【解決手段】ワイヤーハーネス1は、絶縁電線9と、端子金具8と、予め成形された部材が絶縁電線9の被覆端部92に取り付けられることによって筒状に形成された部材であり、絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着する保護部材7と、インサート成形によって形成されたモールド部6と、を備える。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具現化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。本明細書において、ワイヤーハーネスという用語は、便宜上、絶縁電線を1本のみ含む場合も複数の絶縁電線を含む場合も含む用語として用いられている。なお、本明細書におけるワイヤーハーネスを、モールド部付電線又は電線モジュールと称してもよい。
【0034】
<第1実施形態>
まず、
図1〜6を参照しつつ、第1実施形態に係るワイヤーハーネス1の構成について説明する。ワイヤーハーネス1は、絶縁電線9、端子金具8、保護部材7及びモールド部6を備える。ワイヤーハーネス1は、自動車などの車両に搭載される。
【0035】
図1は、ワイヤーハーネス1の端部の平面図である。
図2は、
図1のII−II平面におけるワイヤーハーネス1の断面図である。
図3は、正規の位置に装着される前の保護部材7を表した斜視図である。
【0036】
<絶縁電線>
図1,2に示されるように、端子金具8が取り付けられる対象となる絶縁電線9は、長尺な導体である芯線910と、その芯線910の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆920と、を有する電線である。通常、芯線910は、細い導体からなる複数の素線が撚り合わされた撚り線である。しかしながら、芯線910が単線であることも考えられる。
【0037】
端子金具8が取り付けられる絶縁電線9の端部は、予め一定の長さの分の芯線910の周囲から絶縁被覆920が剥がれた状態、即ち、一定の長さ分の芯線910が絶縁被覆920から伸び出た状態に加工されている。
【0038】
以下、絶縁電線9の端部において、絶縁被覆920の端から伸び出た芯線910を裸線部91と称する。また、絶縁電線9の絶縁被覆920における端部の一定の範囲(数ミリメートルから十数ミリメートル程度の長さの範囲)の部分を被覆端部92と称する。
【0039】
ワイヤーハーネス1において、絶縁電線9の芯線910は、例えば、アルミニウムを主成分とする金属の線材である。一方、絶縁電線9の絶縁被覆920は、例えば、ポリエチレン、塩化ビニル又はポリアミド系ナイロンなどを主成分とする合成樹脂の部材である。なお、芯線910が、銅を主成分とする金属の線材であることも考えられる。
【0040】
<端子金具>
図1,2に示されるように、端子金具8は、接点部81及び芯線接続部82を有する。
【0041】
接点部81は、他の部材と接続可能な部分である。本実施形態においては、例えば端子固定台等の端子金具8の接続相手への固定用のネジが通される接続孔810が、接点部81に形成されている。
【0042】
芯線接続部82は、絶縁電線9の被覆端部92から延び出た裸線部91が接続された部分である。
【0043】
本実施形態においては、芯線接続部82が、底板部821と2つの芯線かしめ部822とを有する。即ち、本実施形態は、芯線接続部82が圧着により絶縁電線9に接続される場合の事例である。
【0044】
芯線接続部82は、絶縁電線9に圧着される前の状態において、曲がって形成された板状の部分であり、絶縁電線9の裸線部91が挿入される溝を形成している。
【0045】
底板部821は、端子金具8が取り付けられる対象の絶縁電線9における裸線部91を一方の側から支える部分である。底板部821は、接点部81に連なっている。
【0046】
2つの芯線かしめ部822は、底板部821から裸線部91の両側へ起立して形成された部分である。なお、本実施形態における芯線接続部82は、2つの芯線かしめ部822が重ならない突き合わせタイプである。しかしながら、芯線接続部82が、2つの芯線かしめ部822が重ねられて裸線部91にかしめられる重ね合わせタイプであること、或いは、筒状に形成されたクローズドバレルタイプであることも考えられる。
【0047】
ワイヤーハーネス1において、絶縁電線9は、芯線接続部82が形成する溝の内側に挿入される。そして、起立した2つの芯線かしめ部822が、裸線部91の周囲に沿って曲げられ、底板部821に対向する向きへ折り曲げられて裸線部91にかしめられる。これにより、芯線接続部82が裸線部91に対して圧着される。
【0048】
端子金具8は、金属の板材の折り曲げ加工によって得られる。また、端子金具8を構成する金属の板材は、メッキが形成された板状の金属の母材に対する打ち抜き加工によって得られる。従って、端子金具8を構成する金属の板材は、基材と、その基材の表面に形成されたメッキとにより構成されている。
【0049】
例えば、端子金具8の基材は、銅又は銅の合金など、銅を主成分とする金属材料からなる部材である。この場合、メッキを含む端子金具8全体は、銅を主成分とする金属材料からなる。一方、メッキは、錫(Sn)もしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金など、錫を主成分とする金属材料からなる部材である。なお、銀(Ag)メッキ、又はニッケル(Ni)メッキも考えられる。
【0050】
<保護部材>
図1〜3に示される保護部材7は、予め成形された部材が絶縁電線9の被覆端部92に取り付けられることによって筒状に形成された部材であり、絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着する。
【0051】
図3に示されるように、本実施形態における保護部材7は、熱収縮チューブ71とその熱収縮チューブ71の内側面に形成された熱可塑性の接着剤層72とを含む二層構造を有する。従って、本実施形態は、保護部材7が絶縁電線9の被覆端部92が通された熱収縮チューブ71が収縮した部材であり、さらに、保護部材7の内側面が絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面に接着されている場合の事例である。
【0052】
熱収縮チューブ71は、例えば、ポリオレフィン系、ナイロン系、シリコン系、フッ素樹脂系又はポリエステルエラストマー系などの合成樹脂からなる筒状の部材である。熱収縮チューブ71は、押し出し成形によりごく細い筒状に成形された樹脂部材が、加熱された状態で太い筒状へ引き伸ばされた後に冷却されることによって得られる。このようにして得られた熱収縮チューブ71は、加熱された場合、引き伸ばされる前の細い筒状まで収縮する形状記憶特性を有する。
【0053】
接着剤層72を形成する接着剤は、例えば、変性オレフィン系又はポリエステル系のホットメルト接着剤などが考えられる。
【0054】
<モールド部>
図1,2に示されるモールド部6は、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7の外周面までの範囲にインサート成形によって形成された部分である。本実施形態においては、モールド部6は、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7の中間の部分までの範囲に形成されている。
【0055】
ワイヤーハーネス1において、モールド部6は、例えば、端子金具8の接点部81側の端部の内側面において、端子金具8における接点部81と芯線接続部82との間の部分の外側面に対して全周方向に亘って密接している。
【0056】
また、ワイヤーハーネス1において、モールド部6は、例えば、端子金具8の接点部81側に対し反対側の端部(以下、後端部60)の内側面において、保護部材7の外周面に対して全周方向に亘って密接している。そのため、絶縁電線9の裸線部91と端子金具8の芯線接続部82との接続部分に液体が侵入することが防がれる。
【0057】
モールド部6は、合成樹脂の部材である。モールド部6を構成する合成樹脂は、例えば、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PPA(ポリフタルアミド)樹脂、LCP樹脂(液晶ポリマー)、フェノール系、ポリエステル系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂である。
【0058】
モールド部6の成形工程については後述する。
【0059】
<ワイヤーハーネスの製造工程>
次に、
図4〜6を参照しつつ、ワイヤーハーネス1を製造するための工程について説明する。
図4は、ワイヤーハーネス1の製造において、モールド部6のインサート成形に使用される金型5の断面図である。
図5は、ワイヤーハーネス1の製造工程における一部の工程を示した図であり、保護部材7が絶縁電線9に取り付けられる様子を表した斜視図である。
図6は、ワイヤーハーネス1の製造工程における一部の工程を示した図であり、ワイヤーハーネス1の製造工程においてモールド部6のインサート成形時の金型5、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7の断面図である。
【0060】
<ワイヤーハーネスの製造工程:金型>
まず、本実施形態におけるワイヤーハーネス1の製造に使用される金型5について説明する。金型5は、ワイヤーハーネス1の製造において使用される型部材の一例である。金型5は、
図4に示されるように上金型51と下金型52とを備える。上金型51及び下金型52は、不図示の支持機構により、それらの一方又は両方が相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。
【0061】
以下、裸線部91に端子金具8が接続され保護部材7が被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着した状態の絶縁電線9、即ち、端子金具8と保護部材7とを有する絶縁電線9、を端子付電線90と称する。
【0062】
図4に示されるように、上金型51と下金型52とが最接近した状態の金型5においては、端子付電線90が収容される第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503が形成される。
【0063】
図4に示されるように、上金型51には、第一成形部511、第二成形部512及び第三成形部513が形成されている。同様に、下金型52にも、第一成形部521、第二成形部522及び第三成形部523が形成されている。
【0064】
上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第一成形部511及び下金型52における第一成形部521に囲まれる空間は、端子付電線90の端子金具8におけるモールド部6が成形される範囲以外の部分、即ち、端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から接点部81の先端部までの部分、が収容される第一収容空間501を形成する。
【0065】
また、上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第二成形部512及び下金型52における第二成形部522に囲まれる空間は、端子付電線90における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7の中間の部分までの範囲に該当する部分が収容される第二収容空間502を形成する。
【0066】
また、上金型51と下金型52とが最接近した状態において、上金型51における第三成形部513及び下金型52における第三成形部523に囲まれる空間は、端子付電線90における絶縁電線9の一部及び端子付電線90の保護部材7におけるモールド部6が成形される範囲以外の部分、即ち、保護部材7の中間の部分から保護部材7における端子金具8側に対し反対側の端部までの部分、が収容される第三収容空間503を形成する。
【0067】
<ワイヤーハーネスの製造工程:保護部材装着工程>
次に、
図5を参照しつつ、ワイヤーハーネス1における保護部材7の絶縁電線9の被覆端部92に対する装着工程について説明する。
【0068】
本実施形態においては、保護部材7が熱収縮チューブ71とその熱収縮チューブ71の内側面に形成された熱可塑性の接着剤層72とを含む二層構造を有する。
【0069】
図5に示されるように、本実施形態における保護部材7の絶縁電線9の被覆端部92に対する装着工程は、絶縁電線9の被覆端部92が通された収縮前の保護部材7がヒーター等の加熱器125に加熱されることにより行われる。
【0070】
保護部材7の装着工程は、絶縁電線9の裸線部91に端子金具8が接続される前に行われてもよいし、絶縁電線9の裸線部91に端子金具8が接続された後に行われてもよい。そのため、本実施形態においては、ワイヤーハーネス1の製造工程の順番に自由度を持たせることが可能となる。なお、絶縁電線9の裸線部91に端子金具8が接続されていれば、この装着工程により端子付電線90が得られる。
【0071】
図5に示されるように、収縮後の熱収縮チューブ71は、絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面に対しその全周方向に亘って接着剤層72によって隙間なく接着されている。これにより、保護部材7が、絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着する。
【0072】
<ワイヤーハーネスの製造工程:モールド部成形工程>
次に、
図6を参照しつつ、ワイヤーハーネス1におけるモールド部6の成形工程について説明する。
【0073】
モールド部6の成形工程は、保護部材7の装着工程の後に行われる。なお、保護部材7の装着工程が絶縁電線9の裸線部91に端子金具8を接続する工程の前に行われていた場合は、モールド部6の成形工程と保護部材7の装着工程との間に、絶縁電線9への端子金具8の接続工程(圧着工程)が行われる。
【0074】
モールド部6の成形工程においては、例えば、端子付電線90が下金型52にセットされた後、上金型51が下金型52に対向する状態で下金型52に近付けられる。これにより、端子付電線90は、金型5が形成する第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503に収容される。
【0075】
そして、端子付電線90が金型5の第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503に収容された状態において、不図示の射出装置により溶融した合成樹脂が第二収容空間502内に射出される。
【0076】
第二収容空間502に射出された合成樹脂が固化することにより、端子付電線90における金型5の第二収容空間502に収容されていた部分、即ち、端子付電線90における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7の中間の部分までの範囲に該当する部分、の周囲にモールド部6が隙間なく形成される。
【0077】
モールド部6の成形時に、第二収容空間502における第三収容空間503との境界部分において溶融した合成樹脂が絶縁電線9の絶縁被覆920側に食い込むことを保護部材7が防止する。即ち、本実施形態によれば、モールド部6の成形時において、絶縁被覆920を覆う保護部材7が絶縁被覆920よりも硬質な状態にすることができる。そのような絶縁被覆920及び保護部材7の組み合わせとしては、例えば、絶縁被覆920の材料が架橋PE(ポリエステル)とエラストマーとの合成樹脂であり、保護部材7の熱収縮チューブ71の材料が架橋PE(ポリエステル)である場合等が考えられる。
【0078】
<効果>
本実施形態においては、保護部材7が絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着した状態で、モールド部6のインサート成形が行われる。即ち、金型5の第二収容空間502における第三収容空間503との境界部分で成形されるモールド部6の後端部60の内縁部と絶縁電線9の絶縁被覆920との間に保護部材7が介在した状態でモールド部6のインサート成形が行われる。この場合、モールド部6の後端部60の内縁部が絶縁電線9の絶縁被覆920に食い込む度合が緩和される。即ち、絶縁被覆920に食い込む部分がモールド部6に形成されにくい。
【0079】
また、本実施形態におけるワイヤーハーネス1の製造工程においては、モールド成形を複数回行う必要がない。この場合、ある金型から別の金型に移し変えるような手間のかかる作業を行う必要がない。
【0080】
以上に示されることから、本実施形態におけるワイヤーハーネス1においては、絶縁被覆920に食い込む部分がモールド部6に形成されてしまうことを簡易に防止することが可能となる。これにより、例えば、柔らかく薄い絶縁被覆920を有する絶縁電線9がモールド部6付近で大きな曲率で曲げられる等の厳しい曲げ条件の下で使用されるような場合でも、耐久性の高いワイヤーハーネス1を提供することができる。
【0081】
また、本実施形態においては、保護部材7が、絶縁電線9の被覆端部92が通された熱収縮チューブ71が収縮した部材である。この場合、絶縁電線9の被覆端部92が通された熱収縮チューブ71を加熱するという簡易な作業を行うことにより、保護部材7を絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着するように取り付けることが可能となる。
【0082】
また、本実施形態においては、保護部材7が、絶縁電線9の絶縁被覆920よりも硬質の部材である。この場合、モールド部6が絶縁被覆920に食い込む度合をより確実に緩和することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態においては、保護部材7の内側面は絶縁電線9の絶縁被覆920の外周面に密着している。この場合、保護部材7と絶縁電線9の絶縁被覆920との間に隙間が形成されることがより確実に防がれる。これにより、ワイヤーハーネス1の止水性を高めることが可能となる。
【0084】
<第1実施形態の第1応用例>
次に、
図7を参照しつつ、第1実施形態の第1応用例に係るワイヤーハーネス1Aの構成について説明する。
図7は、第1実施形態の第1応用例に係るワイヤーハーネス1Aの端部の平面図である。ワイヤーハーネス1Aは、ワイヤーハーネス1と比較して、複数の端子付電線90を有する点が異なっている。なお、
図7において、
図1〜6に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0085】
以下、ワイヤーハーネス1Aにおけるワイヤーハーネス1と異なる点について説明する。
【0086】
図7に示されるように、ワイヤーハーネス1Aは、複数の端子付電線90を備える。本実施形態は、ワイヤーハーネス1Aが3本の端子付電線90を備えている場合の事例である。
【0087】
ワイヤーハーネス1Aは、例えば、
図4と同様の金型を用いて製造される。ワイヤーハーネス1Aにおいて、モールド部6は、並列に並ぶ複数の端子付電線90各々における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7までの範囲を一括して覆っている。
【0088】
<第1実施形態の第2応用例>
次に、
図8を参照しつつ、第1実施形態の第2応用例に係るワイヤーハーネス1Bの構成について説明する。
図8は、第1実施形態の第2応用例に係るワイヤーハーネス1Bの端部の平面図である。ワイヤーハーネス1Bは、ワイヤーハーネス1と比較して、保護部材7が絶縁電線9の被覆端部92が通された収縮可能なチューブが収縮した部材であり、そのチューブがゴムチューブである点が異なっている。なお、
図8において、
図1〜7に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0089】
以下、ワイヤーハーネス1Bにおけるワイヤーハーネス1と異なる点について説明する。
【0090】
図8に示されるように、ワイヤーハーネス1Bにおける保護部材7Bは、絶縁電線9の被覆端部92が通された収縮可能なチューブが収縮した部材であり、本実施形態においては、保護部材7Bがゴムチューブである。
【0091】
絶縁電線9に装着された後の保護部材7Bの位置ズレを防止するため、絶縁電線9に装着される前の保護部材7Bの自然状態(外力が加えられていない状態)における内径が絶縁電線9の外径よりも小さい保護部材7Bが採用される。
【0092】
本実施形態においては、絶縁電線9に装着される前の保護部材7Bの自然状態における内径が絶縁電線9の外径よりも小さい保護部材7Bが採用された場合の事例である。そのような場合としては、例えば、絶縁電線9に装着される前の保護部材7Bの自然状態における内径が絶縁電線9の芯線910の外径よりも大きく、かつ、絶縁電線9の絶縁被覆920の外径よりも小さい場合が考えられる。
【0093】
また、モールド部6のインサート成形時において、保護部材7Bが絶縁電線9の絶縁被覆920よりも硬質な状態であることが望ましい。そのような絶縁被覆920及び保護部材7Bの組み合わせとしては、例えば、絶縁被覆920の材料が架橋PE(ポリエステル)とエラストマーとの合成樹脂であり、保護部材7Bの材料がシリコンゴム等のゴム系材料である場合等が考えられる。
【0094】
本実施形態においても、絶縁被覆920に食い込む部分がモールド部6に形成されてしまうことを簡易に防止することが可能となる。また、保護部材7Bを絶縁電線9の絶縁被覆920の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着するように取り付ける作業を簡易に行うことができる。
【0095】
<第1実施形態の第3応用例>
次に、
図9,10を参照しつつ、第1実施形態の第3応用例に係るワイヤーハーネス1Cの構成について説明する。
図9は、第1実施形態の第3応用例に係るワイヤーハーネス1Cの端部の平面図である。
図10は、
図9に示されるIII−III平面における第1実施形態の第3応用例に係るワイヤーハーネス1Cの断面図である。ワイヤーハーネス1Cは、ワイヤーハーネス1,1A,1Bと比較して、
図9,10に示される例のように、端子金具8に被覆圧着部82Cが追加された構成を有する端子金具8Cを備えている点が異なっている。なお、
図9,10において、
図1〜8に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0096】
ワイヤーハーネス1Cにおける端子金具8Cは、
図9,10に示される例のように、接点部81および芯線接続部82を有するとともに被覆圧着部82Cをさらに有している。なお、本実施形態における被覆圧着部82Cは、芯線接続部82と同様に底板部821Cおよび2つの被覆かしめ部822Cを有している。例えば、被覆かしめ部822Cは芯線かしめ部822と同様の構造を有する突き合わせタイプである。しかしながら、被覆かしめ部822Cが、重ね合わせタイプ或いはクローズドバレルタイプである場合も考えられる。
【0097】
図9,10に示される例では、保護部材7Cは、内側面に接着剤層72が形成されていない熱収縮チューブ71である。しかしながら、保護部材7Cが、ゴムチューブである場合も考えられる。
【0098】
保護部材7Cは、被覆圧着部82Cと絶縁電線9の絶縁被覆920との間に介在している。即ち、2つの被覆かしめ部822Cは、絶縁電線9の被覆端部92に対して保護部材7Cの上からかしめられている。これにより、被覆圧着部82Cは、絶縁電線9に装着された保護部材7Cの上から絶縁電線9の被覆端部92に圧着されている。
【0099】
また、ワイヤーハーネス1Cにおいて、モールド部6は、端子金具8C及び保護部材7Cにおける接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7Cまでの範囲において被覆圧着部82Cを内包する状態で形成されている。
【0100】
図9,10に示される例では、例えば、モールド部6のインサート成形時の樹脂圧により引き起こされる絶縁電線9の芯線910に対する保護部材7C及び絶縁被覆920の予期しない位置ズレが、より確実に防止される。従って、
図9,10に示される例では、保護部材7C、即ち、接着剤層72が形成されていない熱収縮チューブ71等の安価な収縮チューブを用いて作られたワイヤーハーネス1Cの品質をより向上させることが可能となる。
【0101】
<第2実施形態>
次に、
図11〜16を参照しつつ、第2実施形態に係るワイヤーハーネス1Xの構成について説明する。ワイヤーハーネス1Xは、絶縁電線9、端子金具8、保護部材7X及びモールド部6を備える。ワイヤーハーネス1Xは、自動車などの車両に搭載される。なお、
図11〜16において、
図1〜10に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0102】
以下、ワイヤーハーネス1Xにおけるワイヤーハーネス1,1A,1B,1Cと異なる点について説明する。
【0103】
図11は、ワイヤーハーネス1Xの端部の平面図である。
図12は、
図11のIV−IV平面におけるワイヤーハーネス1Xの断面図である。
図13(a),(b)は、それぞれ保護部材7Xの正面図及び側面図である。
図14(a),(b)は、それぞれ保護部材7Xを構成する単位成形部70Xの側面図及び平面図である。
【0104】
<保護部材>
図11〜14に示される保護部材7Xは、予め成形された複数の単位成形部70Xが合体することによって絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着する筒状に形成された部材である。本実施形態は、保護部材7Xが予め成形された2つの単位成形部70Xが合体することによって円筒状に形成された部材である場合の事例である。
【0105】
本実施形態においては、
図11,12に示されるように、保護部材7Xの端子金具8側の端部(以下、先端部171)が、端子金具8側に向かうにつれ徐々に細く形成されている。
【0106】
また、本実施形態においては、保護部材7Xにおける先端部171とその反対側の後端部172との間の中間位置に凹部173が全周に亘って環状に形成されている。
【0107】
さらに、本実施形態においては、保護部材7Xにおける端子金具8側に対し反対側の端面、即ち、後端部172側の端面、から保護部材7Xの内側面に亘る後端側内側面174が、凸状の湾曲面である。
図12に示される例は、後端側内側面174が凸状の滑らかな湾曲面である場合の例である。
【0108】
また、本実施形態においては、絶縁電線9と保護部材7Xとの間の止水性を高めるため、保護部材7Xにおける内径は絶縁電線9の外径よりも僅かに小さい。そのような場合としては、例えば、保護部材7Xの内径が、絶縁電線9の芯線910の外径よりも大きく、かつ、絶縁電線9の絶縁被覆920の外径よりも小さい場合等が考えられる。これにより、絶縁被覆920が圧縮され、絶縁被覆920の弾性力によって絶縁被覆920と保護部材7Xとがより強く密着する。
【0109】
<保護部材:単位成形部>
本実施形態において、保護部材7Xを構成する単位成形部70Xは半円筒状の部材である。単位成形部70Xは、
図14に示されるように、相手側の単位成形部70Xに連結される連結部75を有する。
【0110】
本実施形態は、連結部75が突起部751及び嵌合孔部752を含む場合の事例である。突起部751は、相手側の単位成形部70Xにおける嵌合孔部752に嵌め入れることが可能である。また、嵌合孔部752は、相手側の単位成形部70Xにおける突起部751を嵌め入れることが可能である。本実施形態においては、2つの突起部751を結ぶ線と2つの嵌合孔部752を結ぶ線とが交差するように突起部751及び嵌合孔部752各々が単位成形部70Xに形成されている。従って、本実施形態においては、相互に連結された同じ形状の単位成形部70Xが保護部材7Xを構成する。
【0111】
保護部材7Xを構成する単位成形部70Xは、例えば、合成樹脂製の部材である。
【0112】
<モールド部>
図11,12に示されるモールド部6は、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7Xにおける端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7Xの外周面までの範囲にインサート成形によって形成された部分である。本実施形態においては、モールド部6は、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7Xにおける端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7Xの中間の部分までの範囲に形成されている。
【0113】
ワイヤーハーネス1Xにおいて、モールド部6は保護部材7Xに形成された凹部173が形成する溝を満たす。これにより、モールド部6から保護部材7Xが抜けてしまうことが防がれる。
【0114】
<ワイヤーハーネスの製造工程>
次に、
図15,16を参照しつつ、ワイヤーハーネス1Xを製造するための工程について説明する。
図15は、ワイヤーハーネス1Xの製造工程における一部の工程を示した図であり、保護部材7Xが絶縁電線9に取り付けられる様子を表した斜視図である。
図16は、ワイヤーハーネス1Xの製造工程における一部の工程を示した図であり、ワイヤーハーネス1Xの製造工程においてモールド部6のインサート成形時の金型5、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7Xの断面図である。
【0115】
<ワイヤーハーネスの製造工程:保護部材装着工程>
図15を参照しつつ、ワイヤーハーネス1Xにおける保護部材7Xの絶縁電線9の被覆端部92に対する装着工程について説明する。
【0116】
図15に示されるように、2つの単位成形部70Xの連結部75が間に絶縁電線9をはさんで相互に対向する状態から2つの単位成形部70Xが近付けられる。やがて、2つの単位成形部70X各々が有する突起部751が相手側の単位成形部70Xの嵌合孔部752に嵌め入れられることにより2つの単位成形部70Xが連結される。これにより、2つの単位成形部70Xが絶縁電線9の被覆端部92に取り付けられる。絶縁電線9の被覆端部92に取り付けられた2つの単位成形部70Xは絶縁電線9の被覆端部92の外周面にその全周に亘って密着する保護部材7Xを構成する。
【0117】
なお、保護部材7の装着工程と同様に、保護部材7Xの装着工程は、絶縁電線9の裸線部91に端子金具8が接続される前に行われてもよいし、絶縁電線9の裸線部91に端子金具8が接続された後に行われてもよい。
【0118】
<ワイヤーハーネスの製造工程:モールド部成形工程>
次に、
図16を参照しつつ、ワイヤーハーネス1Xにおけるモールド部6の成形工程について説明する。
【0119】
モールド部6の成形工程は、保護部材7Xの装着工程の後に行われる。なお、保護部材7Xの装着工程が絶縁電線9の裸線部91に端子金具8を接続する工程の前に行われていた場合は、モールド部6の成形工程と保護部材7Xの装着工程との間に、絶縁電線9に対する端子金具8の接続工程(圧着工程)が行われる。
【0120】
端子付電線90が金型5の第一収容空間501、第二収容空間502及び第三収容空間503に収容された状態において、不図示の射出装置により溶融した合成樹脂が第二収容空間502内に射出される。このとき、保護部材7Xの先端部171が、端子金具8側に向かうにつれ徐々に細く形成されていると、保護部材7Xの先端部171付近の合成樹脂の循環が良くなる。
【0121】
第二収容空間502に射出された合成樹脂が固化することにより、端子付電線90における金型5の第二収容空間502に収容されていた部分、即ち、端子付電線90における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7Xの中間の部分までの範囲に該当する部分、の周囲にモールド部6が隙間なく形成される。
【0122】
モールド部6の成形時に、第二収容空間502における第三収容空間503との境界部分において溶融した合成樹脂が絶縁電線9の絶縁被覆920側に食い込むことを保護部材7Xが防止する。即ち、本実施形態によれば、モールド部6の成形時において、絶縁被覆920を覆う保護部材7Xが絶縁被覆920よりも硬質な状態にすることができる。そのような絶縁被覆920及び保護部材7Xの組み合わせとしては、例えば、絶縁被覆920の材料が架橋PE(ポリエステル)とエラストマーとの合成樹脂であり、保護部材7Xの材料がPBT(ポリブチレンテレフタラート)、PPS(ポリフェニレンスルファイド)樹脂、PPA(ポリフタルアミド)樹脂、LCP樹脂(液晶ポリマー)、フェノール系、ポリエステル系、ポリアミド系又はエポキシ系の樹脂である場合等が考えられる。
【0123】
<効果>
本実施形態においても、モールド部6の後端部60の内縁部が絶縁電線9の絶縁被覆920に食い込む度合が緩和される。即ち、絶縁被覆920に食い込む部分がモールド部6に形成されにくいワイヤーハーネス1Xを簡易に提供することが可能となる。
【0124】
また、本実施形態においては、保護部材7Xにおける後端側内側面174が、凸状の湾曲面である。この場合、保護部材7Xの後端部172の内縁部における絶縁電線9が大きな曲率で曲げられたときに接触する可能性のある部分に角張った部分が形成されない。また、絶縁電線9を保護部材7Xの湾曲面に沿って曲げ易くすることも可能となる。
【0125】
<第2実施形態の第1応用例>
次に、
図17を参照しつつ、第2実施形態の第1応用例に係るワイヤーハーネス1Yの構成について説明する。
図17は、第2実施形態の第1応用例に係るワイヤーハーネス1Yの端部の平面図である。ワイヤーハーネス1Yは、ワイヤーハーネス1Xと比較して、複数の端子付電線90を有する点が異なっている。なお、
図17において、
図1〜16に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0126】
以下、ワイヤーハーネス1Yにおけるワイヤーハーネス1Xと異なる点について説明する。
【0127】
図17に示されるように、ワイヤーハーネス1Yは、複数の端子付電線90を備える。本実施形態は、ワイヤーハーネス1Yが3本の端子付電線90を備えている場合の事例である。
【0128】
ワイヤーハーネス1Yは、例えば、
図4と同様の金型を用いて製造される。ワイヤーハーネス1Yにおいて、モールド部6は、並列に並ぶ複数の端子付電線90各々における端子金具8の接点部81と芯線接続部82との間の部分から保護部材7Xまでの範囲を一括して覆っている。
【0129】
<第2実施形態の第2応用例>
次に、
図18を参照しつつ、ワイヤーハーネス1Xに適用可能な第2応用例に係る保護部材7Zの構成について説明する。
図18は、ワイヤーハーネス1Xの製造工程においてモールド部6のインサート成形時の金型5、絶縁電線9、端子金具8及び保護部材7Zの断面図である。保護部材7Zは、保護部材7Xと比較して、保護部材7Zを構成する単位成形部70Zの外側面に孔が形成されている点が異なっている。なお、
図18において、
図1〜17に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。
【0130】
以下、保護部材7Zにおける保護部材7Xと異なる点について説明する。
【0131】
本実施形態においては、保護部材7Zを構成する単位成形部70Zの外側面に孔部700Zが形成されていている。
図18に示される例では、単位成形部70Zに形成された孔部700Zは、単位成形部70Zの内側面まで貫通した貫通孔である。しかしながら、孔部700Zが、単位成形部70Zの内側面まで貫通していない窪みである場合も考えられる。
【0132】
本実施形態においては、
図18に示されるような下金型52の第三成形部523に形成された突起部が単位成形部70Zに形成された孔部700Zに入れられることにより、モールド部6の成形工程における保護部材7Zの下金型52に対する位置決めを容易に行うことができる。
【0133】
<各実施形態のその他の応用例>
ワイヤーハーネス1における保護部材7が、内側面に接着剤層72が形成されていない熱収縮チューブ71である場合も考えられる。
【0134】
また、端子金具8Cがワイヤーハーネス1又は1Aに適用されている場合も考えられる。この場合、保護部材7の熱収縮チューブ71の内側面に形成された接着剤層72に使用される接着剤の量を低減しつつ、ワイヤーハーネス1又は1Aの品質をより向上させることもできる。
【0135】
また、端子金具8が超音波溶接などの溶接により絶縁電線9に接続されている場合も考えられる。
【0136】
また、モールド部6の後端部60側の一端の位置と保護部材7,7B,7X,7Zの一端の位置とが一致している場合も考えられる。
【0137】
また、複数の単位成形部70Xにおける連結部75の一部が隣り合う2つの単位成形部70X同士を相対的に回動可能に繋ぐ接合部に置き換えられてもよい。例えば、接合部は、柔軟性を有する部分であり、変形することによって隣り合う2つの単位成形部70Xが相対的に回動する。単位成形部70Zにおいても同様である。
【0138】
また、保護部材7Xが、3つ以上の単位成形部70Xが合体することによって筒状に形成される部材であってもよい。保護部材7Zにおいても同様である。
【0139】
また、保護部材7Zがワイヤーハーネス1Yに対して適用されてもよい。
【0140】
なお、本発明に係るワイヤーハーネスは、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態、各実施形態の応用例及びその他の応用例を自由に組み合わせること、或いは各実施形態、各実施形態の応用例及びその他の応用例を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。