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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-136568(P2015-136568A)
(43)【公開日】2015年7月30日
(54)【発明の名称】モニタリング装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20150703BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20150703BHJP
   A61B 5/0402 20060101ALI20150703BHJP
【FI】
   A61B5/08
   A61B10/00 K
   A61B5/04 310A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-11350(P2014-11350)
(22)【出願日】2014年1月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000230962
【氏名又は名称】日本光電工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷島 正巳
(72)【発明者】
【氏名】吉田 達雄
(72)【発明者】
【氏名】鵜川 貞二
(72)【発明者】
【氏名】北風 政史
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 理
【テーマコード(参考)】
4C027
4C038
【Fターム(参考)】
4C027AA02
4C027GG15
4C027GG18
4C038SU17
(57)【要約】
【課題】心不全の発症の具体的な原因を判別することが可能なモニタリング装置を提供する。
【解決手段】呼気中の二酸化炭素濃度を計測するための第1のセンサ2と、酸素輸送あるいは代謝系パラメータを計測するための第2のセンサ3と、第1のセンサ2を用いて計測された二酸化炭素濃度と第2のセンサ3を用いて計測された酸素輸送あるいは代謝系パラメータの計測結果に基づいて、心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別する状態判別部6とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気中の二酸化炭素濃度を計測するための第1のセンサと、
酸素輸送あるいは代謝系パラメータを計測するための第2のセンサと、
前記第1のセンサを用いて計測された二酸化炭素濃度と前記第2のセンサを用いて計測された酸素輸送あるいは代謝系パラメータの計測結果に基づいて、心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別する状態判別部と、
を備えるモニタリング装置。
【請求項2】
前記第1のセンサは、呼気中の呼気終末期における二酸化炭素濃度である呼気終末二酸化炭素濃度を計測するように構成されたカプノメーターである、請求項1に記載のモニタリング装置。
【請求項3】
前記酸素輸送あるいは代謝系パラメータには、SpO2、血液ガス情報、血圧、心拍出量、心係数、脈動率、体温、脈拍数、心拍数のいずれかが含まれる、請求項1又は2に記載のモニタリング装置。
【請求項4】
前記状態判別部が判別する前記心臓と肺と血管のいずれかの状態とは、心不全、換気の状態、肺うっ血又は肺高血圧の状態、及び急性的な肺うっ血又は肺高血圧のいずれかの状態である、請求項1から3のいずれか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項5】
前記心拍出量は、非侵襲で計測可能である、請求項3に記載のモニタリング装置。
【請求項6】
前記第2のセンサは、脈波を計測するための脈波センサと心電図を計測するための心電図センサとから構成され、前記脈波と前記心電図に基づき、非侵襲で心拍出量を計測する、請求項5に記載のモニタリング装置。
【請求項7】
更に、前記二酸化炭素濃度と前記酸素輸送あるいは代謝系パラメータとに基づいて分類された前記心臓と肺と血管のいずれかの状態をグラフ表示する表示部を備える、請求項1から6のいずれか一項に記載のモニタリング装置。
【請求項8】
前記表示部に表示されたグラフには、前記心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別するための判別基準値が表示されている、請求項7に記載のモニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全のモニタリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、心不全は頻度の高い疾患の一つである。そこで、心不全の発症を回避するために、例えば、発症の可能性を未然に特定することが考えられる。心不全の発症の可能性を未然に検出するために、下記特許文献1には、対象者の呼吸に関するパラメータに基づき、対象者における肺うっ血を監視する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2012−523262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の対象者における肺うっ血を監視する方法では、心不全の発症の可能性は検出できるものの、発症の具体的な原因を判別することはできなかった。
【0005】
そこで、本発明は、心不全の発症の具体的な原因を判別することが可能なモニタリング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明のモニタリング装置は、
呼気中の二酸化炭素濃度を計測するための第1のセンサと、
酸素輸送あるいは代謝系パラメータを計測するための第2のセンサと、
前記第1のセンサを用いて計測された二酸化炭素濃度と前記第2のセンサを用いて計測された酸素輸送あるいは代謝系パラメータの計測結果に基づいて、心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別する状態判別部と、を備えるものである。
【0007】
また、本発明のモニタリング装置において、前記第1のセンサは、呼気中の呼気終末期における二酸化炭素濃度である呼気終末二酸化炭素濃度を計測するように構成されたカプノメーターであることが好ましい。
【0008】
また、本発明のモニタリング装置において、前記酸素輸送あるいは代謝系パラメータには、SpO2、血液ガス情報、血圧、心拍出量、心係数、脈動率、体温、脈拍数、心拍数のいずれかが含まれることが好ましい。
【0009】
また、本発明のモニタリング装置において、前記状態判別部が判別する前記心臓と肺と血管のいずれかの状態とは、換気の状態、肺うっ血又は肺高血圧の状態、及び急性的な肺うっ血又は肺高血圧のいずれかの状態であることが好ましい。
【0010】
また、本発明のモニタリング装置において、前記心拍出量は、非侵襲で計測可能であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のモニタリング装置において、前記第2のセンサは、脈波を計測するための脈波センサと心電図を計測するための心電図センサとから構成され、前記脈波と前記心電図に基づき、非侵襲で心拍出量を計測することが好ましい。
【0012】
また、本発明のモニタリング装置において、更に、前記二酸化炭素濃度と前記酸素輸送あるいは代謝系パラメータとに基づいて分類された前記心臓と肺と血管のいずれかの状態をグラフ表示する表示部を備えることが好ましい。
【0013】
また、本発明のモニタリング装置において、前記表示部に表示されたグラフには、前記心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別するための判別基準値が表示されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のモニタリング装置によれば、心不全の発症の原因となる心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のモニタリング装置の構成の一例を示す図である。
図2】呼吸器系における換気と血流のパターンの一例を示す図である。
図3】呼吸器系における換気と血流のパターンの一例を示す図である。
図4】呼吸器系における換気と血流のパターンの一例を示す図である。
図5】呼吸器系における換気と血流のパターンの一例を示す図である。
図6】ヘモグロビンの酸素解離曲線を示す図である。
図7図2から図5に示したパターンの計測データを比較して表した図である。
図8】ETCOとSpOとにより心不全の原因となる疾患の容態を分類して示した図である。
図9】ETCOとSpOに基づいて肺水腫の重症度を診断するための図である。
図10】本発明のモニタリング装置の構成の変形例を示す図である。
図11】ETCOと心拍出量に基づいて肺うっ血および肺高血圧の重症度を診断するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るモニタリング装置の実施形態の一例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態の心不全をモニタリングするモニタリング装置1の構成を示す。
図1に示すように、モニタリング装置1は、被検者の生体情報を計測するためのカプノメーター(第1のセンサの一例)2と、パルスオキシメーター(第2のセンサの一例)3と、これらのセンサによって計測された生体情報を処理する処理装置5とを備えている。
【0018】
カプノメーター2は、被検者の吸気および呼気に含まれる二酸化炭素の濃度(%)あるいは二酸化炭素の分圧(mmHg)を計測するセンサである。カプノメーター2は、COセンサまたはサンプリングチューブを被検者の鼻や口元に装着することにより非侵襲的に吸気および呼気に含まれる二酸化炭素の濃度等を計測することができる。カプノメーター2は、この実施形態において、呼気中における一番濃度の高い呼気終末期の二酸化炭素濃度である呼気終末二酸化炭素分圧(ETCO)を計測するように構成されている。カプノメーター2は処理装置5に接続されており、カプノメーター2によって計測されたETCOは処理装置5に送られる。
【0019】
パルスオキシメーター3は、脈拍数や動脈血酸素飽和度(SpO)等を計測するセンサである。パルスオキシメーター3は、プローブを被検者の指先や耳などに装着することにより非侵襲的に脈拍数とSpOを計測することができる。パルスオキシメーター3は、この実施形態では、動脈血液中の酸素飽和度であるSpOを計測するように構成されている。パルスオキシメーター3は、処理装置5に接続されており、パルスオキシメーター3によって計測されたSpOは処理装置5に送られる。なお、第2のセンサとしては、パルスオキシメーターに限定されず、酸素輸送あるいは代謝系パラメータを計測できるものであれば良い。酸素輸送あるいは代謝系パラメータには、SpO2、血液ガス情報、血圧、心拍出量、心係数、脈動率、体温、脈拍数、心拍数等が含まれる。第2のセンサとして例えば、脈波を計測する脈波センサや心電図を計測する心電図センサを挙げることができる。脈波センサと心電図センサとによって計測された脈波と心電図とに基づき、非侵襲的に心拍出量を計測することができる。
【0020】
処理装置5は、状態判別部6と、記憶部7と、表示部8とを備えている。
状態判別部6は、カプノメーター2を用いて計測されたETCOおよびパルスオキシメーター3を用いて計測されたSpOに基づいて被検者の心臓、肺、血管の状態を判別する。状態判別部6は、判別された呼吸器系の状態に基づいて、心不全の原因となる疾患を分類するとともにその容態(重症度)を判別する。このように、状態判別部5は、ETCOと酸素輸送あるいは代謝系パラメータの測定結果とに基づいて心臓、肺、血管のいずれかの状態を判別することができる。心臓、肺、血管の状態には、心不全、換気の状態、肺うっ血又は肺高血圧の状態、急性的な肺うっ血又は肺高血圧等の状態が含まれる。
【0021】
記憶部7は、カプノメーター2およびパルスオキシメーター3によって計測されたETCOおよびSpOを含む生体情報、あるいは心臓、肺、血管の状態を判別するための対比基準となる閾値等のデータを記憶する。
【0022】
表示部8は、表示画面を有する。表示部8は、その表示画面に表示された二次元座標上に、カプノメーター2およびパルスオキシメーター3によって計測されたETCOおよびSpOを含む生体情報をプロット表示する。表示部8は、状態判別部6の判別結果(呼吸系の状態(疾患)や重症度)を表示する。表示部8は、心臓、肺、血管の状態を判別するための対比基準を表示しても良い。
【0023】
次に、心不全の原因となる疾患を分類する方法について説明する。
呼吸器系の状態は、換気と血流とにより、例えば、図2から図5に示されるようなパターンAからパターンDに分類することができる。パターンAからパターンDは、肺で行われているガス交換の様子をそれぞれ模式的に示したものである。図2から図5において同一または同様の部分には同一の符号を付す。
【0024】
図2に示すパターンAは、換気と血流が良好に行われている正常な呼吸器系の被検者から計測された各所における酸素と二酸化炭素の値を示している。
【0025】
図2において、PlOは、吸息時の吸気中に含まれる酸素分圧である吸入気酸素分圧を表す。PlO:150mmHgとは、一回の呼吸における吸入酸素分圧が150mmHgであることを示す。また、ETCOは、呼息時の呼気中に含まれる呼気終末期の二酸化炭素分圧である呼気終末二酸化炭素分圧を表す。ETCO:40mmHgとは、一回の呼吸における呼気終末二酸化炭素分圧が40mmHgであることを示す。
【0026】
また、PPAは、大静脈から送られてきた血液に含まれる酸素の分圧である肺動脈血酸素分圧を表す。PPA:40mmHgとは、肺動脈血酸素分圧が40mmHgであることを示す。また、PPACOは、大静脈から送られてきた血液に含まれる二酸化炭素の分圧である肺動脈血二酸化炭素分圧を表す。PPACO:46mmHgとは、肺動脈血二酸化炭素分圧が46mmHgであることを示す。
【0027】
被検者の鼻や口から吸い込まれた酸素(PlO:150mmHg)は、矢印12に示すように気道11を通じて肺に取り入れられる。また、肺でガス交換された二酸化炭素(ETCO:40mmHg)は、矢印13に示すように気道11を通じて鼻や口から体外に排出される。
【0028】
酸素を取り入れ二酸化炭素を排出するガス交換は、肺胞14a,14bと肺胞の周りを取り巻く肺毛細血管15a,15bとの間で行われる。
【0029】
PlO:150mmHgは、肺胞14a,14bに達するまでの間に一部が失われて低下する。その結果、肺胞における酸素の分圧である肺胞気酸素分圧は100mmHgになる。
【0030】
大静脈(図示省略)から送られた血液(PPA:40mmHg,PPACO:46mmHg)は、心臓(図示省略)を経由し、肺動脈16a,16bを通って肺毛細血管15a,15bに送られる。
【0031】
ガス交換により肺毛細血管15a,15bの血液は、肺胞14a,14b内の空気から酸素を血液中に取り入れ、血液中の二酸化炭素を肺胞14a,14b内に押し出す。肺胞14a,14b内から酸素を取り入れることにより血液中の酸素分圧は、40mmHgから95mmHgに上昇する。また、血液中から二酸化炭素を押し出すことにより血液中の二酸化炭素の分圧は、46mmHgから40mmHgに低下する。肺毛細血管15a,15bにおいて肺胞14a,14bとの間でガス交換された血液は、肺静脈17a,17bに送られる。肺静脈17a,17bの血液は、矢印18に示すように流れ、心臓を経由して大動脈(図示省略)へ送られる。
【0032】
図2において、PaOは、動脈血中における酸素の分圧である動脈血酸素分圧を表す。PaO:95mmHgとは、動脈血酸素分圧が95mmHgであることを示す。また、PaCOは、動脈血中における二酸化炭素の分圧である動脈血二酸化炭素分圧を表す。PaCO:40mmHgとは、動脈血二酸化炭素分圧が40mmHgであることを示す。
【0033】
また、SpO:98%は、動脈血酸素飽和度が98%であることを示す。これは、後述する図6に示す酸素解離曲線から求められる値である。酸素解離曲線は酸素分圧とヘモグロビンの酸素飽和度との関係を示しており、図2のパターンAのように動脈血酸素分圧(PaO)が95mmHgの場合には、SpOは98%になる。
【0034】
また、図2に示すように、ETCOとPaCOとは同じ40mmHgの値が計測されている。このように、正常な被検者の場合、ETCOとPaCOとは同値または近似した値なる。
【0035】
図3に示すパターンBは、血流は良好であるが、換気が良好に行われていない換気不良な呼吸器系の被検者から計測された各所における酸素と二酸化炭素の値を示している。パターンBでは肺胞14aが潰れることによって換気不良になった場合を示す。
【0036】
肺胞14aが潰れているため、PlOは肺胞14aには到達しない。したがって、ガス交換は、正常な肺胞14bと肺毛細血管15bとの間でのみ行われ、潰れた肺胞14aと肺毛細血管15aとの間では行われない。このため、肺動脈16aから流れ込んだ血液が肺でガス交換されずにそのまま肺静脈17aから流れ出ており、血液中の酸素分圧は40mmHgで、二酸化炭素の分圧は50mmHgのままである。
【0037】
肺静脈17aの血液(酸素分圧:40mmHg,二酸化炭素分圧:50mmHg)は、肺静脈17bの血液(酸素分圧:95mmHg,二酸化炭素分圧:43mmHg)と混ざり合い矢印18に示すように流れ、心臓を経由して大動脈へ送られる。この結果、動脈血中におけるPaOは70mmHgに、PaCOは45mmHgになる。そして、PaO:70mmHgに対するSpOの値は、図6の酸素解離曲線から、SpO:90%になる。
【0038】
また、気道11を通じて体外に排出される二酸化炭素は、正常な肺胞14bでガス交換された二酸化炭素のみであり、潰れた肺胞14aから二酸化炭素は排出されない。この結果、体外に排出されるETCOは、43mmHgになる。このように、パターンBの場合、PaCOの値(45mmHg)がETCOの値(43mmHg)に対して少し上昇した値となって計測されている。
【0039】
図4に示すパターンCは、パターンBと同様に血流は良好であるが換気が不良な呼吸器系の被検者から計測された各所における酸素と二酸化炭素の値を示している。パターンCでは肺水腫によって換気不良になった場合を示す。
【0040】
肺毛細血管15aの圧力が上昇し、血液中の水分が肺胞14a内に漏出して水21が肺胞14a内に溜まっている。このため、肺胞14aと肺毛細血管15aとの間に拡散障害が発生し、肺胞14aと肺毛細血管15aとの間のガス交換率が低下する。なお、肺胞14bと肺毛細血管15bとの間においては正常なガス交換が行われている。
【0041】
肺胞14a内の水21の影響によって、肺毛細血管15aの血液は肺胞14aから酸素を取り入れ難くなる。このため、肺動脈16aにおける血液中の酸素分圧(20mmHg)は、肺静脈17aにおいて70mmHgまでの上昇に留まる。また、肺胞14a内の水21の影響によって、肺毛細血管15aの血液は肺胞14a内に二酸化炭素を押し出し難くなる。このため、肺動脈16aにおける血液中の二酸化炭素分圧(56mmHg)は、肺静脈17aにおいて54mmHgまでの低下に留まる。なお、PPAの値は、動脈血酸素分圧(PaO)の低下により20mmHgに低下している。
【0042】
肺静脈17aの血液(酸素分圧:70mmHg,二酸化炭素分圧:54mmHg)は、肺静脈17bの血液(酸素分圧:90mmHg,二酸化炭素分圧:50mmHg)と混ざり合い矢印18に示すように流れ、心臓を経由して大動脈へ送られる。この結果、動脈血中におけるPaOは60mmHgに、PaCOは52mmHgになる。そして、PaO:60mmHgに対するSpOの値は、図6の酸素解離曲線から、SpO:85%になる。
【0043】
また、気道11を通じて体外に排出される二酸化炭素は、拡散障害が発生した肺胞14aでガス交換された二酸化炭素と正常な肺胞14bでガス交換された二酸化炭素である。このため、肺胞14aの二酸化炭素分圧である20mmHgと肺胞14bの二酸化炭素分圧である50mmHgが混ざり合い、体外に排出されるETCOは30mmHgになる。このように、パターンCの場合、ETCOの値(30mmHg)がPaCOの値(52mmHg)に対して低下した値となって計測されている。
【0044】
図5に示すパターンDは、換気は良好であるが血流が不良な呼吸器系の被検者から計測された各所における酸素と二酸化炭素の値を示している。パターンDでは肺動脈16aの末梢の血管で狭窄が生じて血流が不良になった場合を示す。
【0045】
肺動脈16aの血液は、末梢の血管における狭窄により肺毛細血管15aおよび肺静脈17aには流れない。このため、肺胞14aと肺毛細血管15aとの間のガス交換は行われない。また、ガス交換が行われないため、肺胞14a内の二酸化炭素分圧は吸気中の二酸化炭素分圧と同じ0mmHgである。
【0046】
これに対して、肺胞14bと肺毛細血管15bとの間においては正常なガス交換が行われる。これにより、肺動脈16bの血液中において30mmHgであった酸素分圧は、肺静脈17bの血液中において90mmHgに上昇する。また、肺動脈16bの血液中において46mmHgであった二酸化炭素分圧は、肺静脈17bの血液中において40mmHgまで低下する。また、肺胞14b内の二酸化炭素分圧はガス交換によって40mmHgになる。なお、PPAの値は、COの低下による影響のために30mmHgに低下している。
【0047】
肺静脈17aの血流が無いため、肺静脈17bの血液(酸素分圧:90mmHg,二酸化炭素分圧:40mmHg)が矢印18に示すように流れ、心臓を経由して大動脈へ送られる。この結果、動脈血中におけるPaOは90mmHgに、PaCOは40mmHgになる。そして、PaO:90mmHgに対するSpOの値は、図6の酸素解離曲線から、SpO:97%になる。
【0048】
また、気道11を通じて体外に排出される二酸化炭素は、ガス交換が行われていない肺胞14aの二酸化炭素と正常なガス交換が行われた肺胞14bの二酸化炭素である。このため、肺胞14aの二酸化炭素分圧である0mmHgと肺胞14bの二酸化炭素分圧である40mmHgが混ざり合い、体外に排出されるETCOは20mmHgになる。このように、パターンDの場合、ETCOの値(20mmHg)がPaCOの値(40mmHg)に対して大きく低下した値となって計測されている。
【0049】
図7は、図2から図5のパターンAからパターンDに該当するそれぞれ複数人の被検者から計測したデータを比較して表す。
【0050】
図7において一段目の欄31に示された各項目の内容が、図2のパターンAに該当する正常な呼吸器系の被検者から計測された内容である。
正常な状態の呼吸器系であるので、肺うっ血(肺高血圧)、肺水腫、肺胞死腔のいずれにも該当しない(NA:NotApplicable)。また、動脈血中におけるPaOの値は約95mmHgであり、PaCOの値は約40mmHgであった。そして、非観血的にモニタリング可能なSpOの値(図2の例では98%)は96%より大きく、ETCOの値(図2の例では40mmHg)は36mmHgより大きかった。
【0051】
図7において二段目の欄32に示された各項目の内容が、図3のパターンBに該当する、例えば、肺胞潰れによる換気不良な呼吸器系の被検者から計測された内容である。
肺胞潰れによる換気不良であるので、肺うっ血(肺高血圧)と肺水腫には該当せず、肺胞死腔に該当する(○印)。また、動脈血中におけるPaOの値(図3の例では70mmHg)は80mmHgよりも小さく、PaCOの値は約45mmHgであり、パターンAと比較すると低酸素かつ高二酸化炭素の傾向を示した。そして、非観血的にモニタリング可能なSpOの値(図3の例では90%)は95%よりも小さくて、ETCOの値(図3の例では43mmHg)は40mmHgより大きく、パターンAと比較すると低酸素かつ高二酸化炭素の傾向を示した。
【0052】
図7において三段目の欄33に示された各項目の内容が、図4のパターンCに該当する、例えば、肺水腫による換気不良な呼吸器系の被検者から計測された内容である。
肺水腫による換気不良であるので、血管内の血液量が増加し、肺の毛細血管の圧力が上昇して血液の水分が肺胞内に染み出したと想定される。このため肺うっ血(肺高血圧)、肺水腫、肺胞死腔のいずれにも該当しえる(○印)。肺水腫の場合には、急性的に肺うっ血および肺高血圧の重症度が悪化する特徴を有する。また、動脈血中におけるPaOの値(図4の例では60mmg)は70mmHgよりも小さく、PaCOの値は約52mmHgであり、パターンAと比較すると二酸化炭素は高くかつ低酸素の傾向を示した。そして、非観血的にモニタリング可能なSpOの値(図4の例では85%)は90%よりも小さくて、ETCOの値(図4の例では30mmHg)は36mmHgよりも小さく、パターンAと比較すると低酸素かつ低二酸化炭素の傾向を示した。
【0053】
図7において四段目の欄34に示された各項目の内容が、図5のパターンDに該当する例えば、肺血管の狭窄による血流不良な呼吸器系の被検者から計測された内容である。
肺血管の狭窄による血流不良であるので、肺うっ血(肺高血圧)に該当するが、肺水腫および肺胞死腔には該当しない。また、肺血管の狭窄による血流不良の場合、慢性的な肺うっ血および肺高血圧が重症化している特徴を有する。また、動脈血中におけるPaOの値は約90mmHgで、PaCOの値は約40mmHgであり、酸素はやや低めで二酸化炭素は正常であった。そして、非観血的にモニタリング可能なSpOの値(図5の例では97%)は94%より大きく、ETCOの値(図5の例では20mmHg)は28mmHgよりも小さく、パターンAと比較すると酸素はやや低下で二酸化図炭素が大きく低下する傾向を示した。
【0054】
図8は、ETCOとSpOとにより分類される心不全の原因となる疾患の容態をグラフ化して表示部8に表示した状態を示す。図8に示す疾患の容態は、図7に示されたETCOとSpOの非観血モニタリング値に基づいて分類されている。なお、図8に明示されていないものの、測定結果は経時的にグラフにプロットされる。また、グラフ化とは、縦軸にETCOとSpOのいずれか一方が、横軸にいずれか他方が表示される態様であれば良く、図8に示す表示形態に限られない。
【0055】
例えば、計測されたETCOの値が36mmHgより大きく、SpOの値が96%より大きい場合には、「呼吸器系の状態は正常である」という容態41に分類される。
また例えば、計測されたETCOの値が40mmHgより大きく、SpOの値が95%よりも小さい場合には、「呼吸器系の状態は換気不良である」という容態42に分類される。
また例えば、計測されたETCOの値が36mmHgよりも小さく、SpOの値が90%よりも小さい場合には、「呼吸器系の状態は肺水腫である」という容態43に分類される。
また例えば、計測されたETCOの値が28mmHgよりも小さく、SpOの値が94%より大きい場合には、「呼吸器系の状態は慢性的で重症度の高い肺うっ血または肺高血圧である」という容態44に分類される。
【0056】
なお、ETCOと酸素輸送あるいは代謝系パラメータ(例えば、SpO2、血液ガス情報、血圧、心拍出量、心係数、脈動率、体温、脈拍数、心拍数)とに基づいて分類される心臓と肺と血管のいずれかの状態をグラフ化して表示部8に表示するようにしても良い。血液ガス情報には、動脈血酸素分圧(PaO)、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO)、pH、Hb、Hctなどの血液ガス検査における測定項目が挙げられる。
【0057】
次に、モニタリング装置1の動作を説明する。
カプノメーター2を用いて計測されたETCOの値、およびパルスオキシメーター3を用いて計測されたSpOの値は、処理装置5に入力される。処理装置5の状態判別部6は、入力されたETCOの値およびSpOの値を予め設定されている閾値と対比する。対比基準となる閾値は、予め記憶部7に記憶されている。
【0058】
ここで、対比基準となる閾値とは、図8に基づいて説明した呼吸器系の状態を分類するための対比基準となるETCOおよびSpOの値のことをいう。例えば、SpO:90%、ETCO:36mmHg、ETCO:28mmHgの値等が対比基準となる閾値に該当する。
【0059】
状態判別部6は、対比結果に基づいて被検者の呼吸器系の状態を、図8で分類したのと同様に、正常な状態、換気不良の状態、慢性的な肺うっ血または肺高血圧の状態、及び急性的な肺うっ血または肺高血圧の肺水腫の状態のうちのどの状態に該当しているか判別する。判別された結果はETCOおよびSpOの測定データとともに記憶部7に記憶される。
【0060】
表示部8は、その表示画面に表示された二次元座標上に、カプノメーター2によって計測されたETCOの測定データとパルスオキシメーター3によって計測されたSpOの測定データとを含む生体情報Aをプロットする。また、表示部8は、状態判別部6の判別結果(呼吸系の状態(疾患)や重症度)を表示する。また、表示部8は、その表示画面に表示された二次元座標上に、対比基準を、図8に示すようにSpOとETCOの閾値で規定される領域として表示しても良い。すなわち、表示部8は、上述の容態41〜44に対応する領域をそれぞれ表示しても良い。
【0061】
以上説明した本実施形態のモニタリング装置1によれば、被検者からETCOの値とSpOの値とを計測することにより、心不全の原因となる呼吸器系の容態をより細かく判別することができる。このため、例えば、換気も血流も良好な正常な状態と、肺胞14aの潰れによる換気不良な状態と、肺うっ血または肺高血圧の急性的な重症化に伴う肺水腫による換気不良な状態と、慢性的な肺うっ血または肺高血圧の重症化による血流不良な状態とを判別することができる。このように、本実施形態によれば、心不全の発症の原因となる心臓と肺と血管のいずれかの状態を判別することができる。
【0062】
また、表示部8が、ETCOの測定データとSpOの測定データとを二次元座標上にプロット表示することで、医療従事者は、視覚的に心臓、肺、血管の状態を評価することができる。また、医療従事者は、表示部8に表示されたプロットの軌跡(生体情報Aの時系列データの軌跡)や、容態41〜44に対応する領域(対比基準)を観察することにより、心不全の病態の変化を迅速かつ容易に把握することができる。
【0063】
また、医療従事者が、ETCOの測定データとSpOの測定データとを合わせて評価することにより、心臓、肺、血管の状態を定量的に評価することができる。このため、例えば、意識を失っている被検者に対してもこれらの値を計測することで容態の進行度を判定することができ、迅速に適切な処置を施すことができる。
【0064】
また、ETCOはカプノメーター2を用いて計測でき、SpOはパルスオキシメーターを用いて計測することができる。このため、ETCOとPaCOの計測を非侵襲的なデバイスにより簡便に行うことが可能であり、モニタリング装置1を在宅医療に応用することが容易である。
【0065】
次に、モニタリング装置1によって行われる体位によるデータ変化について図9を参照して説明する。
【0066】
被検者に、ベッド上で仰向けに横になった仰臥位からベッド上で上半身のみを起こした座位へ体位変化してもらうとともに、ETCOとSpOの測定データを被検者から計測した。図9は前述の計測結果の一例を示している。
【0067】
ETCOとSpOの値は、カプノメーター2およびパルスオキシメーター3を用いて計測した。図9に表示された複数のプロット点(□:仰臥位、△:座位)は、被検者から計測された各体位におけるETCOとSpOの測定データを示している。図9に示すように、健常者及び高度慢性肺高血圧の場合は、仰臥位および座位の姿勢で計測されるETCOとSpOの値がほとんど変化しないことがわかった。
【0068】
また、仰臥位から座位へ体位変化したときに感じられる苦痛度の変化を被検者から聴取した。その結果、図9に示すように、被検者が肺水腫を患っている場合、その被検者が仰臥位から座位への体位変化に伴い、ETCOとSpOの測定データを含む生体情報A(□:仰臥位)が、表示部8の表示画面に示される二次元座標上において、図8で例示した分類「急性的な肺うっ血または肺高血圧の肺水腫の状態」を示す座標位置から「正常な状態」を示す座標位置に向けて遷移することが分かった。この傾向は、また、被検者の肺水腫の重症度が高い場合の方が低い場合より顕著に現れることが分かった。これらの現象は、仰臥位よりも座位の方が、水がたまった肺胞の比率が減り、水の影響が抑えられるためと考えられる。また、被験者が呼吸系疾患の場合も同様に、生体情報Aが正常な状態へ遷移することがわかった。これは、座位の方が機能的残気量(FRC)が増加した為である。
【0069】
このように、ETCOとSpOとを合わせて測定して評価することにより、肺水腫の有無やその重症度を定量的に判定することができる。例えば、意識を失っている被検者に対してもこれらの値を計測することで肺水腫の有無や進行度を判定することができ、迅速に適切な処置を施すことができる。また、この方法は、輸液過剰による肺水腫の発生の検出をも可能とし、非観血的な輸液管理モニタリングにも応用可能である。
【0070】
次に、モニタリング装置1の変形例(モニタリング装置50)について図10および図11を参照して説明する。なお、図1に示すモニタリング装置1と同一構成の部分には同一符号を付すことで説明を省略する。
【0071】
図10は、モニタリング装置50の構成を示す。図10に示すようにモニタリング装置50は、心電図モニター4を備えている点でモニタリング装置1と相違している。モニタリング装置50は、肺うっ血および肺高血圧の重症度を診断することができる。
【0072】
図11は、被検者から計測されたETCOの値と心拍出量の値に基づいて肺うっ血および肺高血圧の重症度を診断するための図である。
モニタリング装置50によって、肺うっ血および肺高血圧の重症度は以下のように診断される。
【0073】
パルスオキシメーター3を用いてSpOや脈波が計測され、心電図モニター4を用いて心電図波形が計測される。心電図波形と脈波による脈波伝播時間に基づいて心拍出量が算出される。心拍出量の算出方法については例えば本願出願人が既に出願した特開2005−312947号公報に記載された算出方法と同様である。
【0074】
ETCOと心拍出量の値が、肺うっ血または肺高血圧の複数の被検者から計測される。被検者からの計測は、症状が悪化しているときから治癒するまでの期間において連続的に行われる。計測されたこれらの値は、対比参考データとして記憶部7に記憶される。
【0075】
図11に表示された複数のプロット点(各○印)は、肺うっ血または肺高血圧の被検者から連続的に計測されたETCOと心拍出量の値をグラフ化した一例である。図11に示されるように、重症度が高くなるにしたがってETCOと心拍出量の計測値はいずれも低下し、計測値のプロット点は矢印51の方向へ移動する。これに対して、治療により症状が治癒されるにしたがってETCOと心拍出量の計測値はいずれも上昇し、計測値のプロット点は矢印52の方向へ移動する。
【0076】
計測されたデータは、処理装置5に入力されて図11と同様にグラフ化される。このように、ETCOおよび心拍出量の計測データをグラフ化して対比することにより、非侵襲的かつ連続的なForresterに準ずる分類によって、肺うっ血および肺高血圧の重症度を診断することができる。
【0077】
なお、本発明は、上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0078】
1,50:モニタリング装置、2:カプノメーター、3:パルスオキシメーター、4:心電図モニター、5:処理装置、6:状態判別部、7:記憶部、11:気道、14a,14b:肺胞、15a,15b:肺毛細血管、16a,16b:肺動脈、17a,17b:肺静脈
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11