【解決手段】回転することで動力を伝達する第1軸41、第2軸42と、熱収縮チューブが収縮することで形成され、第1軸41、第2軸42の外周面を被覆する被覆層10Aと、第1軸41、第2軸42及び被覆層10Aを接着する接着層21と、を備え、熱収縮チューブには内外を貫通し、収縮時において熱収縮チューブ内の空気を外部に逃がす貫通孔11が形成されている。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される推進軸(動力伝達軸、プロペラシャフト)は、前後方向に延びると共に、車両前側に搭載された原動機で発生した後に変速装置で減速された動力を、車両後側に搭載された終減速装置に伝達するものである。すなわち、推進軸の前端は第1継手を介して変速装置に連結されており、推進軸の後端は第2継手を介して終減速装置に連結されている。
【0003】
このような推進軸は、通常、車両のフロアパネル下で回転自在に支持され、推進軸の下方にカバーは配置されず、推進軸は路面に臨んでいる。したがって、推進軸には前輪の跳ね上げた泥水が掛かり、推進軸で錆の発生する虞がある。そこで、推進軸の表面に防錆用の塗料によって防錆塗膜を形成する方法が知られている。
【0004】
しかしながら、前輪の跳ね上げた小石や融雪剤が推進軸に直撃し、防錆塗膜が損傷すると、その損傷部分から錆が発生する虞がある。
【0005】
そこで、推進軸の外側に熱収縮チューブが収縮してなり、0.2〜0.4mm程度の被覆層を設ける技術が提案されている(特許文献1参照)。なお、被覆層と推進軸とは接着層で接着されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、推進軸のように径の大きい軸に熱収縮チューブを被覆すると、熱収縮チューブを加熱する熱量が推進軸の温度上昇に消費されてしまい、熱収縮チューブを収縮させ、接着層を軟化させることが出来ず、結果的に熱収縮チューブと推進軸との間に空気が残留し空気層が形成される場合がある。そして、このように空気層が形成された部分に、前輪の跳ね上げた小石や融雪剤が推進軸に直撃すると、被覆層が破れて推進軸から剥がれてしまい、錆が発生してしまう虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、錆の発生し難い動力伝達軸を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、回転することで動力を伝達する動力伝達部材と、熱収縮チューブが収縮することで形成され、前記動力伝達部材の外周面を被覆する被覆層と、前記動力伝達部材及び前記被覆層を接着する接着層と、を備え、前記熱収縮チューブには内外を貫通し、収縮時において前記熱収縮チューブ内の空気を外部に逃がす貫通孔が形成されていることを特徴とする動力伝達軸である。
【0010】
このような構成によれば、熱収縮チューブには内外を貫通する貫通孔が形成されているので、熱収縮チューブが加熱されて収縮する収縮時において、熱収縮チューブ内の空気は貫通孔を通って熱収縮チューブの外部に逃がされる。
【0011】
これにより、熱収縮チューブが収縮することで形成された被覆層と動力伝達部材との間に空気が残留しない。すなわち、被覆層が動力伝達部材から浮き上がることはない。したがって、被覆層に小石、融雪剤等の衝突物が衝突したとしても、被覆層が破れることはない。よって、被覆層内に泥水等の水分が浸入することはなく、動力伝達部材において錆が発生することはない。
【0012】
また、動力伝達軸において、前記動力伝達部材の外周面に固定され、当該動力伝達部材の回転バランスを調整するバランスウエイトを備え、前記被覆層は、前記バランスウエイトを被覆していることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、被覆層はバランスウエイトを被覆しているので、バランスウエイトにおいても錆が発生することはない。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、錆の発生し難い動力伝達軸を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について
図1〜
図2を参照して説明する。
【0017】
≪推進軸の構成≫
図1に示す本実施形態に係る推進軸100(プロペラシャフト、動力伝達軸)は、FFベースの四輪駆動車(車両)に搭載されており、車両の前側に配置された変速装置(図示しない)の出力する動力を、車両の後側に配置された終減速装置(図示しない)に伝達させる動力伝達軸である。推進軸100は、フロアパネル下において、前後方向かつ水平方向で延び、回転軸線O1を中心として回転するようになっている。つまり、推進軸100は、路面に臨んでおり、前輪の跳ね上げた小石等から保護するカバー等を備えていない。なお、変速装置は車両の前側のボンネット下に配置された内燃機関(原動機)が出力する動力を変速するものである。
【0018】
推進軸100は、2ピース構造(2分割構造)であり、前側の第1軸41と、後側の第2軸42と、第1軸41及び第2軸42を連結する等速ジョイント50と、前後方向中間で推進軸100を車体に対して回転自在で支持する中間軸受ユニット60と、バランスウエイト71及びバランスウエイト72と、被覆層10A及び被覆層10Bと、接着層21と、を備えている。
【0019】
<第1軸>
第1軸41は、回転することで動力を伝達する動力伝達部材であり、本実施形態では金属製で円筒状を呈している。第1軸41の外周面、第2軸42の外周面には防錆塗膜が形成されている。
【0020】
第1軸41の前端は、第1継手110(十字軸ジョイント)を介して、変速装置の出力軸に連結されている。具体的には、第1軸41の前端には、第1継手110を構成するスタブヨーク111が接合されている。
第1軸41の後端には、後記する外輪部材51が接合されている。
【0021】
<第2軸>
第2軸42は、回転することで動力を伝達する動力伝達部材であり、本実施形態では金属製で円筒状を呈している。
【0022】
第2軸42の前端には、棒状のスタブシャフト43が接合されている。スタブシャフト43の前端は、後記する内輪部材52内に挿入され、内輪部材52とスプライン結合している。
第2軸42の後端は、第2継手120(十字軸ジョイント)を介して、終減速装置の入力軸に連結されている。具体的には、第2軸42端には、第2継手120を構成するスタブヨーク121が接合されている。
【0023】
<等速ジョイント>
等速ジョイント50は、本実施形態では、トリポート型で構成されている。すなわち、等速ジョイント50は、第1軸41の後端に固定されると共にその内周面に3本の溝が形成された外輪部材51(アウターレース)と、スタブシャフト43の前端に固定されると共に外輪部材51内を軸方向に移動する内輪部材52と、を備えている。
ただし、等速ジョイント50は、トリポート型に限定されず、ダブルオフセット型、レブロ型、バーフィールド型で構成されてもよい。その他、推進軸100が等速ジョイント50を備えず、第1軸41と第2軸42が十字軸ジョイントで連結された構成でもよい。
【0024】
<中間軸受ユニット>
中間軸受ユニット60は、車体に対してスタブシャフト43を回転自在に支持するユニットである。中間軸受ユニット60は、スタブシャフト43に外嵌する軸受61と、軸受61を外側から保持する環状かつゴム製のマウント62と、マウント62を保持すると共にフロアパネル(車体)に固定されるブラケット63と、を備えている。
【0025】
<バランスウエイト>
2つのバランスウエイト71は、第1軸41の外周面に固定され、推進軸100の回転バランスを調整する金属製の錘である。バランスウエイト72は、第2軸42の外周面に固定され、推進軸100の回転バランスを調整する金属製の錘である。バランスウエイト71、72は、板状を呈しており、第1軸41、第2軸42にそれぞれ抵抗溶接等にて固定されている。なお、抵抗溶接によって固定される場合、抵抗溶接によってバランスウエイト71等を固定した後、バランスウエイト71及びその前後部分が防錆塗装される。
【0026】
<被覆層>
被覆層10Aは、バランスウエイト71の外周面を含め第1軸41の外周面の全体を被覆する樹脂製の層である。これにより、第1軸41に泥水等が付着せず、第1軸41に錆が発生しないようになっている。なお、被覆層10Aが第1軸41の全体を被覆する構成であるので、第1軸41への防錆塗装を省略することもできる。
【0027】
被覆層10Aは、第1軸41に外挿した樹脂製の熱収縮チューブ(図示しない)が加熱され収縮することで形成された層であり、その厚さは例えば、0.2〜0.4mmである。熱収縮チューブ(被覆層10A)を形成する樹脂は、例えば、耐熱性の高いフッ素樹脂やポリオレフィン樹脂であり、さらに具体的にはポリフッ化ビニリデン等である。
【0028】
被覆層10Bは、バランスウエイト72の前方であって、第2軸42において前輪によって撥ね上げられた石等が衝突し易い部分を被覆する樹脂製の層である。これにより、石撥ね等によって第2軸42の防錆塗膜が損傷せず、防錆塗膜が保護されるようになっている。
被覆層10Bは、被覆層10Aと同様に、第2軸42に外挿した樹脂製の熱収縮チューブ(図示しない)が加熱され収縮することで形成された層である。
【0029】
<被覆層−貫通孔>
被覆層10A、被覆層10Bには、径方向において内外を貫通する複数の貫通孔11が形成されている。なお、被覆層10A、被覆層10Bを形成する収縮前の熱収縮チューブにも内外を貫通する複数の貫通孔11が形成されている。
【0030】
複数の貫通孔11は、熱収縮チューブの収縮時、熱収縮チューブ内の空気、つまり、熱収縮チューブと第1軸41又は第2軸42との間の空気を熱収縮チューブの径方向外に逃すための空気抜き孔である。
【0031】
複数の貫通孔11は、軸方向(前後方向)において複数段で形成されており、周方向においても複数列で等間隔に形成されている。すなわち、複数の貫通孔11は、被覆層10A、被覆層10B内に空気が残留しないように、被覆層10A、被覆層10B(熱収縮チューブ)全体に形成されている。なお、貫通孔11の大きさ、数、軸方向・周方向の位置は、第1軸41、第2軸42の直径、軸方向長さに対応して、適宜に決定される。
【0032】
<接着層>
接着層21は、第1軸41と被覆層10A、第2軸42と被覆層10Bをそれぞれ接着し密着させるための層であって、接着剤が硬化することで形成される層である。接着層21は、例えば、亜硝酸塩を含有する接着剤が硬化することで形成され、その厚さは例えば0.2〜0.4mmである。このように接着層21が、第1軸41又は第2軸42と、被覆層10Aとを接着していているので、被覆層10Aが第1軸41又は第2軸42に対して軸方向及び周方向においてずれることはない。
【0033】
また、接着層21は、貫通孔11の径方向内側にも形成され、その一部は貫通孔11内に浸入しており、貫通孔11を塞いでいる。これにより、泥水等が貫通孔11を通って被覆層10A、被覆層10B内に浸入することはない。したがって、第1軸41、第2軸42において、錆が発生することもなく、耐食性は高くなる。
【0034】
さらに、被覆層10Aは接着層21を介して第1軸41等の外周面全体に密着しているので、被覆層10Aは接着層21のマス効果により第1軸41等からの放射音を低減できる。これにより、第1軸41等において、放射音を減衰させるために推進軸内に挿入しているペーパーダンパーを省略することもできる。
【0035】
≪被覆層の形成方法≫
被覆層10Aの一形成方法を説明する。
第1軸41及び第2軸42は、等速ジョイント50を介して連結されている。第1軸41の前端にはスタブヨーク111が接合され、第2軸42の後端にはスタブヨーク121が接合されている。また、スタブシャフト43には中間軸受ユニット60が装着されている。
【0036】
そして、推進軸100は、回転バランス調整機によって回転バランスが調整され、第1軸41の外周面にはバランスウエイト71が固定され、第2軸42の外周面にバランスウエイト72が固定されている。
【0037】
次いで、被覆層10Aを形成するための円筒状の熱収縮チューブを第1軸41に被せ、被覆層10Bを形成するための円筒状の熱収縮チューブを第2軸42に被せる。熱収縮チューブは、加熱前、つまり、収縮前であるので、第1軸41、第2軸42よりも大径であり、熱収縮チューブと第1軸41、第2軸42との間には隙間が形成されている。
【0038】
また、熱収縮チューブの内周面には、接着層21を形成するための接着剤が塗布されている。
【0039】
次いで、熱収縮チューブを加熱して収縮させ被覆層10A、被覆層10Bを形成する。この場合において、熱収縮チューブと第1軸41又は第2軸42との間の空気は、複数の貫通孔11を通って、熱出縮チューブの径方向外側(外部)に逃げて流出する。すなわち、被覆層10Aと第1軸41の間、被覆層10Bと第2軸42との間に空気が噛み込むことはない。これに並行して、接着剤は硬化して、接着層21を形成すると共に、貫通孔11を塞ぐ。
【0040】
このようにして、被覆層10Aと第1軸41との間、被覆層10Bと第2軸42との間に空気が残留せず、被覆層10Aが第1軸41から浮き上がらず、被覆層10Bも第2軸42から浮き上がることはない。すなわち、被覆層10A全体が接着層21を介して第1軸41に良好に密着し、被覆層10B全体が接着層21を介して第2軸42に良好に密着する。また、被覆層10Aが第1軸41の全体を被覆するので、防錆塗料による防錆塗膜の形成が不要である。
【0041】
≪変形例≫
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば、次のように変更してもよい。
【0042】
前記した実施形態では、被覆層10Aが、バランスウエイト71を含めて第1軸41全体を被覆する構成を例示したが、その他に例えば、
図3に示すように、2つの被覆層10Cが2つのバランスウエイト71及びその前後部分をそれぞれ被覆する構成としてもよい。
【0043】
このような構成によれば、被覆層10Cの形成に要する熱収縮チューブの加熱量を少なくしつつ、被覆層10Cがバランスウエイト71を含めて第1軸41を部分的に被覆するので、バランスウエイト71と第1軸41との接合隙間への泥水等の浸入が防止され、耐食性が向上する。すなわち、バランスウエイト71と第1軸41との隙間には防錆塗料が浸入し難く防錆塗膜が形成され難いが、このように被覆層10Cが被覆するので泥水等が浸入せず、耐食性が向上する。
また、第2軸42においても、被覆層10Dがバランスウエイト72及びその前後部分を被覆している。