【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献のような被覆材は、拡散反射性を高めるため、特定の粉体を多量に配合したものである。そのため、このような被覆材では、形成被膜の仕上げ外観が、意匠的に制限されるものとなり、立体感や色彩感に富んだ意匠性を付与することは困難である。
【0005】
本発明は、このような問題に対して鑑みなされたものであり、拡散反射性が高く美観性に優れた装飾仕上げを得ることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の透明性被覆材、及び当該被覆材を用いた被膜形成方法に想到した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.透明性被膜を形成する被覆材であって、
(A)結合材、
(B)平均粒子径が1μm以上1000μm以下の光輝性粉粒体、及び
(C)平均粒子径が上記(B)成分よりも小さい光拡散性微粒子
を含むことを特徴とする被覆材。
2.前記(C)成分として、中空樹脂粒子を含むことを特徴とする、1.に記載の被覆材。
3.前記(C)成分の平均粒子径が0.01μm以上1.0μm未満であることを特徴とする1.または2.に記載の被覆材。
4.前記(B)成分が、2種以上の異なる平均粒子径の光輝性粉粒体を含むことを特徴とする、1.〜3.のいずれかに記載の被覆材。
5.前記(B)成分が、
(b−1)粒子径が100μm以上1000μm以下の光輝性粉粒体と、
(b−2)粒子径が1μm以上100μm未満の光輝性粉粒体
を含むことを特徴とする、1.〜4.のいずれかに記載の被覆材。
6.装飾面に、前記1.〜5.のいずれかに記載の被覆材による被膜を形成することを特徴とする被膜形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の被覆材は、装飾面の外観を活かす透明性を有するとともに、優れた拡散反射性を有するものである。本発明の被覆材を用いれば、装飾面の美観性を十分に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
本発明の被覆材は、(A)結合材、(B)平均粒子径が1μm以上1000μm以下の光輝性粉粒体、及び(C)平均粒子径が(B)よりも小さい光拡散性微粒子を含む。
【0011】
本発明の(A)結合材(以下、「(A)成分」ともいう。)は、造膜性を有するものであり、被覆材が被膜形成するための主成分である。
(A)成分は、透明性を有するものであれば特に限定されず、例えば、合成樹脂エマルション、水溶性樹脂、溶剤型樹脂等を使用することができる。このうち、本発明では合成樹脂エマルションが好適である。
樹脂成分としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルスチレン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、セルロールアセトブチレート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。このうち、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルスチレン樹脂が、耐候性等の面から好適である。
【0012】
本発明では、(B)平均粒子径が1μm以上1000μm以下の光輝性粉粒体(以下、「(B)成分」ともいう。)と、(C)平均粒子径が(B)よりも小さい光拡散性微粒子(以下、「(C)成分」ともいう。)を併用する。本発明では、このような(B)成分と(C)成分を用いることで、透明性を確保しつつ、拡散反射性を高めることができる。
【0013】
(B)成分の平均粒子径は、1μm以上1000μm以下であり、好ましくは5μm以上800μm以下、より好ましくは10μm以上600μm以下である。
尚、(B)成分の平均粒子径は、粒子を水平面に安定に静置させ、上から観察したときの長径の平均値である。
【0014】
(B)成分としては、光輝性を示すものであれば特に限定されるものではないが、例えば鱗片状粉粒体等が挙げられる。
(B)成分の具体的としては、例えば天然マイカ、合成マイカ、アルミナフレーク、ガラスフレーク、シリカフレーク、ステンレスフレーク、ホログラム、金属蒸着フィルムの破砕品等が挙げられる。また、例えば金属酸化物被覆マイカ、金属酸化物被覆アルミナフレーク、金属酸化物被覆ガラスフレーク、金属酸化物被覆シリカフレーク等の金属酸化物被覆鱗片状粉粒体を使用することもできる。本発明では、(B)成分として、このような金属酸化物被覆鱗片状粉粒体を含むことが望ましい。これらの(B)成分は1種または2種以上で使用することができる。
【0015】
(B)成分は、平均粒子径が異なる2種以上の光輝性粉粒体を含むことが好ましい。
本発明では、(B)成分として、
(b−1)粒子径が100μm以上1000μm以下(さらに好ましくは150μm以上800μm以下、最も好ましくは200μm以上600μm以下)の光輝性粉粒体(以下、「(b−1)成分」ともいう。)と、
(b−2)粒子径が1μm以上100μm未満(さらに好ましくは5μm以上80μm以下、最も好ましくは10μm以上60μm以下)の光輝性粉粒体(以下、「(b−2)成分」ともいう。)を含むことが好ましい。
【0016】
(b−1)成分及び(b−2)成分の材質は、特に限定されず、同種であっても異種であってもよいが、本発明では、(b−1)成分及び/または(b−2)成分が前記金属酸化物被覆鱗片状粉粒体を含むことが好ましい。より好ましくは(b−2)成分が前記金属酸化物被覆鱗片状粉粒体を含むものであり、最も好ましくは、(b−2)成分が前記金属酸化物被覆鱗片状粉粒体を含み、(b−1)成分が、それ以外の前記鱗片状粉粒体を含むものである。
このような(b−1)成分と(b−2)成分を併用すれば、本発明の効果をいっそう高めることができる。
【0017】
被覆材中の(B)成分の含有比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、5重量部以上100重量部以下(より好ましくは10重量部以上80重量部以下、さらに好ましくは12重量部以上60重量部以下)が好ましい。
被覆材中の(b−1)成分の含有比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、5重量部以上80重量部以下(より好ましくは10重量部以上50重量部以下、さらに好ましくは12重量部以上40重量部以下)が好ましい。
被覆材中の(b−2)成分の含有比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、5重量部以上80重量部以下(より好ましくは10重量部以上50重量部以下、さらに好ましくは12重量部以上40重量部以下)が好ましい。
【0018】
(C)成分の具体例としては、例えば合成樹脂微粒子や無機質微粒子等が挙げられる。
合成樹脂微粒子を構成する樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、アクリルスチレン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、プロピオン酸ビニル樹脂、ベオバ樹脂、アクリル酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、セルロールアセトブチレート樹脂、セルロースプロピオネート樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
無機質微粒子としては、例えばガラスビーズ、セラミックビーズ、酸化チタン、重質炭酸カルシウム、軽微性炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、炭酸バリウム、ホワイトカーボン、珪藻土、寒水石、陶土、チャイナクレー、バライト粉、硫酸バリウム、沈降性硫酸バリウム、珪砂、珪石粉、石英粉等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
【0019】
このうち、本発明では、(C)成分が合成樹脂微粒子を含むことが好ましい。
また、本発明では、(C)成分が中空粒子または多孔質粒子を含むことが好ましい。これらは粒子中に空気層を有するため、空気と粒子界面の屈折率の違いによる拡散反射を生じる。従って、本発明の拡散反射性をよりいっそう高めることができ、形成被膜の透明性確保の点でも有利である。本発明では、特に(C)成分が中空樹脂粒子または多孔質樹脂粒子を含むことが好ましい。
尚、(C)成分における合成樹脂微粒子は、連続被膜を形成するほどの造膜性を有するものではなく、前記(A)成分とは別異の成分である。
【0020】
(C)成分としては、その平均粒子径が、(B)成分よりも小さいものを使用する。(C)成分の平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上1.0μm未満、より好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である。(B)成分として複数種のものを使用する場合、(C)成分はどの(B)成分よりも平均粒子径が小さいことが望ましい。
尚、(C)成分の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって測定される。
【0021】
被覆材中の(C)成分の含有比率は、(A)成分の固形分100重量部に対し、5重量部以上100重量部以下(より好ましくは10重量部以上80重量部以下、さらに好ましくは12重量部以上60重量部以下)が好ましい。
【0022】
本発明では、被覆材に(B)光輝性粉粒体と(C)光拡散性微粒子を用いることで効率的に拡散反射性を高めることができる。このため、粉体含有量を抑えることができ、透明性を確保しながらも拡散反射性に優れた被膜を得ることができる。
その詳細は定かではないが、本発明の(C)光拡散性微粒子は、(B)光輝性粉粒体よりも小さな粒子であるため、被膜中で光輝性粉粒体の間に入り込み、これらの相乗作用によって拡散反射効果をいっそう高めているものと考えられる。
【0023】
(C)成分100重量部に対する(B)成分の含有比率は、10重量部以上1000重量部以下(より好ましく50重量部以上500重量部以下)であることが好ましい。このような範囲であれば、本発明の効果をいっそう高めることができる。
【0024】
本発明の被覆材は、透明性など本発明の効果を損なわない程度で、着色顔料を含むことができる。被覆材にこれらの顔料を含むことで、着色透明性被膜を形成することが可能となる。
【0025】
着色顔料としては、例えば、酸化亜鉛、カーボンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、コバルトブラック、銅マンガン鉄ブラック、モリブデートオレンジ、パーマネントレッド、パーマネントカーミン、アントラキノンレッド、ペリレンレッド、キナクリドンレッド、酸化第二鉄、黄色酸化鉄、チタンイエロー、ファーストイエロー、クロムグリーン、オーカー、群青、紺青、コバルトグリーン、コバルトブルー等の無機系着色顔料、アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、キノフタロン系等の有機系着色顔料等が挙げられる。これらは1種または2種以上で使用することができる。
被覆材中の着色顔料の混合比率は、被覆材全量に対し、5重量%以下(好ましくは3重量%以下)であればよい。
【0026】
本発明の被覆材には、上記成分以外に、本発明の効果を損なわない程度で、さらに水、溶剤等の分散媒、造膜助剤、可塑剤、凍結防止剤、防腐剤、防黴剤、抗菌剤、消泡剤、顔料分散剤、増粘剤、レベリング剤、湿潤剤、pH調整剤、繊維類、つや消し剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、吸着剤、触媒、架橋剤、カップリング剤等を混合することができる。
【0027】
本発明の被覆材は、乾燥、硬化して得られる被膜が透明性を有する。具体的には、被膜の隠蔽率が0%以上80%以下(より好ましくは10%以上70%以下、さらに好ましくは20%以上60%以下)であることが好ましい。
尚、隠蔽率は、隠蔽率試験紙の上に被覆材をフィルムアプリケータにて塗付厚が0.15mmとなるように被覆し、黒地上塗膜と白地上塗膜の視感反射率を色彩色差計を用いて測定することによって算出される値である。
【0028】
本発明の被覆材を乾燥、硬化して得られる被膜は、拡散反射率が40%以上(より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上)であることが好ましい。被膜がこのような拡散反射率であれば、装飾面の美観性を高めることができる。
尚、拡散反射率は、被覆材で被膜形成したスレート板について、分光測色計を用い、硫酸バリウムを標準とした550nmにおいて測定される値である。
【0029】
本発明の被覆材は、建築物や土木構造物の装飾面全般、例えば、装飾被覆面や装飾性基材に使用することができる。
装飾性被覆面としては、例えばエマルションペイント面、艶有りエマルションペイント面、合成樹脂エナメルペイント面、多彩模様被覆面、メタリック被覆面等の他、リシン仕上げ面、スタッコ仕上げ面、吹付けタイル仕上げ面、石材調仕上げ面等が挙げられる。装飾性基材としては、例えばコンクリート打ち放し面、陶磁器タイル面、意匠性サイディングボード、石材、木材、装飾性ガラス、金属性建材、れんが等が挙げられる。基材は、既に被膜が形成されているものであってもよい。
上記のとおり、本発明の被覆材は、透明性を有するとともに、優れた拡散反射性を有するため、これらの装飾面の美観性を高めることができる。
【0030】
装飾面に対して本発明の被覆材の被膜を形成するには、例えばスプレー、ローラー、刷毛等の各種器具が適宜使用できる。被覆材の塗付け量は、好ましくは0.05〜1kg/m
2、より好ましくは0.1〜0.5kg/m
2である。また、乾燥は通常、常温で行えばよいが、加熱することも可能である。
【実施例】
【0031】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。
【0032】
<被覆材の製造>
以下に示す材料を、表1〜3に示すように配合し、被覆材1〜27を製造した。
結合材1:アクリルシリコン樹脂エマルション(固形分50重量%)
結合材2:アクリル樹脂エマルション(固形分50重量%)
光輝性粒子1:酸化チタン被覆マイカ(平均粒子径:3μm)
光輝性粒子2:酸化チタン被覆マイカ(平均粒子径:15μm)
光輝性粒子3:マイカ(平均粒子径:30μm)
光輝性粒子4:酸化チタン被覆マイカ(平均粒子径:80μm)
光輝性粒子5:マイカ(平均粒子径:150μm)
光輝性粒子6:マイカ(平均粒子径:300μm)
光輝性粒子7:アルミナフレーク(平均粒子径:400μm)
光輝性粒子8:マイカ(平均粒子径:650μm)
光輝性粒子9:マイカ(平均粒子径:1200μm)
光拡散性微粒子1:アクリルスチレン中空樹脂粒子(平均粒子径:0.05μm)
光拡散性微粒子2:アクリル中空樹脂粒子(平均粒子径:0.2μm)
光拡散性微粒子3:アクリルスチレン中空樹脂粒子(平均粒子径:0.5μm)
光拡散性微粒子4:アクリルスチレン中空樹脂粒子(平均粒子径:30μm)
光拡散性微粒子5:酸化チタン(平均粒子径0.5μm)
光拡散性微粒子6:ガラスビーズ(平均粒子径0.4μm)
添加剤:増粘剤、消泡剤、造膜助剤
【0033】
得られた被覆材を用い、下記の試験を実施した。結果を表1〜3に示す。
【0034】
<拡散反射性>
まず、被覆材1〜27を、スレート板にスプレーにて塗付け量0.2kg/m
2で被覆し、気温23℃、湿度50%RHにて乾燥させ、試験体の波長550nmでの拡散反射率を分光測色計(KONICA MINOLTA社製 CM-3700d)を用いて測定した。測定値が80%以上のものをA、70%以上80%未満のものをB、60%以上70%未満のものをC、50%以上60%未満のものをD、50%未満のものをEとして表1〜3に示す。
【0035】
次に、被覆材1〜27を、石材調仕上げ面にスプレー塗装にて塗付け量0.2kg/m
2で被覆し、気温23℃、湿度50%RHにて乾燥させ、試験体を作製し、下記の方法で、透明性と美観性を評価した。
<透明性>
各試験体を目視し、透明性を評価した。
試験体を目視し、石材調仕上げ面がはっきりと視認できるものをA、視認できないものをEとして、A>B>C>D>Eの5段階で評価した。
<美観性>
各試験体を目視し、石材調仕上げ面の風合いを活かし、美観性が十分に高められているものをA、石材調仕上げ面の風合いが失われているものをEとして、A>B>C>D>Eの5段階で評価した。
【0036】
表1〜3のとおり、実施例1〜22では、被膜が透明性と高い拡散反射性を有するものであることと、石材調仕上げ面の美観性が十分に高められていることを確認することができた。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】