【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、少なくとも一部は、本発明による衣服用、特にアウトドア衣服用の断熱構造によって実現される。本発明による断熱構造は、第1の断熱要素と第2の断熱要素とを備え、第2の断熱要素が、第1の断熱要素とは異なる初期形状を有し、第1の断熱要素が、第2の断熱要素に接続され、衣服を着用したときに、第2の断熱要素が、断熱構造の内側に対する圧力によって変形され、それにより、第1の断熱要素が第2の断熱要素に接触する接触領域が増大される。
【0011】
初期形状は、好ましくは、断熱構造の内側に圧力が及ぼされていないときの第1および第2の断熱要素の形状を表す。さらに、形状は、好ましくは、第1および第2の断熱要素の断面形状を表す。さらにまた、用語「異なる初期形状」は、第1および第2の断熱要素の向きも考慮することがある。すなわち、第1の断熱要素と第2の断熱要素は、どちらも同じまたは同様の(断面)形状を有することがあり、例えば、どちらも長円形を有することがあるが、向きが異なることがある。例えば、第1の断熱要素は、横長断面を有することがあり、第2の断熱要素は、縦長断面を有することがある。第1の断熱要素と第2の断熱要素が同様の形状であるが異なる向きを有するそのような実施形態も、用語「異なる初期形状」によって網羅される。
【0012】
好ましくは、断熱構造は、複数の第1の断熱要素と複数の第2の断熱要素とを備え、第2の断熱要素がそれぞれ、第1の断熱要素とは異なる初期形状を有し、各第1の断熱要素が、少なくとも1つの第2の断熱要素に接続され、衣服を着用したときに、第2の断熱要素が、断熱構造の内側に対する圧力によって変形され、それにより、第1の断熱要素が第2の断熱要素に接触する接触領域が増大される。
【0013】
好ましくは、衣服が着用されるとき、各第1の断熱要素と、それが接続されるそれぞれの第2の断熱要素との間で、接触領域が増大される。しかしまた、接触領域は、いくつかの第1の断熱要素と第2の断熱要素の間でのみ増大されることも可能である。
【0014】
さらに、断熱構造および/または衣服がまた、第1および第2の断熱構造とは異なるさらなる断熱要素または他の要素を備えることもあることをここに明記しておく。
【0015】
本発明による断熱構造は、単純な製造と良好な断熱の利点を兼ね合わせる。衣服が着用されるとき、第2の断熱要素が変形され、それにより、それぞれの第1の断熱要素に「寄り添い」、したがって、熱が逃げることがあり得る任意の可能なシームまたは空間を少なくとも部分的に封止する。
【0016】
好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素と、少なくとも1つの第2の断熱要素とが、それぞれのシームで接続され、増大された接触領域が、シームの近位にあり、それにより、衣服が着用されるときに、少なくとも第2の断熱要素が、シームに実質的に重なる。
【0017】
好ましくは、すべての第1および第2の断熱要素がそれぞれのシームによって接続され、すべてのそのようなシームの近位に増大された接触領域が存在し、それにより、衣服が着用されるときに第2の断熱要素がすべてのシームに実質的に重なる。
【0018】
一般に、本明細書において「少なくとも1つの第1の断熱要素」、「少なくとも1つの第2の断熱要素」について述べるとき、複数の第1および第2の断熱要素が存在する場合には、これは、好ましくはすべての第1および第2の断熱要素を意味する。しかしまた、第1および/または第2の断熱要素のすべてではなく、1つまたは複数のみを意味することもある。
【0019】
本発明によるそのような断熱構造を形成するために、以下にさらに詳述するように層間にキャビティが形成されるように、材料の層を接合することができる。シームを使用して、衣服を形成する布地の層を接合することができる。いくつかの実施形態では、シームは、衣服内での断熱要素の移動が減少および/または阻止されるように設計することができる。断熱構造は、材料の層によって画定される2つ以上の異なる断熱要素から構成することができる。
【0020】
例えば、断熱構造は、第2の断熱要素の近位に位置決めされた第1の断熱要素から構成することができ、これらの要素をシームによって互いに接続することができる。第2の断熱要素は、使用中に第2の断熱要素が隣接するシームに実質的に重なるように構成することができる。
【0021】
シームに重なることによって、第2の断熱要素は、シームの領域内に断熱材料を提供し、それにより、これらの点での熱損失を減少および/または阻止することができる。
【0022】
さらに、いくつかの実施形態では、第2の断熱材料は、使用中に、隣接するシームの少なくとも一部分をカバーするように構成することができる。
【0023】
第1の断熱要素の少なくとも1つが第2の断熱要素の少なくとも1つに接触する増大された接触領域は、好ましくは、体熱の逃げを減少させる。特に好ましくは、既に述べたように、衣服が着用されるときにすべての第1の断熱要素と第2の断熱要素の間に増大された接触領域が存在し、それにより、本発明による断熱構造によって体熱の損失が実質的に減少される。
【0024】
前述したように、体熱の逃げの減少は、断熱構造の異なる要素間の可能なシームまたは空間が少なくとも部分的に「封止」されることによって得られる。さらに、増大された接触領域は、湿気、例えば霧や雨が着用者/使用者の身体に達するのを防止する目的を果たすこともできる。これは、さらに、快適さを促進し、冷却を防止する助けとなり得る。
【0025】
好ましくは、断熱構造の断面で、少なくとも1つの第2の断熱要素に沿った第1の円弧が、少なくとも1つの第2の断熱要素の外面に沿った断面で、第2の円弧の長さよりも大きい長さを有する。
【0026】
ここで、第1の円弧の長さと第2の円弧の長さとの比は、1.2:1〜3:1の範囲内、好ましくは1.4:1〜2:1の範囲内、特に好ましくは1.45:1〜1.55:1の範囲内でよい。
【0027】
さらに、断面での上述した第1の円弧の長さと第2の断熱要素の高さとの比は、1.2:1〜3:1の範囲内、好ましくは1.3:1〜2.5:1の範囲内、特に好ましくは1.4:1〜2.1:1の範囲内でよい。
【0028】
第1の円弧の長さと高さとのこれらの比は、好ましくは、第1の円弧の長さと第2の円弧の長さの上述の比と組み合わせて適用することができる。しかし、第1の円弧の長さと高さとの比は、第1の円弧と第2の円弧の長さの比とは無関係に適用することもでき、逆も成り立つ。
【0029】
本明細書では、断面での第2の断熱要素の高さは、例えば、着用された断熱構造/衣服の断面での高さを表すことがある。
【0030】
断熱構造の断面で、内面に沿った円弧の長さが外面に沿った円弧の長さよりも長くなるように第2の断熱要素を提供することによって、第2の断熱要素が、断熱構造の内側から「突出」し、したがって、衣服が着用されるときに着用者の身体によって圧縮され、それにより、上述した「封止」効果をもたらす。内側円弧長さと外側円弧長さの上述の比、および内側円弧長さと、第2の断熱要素の高さとの上述の比は、熱孔の良好な封止、したがって体熱の損失の良好な減少を提供することが判明している。
【0031】
ここでもまた、複数の第2の断熱要素の場合、これらの比は、好ましくは、すべての第2の断熱要素に適用される。あるいは、それらが一部の第2の断熱要素のみに適用されることもある。
【0032】
好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素および/または少なくとも1つの第2の断熱要素が、充填材料を備える。特に、すべての第1の断熱要素と第2の断熱要素が、充填材料を備えることができる。
【0033】
充填材料は、断熱構造の断熱性を大幅に高めることができる。天然繊維または羽根、特にダウン、あるいはまた、ダウンとは対照的に、例えば湿潤状態でさえ良好な断熱特性を有する合成繊維が、ここでの充填材料として想定可能である。対照的に、乾燥状態では、ダウンが、非常に良好な断熱特性を備えると共に、非常に軽量である。空気、ゲル、発泡材料、液体、ガス、または固体、例えば微粒も、充填材料として想定可能である。熱の対流を減少させるために排気されたキャビティも、原理的には想定可能である。
【0034】
ここで、少なくとも1つの第1の断熱要素内の充填材料の重量に対する少なくとも1つの第2の断熱要素内の充填材料の重量の比が、1.3:1〜4:1の範囲内、好ましくは1.4:1〜3:1の範囲内、特に好ましくは1.45:1〜2:1の範囲内である。
【0035】
充填材料の重量は、例えば衣服が構成されるときに測定することができる。重量の比は、実質的に同じ寸法、例えば同様の長さ(例えば、細長い断熱要素に関して)および高さを有する1対の第1の断熱要素と第2の断熱要素に適用することができる。また、これらの比は、第1の断熱要素と第2の断熱要素の各対に適用することもできる。あるいは、それらを一部の第1および第2の断熱要素のみに適用することもできる。
【0036】
これらの値も、上述したように衣服が着用されるときに本発明による「封止」効果を提供する、「突出」する第2の断熱要素を提供するのに有利であることが判明している。
【0037】
さらに、少なくとも1つの第1の断熱要素内の充填材料の重量と少なくとも1つの第2の断熱要素内の充填材料の重量の比を考慮するのではなく、少なくとも1つの第1の断熱要素内の充填材料の体積と少なくとも1つの第2の断熱要素内の充填材料の体積の比を考慮することもできる。充填体積のこの比に関しても、例えば、充填重量に関して上述した同じ好ましい比が適用されることがある。
【0038】
当業者は、少なくとも1つの第1の断熱要素と少なくとも1つの第2の断熱要素の両方において同じ充填材料で一定の充填密度の場合に、例えば充填材料の密度によって与えられる、充填材料の体積と重量の間の直接の1対1の対応関係が存在し得ることを理解されよう。しかし、例えば異なる材料または異なる充填密度が第1の断熱要素と第2の断熱要素それぞれに使用される場合、充填体積と充填重量の間により複雑な関係が存在することもある。
【0039】
好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素および少なくとも1つの第2の断熱要素はそれぞれ、キャビティを画定する内層と外層を備え、ここで、少なくとも1つの第1の断熱要素の内層の表面積が、少なくとも1つの第2の断熱要素の内層の表面積よりも小さい。
【0040】
これもまた、第1の断熱要素の形状に比べて着用者の身体に向かって「突出」する第2の断熱要素の形状を提供する助けとなることがあり、それにより、第2の断熱要素の上述の変形、および熱孔を封止する増大された接触領域をもたらす。
【0041】
特に好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素および少なくとも1つの第2の断熱要素はそれぞれ、キャビティを画定する内層と外層を備え、ここで、少なくとも1つの第1の断熱要素の内層の表面積は、少なくとも1つの第1の断熱要素の外層の表面積と実質的に同じサイズであり、少なくとも1つの第2の断熱要素の内層の表面積は、少なくとも1つの第2の断熱要素の外層の表面積よりも大きい。
【0042】
外層と内層の同じ表面積により、第1の断熱要素は、ほぼ対称的な断面形状を有するキャビティを形成する。対照的に、外層の表面積に比べて大きな第2の断熱要素の内層の表面積により、第2の断熱要素は、内側に向かってより大きな厚さを有する非対称形状を有するキャビティを形成し、それにより、使用中に生じる変形によって生じるスペースまたはシームの上述した封止をもたらす。
【0043】
ここで、好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素の内層と、少なくとも1つの第2の断熱要素の内層とが、一体部片として接合して提供される。
【0044】
さらに、好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素の外層と、少なくとも1つの第2の断熱要素の外層とが、一体部片として接合して提供される。
【0045】
これは、一方で、内層または外層におけるシームなどをなくすことができる。これは、断熱性の改良、および液体、霧、汚れなどの進入の回避に寄与することができる。他方、特に外層と内層が一体部片として提供される場合には、これは、特に容易な自動製造を可能にする。内層と外層は、例えば、それぞれのロールから巻き解かれ、それぞれのキャビティを形成するように互いに縫い合わせることができる。内層と外層が、縫製される2つの隣接するシームの間で同じ速度でミシンに供給される場合、まず、対称的な断熱要素が形成される。対照的に、内層がより速く供給される場合、これは、自動的に、より大きな「ポケット」を形成し、したがって、例えば、充填材料で充填された後に、断熱構造の内側に垂直な方向でより大きい厚さを有する。
【0046】
例えば、これはまた、第1の断熱要素と第2の断熱要素を、修正する必要なく、かつ例えば縫製などによって後で接続させる必要なく、効率的に製造できるようにする。これは、製造労力のかなりの減少をもたらすことができる。さらに、衣服の構成を完全に、または部分的に自動化することができる。
【0047】
好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素および/または少なくとも1つの第2の断熱要素は、細長い。
【0048】
そのような細長い断熱要素は、特に製造が容易であり、断熱要素の表面に比べて特に大きい断熱体積を有することができる。これにより、材料を節約することができる。さらに、細長い断熱要素は、着用者/使用者にとって特に好ましい。なぜなら、それらは心地良くない隅または縁部を備えず、顕著な膨出部または尖頭部を有さずに着用者の身体表面に平坦に位置することができるからである。
【0049】
一般に、断熱要素は、限定はしないが、湾曲要素、例えば、円形、長円形、楕円形、またはそれらの一部、長方形、三角形、不規則形状、管、自由幾何形状、および/またはそれらの組合せを含む断面を有することがある。
【0050】
好ましくは、衣服が着用されるときに、少なくとも1つの第1の断熱要素および少なくとも1つの第2の断熱要素が、実質的に水平に配置される。
【0051】
この向きは、特に衣服の場合、充填材料(下記参照)が重力により下方向に移動する可能性をなくすことができる。そのような下方向への移動は、断熱構造の断熱要素内部での充填材料の一様でない分布をもたらすことがあり、したがって、断熱要素の上側部分で不十分な断熱をもたらすことがある。
【0052】
さらなる好ましい可能性は、少なくとも1つの第1の断熱要素と少なくとも1つの第2の断熱要素とが、衣服内にV字形で配置されることである。
【0053】
これは、例えば第1の断熱要素および/または第2の断熱要素内での充填材料の一様な分布をさらに改良することができる。なぜなら、V字形で配置されたそのような断熱要素は、身体軸に垂直な方向でのある程度の固定を保証することもできるからである。これに関して、「V」字形は、それにも関わらず、例えば重力による悪影響を大幅に回避するのに十分に平坦に選択することができる。
【0054】
特に好ましくは、少なくとも1つの第1の断熱要素および/または少なくとも1つの第2の断熱要素は、互いに並べて交互に配置される。特に、すべての第1の断熱要素と第2の断熱要素が、互いに並べて交互に配置されることがある。しかし、これが、一部の第1および/または第2の断熱要素のみに適用されることもあることを再度強調しておく。
【0055】
この構成は、接続領域、例えばシームが、第1の断熱要素の各側に向けて、対応する隣接する第2の断熱要素によって封止され、したがって断熱が特に良好であることを保証する。また、第1の断熱要素と第2の断熱要素の対称的な配置は、大きな凹凸が生じないので、着心地の良さに特に有利となり得る。
【0056】
さらに、断熱構造が、少なくとも1つのカバー層を備え、カバー層が、断熱構造の内側および/または外側に配置されることが想定可能である。
【0057】
そのようなカバー層は、例えば内側に配置されたフリースまたはウール層などによって、着心地の向上など様々なさらなる機能に役立つことがある。外側に配置されるカバー層は、例えば、水、汚れ、霧、または風の進入を防止し、断熱をさらに改良することができる。これらは、そのような層を使用することができる方法のいくつかの有利な可能性にすぎない。当業者は、自らの知識から、さらなる代替形態を導き出すことができる。
【0058】
限定はしないが、本発明による断熱構造の実施形態を有するアウトドアジャケット、ベスト、断熱パンツ、帽子、ミトン、手袋などを含む衣服が、本発明のさらなる態様を成す。
【0059】
本発明による断熱構造により、そのような衣服は、製造が容易であり、それにも関わらず優れた断熱性を提供し、これは、特にアウトドア分野において、着心地、体積、重量、または他の重要な特性を過度には損なわない。
【0060】
ここで、本発明は、要件が満たされるように断熱構造を利用するために、本明細書で述べる設計特徴およびオプションのいくつかが組み合わされた断熱構造および衣服の実施形態を含むことも明記しておく。これに関して、目的を実現するために必要でないと考えられることを前提として個々の態様を無視することもでき、それでも、そのような実施形態を本発明の一部とみなすことができないわけではない。
【0061】
本発明の現在好ましい例および実施形態を、以下の図面を参照しながら以下の詳細な説明で述べる。