、黒色顔料の増加に伴いインキの流動性が不足すると予想されるが、その実施例において印刷時のドットゲインは予想通り従来品に比べて小さくなる傾向が示されている。さらにインキの着肉性が低下するなどの理由から、網点で形成される画像の濃度が低下すると容易に想像できる。
したがって、多数の網点で画像を形成する実際の印刷において特許文献3に記載の高濃度インキを使用した場合、その小さなドットゲインや着肉不足を補うために、紙面上へのインキ供給量を増やす必要があり、本発明が課題とする顔料の高濃度化と薄膜印刷とを両立させることは難しいと考えられる。
【0012】
特許文献4には、乳化適性及び印刷物の光沢に優れる印刷インキを得るためのインキ用樹脂ワニスの発明が記載されている。印刷機上で湿し水と安定した乳化状態を保てる印刷インキが得られる樹脂ワニスであるが、インキ中の顔料の高濃度化については記載や示唆は無い。
【0013】
特許文献5は印刷用紙へのインキの浸透を抑制することで印刷後の紙面濃度を高める方法を提供するものであり、インキ中の黒色顔料濃度を高めることとは課題が異なる。また本文献で用いるカーボンは一般にゴム補強用等に用いられもので、通常印刷インキに用いられるものと比べると一次粒子径が大きく、その他の性状も異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平2−251579号公報
【特許文献2】特開平2−238013号公報
【特許文献3】特開2007−154182号公報
【特許文献4】特開2008−174678号公報
【特許文献5】特開2011−94052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は黒色顔料としてカーボンブラックを含有する印刷インキであって、薄膜印刷を可能とし,かつ印刷物に実用可能な印刷濃度を付与できる印刷インキ組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、カーボンブラックを黒色顔料として用いる墨インキにおいて、特定範囲内の酸価及び又は水酸基価を有するアルキッド樹脂を2〜30質量%含有させることにより、インキ中の黒色顔料含有量を従来に比べて大幅に高めることができ、かつ適正なインキ物性と印刷適性を付与できることを見出し,本発明を完成した。
すなわち、本発明はつぎの印刷インキ組成物を提供する。
(1)黒色顔料としてカーボンブラックを20〜40質量%含有し、ビヒクル成分としてアルキッド樹脂を含有する印刷インキ組成物。
(2)前記のアルキッド樹脂の固形分酸価が1.5〜5mgKOH/gである請求項1に記載の印刷インキ組成物。
(3)前記のアルキッド樹脂の固形分水酸基価が5〜15mgKOH/gである前記(1)項に記載の印刷インキ組成物。
(4)前記のアルキッド樹脂の油長が50〜90である前記(1)項に記載の印刷インキ組成物。
(5)前記のアルキッド樹脂を2〜30質量%含有する前記(1)項に記載の印刷インキ組成物。
(6)前記(1)〜(5)項のいずれかに記載の印刷インキ組成物であって、その乾燥方式が浸透乾燥型である印刷インキ組成物。
(7)前記(1)〜(6)項のいずれかに記載の印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の印刷インキ組成物は、黒色顔料としてカーボンブラックの含有量が従来のインキよりも高く、薄膜印刷を行う場合においても文字や絵柄の濃度が低下して読みにくくなる等の問題が起きにくい。さらに従来技術による高濃度化で問題となる流動性の低下、ドットゲイン不足、着肉不良といった問題を解決し、実用的な薄膜印刷が可能となる。
本発明の印刷インキ組成物を用いて薄膜印刷を行うことにより、ブロッキングや裏移りの軽減、ミスチング・フライングの低減、さらに高精細印刷対応といった品質面での向上に加え、インキ使用量の削減が可能となる。
【0018】
本発明の印刷インキ組成物は、出版印刷、商業印刷、包装材料印刷等の用途や、新聞印刷を含む平版オフセット印刷、及び各種凸版印刷による印刷方式で好適に用いることができる。
また、新聞印刷に代表される浸透乾燥方式の印刷では、セットオフ(紙面の未乾燥インキが対向面に再転移する現象)や裏抜けの少ない高濃度インキの特徴を生かし、従来に比べ軽量な新聞用紙の利用が可能となり、新聞用紙に関わるコストの削減や森林資源保全の観点から環境負荷を低減できる。
さらに特定範囲内の酸価及び又は水酸基価を有するアルキッド樹脂を使用することで、インキに良好な印刷適性を付与し、印刷における安定した作業性を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の印刷インキ組成物は、黒色顔料としてカーボンブラックを含有し、アルキッド樹脂を含むビヒクル成分の他に、石油系溶剤、植物油、ワックス等を含有し、さらに体質顔料及びその他助剤等を配合することができる。助剤にはドライヤー、皮張り防止剤、ゲル化剤等の粘度調整剤、ポリエチレン系やフッ素系の皮膜強化剤、分散剤、汚れ防止剤、乳化調整剤等が含まれる。
【0020】
本発明の印刷インキ組成物に用いるカーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等が挙げられ、好ましくはファーネスブラックが用いられる。
カーボンブラックの具体例としては、「MA7、8、11、77、100、100R、100S、220、230、600」、「#650、#750、#40、#44B、#44、#45B、#47、#45、#33、#45L、#47、#50、#52、#2700、#2650、#2600、#200、#2350、#2300、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#900、#850、#32、#260、#30、#25、#20、#10、#5、CF9、#95(以上三菱化学株式会社製)、「Special Black6、5、4A、4、 101、550、350、250、100」、「Printex U、150T、V、140V、140U」、「PrinteX P、L6、L、G、ES23、ES22、A、95、90、85、80、75、60、55、45、40、35、300、30、3、25、200」、「Color Black S170、S160、FW2V、FW200、 FW2、FW18、FW1」(以上オリオンエンジニアドカーボンズ社製)、「Black Pearls 1000M、800、880、4630」、「Monarch 1300、700、 880、4630」、「Regal 330R、660R、660、400R、415R、415」、「MOGUL E、L」(以上Cabot社製)、「Raven 7000、3500、5250、5750、5000ULTRAII、1255、1250、1190、1000、1020、1035、1100ULTRA、1170、1200」(以上コロンビアン・ケミカルズ社製)、「SUNBLACK SB200、210、220、230、240、250、260、270、280、300、305、320、400、410、600、700、705、710、715、720、725、805、900、910、935、960」(以上旭カーボン株式会社製)、トーカブラック#8500、#8500F、#7550SB、#7550F」(以上東海カーボン株式会社製)などを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
印刷インキ中のカーボンブラックの含有量は20〜40質量%が好ましく、22〜37質量%がより好ましく、24〜35質量%が更に好ましい。
【0021】
印刷インキのビヒクルとは、樹脂を油等の溶剤に溶解した樹脂溶液や、それらを加熱して粘度を調整したもの等を総称したものである。例えばロジン変性フェノール樹脂を用いたビヒクルはロジン変性フェノール樹脂と呼ばれることもあり、又ロジン変性フェノール樹脂ワニスとも呼ばれ、アルキッド樹脂を用いたビヒクルの場合、アルキッド樹脂と呼ばれることもあり、又アルキッド樹脂ワニスとも呼ばれる。さらに、ギルソナイト樹脂を用いたビヒクルではギルソナイト樹脂と呼ばれることもあり、又ギルソナイト樹脂ワニスとも呼ばれる。
【0022】
ビヒクルの樹脂成分としては、アルキッド樹脂を必須として含有する他に、フェノール樹脂、石油樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂変性ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル、変性アルキッド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ギルソナイト樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等、任意の樹脂系が用いられる。中でもロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂及びギルソナイト樹脂が好ましく用いられる。ビヒクルはこれらの樹脂成分と植物油や再生植物油、植物油エステル等の植物由来成分、石油系溶剤からなり、必要に応じてゲル化剤や酸化防止剤等を添加することができる。
【0023】
本発明で用いるロジン変性フェノール樹脂は、(a)ロジン類(ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、天然ロジン等)、(b)フェノール類とホルムアルデヒドの縮合物、及び(c)ポリオール(グリセリン、ペンタエリスリトール等)を反応し合成したものである
本発明で用いるロジン変性フェノール樹脂の重量平均分子量は10000〜300000のものが好ましい。
本発明で使用するロジン変性フェノール樹脂ワニスの添加量としては、印刷インキ中の含有量は5〜70質量%が好ましく、さらに30〜65質量%が好ましい。
【0024】
上記石油樹脂とは、石油化学の製造工程から得られる不飽和炭化水素を原料とし、これらを精製、重合して得られる芳香族および脂肪族の炭化水素樹脂である。また石油樹脂は従来からオフセット印刷、出版グラビアインキなどにおいて一般的に使用されているものである。上記石油樹脂の具体的な製品として、ネオポリマー120、ネオポリマー140、ネオポリマー170S(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)、ペトコール120、ペトコール140(東ソー株式会社製)等の製品が挙げられる。
【0025】
上記ギルソナイト樹脂とは、天然鉱脈より採掘され天然アスファルタイトから抽出された軟化点110〜180℃の脂肪族炭化水素系樹脂である。主成分としてはアスファルテン、樹脂、油分からなる。ギルソナイト樹脂は従来からオフセット印刷において一般的に使用されているもので、一例としてアメリカンギルソナイト社製のものが挙げられる。
【0026】
上記アルキッド樹脂はアルキド樹脂ともよばれ、多塩基酸(主として無水フタル酸)とポリオール(主としてグリセリンあるいはペンタエリスリトール)とのエステルを基体とし、これを油、脂肪酸で変性した樹脂の総称で、ロジン、各種天然樹脂、さらにフェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂、あるいはスチレンなどの重合性単量体によって変性したものもアルキッド樹脂に含まれる。
湿し水を用いる平版オフセット印刷において、一般的なアルキッド樹脂は高酸価、高水酸基価であるため、インキが乳化しやすくなるなど、印刷適性低下の原因となる。そのため、印刷インキ中におけるアルキッド樹脂の使用量は限定的なものであった。
【0027】
一般的な印刷インキと同等の印刷適性を保持しつつ顔料の高濃度化を実現するためには、アルキッド樹脂の固形分酸価は1〜5mgKOH/gが好ましく、より好ましくは1.5〜5mgKOH/gである。またアルキッド樹脂の固形分水酸基価は5〜15mgKOH/gが好ましい。
これらアルキッド樹脂の固形分酸価及び固形分水酸基価の好ましい範囲は、いずれかのみが満足されていても良い。また両方を同時に満足することはより好ましい。
【0028】
さらに顔料の高濃度化において、アルキッド樹脂の油長は顔料の分散性や練肉性、インキの流動性等に影響を及ぼす。一般に油長の低いアルキッド樹脂を用いた場合、顔料分散性とインキの流動性は低下する。したがって、アルキッド樹脂の油長としては、50〜90が好ましい。
【0029】
本発明で用いるアルキッド樹脂の印刷インキ中の含有量は2〜30質量%が好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。ミスチング低減と適度の流動性付与の観点から、3〜15質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。
【0030】
本発明の印刷インキに用いる石油系溶剤としては、炭素数6〜20のパラフィン系炭化水素が好ましく用いられる。例示すれば、n−ペンタン、イソペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、n−オクタン、トリメチルペンタンなどのパラフィン系溶剤、シクロヘキサン、シクロヘキシルメタン、オクタデシルシクロヘキサン、メチルイソプロピルシクロヘキサンなどのナフテン系溶剤、およびJX日鉱日石エネルギー株式会社製の「AFソルベント4号」、「AFソルベント5号」、「AFソルベント6号」、「AFソルベント7号」など、およびこれらの溶剤の相当品や混合物が挙げられる。
【0031】
本発明の印刷インキに用いられる植物油としては、ヒマシ油、落花生油、オリーブ油などの不乾性油、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油などの半乾性油、およびアマニ油、エノ油、キリ油などの乾性油、再生植物油、植物油エステル等の植物由来成分などが例示される。
【0032】
本発明の印刷インキに用いられる体質顔料としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、カオリンクレー、有機ベントナイト等が例示される。
【0033】
上記の原料を用いて本発明の印刷インキ組成物を製造するには公知の方法を使用することができる。例えば、必要量の溶剤、植物油、ビヒクル等を充分に混合した後、黒色顔料を添加し、攪拌機で充分に混合し、プレミキシングを行う。その後、必要量のビヒクル、溶剤、及び他の添加剤を添加し、ショットミル、ロールミル等で練肉を行う。練肉後、ビヒクル、石油系溶剤、植物油、アルキッド樹脂、その他ワックス、酸化防止剤、乳化調整剤等の助剤を添加し、充分に撹拌混合する。
これらの原料はインキに必要とされる粘度や流動性に合わせて使用量を調整する。またこれらの原料の添加時期は固定したものではなく、原料の混合状態等に基づいて適切に調整する。
【実施例】
【0034】
以下に実施例によって本発明を具体的に説明する。本明細書において、配合組成その他の数値は特記しない限り質量基準である。
【0035】
<ロジン変性フェノール樹脂ワニスの調製>
コンデンサー、温度計、攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(重量平均分子量 10.0万、軟化点 161℃、酸価 18.0)45部、大豆油(日新オイリオ株式会社製) 25部、AFソルベント6号(JX日鉱日石エネルギー株式会社製)14.5部を仕込み180℃で1時間加熱攪拌する。その後AFソルベント6号15部、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(ALCH−50F 川研ファインケミカル株式会社製) 0.5部を加え、ロジン変性フェノール樹脂ワニスを得た。このロジン変性フェノール樹脂ワニスを実施例及び比較例で使用した。
【0036】
<アルキッド樹脂Aの調製>
撹拌機、精留塔および温度計付きの反応釜に、大豆油700部、グリセリン48.5部、ペンタエリスリトール53.8部を配合し、250℃で1時間程度保持して、アルコール交換反応を行った。150℃に冷却し、イソフタル酸250.8部、さらに還流用のキシレンを加え、250℃まで徐々に加熱した後に、250℃に8時間程度保持して脱水しながら、エステル化反応を行った。次に、キシレンを脱溶剤するために、250℃を保持しながら、減圧反応を2時間行い、固形分酸価3.5、固形分水酸基価11.0のアルキッド樹脂Aを得た。本アルキッド樹脂の油長は約70である。
【0037】
<アルキッド樹脂Bの調製>
撹拌機、精留塔および温度計付きの反応釜に、大豆油800部、グリセリン34.0部、ペンタエリスリトール37.7部を配合し、250℃で1時間程度保持して、アルコール交換反応を行った。150℃に冷却し、イソフタル酸161.8部、さらに還流用のキシレンを加え、250℃まで徐々に加熱した後に、250℃に8時間程度保持して脱水しながら、エステル化反応を行った。次に、キシレンを脱溶剤するために、250℃を保持しながら、減圧反応を2時間行い、固形分酸価4.3、固形分水酸基価19.2のアルキッド樹脂Bを得た。本アルキッド樹脂の油長は約80である。
【0038】
<アルキッド樹脂Cの調製>
撹拌機、精留塔および温度計付きの反応釜に、大豆油800部、グリセリン31.9部、ペンタエリスリトール35.4部を配合し、250℃で1時間程度保持して、アルコール交換反応を行った。150℃に冷却し、イソフタル酸165.3部、さらに還流用のキシレンを加え、250℃まで徐々に加熱した後に、250℃に5時間程度保持して脱水しながら、エステル化反応を行った。次に、キシレンを脱溶剤するために、250℃を保持しながら、減圧反応を2時間行い、固形分酸価11.4、固形分水酸基価17.5のアルキッド樹脂Cを得た。本アルキッド樹脂の油長は約80である。
【0039】
<ギルソナイト樹脂ワニスの調製>
コンデンサー、温度計、攪拌機を装着した四つ口フラスコに、ギルソナイト樹脂(アメリカンギルソナイト社製 ER−125)25部、大豆油75部を仕込み、150℃で1時間加熱攪拌してギルソナイト樹脂ワニスを得た。
【0040】
<印刷インキの調製>
カーボンブラック(カーボンブラック#32 三菱化学株式会社製)と炭酸カルシウム(白艶華T−DD 白石工業株式会社製)に加え、前記の得られたロジン変性フェノール樹脂ワニス、アルキッド樹脂、ギルソナイト樹脂ワニスを用い、表1および表2に示す配合にしたがい、3本ロールミルにてインキ中の粗大粒子の粒経が5μm以下になるように練肉分散し、石油系溶剤(AFソルベント6号)、乾燥防止剤として2,6-ジ-ターシャリーブチル-4-クレゾール(H−BHT 本州化学工業株式会社製)を混合し、実施例1〜9および比較例1〜2の印刷インキ合計11点を得た。
【0041】
前記のインキ中の粗大粒子の粒径とは、JIS K5701−1に記載の練和度試験における練和度を指す。
JIS K5701−1(平成12年1月20日制定)の4.3練和度に規定された試験方法は次の通りである。
溝の深さ(溝の目盛)が25μmから0μmまで直線的に変化しているグラインドメータのゲージ盤上の深いところにインキ等の試料を置き、スクレーパーを用いて掻き取るようにして溝内に試料の膜を作る。ゲージ盤上には溝の深さを示す目盛が刻まれている。試料中に粒子が存在すると、その粒子がスクレーパーで掻き取られて移動することにより、その粒子の大きさ(直径等)より浅い溝内に線が生じる。その線を観察し、10mm以上連続した線が、一つの溝について3本以上現れたところの目盛の値をAとし、10本以上現れたところの目盛の値の位置をBとする。
本実施例では前記位置Aにおける目盛の値をそのインキ中の粗大粒子の粒径とする。
【0042】
実施例1〜9の配合及び評価を表1に示し、比較例1〜2の配合及び評価を表2に示す。
尚、表2の参考例は従来一般の印刷インキ組成物の配合例で、アルキッド樹脂は含有せず、印刷濃度が低くなるため薄膜印刷を行うには適していない。
【0043】
<印刷試験評価>
実施例1〜9、比較例1〜2および参考例の印刷インキ組成物(全12点)を用いてN−600型印刷機(東浜精機株式会社製)にて印刷速度12万部/時、新聞用更紙を使用してベタ部の紙面濃度が1.25±0.04の条件で印刷を行い、各インキの印刷適性を評価した。また得られた印刷物のベタ部から着肉性を、50%網点印刷部からドットゲインを評価した。
また12点の印刷インキ組成物について流動性を評価した。
【0044】
<評価方法>
(1)印刷適性
印刷時に安定した印刷品質と作業性を示すかどうかについて、参考例と相対評価を行い、参考例と同様に良好な印刷品質と作業性の場合を○、実用上問題ない場合を△、実用上問題がある場合を×とする。
【0045】
(2)流動性
インキの流動性は、印刷時の様々なトラブルと関係がある。例えば流動性が高すぎるインキの場合、壺ダレ、ミスチング等の懸念があり、逆に流動性が低すぎる場合には、壺上がりや転移不良といったトラブルの原因となる。
表1および表2に示す12点のインキについて、流動性を「新聞オフセット輪転インキの試験方法 団体規格:2000(新聞インキ協会発行)」の4.1.4(ガラス板流度計による流動性の試験方法)に従い、流動性を評価した。この試験方法は、表面が平滑なガラス板を垂直に立て、一定量のインキ試料が自重によって一定時間内にガラス板上を流れた長さを測定することにより、流動性を評価する。
参考例と流動性が同等で実用上問題ない場合を○、問題となるレベルのものを×とする。
【0046】
(3)ドットゲイン
ビデオジェット・エックスライト社製濃度計SpectroEyeを用いて50%網点印刷部のドットゲインを評価した。参考例とドットゲインが同等で実用上問題ない場合を○,実用上問題となるレベルのものを×とする。
【0047】
(4)着肉性
着肉性とは紙面上へのインキの転移性等に依存し、着肉性が悪くなると、ベタ部の濃度が不均一となりガサツキが目立ってくるため、濃度感が低下する。得られた印刷物のベタ部を目視にて参考例と相対評価を行い、参考例と同等の場合を○、参考例と比較してやや劣るものの、実用上問題ないレベルの場合を△、参考例と比べて劣り、実用上問題があるものを×とする。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により印刷インキ中の黒色顔料含有量を従来品に比べて大幅に高めるだけでなく、従来技術で問題となる流動性の低下、ドットゲイン不足、着肉不良といった課題を解決し、薄膜印刷を可能とする高濃度墨インキを提供することができる。
薄膜印刷により、ブロッキングや裏移りの軽減、ミスチング・フライングの低減、さらに高精細印刷対応といった品質面での向上に加え、インキ使用量の削減が可能となる。
また浸透乾燥方式の新聞印刷ではセットオフや裏抜けの少ない高濃度インキの特徴を生かし、従来に比べ軽量な新聞用紙の利用が可能となり、新聞用紙コストの削減や森林資源の保全による環境負荷の低減に寄与することができる。
【手続補正書】
【提出日】2014年6月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)及び(b)を全て満足する薄膜印刷用印刷インキ組成物。
(a)黒色顔料としてカーボンブラックを20〜40質量%含有し、ビヒクル成分としてアルキッド樹脂を含有する。
(b)前記のアルキッド樹脂の固形分酸価が1.5〜5mgKOH/gであるか、又は前記のアルキッド樹脂の固形分水酸基価が5〜15mgKOH/gである。
【請求項2】
前記のアルキッド樹脂の油長が50〜90である請求項1に記載の薄膜印刷用印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記のアルキッド樹脂を2〜30質量%含有する請求項1に記載の薄膜印刷用印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の印刷インキ組成物であって、その乾燥方式が浸透乾燥型である薄膜印刷用印刷インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の薄膜印刷用印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物。
【手続補正書】
【提出日】2014年10月3日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(a)〜(c)を全て満足する薄膜印刷用印刷インキ組成物。
(a)黒色顔料としてカーボンブラックを25質量%を超えて40質量%以下の範囲で含有する。
(b)ビヒクル成分としてアルキッド樹脂を含有する。
(c)前記のアルキッド樹脂の固形分酸価が1.5〜5mgKOH/gであるか、又は前記のアルキッド樹脂の固形分水酸基価が5〜15mgKOH/gである。
【請求項2】
前記のアルキッド樹脂の油長が50〜90である請求項1に記載の薄膜印刷用印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記のアルキッド樹脂を2〜30質量%含有する請求項1に記載の薄膜印刷用印刷インキ組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載の印刷インキ組成物であって、その乾燥方式が浸透乾燥型である薄膜印刷用印刷インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の薄膜印刷用印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物。